PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ④
「マジで、最悪だな……。こりゃ……」
キョウヤさんはうげっと声を上げながら舌を突き出して吐くような顔をして言うと、それを見ていた私も頷いて……、小さな声でヘルナイトさんの腕の中から――
「どうして……、こんなところに?」と、私はジンジを見て言った。
ジンジはそんな私達の驚いた姿を面白おかしく見て、歪に歪んでしまった顔の笑みを深くして「んんんんんん~っ?」と、大袈裟に耳に手を当てながら『よく聞こえないよ~』と言わんばかりのジェスチャーをして言う。
リンドーさんが私達の方を振り向きながら「お知り合いなんですかーっ!?」と聞いているけど、その返答に答えるほど私達は余裕ではなかった。
リンドーさんの質問に答えられないほど私は混乱していたから……、答える余裕なんて一ミリもなかった。
それはキョウヤさんも、シェーラちゃんも同じ。
でもヘルナイトさんはリンドーさんに向かって、普段と変わらない表情で――
「いいや、知り合いじゃない」と、凛とした音色で、はっきりと言った。
それを聞いたガルーラさんは、背中に背負っていた大槌をがしりと掴んで、それをぐるんと振り回しながら、戦いたくてうずうずしているような笑みを浮かべて……。
「つまり……、わかりやすく言うと――敵だな」と言った。
それを聞いたキョウヤさんは頭を掻きながらもにょもにょと何かを言っていたけど、ガルーラさんの言葉を聞いて、突っ込む気力すらなくなってしまったのか「そうだなっ」と投げやりめいた言葉を吐いた。
それを聞いたみんなも、一斉に武器を抱えてジンジに向かって敵意の睨みを利かせる。そんな中、私はジンジを見てふと思った……。
あの時、確かにアキにぃはジンジを倒した。というか、降伏させた……、の方がいいかな……。うん。
アキにぃが苦戦して、私達が参戦してから、アキにぃは『六芒星』の一人とジンジが操っていた影に詠唱を放って倒したあと、ジンジな涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で降参を口にして……、私達は勝ちを得た。
そのあとジンジは確か……、『六芒星』の一人と一緒に木に括り付けたはず。
なのに……。
と、思いながら、私はジンジを見て、そして……、ぐっと唇をきつく噤んでから、意を決して人事を見てこう聞いた。
「あ……あの……っ」
「なんだぁいっ?」
「っ」
私が聞いた瞬間、ジンジはにたぁぁぁり……っ。と、狂喜に歪んで湾曲してしまった笑みを私に見せつけながら、ジンジは言う。笑顔で言う。
その笑顔を見た私は、ぞくり……。と、背筋を這う何かを感じて、一瞬身震いをしてしまったけど、ぐっと私を抱き寄せてくれるヘルナイトさんの優しさとぬくもりを感じて、私は目だけでヘルナイトさんを見上げる。
ヘルナイトさんは何も言わない。私を見ていない。けど――行動だけは、私のことを気にかけていた。心から気にかけているかのように、ヘルナイトさんは行動で私のことを気にかけていた。
その行動を身を持って体験していた私は、そんなヘルナイトさんを目で見上げてから、心の中で感謝の言葉を投げかけると、私は勇気を振り絞って――ジンジに聞いた。
「なぜ……、あなたがここに? あの時、あなたは亜人の郷にいたはずです……。なんでこんなところに……?」
それを聞いていたジンジは、狂喜の笑みを突然ふっと消してから、私の顔を凝視して、ぎょろりと眼球が浮き上がってしまったかのような顔で私のことをじぃぃぃぃ~っと見ていた。
それを見ていたシェーラちゃんは、「うげ」と言いながら舌を突き出して、気持ち悪そうな顔をしてジンジを見ていたけど、ジンジはそんなシェーラちゃんのことなんて気にしていないかのように、ジンジは当たり前のような表情を浮かべて、肩を竦めながら――
