PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ③

「っ! っ!? なぁ!」


 マリアンは今まさに自分達の本拠地でもあるドームに向かって走っているクルーザァー達を横目で見つけて捉えてしまう。


 今の今まで銃の嵐を巻き起こしていたマリアンだったが、感情が高ぶっている間の彼女は冷静さを欠いておらず、むしろこの感情の方がクールに事を進めることができる。


 ただ感情任せにしているのではなく、その高ぶりをコントロールしながら行動していると言っても過言ではない。


 これも軍人の時に培ったスキル――経験と言ってもいいだろう。


 そんな彼女は今まさにそのドームに向かっていこうとしているヘルナイト達を見て、彼女は手に持っていたPK機関銃――『シャーベラー』の銃口をクルーザァー達に向けながら彼女な狙いを定める。


 ――くそっ! あいつらあの時逃げたと思ったら、あんなところにいやがった。


 ――ゴキブリのようなしぶとさと素早さ。そして物陰に隠れるテクニックもゴキブリ並みだ。


 ――私としたことが詰めを誤ったか。


 と、マリアンは内心舌打ちをしながら思い、その銃口をクルーザァー達に向けながら心に固く誓う。


 ――こうなったら、あいつ等を先に撃ち殺して、そのあとであの小娘をアクロマのところに連れてってやる。こうでもしないと……、私達は現実に帰れない。


 ――こんなところで、ちびちびと浄化なんてしていられるか。一体どれだけの時間を要すると思っているんだ。待っている暇なんてない。


 ――みんなが、現実で待っているんだ。


 ――私の帰りを待っている仲間が、軍のみんなが……、私の帰りを待っている。


 ――すぐに帰らないといけないんだ。


 ――私は……、


 ――私は……、っ!


 そう彼女は頑なに誓った。


 軍人らしく、こんな仮想空間の世界ではなく、現実の世界で軍人として死ぬために、彼女は今の状況を打破するために――ハンナを生け捕りにして他の人達を殺すと固く心に誓い、その銃口を一番狙いやすい体格をしているボルドに向けた。


「……このまま狙い撃ちだ」


 そう彼女は低く、そして小さく言葉を発してから銃の引き金に指を差し入れ、すぐに引く体制に切り替える。


 そのままマリアンはボルドの心臓を狙い撃ちにするように狙いを定めて、少し揺らいでからぴったりと銃口をボルドの心臓の位置に向けた。


 遠距離なのでバレットラインを出さないと正確に狙えない位置ではあったが、マリアンはそんなことをしなくても正確に標的を撃ち殺す術を持っている。そしてその段数は一発ではない。


 彼女が持っている銃は機関銃。連続で撃てる銃なのだ。


 拳銃のように一発一発撃つようなものではなく、連続で撃てるような代物で、弾丸もまだまだ残っている。そしてその弾丸の薬莢を使って攻撃するガザドラも、今はいない。そして気付いていない。


 ボルドを狙えば厄介なガザドラも殺せると思ったマリアンは、その銃口を何の躊躇いもなく、躊躇など感じさせないような目つきで彼女は銃口をボルドに向け、近くにいるガザドラとダディエル。そしてキョウヤたちに向かって放とうと、引き金を引こうとした瞬間……。


「っ!」


 マリアンは何かの気配を感じて、すぐさまボルドからその銃口をずらして、その場から離れるように前の転がる。ごろんごろんっと転がった瞬間。


 バルバルバルバルバルバルバルバルバルッッ!


