PLAY41 ロスト・ペイン ③
ぼすんっと、隊長さんの手が――手だったそれが砂地に落ちた。
隊長さんはじっとそれを見て、そして切れてしまった手を見て、腕を見て……、叫びもしないでそれを見て……、一言。
「あ、斬れていた」
一言。
何かを落としてしまったかのような言葉を吐いた。
それを見ただけでも異常な光景だけど、それと同時に奇妙と言うか何というか……、突然その人が現れたのだ。
私達の前にしゃがみながら現れて、両手に黒い刀身のナイフを二本持って現れた……。
黒い長髪を一つに縛って、黒くて長い耳。白い長袖のワイシャツに黒い背広が長いベストと黒いズボン。黒い革製の靴を履いて、左手首に金色のハンドレッドをつけて、右手首に白いバングルをつけた――プレイヤーが現れたのだ。
それを見て、私達は驚きを隠せないままその人を見ていたけど……。
その人はすっと、その腕を見て首を傾げている隊長さんを見て、すぐに動いた。
だっと姿勢を低くして駆け出し、そのまま兵士達の足の間を縫ってくぐっていき、そのまま取り囲んでいる兵士達の中から出てきて、ざっと足を止めてその光景を見る。
その人は少し目が吊り上がっていて、目つきがひどいと言われるとそう見えるけど、そうでもないような、吊り上がった黒い目をして、左目のところには黒い刺青があった。
私と……、同じ年? そう頭の片隅で思いながら……、私はその人と、そして兵士達を見た。
兵士達はそのままその人を見て首を傾げていたけど、すぐに私達の方を見て、剣や盾、そして銃を構えながら――なくなった手を下ろして、反対の手を上げながら隊長さんは叫ぶ。
「行けぇっ! 奴らを処刑しろぉっ!」
『おおおおぉ!』
と、兵士達は駆け出そうとした。
私達はそれを見て、私以外のみんなは武器を構えようとした時……。
どさっ! どさっ! どさっ! どさっ! どさっ!どさっ! どさっ! どさっ! どさっ!
「あれ?」
「ん?」
「なんだ?」
「あぁ?」
と、誰もが、私達もそれを見て、驚きを隠せなかった。
簡単に言うと――兵士の人達は、隊長さんを除いて……、地面に倒れてしまったのだ。
円を描くように、一斉に倒れたのだ。
足のアキレス腱があるところから、斬られた痕から微量の血を流して……。
それを見て、一人の兵士が「あ? なんで斬れてんだ? いつからだ?」と、首を傾げながらそれを見て、呆けた声を出して、ぐっとその足を掴みながらその傷を凝視していた。
「斬られたことですら、気付かないの……? 本当に痛覚とかないのね……。恐怖でさえもないとか……、もうホラーよ……っ!」
そうシェーラちゃんは青ざめながら言うと……。
「ちぃっ!」と唸りながら、隊長さんはその黒髪の人を睨みながら……、思い出したかのようにこう言った。
「またか……っ! この反逆者めがっ!」
それを聞いてか、その黒髪の人は首をこてりと傾げながら、口元を三角形にして……。
「――でも、そっちが武器を構えたんじゃないの? ならお相子って言葉があるから、それでえっと……、ウィンウィン? じゃないな」
えっと……。と言いながらその人は、うんうん唸りながら言っていた。考えながら……、多分短気な人が聞くとイライラしてしまいそうな口調で……。
すると――
「こっち!」
「!」
声が聞こえた。小さい声で、女の人の声だ。
その声を聞いてそっと後ろを振り向くと、大きく傾いていた岩の背後に――白いペイントを塗っている、白髪の長髪に褐色の肌のインディア風の女の人と、その背後にいたオレンジの髪とは不釣り合いの黒いフード付きの砂地についてしまうくらい長い長いコート (厚地) を着ている男の人がそこにいた。
女の人は私達に向かって手招きをしながら「こっち! こっちっす!」と、小さな声で呼びかけていた。
それを見て、私はヘルナイトさんと、アキにぃ達に小さく声をかける。それを聞いて、みんなが私を見て、そしてちょいちょいと背後を指さす。
