PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ①
戦いが始まる前に、まずはその戦闘の地と化してしまうデノスのことについて話そうと思う。
デノス。
そこは元々はただの村だった。
何の変哲もない。国境の村のような場所だったが……、その村が突然消えてしまったのだ。
今から二百年前の話。
つまりは『終焉の瘴気』が出た時、すべてが変わってしまったのだ。
当時の王は、瘴気で蔓延していたこの砂の国を何とかしようと奮起していたが、何もできなかった。
マースクルーヴの言っていた通り、『終焉の瘴気』は未知の何か。
何かがわからない得体のしれないものなのだ。
ものなのかすらわからないものが――『終焉の瘴気』なのだ。
当時の王はひどく頭を悩ませていた。恐怖と焦りで、頭が半壊しそうだった。
自分の国が自然災害で突然壊れてしまうような喪失の恐怖に襲われ、当時の王は精神的にも不安定になりつつあった。
が――とある時……、国の大臣があることを言ったのだ。
それは……、簡単に言うと異国の技術を取り入れよう。ということだった。
異国――それはアズールの外の世界を表す。
アズールにはない世界で対処策を練ろうとしたのだ。その時の王はすでに精神的に異常をきたしていたため、正常な思考ができず、大臣の言葉に――
……これが――バトラヴィア帝国が大きく歪ませるきっかけであった。
王と大臣は早速船の手配をし、技術が盛んな国――マキシファトゥマ王国と言う、広大な大地とアムスノームのような魔導具が盛んな国に赴いた。
その国はアズールの王都――ラ・リジューシュと友好的な関係を築いていた国で、マキシファトゥマ王国国王マキシファトゥマ二十五世は、バトラヴィア帝国の国王と大臣を快く招き入れた。
そして国の技術を余すことなく見せた。
魔導具ではない。現代の機械技術を――王と大臣に見せたのだ。
王は聞いた。
――これは魔導具を生成しているのですかな?
その言葉にマキシファトゥマ国王は大笑いをしながらこう言った。
――違いますよ。これは鉄の魔人を作っているのです。魔力なんてなくとも使える、無力の人間を力を持つ人間に変える……。まるで魔法のような道具です。
それを聞いた王と大臣は、作られたその鉄の魔人を見る。
鉄の魔人。それは現代で言うところの――ロボットと同じと言った方がいいだろう。
しかしこの鉄の魔人は、わかりやすく言うと戦争の道具。戦い為だけに作られたものなのだ。が――それを見たバトラヴィア帝国の国王は……。
魅入られたかのように、食いついた。
王はマキシファトゥマ国王に聞いた。
――つかぬことをお聞きします。あなたたちの技術を使えば……、濃度が濃い瘴気を浄化する機会を作ることは可能でしょうか?