 と、マリアンがいた場所に打ち込まれる弾丸。


 それもマリアンと同様、いくつもの小さな穴が地面を彩り、まるでアートのように出来上がる。出来栄えは幼稚なものそれであるが……。


「くぅううううっっ!」


 マリアンは顔に浮き出る青筋を浮き上げて、転がって倒れていた体をすぐに起き上げて立ち膝をしながらその光景を見る。見て――視界の右端に映ったある人物を見て、彼女はぎりぎりと歯を食いしばりながらその人物を睨みつける。


 冷静さがどんどん欠落していくような感覚を覚えたが、今はそれどころではない。


 マリアンは自分に向けて銃を放ったギンロを睨みつけながらそっと立ち上がって、『シャーベラー』をギンロに向ける。


 そしてマリアンは言った。苛立ちを露にしたその音色で、彼女はこう言った。


「てめえ……っ! 隠れて銃を発砲しやがってぇ……っ! 男なら男らしく、真正面で銃を構えろ。そして撃ち殺し合えっ! それが銃を持ったものに対しての礼儀ってもんだろうが……っ!」


 と、マリアンはジャキリとそれをギンロに向けると、それを見たギンロはにやりと、まるで悪党のような笑みを浮かべながら「へぇ……」と言い……。


 彼はその笑みのままミニガンの銃口をマリアンに向けながら、余裕のある笑みでこう言った。


「西部劇の一騎打ちがお望みなのかよ。意外とロマンがあるじゃねえか」


 でもな。と、ギンロはその笑みをすぅっと消してから、彼はそのミニガンをマリアンに向けて、怨恨の表情を彼女に向けながらギンロは言う。


「お前らの要望を聞くほど、今の俺はそんなに余裕じゃねえんだ。今はおとなしくここでおねんねしていな」

「うるせぇっっ!」


 マリアンはその『シャーベラー』の銃口をギンロに向けて、その銃弾を放とうと、再度引き金を引こうとした瞬間……。


 ――バァンッ! と、遠くから聞こえる発砲音。


 と同時に……。


「危ないマリアンッ!」


 と、背後から覆い被さって叫ぶろざんぬ。それを受けたマリアンは、ぎょっとしながら彼女ののしかかりを受けて、そのまま一緒に地に突っ伏してしまう。


 べちゃりと突っ伏したと同時に、またもやマリアンがいた場所に放たれた銃弾一発。


「っ!」


 マリアンはそれを見て、その銃弾が放たれた方角を目で追いながら見上げると……、彼女は再度目を見開いてその光景を目にした。


 ろざんぬはマリアンを見降ろしてから起き上がって――心配そうに「大丈夫だった?」と聞くと、それを聞いていたマリアンは「ああ」と、淡々とした音色で答えると、彼女はすぐに銃弾が放たれた場所を見上げて、再度歯を食いしばりながら苛立ちを露にして、彼女はついさっきまで自分がいた場所に佇んでいるアキを見上げて、彼女は這いつくばっている状態で、地面に拳を叩きつける。


 ダンッと叩きつけたと同時に――彼女はアキとギンロを交互に見て、ろざんぬの名を呼ぶ。


 それを聞いたろざんぬは「なに?」と首を傾げながら聞くと、マリアンはふつふつ込み上げてくる怒りの感情を、ドロドロと曝け出しながら、彼女は小さい音色からどんどん大きくしていくようにトーンを上げながらこう言った。


