第72話「日本料理の真髄」

「よし、とりあえず一通り収穫は終えたな」


そう言って今オレの目の前には畑で育てていた魔物達が一通り転がっている。

最初にこの場所で植えたジャック・オー・ランタンから、デビルキャロット、マッシュタケにキラープラントの実、それから大根人やキャベツララ、ナスビーナスという魔物も新たに栽培収穫していた。


「さすがにキョウ様のところの魔物はどれも新鮮ですわね」


フィティスの言う通りオレのところで育てている魔物はほかよりも鮮度も味も上だと自覚している。だがこうした自然栽培をしていると、やはりどうしても一部は奇妙な形に成長する魔物もいた。


「兄ちゃん。このデビルキャロット足三本になってるぜ」


「あははー、こっちのナスビーナスさんとか太りすぎてあっちこっち破れて傷だらけですよー」


とジャックやドラちゃん達がそれらの魔物を突っついては教えてくれる。

やはりこうした栽培を大量にしているとどうしてもこのように形の悪いものができてくる。

最近だと町に魔物を卸売に行く際も、こうした形の悪いのはあまりいい値段では買い取ってくれない。

やはりどこの世界でも見た目というのは重視されるらしい。


「けど、形が悪いからって別に味自体は変わらないんだけどな」


そう言ってオレが手にとった傷だらけのナスビーナスは「ありがとん」とばかりにウインクする。

ちなみにこのナスビーナス。見た目はまんまナスなんだが、例によって手足のある魔物で、なぜか皆女神ポーズとか決め込んでは食べてアピールをする。

ちなみに形のいいやつになるとかなり人型に近く、それは本当に女神っぽいデザインのナスだった。

けどオレが今手に持ってるのは女神は女神でも包容力満点な方の女神だ。


「ですがやはり調理するとなれば形のよいものがいいのではないでしょうか? 少なからずそうした形の悪いものはあまりいいイメージもありませんし、なにより次の日本料理ともなればそうした素材の見栄えも審査の対象になるのではないでしょうか?」


「そうだな、一応この世界の日本料理について調べてはみたんだが、おおよそはオレの知ってる日本料理と大差はないな。ただこちらのほうがよりシンプルというか質素な感じはしたな」


あれから一応この世界の日本料理について調べてみて、それを実際に食べてもみたが思った以上に料理に手を加えている部分が少なかった。

言ってしまえば素材の味を大事にした料理であり、塩なども最小限。素材重視の料理と言われれば確かにこの段階での素材選びが勝敗を分けるような気もするのだが、なにか大事な見落としをしているような気がする。


「……まあ、考えてもしょうがないか。一応調理する料理はもう決めてある。これから最後の食材の調達に行くとしようか。というわけでロック頼むよ」


「うん! ぱぱ!」


そう言ってオレは可愛い娘であるロックの頭を撫でて、もうひとっ飛びを頼む。

ちなみにあえて描写は省略していたけれどこれまでこの子の背に乗っていろんな場所を移動していました。

もうこの子がいないと満足に移動できない体になってしまったよオレ達……。







「ここは海辺ですか、どうしてこのような場所に?」


「まあ、こっちに来ればわかるよ」


ロックから降り立った場所は目の前に海辺が広がる場所であり、オレは疑問をあげるフィティスを連れてある一角へと向かう。

そこは海から少し切り離された湖のような場所であり、ところどころに網を敷いた杭が打ち込まれていた。


「ここはもしや……」


「そう、まだ制作途中だけど海の魔物を育成できないか試してる場所なんだ」


なにを隠そうあの大料理大会以降、オレが密かに海の幸を育てるべく用意した場所であった。

カサリナさんとの勝負以降、山の幸だけでなく今後は海の幸も育てていこうと思い、こうして適度な海の魔物をキャッチしてはこの場所にリリースしている。

ちなみにこの場所を知っているのは協力してくれたリリィとあとはドラちゃん、ジャック、ロックと……。


「ふむ、来たか。遅かったな、キョウ、フィティス」


「師匠! もしかして、この場所の作成には師匠も協力を?」


カサリナさんの姿を見て状況をすぐさま理解するフィティス。

だが、それとは別に即座にフィティスはカサリナさんを前に頭を下げる。


「師匠、申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに。せっかく師匠からもぎ取った席だというのに私は……」


