第23話「雑草を育てよう」

「アンタ、魔物を栽培するのはいいけど雑草まで栽培するのはさすがに行き過ぎじゃない?」


現在オレが育てている魔物を見て言ったリリィの一言がこれである。

だが、彼女が言っていることは紛れもない真実。

なぜならオレが今育てているのは初心者冒険者でも狩れる雑魚中の雑魚。いわゆるこの世界におけるスライム的なモンスター、ウィードリーフと呼ばれる雑草魔物である。

ちなみにオレでも倒せるくらいの雑草っぷりだ。

これにはさすがのグルメ勇者も困惑。なのだが。


「いえ、キョウ様にはなにか深いお考えがあるのかもしれません。さすがはキョウ様です!」


といつものようにまだ成果も出てないのにヨイショしてきた。

最近思うんだが、こいつってもしかして「さすおに」キャラなのか?


「で、本当のところなんでこんなのを育ててるの?」


「まあ、ちょっと欲しいものがあってな。それをこいつで作ろうかと思って」


「こいつで? 言っておくけどこいつ食べられないわよ」


それについてはオレも知っている。なにしろ見た目がまんま雑草の塊のような魔物だ。

ぶっちゃけただの草なんで煮ても焼いても食えない。だが。


「まあ、こいつにはこいつの使い道があるんだよ。ここ最近異世界暮らしが長くて口に入れてないやつがあってな。やっぱ日本人にとってあれがないと寂しいのよ」


とオレの言ってることにますます疑問符を浮かべるリリィ。

とは言え、さすがにちょっと育てすぎたかな?

すでに庭のあっちこっちに雑草の塊のような魔物がうじゃうじゃ湧いてほかの魔物ゾーンに侵食している。


「まあ、別にいいけどあんま増えすぎて街に迷惑かけないようにしなさいよ」


「へーい」


リリィのその忠告にオレは適当に返事をした。

後日、まさかそれが本当の忠告となってオレにのしかかってくるとも知らずに。






「え?」


「ですから、魔物。さすがに増えすぎですよ?」


そう言ってオレの目の前にはニコニコと腹黒い笑顔の領主様がいた。

後日、突然オレの家にやってきた兵士に連れられてオレはあっという間に領主の前に。

で、領主様が言うにはさすがに雑草が増えすぎて、いくらか街に降りて普通に街中を歩いていたそうな。

やべえ、あいつらそこまで成長早いのかよ。さすがは雑草。繁殖力っぱねぇ。


「これまであなたの魔物栽培についてはこちらもそれなりの食材流通という名の利益が起こっていたので見逃していたのですが、さすがに雑草はないですねー。何の役にも立てませんし、食えませんし」


おそらく後半が本音なのだろう。

ま、まあ確かにあんな雑草食えもしないし使えもしないから、普通に考えたら害悪だよな。


「キョウさん。私がその気になれば君をこの街から追い出すことも簡単なんですよ。なにを言いたいかはわかりますよね? いますぐ雑草を育てるのはやめてもらえますよね?」


怖い! この人怖い! ストレートに脅しに来た!


「い、いや! 待ってください! あれ実は雑草に見えて使い道があるんです! もうちょっとだけ成果が出るまで待ってくれませんか!」


「……ほう、あの雑草に使い道があると。確かに君は以前平凡なはずのキラープラントを高級食材にまで高める農法を編み出しましたね。それを考えれば」


とオレのその発言に興味深く頷き、なにやら考え込む領主。


「いいでしょう。ただし、あなたの言うその成果とやら私に直接見せてください。それが私を満足させるものであれば栽培を認めましょう。ただし」


満足いかなかったら。わかりますよね? と言わんばかりの黒い笑み。

やだ、この人やっぱ怖い。






「キョウ様、それはなにをしているのですか?」


「ああ、食べられないこいつであるものを作ってんだよ」


オレは育ったウィードリーフの髪の毛、いわゆる雑草部分をあらかた抜いてそれをお湯で蒸熱させている。

く、くそ、なんでこんなことに。オレはただ安穏な日々にひと時の温もりを作ろうとしていただけなのに。

ともかく、この後いくつかの処理を行えば目論見通りのものは完成するはずだ。たぶん。






「これは?」


目の前に差し出されたそれを見て領主は怪訝そうな顔をする。

まあ、それはそうだろう。なにしろ初めて見る色の水なんだからな。最初は毒かなにかかと警戒された。


「どうぞお召し上りを。言っておきますけど毒じゃありませんよ。なんだったらオレが先に飲みましょうか」


そう言って促しオレの分も注がれたそれを飲み。

それを見た領主もようやく納得したのかそれを口に運ぶ。


「……これは! ただのお湯のはずが口に運んだ瞬間、得も言えぬ渋みと香ばしさ。ですがそれが全く不快ではなく、むしろ味のある水として美味しさを感じる! この味のあるお湯は一体なんですか?!」


「お茶です」


とオレは断言。

そう、オレが作りたかったのはお茶だ。

雑草と言われたウィードリーフ。あれを蒸熱、乾燥させ、出来た葉で出汁をとったもの。

まだまだ荒削りでかろうじて味のあるお湯程度だが、途中の経過を改良すればもっとよくなる自信はある。今度時間のある時に色々改良してみるか。


「素晴らしいな、キョウ君。さすがは我が街が誇る魔物栽培師です。今後ともぜひともこのお茶なる飲み物を私にも提供してください」


あれ、いつからオレこの街が誇る魔物栽培師って公認になってたの?

まあ、いいか。

とりあえず、これでお茶が作れるということはわかったし、今ちょうど豆科の魔物でジュエルビーンズというやつを育ててるので、こいつの栽培に成功したらあの調味料でも作ってみるかな。

前にテレビの特番で作り方に関して説明してたし、まんまは無理でも形くらいの再現ぐらいなら出来るでしょうー。

とそんなオレの深い考えもないこの発想が後に大きな成果に繋がることをまだ知らずにいた。

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