第110話「新たなる栽培の予感」
「救ってくれって……どういうことだ?」
シンの唐突なお願いに対してオレは思わず聞き返す。
「実はここ数年、僕の国では深刻な魔物不足に見舞われているのです」
魔物不足?
初めて聞いた単語だが、その響きからするとたぶんオレが考えている通りのやつでいいのだろう。
「バジリスクをはじめとする砂漠に生息している魔物の数が劇的に減っているのです。今では食料として食べられる魔物を切り詰めて生活しているの現状なんです」
やはりそういうことか。
シンの国は砂漠の国だと大料理大会で戦った際、紹介を聞いていた。
ということは、そうした食糧問題は砂漠の国に暮らすシンに取っては死活問題になるはず。
そんな状況下で帝王との決戦の際には、オレへの援軍要請に応えてくれたのか?
そう思い、そのことに関してシンに問いかけるが。
「……いえ、その件に関しては確かに以前の謝礼もあるのですが、実際は打算による協力も含まれていたんです」
ということは。
「なるほどね。つまり、先にキョウへの恩を着せておいて、国を救うための協力を取り付けようと、そういうことね」
「まあ、身も蓋もない言い方をすれば、そうですね」
白状するように両手をあげるシン。
なるほど、そのためにわざわざ自分の私兵を動かしてまで協力してくれたのか。
確かにあそこまでの協力をされた以上、シンからの頼みを断るわけにはいかない。
けど、ひとつ勘違いしてるぜ、シン。
「恩だの借りだの打算だの、相変わらずお前は面倒くさいことにこだわってるな」
そう言ってオレは明るく笑い、シンの肩に手を置く。
「最初から一言助けてくれって言えよ。それだけで、オレは十分お前の力になってやるよ」
「キョウさん……」
「助けないよりは助けたほうがいい、ってのがオレのモットーなんでな」
この世界に来てから、何度目かのそのセリフを言って、隣りではリリィが苦笑しつつもいつもの安心した雰囲気を浮かべ、シンに至ってはなぜか頬を赤らめ、慌ててプイっとそっぽを向いている。
シン、何度も言うがオレはそっちのフラグは立てる気ないからな。
「というわけで、これからシンの国アラビアルに立とうと思う。散々もてなしてもらっていきなりの旅立ちで、すまない」
そう言って、オレはアルブルス帝国の帝王城にある帝王の間にて玉座に座るロスタムと、その隣に立つザッハークに報告をする。
ちなみにロスタムはなぜか今も女性バージョンのまま踏ん反り返っている。
よっぽど気に入ったんだろうか、あの姿。
「構わないさ。別に我らは君のことをここに留めようなどと無粋なことは思っていない。またいつでもここへ来てくれるといい。その時には再び歓迎しよう」
「ああ、サンキュー、帝王様」
そう言って軽く承諾してくれたロスタムはオレへの協力の証としてか、アラビアルまでの馬車と、その中に大量の食糧と水を用意するよう言ってくれた。
正直、そうした支援物資はオレらもシンも助かる。
「しかし、やはりというか、君は人がいいな。それでは色々と苦労も多いだろう」
「そうでしょうか? あんまり気にしたことないですねー。っていうかこういうのはどこかでいい事をすれば、その分のいい事が返ってくると信じてるだけですから、そんな大層なもんじゃないですよ」
「ほう?」
オレの軽口に対して、やはり興味深そうにこちらを眺めるロスタム。
けれど、実際、今回のアラビアルへの旅はシンの要請に応じただけでなく、オレ個人の目的もちょっと含まれていた。
「実はあなたからもらったこの種。アラビアルで植えようかと思っていまして」
そう言って取り出したのはロスタムから譲り受けた三つの世界樹の種のひとつ。
すでにオレが持っていた三つの世界樹の種は発芽をしており、そのうちの最初のひとつはリリィとミナちゃんの住む町にある小高い丘に植え、アマネスからもらった種はアマネスの国であるヴァルキリアにて植え、さらに三つ目の母さんからもらった種も魔王城のすぐ脇にそれぞれ植えた。