「なんでこんなところに? そんなの簡単な話だ。ボクはこの『BLACK COMPANY』に所属していた。だから帰ってきただけの話だろう?」
「あ」
私は思い出した。
もうとっくの昔のように、私は記憶の中を漁りながらその情報を引き出して、やっと思い出す。そうだ、ジンジは確かに『BLACK COMPANY』の一人だ。
シェーラちゃんもそう言っていたことを思い出し、私は驚いた顔をしてシェーラちゃんを見ると、シェーラちゃんはすーんっとした顔をして私を見ながら――
「覚えていたわよ私は。あんただけよ。忘れていたの」と、凛々しい声できっぱりと言う。
キョウヤさんはそんな私を見て呆れたような笑みを浮かべながら頭をがりがりと掻いて――
「ハンナって、意外と物忘れ激しいよな……」
おばあちゃんに言うようなセリフを吐くキョウヤさん。
それを聞いた私は、内心穴があったら入りたい様な気持ちを抑えながら、私はジンジに向かって更に質問する。その質問を聞いていたクルーザァーさんは少し苛立った口調で何か静止の言葉をかけていたけど、私はその言葉を無視した。
聞きたいことがあったから。それは本音で……、そして……。
聞いてはいけないことだった。
「で、でもあの時、木に括り付けていたはずです……」
「そうね。あの時私は、あんた達を木に括り付ける時――きつく縛ったからそうそう抜け出せるような状態ではなかったはずよ。まぁ激やせすればすり抜けることくらいはできると思うけど」
「激やせって、どんだけきつく締めたんだよ……」
私の言葉に、シェーラちゃんが頷きながら何やら悍ましいことをさらりと言っていたので、そのことに関してキョウヤさんは若干血の気を引きながら小さくシェーラちゃんに向かって言う。
他のみんなもキョウヤさんと同じ意見らしく、青ざめながらシェーラちゃんを見ていたけど……。
「しぇーらよ。そこまでせんでもいいと儂は思うぞ。そうしてしまうと食べたものをすべて吐き出してしまうからな」
虎次郎さんだけは全く別の考え方をしていて、からからと笑いながらシェーラちゃんのした行動を軽く注意していたけど、その話を聞いていたキョウヤさんは、頭を抱えながら深い深い溜息を吐いて、項垂れていたけど……、きっと突っ込んでも収拾がつかないと思って、キョウヤさんにとってすれば生まれては初めての突っ込み放棄をしたのだ。
それを見て、ついさっき目を覚ましたボルドさんは驚いた顔と困った顔、そしておどおどとしている顔が合わさったかのような表情を浮かべながらキョウヤさんの肩に手を置いて……、「だ、大丈夫?」と声をかけていた。
それに対してキョウヤさんは、何も言わなかった……。
すると――そんな話を聞いていたジンジはにたぁり……。と、また歪んでしまった笑みを浮かべながら……。
「賑やかだねぇ……、ボクのことを無視しての会話かぁい……っ?」と言いながら、私達の向けてその投擲物――注射器を向けながらジンジは言う。
それを聞いて、私達ははっとして気持ちを切り替えて……、ジンジに対して警戒を強めるみんな。そして私はそんなジンジを見て……、再度こう聞いた。
「もう一度聞きます。あの時、私達はあなたと『六芒星』の男を木に括り付けていたはずです。どうやって」
「そんなのかぁんたぁんっ!」
私の質問を遮って、ジンジはケランッ! という満面の狂気を浮かべながら、舌をベロンっと出して彼はこう言った。
「ボクが持っているこの毒入り注射器を使って殺してから抜け出したに決まっているだろう?」
「え?」
茫然としてしまう私の言葉を聞いたジンジは、にたりと笑み浮かべながら、狂喜に満ち溢れたギョロ目の笑みで、彼は舌を突き出しながら両手に持っているその注射器を見せびらかしながら、目を見開いて固まっている私達に向かって種明かしでもするかのようにこう言った。
