第75話「風雲急を告げる」
さて、まずは無事に魔王城での料理バトルはこちらの勝利で終わったが、それよりも先に問い詰めたい奴がいる。
「おい、親父。どういうことか説明してもらおうか」
オレの目の前にいるこのヘルって娘についてちょっと詳しく説明してもらおうじゃないか。
「なんだお前、気づいてなかったの? オレはてっきり気づいてるものかと思ったんだが。あー、まあいいや、その子はヘル。正真正銘オレと母さんの子で紛れもないお前の実の妹だ」
おいいいいいいいいいいいいい!!!!
このクソ親父なんでそういうとんでも真実をこれまで伏せていきなりここでぶっちゃけた!!
ってことはちょっと待て。
「母さんも知ってて黙ってたのか?!」
オレの慌てるような問いかけにいつものニコニコした笑みを浮かべながら頷く。
「ええ、そりゃもちろん。ただキョウちゃんの方は昔にヘルちゃんと会ったのを忘れていたみたいだから教えてあげようかと思ったんだけど、ヘルちゃんがヘソを曲げて「教えなくていい!」って駄々こねるものだから言いそびれちゃって」
「は、母上! そ、その件は内密にとあれほど……!」
母さんのぶっちゃけトークに慌てふためくヘル。
というかオレの周りの重要人物ってなんで皆こういう重大なことを平気でぶっちゃけるのかなー、あの女神さま然り、オレの両親然り。
「ってちょっと待ってくれ。じゃあ、ヘルはこっちの生まれってことなのか?」
「そうね。あなたが父さんのいる地球で生まれ育ったのとは逆に、その子は私のいるこの世界で生まれて魔王の娘として育ててきたわ。あなたのところに遊びに行かせたのは兄がいると教えたらどうしても会いたいって言って聞かなかったからよ」
「そ、そうなのか……けどなんでそのときは親戚の子って言ったの?」
「そりゃお前、家庭の事情で色々混乱させるのも面倒だったからな。実はお前には妹がいて、そいつは異世界育ちだが今度遊びに来るとかわけわからんだろう?」
そりゃそうだが、親父アンタの場合100%説明するのが面倒だっただけだろう。
「……それでお兄ちゃん、アタシのこと思い出してくれたのならひとつお願いがあるんだけど」
「お、お願い? な、なんだ?」
見るとそこにはこちらを恨めしげに睨みつけながらも、どこか拗ねてるように頬を膨らませていた妹の顔があった。
「アタシのこと今まで忘れていた罰にこれからはお兄ちゃんと一緒に居たいんだけどいいよね? 拒否権はないからね」
「ああ、まあ、そういうことなら全然いいぜ。確かに約束忘れていたオレの方が悪いしな。っていうかお前普段のあの厨二口調って実はキャラ作ってただけだったのか?」
「!! そ、そんなことはないぞ! 我はいつでも高貴なる魔王の娘として相応しい口調を心がけている。くっくっく、では兄上よ、これまで会えなかった分を含めて汝の体に我という存在を二度と忘れられないよう傷跡をつけてやるから、そのつもりで覚悟するがいい!」
そう言って早速オレの腕に自分の腕を絡ませるが、自分からそうした積極的な行動に出るのは初めてだったのだろうか。その途端、顔を真っ赤に紅葉させ、体はピクリとも動かず硬直したまま明らかに緊張してる様子だった。
まあ、小さい頃はオレの後ろに引っ付いていた気の弱い子だったもんな。
そういう本質的な部分は変わらないのかもしれない。
そんな懐かしい光景をどこか微笑ましく見ていると、なんか背後からものすごい勢いでこっちを睨んでる視線を感じるんだが。
主にフィティスとドラちゃんから。
「まあ、いずれにしてもこれで勝負は我々の勝利だな。今後我がヴァルキリア領への侵攻は停止してもらえるのだな、魔王殿」
勝負に決着がつき、ひと段落したのを見計らってアマネスがそう魔王に話しかける。
それに対して魔王であるオレの母さんは仕方がないとばかりにため息を吐いて首を縦に振る。
「ええ、約束は約束よ。今後そちらへの侵攻は致しませんわ。ただしそちらが我が領内に侵攻して来た場合は迎撃処置は取らせてもらいますからね」
「構わん。というよりも我々がそのような侵攻などするわけがなかろう」
「よく言いますわ。そちらが先に我が領内への攻撃を行ったくせに」
「なにを言う! していないと言っているだろう!」
ん? なんか微妙に会話が噛み合ってないような。
「なあ、母さん。今更なんだが、もしも母さんが勝った場合はこちらに対してどんな要求をする予定だったんだ?」
それは今となっては意味のない問いかけであったが、オレはそこにこそ今回の争いの原因。魔王側とヴァルキリア側とが戦うきっかけが隠れているのではないかと思い、そう問いかけた。すると
「決まっているわ。我が盟友にして同じSSランク魔物にして地上の守護者ベヒモスの解放を要求するつもりだったのよ」
ん?