「とことん隠れて撃つことがお好みの様だな……っ。いいさ、ああいいさ! そんなことで私を出し抜こうとしても無駄さ!」

「ま、マリアン……、ちょっと落ち着いて」

「私はいつだって冷静だ。今だってクールだ。キンキンに冷えた氷のようにクールになっている!」


 ろざんぬの制止を聞かずに、マリアンはすっと立ち上がり、手に持っていた『シャーベラー』を構えながら、彼女は怒りの眼でギンロとアキを捉えながら――彼女は言う。


「手伝え、ろざんぬ! このままこいつ等を殺す! ハチの巣にして晒し者にしてやるっっ!」

「もぉっ! こうなったらとことん付き合うわ。手伝うわよマリアンッ!」


 最初こそ、断るような雰囲気を出していたろざんぬだったが、次第にそれが出来ないと直感したのだろう。


 マリアンの顔を見たろざんぬは頭を抱えてため息を吐いた後、もうあとのことなんて考えないという雰囲気を出して、彼はマリアンのサポートに徹することを決める。


 それを聞いたマリアンは頷いて、手に持っている『シャーベラー』を構えながらギンロとアキを睨みつけた。


 それを見たギンロは、ちらりと上にいるアキに向かって――声をかける。


「おい……。お前もそこから降りて俺と共闘してくれよ……」

「いやです。俺はこのまま狙撃に徹します」

「チームワークって言葉知っているかお前っ?」


 と言った雰囲気の中――彼らの戦いが幕を開ける。マリアンの銃口から放たれる弾丸の嵐を合図に、戦いの火ぶたが切って落とされた瞬間だった。


 チームワークが上のマリアンとろざんぬ。対……。チームワーク壊滅的なアキとギンロの戦いが始まった丁度その頃……。


 ハンナ達は走りながら戦い開始に合図となる銃の音を聞きながら、ドーム状の建物に向かって走っていた……。


 その銃弾を耳にしながら……。



 □     □



「うううむ。あの男に任せてもいいのか心配じゃが……、とやら。あのと言う男にあの場を任せてもよかったのじゃろうか……」


 虎次郎さんは未だに戦闘の音が鳴りやまない……、どころかどんどん騒音が大きくなっているアキにぃ達がいた場所を後ろを振り向くような体制で走って見ながら、シェーラちゃんとあと一人の人物に聞いていた。


 それを聞いていたシェーラちゃんは普段と変わらないような凛々しさで――


「大丈夫よ。だってあいつの銃の腕は凄い。と思うわ。あまり見たことはないけど、それでもアキの狙撃は凄いと思う」と、虎次郎さんを見て言うと、それを聞いていたキョウヤさんは頷いて――


「オレもそう思うけど、その前に最初に言っておく。俺はヨウヤじゃなくてキョウヤな。おっさん」と、虎次郎さんを見て指をさしながら念を押すキョウヤさん。


 それを聞いた虎次郎さんは「おぉ」と言いながら頭を掻いて申し訳なさそうに笑みを浮かべながら……。


「すまんすまん。でいいんじゃな?」と、訂正した名前を言う虎次郎さん。


 それを聞いてキョウヤさんは「おう」と言いながら頷いて――殺気の言葉の続きを走りながら言う。


「んで話を戻すと……、あいつの銃の腕はオレでもすげーって思えるようなそれだし、それにあいつ拳銃とか他の銃も持っているから大丈夫だろ」

「ほほぅ。そうか……」


 虎次郎さんは走りながら顎の髭を撫でながら考える仕草をすると、それを聞いていた私はヘルナイトさんの腕の中で虎次郎さんを見ながらこう聞く。


「あの……、虎次郎さんは心配なんですか? アキにぃのこと」

「む?」


 私の言葉に、虎次郎さんは首を傾げながらふと私の方を振り向く。そしてその話を聞いてか、虎次郎さんは目線を少し上に向けて、明後日の方向を向くようにして虎次郎さんは「まぁ――そうなるかのぉ」と言いながら……、続けてこう言う。


「あの女の気性の荒さを見て、ちょいと野生の本能が身震いをしたのでな……。なに――これは儂の勘と言っても過言ではないが、女の勘ほどそんな性能はよくない。当たる確率なんて三割じゃ。が……」


 と言いながら、虎次郎さんはやっぱり腑に落ちないのか、あのマリアンの行動を見て自分も残ればよかったのかと思っているのかもしれない。そう思った私は虎次郎さんの名前を呼ぶと、虎次郎さんは「む?」と言う声を上げながら、再度私の方を振り向いてくれた。