ぷらぷらとそれを見せびらかしながら……、こう言った。
「ボクは確かにあのアキくんのお父さんの下で働いていた社員だった。でも君達はきっと大きな間違いを犯しているよ……? 大きなミスを見過ごしている。ここはゲームの世界だ。ゲームの世界に資格なんて言うものは必要ない。資格はそのスキルを大幅に活用できる術。つまりは延長線上の力なんだ。毒なんて買えばすぐに使える。猛毒でも魔物用のものを使えば人間なんてころり」
じゃらり、じゃらり、じゃらりと……。
指の間に挟めているその注射器を、うねうねと動かしながら、ジンジは狂気に満ちたその笑みで言い続ける。説明を続ける。
まるで、自分の成果を他人に露見するようなそれで、茫然としている私達をしり目に、ジンジは言う。
「だからボクは近くで括り付けられていた男に、猛毒入りの注射器を打ってから、何日もかけてそいつの体を口を使って引っこ抜いたってこと。さすがにばらばらはできなかったから、そのまま放置していったよ。あひゃひゃひゃ! 今頃どうなっているのかわからないけど、蟻とかが集ってそうだ」
「――貴様っ!」
へんっと、ジンジは肩を竦めながら (注射器を指の間に挟めながら)言うと、それを聞いていたガザドラさんは怒りを露にしながら、手に持っている煙突のカケラの形を変形させながら、怒声を低く放った。
「元とは言えども、吾輩の仲間であったことに変わりはない……っ! そのような殺され方をされては、死んでいった奴も苦しんで死んだに違いない……っ! なぜそのような惨い方法で殺したのだっ! 答えろ――外道なる冒険者よっ!」
「よせガザドラ。こいつに何を言っても無駄だ」
ガザドラさんは怒りを吐き出してジンジに怒声を浴びせながら指をさすと、それを見ていたクルーザァーさんは不合理だと言わんばかりに首を横に振りながら言うと、それを聞いていたジンジは「はぁ?」と、ぎょろ目の眼でガザドラさんを捉えながら突き出していた舌をまるでピエロのようにべろんべろんと左右に振りながら――
「コンピュータ語はボクには理解できましぇ~んっ!」
と、明らかにバカにするような言葉で言うジンジ。
それを聞いたガザドラさんはぎりっと爬虫類の歯を食いしばりながら、血走った目でジンジを睨みつけて……。
「~~~~っ! 何をわけのわからぬことをおおおおっ!」
と、唸るよな声で言うと、それを聞いていたダディエルさんは、ガザドラさんの肩を叩きながら「よせ」と制止をかけて……。
「お前の仲間を思う気持ちはよくわかる。そしてこんな下衆に対しての怒りもよくわかる。こいつは明らかにバカにしていることも分かるが……、もうこいつに何を言っても無駄なんだ。ぶっ壊れている奴に話しかけても、結局は無駄なんだ……。悪いことは言わない。こいつに話をすることは……お勧めしないぜ」
「っ! ぐぅ!」
ダディエルさんはガザドラさんに言う。それを聞いたガザドラさんは、ぎりぎりと歯を食いしばりながら、未だにげらげらと笑っているジンジを見て、悟ったかのように沸騰していたその怒りを沈下させる。
ダディエルさんは再度申し訳なさそうに「すまねえな」と、ガザドラさんの肩を叩きながら言うと、ガザドラさんは一旦冷静になった思考でダディエルさん達の方を見ながら申し訳なさそうに「いやさ。こっちこそすまなかった」と言って、手に持っていた機械の破片をもとの破片に戻す。
私はその光景を見ながら、ガザドラさんの気持ちに……、嫌な言葉を使ってしまうけど、同情しながら私はジンジを見る。
ジンジは未だにけらけら笑いながら注射器をジャラジャラと動かしながらとんとんっとステップを踏んでいる。
その動きを見ていたシェーラちゃんは、びきりと額に青筋を立てながら小さな声で「マジで屑ね……。この男……!」と、毒を吐いていたけど……。珍しく……、私もそう思ってしまった。
