第118話「スイカの原産地は砂漠ってマジ?」

「さて、着いたぜ。ここが目的地だ」


 翌日。準備を整えたオレとフィティスとドラちゃんが、オヤジの手を握った瞬間、風景が変わり、次に見えたのは一面砂漠の景色であった。


「ここは……どこだよ? オヤジ」


 一瞬戻ってきたのかとも思ったがそうでもない。

 周りの風景を見るに、ここは地球のどこかの砂漠のようだ。


「カラハリ砂漠ってところだ。で、お前に見せたいものってのはこっちだ、着いてきな」


 そう言ってオレ達の前を歩くオヤジのあとをとりあえず着いていく。

 やがて、しばらく先にゴテゴテとした乾燥地帯が広がり、その地面より無数の蔓と葉が生えた何かの植物が自生しており、その蔓の先には緑色のボールのようなものが実っていた。


「オヤジ、これは?」


「カラハリスイカってやつだ聞いたことないか?」


 オヤジのその口から出た植物の名前にオレは思わず首を横に振る。

 スイカの単語が付いてるってことは……これスイカなのか? とかそんなことを思っていると、オヤジが説明をしてくれる。


「こいつは砂漠で自生するスイカだ。形は少し違うけど、普段オレ達が食べているスイカの原産って言われてるんだぜ」


 マジで?! けど砂漠でスイカってどういうことだ?


「元々スイカってのはこうした過酷な環境で生き抜くために生まれた野菜の一種だ。砂漠でどうして植物や野菜が育たないと思う? 水が溜まりにくい環境のほかにもう一つ、常に太陽光線に晒されることで夏枯れの症状が発生してしまうからだ」


 オヤジのその言葉にオレは頷く。

 確かに、砂漠で作物を育てようとしたら水以外にもあの太陽の暑さが障害となる。

 それは異世界でも同じであり、砂漠という環境だと太陽の光がほかよりも強く当てられていた。


「まあ、そこでこいつらはそうした太陽光線に負けない葉と水の少ない地でも、より多くの水分を得るための長い根を持つようになったんだ。で、肝心の中身はこんな感じだな」


 そう言ってオヤジが足元に転がるカラハリスイカの一つを手に取り、バッグから取り出した包丁でそれを真っ二つにする。

 すると、そこに現れたのはオレ達が知る赤い果肉ではなく、黄緑色の果肉であった。


「ちょっと食べてみな」


 そう催促するオヤジにオレとフィティスがそれぞれ半分に切れたカラハリスイカにかじりつくが……苦っ! なんだこれ?! 全然甘くないぞ!! 本当にオレが知ってるスイカかよ、こいつ!! しかも美味しくねぇ!!

 思わず吐き出すオレとフィティスを見ながら、オヤジが愉快そうに笑う。

 このオヤジ……知ってて食わせたな。


「ははっ、予想通りの反応だなー。けどまあ、これでわかったとは思うが、そいつはお世辞にも美味くはない。けどな、この砂漠じゃそいつは砂漠の水がめってほどに重宝されているんだぜ」


 そう言われてもう一度、手に持つスイカの果肉を見つめる。

 うーむ、確かに見た目だけなら、なんか瑞々しいし、水分豊富そうなイメージはあるなぁ。


「砂漠ではどんな食物だろうと貴重な食材だ。まして、そいつは収穫してから2、3年経っても腐ることがないんだぜ」


 マジで?! そいつはすげーや……。


「つまりは環境に適応した食物ってのは必ずあるものなんだ。その代償として味の質が落ちるとしても、適応力や保存性は高まる。けど、もしも味の質を落とすこなく、こうした適応力や保存性を高めることができれば――完璧だろう?」


 言ってオヤジは手に持ったカラハリスイカを手で叩き、心地よい音がこの場に響く。


 なるほど。しかし、まさかスイカとは。

 それは想像すらできなかった。

 確かに水分があれほど詰まった野菜なら、砂漠という過酷な環境下にあってはまさに宝のような食材だ。


 オレ達が食べていたスイカはこのカラハリスイカを品種改良して生まれたものなんだろう。

 その過程として、本来存在した砂漠などにおける劣悪な環境での自生能力が失せていった。

 だが、もしもそれを保有したまま、味の方もオレが知るスイカに近づけさせれば、かなりの画期的な食材になるはず。


 ということは、ここにあるカラハリスイカの種や日本に売ってあるスイカの種を買ってくるべきか?

 いや、あるいは向こうの世界でスイカの属性に似た魔物を見つけて、そいつを品種改良して、砂漠で自生するスイカに育てていくべきか。


「アホ」


 そんな風にオレが悩んでいると、オヤジがオレの額にチョップをかます。


「って、なにすんだよオヤジ!! つーか誰がアホじゃ!!」


 思わずツッコミを入れるが、そんなオレに対して、しかしオヤジはため息をつきながら返す。


「あのな、お前が持つ最大の長所はなんだ? そいつはどう考えても魔物を栽培する能力だろう? それなのにわざわざ地球のスイカをそのまま育てようとか、あっちにいる魔物をスイカに変化させようとか、そいつはどう考えてもお前の持ち味を殺す行為だろう。なによりも、ただ魔物を野菜に変化させるだけならオレのやってることと何も変わらねーぞ」


 そう言うオヤジに、オレは確かにと頷いてしまう。


「いいか、キョウ。お前の持ち味はどう考えても魔物を栽培する能力だ。そして、お前はそこからさらに魔物を進化、変化させることが出来る。それは誰にも真似できない行為だ。だからこそ、既存の真似事をする必要はない。お前にしか生み出せないものを作れ、もっと言うなら――作っちまえよ、お前だけの『新種の魔物』を」


 オヤジのその答えにオレは思わず胸の内がざわつく感覚が訪れた。


 そうか。オヤジが見せたこれはあくまでヒントに過ぎないんだ。

 なにもカラハリスイカそのものを栽培しろと言っていたんじゃないんだ。

 こうした適応力を持つ代表として、それを見せた。

 そして、こうした適応力と保存性を兼ねた魔物を作り出せと。それを言いたかったんだ。


 だが確かに、これは十分なヒントになった。

 このカラハリスイカの生態、過酷な砂漠でも生き抜くように成長した蔓に太陽光線を防ぐ厚い葉。

 そして、乾いた地面でも水を逃さないために細長く成長しているであろう根。

 様々な砂漠で自生するのに必要な要素をオレに教えてくれた。


 なら後は、そうした要素を持ち合わせる魔物を作ってみるだけだ。

 やり方はまだ分からないが、目標は出来た。

 チャレンジ出来る楽しみが出来ただけでも十分収穫だ。


「あと最後にこいつもヒントとしてお前にやるよ」


 そう言ってオヤジが投げてきたのは粘土で出来た団子であった。


「? オヤジ、なんだよこれ?」


「砂漠で作物を育てる最高の農法さ」


 問いかけるオレに、オヤジがそう意味ありげな笑みを浮かべて答えた。

 再びどういうことか詳しく聞こうとした瞬間、向こうから数人のおじさん達がなにか騒ぎながらこっちに近づいて来るのが見えた。

 気のせいか、なんか怒ってるような……。


「あっ、やべっ、やっぱ勝手にスイカ盗っちまったの、怒ってるよ」


 そう言って慌てるようにオレ達の手を握り、再び転移するオヤジ。

 というかオヤジ。なんとかくわかってはいたが、やっぱあれ勝手に盗ってたんかい!

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