第71話「栽培勇者VS暗黒公女」
「申し訳ありません、キョウ様、皆さん……あれだけの大言を吐いてこの樣とは……」
「気にするなって、フィティス。お前は十分やったよ」
勝敗がつき、開口一番自分たちへ向けそう謝罪を行うフィティス。
それに対して気にするなと声を掛けるものの当のフィティスは納得がいっていない様子であった。
「いいえ、師匠から料理バトル参加の席をもぎ取っておきながらこのような体たらく……むしろ罵倒された方がマシですわ」
参ったな。思ったよりもフィティスのプライドが自分自身の敗北を許せないみたいだった。
というよりもこの場合、自分の勝利でオレ達へ貢献をしようとして出来なかったことに腹を立てている感じがあった。
「なら、次頑張ればいいだろう。少なくともオレはフィティスをお荷物だなんて感じてないぜ」
「キョウ様……」
肩に手を置き、あとは任せろとばかりに前に出る。
そう、次なる最終戦、第五戦にして大将戦。その組み合わせはもはや決まったも同然なのだから。
「では、これより次なる最終戦、大将戦の組み合わせと指定料理の発表を行う」
そのグルメマスターの宣言と同時に最後の対戦表が開示される。
そこに記されていたのは予想通りの名前であり、そして予想外の指定料理の名であった。
『第五回戦 “栽培勇者”キョウ 対 “暗黒公女”ヘル』
『指定料理:日本料理』
うん、対戦相手はわかっていたんだよ。だってもうあの子ひとりしか残ってなかったし。
いやまあ、正直言えばあの子が大将というのも少なからず意外だったんだが、それ以上に予想外なのは指定料理の方だよ。
なに『日本』料理って。日本ってどこのことよ?
「え、えっと、すみません。グルメマスター。一応確認なのですが日本料理の日本ってなんですか?」
これ、ひょっとしたら触れてはいけない部分なのかもしれないが、一度気になると放置できそうにないので確認出来る内にしておきたい。
「ふむ。そちらの栽培勇者はニホンのことを知らぬのか。まあ、それも仕方あるまい。あれは遠い東の辺境、小さな島国の名じゃ。それをニホンと呼び、かの島国達の文化さらには料理が実に独特で一部の食通達の舌をうならせては……」
「って、この世界日本あるの?!」
せめてジパングとか、もうちょっと異世界風の名前にしようよ?!
あー、けど日本料理なら逆にオレにとってかなり好都合かも。
とりあえず、あとでこの世界の日本料理がどの程度発展してるのか確認しておかないとな。
実はSUSIとかもそのニホン料理ですでにあったりしたのかな?
「くっくっく、次の指定料理これに関してはお前にとって有利な条件であろう?」
見ると例のあの厨二病娘がよくある片目を隠すようなジョジョ立ちのポーズで目の前に立っていた。
って、ちょっと待って。なんでオレにとって有利ってこの子知ってんの?
「くっくっく、我が邪眼は相手のいかなる過去をも見通す。貴様の過去、一体どこから来たかなど見通すのは容易いことよ……」
千里眼みたいな能力か?
あ、でもあれは場所を見通すのであって過去とかは見通せないか。
となると、そういう邪眼系の能力か?
うーむ、実に厨二臭い。
「わざわざオレに有利な指定料理を選んでそっちは大丈夫なのかい?」
「問題ない。この程度の塩、むしろまとめて送ってやろう」
そこから感じ取れるのは自身の料理への圧倒的自信。
曲がりなりにもあの母さんが大将として選んだ人物だ。おそらくただの痛い厨二病娘というわけではないのだろう。
「では、次の最終戦の対決は三日後。双方ともに準備を整えるよう」
オレ達の挨拶が終わるのを見計らってかグルメマスターがそう宣言する。
それに頷くようにヘルと名乗った厨二娘が立ち去る。
だが、その寸前、わずかにこちらを振り向いたその紅い瞳がまるでオレを捕らえて逃がさないかのように紅い殺意が宿っていたのを見た。
「しかしニホン料理、ですか。私も師匠から聞いたことがある程度ですが、あまり詳しくは知りません。このような辺境の地にしか伝わっていない料理を指定するとは、向こうも侮れませんね」
「いや、心配しなくてもいいぜ、フィティス。日本料理ならオレの十八番だ。なぜならオレはそこの出身……みたいなものだからな」
「! そうだったのですか! さすがはキョウ様! あの辺境の地出身とは素晴らしいです!」
三日後の準備に備えてオレ達というよりもオレは一旦、自分の庭へと戻ってきてあれから新しく建ててもらった新居に移動している。
ちなみにこの新居、全部木作りの二階建てで、昔ファンタジーとかで妄想していた家のイメージそのものだ。
あー、ファンタジー世界の家最高ー。
「まあ、とは言え油断しないこった。あのお嬢ちゃんが自分からその日本料理を指定してきたってことはよほどの自信があるってことだろうし。なによりあっちにはお前の母さんがいることを忘れるなよ」
その親父からの忠告は無論、言われるまでもなかった。
向こうに母さんがいる以上、あちら側が出してくる料理は現代日本の料理そのものであろう。
地球上で最も繊細な舌先を持つ人種こそが日本人であり、その彼らの作る料理もまた実は世界で一番と呼べるほど旨いと言われている。
その技術を余さずそのまま持っている母さんから日本料理を受け継いだであろう対戦相手。
ならば油断はできない。こちらも最高の食材と、そしてその食材を活かせられる最高の日本料理を作るしかない。
「んじゃま、とりあえず行くか」
「行く、と言うとどちらへですか?」
そう言って立ち上がったオレに対して疑問の声をあげるフィティスにオレは答える。
「決まってるだろう。オレがやれることは魔物の栽培。なら、やることといえばひとつ」
外に飛び出し、この数ヶ月。旅を行いながらもその旅先で得た種や、捕らえた魔物、さらには落ちてはぐれた卵の数々などをオレのこの庭で育て、そこには以前とは比べ物にならない多種多様な魔物達が栽培、放牧されていた。
「魔物の収穫だ!」
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