「ああ、そのことならすでに聞いておる。気にするな、フィティス」


「そうは言いましても私は……」


「ふむ、ではこう言い直そうか。敗北は十分に気にして良い。お主は敗北を知ったことで更なる成長の機会を得た。次に戦う時があればその時の悔しさを思い出し更なる精進を得られるじゃろう。儂が気にするなと言ったのは儂への申し訳なさじゃ。お主は実力で儂に勝った。なのにそのことまで謝罪するのは儂との勝負を侮辱することじゃ。違うか?」


カサリナさんは瞬時にフィティスが一体何に対し謝罪し、申し訳ないと思っていたのか。

それを看破し、その過ちを正す。

負けることを反省するのは大いに結構。むしろ、そこから成長できるのであれば、その負けは成功への道となる。

実際オレが親父に負けてから、こうした様々な育成法を試してみたりがいい証拠だ。

今にして思えばあの時の敗北はオレにいろんなものをくれたのかもしれない。

そして、それを証明するためにも次の勝負には必ず勝たなければならない。


「……分かりました。師匠の言うとおりです。今はこの敗北を糧に次なる勝負へ集中いたします」


「うむ。それがよいぞ。次はキョウの試合なのじゃろう? どうじゃ、この中からなにか収穫していくか」


「そうですね……」


言ってオレは海を見ながらそこに泳ぐ複数の魔物たちを確認する。


「サハギンにスキュラタコ、シーサーペント、それにあれは……もしかして色彩魚ですか?! すごい、これだけの種類の魔物をいつの間に養殖を」


「まあ、備えあれば憂いなしってな。カサリナさんの協力もあったからな」


そうしてしばらく海からの魔物をいくつか引き上げ、どれを使うか選別しようとした際、いくつかの魚への変化に気が付く。


「むう、キョウよ。やはりどうも色彩魚は他の魔物と同じ空間で養殖させるのはよくなかったのかもしれないぞ。見よ、丸々と太ってはいるのだが、全身傷だらけのものが多い」


そう言ってカサリナさんが指摘する魚を見ると、確かに全身傷を負っている魔物が多い。

よく見れば他のサハギンや、シーサーペントも傷ついているものが多い。

やはりまだ多様な魔物を同じ場所で育てるべきではなかった。


「ふーむ。これらの傷ついた魔物は市場でもあまりいい値段では売れないぞ。残念だがこれらの傷ついた魔物はこちらで処分するしかないな」


「そう、ですか。ちょっともったいないですね」


ここで言う処分とは文字通りの意味ではなく、作り手がそれらを調理して食べることを意味する。

地球でもこうした見た目の悪いものは作り手が調理するか、あるいは処分するかしているらしい。

こちらでもそれは似たようなものであった。

しかし、見た目が悪いだけで味まで悪いと決まったわけじゃないんだが。なんというかやはりもったいない気が……。


「あっ」


その瞬間、オレの中である閃きが起こる。

そう、これは日本という国に生まれ、その文化に触れて生きてきたオレのような一般市民ならば誰もが思う当然のこと。

そして、それこそが日本料理というものの根源を意味していたことにオレは気づいた。


「そうか……勝負するべきは味じゃなかった。文字通り素材だったんだ」


「ふむ、どうやらなにか思いついたようじゃな」


オレのその閃きの笑顔を見て、カサリナさんもフィティスも同じような笑みを浮かべ、オレはそれに答えるように目の前のある魔物を手に取る。


「ええ、見ててくださいよ。次の勝負、オレが真の『日本料理』の真髄を見せてあげますよ」

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