第7話「ジャック・オー・ランタンを育てよう①」

「ない、ないないない、なんで植物育てるのにこんな森の中入るんだよ。ない!」


「うるさいわね、植物じゃなくて魔物でしょ。アンタが育てるのは」


愚痴るオレをよそに目の前で狼の群れに剣を突きつけるリリィ。

どうも、ここ樹海です。街の近くにある樹海です。いわゆるダンジョンです。こう、最初に冒険者がゴブリン退治だとか薬草を採りにいく系の。


話は今から少しさかのぼる。







「まず最初はジャック・オー・ランタンにしましょう」


「は?」


この子はいきなりなにを言ってるんだ。ジャック・オー・ランタン?それってあれでしょカボチャのモンスターのことでしょ?なに言ってんのこの子?


「まずね、アンタが育ててたキラープラントは植物型モンスターの中でも凶暴な奴よ。あれは見境なく人を襲うんだから。それに比べてジャック・オー・ランタンなら比較的安全よ。あれはこっちから手を出さない限り滅多に人を襲わないし」


でも襲ったら襲うんだろう?しかも生きてるかぼちゃとかやだー。食べたくないよー。


「ジャック・オー・ランタンは収穫タイミングを間違えなければ人格を持つ前に取れるわよ。アタシも何度か採ったことあるから間違いないわよ」


え?なにこの世界の住人って全員そういう魔物収穫とか普通にやってるの。トコトン、デンジャラスな世界だなおい。






と、そんなこんなでジャック・オー・ランタンの種を求めて樹海に来てます。帰りたい。


「キョウ」


とそんなオレの心の声を無視してかなぜやたらやる気のリリィがなにか見つけたみたいでオレの名を呼ぶ。

あ、キョウって言うのはオレの恭司きょうじのことね。

なんかキョウの方が呼びやすいからそう呼ぶとリリィからの感想です。


「あったわよ、これがジャック・オー・ランタンの死骸よ」


そにはいわゆる腐って地面に溶けるように塊になってる何かがあった。

これって元はかぼちゃなのか?うーん、まあ見えなくはないか。


「他の魔物にやられたか、冒険者に斬られたか、あるいは寿命か。いずれにしてもちょうどいいわ」


そう言ってリリィが茶色い塊から何かを取り出す。うん、多分あれが種なんだろうけど、なんつーか、ちょっとグロイ。


「はい、持ってなさい。キョウ」


「ってえええ?!オレが持つの?!」


「当たり前でしょ。アンタが育てるんだから、種の管理もアンタでしょ」


そう言って種を投げるリリィ。うーん、さきほどの本体のドロドロがそのままくっついてる。種はまあ、かぼちゃだから結構多いな。

ってかこれ、植えて育つかなー?






というわけでお待たせ、みんな!種まきの時間だよ!

前回は植えるのが先だったんで土を馴らすのを忘れていたけれど、今回はちゃんと土から馴らしてみました!

リリィという援助先が見つかったので、彼女から土下座してもらったお金でクワとか買いました!これで一気に農業生活っぽくなってきたよ!

あと堆肥とかも使ってみました!といっても街のごみ場から拾ってきたなんやかんやをそのまま地面に混ぜただけだけどね。

でもこういう生ゴミとか、あと枯葉とかも地面に混ぜて埋めれば肥料になるんでしょう?よく知らないけど。まあ、やらないよりはマシかなって感じで。


で、採ってきたジャック・オー・ランタンの種なんだけど、蒔いた次の日にはもうすでに芽が出てました!やっぱりこの世界の植物って魔物だからなのか成長はえー!


ちなみにその日、様子を見に来たリリィがなんかやたら驚いてました。


「まさかとは思ったけどマジでアンタ魔物栽培できるのね。一体どんな魔術使ってるのよ?」


いや、こちとら普通に植えてそれだけですが?

堆肥か?やはり昨日の地ならしと堆肥が効いたのか?

なんか、やたらびっくりされてたけど、あんまり深く考えずにそのまま水撒きとか色々やりました。

あ、今度は噴水の水じゃなく、ちゃんと公共の水が出るところで。

こんな場所があるなら最初に言ってくれよ。


で、そんなこんなで数日経って、見事にかぼちゃ畑になりました!やったね!


「本当にジャック・オー・ランタンが実ってるわ」


すごいーと関心してるリリィ。もしかしてこの世界の人間って全体的に農業の才能がないとか?

あー、でもそっか。野菜なく魔物しかないのか。好き好んで人間の敵である魔物なんか植えて育てるやついないよなー。そりゃ農業とかする奴もいないか。

とか、そんなことを考えてると目の前でリリィが手頃な大きさのかぼちゃを手に取る。


「うん、これとかちょうど良さそう。まだ自我が出てくる前だし、それに実も充分詰まってる。これもらうわね」


そう言ってかぼちゃじゃなかったジャック・オー・ランタンを切り取る。

そうか、もうそのくらいのサイズでとっていいのか。見るとオレの拳を二つ合わせたのよりも、一回り小さいくらいだけど、そのくらいでも充分なんだな。

逆にそれ以上育つと人格持って厄介なことになるのか?とりあえず似たようなサイズのを探してオレも刈り取る。


「いやー、初めてにしては収穫じゃね。一気に四個も収穫だぜ」


他にも小ぶりのサイズに二、三個あるが、これはもうちょい育ててから収穫したほうがいいだろう。


「それじゃあ、早速収穫したことだしこれ使って料理してくれよ!」


「いいわね。それじゃあアンタなにかお願いするわね!」


ん?今なんか決定的に会話が噛み合わなかったぞ。

もしかしなくてもこいつ。


「……リリィさん、貴方、料理作れないんですか?」


「……そ、そういうアンタも?」


いやいや、こちとらボロ小屋暮らしで料理以前だよ。その前にガスとかないんだから火をつけようがないし。

あ、そうだよ。すっかり忘れていたけど、オレこっちだと自炊するための道具がないじゃん。

材料作れてもそもそもの料理自体が出来ない。どーすんだよこれ。再び詰んだぞ。

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