第175話「やっぱり再会は突然に」
「というわけでルーナ。オレ、ここで働きたいんだ」
「へっ」
翌朝、早速部屋の様子を見に来たルーナにそう告げる。
「働きたいって、それは別にかまわないけれど、一体どうして?」
「いや、なんつーか、このイシタルの進んだ文明を見て、ぜひここに住みたくなったっていうか、オレも何か協力したいなーって」
とりあえず、それらしい理由を告げたところルーナは嬉しそうに笑顔を見せる。
「そうなんだ! そういうことなら、遠慮せずこの国に住んでいいよ! この部屋も今は誰も使ってないし、キョウさえよければ、当分ここで寝泊まりしていいよ」
「お、そうか。何から何まで悪いな」
「気にしないで。この国に住みたいって人は僕も大歓迎だよ」
そう言って胸を叩くルーナ。
そんなルーナの足元にはロックがとてとてと移動し、昨日と同じように足にくっついて幸せそうな顔をする。
「それじゃあ、働き口だけどキョウは何かやりたいこととかってある?」
「ああ。それなんだけど、実はちょっと見て欲しいものがあるんだ」
◇ ◇ ◇
「それで、魔物の種をもって庭に来たけれど、ここで何するの?」
「まあ、見てろって」
オレはあれから、この砂漠に生息する魔物から採れた種をルーナに頼んで持ってきてもらい、適度な庭へと移動する。
硬さはそこそこ。
以前のオレならば、このような不慣れな環境での魔物栽培には苦戦しただろうが、すでに砂漠での栽培は経験済み。
更に、この土地の魔物ならばすぐに栽培は可能。
手に持った種をほぐした地面にばらまき、ルーナから受け取った水をかける。
そして、待つこと数分。
それはすぐに反応を見せる。
「え!?」
にょきょにょきと、次々と地面から生えてくる魔物の苗。
まだ大きさは指先程度だが、それが徐々に大きくなり、おそらく明日には成熟しているだろうスピードだ。
うむ。オレの魔物栽培のスキルも随分成長したものだ。
そんな光景を目の前で見せられたルーナはひどく驚いた様子ではしゃぎ出す。
「す、すごいすごい! なにこれなにこれ!? キョウ、ひょっとして君って魔物を栽培できるのー!?」
「ああ、まあな」
「すごーい! 僕もお父さんもこんな直接魔物を栽培して創造するなんて出来ないのに、君はそれが可能なんだねー!!」
驚きつつも、その顔は笑顔を浮かべており、ルーナはオレの手を握ってぴょんぴょん飛び跳ねる。
どうやらよっぽど、驚きだったようだ。
「すごいよ! 僕達も魔物を栽培できないか、色々研究したり、そのための実験場とか作ったんだけど、どれも成長イマイチで……。ならないことはないんだけど、ほとんどは実を結ばないんだ。けど、君にはそれができるんだよね? それってすごいことだよ! 世界の進化がすごく加速するよー!」
いやー、それほどでもと謙遜するが、オレはふと周囲を行き交いする人々に混じって歩くゴーレムの姿を見て呟く。
「なあ、魔物の栽培は無理って言ってるけど、それじゃあ、あそこにいるゴーレムとかってなんなんだ?」
「ああ、あれ? あれはお父さんが作ったゴーレム。僕のお父さんはゴーレムを人工的に作れる人なんだ」
へえー、なるほど。ゴーレムを。
確かにゴーレムも魔物の一種なら、限定的とはいえそれを創造可能なルーナのお父さんはすごいな。
しかし、ルーナにとってはオレの魔物栽培のスキルの方がすごいらしく「他にも魔物栽培できるの!?」と色々聞いてきた。
「まあ、一応魔物の種とかあれば、いろいろ作れるけど」
「本当!? それじゃあ、僕今からいろいろとってこようかな! こんなすごいスキル持ってるなら、もっと早く言ってよ! きっとお父さんが知ったら、もっとキョウに興味持ってくれるよー!」
うん、それはありがたいかもしれない。
あの人の協力が得られれば、オレもこの現状をなんとかできるかも知れない。
そんなことを思っていると、ルーナがオレの手を引っ張って「どんな魔物の種がいいか、僕と一緒に探しに行こうよ!」と走り出す。
うお、見た目通り行動的な子だな。
そう思いながらルーナと一緒に街を歩いていると、ふと目の前にフラフラと歩いてくる少年の姿が見えた。
それだけなら特に気にならなかったのだが、オレが気になったのはその少年の服装であった。
「え、あれって……」
それは街を歩く他の人達の服装とは違ったものであった。
本来、この異世界にはない『英語』のロゴが入った安物のTシャツに紺色のジーンズ。
それは異世界では奇妙な服装であったが、逆にオレからしたらなんの代わり映えもない普通の服。
即ち、地球でよく見かける一般男性の格好であったからだ。
「……あう」
そんなことを思っていると、その少年が目の前で倒れてる。
オレとルーナは慌てて、その少年へと駆け寄る。
「お、おい、大丈夫か!?」
「き、君、しっかり!」
「……み」
「み?」
「水……」
プルプルと震えるその少年に対し、オレとルーナは腰に下げていた特殊瓶(魔法瓶のようなもの)を取り出すと、それを少年の口元へと近づける。
そこから水が出るのを感じると少年は一目散にそれを奪い取り、ゴクゴクといい音を立てて飲み干す。
「ぷはー。いやー、助かったよー、ありがとうー」
そう言って屈託ない笑みで笑う少年。
年の頃は14,5か。
おそらく中学生くらいの年齢だろう。オレより明らかに年下であった。
黒髪の平凡な容姿で、どことなく親近感を覚える。
というか、この子、誰かに似ているような……?
そんなことを思っていると少年はオレの格好に気づき、あることを口にする。
「あれ? 君、もしかして、地球からの?」
「お、やっぱ分かるか」
少年の『地球』というワードで、オレはやはりこの少年が同じ転移者であると悟った。
まあ、オレもズボンは未だに地球からのやつを使っているから知ってる人から見れば分かるよな。
ちなみに一方のルーナは『地球』というワードに聞き覚えがないようで「?」マークを浮かべている。
「いやー、良かったよ。僕以外にも転移者がいたなんてー。正直、いきなりこの異世界に飛ばされて右も左も分からず、ずっと砂漠を横断してて……で、ようやく、この街に来たはいいんだけど……無一文でどこに行っても追い出されて、レストランでタダ飯も許されずつまみ出されて今に至るんだよ……」
う、うん。なんだろう。
この子の経歴、とても他人事ではない。というか、オレもめっちゃ似たような経歴だったし。
そんな少年のこれまでに同情するオレであったが、次に呟いた少年の名にオレはこれまでにない衝撃を受けた。
「まあ、けど、なんにしてもお仲間さんに会えて嬉しいよ。僕の名前氷室敬司。ケイジって呼んでください」
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