PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ②
「あ! あんたあの時のムキムキ女っ!」
シェーラちゃんは思い出したかのように、煙突の上に立っているその人に向かって指をさしながら叫ぶ。
それを聞いていた敵の女の人はむっと顔を顰め、シェーラちゃんを見降ろして手に持っている得物の矛先を私達に向けながらその人はこう言った。
ううん……。少し切れながらこう怒鳴った。
「ムキムキ女なんて言う名前じゃないっ! 私にもちゃんとした名前がある! マリアンだ! 覚えておけっ!」
「意外と真面目なんだな」
ムキムキの女の人もとい迷彩服の女の人――マリアンは私達に向かって怒鳴りながら自己紹介をする。
それを聞いていたダディエルさんは半分調子が狂うような表情を浮かべて、頭を掻きながら小さく呟く。
みんなもそれを聞いて拍子抜けするような真面目さを見て、一瞬だけどきょとんっと言う表情を浮かべながら煙突の上にいるマリアンを見上げていた。
「……この人も、『BLACK COMPANY』の仲間……なの?」
私はその人を見上げ、その見た目とは裏腹の真面目そうな雰囲気を感じながら、私は小さく呟く。
するとマリアン……さんって言った方がいいのかな? 年上だし……。大人だし……。
マリアンさんは (今更思ったけど、この人の名前を聞くと、不思議とマリアンダを思い出してしまうのは、名前が似ているからなのかな……?) 私を見降ろしながら「あぁ……?」と、こきり……。と首の骨を鳴らすように傾げながら、マリアンさんはじっと私のことを凝視しながら顔を顰める。
「っ」
私はその凄んでいるような顔を見て、びくりと体を震わせながら、一歩後ずさりをしてマリアンさんを見上げる。
なんだか近くで騒ぐ声が聞こえたけど、私はその言葉を聞く余裕もない状態のまま、そのまま強張った顔でマリアンさんを見上げる。するとマリアンさんは――
「ははぁ」
何か納得したような声を上げて、そのまま私のことを凝視することをためて背筋を伸ばす。
それを見ていた私は、首を傾げながら、何を納得したのだろうと見上げていると……。
「お前か……。アクロマや他の奴らが言っていたクリアの鍵を握っているやつっていうのは」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、みんなの雰囲気が強張り、そして緊張感が走る。みんなが武器を構えながらマリアンさん……、ううん。この人は敵なのだ。さん付けにすること自体おかしかったのかもしれない。心で言う時は呼び捨てにしておこう。言葉ではちゃんとさん付けしようと思うけど、心の中ではそうしないでおこう……。
そう思いながら、私は握り拳を作りながら、弱々しくマリアンを睨みつける。マリアンはそんな私達の表情を読み取って、銃口を未だに私達に向けながらこう言った。
「もう噂になっているよ。『八神』を三体も浄化しているってね。こう言った場合――魔物を倒すのとか、そういった悪の心を断ち切るポジションは勇者だと思っていた。みんなが主人公になれるとかなんとかほざいていたけど……、あの理事長はなんで……」
マリアンは私のことを見降ろしながらじろりと……、睨みを利かせながら見降ろす。
そしてこう言った。
「あんたの様な役立たずを、キーパーソンにしたんだろうな」
その言葉を聞いた私は、喉の奥から込み上げてくる痛い感情を押さえながらマリアンを見上げる。睨みつけることなく、怒ることなく……、ただじっと、マリアンの話を聞くことに専念した。
マリアンが言っていることは正論で、怒る気などないのだけど……、ここで私が怒ったとしても、相手を逆なですることしかできない。ただ怒らせることしかできない。
