第50話「新章と新展開と新事実と新キャラと」
「そんな条件飲むわけないでしょう」
ドゴッとリリィの肘鉄が戦勇者さんのお腹に見事に入る。
くの字になった途端、その場に蹲ってしばらく悶絶していたが、爽やかな笑みと共に立ち上がる。
「ふ、ふふっ、さすがはリリィ、いい肘鉄だ」
あ、ダメだこの人。色んな意味で。
うーん、見た目はモデル顔負けの長身・スタイル・ルックスなのに肝心の中身が残念な人だなー。
「大体なんでアタシにそんなに固執するのよ。戦ならアンタ一人でも十分でしょうが」
「なにを言うか! この一年、魔王軍の侵攻が激しくなって最近は我が国が劣勢だが、お前がいればそれにも対抗できる!」
ん、おい。今なにか聞き捨てならないセリフがあったぞ。
「ちょっと待ってください。今この国の戦況ってまずいんですか?」
「うむ。実はかなり押されている。マズイくらいに。それを知られると隣国のアルブルス帝国がなにしてくるかわからないから上手く隠しているが」
おい、マジかよ。これは種回収どころの騒ぎじゃないぞ。
「というわけでお前が欲しい! リリィ! お前が欲しい! お前が欲しいぞおおおおお!!」
「引っ付かないでよ! 気持ち悪いのよー!!」
あかん。あの人、ヨダレ出しながらリリィに擦り寄ってる。あれ絶対別の意味で欲しがってるよ。
「というかなぜそんなにリリィに固執するんですか? 戦況を変えるにしてもリリィ一人だけじゃそんな変わらないでしょうし」
「? なにを言ってるんだ。七大勇者の力は個人でSクラスの魔物にも匹敵する。それが二人も揃えば魔王軍にも対抗できるというものだろう」
…………ん?
今、なんかまた聞き捨てならないセリフが聞こえたぞ。
えっと、七大勇者? 二人?
恐る恐るリリィの方を見るとなにやらバツの悪そうな顔をしているが、貴様、まさか……。
「なんだ言ってなかったの? リリィは私と同じ七大勇者。しかもスキルを開放すれば私よりも遥かに戦闘に特化した勇者だぞ」
ナ、ナンダッテ―――――――!!!!
ここに来て明かされる衝撃の真実と新展開。
お前これまでずっと一緒にいてそんな重要なこと黙ってたんかい!!
「べ、別に隠してたわけじゃないわよ。アンタが単に聞かなかっただけでしょう」
そんなもの聞く以前に思いつかんわ!
あれだけ頻繁にうちに居座ってなにもないときも遊びに来てた奴がまさかそんな大物勇者なんて気づかー!!
「あら? もしかしてキョウ様はご存知なかったのですか? 私はてっきりもう知っているとばかり」
フィティス、貴様もか! あー、まさかオレ一人だけ知らなかっとはー。
そんなオレの肩にポンっと誰かが手を置く。
「安心しな。兄ちゃん。オレも知らなかった」
うん、知ってるよ。ジャック。
「あー、とにかくそちらの要求は大体わかりました。要するに現在魔王軍との戦いが窮地なのでうちのリリィの戦力が欲しいと、そういうことですか」
「まあ、そうなるな」
「なら魔王軍を撃退するのにオレ達が協力すれば種はくれるということでいいんですよね?」
「確かにそれならば譲ってやってもいいが。魔王軍の撃退と言っても簡単にはいかないぞ。なにか策でもあるのか?」
「ええ、魔王と直接交渉できる状況に持ち込めればたぶんなんとかできるかもしれません」
オレのその言葉には戦勇者だけでなく、この場にいる全員が驚きに目を見開く。
まあ、そりゃそうだよな。ふつうに考えて魔王と交渉とか正気の沙汰じゃないだろう。
だが、こちらにもちょっとした策というよりも考えがある。
やはり親父の助言通り、先にこっちに来たのは正解だったな。
「なるほど。面白い男だな。魔王を交渉の場に引きずりだすなら少なくともその側近である四天王のうちの誰かを戦場で倒す必要があるだろう。側近がやられれば魔王は城の奥から顔を出すと聞く。その時に会話はできるだろうか交渉できるかどうかは分からんぞ?」
「構いません。魔王が姿を見せてくれさえすれば、あとはオレが責任もってなんとかします」
オレのその断言に戦勇者は大爆笑しながら、隣のリリィはいつもの呆れながらの苦笑を浮かべている。
「相変わらずアンタって無茶言うわね。魔王配下の四天王ってのは全員がSランククラスの魔物なのよ。それを倒すのすら難しいってのに簡単に言ってくれるわね」
「けど、お前ならできるんだろう?」
こいつは以前、オレの無茶ぶりとも言えるSランククラスの魔物リヴァイアサンを見事に討伐してくれた。
そのオレの信頼に応えるようにリリィもまた笑みを浮かべる。
「いいわ。じゃあ、アタシが四天王のひとりを倒してあげる。けど、そのあとの交渉はアンタに任せるわよ、キョウ」
そんなオレ達のやり取りを見て愉快とばかりに戦勇者が手に持った獲物を掲げる。
「いいだろう。栽培勇者と言ったか? お前のことも気に入った! この戦が終わったらそちらのリリィと共にこの“戦勇者”アマネスが貰い受けよう!」
「「お断りします」」
オレとリリィの声が見事にハモって、ここに契約は成立した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます