第27話「魔物栽培していたら、とんでもないことになったらしい」
「いやいやいや、いきなり話飛びすぎですよ。オレにそんなことできるわけないでしょう?!」
「んー? そんなことないはずだけどなー。だって君、神様だけの能力『創生スキル』を持ってるでしょう?」
なんですかそれ。そんなものまるで身に覚えが……ん、いや、ちょっと待て?!
「もしかして今までの魔物栽培ってスキルだったの?!」
「ぴんぽんぴんぽーん! 大正解ー!」
うわ、なんて分かりづらい能力。っていうか、一応あったんだオレにも転移者特有のスキルとか。
「あれ、でもちょっと待ってくれ。じゃあ、この世界で魔物とか栽培するにはその創生スキルがないとできないのか?」
「んー、いやー、できないってことはないよー。ただそれがないと普通はそんなにうまくいかないよ。結構いろんな人に言われたことなかった? なんでそんなにたくさんいろんな魔物栽培できるのって」
言われてみればそんな記憶が。
なるほど、やたら栽培が順調に行っていたのにはやっぱ理由があったのか。
ということはちょっと待てよ。
「じゃあ、もしかしてオレも神様みたいに大地作ったり人間作ったりできるんですか?」
「あはははー、それはいくらなんでも無理だよー。そんなの第八階位以上の神になってようやくできる芸当だよー。君は神でもなんでもなく、ただ神が持ってるスキルを持ってるってだけだから、元となるものからそれを生み出すくらいがせいぜいだよー」
ですよねー。
っていうか神様にもランクとかあるんだ。
第八階位とか、えらくランクの数ありそうだな。
「で君にやってほしいのは種から世界を育てる。そういうことだよ」
「種?」
「あれを見てごらん」
そう言って女神が指したのは最初に見たあの世界樹だ。
「あそこに四つの果実がなってるのが見えるかな」
そう言って女神が指した場所を見ると確かに枝先に四つの果実がなってるのが見える。
「あれは生命の樹って言ってね。そこになっている果実には創生スキルと呼ばれる神様のスキルが詰まってるんだ」
「へえー、ってことはあの樹になってる果実を食べるとその創生スキルとやらが手に入るの?」
「そゆこと! けど、普通はあの樹になってる実を人間に与えることはできないんだよー。それこそ一定以上の成績と活躍を得た大勇者でないと」
大勇者? なにやら新しい単語が出てきたなー。
「で、現在、あの樹になっていた六つの果実はすでに種として地上にばらまかれているんだ。君にお願いしたいのはその六つの世界樹の種を見つけて、それを大樹として育てて欲しいんだ」
「ええと、すみません。とりあえず、いくつか質問していいですか?」
「うん、どうぞ」
「まずあの樹そのものについての説明を」
「生命の樹。この世界を支える大樹。で、そこに宿っていたのが十個の実。これには創生スキルと呼ばれる神様のスキルが詰まっている。残りの四つにもそれは詰まってるよ」
「それじゃあ、次に質問ですが、なんで果実が減ってるんです?」
「言ったように、いくつかは大勇者として選ばれた人物に渡したから。けど、他にも世界中に存在する遺跡の奥とかに果実を送ったから」
「なんでわざわざそんなことを?」
「大勇者と呼ばれる人物を育てるためだよー。その遺跡の奥までたどり着いたご褒美として果実を与えるっていう試練として設置したんだ」
なるほど。よくある高難易度のクエストをクリアした時に手に入るご褒美アイテムとして置いていたのか。
「けど、なんでオレなんですか? その大勇者とやらに果実を渡したのなら、その種はそいつらが育てたりはしないんですか?」
オレのその質問に対して女神様は「あははー」と困ったような笑みを浮かべる。
「いやー、確かにそうなんだけどねー。けど、現状の彼らだと世界樹の種を育てることができないみたいなんだー。いやー、僕も彼らなら世界樹を育ててくれるかなーと期待してたんだけど、やっぱ今ひとつ何かが足りないみたいでさー、あははー」
そう言って笑う女神様。
しかし次の瞬間、とんでもない爆弾発言が行われる。
「それにその内の一つが、魔王に奪われちゃってさ。それが一番困ってることなんだ」
「え? 奪われたんですか?!」
「うん、遺跡とかに配置してた果実の一つが魔王に拾われちゃってさー。いやー、困った困った」
おいいいいいいいいい!! なにやってんだよ女神様?!!