だから今は、冷静でいる間は……、怒らせないようにしよう。そう私は心に決めて、今吹き上がってきた苦しいもしゃもしゃやいろんなものが混ざったもしゃもしゃを心に抑え込みながら、話を聞くことに専念する。
「……役立たず? 一体何を言っているのかしら?」
その言葉に関して首を突っ込んだのは――私の隣にいたシェーラちゃんだった。
背後にいたキョウヤさんは小さい声で慌てながら「お、おい……っ! 待てシェーラっ!」と、小声でシェーラちゃんを止めていたけど、シェーラちゃんはそんなキョウヤさんの静止を聞かずにマリアンを見上げながら睨みつけるようにしてこう言った。
「ゲームにおいて回復要因ってかなりの生命線じゃない。回復要因がいるだけで生存率が上がる。それでよく役立たずって言えるわね。あんたの頭のねじは記憶と共に落っことしてしまったのかしら?」
「ああ、確かに従来ならそう言えるだろう。私は元々軍人で、いろんな奴を殺してはいろんな傷を負った。足がなくなるかもしれない事態もあったが、軍の衛生士がいてくれたおかげで、足の切断は免れた。現実でも衛生士の力は私達の命を繋ぎ止める。必要不可欠な存在だ」
「…………なら」
「でも――ここはゲームだ」
マリアンははっきりと言う。声を上げようとしたティズ君の言葉を遮るように、マリアンは言う。
それを聞いていたヘルナイトさん、ティティさん、ガザドラさんは、首を傾げながら一体何の話をしているんだろうという顔をして、私達
マリアンは続けてこう言う。
「傷を負ったとしても、回復薬があればいい。死んだとしても、蘇生薬を飲めば生き返る様な世界で、回復要因なんていらないんだ。ソロでも何とか戦える。そんな世界を見てきて、私は思ったんだ。なんでお前のような所属で、そして……、なんでお前の様な子供をこのゲームクリアの鍵にしたのか。ずっと疑念を抱いていたんだ」
「さっきから一体何を……?」
ボルドさんは混乱しているのか、困ったような音色でマリアンに聞くけど、それを聞いていたギンロさんはボルドさんを見上げながら驚いた音色で「リーダーッ! 相手は敵だ! 敵!」と、まるで催眠術にかかってしまった人の目を覚まさせるように叫ぶと、それを聞いていたボルドさんはぎょっとしながらギンロさんを見降ろして――
「あ、えっと……、ごめん」と、申し訳なさそうに謝る。
それを聞いていたリンドーさんは笑みを浮かべてはいるけど、少しむっとした表情を混ぜながら――
「しゃきっとしてくださいよぉ……」
と、まるで愚痴を零すように言うと、マリアンはそんな私達を……、特に私を見降ろしながらその人は私に向かって銃口を『ジャキリ』と突き付けながらこう言った。
「まぁ――そんなもの、そこにいる女を捉えて、あとでアクロマに渡せば……、すべてわかることだしな」
「っ!? それは一体……っ!」
初めて慌てた顔を見せたクルーザァーさんは、マリアンを見上げながらその言葉の真意を聞こうとしたけど、マリアンはクルーザァーさんのその質問に対して流すように「お前たちが知る様な事じゃない」と言って、マリアンはその銃口を私に向けて――
低く、氷よりも冷たい音色で――銃を構えながらこう言った。
ざぁっと、夕焼けの砂地に風が吹き荒れる。それを受けたみんなは、うっと唸りながら砂煙から目を守るように、目を半分閉じたり、腕で目を守ったりしているけど、マリアンはそんなことせず、ただただじっと、私に狙いを定めながらこう言った。
帽子が飛ばされないようにして、目を半分閉じている私に向かって、銃口を向けながら――ひどく冷静な音色でこう言ったのだ。
びゅおおおおおっと砂嵐の音がひどいのに、なぜかマリアンの声だけは、ひどく遠くまで響き渡って、よく聞こえた……。そんな声で、マリアンは言ったのだ。
恐ろしくて、そして疑念を抱かせるような言葉を……。
「今からお前の四肢を
「……………………え?」
私はマリアンの言う言葉に対して、疑問符を浮かべながら呆けた声を出した瞬間……。
――ダァンッッ!