「なにをたわけたことを言っている。我々がそんな魔物なんか捕らえているわけがないだろう」
「そちらこそとぼけるのはおやめなさい。我が領内への隠れた侵攻、およびベヒモスが連れさらわれた情報は確かに確認されているのよ。そちらの国旗を掲げた兵士達が何度も我が領内に進行してきたのを確認して……」
「だからしていないと何度も言っているだろう!」
ちょっと待て。これはおかしい。明らかにおかしい。
アマネスの気迫は明らかに冤罪をかけられた人物が起こす怒りの感情だ。
だが、一方のオレの母である魔王も嘘を言ってるようには見えない。むしろその感情は自分の領土を侵攻されたことへの真実の怒り。
となるとここから導き出される答えは二つしかない。
どちらかが嘘を言っているか。あるいは、この両者を潰し合わせようとしている黒幕がいる。
「ちょっと待ってくれ、アマネスそれに母さん。いくつか聞きたいことがある」
オレは未だに口争いをしている両者の間に割り込み確認をするように問いかける。
「母さんもアマネスもどちらも嘘は言っていないんだよな?」
「当然だ。私が自らの国を危険にさらしてこの魔王領に喧嘩を売る意味などない」
「私も同じよ。そちらが侵攻してこない限り、無意味な侵攻や報復も致しませんわ」
二人の表情を確認するがどちらも間違いなく真実を言っている表情であった。
「……わかった。なら考えられる原因は一つしかないんじゃないのか?」
一拍置いてオレは告げる。
「二人を争わせることで得をする人物がいる。そいつの謀略によって二人が争い疲弊するのが狙いだとしたら?」
オレのその言葉に魔王よりも先にアマネスの方が気づく。
そう、今回の魔王領とヴァルキリア王国との戦い。それによって明らかに漁夫の利を狙おうと行動をしていた国があった。
もしも今回のこの争い自体が最初からそいつの狙い通りだったとするなら。
その瞬間、アマネスが持つ通信水晶が輝き出す。
それは遠くに居る人物と会話が行えるという、まあファンタジー世界のお約束の品の一つだ。
アマネスはすぐさまその通信水晶を取り出すと、水晶の向こうから見覚えのある兵士の顔が映り込む。
「どうした? なにがあった?」
アマネスの問いに、しかし兵士は明らかにうろたえた様子で息も絶え絶えの様子で先ほど起こったであろう事実の報告を行う。
「アマネス様、申し訳ございません……! 我が軍を率いて奮闘しておりました“獣人勇者”リリィ様が先ほど敵軍アルブルス帝国の勇者の手によって捕らえられました!」
それは今まさにオレ達がことの元凶だと疑っていた黒幕の存在であり、信じがたい仲間の敗北であった。
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