その言葉を聞いたマキシファトゥマ国王は……。
――ああ、できますとも。簡単ですとも。
と、マキシファトゥマ国王は頷きながら笑みを浮かべて言った。
それを聞いたバトラヴィア帝国の国王は、マキシファトゥマ国王の技術を大臣と共に学んで、そして作り上げたのだ。
ボルドは言った言葉を覚えているだろうか……。
異国の地から取り寄せたあるものを使って物理的に浄化させた。
それ以来……、国民は王を救世主と崇め、そして歪んでいき……、王様は神様の生まれ変わりと言う逸話が伝播してしまった。
そう。この言葉きっかけで、ただの村だったデノスに――人っ子一人いなくなってしまい、その場所に大きなものが建てられてしまったのだ。
それが――巨大空気清浄機……、名を『エスポアール』
アズールの言葉にはない言葉ではあったが、マキシファトゥマ王国の国王がこの名を命名した理由……、それは『未来への架け橋』になってほしいと願って命名したらしい。
バトラヴィア帝国の国王は人がいなくなってしまったその地に、巨大な空気清浄機を置いて、それを使って一時的ではあるが、瘴気を浄化したのだ。
国民は喜びを露にして、大声で希望の賛歌を上げた。歓喜を上げた。
デノスにいた国民は――なぜかいなくなってしまったが、それは尊い犠牲として報われるだろうと、誰もそのことに関して追及などしなかった。
否――
国民全員が、精神的に病んでいたからか……、誰も他人のことを心配する余裕などなかったのかもしれない。その真相は闇の中だ。
それを機に――国民は王を崇めた。そしてそこから、どんどん歯車が狂いだして、壊れていく……。
王は自分を至高なる神として君臨した。そして人間族を至高なる存在にして、他種族の差別が肥大化した。奴隷制度も設けた。どんどん帝国は――狂いの一途をたどり……。
そして、現在に至っているという結果を招いた。
きっかけを作ってしまったマキシファトゥマ王国は、今どうなっているのか……。
簡潔に言うと――その国は滅んだ。今から五十四年前に滅んでしまった。原因は機械による暴走である。
その時――マキシファトゥマ王国では何かを計画されていたようなのだが、そのことを知るものはもう誰もいない。
とある一説では……、バトラヴィア帝国の国王がそのマキシファトゥマ王国の技術を欲しいがあまりに、国を謀殺したという説があるが、それも嘘か真かは……、誰も知らない。
マキシファトゥマ王国の地の奥底で眠っていた何かを知るものも、誰もいなくなってしまい。すべてが闇に葬られてしまった。
これが――デノスの巨大空気清浄機『エスポワール』のオリジンである。
それから時は流れ、現在――その空気清浄機『エスポワール』は、バトラヴィア帝国を救った兵器として大切に保管されている。もう空気清浄機として機能はしてない。
機械は使えば使うほど廃れていくもの。修理をすればいいのだろうが、それに長けているマキシファトゥマ王国の者はもうこの世界にはない。ゆえに直すという選択肢がなかったのだ。
ただただその場においてあるだけの不要物。粗大ごみなのである。
粗大ごみ。
その言葉ははたから聞けば――優しすぎるものだ。
何せ――その粗大ごみは村を覆うほどの大きさを誇っているのだから、粗大ごみではなく巨大はガラクタのほうがいいだろう。
ジュウゴの言った通り、デノス全体を追うような円状の黒い壁。それはアムスノームの壁よりも高いそれで、その中には封魔石は練りこまれている特注の壁だ。それだけは光沢がついており、最近建てたことが目に見えてしまう。
その壁の向こうは……一言でいうのであれば、古ぼけてしまった機械のドームであった。
日本でよく見るあの球技のドームと同等の大きさの、鉄でできた半円のドームからは、機械の音が急かしなく鳴り響いている。そして地面からボコリと出ている黒くて太い工業用のホースが、そのドームに向かって伸びている。それも数本ではない。数千本である。ホースのほかにドームの近くに無数設置されている小さな煙突からは、水蒸気のようなものが噴き出ている。