 それを見た私は控えめに微笑みながらこう言う。


「アキにぃなら大丈夫ですよ。私――アキにぃとここに来てからずっと一緒に行動していたんです。アキにぃの狙撃の腕は凄いから、大丈夫ですよ」

「…………あき、にぃ……。ということは、お前さん達はさながら兄妹と見てもいいんじゃな?」


 と、虎次郎さんは顎の髭を撫でながら私を見て言うと、私はそれを聞いてきょとんっとしてから「え? あ、はい……」と正直に頷く。それを聞いた虎次郎さんは、「そうか……」と言いながら少し考える仕草をしてからすぐ、虎次郎さんは私の顔を見てにかっと笑みを見せながら――


「なるほどの。お前さん達の兄弟の絆――信じてみようかの」と、虎次郎さんは言った。


 それを聞いた私は、心から嬉しいという感情が二重になって襲い掛かってくるのを感じた。


 一つは虎次郎さんが私達のことを信じてくれたという、単純な嬉しさ。そして二つ目は――


 まだ会って間もないようなアキにぃのことを信じて、任せてくれたというそれだ。


 こんな状況でこんな感情は不必要だとクルーザァーさんに言われてしまいそうだけど……、どれも単純で、どれもシンプルな感情だけど、それでも私は嬉しいと思ってしまった。 


 その話を聞いた私は控えめに微笑んでから頷いて――


「はい……っ!」と答えた。


 それを聞いた虎次郎さんは、にっと笑みを浮かべながら「うむうむ。兄弟の絆と言うものはいいものじゃな」と頷きながら言った。


 すると――


「無駄話は合理的ではない。見ろ」


 先頭にいたクルーザァーさんが声を上げて、私達がいる後ろに向かって言った。


 それを聞いたみんなと私達はクルーザァーさんがいる前を向いて見ると――さっきまで遠く感じていたドームの建物私達の前に姿を現した。


 案外遠くにあると思っていたけど、意外と近い所にあり、そのドームの鉄の扉を指さしながらクルーザァーさんはリンドーさんに向かって声を荒げる。


「リンドー! すぐに鍵を開けろ!」

「あ、はい!」


 リンドーさんはその声に反応して返事をしてから、さっきまでクルーザァーさんの後ろにいたのに、すぐに走るスピードを上げて簡単に私達から距離を遠ざけて走って行ってしまう。


 たたたたたっと、軽快な走りを見せながら――


「は、早いわね……」と、それを見てぎょっとした目で見ていたシェーラちゃんは、驚きの声を零す。それを聞いていたダディエルさんは、ガザドラさんと一緒にボルドさんを担ぎながら「ぜぇ。ぜぇ」と荒い息を吐きながら、シェーラちゃんを横目で見て「それもそうだろうが」と言った。


 顔中から噴き出る汗をぼたぼたと地面に落としながら、ダディエルさんは言った。


「あいつ……っ! ぜひっ。俺らの中じゃ機動力抜群の……ひぃ! 体力と素早さを持っていやがるから……っ! へぇ! 逃げ足だけは……っ! いっちょ前だ……っ! ぜはぁ!」

「なるほどな……。道理であの銃弾の猛攻から逃げても汗一つ掻いていなかったのが頷けるな」


 ダディエルさんの言葉を聞いていたガザドラさんは、ダディエルさんとは対照的に汗一つ掻いていない状態で納得するような表情をして頷く。


 でも私はふと、ガザドラさんの言葉を聞いてふと、こう思った……。


 ――銃弾の猛攻って……、一体話体がいない間に、本当に何があったんだろう……っ! 銃弾の猛攻って……、まさか……っ!


 と思いながら、私はくるっと背後からまだ鳴り響いている銃弾の音を聞きながら、まさか……、あのマリアンに……っ? と思いながら私は、ぎゅっと下唇を噛みしめて、再度ギンロさんとアキにぃの勝利を心の底から祈った。


 そっと――目を閉じて、暗い世界で私は二人の無事を祈っていると……。







 女の人の声だけど、なんだか野太いような声が聞こえた。聞こえて、目を開けようとした瞬間――


「ハンナ――口を閉じろ。舌を噛むぞ」


 と、ヘルナイトさんの声が上から聞こえたので、私は考えるよりも、状況を見ることよりも先に、ぎゅっと口をきつく閉じる。口元を漢字の一の文字にして、きつく……、きつく閉ざす。目も一緒に閉じて――


 すると――




 ――ガゥィン!