ヘルナイトさんや、アキにぃ達はその背後を見て――目を見開いてそれを見ていると……。
女の人は慌てながらちょいちょいと手招きをして、小さい声だけど叫んでいるような音色でこう言った。囁いて叫んでいた。
「早くこっちに来てほしいっす! はやく! はーやーくぅ! っすぅ!」
それを聞いて、ヘルナイトさんはアキにぃ達を見下ろして――
「行こう」と言った。
それを聞いてアキにぃはすぐに頷いて「そうだね」と言いながら……。
「あんな怖い輩とはあまり関わりたくないよっ! どう倒せばいいの変わらないし、それに殺したりしたら後味悪いし!」
と言いながら、走って行ってしまう。
それを見ながら、キョウヤさんは呆れながら「今まで何度も撃ちまくっているくせに……」と言って、シェーラちゃんも目を細めながら「あいつ、都合の悪い記憶を消去しているのかしら……」と言って、呆れながらだけど、アキにぃの後を走っていく。
もちろん、転んでいる兵士達を踏まないように。
それを見て、ヘルナイトさんは私を見下ろし――
「ハンナ。行くぞ」
「は、はい……」
と言ってきたので、私は頷いてきゅっとナヴィちゃんを優しく包み込むように抱きしめる。
ヘルナイトさんはそのままだっと駆け出して、タンッと飛び越えながらその場所に向かう。
そしてその岩の後ろに隠れて、私をそっと下した。
「けがはないか?」
ヘルナイトさんは凛とした音色で私を見て聞く。
それを見て聞いた私は、「は、はい」と、驚きながらも頷くと……。
「間一髪だったすよ」
女の人の声がした。
その方向を見ると、その人は活発な笑みを浮かべて「危なかったすね」と、にひっと言う声が聞こえそうな笑みを浮かべて言った。
それを聞いて、先に着いていたアキにぃはその女の人を見て――
「というか、あんた達……」
と言って、アキにぃはふとその人隊の右手首を見て聞くと、女の人は「あぁ」と気付いたような顔をして、その右手首を見て、その人の後ろにいた黒いコートを着ている人がいて、その人はそっとフードを取りながら、こう言った。
「そうですよ。ぼく等はこう見えても冒険者ですよ」
少したれ目で頬のそばかすが印象的な、ホワンッとした笑みが印象的な人が私達を見て笑顔でバングルを指さしながら言った。
それを見て、キョウヤさんは汗をかきながら「とりあえず――サンキューな。というかあんた達」と言いながら、キョウヤさんはちらりと、岩陰の向こうを見る。
私もその方向を見ると、隊長さんとさっき兵士のアキレス腱を切った男の子は、未だに戦っている。隊長さんは大剣のようなそれを持ってその子の胴体を真っ二つにしようと振って振って振るいまくっている。
でもそれを難なく避け……。
――てないっ!?
私はあれを見て言葉を失った。キョウヤさん、アキにぃ、シェーラちゃん、あのヘルナイトさんでさえも、それを見て絶句していた。
なぜかと言うと……。黒髪の男の子は避けているように見えて、隊長さんのその攻撃を受けていたのだ。
肩に切り傷ができ、頬を深く抉り、あろうことか脇腹を深くえぐった。
それを見て、砂地にばたたっと落ちる鮮血を見て――隊長さんはげらげら笑いながらこう叫ぶ。
「ふはははははっ! よくよく見れば、貴様かなりの素人だなっ! もしや冒険者は見習いと言う者なのかなっ!? ナイフさばきがあまりに拙いっ! そして動きも大きすぎる! 我々はバトラヴィア帝王の名のもとに、過酷な訓練と実績を残している! つまりは勝てないのだ。そしてお前はその命をここで散り、我々のために大きく貢献する権利を与えられるのだ」
「意味が分からない。でも勝つってことはわかるから、俺が、死なないし」
「そうかそうか……。…………小さい脳味噌で、私が言っている意味が分かるか? お前はここで抵抗もなく死ねば、国のためになるのだぞ? その意味が分かるか? んん?」
「わからない。質問します。どういうことですか? 先生」
「じゃぁお教えしようっ!」
冥途の土産になっ!