「ちょ、なにやってんですか?! 早く取り戻してくださいよ!」
「いやいやー、僕、戦闘能力のない女神様だよー。そんなことできるわけないじゃん」
あっけらかんと。
「そこで君にお願いしたいんだ。世界中に散らばった六つの世界樹の種を集めて、世界樹の樹として育ててくれなかな! いま、この世界で世界樹を育てられる人間は、魔物を栽培するスキルを持つ君以外いないんだ! お願い! この世界を救うつもりで頼めないかな」
そう言って豊満な胸をちらつかせながら、両手を合わせてお願いするモコシ様。
しかし、どうしたものか。
助けないよりは助けたほうがいい。
それはオレの信条の一つだ。
しかも、こうした女神様にお願いされているのだから、できることなら力になりたい。
しかし、その大勇者とやらはともかく、魔王から種を奪うとか、オレには到底できそうにない気がする。
それこそ勇者がやるべき役割だと思ってしまう。
「その、さっき言っていた大勇者とやらに魔王の退治をお願いしてもらうとかは出来ないんですか?」
「いやー、それがね。当代の魔王ってのがなかなか厄介でね。今の大勇者達でも勝てるかどうかって相手なんだー」
そんなにやばいのか。ってか、そんな相手にオレでどうしろと。
やっぱり、この女神様からのお願いには無理がある気がしてきた……。
「あああ! 待って待って! 話は最後まで聞いてよー! 君でならその魔王にも対抗できるんだってー!」
「は? なんでです?」
「いやだってね、その魔王ってのが…………ごにょごにょ」
…………。
…………は?
「ちょっと待って、それマジで言ってます?」
「マジマジ」
…………。
はあああああああああああ?!!!
おいいいいいいいいい!!!
どうなってんだよ、この異世界いいいいいい!!!
「というわけで君とも無関係じゃないだろうし、お願いできないかな?」
女神様からのお願いポーズに仕方ないとばかりにため息をつくオレ。
「……分かりました。その世界樹を育てることも、魔王との対峙もどうやら『オレにしかできない』みたいですし――引き受けます」
オレのそんな了承を得て、パァと喜ぶ女神様。
「わぁい! ありがとう、キョウ君! やっぱり君はこの世界の救世主だよー! そのロックちゃんを育てただけはあるねー!」
そう言って豊満な胸を押し付けながら抱きつくモーちゃんにオレは思わずタジタジになるが、そのセリフで思い出した。
「そ、そうだ、ここに来る前、言ってんですけど、ロックって何物なんです? もしかして、女神様がオレのところに落としたんですか?」
「うん、その通りだよ! 君が本当に魔物を育てるスキルを持っているか、その確認をするためにその子を君の家の前に置いたの。あと、ついでに言えば、その子ロック鳥じゃないよ」
え?
「その子はシームルグって呼ばれる伝説のSSランクの魔物なの。さらに言うなら、この僕、女神の守護者であるセマルグルの子供でもあるの」
そう言って女神様の隣に控えていたあの真っ白い男性を指差す。
指された男性、セマルグルは優しい微笑みを浮かべて、オレにお辞儀をする。
「って、ちょっと待ってください! あの人、魔物なんですか?! どう見たって人間でしょう?! それにSSランクの魔物って?!」
「まあ、それについて説明すると長くなるんだけど、SSランクの魔物は人に変化する人化の能力を持ってるんだよ。だから、セマルちゃんのあれも仮の姿だよ。本来の姿はあの生命の樹に乗っかれるくらいの神鳥だから」
はあ、マジですか。なんかとんでもない鳥を育てていたことに気づいてだんだん震えが止まらなくなってる。
当のロックはのんきにあくびしながら、ドラちゃんやジャック達と包まって寝始めてるし。
「それじゃあ、最後に改めてお願い。僕からの世界樹を育てるお願い、頼めるかな? ヒムロ=キョウジ君」
モーちゃんからのそのお願いに対し、オレは笑顔で答えた。
「もちろん、助けないよりは助けたい方がいいに決まってるから。その
スローライフに過ごしていたオレに訪れた異世界での初の大規模イベント。
せっかくの異世界転移なら、楽しまなければ損だ。
なにより、これは『オレにしかこなせないイベント』なのだから。
そうした意味も込めて、オレは女神様からのお願いを引き受けた。
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