第88話「決戦会議」
「なるほど。つまりツルギさんの能力は空間転移みたいなものだと?」
「正確には少し違いますが現状はそのような認識で構いません。僕が認識できる場所でならどこであろうと瞬時に移動ができます。ただし移動できる人数には限りがありますし、僕の認識が阻害されるような場所への移動は不可能です」
「要約するとあれだな? 帝王の城の重要な場所には貴様の認識を阻害する結界なりが貼ってあり、直接人質の部屋などに救出はいけなということだな?」
「そういうことですね。さすがはキョウさんの妹さん、頭の回転が速いですね」
「くっくっく、この程度厨二設定における基本中の基本よ」
とりあえずあれからアマネスもツルギも洗脳は施されていないと証明されたため二人を交えての作戦会議を行っている。
ツルギの話によれば先の先遣隊が撤退してから約一週間後には本体がこの魔王城へと攻め込むだろうとのこと。
だが、逆に言えばそれは帝王城の守りが薄くなるということ、そこにつけ込みツルギの能力で一気に帝王の城を落とそうという話になったが。
「まあ、無論、僕の裏切りは帝王様にはバレてるでしょうから、あちらもそのつもりで主力戦力を城に残しているとは思いますよ」
「向こうの主力戦力……残る七大勇者か」
「帝王勇者ロスタム、その兄にあたるザッハーク、英雄勇者と呼ばれるフェリド、そして……」
「リリィ、か」
おそらくはどれも半端ない戦力であろう。対してこちらは戦力となる七大勇者はアマネスひとり。
ツルギは今回の戦いには直接手を貸さないと言っていたが、逆に言えば帝王側の戦力になることもないので、この際はそれで十分と思うべきであろう。
「それにしても……まさか七大勇者のひとりがあのフェリドだったなんてな」
そう呟いた彼の存在をオレは知っていた。
以前、リリィが拾ってきたという謎の青年。しばらくオレのうちに厄介になり、そのときは何気ない会話で仲良くもなれた。
ぶっちゃけ、この世界に来てから数少ない同性の友人だとオレは思っていたのだが、その彼がまさか七大勇者の一人であり、しかも帝王側の勇者だったとは。
「……あいつも、帝王に洗脳されちまったってことなのかな」
オレの知るフェリドという人物は英雄や勇者という言葉がよく似合う好青年だ。
おそらくオレなんかよりも主人公という立ち位置にふさわしい人物であろう。
その彼があの帝王の下についている理由など他に存在しない。
そう思い口にしたのだが。
「どうでしょうか? 帝王様はむしろああいうタイプには自分の能力を使わないと思うんですけどねぇ」
「はい?」
唐突にそんなわけのわからないセリフがツルギから放たれた。
だが、そのセリフにはなにか引っかかる部分が存在した。
「ツルギさん、それってどういう意味なんですか?」
「いえ、彼よく言ってたんですけど、真に欲しいと思う存在は能力で洗脳なんかせず自らの下につくよう尽力するって。そもそも彼、自分の洗脳能力のことを王道ではないって否定してる風がありましたからねー」
自分で自分の能力を否定するとはまたわけがわからない。
そう思いつつも、オレはどこか胸の中で引っかかっていた疑問が口の中から出てくるようであった。
「……確かに、言われてみればあいつの行動は理にかなってない部分が多い。アマネス、あいつは前からお前の国に対して小競り合いを仕掛けていたって言ったよな?」
「ああ、そうだが。それがどうかしたのか?」
「その時点でなにかおかしいとは思っていたんだ。あいつの能力ならそもそも、そんなことする必要はないはずだろう」
そう、おそらく七大勇者の中で最も戦略そのものを支配できるのがロスタムの能力。
あの能力があればわざわざ小競り合いなどしなくとも、国の中枢まで支配や洗脳の手を伸ばすことは十分に可能なはず。だが。
「確かにな。だが先程ツルギが言っていた帝王勇者の気質については私も耳にしたことがある。そのせいもあるだろうが、あいつは単に小競り合いそのものを楽しんでいるんだと私は思っていた。能力を使って楽に攻略するよりも自分自身の実力で討ち取ってこそ得られる本当の達成感というものがあるだろう。私も奴もその点は勇者だ。ゆえに私との戦ではあいつの能力は使わないものと思っていたんだが……」
「それだとまた矛盾が生じるな。リリィの件で」
そう、もしもあいつが本当に自身の実力だけで戦を進めたいならリリィに洗脳を施すのはむしろあいつの言う王道から外れるのでは?