これが――浄化された空気なのだ。
だが、数千本の煙突から出ている少量の浄化された空気でも、広大な大地に広がってしまった瘴気を浄化することは、不可能だった。最初の時はできたかもしれないが、段々その浄化する速度が、侵食する瘴気の速度に後れを取っていったのだ。
自然の驚異と言ったほうがいいのかもしれない。
リンドーやボルドの言った通り、根元から浄化しないといけないのだ。
今現在――デノスに人はいない。強いて言うのであれば……このゲームの世界の飛び込められた『BLACK COMPANY』管轄のプレイヤー達が何かを守るためにバロックワーズから命令されて守備を固めている……。いうなれば――秘密の何かが隠されている場所でもあった。
その『エスポワール』の建物の外を歩いている人達は――たったの三名。
その三人の顔は黒い防護服と黒いマスクと言った――よく見る機動隊によく似た服を着ている人達だった。
その三人は手に銃を持って、あたりをうろつきながら手首についている白いバングルをちらつかせながら辺りを警戒するように歩みを進めた。
「異常はないか?」
「特にない」
「こっちも異常はないな」
その三人は互いの顔を見て、少し声を張り上げながら言うと、すぐにまたあたりを歩き回りながら侵入者がいないか確認する。
ざり、ざりっと歩いている最中、一人の人物はふと、視界に入ったそれを見降ろした。
男の視線に入ったそれは――マンホール。
男はそれを見ながら、怪訝そうな顔をして舌打ちを打ちながら歩みを進める。そのマンホールに向かって……。
――マンホールなんて、日本でも腐るほど見たっつーのに、なんでこんな世界にもマンホールなんてもんがあるんだろうねー。
と思いながら、男はそのマンホールを見降ろす。すぐにしゃがみ、手に持っていた銃を地面に下ろしてから彼はそのマンホールに手を伸ばす。
「………いや、いやいや。ないと思うけど、用心のために……、な」
彼は引き攣る様な笑みを浮かべて笑うと、その言葉とは正反対に体は正直にマンホールに向かって伸びていく。
なぜ手を伸ばしたのか? と聞かれたら、彼はこう答えるだろう。
興味本位で。と――
ただそこにマンホールがあっただけで、興味本位でそのマンホールに手を伸ばす人はいないだろう。誰もが素通りだろう。が、この世界はゲームの世界。もしかしたら…………、この下に抜け道があるかもしれない。
そう男は思って、興味本位という気持ちでその本心を誤魔化しながら、一抹の希望を抱えて――
そのマンホールの両端を、がっしりと掴んだ。
そしてそのまま力一杯持ち上げようとした――刹那。
――ボッッ!
という、マンホールの下から吹き上がった何かの音がして、そのままマンホールを持ち上げる。男は何も力を入れていない。自動的に男に向かって襲い掛かってきて、躱す余裕も、銃を持つ余裕もないまま……。
――バガンッッッ!!
と、顎に直撃を受けてしまった男。上に向かって、飛び上がるように飛んでいくマンホール。そのまま重力に従って、どんっと、地面に罅を入れるように落ちるマンホール。そのままぐるぐると側面で回るように『ぐわわわわわわわ』と、音を立てながら回って、どんどん減速していく。
ぐわりと、頭が揺らぐ。痛みで頭がおかしくなる。意識が飛びそうになったが、男は何とか持ちこたえて、再度傍に置いてあった銃を手に取ろうと伸ばした瞬間。
ふっと、背後に感じる何か。それを見ようと背後を見た瞬間。
首に感じた衝撃。そして――
暗転。
□ □
「っほ」
私はマンホールの蓋があった場所から顔を出す。まるでモグラたたきのように顔を出すと、そのまま少しぶりの外の地面に脚と手をつける。
みんなも一斉に地上に出て、そして外の空気を吸いながら、近くで倒れている機動隊のような人を見降ろしているキョウヤさんとティティさんを見た。
二人は少し驚いた目をして、白目をむいて、顎を赤く腫れぼったにしながら倒れている機動隊の人を見降ろして……。
「あれ……、やりすぎたか……?」
「いいえ、やりすぎはいないと思います。なにせ手加減をしたんです。死んではいないかと」