そんな汚い言葉じゃないけど、シェーラちゃんや虎次郎さん、キョウヤさんとヘルナイトさんと一緒の感情を私は抱いていた。そのもしゃもしゃを抱いていたのだ。
ジンジに対して、私はガザドラさんと同じ燃え滾る様なもしゃもしゃを抱いていたのだ。
ジンジの外道にのような行為に対して、外道のような行いに対して。そして――
仲間 (元)のことを思って怒りを露にしているガザドラさんに対しての非礼の行為。
その二つが私達の怒りの沸点を上昇させたのだ。
温度計で言うとすでに九十度。
それくらい赤いもしゃもしゃを燃え滾らせていたのだ。
それを見ていたティズ君もむっとした表情でジンジを見て――一歩前に出てからティズ君はジンジに向かってこう言った。
「おじさん……。その言い方はないと俺は思う。だから――ガザドラさんに謝ってほしい」
「ん?」
ジンジはティズ君の顔を見て首を傾げながらじっとティズ君の顔をぐりん、ぐりんっとカメレオンのように目をぎょろぎょろと動かしながらジィッと見つめる。
それを見たティズ君は少し疑問を抱いたような顔をしたけど、ジンジのその顔を見て気味悪い顔をしながら一歩後ずさると、ジンジは「あぁーっっ!」と、まるで小さな子供が何かを見つけたかのような声を上げて、ティズ君に向けて指をさした。
その声を聞いたティズ君は、一体何事だと言わんばかりの顔をしながら頭にいくつもの疑問を浮かべていると……、ジンジはティズ君を見ながら「君だねぇ?」と言ってから、にたりと……。今度は歯ぐきが見えそうな怖い笑みで彼はこう言った。
その行動を見ていたキョウヤさんは、頭を掻きながら「マジでぶっ壊れている……」と、うんざりしたように言ったけど、誰もそのことについて同意の行動を示さなかった。
ジンジは言った――ティズ君に向かって……。
「君――お兄さんにさんざんいじめられた弟さんでしょ?」
「――っ!!」
私はその言葉に衝撃を受けながらティズ君の顔を見るために、ヘルナイトさんに頼んで降ろしてもらう。そして慌ててティズ君に駆け寄りながらティズ君の肩を掴んだ。ティズ君の方が大きいので私は見上げてしまう体制になってしまうけど、それで私はティズ君の肩を掴んで――
「ティズ君……っ! 大丈夫……?」と、彼に心配の声をかける。
それを聞いたティズ君はがくがくと震えながら、恐怖の眼で私のことを振るえるそれで捉えながら……。
「あ、う………あ………」
まるで呂律が回っていない子供のように、がくがくと震えながら血の気が引いた肌の色で、ティズ君は小さく一文字一文字を零す。
私は何とかティズ君に声をかけるけど、それを聞いていたクルーザァーさんも珍しく背後で慌てながら「ティズッッ!」と声を荒げていた。
みんながティズ君のその豹変を見て、ティティさんもティズ君に駆け寄りながら「ティズ! ティズッ!」と必死に声をかけている最中……、その光景を見ていたジンジさんは下劣な笑みを浮かべながら――
「可愛そうだよねぇ……。親に助けを求めたら更にひどいことをされてしまう。黙っていてもひどいことをされてしまう。言い返してもひどいことをされてしまう。そんなひどいことで埋め尽くされた日々を送っていた君にとってすれば……、兄は悪で、君はただの一般市民だ。君のことを助ける人なんて、この世にはいない。みんなヒーローじゃないんだ。みんな悪の手先みたいなものだ。ボクも社長のせいで人生めちゃくちゃにされてしまった一人。わかるよ……。わかるよぉ……」
注射器の針に指を添えながら言うジンジは一本の注射器を素早く持ち替えて――ダーツのように狙いをティズ君に定めてから彼はこう言った。色のあるようなその声で彼は言う。
「だから――ここで君の苦しみを終わらせてあげよう。ボクは大人だから……、君のその気持ちを少しでも取り除いてあげる」
永久にねっっ!