と、隊長さんは大剣を振る回しながら、その大剣から『ガコンッ』と言う音を出して、隊長さんはその大剣を空に掲げるようにして、こう叫んだ。狂気の笑みで――叫んだ。
「
叫ぶ声に連動してか、大剣に縦一文字の亀裂が入り、そのままゆっくりと左右に分かれると、その別れたところから黒い棒のようなものが出て、大剣の刀身がどんどんその黒い棒を追うように伸びていき、そのままとあるところで黒い棒を骨組みとして、刀身がその場所についた瞬間――じゃきりと出てきた大きな刃。
それは――シャイナちゃんが使っていた武器と同じ……。
鎌だった。
そんな大きな鎌を二本持って、隊長さん……。もう隊長でいいかもしれない……。
隊長はその二本の鎌を左右の手で持ちながら、黒髪の男の子に向けて――だっと駆け出して、その鎌を上下左右。そして縦横無尽に振り回しながらこう言った。
攻撃しながら、器用に話した。
「つまりだ! お前はまだ経験も実績もないまま、未練をだらだらと残して、王のために死んでいくと言っているのだっ! 偉大にして至高なる我が王――バトラヴィア帝王の貢物として! 貴様は王のために死んで、王のために行使するっ! 死とは偉大にしてありがたき行為であり、処刑は救済っ! 魔女狩りは慈悲でもある! 死とは王のために平和への一歩となり、そして国の糧となるっ! お前はその王のためにありがたい死を迎えるということだっ! アクアロイアの奴らは何かを企てていたらしいが、そんなもの――我が国の技術開発の者達が作った『
「――っ!」
それを聞いて、黒髪の男の子は避けているけど、どんどん服が破けて、切り傷を残して血を流す。
それを見て、私はスキルを発動させようとしたけど、その前に、その体調が言っていることに対して……、異常な憤りを感じた。もしゃもしゃで言うと、噴火寸前の赤いもしゃもしゃだ。
アキにぃ達を見ると、アキにぃ達も隊長の言葉を聞いて、苛立ちが顔に出ている。あの仲裁のキョウヤさんでさえ、槍を持って今にも出てきそうな空気だ。
それを見て、私は再度、戦いっているその風景を見て――思った。
死ぬことは、ダメなことだ。
貢物として、行使として死ぬんじゃない。
死はありがたいことではない。
処刑は救済じゃなくて……、残酷なものだ。
ヨミちゃんがいた国境の村を苦しめていた魔女狩りは慈悲ではない。あれは……、ただの虐殺だ。
帝王がどんな人なのか知らないけど……、それでも聞いてて私は思った。
胸の奥がずくずくと……熱くて苦くて、そして味わいたくないドロドロとして、粘り気のあるものを感じながら、体長の言葉を聞いて、私はぐっと下唇をかみしめながら、こう思った。
――ふざけないで。と……。
そう思い、そしてそっと手をかざしてスキルを使おうとした時――
「まってまって」
私の手首を掴んで、くいっと上に上げてきたオレンジ髪の人、その人は驚いて見上げている私を見下ろし、ホワンッとした笑みを浮かべながら、黒髪の男の子が戦っている光景を見てこう言った。
「確かに怒るのは当たり前ですけど、今は抑えて。今は――」
と言いながら、その人は黒髪の男の子を見て、にっと、挑発的な笑みを浮かべながらこう言った。
「ティズ君の戦いを見てて下さい」
「?」
それを聞いて、私は疑問に首を傾げながら、その黒髪の男の子――ティズ君を見る。そして……。
「あれ?」と、アキにぃは呆けた声を出しながら辺りを見回すと、それを聞いてキョウヤさんが「どうした?」と聞くと、アキにぃは首を傾げて――
「あの女の人――どこに行ったんだ?」
それと同時に――
ガゥイインッ!
と、金属音が聞こえた。
それを聞いて、私ははっとしながらその方向を見る。みんなも見ると――目を疑ってそれを見た。オレンジ髪の人だけは、それを見てにっと微笑んでいた。安心と、いつも通りと言う笑みだ。
私達が目を疑った光景――それは……。
「な、なにぃっ!?」
隊長がそれを見て驚きに声を上げた。
私達はそれを見て、言葉を失いながらもただ一言、この言葉が浮かんだ。
すごい。でも痛そうだ。
それだけが出た。
それもそうだろう――
ティズ君は手に持っていたナイフを逆手に持って、鎌の応酬を、手に持っていたナイフの柄と腹でしっかりと止めていたのだ。でも完全に止めていない。手から微量の血がどくどくと出ている。
それを見た隊長は「ぎゃはははっ!」と、壊れたかのように笑いながらティズ君を見てこう言う。こう嘲笑う。
「何をするのかと思えば、付け焼刃の防御かっ! 鎌とナイフでは歴然の差が生まれる! そんなことも知らないで冒険者をやったのか! 間抜けだ! その間抜けを浄化しよう!」
と言って、ずっと浅く刺さっていたそれを引き抜く隊長。
鎌から微量の血が垂れて、砂地を赤く染めていく。
隊長はそのまま、両手で万歳をするように振り上げてそのまま勢いをつけるように、一気に振り下ろす。
二本の鎌を持ったまま――振り下ろした!
