PLAY53 BC・BATTLEⅠ(スタートゴング) ③

「え? この鉄格子の先にぃ?」

「てか、なんでこんなところに鉄格子が……」

「明らかに、『この先は絶対に通らないでください』と、言わんばかりの作りね。むかつく」


 アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんがその鉄格子を見ながら各々感想を言う。


 ガルバノグのみんなとワーベンドのみんなもそれを見ながら鉄格子を見上げて、床に突き刺さっているところを見て唖然としながらそれを見る。


「鉄格子を見ただけで……、何だろうな……。牢屋を連想しちまう。懐かしいな……」

「お前……、なんでそれを真っ先に連想しちまうの……? というか今なんて言った?」


 ギンロさんの言葉に、ダディエルさんは少し驚愕に染まってしまった顔でギンロさんを見る。


 あまりの衝撃的な発言に、ダディエルさんの近くにいたキョウヤさんとメウラヴダーさんは顔面蒼白になりながらギンロさんを凝視していた。


 引き攣った笑みを浮かべながら……。


 クルーザァーさんはその鉄格子を見上げて、そっと右手をその鉄格子に伸ばしてから『ひたり』と触れると、クルーザァーさんはヘルナイトさんの方を見て聞いた。


「本当にこの先にあるのか? あのヤブの言うことだ。きっとからかわれたとかだろう?」


 あ、案外信じていない……。


 私はクルーザァーさんの言葉を聞いて驚いていると、ヘルナイトさんは凛とした音色で――


「いいや。それはないと断言できる。嘘をつくような雰囲気は一ミリもなかった」と言った。


 はっきりと言ったヘルナイトさん。それを聞いたクルーザァーさんは、すぐに考える仕草をしてから黙り込んでしまい、そしてそのまま小さな声で「…………そうか」と言葉を零した。


「お? やけに素直だな。珍しい」


 ガルーラさんはクルーザァーさんを見て驚いた目をしながら言う。


 それを聞いていたクルーザァーさんは、ゴーグル越しにむっとした顔になってからガルーラさんをじろりと一瞥して……、「珍しいか? 俺がそんなに素直と言うことが」と聞くと、ガルーラさんは頷きながら「ああ」と言って――


「いつもなら厭味ったらしく『合理的ではない』とか、『不合理』とか言うくせに、今回は案外素直に聞くんだなーって思っちまって」


 と言うと、それを聞いていたクルーザァーさんは呆れたようにガルーラさんを見た後、小さな溜息を吐きながら肩を竦めてこう言ったのだ。


「……お前から見れば、俺はそんな風に映っていたのか。少々心が抉られたぞ」

「そんなすまし顔で言ってもあまり傷ついたように見えねえぞ」


 そんなクルーザァーを見て、ガルーラさんはえ? と言わんばかりの顔になってきょとんっとしていたけど、すぐに我に返ったのか、真顔になってクルーザァーさんに向かって言う。


 私はその光景を見ながら、あの時のことを思い出してしまった。あの時――それは……。



 紅さんの弾圧のような話し合い。



 発端と言われたら、あの話を切り出した紅さんだけど、首の言葉を吐いたのはクルーザァーさんだ。クルーザァーさんは何の躊躇いもなく、そして話し合いを裏で操っているかのような手際で、紅さんの首を進めていた。


 あれはまるで――冷徹な裁判官と同じだった。


 相手に対して感情なんて一切ない。与えないような冷たい話し合い。あんなの見たことがなかった。そして快く思えなかった。第一印象=クールが、今では冷酷に見えてしまうような光景だった。


 メウラヴダーさんはあの時からずっと――クルーザァーさんのことを睨んでいる。


 それはきっと……、あの光景を見て見る目が変わってしまったのだろう……。非常な奴だと……、きっと思っているかもしれない。


 メウラヴダーさんの思っていることは、きっと間違いではない。でも…………。


 私はあまり人のことを悪く思いたくない。


 はたから見れば優しいけど、悪く見るとその人の行動を許してしまうダメな人と言う印象を与えてしまうだろう。でも私は悪く思いたくない。ひどい。外道。お前は人なのか。


 そんな言葉が飛び交うかもしれない状況でも、私はそんなことを思いたくない。綺麗事と言われてもいい。紅さんのことを忘れたわけじゃない。恨んでもいないけど……、それでも誰かを恨むなんてことは、したくない。


 そう私は思った……。思いつめるように、ぎゅっと目を瞑りながらそう思っていると……。


「ハンナ」

「!」


 突然だった。上から声がしたので、私はその声がした方向を見上げて、目を開けると……、そこにいたのはヘルナイトさん。今私達の場所には、偶然にも誰もいない。みんな目の前にある鉄格子に夢中で、どうしたら取れるのかと模索しながら話し合っている。


