第8話「ジャック・オー・ランタンを育てよう②」

さて、街に繰り出したもののどうしようか。


この自家製かぼちゃもといジャック・オー・ランタン。個人的にはなんとしても調理して食べたい。

最初は魔物食うとかないわーとか思ってたが、これ見た目だけなら完全にただのかぼちゃだし。なにより自分で育てた野菜!食べたい!

これは野菜育てたことがある人なら分かる感情だ!

自分で育てたものはとりあえず口に入れてみたいのよ!


でまあ、最初にこの街に来た時に追い出された食堂に言ってかぼちゃと引き換えに料理してもらおうかと思ったんだけど、なんかリリィがあてがあるらしく現在一件の食堂屋の前にいます。

うん、ボロい。というか古臭い?最初にオレが入った食堂って今思えばこの街でも高級レストランにあたるところだったんだろうか?

それに比べてこっちは個人経営で開いてる小さな食堂屋さんって感じだね。


「ここアタシの知り合いが経営してるのよ。今ちょっと経営が厳しいらしくてね、それでアンタに協力してもらおうかと思って」


「ほお、なるほど。って協力?オレになにしろって?バイト?」


「まあ、アンタがやりたいならそれでもいいけど、それよりももっと役に立つことがあるからね」


そう言って一緒に中に入る。

うん、さっきはボロいだとか古臭いだとか文句言ったけど、中に入ってみると意外ときっちりとしている。

なんというか日常的な佇まい?こう気取らない、むしろ安心して食事をできる家庭的な佇まいだ。

あー、確かに下手に高級なレストランとかよりもこうした庶民的な場所の方がかえって落ち着いて食事できそう。

とまあ、そんな風にこの食堂の好感度が上がっていたとき、オレとリリィをもてなすようにひとりの少女が頭を下げて奥から現れる。


「いらっしゃいませ、ようこそお越しいただいて……ってあれ、リリィちゃん?」


「久しぶりね、ミナ」


そう言ってリリィと親しげに会話を交わす少女、ミナと言ったか。

歳はリリィと同じくらいだが、外見や雰囲気は正反対と言ってもいい感じだ。

ミナは大人しく清楚で、気取らない可愛さがある。

リリィはどことなく育ちの良さがその仕草とかに出てるんだが、この子は庶民の中にあって輝く花という感じがある。

リリィと軽く会話したその子、ミナちゃんは隣に立つオレに視線をあげる。


「リリィちゃん、こちらの方は?」


「ああ、こっちはキョウ。実は魔物を栽培してるのよ」


おい、ストレートに言うな。まあ、間違っちゃいないが。

それにはミナちゃんも軽くというか、かなりびっくりした様子で驚く。

そりゃそうだよなー。どこの世界に魔物育ててるサイコな奴がいるのやら。

と思ったがミナちゃんの驚きは怖がってるというよりも、むしろなにか期待しているような感じだった。


「あ、あの、魔物を栽培しているって、いまどんなの魔物の栽培に成功してるんですか?!」


ええー、この子食いついてきたよー?リリィもそうだったけど、この世界の人間って魔物という名の食材にどんだけ飢えてんの?

あー、でもそっか。野菜がないなら基本食料は魔物から調達か。


「えーと、ついさっきかぼちゃじゃなかったジャック・オー・ランタンの栽培に成功して、とりあえず四個ほど……」


「えー!すごいすごいです!あの、あのもしよろしかったらそのジャック・オー・ランタンうちで取り扱えないでしょうか?!」


うーむ。確かに魔物育ててもそれを調理する方法が現在ないオレとしてはむしろこうした食事処に提供してお金と食事をもらえれば大助かりなんだが、リリィがわざわざここを紹介したのには単にここを経営するミナちゃんと知り合いだからというだけでもなさそうだ。


「実はここ最近ミナのうちの経営が苦しくなってきててね。魔物の値段もドンドン上がってそのせいで料理の質も落ちてたの。だから、アンタさえよければミナに力を貸してもらえないかしら?」


そう言って小声でオレに事情を説明するリリィ。

なるほど、そういうことなら納得だ。むしろ、オレとしても困ってる女の子の助けになるのなら、そっちのほうが断然いい。


「了解した。構わないよ。オレの育てた魔物でよければいくらでも君のところに提供してあげるよ」


「本当ですか!ありがとうございます!それではさしあたって、お支払いの方についてなんですが……」


「ああ、それについてはあとで構わないよ。それよりも今は」


「「ジャック・オー・ランタン料理を作ってくれ!!」」


かなりお腹が空いていたのかオレとリリィの声が見事にハモった。






【ジャック・オー・ランタンのスープとキラーウルフとの煮込み料理】

かぼちゃの魔物ジャック・オー・ランタンのじっくり汁になるまで煮込んだスープ。

濃厚で甘味のある味わい。地球産のかぼちゃに比べ甘味が強くとても美味しい。

煮込み料理は皮ごと鍋でグツグツと似た物を森で仕留めたキラーウルフの肉と一緒に煮込んだもの。

肉じゃがならぬ、肉かぼちゃみたいな感じか。なお、味はかなり濃厚でとろとろに溶けたランタンの甘味が肉といい具合にマッチ。

なおこの世界の狼の肉はどっちかというと豚っぽい味だった。かぼちゃならぬランタンとかなり味が合う。






「いやー、うまかったな。しかしお前、キラーウルフの肉とかいつの間に回収してたんだ?」


「冒険者の基本よ。ああいう獣系の魔物は一部を除いて大体は食べられるんだから持っていける分は回収するものよ」


「なるほどなー。いや、しかし、これでいよいよオレの異世界暮らしでの目処も立って来たぞー!この調子でいろんな魔物栽培しては料理しては売って、オレはこの世界で魔物栽培者の頂点に立つ!」


「アンタたまにわけわかんないこと言うわね。異世界ってなに?」


と、そんなオレの熱い宣言にいつものようにどこか呆れたツッコミを入れるリリィであったが、うちに帰った瞬間そこに待っていたのは、ちょっと予想外の光景であった。


「よお、兄ちゃん。今帰ったのかい?遅かったな」


……うん、なんか誰かがオレの帰りを待ってたみたい。

いや、誰かというのはおかしいかな。なにか、だな、こりゃ。


「ところで兄ちゃん。アンタのおかげでオレもこうして無事に成熟できたぜ、礼を言うぜ」


うん、どうもさっきの収穫の際、一個どうも収穫し忘れていたみたいだ。

草の陰に隠れていたってやつ。いやだってさ、かぼちゃ育てた人ならわかると思うけど、こいつら地面のあっちこっちに枝が伸びるのよ。

しかもそこから生える草がかなりでかくて育ってるかぼちゃが隠れるのよ。

しかもこの世界のかぼちゃというかランタン?地球のやつよりも葉も大きければ枝の長さも倍。そりゃ見落としもありますわ。

まあ、なにが言いたいかっていうと。なんか一匹完全に自我持ったジャック・オー・ランタンが枝にくっついたままふわふわ浮いてこっち見て、帰りを歓迎してる。


「それはそうと兄ちゃん。どうだい?オレを食べてみないかい?」


しかもなんか食わないかアピールしてきたよ。

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