「まぁ――それはオレも見てわかるよ。死んでいないことくらい。でも何だろうなぁ……、何かやりすぎたかなーっていう罪悪感か……」
「ですが、ここで止めておかないとおいおい大変ですよ?」
「まぁ、そうなんだけど……、一応すんません」
キョウヤさんはぺこりと頭を垂らしながら伸びて倒れている機動隊の人に謝った。それを見ていた私は、倒れている人と、そして今出たその場所を見上げながら――
「ここが……デノス」と、小さく言葉を零した。
目の前に広がっていた夕焼けの空と、それを背景にしている鉄でできた東京ドーム……、に、見えるけど違う。ドーム状に施設のような建物があった。周りにある小さな煙突からは、水蒸気のような白い煙が出ていて、それを見ていたシェーラちゃんは「あれって……湯気?」と、小さな声で呟いていた。
ここに侵入する前、クルーザァーさんは上を指さしながら、あることを話していた。それは――
『侵入する前に、近くに人がいた。銃を持っている輩だったな。隠れながら侵入していくことが合理的ではあるが、それだと人数が多すぎる。こっちのな。隠れるのに時間を要してしまうだろう』
『ならどうするんですか?』
と、アキにぃは腕を組んで、一体何が言いたいんだという竦めた顔をして聞くと、それを聞いていたクルーザァーさんは……キョウヤさんとティティさんを見てこう言った。
『キョウヤ――お前のその槍を使って、マンホールごと突け。マンホールの穴から覗き込んで、相手がマンホールの正面に来るか、それともこっちに気付いて持ち上げた瞬間……、勢いよく突け』
『まぁ殺さない程度にするけどよ……。訴えないでくれよ?』
あまり乗り気でないキョウヤさんの言葉に、クルーザァーさんは『訴えない』と頷きながら答えた。
そしてティティさんを横目で見て――
『ティティ、お前は相手を確実に落とすために、首元に手刀を入れろ』と言ったのだ。
それを聞いたティティさんは少し納得がいかない顔をしながらクルーザァーさんを見て、申し訳なさそうにしてこう言ったのだ。
『……手刀で気絶させるというのは、かなり難しいのですよ? 失敗しても怒らないでほしいということを約束してくださいましたら、やりますが』
『……………はぁ。わかった。それでいいからやってくれ』
『わかりました』
クルーザァーさんはそれを聞いて、溜息を吐きながらそれでもいいというと、それを聞いていたティティさんはこくりと頷いて、そのまま作戦実行に移して――
現在に至る。ということである。
みんなやヘルナイトさん、そして最後に出てきたガザドラさんが出たところで、クルーザァーさんは私達を見ながらこう言う。
「ああ、ここは敵の本拠地の一つだ。気を抜くな。気絶させた輩はそのままどこかにほっぽって拘束しろ」
「だね」
と、ボルドさんはクルーザァーさんの言葉を聞いて頷いてからガザドラさんの方を見て、傍らに落ちていた銃をそっと拾ってから、ボルドさんはガザドラさんを見て聞いた。
「ガザドラ君――この銃も糸状にして操ることってできるのかい?」
「む? それも元々は金属でできているのだろう? まぁ銃を操ったことはないが、やってみよう」
ガザドラさんはボルドさんに近付いて、敵が落とした拳銃を手にしようと伸ばした時……、それを見ていたギンロさんはガザドラさんの手頸をガシッと掴んで――
「待って待って! マジでそれうねうね~ってしちまうのっ!? マジでそれロープの代わりにしちまうのっ!? 弾丸入っているのにっ? 使えるのにっ?」
と、作り替えるのをやめてほしいと、悲しそうに願っているギンロさんを見たガザドラさんは、うっと唸りながら青ざめた顔をしてギンロさんを見降ろす。その光景を見ていたダディエルさんは呆れたかのような顔をして溜息を吐きながら――
「お前なぁ……、今は緊急事態なんだぞ? それにそんな銃」
「そんなんじゃねえぞこれはっっ!」と、ダディエルさんの言葉を遮るように、興奮した面持ちでギンロさんは大きな声で力説しながら、ガザドラさんが持っている銃についてこう語った。