「私の手でなぁっ!」
「っ! ああもぅ! 見てられないっ!」
もう我慢の限界だったシェーラちゃんが剣を持って前に出ようとした時、オレンジの人はシェーラちゃんに手を向けて、静止を掛ける。
それを見て、キョウヤさんは少し苛立った顔をして、ばすんっと尻尾を叩きつけながら「おい……、何して」と言ったけど、その人はその言葉を遮るように、こう言ったのだ。
「まぁまぁ――見ててください」
……この人は余裕の笑み……、ううん。今見て分かったけど、この人は常に笑顔で本当の顔を隠しているような顔をしている。つまり――顔を隠すことがうますぎるんだ。
その人は笑みを浮かべながら――「あの兵士の攻略法を」と言った。
それを聞いている間に、鎌はティズ君の顔面に向かって振り下ろされていたけど、それを見てティズ君は、避けることもしない。逃げることもしないで……、そのままナイフをもとの手の形に戻して、そのままぐんっと隊長の目元を突き刺すように突こうとした。
でもそれを見ても、隊長は避けようとしない。
それもそうだ。ヘルナイトさんが言っていた。恐怖心と、痛覚を無くしていると言っていた。鎧を着ているせいで……。
「っ! これでは……っ!」
ヘルナイトさんはそれを見て立ち上がろうとした時――オレンジ髪の人は遠くを見ながらこう言った。陽気に――
「あ、終わったのかなー?」と、言った。
それを聞いて、私体はそれを聞いて首を傾げて「「「「「?」」」」」と、唸っていると……。
「――『
ばしゅぅっという空気を切る音と同時に、ガギィンッ! と、機械が壊れるような音が、隊長の背中から聞こえて、そこから黒い煙が出てきた。すると――隊長の眼が虚ろから正気のそれに戻っていき、突いてきたその両のナイフを見て――
「ひぃ!」と声を上げて、恐怖の顔をしながらナイフを避けた。
「え?」
「避けた……?」
それを見て、アキにぃとシェーラちゃんが驚きの目をして、ヘルナイトさんはそれを見て、はっと何かに気付いたのか……、「まさかっ!」と声を上げると、オレンジ髪の人はそれを聞いて「ええ」と言って――
「結局は――」
私達の近くからではない。そしてティズ君の声ではない……、その声は、さっき私達に声をかけてくれた人の声で、その声がした方向は――私達がいるその場所より、ティズ君がいる場所から離れた場所から聞こえた。
丁度――隊長の背後に隠れるかそうでないかと言う場所に、インディアの女の人は大きな弓矢を構えながら、その場で立ち膝をしながらにっと微笑みながらウィンクをしてこう言った。
「機械ってことは――ぶっ壊せばいいんすよね?」
それを聞いた瞬間、ティズ君はたんたんっと後ろに跳びながら最後に足をつける時、よろっと転びそうになったけど、そのまま体制を戻して、くるっと、私達が隠れている――大きく傾いている岩を見上げる。
そしてそのまま走り出して……。
だんっ!
「え?」
「へ?」
「うぉ?」
「あ」
「!」
上からアキにぃ、シェーラちゃん、キョウヤさん、私、ヘルナイトさんと言う順番で驚きの声を上げてティズ君を見上げていく。
見上げる。それは合っている表現だ。
なぜ合っているのか? それは――
ティズ君は大きく傾いている大岩の頂上に向かって、駆け出しているからだ。だから見上げないと見れないのだ。
それを見て、荒い息遣いをしながら隊長は立ち上がって、二本の鎌を『ガチンッ!』と合わせて――
「く、くそぉおっっ!