……いや、そうではない。
先日のあのリリィの秘密の件を思い返せば、あるひとつの回答へと繋がる。
「……けど、アマネスに対してはどうかは知らないが、あいつはオレに対しては王道からそれる真似を仕掛けた。それだけで十分だ。オレがあいつをぶっ飛ばしたいと思うには」
そう、アマネスに関してはどうかは知らないが、少なくともあいつはオレに対して人としてやってはいけないラインを踏み越えた。
正直、あの会議に出席するまではオレは帝王勇者に対しては、ぶっちゃけ他人という感覚しかなかった。
アマネスの敵だとしても、オレの敵であるという認識が薄かったし憎しみを抱くような理由も動機もなかった。
だが、あの会議以降、あいつが仕掛けたであろう仕打ちだけでオレは十分にあいつを敵として認識し、拳をブチ込むだけの理由は得ている。
オレだけならまだしも、あいつはオレの大切な仲間の居場所を傷つけた。それだけでも絶対に許してはいけない。
「まあ、この際、あいつの思惑などはどうでもよいさ。要は倒せばいいだけのことだからな」
そのアマネスの発言にはこの場に集う全員が同意する。だが、そのためにも無視できない要素がまだ残っている。
「問題は帝王自身もそうだが、リリィのあの戦闘能力と……残りふたりの能力が未知数な点だな」
そう現時点では戦力に差があるがそれ以上に向こうの能力にまだ切り札が存在するのがこの際は驚異だ。
リリィにしろアマネスにしろロスタムにしろ、七大勇者が持つ能力は明らかに個人の能力を大きく上回っている。それが残り二人にもあるとなるとこのまま敵地に突入するのは危険。
せめて、相手の能力がどんなものか分かっていれば対策も打てるかもしれない。
そう思いオレが呟くと、隣でツルギがあっさりと答えた。
「フェリドの能力なら知っているから教えてあげましょうか?」
「へ? マジで?」
「マジマジ」
マジかー。この人、こういうことはあっさり教えてくれるなー。
けど、自分自身のことに関してはなにも答えてくれないんだよなー。
さっきオレにキスをした理由も、正体とかも全然教えてくれなかったし。
まあ、キスした理由について問い詰めたらローブ越しにも分かるほど顔を真っ赤にしてうろたえ出したので、そこは可愛かったんだが。
「彼の能力は、まあ一言で言うと進化ですね」
ん? どゆこと?
「つまり、自身が追い込まれれば追い込まれるほど、その時の状況に適した能力やスキルが向上、目覚めたり、覚醒したりするんですよ。つまりは英雄の特権そのもの。それがスキルとして備わってるんです」
え、なにその主人公みたいなご都合主義的スキル。
それってつまりあれでしょう? 敵にやられかけてもなにか不思議なことが起こって覚醒して一発逆転するみたいな?
某黄金野菜人だとか、某黄金鎧と戦う主役みたいな。一度食らった技はもう通じない的な。
戦えば戦うほど進化するとか、やっぱ、あの人主役で良かったんじゃないかなぁ。
「なにそのどこかの都合いい主人公みたいな能力。反則じゃん」
と厨二に詳しい我が妹も即座に突っ込んでくれた。
うむ。だが確かにこれは反則だ。味方が持つならともかく、それは敵がもっちゃいけない能力だろう。
ぶっちゃけ倒しようがないというものだ。いや、正確には倒そうとしてもなんか都合のいいパワーアップが起きて堂々巡りなんだろう? ないわー。
「なるほど。そういうことでしたら、彼に対する適任は僕しかいないですね」
と、そこまで聞いてある一人の人物が名乗りをあげる。
あ、あなたは。
「キョウ様。彼の相手は僕に任せてもらえませんか?」
言って自信満々なその人物にオレとヘルは思わず顔を合わせるが、その後、すぐに納得する。
なるほど。そういうことか。確かに、それならこのメンバーの中で渡り合える可能性があるならこいつしかいない。
倒すのではなく、渡り合うという点に特化するのなら。
「わかった。なら、あいつの相手は任せるぞ」
オレのその言葉に静かに頷く。
残るは帝王勇者の兄というザッハークの能力だが、そいつに関してはツルギは答えてはくれなかった。
おそらくは知らないか、あるいは語れない理由があるのだろう。
いずれにしても帝王城へと突入した際、誰がどの相手を担当するか、それが重要となる。
オレとジャックは無論、四天王達には共に来て欲しいのだが。
「……イースちゃんはどうするんだい?」
雪の魔女であるイースちゃんは四天王のひとりではあるが、もともと戦いが苦手。
そのため、これまでの人と魔物との戦いにも参加せず雪山でひとり争いから遠ざかっていた。
今回の件はぶっちゃけオレ達の事情のようなもの。イースちゃんにしてみればまったく関係のない事情であり、戦いに巻き込む必要はない。だが。
「……わ、私も……行きます……」
そう小さな声で震えながら呟いたイースちゃんだが、その瞳はこれまでにない決意の眼差しを宿していた。
「フィティスさんは……また私と料理勝負をしたいと……約束、してくれました。……あ、あの人は……わ、私の、と、友達……ですっ! ……だ、だから友達を助けに行くのは私の理由としては十分、なんです……無関係じゃ、ありません……だから私も一緒に、行きます……!」
そう言ったイースちゃんの目は奪われた友達を取り戻すために自身が恐れる戦いの中に飛び込むことになっても後悔はしないと、そう強く決意したものであった。
そうだったな。この子は前も友達のドリアードちゃんのために必死に行動した。
この子が行動するための理由。それは友達のため、それだけで十分なんだ。
「ああ、わかった。それじゃあ、共に行こう」
そう言ってオレとイースちゃんは手を握り、帝王城へ向けた侵攻作戦の最後の詰めを広げていく。
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