……その大きな声を聞いて慌ててしまっている私達をしり目に……。気付かれてしまうと口に指を添えながら言う私達をしり目に……。
ギンロさんはこう言った。
「これはMCOでもレア級クラスの武器で、課金しないと手に入らねえ代物なんだぞっ!? この銃のモデルはあのオーストリアの銃製造会社で作られた軍用小銃――ステアーAGU! ここでは『シュナイダー』っていう名前で売られているけどよ……っ! このフォルムは滅多にお目にかかれないもんなんだっ! 滅多にお目にかかれない、おさわりできない代物なんだぞっ!? しかも課金五万円!」
「高ぇ……っ! じゃねぇ! おいギンロ、そんな力説している暇ねえだろ? 少しは頭を」
「冷やしてどうするんだよっ! こんなレアモンお目にかかれることなんて滅多にねえんだっ! 少しだけ触ってもいいだろう!? 舐めてもいいだろうっ!?」
「うんだめだ。あと汚ねぇ」
「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
ギンロさんの銃に関する知識を聞いていたダディエルさんは、心底嫌そうな顔をしてその銃を呆気なくガザドラさんに渡した。
それを見たギンロさんは悲しみの絶叫を上げながら地面に膝をついて泣き崩れてしまった。その姿を見ても、誰も手を差し伸べる人はいなかった。
アキにぃもショックを受けながらその光景を見て、絶句している。それを見ていたシェーラちゃんは、呆れた顔をして溜息を吐きながら首を振り――
「…………男ってなんであんなに熱くなるものなのかしら……」と、頭を抱えながら心底会入れたような音色で言う。
でも……、何だろう……。こう、背筋の下から上に向かって何か
こんな熱い時なのだ――寒いなんて感じていないのに、なぜか、寒気を感じた……。
そんな光景を見ていたリンドーさんは、「しぃーっ!」っと口元に人差し指を添えながら、小さな声で――
「静かにしてください……っ! このままだと音もなく侵入したことがばれ」
「いたぞっっ!」
「おい! あいつら!」
「ほらあああああああっっっ!」
と、リンドーさんは未だに叫んでいるギンロさんに向かって静かにしてほしいと願った瞬間……、突然少し遠くの方に言っていた二人の機動隊の服を着た人達が駆け出してこっちに向かって走ってきたのだ。
それを見た私達は、ぎょっとして目を見開いて、そしてリンドーさんは冷や汗をかいた笑みを浮かべながら泣き叫んでしまう。
二人の機動隊の服を着た人達は、さっきの人が持っていた同じ銃をジャキリと構えて、驚きながらも自分の武器を構えている私達に、その銃口を向けながらこんなことを話していた。
「お、おいこいつら侵入者だ! ガーディアンを浄化しようとしている輩の一派だ!」
「しかもあのアクロマが言っていた通りの人相達だ。今は一人いないから戦力も落ちているはず――あの小娘を先に捕まえろっ! 後は殺すぞ! いいな――
「オーケーだ
「?」
あれ? と、私は疑念を抱いた。たった今言った言葉に対して、私は疑念を抱いたのだ。決して名前の件で疑念を抱いたわけではない。
機動隊の人達は今――私達のことを見て、一目見て私達をガーディアンを浄化しようとしている集団だと言った。しかも私を殺さないで捕まえることを優先にしようとしている。
そこまではいい。
そこまではなんとなくスナッティさんの内通で知っていることだろう。そこまではいい。そこまではいいんだけど……。そのあとの言葉に、私は違和感を覚えたのだ。
この人達は――紅さんがいないことを知っている。
スナッティさんのことだから前もってみんなのことを話しているのならわかるんだけど……、その人達はこう言った。
今は一人いない。
今は。いない。
スナッティさんがいないのに、スナッティさんがいない時の情報を、この人達は知っていた。つまり……。
スナッティさんという内通者がいないにも関わらず、私達の情報が筒抜け状態にあったのだ。
「スナッティがいないのに情報が筒抜けじゃない!」
「誰かあの光景を見ていたってのかっ!?」
