PLAY53 BC・BATTLEⅠ(スタートゴング) ④

「と言うか……、この先マジで暗いなぁ……」


 みんな決意を固めて『デノス』へと続く道をじっと見ていると、キョウヤさんはその先を凝視しながら呟く。


 目を凝らしながらその先を見るけど、どうやら本当に暗いらしい。


 キョウヤさんは目がいいみたいなんだけど、それでも見えないということは……。


「キョウヤが見えないということは、相当暗いよね……? ちょっと大丈夫なのか不安になってきた」

「そんな小さなことで震え上がるでない。ただの暗闇で怖がる行為は己の弱さを露見しているのと同じじゃ。ただ明るい世界がないだけ――月などない夜と思えば大したことない」


 アキにぃの零れてしまった弱音を聞いて、虎次郎さんは目をキリッと厳しそうな横目でアキにぃを一瞥してから厳しいと感じてしまいそうな音色で言う。


 それを聞いていたシェーラちゃんは呆れた顔をして「それを言うなら外灯もないトンネルの中でもいいんじゃない?」と肩を竦めながら言うと、それを聞いていたボルドさんはびくびくとしている表情で――


「……どっちも嫌な空間だなぁ」


 と、怯えながら小さく突っ込みを入れていたけど、誰も聞いてはいなかった。


 クルーザァーさんはその向こうを見ながら呆れた溜息を吐いて一言……。


「こっちには光があるんだ。ただ暗いくらいで怯えることは」


 と言った瞬間。ふっと――。クルーザァーさんの声に応じたかのように、どんどん辺りが暗くなってくる。


 私は慌てながらきょろきょろと辺りを見回して、そしてその光がどんどん小さくなっていくところを見た瞬間、ざぁっと――全身の血の気が引いた。


 みんなは私よりは青ざめていないけど、驚いた目をしてヘルナイトさんの、腰に辺りにあるカンテラを凝視した。



 カンテラの光が――瘴輝石の光が、どんどん小さくなっているのだ。



 それを見たボルドさんは「えええっ!? こんな時にぃっ? まって! 消えないでっ! タイムだよぉ!」と、泣きそうな声を上げながら大泣きになって叫ぶと、それを聞いていたクルーザァーさんは呆れながらシェーラちゃんとダディエルさんを見て――


「二人とも――消えたと同時に炎属性のスキルを出せ。初級のそれでいい。消えたと同時にすぐに発動。いいな」


 と、二人に向かって言うと、シェーラちゃんとダディエルさんはぎょっとしながら驚いていたけど、すぐに頷くと……。


 ダディエルさんは右手の人差し指を突き立てて、シェーラちゃんは剣を抜刀してその剣先を誰もいないところに突きつける。


「~~~~~~~~っ!」


 私はどんどん暗くなる世界に、不安と恐怖、そして迫りくる異常な何かを感じながら、私は近くにいたヘルナイトさんにしがみついてしまう。ぎゅっと――寄りかかるように。


「っ?」


 それを受けたヘルナイトさんは、驚いた声を上げていたけど、その声と同時に――


 ふっと――世界が真っ黒に染まってしまった。そして――クルーザァーさんは声を上げる。クルーザァーさんの声を合図に、ダディエルさんとシェーラちゃんはすぐに……。



「『フィア』ッ!」

属性剣技魔法エレメントウェポン・スペル――『火剣フィア・サーベル』」



 と言って、ダディエルさんのその指の先に小さな炎を。シェーラちゃんはその剣先に炎をぼっと出して、まるでガスバーナーのように炎を出した。


 めらり。めらりと燃えるその炎は、あの時のカンテラの光と同等の明るさを放っていて、一瞬暗くなった世界が明るさを取り戻していき、下水道を照らしてくれる。


 それを見た私は、ヘルナイトさんに抱き着きながらほっと胸を撫で下ろしてその光景を見る。


「っ。はぁー」


 ティズ君も安堵の息を吐きながら胸に手を当てて撫で下ろしているところから見るに、ティズ君も暗いところが苦手なのだろう……。私はティズ君を見て親近感を覚えた――気がした。


