第37話「人の数だけカレーがある」

「馬鹿者! カレーには玉ネギンは必要不可欠! 必ず狐色まで焦がすんだ! 焦げた玉ネギンが無数のスパイスと溶け合うことによりその味はさらに濃厚になる!」


「水の配分を間違えるでない! 水を多めに入れ過ぎればサラサラになりせっかくの味が薄れてしまう!」


「じゃが岩? 確かにカレーと言えばじゃが岩だが、儂はそうは思わない。というのもあれを入れることで逆にカレーの旨みがボケてしまうからだ。カレーだからといって定番な素材全てがいいとは限らないぞ」


深い。深すぎる。カレーの世界深すぎ。

そしてこの人、教えることに関してはマジで一切の妥協がねぇ。

すでに五十個近くカレーを作ってるがその全てにダメ出しされてる。つらひ。


「ですが、食材の皮むきや包丁さばきなどはかなり上達されています。さすがです、キョウ様」


「それに関してはフィティスのおかげだよ、サンキューな」


だが、問題は主食のカレーだ。


「まあ、いまのところは及第点といったところか。残り三日あるから、それまでに儂がつきっきりで指導すれば、それなりのカレーに仕上がるじゃろう。ただし、ただのカレーではのシンのやつには勝てまい」


「それなんですけど、ちょっとアイデアがひらめきました」


「ほお、なんじゃ?」


「アイデア、なんですかキョウ様」


オレの提案に目を光らせるカサリナさんとフィティス。


「一回戦の時にあのグルメマスターさんが言ってたんだが、この大会は単純な旨さを競うものじゃないんだろう?」


「うむ。ここでは食の開拓が第一とされておる。というのも、そうして我々が新たな料理、調理法を作り出すことで世界の進化を促すとか、誰かが言っておったな」


「それなんですけど、ちょっと飛躍した考えですが、ようはこれまでにない新しいカレー料理を出せばいいんじゃないんですかね?」


「簡単に言いますがキョウ様。カレーが発足してからそんなに年月は経っておりません。そんな中で新しいカレーのアイデアなど……」


「いやー、実はオレいくつか心当たりがあるんだけど」


「マジか!?」


オレのあっけらかんとした口調に思わず食いつくカサリナさん。

ちょ、近いです。


「そ、それは是非に気になるぞ……ど、どのようなものだ……?」


「その前に……このカレーのスパイスですけど、これも勿論魔物から採ったやつなんですよね?」


「うむ。当然じゃ。そちらはスパイシーロックと呼ばれる魔物から採ったもの。そちらはピリグラ草の種。そっちはルールーフラワーから取れた実で……」


「ちょっとこの種から生まれるその魔物達を今からここで栽培したいと思います」


「い、今からですか!? ですがキョウ様、残り時間は三日……」


「三日あれば十分だ。絶対にそれまでこいつらを成熟させて、そこから採った新鮮な実や種を調理に使う」


自信満々で宣言するオレに対し、フィティスもカサリナさんも驚いた表情をするが、すぐさまその顔に笑みを浮かべる。


「面白い。ならば、キョウよ。お主のその栽培、儂も協力しよう。すぐ近くに儂が保有する土地がある。そこで早速栽培するがよい」


「はい! ありがとうございます。カサリナさん」


「キョウ様! 私も手伝いますわ!」


「おう。ありがとうな、フィティス。それじゃあ、早速始めようか。これまでで一番の最速の魔物栽培を!」









「ほおー、こりゃまた見事な魔物達じゃ」


それから三日。なんとかギリギリの日数でオレが植えた魔物の種から成長した魔物達から種や実、あるいは枝や葉など、それらを採取し、それらをそのまま、あるいは加工することでスパイスへと仕上げた。


「~~~! 素晴らしい香りですわ! キョウ様! ここまで香りが立つ魔物の実や種は初めてです! やはりキョウ様が栽培することでその魔物が持つ本来の力、いえ旨みが120%引き出されています!」


そう言ってフィティスはオレが作ったカレーの匂いを嗅いだ絶賛する。

確かにオレも先日、作ったカレーとは比べ物にならない濃厚さをこのルーから感じる。

試しに一味食べてみるが……おおおおお!! これはオレが今まで作ってきた中で傑作だ!!

カサリナさんの指導もあり、オレのカレー作りの腕も上がったこともプラスだ。

これなら、ひょっとして……。

そう思うオレであったが、やはりカサリナさんは僅かに顔を曇らせる。


「確かに味や素材は比べ物にならないほど旨くなった。相手が儂ならこれで勝てるじゃろうが、相手はあのシンじゃ。やはり、これだけでは……」


「なら、それを補うのがオレの知恵、小細工です」


そう言ってオレはあるものを手に握る。

それを見た二人はその頭に「?」を浮かべる。


「キョウ様。それはなんですか?」


「ああ、これか。これは……このカレーに使う」


「え……」


「ななななななんだとー!? お、お主、正気かー!!?」


オレの宣言にカサリナさんだけでなく、フィティスまでヒクヒクと唇や眉を動かし引いている。

あ、やっぱりそうだよね。

でも、実はこれには自信がある。

まあ、ぶっつけ本番になるが、確実によくなるはずだ。


ただ問題はあのシンがどのような料理を出すか……。

奴がカレーを作ったというのなら、それに更なるアレンジをして、新たなカレーを出してきたらこっちに勝機はない。

奴が油断して、去年と同じような料理を出してくれば分からないが……さすがにそんな甘くはないか。

そう思いながら、オレは次なる準決勝の日を迎える。

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