第35話「アラビアと言えばインド料理でしょう?(偏見)」

「やるじゃない、キョウ。伊達に魔物栽培なんてしてないわね」


「キョウさん、ありがとうございます! おかげで二回戦に進めます! これも全部キョウさんのおかげです!」


「さすがはキョウ様です! 私には真似のできない繊細な仕掛け見事としか言えません!」


「ご主人様おめでとうございます!」


「ぱぱ~! おめでとう~!」


「すごいです。とうちのイースちゃんも褒めています!」


「さすがは兄ちゃんだぜ。オレ達にできないことを平然とする。そこに痺れるぅ、憧れるぅぜ」


第一回戦を勝利し、皆から賞賛の言葉を受け取る。

少し小っ恥ずかしいが、やはりこういうのは素直に嬉しい。

それはそうとさっきから気になってたんだが、なんかジャックの奴。人型になってね?


「おめでとうございます。キョウさん。僕からもあなたの勝利にお祝いを言わせてください」


そう言って聞きなれない声が聞こえ、振り向いたその先にいたのは褐色の肌にアラビアンナイトを思わせる衣装を身にまとった美少年。

確か前回の大会優勝者と言われたシン=ド=バードってやつだ。


「実は僕も先程勝利が決まりまして、次の準決勝での相手があなたに決まったようなのです」


なにぃ?! 準決勝の相手はお前かい?!

初戦で前回の準優勝者、そして準決勝で前回の優勝者って、どんだけトーナメント戦の運がないんだよ。


「で、ですね。本当なら賢人勇者さんとの対戦で使用しようと思っていた僕の料理選択なのですが、あなたが賢人勇者を倒してしまったので、代わりに僕はあなたとの対戦でそれを使用させてもらおうと思います」


しかもおーい! なんでオレとの対戦の際は皆、手持ちのカード切り出すんだよー!

もっと慢心しろよー! 某AUOさんみたいに余裕と慢心を持とうよー!


「僕はあなたとの対戦では、カレーを指定させてもらいます」


カレー? あれ、意外に普通だった。

もっとこちらが苦手なジャンルを選ぶかと思ったらカレーとか。

ある意味、庶民の代表みたいな料理じゃないっすか。


ふふ、なるほど、そこで余裕を見せてくれましたか前年度のチャンピオンさん。

ありがたいぜ、カレーならこちらの山の幸も存分に使用できる。


「ああ、構わないぜ」


「ええ、では準決勝は三日後の予定ですので、それまでお互いに材料を揃えるとしましょう」


そう言ってオレは差し出されたチャンピオンの手を握ったが、この時はまだ気づいていなかった。

相手は慢心どころか、むしろ用意周到に全力でこちらを潰しに来ていたことに。






「アンタ、あいつの料理選択にやたら自信持ってたみたいだけど、本当に勝てる目算あるの?」


あれから大会のそれぞれの第一回戦が終了し、準決勝に勝ち残った四人が選ばれ

オレ達は大会参加者が泊まれる宿の一階、酒場のような場所で料理をつつきながら、先ほどの会話について話していた。


「え、なんで? だってカレーだろう。そんなのオレでも作れるぜ」


「そいつは早合点だな、キョウよ」


見るとそこには賢人勇者のカサリナさんがいた。なんだろう、平然とオレの隣に座って気のせいか以前よりも距離が近いような気がするのだが、それよりも今はカサリナさんのセリフが気になるのでおとなしく聞く。


「あやつが前回儂に勝った料理の種目こそがそのカレーだったのじゃ」


「え?」


「キョウ様、現在この世界においてことカレーに関して一番の力量を持っているのがあの少年、天才勇者シン=ド=バードなのです。というよりも、あの少年はこの世界で初めてカレーを生み出した人物でもあるのです。多種類の香辛料を生み出し、それらを併用して生み出した料理なのです」


「お主が儂との料理で出した調味料。あれと似たようなものじゃ」


もちろんそれはオレも知っている。

というかカレーと聞いた瞬間、オレが真っ先に思い浮かんだのがそれだった。

じゃあ、次はその香辛料で小細工して相手の裏をとってやるーとか思っていたら、すでにやられた! むしろこっちが裏取られました!!


「アタシも噂で聞いたことはあるわ。なんでもあいつの作るカレーは神の領域だとか、黄金の右手とか、様々な呼び名をされてるそうよ」


おいおい、料理で神の領域だとかそれもう別の料理バトル漫画になるからやめようぜ。

つーか、どんだけ相手のハードル上げるんだよ。戦う前からこっちの戦意削ぐのやめてくれよ。


「まあ、いずれにしても奴とのカレー勝負ともなれば儂以上に裏をかくのは難しいじゃろう。なにせ、カレーはやつによってこの世界の様々な国に普及したが、その味は千差万別。儂も以前、奴の作ったカレーを食べていくつか真似したが、やはり奴のカレーにはどうしても届かなかった」


確かに。カレーほど作り手によってその味や個性が大きく変わる料理はない。

なにせあれは具材の種類がほぼなんでも存在し、その全てを包み込める唯一無二の料理。

何を選び、何を混ぜるか、それによって無限のバリエーションが存在する。それこそがカレーだ。


うーん、これは一旦ミナちゃんと話し合ってどんなカレーを作るかそこから考えたほうがいいかもしれないな。

そう思ってオレはミナちゃんを探すが姿が見えない。

確か少し前に街の食材を見てくると言っていたが、まだ帰ってないのかな?

そう思った矢先、限界の扉が開き、そこから転がるようにジャックが現れ、いつかの時のように息も絶え絶えの様子で、信じられない言葉を呟いた。


「す、すまねぇ……兄ちゃん……ミナちゃんが……さらわれた……」

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