 ティティさんはそんなティズ君を見て、安堵の息を吐きながらぎゅっとティズ君を抱きしめて「心配してしまいましたよ……っ! もぅ!」と言いながら、ティズ君の首に抱き着くようにぎゅうっと抱きしめるティティさん。


 そのせいなのかはわからない。でも……。


 ティズ君は手をぶんぶん振りながら苦しそうにもがいていた……。


「よぉし。これで大丈夫だな」


 ダディエルさんの言葉に、メウラヴダーさんとガルーラさんは頷き、壁に張り付くようにこわばっていたギンロさんも、小さい声で震えながら「ふぁ……ふぇい……」と返事をした。


「ヘルナイト。そう言えばカンテラは? もう使えないのか?」


 キョウヤさんは槍を構えたままヘルナイトさんの方を向いて聞くと、ヘルナイトさんははっとして、すぐに腰の辺りを見てから、私の存在に気付いて、私の頭をそっと撫でながら「もう大丈夫だ。暗くない」と言って、優しい音色で語りかけてくれた。


 それを聞いて、さっきまで暗い世界だったそれが、明るくてみんなが見える世界を見た私は、ほっとしてヘルナイトさんの言葉に頷いて、そっとその場から離れる。


「えっと……、ごめんなさい。突然あんなことをして……」


 私は申し訳なさそうに謝ると、それを聞いていたヘルナイトさんは首を横に振りながら「平気だ。それに不快な思いはしてない」と、はっきりとした凛としている音色で言うヘルナイトさん。


 私はそれを聞いて、心の奥から込み上げてくるこそばゆさを感じながら、小さく返事をして頷く。


 それを見ていたガザドラさんは、腰に手を当てながら「ははは!」と豪快に笑って――


「蜥蜴人でも人間でも、どんな種族でも怖いものくらいある! そんなに恥ずかしがるでないぞっ!」と、私に向かって笑いかけながら言う。


 それを聞いて、私は「えっと……はい」と言いながら、私は内心ガザドラさんに感謝しながらお礼を述べた。ガザドラさんはそれを聞いて「よいよい!」と手を振って少し照れながら言葉を返していたけど………。


「んんんんぐぐぐぐくうううぎぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ」

「どこから声だしてんだてめえっ! 怖いって!」

「異常ね。あんたのそのシスコン」

「アキさんのこの顔……写メに残しておきたいようが笑劇映像ですね」

だよな? オレにはと言う言葉にしかとらえられなかったけど? それ、どっちが正解なんだ?」

「………………」

「うぉいっ! 無言やめろっ!」


 アキにぃの声にならないような……、と言うか、言語なのかすらわからないような言葉を放って唸っていたアキにぃの声を聞いた私は、その方向を見て驚きながらアキにぃを見た。


 アキにぃは何と例えればいいのだろうか……、黒い肌にエルフなのに額からうねっている角を生やして、鬼から鬼神に進化してしまったかのようなその顔で、ヘルナイトさんに向かって拳銃二丁構えながら発砲しようとしていた。