渇いた銃弾の音がデノス中に響き渡った。私は覚悟を決めて、体のどこかから来るであろう衝撃に備えて、ぎゅっと目をつぶりながらその痛みに耐えようとした。
「っ! ………………? ? ??」
でも――なにも来ない。どころか……。
「……………………あれ?」
私は呆けた声を出しながら体を見降ろす。腕や足、刀足の付け根、あとは腹部や首元、脹脛や二の腕に、銃弾の穴が開いてないか確認したけど……、穴もないし血も出ていない。どころか痛みなんて一個も感じられない。
私は再度自分の体を見ながら言った何がどうなっているのかと思いながら自分の体をじっと見ていると……。
「お前等! 早く行きやがれっっ!」
いつも聞くような大きな声とは比べ物にならないような大きな声を上げて、大きな銃を構えて私達の前の立っているギンロさんは、私達の方を向きながら叫んだ。
「っ!?」
私はその光景を見て、驚きを隠せなかった。みんなだって驚きを隠せずに、ギンロさんの行動を見て……、そしてそんなギンロさんの横で立ち膝をしながら仰角を少し上げているライフル銃を構えているアキにぃを見て、そのライフル銃の銃口からわずかに出ている煙を見ながら、私はマリアンのことを恐る恐る見上げる。
見上げて、すぐに気づいた。
あの銃弾の音の正体がアキにぃで、そのアキにぃが放った銃弾は、マリアンの肩を抉るように放たれたことに、今更ながら気づいたのだ。
「――っ!」
マリアンは抉れてしまった右肩を左手で押さえながら、そこからだらだらと流れる血を手で止血しながら、痛みで顔を歪ませている。
そんな顔を見て、アキにぃはライフル銃を下ろさないまま……、ぼうぼうと燃え盛る怒りのもしゃもしゃを背中から吹き上げるように出しながら見上げていたけど……、対照的に氷のような冷たい音色で――小さくこう言った。
「っち……、躱しやがった」
そんなアキにぃの声を聞いていたメウラヴダーさんは、引き攣った表情を浮かべながらアキにぃを見て――
「いやいや。殺す気満々だったのか……っ!?」
と、アキにぃを見ながら若干青ざめたような顔をして言っていた。けどアキにぃはそんなメウラヴダーさんの言葉を無視するかのように、アキにぃは私達を見ないで――
「みんな行って。ここは俺とここにいる世紀末のような人で食い止める」と言った。
「え? え? ど、どうして……?」
私はそれを聞いて、一瞬目を点にしてアキにぃのその背中を見たけど、すぐにアキにぃの言葉を理解して、また混乱してから私はアキにぃに聞いたけど、私の小さな声はギンロさんの大きな声によってかき消されてしまう。
「だぁれが世紀末だぁっっ! つかなんでお前も残るんだよ! ここは俺一人残れば――」
と言った瞬間――キョウヤさんとヘルナイトさん、ティティさんとガザドラさんは何かを感じ取ったかのように私から見て右側の方を勢いをつけて振り返る。
その行動を見ていたクルーザァーさんはティティさんとガザドラさんを見て、そしてヘルナイトさんの方を振り向きながら――
「――まだいるのか?」と聞いた。
それを聞いたティティさんとガザドラさんはこくりと頷いて……、ヘルナイトさんも小さく頷いてから……、背に背負っている大剣をがしりと掴んで――
「ああ」と答えた瞬間……。
素早く大剣を引き抜いたと同時に、私のことを守るように前に出て……、そして。
――ゴォンッッ!
という……、大きな金属音を響かせながら、ヘルナイトさんは微動だにせずにその攻撃を大剣で受けていた。
ばさりと――マントは靡いたと同時に、私はそのマント越しに攻撃をした人物を見る。
その人は屈強な体つきをしている大男だった。
男だからだろうか……マリアンよりもすごい筋肉を持っている人で……、筋肉の付き具合もプロレスラーと同等のそれだ。でも服装はラフで、黒いポロシャツに黒いズボン。靴も普通の初期のそれを履いているが、顔の方が特にインパクトがあるので目がそっちの方に行ってしまう。カラフルな骸骨模様のフルフェイスマスクに紺色のバンダナを頭に巻き付けている大男は、拳につけられた紺色の武器を使って、ヘルナイトさんの向かって――ううん……、この場合は私を狙おうとして殴りかかったんだと思う。
その人はヘルナイトさんの姿を見て――
「あらぁ――まさかこんな勇ましい紳士様がいただなんて、ちょっと驚きだわぁ。あの時いなかったのに……。どこに隠れていたのかしら?」
大男なのにすごい猫撫で声で、と言うかおかまのような口調で言うその人を見て、私はぎょっとしながらその人をヘルナイトさん越しに見る。
それを聞いていたダディエルさんたちは、体をぶるりと震わせて、気色悪いものでも見たかのような青ざめ方をして大男を見ていた。
「…………生理的に無理」
シェーラちゃんの小さい毒の声を聞いたけど、誰もそのことに関して注意をする人はいなかった……。
