第89話「決戦への覚悟」

「とりあえずはこういう役割で行こう。各々、自分たちの役割に対しては大丈夫か?」


 言ってオレは先程まとまった帝国城への潜入後の役割分担に対してこの会議に出席している全員へと確認を取る。


「くっくっく、我に関しては問題ない。今から帝王の奴の泣き叫ぶ顔が楽しみでならぬわ」


「ふっ、戦勇者アマネス。問題はない」


「こちらも異存ありません。任された役割は最後まで責任をもって全うしましょう」


「わ、私も……が、頑張ります」


「今更オレと兄ちゃんの間に異論なんてないだろう。任せな、兄ちゃんの期待は裏切らないさ」


 そう言う面々の表情を確認し、オレは静かに頷く。


「よし、ならあとは決戦に備えるだけだ」


 とりあえずの作戦と役割はこれで決まった。あとはいかに連携を取り、それに合わせていくか。

 そして向こうのとの決戦。一週間後までこちらの準備が間に合うかどうか、全てはそこにかかっている。


「しかし、こうやって四天王やら魔物やらの指揮をとってるとなんだか魔王になった気分だな」


 そうオレが冗談めかして言うとそれに対して真顔な妹の反応が返ってきた。


「なにを言っているのだ? もはや兄上は実質的には魔王のような立場であろう」


「へ?」


 それに対しわずかに驚くものの、しかし考えてみればそうか。

 オレはこの世界の現魔王の息子であり、しかも魔物を創造する力を持っている。

 今にして思えばこの能力も魔王である母さんの息子だったからかもしれない。


「少なくとも現状、母上がいない以上は兄上が魔王といってもいい。だからこそ我ら四天王もこの城に集った魔物達も兄上の命令ならばなんなりと聞く所存だ」


「あ、ああ、そうか」


 と言われても正直、どう反応していいやら困る。

 オレとしては別に世界征服だとかには興味ないし、今更魔王になれると言ってもなにをしていいのやら。

 というか、現在のその魔王張本人はどうした。


「というか、母さんと親父はどうしたんだ?」


 ふとそのことを思い出し、この場の全員に問いかける。

 確か帝王との会談に向かう際、二人は先に帝王の城へと侵入し、そこに捕らえられている同胞のベヒモスの解放に行ったはず。

 にも関わらず現在まで全く連絡がないというのはおかしい。


「それについては先日、魔王様より連絡がきました。現在、向こうはとある理由により動くことが出来ないと。ただしそれは人質になっているというようなものではなく、単純に動けないということらしいです。ですので、今回の件に関しては私たち四天王をはじめこの城にいる全員、キョウ様の力になるよう魔王様よりお言いつけされております」


 あ、オレへの協力は普通に母さん公認だったのね。


「まあ、母上がそう言ってるのだ。今回の件は我らだけでなんとかすればよいだけのこと。なに容易い容易い」


 そう言ってクツクツと笑うヘル。

 一方のツルギは会議が一段落したのを見計らってか、ロックと遊んでたりする。

 いつの間にかあの二人仲良くなってるなー。

 と、そんな風に二人を眺めているとオレの肩にドラちゃんが座り、不安そうな顔でこちらを見ていた。


「ご主人様……帝王城への侵入……やっぱり、私はついていってはダメですか?」


 それは先程会議の際に上がったことだが、ドラちゃんや戦闘力の低い魔物はなるべく同行させないよう決まった。

 無論、帝王城での戦いはこれまでとは異なる本気の戦いになるだろうから、それでドラちゃん達を巻き込んで怪我をさせるわけにはいかない。


「ああ、けど安心してくれ。必ずリリィやフィティスを連れ戻してまた皆と一緒にいる時間を取り戻すと約束するから」


 オレのその答えにドラちゃんはしばし悩むような素振りを見せるが、すぐさま何かを決意するようにオレの頬へと顔を寄せ、ほっぺにキスをする。


「?! ど、ドラちゃん?!」


「お、おまじないです……その無事に帰ってくるように」


 そう言ってほんのり頬を赤くして微笑むドラちゃんに不覚にもオレは胸がドキドキしてしまった。

 い、いや、ドラちゃんはむしろオレの娘枠みたいなもので、大きさだってこんなに違うから、そんな異性として見るなんて、そんな……。

 と、そんな混乱のあまりわけのわからないことを考えていると、それを見ていたヘルの口から再び城内を騒がすような絶叫が聞こえた。


「ああああ―――!! またお兄ちゃんがキスされてる――!!! もうやだー!! お兄ちゃんにそんなキスするなら私だってお兄ちゃんにキスする――!!!」


 と我が妹もまた混乱のあまりわけのわからないことを口走りこちらに抱きついて、チューをするポーズのまま顔を寄せるが、さすがにこんな公然とされるのは色々と問題があると思い、必死にヘルのおでこを手のひらで押し返す。


「ははは、やはり兄ちゃんはどこに行ってもモテモテだな」


「いや、笑って見てないで、止めるの手伝えよ?!」


 そこにはいつものオレの周りの活気が戻ってきたようであり、同時に今ここに欠いているメンバーをなんとしても取り戻す決意を再びして、オレ達の作戦会議は終わりを告げた。

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