 それを見ていたキョウヤさんは、いつものようにアキにぃを止めながら慌てて、その光景を見ていたシェーラちゃんとリンドーさんはアキにぃを見ながら驚きの声を上げていた。


 けどキョウヤさんは、リンドーさんの言葉に違和感を抱いたみたいで、追及するように聞いたけど、リンドーさんはそのままそっぽを向きながら無言を徹している。


 その光景を見ていたキョウヤさんは疑念が確信に変わってしまったのか、怒りを露にして怒鳴りつけた……。


 その光景を見ていた私は、一体何があったんだろうと思いながら、アキにぃのことを心配そうに見ていた……。


 すると――


「ダメだな」


 ヘルナイトさんは言った。はっきりとした音色で言った。


 それを聞いたみんなは一斉にヘルナイトさんの方を見て、ヘルナイトさんが持っているカンテラを凝視しながらみんな黙っていた。


 少しの間――静寂があたりを包む。ぴちょんっと、下水の水が音を立てる。ドロドロの水面が波を打つように揺らぐ。


 すると……、ヘルナイトさんの言葉を聞いていたメウラヴダーさんが、驚いた顔のままヘルナイトさんに向かって――こう聞く。


「……ダメ。ということは、もうそのカンテラは……」

「ああ、。今日は使えないだろう」


 ヘルナイトさんはそのカンテラの中にあった瘴輝石を取り出して、もうチカチカと弱々しく光っているその瘴輝石を手に取って言った。


 その言葉を聞いていたギンロさんは、へばりついていたその壁から離れて、ギンロさんはヘルナイトさんの方を振り向きながら「回数?」と聞く。


 その言葉を聞いていたティティさんは、ティズ君の抱きしめをやめてから、ギンロさんの方を冷たい眼で見てから、ティティさんはこう言う (背後でティズ君は大きく深呼吸をしながら、自分の肺にたくさんの汚い酸素を取り込んでいた)。


「ギンロ様。あなた瘴輝石のことを何にも、これっぽっちも知らないのですか? いいですが? 瘴輝石は確かに魔力が込められた聖霊族の魂の石にして魔法の石ですが、無限ではないのです。その使える回数にも限度があります。エクリションクラスであれば四回から七回くらい。イグニッションクラスだと普通なら二回か三回。一回しか使えない石もありますが、まれにそれ以上の回数を使える石もあると聞いております。今武神様が持っているその石は、どうやらエクリションクラスの四回。つまりはそうなってしまったら今日はもう使えないということになります。ですが明日になればまた四回使えます」


 わかりましたか? 


 ティティさんはまるで女教師のように睨みを聞かせながら、ギンロさんの方を向く。


 ギンロさんはそんなティティさんを見て、驚いた目をしてから汗をたらりと流して――こくこくと頷きながら「わ、わかりました……」と言いながら後ずさりしてティティさんから距離を置いた。


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんに手にあるその石を見て――そしてヘルナイトさんを見上げながら……。


「その石、持っていきますか?」と聞くと、ヘルナイトさんはすぐに「ああ」と言って――


「言い方は悪いかもしれないが……、この石はかなり使いようがある。このままここに置いて行くことはしたくないな」と、凛とした音色で言った。


 それを聞いていたシェーラちゃんは、剣先に炎を出しながらうんうんと頷いて、「松明いらずだもんね」と、ヘルナイトさんの意見に同意のそれを上げた。


 それを聞いたヘルナイトさんは、その石をぎゅうっと自分の手の中で握りしめて、それを私にそっと手渡す。私はそれを見て、その力をなくしかけている石を両手で包み込むように手に取ってから、そのまま私はそれをウエストポーチに入れる。


 クルーザァーさんはそれを見て、「よし」と、声を上げながら鉄格子の向こうの世界を見つめてから――


「――思わぬアクシデントだったが、これで先に進めるな」


 すぐに向かおう。


 そう言うと同時に、クルーザァーさんは早足でその暗い世界に向かって歩みを進める。それを見たダディエルさんは慌てながらクルーザァーさんに制止をかけて――


「おいおい! そんなに慌てるなって! 足元見えないんだろうっ? 俺が前を歩くから――って! おい聞いてんのかっ?」


 と叫びながら、クルーザァーさんの後を追うように先に進んでしまう。


 それを見ていたみんなは、互いの顔を見て頷き合いながら――シェーラちゃんを筆頭に歩みを進める。


 私はそれを見て、暗くなる世界に恐怖を覚えながら、ヘルナイトさんの手を取って、ヘルナイトさんの手に引かれながら歩みを進めて………。


 さっきのカンテラの明るさよりも、こっちの方がより明るく見えるのは気のせいではないだろう……。


 先頭を歩いているダディエルさん。そして後ろ――最後尾を歩いているシェーラちゃんが出している炎のおかげで……、一点だったそれが横に伸びて……、まるでトンネルの明かりを彷彿とさせているから、私はそれを感じながら安心感を感じていた。