と言いかけた瞬間だった。
ジンジは目の前に来たその人物に、驚きを隠せずに「うぉ!」と言いながら後ろにバランスを崩しかける。私達もそれを見て、驚きのそれでその人の背中を見る――
まるで、猪突猛進のごとく走り抜ける………………メウラヴダーさんの大きな背中を、私達は目に焼き付けた。
「メウラッッ!」
と、クルーザァーさんは叫ぶと、その言葉を聞いていたメウラヴダーさんは、二本の剣を素早く抜刀しながら――その剣をジンジの注射器に。口先をクルーザァーさんに向けながら、彼は二本の剣を両手でしっかり持ってから、それを上に向けて振り上げて……。
「だから……、その名前を――」
と、怒りを抑え込んでいるかのように、小さく低く言った瞬間、メウラヴダーさんはその剣を勢いをつけて一気に振り下ろす! 言葉と共に――!
「言うなああああああああああああああっっっ!」
――パキィンッッ!
「っ!?」
メウラヴダーさんはその怒りの叫びを上げながら、ジンジが持っていた注射器を何本か破壊した。
それを見たジンジは、飛び散る破片を見て苛立ちを覚えながら驚愕に顔を染めていた。
見ていた私達とメウラヴダーさんはその意外な行動に驚きを隠せないで固まっていると……。
「クルーザァーッ! 行けぇ!」
と、メウラヴダーさんはクルーザァーさんに向かって叫んだ。
それを聞いたクルーザァーさんは目を疑うような表情を浮かべてメウラヴダーさんを見て、言葉を発しようと口を開こうとした瞬間……。メウラヴダーさんは更に声を荒げながら、クルーザァーさんに向かって叫ぶ。
「こんなところで止まること自体不合理なんだろっ? だったらさっさと走れ! ここは俺が食い止めておく! だから行けぇ!」
「………言われずともだ!」
メウラヴダーさんの言葉を聞いて、クルーザァーさんはドームの建物のドアの方に目を向ける。
私もティズ君の体を支えながらその方向を見ると、すでにリンドーさんはドアの鍵を開けていたらしく、そのドアを開けた状態にして、慌てた顔をしながら私達に向かって手招きをしていた。
それを見たクルーザァーさんは、すぐに私達のほうを向いてこう言う。
彼らしい――合理的な言葉で。
「行くぞ。こんなところでもたもたしていられない。ティティにハンナ、ティズを抱えろ」
「っ! ハイ!」
「了解ですっ!」
私とティティさんは戸惑いながらもクルーザァーさんの言葉に従うように、私はティズ君の肩を担いで、ティティさんが誘導するような形で、みんなの後に続くように歩みを進める。ティティさんの前にはヘルナイトさんがいて、ヘルナイトさんは自分で考えて私達を守るように前に出ている。その行動を見た私は、こんな状況だけど心強いと思ってしまった。
「あ……、め、うら……っ! 待って……っ! 行かないでよ……っ! 連れて行かないで……っ! メウラたちも連れて行かないと……っ!」
ティズ君は震える手でメウラヴダーさんに手を伸ばしていたけど、その手がメウラヴダーさんに届くことはなく……、その手を届かせたいという気持ちもあったけど、メウラヴダーさんの石を無駄にしたくないという気持ちが勝ったこともあって……、メウラヴダーさんの意思を優先にしてしまう。ティズ君のその光景を見ていたヘルナイトさんは、ティズ君の名前を呼んでから、ティズ君の顔を見て凛とした音色でこう言う。
「メウラヴダー殿は意を決して戦うことを望んだんだ。その意思を捻じ曲げるような行為はクルーザァー殿が言う不合理に等しい。それにティズ。こんなところで止まってはいけないんだろう。お前にもお前の覚悟があって、意思があってここまで来たはずだ。その意思を忘れるな。そして――前を向いて走れ」
ヘルナイトさんの少し厳しいようなその言葉を聞いて、ティズ君は今まで狼狽していたその言葉が嘘のように消してから、ティズ君はそっと私の肩から手をどかす。
そして私を見て走りながら「……、ごめん」と、小さく謝ってきた。ティティさんの方を見ても同じことを言って謝るティズ君。