「だあああもぉ! 何がどうなっているんだよぉおお!」
私と同じことを考えていたのか――シェーラちゃん、キョウヤさん、アキにぃが慌てて武器を構える中、それを聞いていたクルーザァーさんはふっと、鼻で笑うような微笑みを浮かべながら……、彼は小さな声で。
「――やはりな」と言っていた。
「? ??」
私はそれを聞いて、一体何がやはりなのかがよくわからずに、頭の上で疑問符の大量生産をしていると、シェーラちゃん達の話を聞いていたガザドラさんは、懐に差し入れている短剣を引き抜いて、その剣先を機動隊の服を着た二人に剣先を向けて――
「疑念を抱くのは後ででもできるっ! 今はこの場をどうにかするぞっ!」と言って、ガザドラさんはその短剣の刃を、飴細工のようにぐねっとうねらせると――彼は叫んだ。
「
叫んだと同時に、飴細工のようになっていた短剣の刃が、突然消えた。
「?」それを見た誰もが首を傾げ、短剣の刃がどこに行ったのかときょろきょろと辺りを見回して見ていたけど、どこにもない。一体どこに言ったのだろうと思いながら辺りを見回していると――
「もう終わっているぞ」
と、ヘルナイトさんは目の前をちょいちょいと指をさしながら、凛とした声で言うと、それを聞いていたティティさんも、近くでぶるぶると震えている機動隊の服を着た男達を見て――
「まさかの早業ですね。見えない糸で相手を拘束ですか。あなたの魔祖は本当に便利です」
と、感服したかのような顔でガザドラさんを見たティティさん。
私はそれを聞いてじっと目を凝らして、ぶるぶると震えて構えたまま固まっている人達を凝視すると……。腕のところから、ちかりと光る何かを発見した。
「あ」私は声を上げる。
すると――みんなもそれを聞いて私と同じように凝視して、同じように「あ」と声を漏らす。
驚いて声を上げた理由。それは――
ガザドラさんが持っていた短剣の柄から――眼を細めないという僅かしか見えない様な極細の銀色の糸が伸びているのだ。それも何千本も。ルアーの糸のように、蜘蛛の糸のように伸びている。
その糸は倒れた男と銃を構えていた二人の男達の腕や足、よくよく見たら指先や腕や足、色んな箇所のの関節にまで引っかかっている。口元にも猿轡をかけるようにして拘束しているのがわかる。
「マジかよ……。全然見えなかったぞ」
ガルーラさんが驚いた声を上げながら言うと、それを聞いていたガザドラさんはその力を解かずに私達の方を向きながら口を開こうとした――
刹那。
「――見つけたぞ、侵入者!」
と、上から声が聞こえた。
その声を聞いた私達は驚きながら上を向いて、使われていない煙突の上に立っている女性を見て、私とヘルナイトさん以外のみんなが「あ!」と声を上げて見上げていた。
私はその人を初めて見るので、きっと私とヘルナイトさんがいない時にみんなが出会った人なのだろうと思いながら怒りの眼で私達を見降ろして、箱のようなものがつけられている長い銃を肩にかけて、ギンロさんのように構えながら私達を見ていたのは――褐色の肌の女性だった。
女性と言うよりはアスリートのような姿をした女性で、筋肉がすごい人だというのが私の感想であった。それくらい褐色の肌に女性とは思えない筋肉の付き具合とタンクトップからでもわかる様な腹部の割れ具合が、その人の勇ましさとパワフルさを見せつける。正直……、怖いくらいだ。黒いウェーブかかったロングヘアーに黒いサングラス。迷彩柄のズボンに黒い編み上げブーツ。背には大きな銃を背負っているアーミーな女性は私達を見降ろしながら肩からぶら下げているその銃を構えて――こう叫んだ。
「あの時はよくも恥をかかせたね……、私達を怒らせるとどうなるか……、思い知るがいいっ!」
その女性は私達にその銃口を突き付け、上から連続で狙撃する様に――私達を睨みつけながら言い放ったのだった。
驚いている私を置き去りにしながら、その人は私達に向かって怒鳴ったのだった。
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