 人間……、光がないと本当に怖くて体がすくんでしまうんだ。と思いながら……。


 そんなことを思いながら、ヘルナイトさんの手を握って歩みを進めていると、突然その進行が止まった。


 私はすぐに足を止めて、目の前にいるクルーザァーさんを見た。クルーザァーさんは無言になりながら上を見上げている。それを見ていたアキにぃが声を上げながら


「どうしましたーっ?」と聞くと、クルーザァーさんは上を見上げた状態で、ゆっくりとした動作で右手を上げて、その上に向けて――指をさした。


 その指が差された方向を見上げる私達。


 ダディエルさんとシェーラちゃんも炎をその上に向けながら、薄暗く姿を現したその存在を見上げる。



「あ」



 ティズ君が声を上げた。


 みんなもそれを見て、目を見開いていた。私も、ヘルナイトさんも……。


 クルーザァーさんが指をさした場所には……、円形の鉄板――小さな穴が開いているマンホールがあったのだ。しかもその傍に会ったのは鉄の梯子。私達がいる場所からマンホールに向かって伸びている。


 そのマンホールを見上げながら、クルーザァーさんは私を見てこう聞いた。


「お前――前にこんなことを言っていたよな? 魔導液晶地図ヴィジョレット・マップが使えないこの場所でも使える地図があると」

「……………あ」


 私はそれを聞いて、急いでウエストポーチからそれを取り出す。


まるでタブレットのようなそれを、アクアロイア王からもらった――ナヴィレットを取り出してクルーザァーさんに駆け寄って手渡す。


「……あること自体忘れていた……」

「エルフの里で使うはずだったんだけど、あんなことになったから仕方ないわよ」


 後ろからキョウヤさんとシェーラちゃんの声が聞こえたけど、事実である。


 アクアロイア王からもらったナヴィレットは、確かに地図の機能がついているそれだったけど、私達はそれを使うことがあまりなかった。というか使う機会があまりなかった。ただあることだけを知らせていただけの……、宝の持ち腐れ。


 本当ならエルフの里で使うと思っていたのだけど……、それも結局使うことなくあんなことになったので、ナヴィレットを使うのは、ここが初めてだった。


 クルーザァーさんはそのままナヴィレットを点けて、画面を凝視する。


 ぶわりと出てきたタブレットから出る光。そして画面に映る場所を見ると――


 私達が赤の点で、近くにある大きな円状の白い何かを見て、クルーザァーさんは「いいな」と言う。


 そしてナヴィレットの電源を切って私に返すと、クルーザァーさんは再度そのマンホールを見上げて、みんなを見ないで。みんなに向かってこう言った。


「――あのマンホールが入り口だ」と――



 □     □



 そのあとのことだけど、クルーザァーさんが最初に上って、地上を確認すると言って鉄の梯子を上って行った。


 かつん。かつんと――、鉄特有の響きが辺りに響いて、私達の緊張感を膨張させる。


 この下水道はドロドロの水がある他に、湿度も異常に多い。近くにドロドロの水があるからか、鉄柵には湿気で結露してしまった水滴がこびりついていた。


 それをグローブ越しに湿らせながら、細心の注意を払っているかのように、クルーザァーさんはどんどん上に向かって進んでいく。


 そして、ようやくマンホールの上に到達した。


 クルーザァーさんは登り切ったことで緊張していたのか、ふぅっと息を吐いて落ち着きを取り戻して、一呼吸置いてから、片手で鉄の梯子にしがみつくように、自分の体を固定して、マンホールに手をつけて、ぐっと押し出す。