 と、剣と剣が交わる様な研磨音が、私に耳に響いた。鼓膜が破れてしまいそうな轟音を聞いた私は、びくっと肩を震わせてしまう。みんなの驚きの声が小さく響いたけど、言葉まではしっかりと拾えなかった。


 響いたと同時に反響音が耳の中を縦横無尽に駆け巡って、正常な音を拾えなくしているようなぐわんぐわんとした感覚が、私を襲う。そんな中でも、私の耳近くでぎりぎりと剣と剣が研ぎ澄まされあうような嫌な音が鳴り響く。


 そしてヘルナイトさんの抱きしめる力と――


「お前ぇ……、邪魔すんなよぉーっ!」


 また野太い女の声が私に耳を襲う。私はその時、微動だにしないその感覚に違和感を覚えながら、きつく閉じていた目をそっと開けて、影のせいで暗くなっているその世界を見て、上を見上げた瞬間――


「っ!」


 私はぎょっとして、私達に影を作っている存在を目にした。


 私達の前に現れたそれは――黒い姿が印象的な魔物で、姿もかなり気持ち悪いそれ……、と言うかそれは、大きな大きな虫だった。黒い体にギザギザの両手の刃物。背中にはぼこぼこと背負っている自分の卵に蠅のような目、そして何よりぐぱぁ……、と、液体がこびりついているそれを見せながら、全長五メートルくらいはあるその巨体で、ギザギザの刃物を使ってヘルナイトさんと私を突き刺そうとしていたのか、そのまま振り下ろした状態で、ヘルナイトさんの大剣の腹にその先を突き刺していた。


 そこからぎゃりぎゃりという研磨音が響く中……、私はMCOのときに見たことがあるその生物を見て、強張った顔でその魔物を見上げながら、小さくこう呟く……。


「……さ、『殺戮蟷螂』……っ!」


 その魔物を見た瞬間、と言うか――その魔物が持っているその手の鎌を見た瞬間、私は言いようのない恐怖を抱いた。


 突然襲ってきたのだ。


 なぜかはわからない。今まで刃物なんて何回も見ている。包丁だって使ったことがあるし……、カッターだって使っている。なのに……、なのになぜだろう……。


 自分に向けて突きつけられているその魔物を見た瞬間、言いようのない恐怖が私を襲ったのだ。まるで……、前にもこんなことがあったかのような、そんな恐怖。そんな……。




              不     安。




「………………………っ。ハンナ――大丈夫か?」

「!」


 ヘルナイトさんは大剣を片手に、その攻撃を防ぎながら凛とした声で私に向かって言う。それを聞いた私は、はっと恐怖の世界に落ちていた意識が現実に引き戻されて、私はヘルナイトさんを見上げながら、「だ、大丈夫です」と言う。


 覇気のない、不安が込み上げてきそうな音色だったけど、それを聞いたヘルナイトさんはそれを聞いて、何も返答をしないで、そのまま――


 ぐっと大剣を上に向けて、蟷螂ごと、ヘルナイトさんは大剣を『ギャルンッッ』と、薙ぐように振るった。


『おぉ!』と、みんなの歓喜と驚きの声が合わさったそれが聞こえ――私はそれを見て、驚きながら口をあんぐりと上げてその光景を見ていた。


 難なく押し出してしまったその光景を見て、私は言葉を発することを忘れていた。


「っ!? おぉっ!?」と、声を上げて驚く『殺戮蟷螂』。押された拍子にぐらりと後ろにバランスを崩して、そのまま――


 ずずぅん………………っ! という転倒の音を大きく響かせながら、『殺戮蟷螂』は後ろにひっくり返ってしまった。


 周りにあった煙突や機械を巻き込んで――大きな音を立てながら転ぶ。


 ガラガラ、ベキンッ。ガシャァン! バコンッ! 