女神様曰く、ふさわしい場所に植えたほうが世界樹の発育も早いとのことなので、それぞれ手に入れた場所に植えるのが一番だろうとそこを選んだ。
ちなみに結果については、先日アマネスとヘルから聞いたところによると、どちらも順調に育っており、今は苗木くらいの大きさになっているという。
無論、オレやリリィ達が住んでいる町にある世界樹も同じくらい育っている。
「なるほど。そこで四つ目をアラビアルに植えようと思っているわけか」
そんなオレの考えを読み取ったのか帝王も答える。
砂漠に世界樹の種を植えて育つのかどうかと思われるが、前にも言ったとおり、世界樹の種が育つには環境とかは関係なく、人の成長によって育つもの。
そのため、どんな場所に植えようと世界樹は関係なく育つ。
あくまでどこに植えるかはオレの気分やフィーリングに任せているだけらしい。
なので、今回シンからの要請もひとつの運命のような気がして、あいつの国に植えるのもいいかと思った。
「ちなみにシンでの国は五つ目ですよ。帝王様」
そう言ってオレはバッグからもうひとつの世界樹の種を取り出し、それをロスタムの方へと放り投げる。
「それ、四つ目はここに植えようかと思ってんですよ」
オレのその言葉に驚いたような顔をする帝王様。
けど、さっきまでのオレの説明を聞けば、この考えに行き着くのはごく自然だ。
なぜならロスタムからもらったこの三つの種、それに因縁が強いのはやはりロスタムと、その国であろう。
ならば、そのうちの一つをここに植えるのはこれ以上ないほど相応しい。
オレがロスタムからのパーティに応じた理由も実はここにあった。
「どこか相応しい場所にでも植えておいてください。時が来れば、オレか人類全体かの成長に合わせて芽が出るでしょうから」
そんなオレからの頼みに対し、ロスタムはこれ以上ないほどに頼もしい笑みを浮かべて頷く。
「任せておけ。必ず我が国の象徴として育てていこう」
ロスタムのその言葉を聞き、オレも安心した想いであった。
では、早速移動しようかと思った矢先、帝王の隣に静かに佇んでいたザッハークさんがこちらに近寄り、頭を下げた後、なにやら耳打ちをしてきた。
「……キョウ殿。私は貴方に対して返しきれない恩と借りがある。もしもこの先、国の陰謀だとか、何者かと敵対するようなことがあれば真っ先に言ってくれ……我が洗脳能力、本来ならば王道ではないと否定していたが、君のためならばどんな理由であろうと躊躇わず使おう……なんだったら邪魔な奴らの名前リストをあとで送ってくれれば私がすべて傀儡にしてやろう……」
となにやら恐ろしい協力宣言を受けて、オレは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
「は、はあ……ま、まあ、今のところは大丈夫なんで困ったことがあったら相談しますので」
引き攣りつつも、オレのその言葉にザッハークさんは嬉しそうに微笑み手を握ってきた。
しかし、気づけばオレの周りはとんでもない戦力で溢れているな。
リリィという七大勇者を始め、魔王母さんに四天王。
それに帝王様に加えて、相手を支配する能力を持つザッハークさん。
もうこれ、ぶっちゃけなにが出てきても負ける気がしなくなってきた。
とりあえずエンディングまでは安心して周りのチートに頼っていけそうなので、オレは改めて栽培という名のスローライフに戻る決意をした。
そう、今回のシンからの依頼はまさにオレの本来の役割である魔物栽培。
すなわち、砂漠での新たなスローライフの開拓!
正直、砂漠という環境に対してオレの魔物栽培能力がどこまで発揮できるかはわからなし、未知の領域でもあった。
だが、だからこそ楽しみという部分が多い。
砂漠だからこそ栽培できるものもいるだろうし、それこそ久しぶりの魔物栽培なので腕が鳴る。
そう思いオレは二人へと挨拶を終えた後、広間にて待つ仲間たちの元へと戻るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます