第43話「栽培勇者」

「よろしかったのですか、グルメマスター」


「なにがかね?」


「あのキョウという人物です。あの料理、確かに全体としての旨さはケイジという人物の方が上でしたが、彼の料理にはそれを超えるなにかがあった。なによりもグルメマスターは彼のことをいたく気に入っていたではないですか」


「だからこそ、だ」


「ほう、というと?」


「あの者は伸びる。それこそ料理だけでなく魔物の栽培、それ以上の変革をやがてこの世界にもたらすだろう。だが、そのためにはいくつかの障害を超える必要もある。それにぶつかった時、あの者がどう成長するか、それによって道は大きく変わろう」


「なるほど。彼の成長を促すためにあえて敗北を与えたということですか」


「無論、あの時点では確かにケイジとやらの料理の方が上であったことは認めよう。だが、私が真の意味で票を入れたとするならば、それはあのヒムロ=キョウジという男の方であったと覚えておくがいい」







「決勝戦、負けちゃったんだってねー」


「面目ないっす……」


深海の底。海の大空を眺めながら、オレは隣りで同じく寝っ転がってる女神のモーちゃんにそう謝る。

こう見えてあとからダメージが来て凹んだりもして、なによりモーちゃんとの約束を守れなかったことに本当に申し訳ないと思っている。


「いやいや、別に気にしなくていいよー。何も一日二日で種を集めろなんて言ってるわけじゃないし、ゆっくりやっていいんだよー」


そう、あの大料理大会の決勝にて優勝者に与えられる世界樹の種。

それはオレの親父の手に渡り、一つ目の回収に失敗してしまったのだ。


「なんだったら、そのお父さんの寝込みを襲って奪うのもありだよー」


「……あなた女神のくせに物騒なこと言うんですね」


「あははー、よく言われるかもー」


ちなみに周りではドリちゃんとロックが追いかけっこしてバタバタ動き回ってる。


「そういえば気になってたんですけど、親父がいるってことはほかにもこの世界に転移者だとか転生者だとかいるんですか?」


「うん、いるよー。過去にもそういうのが何人かいたねー」


マジかー。

ってことはいつかそいつらともなにかしらのフラグがあるのかなー。


「まあ、それは置いといてー、はいこれー」


「? なんすかこれ?」


急に女神様に渡されたのはなにかの紙、そこにはこう書かれていた。

栽培勇者キョウ、と。


…………。


え?


「なんですかこれええええええええ?!!」


「見ての通り、勇者証明証」


「いやいやいや、そりゃ見ればわかりますけど、栽培勇者ってなんですか?! この世界って勇者って証明書いるんですか?! ってか前々から思ってたんですが、この世界ってなんであんなに勇者がたくさんいるんですか?!」



「いやまあ、勇者っていうのは、この世界におけるある一定の活躍を得た者に送られる総称みたいなものだから」


どゆこと?


「わかりやすく言うと『世界に対して貢献したか』どうか、それが勇者の称号を得る判断基準。それは戦いだけじゃなく、文化や文明の革新を行ったり、あるいは進化を促したり。世界への貢献なんてそれこそ色んな種類があるでしょう? 君の世界にもそうした戦うだけじゃなく、世界の進化を促した英雄とかたくさんいるんじゃない?」


確かに言われてみればそうだ。

そうした人々は偉人、あるいは文化英雄と呼ばれている。

人々に火を贈ったプロメテウスから始まり、人々の暮らしに電気を与えたニコラ・テスラ。

それにエジソンやナポレオン、リンカーン、それこそ数え切れないほどの英雄や偉人達の活躍のおかげでオレのいた地球の文化は進んだ。


確かに彼らのそうした活躍は世界を救う『勇者』という単語に当てはめても遜色ない。

つまりこの世界では『勇者』とはそうした偉人や文化英雄、あるいは発明家など、そうした全てを含んだ総称の意味でもあったのか。


「なるほど……だからこの世界って色んな勇者がいたんですね」


「そゆこと。彼らの称号はそうした、どんな風に世界に貢献したかを表している」


そう考えるとフィティスが持つ『グルメ勇者』という称号は、料理における革新的技術を見せたから与えられたものであり、カサリナさんなどの『賢人勇者』はその名の通り、様々な知識的な技術を広めたからか。

最初聞いた時は「変な称号だなー」と思ったが、ちゃんと意味があったのね。


「それじゃあ、こうした勇者の称号って女神様がひとりひとりに送ってるんですか?」


「んー、いや、そんなこともないよ。普通、勇者ってのは、国によって任命される称号だからね。僕が与えるのはそうした勇者連中の中でも特に活躍をなした大勇者の称号くらいだから」


「そういえば前にも言っていたその大勇者っていうのは一体なんなんですか?」


「世界に貢献をなした『勇者』、その中でも特に素晴らしい活躍あるいは歴史的な偉業、貢献をなした人物に贈る称号だよ。そうした人物を僕見つけた際に、セマルちゃんを迎えによこして、僕のところまで案内してから大勇者の称号を与えるの。だから、人々の間ではシームルグ、というかセマルちゃんは選ばれた勇者を迎える神の使いとして崇められているんだ」


なるほど。前にリリィがセマルグルさんを見て、驚いた表情をしていたのはそのためか。


「ちなみに現在、この『大勇者』の称号を持つ人物は七人存在。だから、人々は彼らのことを『七大勇者』って呼んでるね」


「なるほどー。で、確か、その大勇者になった連中には世界樹の実を与えて、なにかしらの『創生スキル』を与えるんでしたっけ?」


「そうそう、よく覚えてるねー。だから、彼らは実力や実績のみならず、他の人物では持ち得ない特殊な神様のスキルも持っているから、事実上この世界における最強戦力に位置するね。ちなみにそのうちのひとり“戦勇者”の異名を持つ大勇者が、ヴァルキリア王国の女帝が世界樹の種を持った人物だね」


「へえー、ってぶはっ!」


またこの女神様ぶっちゃけてるよ! というか会うたびとんでもない発言しかしないなー!


「というわけで次にその国に行く際、面倒な手続きを済ませられるよう、セマルちゃんに依頼して君の勇者証明証を国に作ってもらいましたー!」


「はあ、ってことはこれでオレも正式な勇者の仲間入りですか」


たぶん戦力的にはレベル1だろうけど。本当にいいのかな?


「あ、一応言っておくと、君のこれまでの実績や大会での評価をもとに、ちゃんと国の方でも納得して証明書作ってくれたから安心していいよー。言ったように戦績だけじゃなく色んな実績でも評価されるから、君のように実力は低くても勇者として称された人物も少なくないから胸張っていいよー! なによりあの大料理大会で準優勝したんだよ! それってもう勇者の称号を得るには十分な活躍だよ♪」


なるほど。ちゃんとオレの実力も評価されたってことか。

なら、気負う必要もあんまないかな。

オレは「よっ」と掛け声をして、立ち上がる。


「それじゃあまあ、この証明書はありがたく受け取っておきますよ」


「うん、まあ君の名前や二つ名とか世界各地に登録されているから、称号名乗れば大抵の所はフリーパスだと思っていいよー」


「ああ、それで思い出しました。栽培勇者って……せめてほかになんかなかったんですか?」


「え、なんで? いい名前じゃん」


ひょっとしてこの世界の勇者の二つ名って全部この人が決めてるんじゃないのかと不安になってきた。


「それじゃあ、キョウ君。次のイベントも頑張ってねー!」

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