「遅いぞろざんぬっ!」
上にいたマリアンは叫んだ。大男――ろざんぬに向かって。
それを聞いたろざんぬはヘルナイトさんに攻撃を防御されながらもマリアンの方を見て――
「ごめんなさいねぇ。ちょっと目を離していた隙にこうなっちゃったのよぉ。許してちょうだい。それにマリアン。あなたもすでにダメージ受けているじゃない」
と、マリアンの傷を見ながら言うろざんぬ。
それを聞いたマリアンは大きな舌打ちをしながらポケットに入っていたその手ぬぐいを使って、アキにぃに撃たれたところにそれを押し当てながらこう叫ぶ。苛立ちぶつけるように叫ぶ。
「うるさいっっ! こんなのかすり傷だ! まだ
「………………二人になってしまいました」
そんなマリアンとろざんぬを見ていたティティさんはその二人とアキにぃとギンロさんを見てぼそりと呟くと、それを聞いていたアキにぃは「そうですね」と言って――
「ここで二人を足止めできるくらいの時間は稼げます。だからここは俺達に任せて」
私達を見ないで言うアキにぃ。
それを聞いていたクルーザァーさんは、少し考える仕草をしてから頷いて――クルーザァーさんはギンロさんを見てこう聞いた。
「ここはお前達に任せる。それでもいいか?」
それを聞いていたギンロさんはすぐに「ああ」と頷いて――上にいるマリアンを見上げながらギンロさんはこう言った。
まるで因縁がある様な音色で、ギンロさんはこう言ったのだ。
「アスカを殺した集団の一人だ。こんなところで負けるわけにはいかねえ。とっとと行け。何とか食い止めておく」
ギンロさんは手に持っていたミニガンを上に構えようとした瞬間――マリアンは止血した腕でなんとか銃を持ち上げながら下にいるギンロさんとアキにぃに向かって――
「舐めるな――ド素人がああああああああああああああっっっ!」
と叫びながら、手に持っていた銃を『ダダダダダダダダダダダダダダダッッ!』と発砲する。
それを見た誰もが驚きの声を上げてから、すぐにみんな一斉に逃げる。
ヘルナイトさんもそれを見て、目の前にいるろざんぬの腹部目掛けて、大剣を持っていない手で握り拳を作ってから――どごりと……、強くめり込ませるように殴る。
「うご……おぉっ!?」
唸るろざんぬ。
そのまま後ろによろけながら離れた瞬間、ヘルナイトさんは大剣をすぐにしまって背後にいる私を横抱きにして、その場から離れる。
刹那……。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!
と、地面に無数の穴が開くような銃弾の雨が降り注いだ。
それを難なく避けたヘルナイトさんは私を抱えて、その銃弾の雨が降り注いでいる光景を見ながらほっと息を吐いてすぐに背後を見る。
「みんな無事かっ?」
私もヘルナイトさんの腕の中で背後を見ると、そこには――
「平気だよ。こっちはティティが助けてくれたから」
ティズ君は驚いた顔をしていたけど、ティティさんを見て安堵の息を吐きながら言った。ティティさんの周りにはクルーザァーさんやガルーラさん、そしてメウラヴダーさんもいる。
ティティさんはティズ君の言葉を聞いて嬉しかったのか、満面の笑みでティズ君を見て「ティズ……っ!」と、声を震わせていた。
「こっちも大丈夫だ。吾輩が何とかここまで運んだからな」
「ガザドラさんの魔祖すんごく便利ぃ~……です」
「簀巻きになりそうな体制で言うな。あとリーダー起きろ。こんな時にふざけんな」
すると、ティズ君の隣にいたガザドラさんがサムズアップをしながら私達を見て言う。後ろには転がって倒れているリンドーさんと地面に顔をつけてしまっているボルドさん、そして立ち膝をして衝撃を緩和していたダディエルんさんがいた。
ダディエルさんはリンドーさんの言葉を聞いてすぐに立ち上がっていったけど、ボルドさんはその言葉に対して何の返答もしていなかった。多分……、気絶しているんだと思う……。でも目立った外傷はない。それを見た私はほっと胸を撫で下ろしていると……。
「こっちも平気よ」
「なんとかな」
「オレの運動量半端ないけどな」
私から見て左側、ヘルナイトさんか見たら右側から声が聞こえて、その方向を見ると――そこにいたのはシェーラちゃんと虎次郎さんを脇に抱えているキョウヤさんがいた。キョウヤさんは深い溜息を吐いた後、いつの間にか銃の雨が止んでいるその光景を見て、うげっと顔を歪ませた。
その顔を見た私もその光景を見るためにその方向を見ると、目を見開いて絶句してしまう。
私達がいたところの地面には、無数の小さな穴が開いてて、その穴からはごく微量だけど、微かに煙が舞っていた。近くに置いてある機械にも穴が開いてて、電流みたいなものが漏れ出していた。
それを見た私は、言葉を失いながら……、もし、あの場所に一瞬でもいたら……、と、想像しなくてもいいことを想像してしまい、体から吹き上がる寒気を感じて、ぎゅっと自分の体を温めるように抱きしめる。