 色んな音を立てながら転ぶ姿は、まるで特撮のそれの様に見えた……。


 それを見ていた私は、ぽかんっとしながらその光景を茫然として見ていると、ヘルナイトさんは私を見ていたのか……。


「大丈夫だったか?」と、凛とした音色で聞いてきた。


 それを聞いた私ははっとして、ヘルナイトさんの腕の中でヘルナイトさんのことを見上げながら私は、「ふぇっ」と声を上げて……、すぐにこくこく頷きながら「は。はい……」と返事をする。するとヘルナイトさんはそれを聞いて安堵の息を吐きながら「そうか」と言った瞬間……。


「これは凄い腕力だな」と、転んでうごうごと動いて立ち上がろうとしている『殺戮蟷螂』を見たクルーザァーさんは、珍しく驚いた顔をしてヘルナイトさんを見ていた。


 それを聞いていたヘルナイトさんは首を傾げながら頭に疑問符を浮かべていたけど、それを聞いていたキョウヤさんはヘルナイトさんに指をさしながら――


「そのチートをどっかかんかで留めておけっ! パワーバランスおかしくなるわ」と、怒鳴りながら言い放った。


 それを聞いていたシェーラちゃん達はうんうん頷きながらキョウヤさんの言葉に同意していた。腕を組んで、真剣そうに……。


 その言葉を聞いていたヘルナイトさんは、とうとう理解ができないかのような顔をして首を傾げた瞬間……。


「うわぁっ!?」と、リンドーさん叫び声が響いた。


 それを聞いたみんなと私達は、一斉にドームの入り口に向かっていたリンドーさんの方に目を向ける。


 向けた瞬間、その場所にいたのは――尻餅をついてしまっているリンドーさんと、もう一人……、敵がいた。


 見たことがある敵で、その敵はリンドーさんに投擲物を突き付けながら「っ!」と、甲高い声を上げながら、エビ反りになって大笑いをしていた。


 その男を見ていたティズ君は、強張った顔をして「誰……、あの人……」と、震える声で呟くと、それを聞いていたティティさんは手に持っていた鉈をその人に向けようとして、熊を射殺さんばかりの睨みで――


「下劣な笑い……、不愉快です」と言いながら構えようとした瞬間……。


 その人はぐぅんっと、反っていた体を元に戻した。


 瞬間――私とヘルナイトさん、キョウヤさんとシェーラちゃんは……。


「っ!」

「「「あっっっ!!」」」


 ヘルナイトさんは声を上げないで驚いて、私達は声を上げて指をさしながら驚いてしまった。


 それを聞いたみんなは首を傾げながらどうしたんだという顔をして私達を見ていたけど、その人は私達をジトッと、ぎょろ目のような目で私達を凝視しながらこう言った。


「ああああ! だねええええええ……! は本当にお世話になったよぉ……。のこと、覚えているかなあああああああ~っ!?」


 黒いボロボロのスーツを着て、ドロドロまみれになってしまった皮だけの角ばった顔に鋭い目つき。ボサボサの伸ばし放題にしてしまった七三分け。そして右手だけは黒く変色して……、焦げている手に持っている注射器をまるで手裏剣のように指と指の間に挟め、その人は私達を狂喜の笑みで睨みつけながらこう言った。


「アキくんはここにいないのかなぁ~? ボクはアキくんに用があるんだよぉおおおおおおおおおおおおおお~? お前ら……、アキくんのこと……、知っているかな?」


 その人――亜人の郷でアキにぃを追い詰めていたその人物……、は私達にその注射器を突き付けながらアキにぃがどこにいるのかを聞いてきたのだ。


 そんなジンジの姿を見たシェーラちゃんは、あの時と同じ言葉を小さく吐き捨てるよう呟く。


「――最悪」

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