『ズズズズズッ』と、鉄が擦れる音が聞こえる。


 そしてその擦れる音を出しながら、クルーザァーさんはマンホールの蓋を、ほんの少し開けたのだ。


 マンホールから差し込む僅かな光。その光はもう赤いそれになってて、もう夕方であることを示している。そんな状態で、クルーザァーさんはそのマンホールの外の世界を覗き込むようにして顔を少し動かし、差し込んでいるその光を見るように近付けると……。


 ………少しの間、沈黙してしまったクルーザァーさん。


「どうしたー? 見えたかー?」と、ギンロさんは腰に手を当てながら少し声を大きくして聞くと、クルーザァーさんは片手で押し出していたマンホールを元の位置に戻してから、そのまま流れるような動作で降りていく。


 下水道の地面に降り立ったクルーザァーさんは、みんなを見て――


「あっている。そして数人のプレイヤーが監視に回っている」と、上を指さしながらクルーザァーさんは言った。


「やっぱり……、彼の言葉に乗せられてきた人たちがいるのかな……?」


 ボルドさんはそのことを聞いて、いつものおどおどとした可愛らしい動作なんてしないで、真剣な顔で顎に手を当てながら唸っていた。


 すると――その話を聞いていた虎次郎さんは首を傾げながら目を点にして、クルーザァーさんを見ながらこんなことを聞いた。


「ん? が複数? その人数は何人じゃ?」

「見た限り……、二人くらいだったな。だがまだ隠れている可能性がある」

「何を言う。上、一六人が原則じゃろう? なら二人見たのなら完全に四人」

「いいや。あのアクロマのことだ」


 虎次郎さんの言葉を反論するかのように、ダディエルさんが首を横に振りながら言葉を遮る。虎次郎さんは遮られたことにより目をぱちくりと瞬きさせながらクルーザァーさんを見る。


 クルーザァーさんは言った。


「きっと徒党を組んで複数人で行動しているんだろう。分け前はちゃんと確保しておいて、用済みになったらすぐに消す。アクロマと言う男はそんな男だ」

「……徒党、か……」


 虎次郎さんはクルーザァーさんの言葉に納得しながら頷いて、その後「そうなると……、何人いるのか」と、腕を組んで考えながら言う。


 それを聞いたダディエルさんは、みんなのことを呼びながら自分に視線を集中させるようにして、指を突き立てた手をそっと上に上げて――ダディエルさんは私達にこう提案してきた。


「なぁ――徒党となるとかなり厄介だけどよ……。この際だ。ばらばらに分かれて、戦力が大きい奴とそうでないやつを分けた方がいいんじゃねえか? 戦力が大きい奴をアクロマのところに行かせるように」


 その言葉を聞いたみんなは『なるほどっ』という雰囲気で頷いてダディエルさんの話を聞く。その話を聞いていたガザドラさんはダディエルさんの方を見て――


「ならばすでに決まっていることがあるな。武神卿にハンナ。二人はアクロマのところに行く最前列チームに決定だ。攻撃においてチートの武神卿と、回復と、蘇生の力を持っているハンナがいればいい」


 と言う。


 それを聞いた私はぎょっとしながらガザドラさんを見て、少しわたわたと慌てながら私は汗を飛ばして反論した。


「えっと、私のような戦力外をアクロマのところに行かせるなんて……、せめてここはボルドさんか戦力の大きい人の方が……」

「いや。お前は最前列だ」


 私の決死の反論を遮ったのは――クルーザァーさんだった。私は驚いてクルーザァーさんを見ると……、クルーザァーさんはゴーグルでもわかる様な凄んだ目つきで私を睨みつけて、低い音色で私に向かって言う。