それを聞いたティティさんは首を横に振りながら「いいえ」と、にこやかに微笑んで言い、私も控えめに微笑みながら「大丈夫だよ」と言う。
ティズ君はそのまま私達の言葉を受け取ってから、ヘルナイトさんの方を見て――申し訳なさそうに、口元をもにょもにょとさせながら、小さくこう言う。
「えっと……、ありがとう。そして、ごめん」
それを聞いたヘルナイトさんは凛とした音色で「気にするな」と言って、先を急ぐ。
私達も先を急いでドームの建物の中に入る。
ドームの中に入った私は、そのドームの中をくまなく見るように、前後左右、そして上下ともにしっかりと見た。どうなっているのかと言う好奇心もあってだけど、また敵がいるかもしれないという警戒心を込めての行動でもあった。
でも――ドームの中はいたって普通と言うか……、置いてあるものは何もなかった。
殺風景な円状の青紫色の機械の床に、細い管が張り巡らされている黒い機械の壁。膨らんでいるかのように張り巡らされている白い屋根。ドームだから仕方ない建物の構造だけど……、階段やドアが全くない。そして広さは体育館二個分の広さで、物がない分その広さも大きく感じられた。
そんな風景を見ながら、私は誰もいない? と、どこから入ればいいの……? と思いながら辺りを見回してると……。
「ハンナ! こっちよ!」
「!」
突然シェーラちゃんの声がドーム内に響いた。
私はその声がした方向に目を向けると……、とあるところにみんなが集まっていた。その場所に向かって私は慌てて駆け寄って、近くにいたシェーラちゃんに――
「何をしているの?」と聞くと、それを聞いていたシェーラちゃんは少し苛立ったような音色で、腰に手を当てながら「見ればわかるわ」と言って、再度その方向を見る。私もシェーラちゃんと同じように、その方向に目をやると……。
――ガチャン!
「よし! 開きました!」
と、リンドーさんは床に手をつきながら喜びの声を上げた。
それを聞いたボルドさんは「わかったよ!」と言いながら、その床についている窪みに手を突っ込んで、その窪みに手をひっかけながら――ぐっと力を上に入れる。持ち上げるように入れると……。
「――ふんんぬううううううううううううううううううううっっっっ!」
と、ボルドさんは声を上げながら床にあった長方形の扉を『ゴギギギギギギギ』っと、持ち上げる。
そしてすぐに、その扉を引く行為をやめて、ボルドさんは額に浮かんでいた脂汗を腕で拭いながら一息つく。
それを見ていた私やみんなは、すぐに穴が開いた床の扉の中の世界を覗き見て、驚きながらその目を疑うようなその光景を目にする。
「こんなところに……、隠し通路か」
ダディエルさんは小さい声で呟く。
その言葉通りで、誰もがダディエルさんの言葉に同意を示していただろう……。床にあった扉の中の世界は――隠し通路のように伸びている、長い長い階段だった。
しかもその階段の通路にはご丁寧に照明までついている。これなら転ぶ心配なないし、何より明るいから怖くない。
そう思っていた私は、急いで下に向かって走っているみんなの姿を見て、慌てながら私も下に降りようとした瞬間……。
――バァンッッ!
と、勢いよく外に繋がっている扉が閉まった。辺りが暗くなる。それを感じた私はすぐに後ろを振り向きながら開いていた扉を見て――
「…………………え?」と言う呆けた声を上げたと同時に……。
――どんっ。と、押し出されてしまう私の体。
「?」
私は前にもあったデジャブを感じながらそのまま背中から階段に向かって落ちていく。そしてそのまま階段の前に立っている見覚えがある人物に手を伸ばそうとした瞬間……。
ばぁんっ! と、床の扉が意図的に降ろされて閉められてしまった……。混乱する私をよそにその扉は閉められてしまった……。
何人か欠けている状態の私達を突き放すように……。
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