「大丈夫か? ハンナ」
ヘルナイトさんの心配の声が聞こえたので、私はこくりと、震えながら頷いて――「だ、大丈夫です……」と、何とか言葉を発する。
それを聞いたヘルナイトさんはぐっと私を抱き寄せながら「無理はするな。このまま運ぶぞ」と言って、すぐに立ち上がった瞬間――
マリアンは声を荒げて叫んだ。
「どこだああああああああああああああっっ! 出てこおおおおおい腰抜けえええええええっっっ!」
『っ!』
その大きな怒声を聞いた私達は、物陰に隠れながらマリアンがいる方向を見ると、マリアンは煙突から降りながら叫ぶことを止めずに、辺りを見回しながら言い続けた。
大声で言い続ける。
「あんな大見得を切ってでじゃばったくせに、結局こそこそ隠れて狙い撃ちかぁ!? それでも男かこらぁ! 出てこいチキン野郎がああああああああああああああああっっっ!!」
「性格変わりすぎ……。鬼教官かよ」
キョウヤさんは青ざめながら小さく覇気のない突っ込みを入れる。それを聞いていた。
でもその光景を見ていたクルーザァーさんは、そっと立ち上がって私達を呼び掛けてから、大きなドーム状のその建物を指さしながら小さな声でこう言った。
「――今の内だ。あの二人はアキとギンロに任せて、先を急ぐぞ」
「でも……、ギンロとアキさんは……、遠距離の攻撃しかできないよ? 俺みたいな近距離攻撃ができる人も残った方が」
「ティズ」
ティズ君の言葉をきつく遮るクルーザァーさん。クルーザァーさんゴーグル越しにティズ君を睨みつけながら小さい声で言う。
「今は一秒でも早くアクロマのもとに行き、捕まえることが最重要だ。こんなところで全員であの二人を相手にするのは確かに簡単かもしれない。しかしな……、時間が有限なんだ。体力も魔力も限りがある。こんなところで浪費は避けたい。時間を有効に使うのであれば……、誰かがここで足止めをして、俺達が行くための時間か稼ぐ他はない。お前の気持ちもわかるが、今はこれが最善の道なんだ。それにお前も――あの男との関係をはっきりしないといけないんだ。いいな――そんな甘えはこれ以上無しで頼む」
「わ、わかった……」
クルーザァーさんの言葉を聞いた、一瞬恐怖を感じたかのような顔をしたけど、すぐに強張った顔のまま頷く。それを見た私は、一体何があったのだろうと思いながら見ていると……。
――バァンッ!
「っ! こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
銃の発砲音とマリアンの叫び声が聞こえて、マリアン再度銃を構えながら発砲を連射する。
ダダダダダダダダダダダダダダダッッ! と響き渡る発砲音。マリアンはぐるんぐるん回りながら銃を連射してところかしこに当てていく。
その最中――ガンッ! と、私達がいるところにも当たり、それを見たリンドーさんは「うひっ!」と、小さな叫び声を上げながら銃が当たった個所を見上げる。ちょうどボルドさんを掠るほどの距離に、銃が当たったのだ。
それを見ていたメウラヴダーさんも、苦い顔をしながら――
「……っ! 仕方ない……。この場はあの二人に任せて先を急ごう!」と、あのことを思い出してしまったのか、クルーザァーさんの言葉に苦い顔をして同意しながらそっと立ち上がる。
みんなも猛威を振るっているマリアンを見ながら、この場はアキにぃ達に任せようと思っているのかみんなそっと立ち上がって、その場から静かに離れるようにドームと化しているその場所へと足を進める。
そろり、そろりと……、まるで抜き足差し足をするかのように、ダディエルさんとガザドラさんはボルドさんを担ぎながらその場を後にしていく。
「おい。行くぞ」
と、クルーザァーさんは最後となってしまった私とヘルナイトさんに向かって、しびれを切らしたかのような声を荒げると、それを聞いていたヘルナイトさんははっと現実に戻ったかのように肩を震わせて、クルーザァーさんの方向を見ながら「――今行く」と言って、私を横抱きにしながら音を立てずに立ち上がる。
私のそんなヘルナイトさんの腕の中で、未だに銃の攻撃をしているマリアンを見て、きっとこの場所にいるであろうアキにぃとギンロさんのことを思いながら、私は心の声で――こう言う。
――二人とも、先に行きます。無理、しないで。
そう私は心の中でエールを送って、ヘルナイトさんが動くと同時にその場を後にした。
どんどん離れていく間も、その銃の音は鳴りやまないまま、私達はクルーザァーさんの案内の元――ドーム状の建物に向かって急いで走った。
私はヘルナイトさんに横抱きにされているから、厳密に言うと私は走っていないけど……。
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