「確かに、MCOの時ならば、回復要因など役に立たないという定着がひどかった。が――今はそんな場合でも、そんなジンクスもぶっ壊れているんだ。今はお前のような強力回復要因が必要だ。だからお前は最前列の一員で行く。いいな?」

「それに、なぜハンナ様はそんなに己の力を過小評価しているのですか?」


 ティティさんはクルーザァーさんの言葉を遮りながら、私に駆け寄りながらこう言う。その近くにはティズ君も一緒だ。


 ティティさんは私を見降ろして、微笑みながらこう言う。


「回復。つまりは傷を癒す術を持っている所属や職業は、とても重宝されているのですよ? この地にはあなたのようなすごい腕の衛生士……。いいえ。メディックなんていなんです。ましてや――命の蘇生の術を持っているものがこの世にいるだなんて、思っても見ませんし、あなたの力だけで、私達の生命線が太くなっているのは本当なのですから」

「うむ! 貴様がいれば――吾輩達は安心だ!」

「……………………………そう、なんですか?」




「「そうです (そうだ))」」




 ティティさんとガザドラさんははっきりとした音色で、きっぱりときれいに声を揃えて言う。


 それを聞いた私は、少しもどかしい感覚を覚えながら、うーんっと俯いて、もじもじとしてしまう。決して、何かを我慢しているわけではない。ただ変な気持ちなだけで、ただ感じたことがない違和感に戸惑っているだけ。


「………不器用な照れ方ね」

「そこもいいんだよっ。ハンナは全てに於いて可愛いんだよっ!」

「キモイキモイ」


 ……なんだか、後ろでシェーラちゃんとアキにぃの声が聞こえるけど、何を言っているのかさっぱりわからなかった。


 と、ティティさんとガザドラさんの話を聞いていた私だけど、上からヘルナイトさんの声が聞こえて、私はそっと顔を上げる。すると――ヘルナイトさんは自分の胸に手を当てながら、凛とした音色でヘルナイトさんはこう言った。


「大丈夫だ――私がいる。私が君を守る。だから、安心してくれ」


 その言葉を聞いて、私はもどかしい感覚からこそばゆい感覚に切り替わって、めらめらと燃えて厚くなる顔を手で覆わず、スカートを握りしめながら私は、こくこくと頷く。無言でこくこくと頷く。


 それを見ていたヘルナイトさんは、首を傾げながら「どうした?」と聞いていたけど、ごめんなさい。今堪えられる状況じゃないです。


 周りから (特にギンロさんとリンドーさんの声が大きい) なんか『ひゅー。ひゅー』という声が聞こえて、アキにぃの唸り声が聞こえるけど……、その声を聞き取れるほど私は冷静ではない。


 なので私はその声を無視するかのように、俯いて帽子をぎゅっと握って黙ってしまった。


 それから。



「それでは――結果を言う。最前列のチームは、リヴァイヴからはヘルナイトとハンナ。カルバノグからはダディエルとリンドー。俺達ワーベンドからはティズと俺で行く。他は他の冒険者の足止めを頼む。殺しはしないこと。拘束・気絶出来次第合流。ティティ――これは決まったことだ。いつまでもべったりでいてもらうと困る。ちゃんと働け」



「分かりました。終わった後であなたを蹴飛ばします」

「よし――その私怨を取り除けるくらいしっかりちゃんと働け」


 ティティさんのその言葉を流すように言葉を返すクルーザァーさん。


 それを聞いたみんなは頷いて、再度小さな光が差し込むマンホールを見上げてボルドさんは言った。


「――いよいよ。だね」

「ああ……」


 ボルドさんの言葉にクルーザァーさんは頷きながらぐっと握り拳を作って呟くと、私達に目を移して、張り詰めた感情を私達に伝染させるようにして、声を張り上げながらこう言い放った。



「それでは――開始の合図スタート・ゴングだ」





 ◆     ◆



 砂の国における大きな戦いの一つ。



『BLACK COMPANY拘束作戦』



 開始――

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