と言った瞬間、鎌だったそれは黒い刃をしまい、刀身だったそれは柄に向かってどんどん収納されて、すぐに黒い棒を骨組みにして、太くて長い銀色の鉄の筒がバシュッと出てきて、そのまま骨組みを包むように、カチンッ! ガチンッ! と連結されて、しゅううううっと蒸気みたいなものを吹き出したところで、その変形が終わった。
それを見て、アキにぃははっと息を呑んで――
「あ、あれ……っ! あの時兵士達が使っていた光線銃と同じだ!」
と叫んだ。
それを見てキョウヤさんは……小さい声で「まさか……」と、引きつりながら言うと……。隊長はそれをどんどん岩の頂上に向かって駆け上がっていくティズ君に銃口を向けて――
「くたばれえええええええええええええええぃやあああああああああああああああっっっ!」
叫ぶと同時に――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
と、赤い小さな光弾を、ティズ君に向けて放ったのだ。
それを見ないで、ティズ君は駆け上がって行き、そのまま――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ! と、その光弾が命中したかのような土煙と小石をばらまくように、銃弾の雨がティズ君を襲った。
そしてその背後に隠れていた私達にも、その銃撃を受けてばらばらと砕けて落ちてくる大小さまざまな石。
それを見て、ヘルナイトさんは私とシェーラちゃんを抱えて覆い被さると、突然私の懐からもそもそとナヴィちゃんが出てきて、そのままぴょんこぴょんこと跳んで私達に近くで止まってしまう。
「ナヴィちゃんっ! 危ないっ!」
私は手を伸ばして叫ぶ。すると――ナヴィちゃんはぐぐぐっと体を丸めて、力を入れながらどんどん発光していき、そして――
ぐんっとその光が大きくなって、私達を包み込むような大きなドラゴンの翼で、落下する石を大きな翼で流したのだ。
それを見て、アキにぃはぐっとサムズアップして――
「グッジョブナヴィッ!」
と笑顔で言った。それを聞いてナヴィちゃんは「グルルルルッ!」と、明るく鳴いて喜んだ。
「ひゃー。すごいですね。この竜」
オレンジ髪の人がそれを見て驚いていると――私はティズ君を見るために、ナヴィちゃんの翼越しから岩のてっぺんを見ると、ティズ君はその岩のてっぺんから……。
たんっと飛び降りたのだ。
「え。えぇっ!?」
私は驚きの声を上げてしまう。それを聞いたヘルナイトさんもティズ君を見て、はっと息を呑むような驚きの声を上げて、アキにぃ、シェーラちゃん、そしてキョウヤさんはそれを見上げて……。
「「「ええええええええええええーっっっ!?」」」
声を上げて、目が飛び出そうな驚きの顔をして――叫んだ。
ティズ君はそのまま空中でくるりと回って、ナイフをまた逆手に持ったまま空中で前転をしながら落ちていく。
それを見て、オレンジ髪の人は落ち着いた音色でこう言った。
「確かに、恐怖心や痛覚を失いさえすれば、怖いのと同じで敵に立ち向かえますけど、あの人達はそんなまやかしを着こなしているだけで、本当はそうではない」
隊長はそれを見上げて、大声を上げながらティズ君を狙って光線の玉を連射する。
射程内に入ったティズ君だったけど、臆することもなく……、違う。本当に怖くないかのように回り続けている。
その最中、耳や腕、そして足や腹部にその銃弾が命中した。
落ちながらも、赤い血を流しながらでも……、ティズ君は叫ばない。どころか……、無表情で落ちていく。
それを見て、私はぞくっと、その顔を見て思った。
あの兵士達とは違う……、本当に痛みを知らないかのような顔だ……。と……。
それを見てなのか、オレンジ髪の人はティズ君を見て、続けてこう言った。
「ティズ君は――本当に痛みを知らない子供なんです」
「……痛みを、知らない?」
その言葉を聞いて、ヘルナイトさんは聞くと――その人は頷きながらこう言った。
落ちて、ぐるぐる回りながら隊長の胴体に向かって落ちていくティズ君を見て――少し悲しそうな顔をした笑みを浮かべて、衝撃の言葉を口にした。
「――ティズ君は……、重度の『ロスト・ペイン』。現実でも、この世界でも痛みと言うものを失ってしまった男の子なんです」
とある事情でね。と言った瞬間――
ギャリリリリリリリリリリリリリリリッ! と、よく工事で聞きそうな金属を削る音が聞こえ、それと並列して聞こえる隊長の叫び声。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎぎゃああああああああああああああああああああっっっ!」
それが少しの間響いて、隊長の叫び声が聞こえなくなったと同時にティズ君はそれを止めて、ふっと飛び退きながら砂地に着地して――私達の方を振り向きながら……、無表情で顔に付着した自分の鮮血と、傷だらけの体で……彼は言った。
「終わったよ」
淡々と、そして温度がないような音色と表情で――そう伝えた。
それを見て、私はふと感じた恐怖を緩和するために自分の胸に手を当ててぎゅっと握りしめる。
なぜか、こうでもしないとだめだと思ったから。
だって――戦っている時のティズ君があまりに躊躇いもなく……、痛くて、苦しい戦いをしているようで苦しかったから……。
そう思いながら私はティズ君を見てぐっと下唇を噛みしめた……。
◆ ◆
奇病『ロスト・ペイン』
それは――痛みが無くなる奇病。
感覚器官が衰え、壊死してしまう病気。
特効薬、ワクチン――なし。
治療法――MCOによる感覚敏感措置しかない。
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