第128話「再会」
「どう、フィティス、そっちは何かあったー?」
「いえ、こちらは特にキョウ様の足取りに繋がりそうなものはなにも……リリィさんはどうですか?」
「……アタシもダメ。手がかりなしよ」
あれから数日。
リリィ、フィティス、シン、その他キョウの仲間達が行方不明となったキョウの捜索を行うべく砂漠の各地を歩き回っていた。
だが、依然として足取りは掴めず、一行は水平線が見える灼熱の砂漠の中を歩き回っていた。
「やっぱ……分かってはいたことだが砂漠での人探しともなると雲を掴むような話だな……」
「だからって諦めるわけにはいかないでしょう。疲れたのなら先に戻っててもいいわよ」
「冗談言いなさんな、リリィ嬢。こんな時に兄ちゃんの力にならずして何のための相棒よ」
この炎天下の中での捜索には魔物であるジャックすらも疲労の色を隠せずにいた。
だが、それでも一行はこの数日間、捜索の手を休めることなく続けていた。
「……やはり闇雲に探しまわるよりも何か捜索のヒントになる方法を考えたほうが良いのかもしれませんわね」
それはこの数日間、捜索を続けたフィティスの感想であったが、それはこの場にいる全員が薄々感じていたことであった。
だが、その肝心のヒントとなるものが見つからず、一行は手詰まりの状態であった。
次にどうするべきか悩みだした、その時――
「……ぱぱ」
ふとリリィの足元にいたロックが何かを呟く。
「どうした、ロックちゃん?」
「ぱぱの気配を……感じる……」
そのロックの言葉にリリィ含めたこの場の全員が反応をする。
「それって、どういうことですのロックちゃん? キョウ様が近くにいるということですの?」
「わかんない……けど、前よりぱぱの気配が感じられる……近くじゃないけれど、いままでよりも近づいてるのはわかる……」
それはこれまで得られずにいた唯一の捜索のヒントであり、それに食いつくようにリリィが提案する。
「なら、ロックちゃんのその感覚を頼りに捜索すれば!」
「確かに、時間はかかるかもしれませんが、今までよりもずっと見つかる可能性は高くなるかもしれません」
頷くシン。
それに倣うように一行は連れてきたコブダに乗り、砂漠での捜索を開始しようとするが、それに対しロック本人が首を振る。
「……ううん。たぶんそれよりも、もっとはやい手段……ある」
「え?」
疑問の声を上げるリリィに対しロックはその裾を掴んで宣言する。
「いまから、ぱぱのところに――いく!」
◇ ◇ ◇
「だめって……どういうことだよ?」
オレの問いかけに対してマンティコアは沈黙したまま。
やがて、その口から出た言葉は先ほどと同じものであった。
「とにかくだめだ。その子はここに残る」
頑なにその言葉のみをオレに伝えるマンティコア。
だが、その瞳にはどこか焦りと恐怖。そして、不安が見えた。
「……お前、もしかして……寂しい、のか?」
「…………」
オレへの問いかけにマンティコアは答えない。
だがここではその沈黙が全てを表していた。
「……そうか」
呟き、オレは再び倒れたままの少年の顔を見る。
確かに考えてみればそれはそうだ。
このマンティコアは初めに妻との間に生まれた子供を亡くしている。
それだけではなく、長年連れ添った妻を亡くした。
その後に残ったのはこの少年だけ。
それがたとえ血の繋がらない人間の子供であったとしても、今やマンティコアに残された家族はこの子のみ。
この子がいなくなれば、その時こそ目の前のマンティコアは正真正銘のひとりきりとなる。
その恐怖に耐えられないと思ったのだろう。
だからこそ、オレをここまでさらって少年を救ってくれと頼んだ気持ちもあったのかもしれない。
「……けれど、このままじゃこの子は助からない。この子の容態を治すためにも、ここは一度家族の元に戻した方がいいんじゃないのか?」
「…………」
正直、出過ぎた言い方だとは思う。
それでも、このままここにいてもこの子が良くなる可能性は低い。
ならば、たとえ一時でも本当の家族のいる場所に連れ戻せば。
あるいはシン――この子の姉がこの場に来てくれれば。
そうオレが願った瞬間であった。
「! な、なんだ?!」
「?! 空間から光が……!」
オレとマンティコアの間の空間に光が走ったかと思うと、その場の空気がゆらぎ、次の瞬間、次元を割くように何者かがその場に現れる。
いや、何者かがではなかった。そこから現れたのはオレが知る仲間達の姿であった。
「――ぱぱー!」
「ロック!」
この場に現れると同時にすぐさまオレに抱きついてくるロック。
見るとロックの両端にいた人物もオレに気がついて笑顔を見せる。
「ようやく見つけたわよ。まったく心配させないでよ」
「キョウさん、見つけるのが遅れてすみません。ですがご無事なようでなによりです」
「リリィ! それにシンも」
二人の姿を見て、ほっとしたため息をつくオレ。
なによりリリィとこうして会うのは久しぶりだったため、彼女の姿を見ると安心感が募る。
「もしかしてロックの転移でオレの居場所を掴んだのか?」
「ええ、そうよ。ロックちゃんがアンタの気配を感じて、それを頼りに転移したの。ただロックちゃんに掴まっていないと他の人は転移出来ないみたいだから、それでアタシとシンが一緒に来たってわけ」
なるほど。やはりか。
前に地球に行った際、オヤジがセマルグルの能力が時空を移動する能力だと言い、ならばその血を受け継ぐロックが同じことをできても不思議ではない。
事実、帝王との戦いの際にはロックはその能力を開花させたのだから。
「――それよりも」
見ると、この場に転移してきたリリィとシンは自分たちの背後にいるマンティコアに気づき、それに対して武器を構える。
がオレはそれを見るや否や、すぐさま二人を止めるように前に出る。
「ちょ、ちょっと待ったー!」
「って、な、なんでアンタが邪魔してるのよ、キョウ」
咄嗟に二人の前に飛び出したオレを見て、目をパチクリさせるリリィ。
が、ここはきちんと説明しなければならない。
「まず二人共。このマンティコアは悪い奴じゃないだ。確かにオレをさらったが、それはそこに倒れている少年を助けるためだったんだ」
言ってオレは洞窟の奥で横になっている少年を指す。
それを見たリリィとシン。特にシンの方はこれまでにない反応を示す。
「そんな、まさか……」
信じられないと言った様子で呟くシンは、そのまま倒れたままの少年に近づきその手を握り締め、声をかける。
「まさか、本当に……シン。シンなのか?!」
それは自分の名前であったはずだが、しかしよく考えてみれば、それは目の前の少女の本当の名ではなかったとオレは気づく。
目の前の少女は死んだ弟になり代わり、これまで過ごしてきた人物。
ならばその名前も自分のものではなく、死んだとされる弟の名前。
それなら、シンの本当の名前は別にあるはず。彼女が女性として、姉として付けられた名前が。
そんなことをオレが思っていると。
これまでまったく目を開ける様子がなかった金髪の少年――本当のシンが、自分の名前を呼ぶ声に引かれるように目を開き、そこに映った自分と瓜二つの少女の名前を呼ぶ。
「……アリーシャ、姉、さん……?」
それはこれまでシンという偽りを名を使っていた少女の本当の名前であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます