第二部 ―魔王編―

第49話「新章早々詰んでね?」

詰んだ。


新章開始早々あれですが、久しぶりにこのセリフを言えます。


詰んだ。今度こそ。確実に。


「それじゃあ、こういうのはどうかしら?」


今、オレ達の前にはこの世界の『魔王』がいた。

そして『彼女』から出された条件。

それはオレ達の大陸と、そしてオレ達の目的そのものを秤にかけたまさに究極の勝負。


「私達は、私を含めて私の側近である四天王の合計五人。

だから、貴方たちもそちらで合計五人、代表とする選手を選んでもらおうかしら」


いやいや、勝てるわけないでしょう。

だって相手魔王だよ? 魔王。

普通こういう相手って物語終盤で戦うべき相手でしょう。

それがなんでいきなり二章初っ端で戦う展開なの。

しかも四天王勢揃いでいっせいバトルなんて本気出しすぎでしょ。

まずは雑魚から送って様子見っていう魔王の王道パターンはどこ行ったの?!


「5対5のバトル。それで決着をつけましょう」


詰んだ。今度こそ。確実に。詰んだ。


「それぞれの領土をかけた勝負――料理バトルで」




◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆




話は今から少し戻る。


オレ達は西の大大陸エクステントに渡り、その大陸に存在する三大国家の一つヴァルキリア王国に到着していた。


「物々しいな」


それがオレがその国に着いて最初に抱いた感想であった。


「それは当然よ。なにせこのヴァルキリア王国と言えば魔王領と帝王領の二つに挟まれたいわば激戦区の王国だもの」


「魔王領はわかるんだが、その帝王領ってなんだ?」


「帝王領とは七大勇者のひとり“帝王勇者”ロスタムが支配するアルブルス帝国ですわ。彼は勇者であり帝国を支配する王。のみならずその支配欲は異常。魔王領はもちろん隙あらばヴァルキリア王国も乗っ取ろうと画策しているのです」


「へえー、詳しいなフィティス」


「私も勇者の端くれですので、このくらいのことは」


「とにかくそういうわけでこのヴァルキリア王国は西に広がる魔王領と、東に広がる帝王領から常にその領土を狙われているの。まあ、とは言ってもこのヴァルキリア王国が陥落すれば魔王軍はそのまま東になだれ込み次はアルブルスが標的になるから、アルブルスが直接手を出してくることはないけどね」


「ということは実際はこの国が魔王軍の侵攻をとどめているってわけか。すげーな」


「まあ、それも当然と言えば当然よ。なにしろ、この国をまとめる女帝にして“戦勇者”は七大勇者の中でも最も戦に特化した勇者と言われているからね」


なにやら会う前からその女帝さんのハードルが高くなっていって怖いです。

どうしようこれ、そんな緊張状態の国に「どうもー種くださいなー」とか訪ねて。

次の瞬間、絶対にぶっ飛ばされそう。


そんなオレの青ざめた顔に気づいたのかリリィが微笑みながら声をかける。


「大丈夫よ、名前出せばすぐに会ってくれると思うわよ。対応も……まあ、悪いことにはならないと思うわよ」


しかし、その笑顔はどこか引きつっており、本当に大丈夫かよと心配になってくる。


大丈夫だよね、これ。まだ詰んでないよね?






「わっはー! リリィちゃんキタ―――――!! 相変わらずラブリーキュート世界一可愛いよ―――――!!!」


「ああーもうー! やっぱりこうなった――!! はーなーしーなーさーい!!」


……。

ええと、なんでしょうかこれ。


オレの栽培勇者の名前を告げたあと、リリィが名前を告げただけですぐさま門番が対応して気づくと城の玉座で女帝こと戦勇者さんと対面したんだが。


こちら―というよりリリィ―を見た瞬間、即座にリリィに引っ付いて来てこの状態なのですが。


「はあ~相変わらずお肌すべすべだね~リリィちゃん~。髪の毛もサラサラつやつや。この華奢な体も可愛くってそのままお部屋に飾りたいくらいキュートだよ~。ねっ、ねっ、今からでも遅くないから私のペットにならない?」


「お断りだって言ってんでしょう。いいから離せー!!」


ベタベタとひっついてくる戦勇者さんを思いっきり蹴っ飛ばして放すリリィさん。

あのいいんでしょうか。その人、偉い勇者さんなんですよね? しかも一国の女帝さんなんですよね? そんなことして大丈夫なんでしょうか?


「はぁはぁ、リリィちゃんの可憐な抵抗、甘噛みにも似たじゃれ付きの応酬……いいぃ」


あ、うっとりして恍惚としてる。

うん、この人、やばい人だ。

というか、あまりにも展開が唐突すぎてツッコミのタイミングが遅れたのですが


「えっと、ひょっとしておふたりは知り合い?」


「知らないわ」

「一目惚れだ」


うわ。ほぼ真逆の反応が返ってきた。


「あれはそう、とある戦場でのこと。私は初めてその戦場において美しく舞い踊る彼女を見た。あれこそがまさに戦場の花、いや蝶でも呼ぶべきか、いやいやむしろ黄金、そう! 太陽! あの日から私は彼女を手に入れるためにいろんな工作をしたんだが、彼女はその全てを無視して別の大陸に渡り、その後も大陸を隔てた私からのラブメッセージも一切無視して……」


「それよりもキョウ。さっさとこいつに要件伝えてよ」


華麗にスルー!

まあ、確かにこのまま話しさせると長くなりそうなので、こっちの要件先に伝えるか。


「あの、お話のところすみません。実は戦勇者さん。貴方が持っているという世界樹の種が欲しいのですが、よければ譲ってもらえないでしょうか?」


「世界樹の種? ああ、あれね。いいよー」


「あ、やっぱりダメですよね。わかります。それじゃあ、どうすればもらえ――」


え?


ちょっと待った。


今、この人なんて言った?


「世界樹の種でしょ? いいよー、あげるあげるー。もともとあれ拾い物だし、特に使い道なかったからねー」


マジかー! よっしゃあ! 早速二個目ゲット! 第二部完!!

いやー、今回スムーズだったねー。

さて、では次回からはいよいよ第三部が……


「ただし、一つ条件がある」


そう言って戦勇者さんはリリィのそばに来て彼女を抱き寄せ、宣言する。


「リリィをもらう。それが条件だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る