 ………あの時とは大違いの、冷たくもない温かい話し合いだ。


 私はその光景を見て、再度あの時の光景を思い出してしまい、そっと俯いてしまう。


 ヘルナイトさんは私のその顔と顔色を見て、甲冑越しに浮かない顔をしてから、ヘルナイトさんは私の頭に手を置きながら――彼はこう聞いた。


「……何を考えていた?」


 何を考えていた。その言葉を聞いた瞬間、私はさっき思ったことをまた思い返す。俯いて、言葉にしたいけどできないようなもどかしさを顔に出しながら、私は黙ってしまう。


 いつもなら――この手のぬくもりを感じているだけですごく心が安らぐのに、今はそんなことはない。全くないのではなく、まるでフィルターがかかっているかのような違和感。


 だから――私は言えなかった。言わなかった。


 そんな私を見てか、ヘルナイトさんはそっと私の目の前でしゃがんで、頭に乗せているその手をどかさないで、ヘルナイトさんは私の目を見て――こう言った。


 凛としているけど、優しさの中にある厳しさを感じながら、私に向かってヘルナイトさんは言った。


「――確かに、あの場であんなことになったのは、とても心苦しいことだったかもしれない。が……、ハンナにとってすれば、正しくないことも、正しいという認識でいる人もいることも事実だ」

「…………………………」

「生きとし生けるものは、すべて一つの正解で動いているわけではない、一人一人が同じ思考で動いているわけではない。みんな違う思考をもって、意思を持って生きている。衝突も、別離も――その人物が考えた結果……。選択した結果なんだ」

「……紅さんがしたことは……、正しかったんでしょうか? クルーザァーさんがしたことは、正しい行為だったのでしょうか……?」

「わからない。わからないからこそ……、人は過ちを犯したりする。間違った選択をして、後悔して、その後悔を糧に生きて、失敗しないように生きる。何が正しくて、何が答えなのかなんて……誰も分からない。生きているうちに回答があるのは――だけだ。に、答えなんてない。正解なんてない」


 そう言った後、ヘルナイトさんはゆったりとした動作で、頭に置いている手とは反対の手で、自分の頭を抱えるようにして手を添えると、ヘルナイトさんは何かを思い出したかのように唸ってから、すぐに私を見て――


「だから、ハンナは気負いしなくてもいいと、私は思うぞ。紅殿もきっと、戻ってくる。信じよう。そして今は――紅殿のことを思うことも大事だが、それと同等に大事なことをするときだ。迷っている時間など、私達にはない」


 今は――目の前でできることをしよう。


 と言ったヘルナイトさん。


 それを聞いた私は、小さな、ほんの一粒のしこりを覚えていたけど、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、紅さんと同等に大事なこと――それはカルバノグのみんなとワーベントのみんなと共闘を組んだ理由……。


 帝国の入るために必要なカードキーを入手し、『BLACK COMPANY』のアクロマと『バロックワーズ』の完全拘束をして、ガーディアンの浄化をする。


 そのためにも、目の前にある壁――『BLACK COMPANY』が潜伏している『デノス』に侵入する。


「すぅ」


 私はそっと息を吸って、そのまま両手を顔の近くに添えてから、勢いをつけて――


「えいっ!」


 ――ぺちんっ! と、自分の頬を叩く。


 決意表明として、自分への自戒として、私は自分の頬を叩いた。


 本来ならもっと大きな音が出るはずなんだけど、私の腕力不足なのか、そんなの音はしなかった。


 小さな音だけが、空間に広がる。少し遠くで話しているみんなにも聞こえていないのだ。かなり小さかったことが見受けられた。


「~~~っっ」


 私は自分の頬からくる衝撃に驚きと痛みを感じながら、両頬に手を添えて唸る。と言うか、こんなことしなければよかったかな……。と言うか、また恥ずかしいことしてしまった気がする……。


 そう思いながら、ひりひりとくる衝撃を手で和らげながら、私は自分のした行為に再度恥ずかしさを覚えていると……。




 ひたり。




「!」


 私の手に覆いかぶさる大きくて温かい何か。それを感じた私は、驚いて目を開けてそれが何なのかと思いながら目で確認した瞬間……。


 目を見開いて、固まってしまった。


 固まったというより――フリーズ、だった。簡単に説明すると……。


 自分の頬に手を添えている私の手と重ねるように、ヘルナイトさんは私の手越しに私の顔に手を添えていたのだ。


 手を添えている本人は首を傾げながら私の顔を見ているけど、正直突然こんなことをされると……、何だろうか……。心臓が熱いような、と言うか頬も痛みから熱さに切り替わっている気が……、そんな気分が……。


 い、い、一体どういうことなのだろう……、これは。これは……。おぉぅ。


 抱きしめや頭を撫でるということ以外で、初めてしてもらったことでもあるので、私はこの後どうすればいいのか、頭の中で思考を巡らせていたけど、結局思い浮かばなくて、そのまま少しの間されるがままとなっていた。


 すると――


 ――ガチャン!


「あ、やったぁ!」

「「!」」


 リンドーさんの安堵の声が聞こえた。


 それを聞いたと同時に、ヘルナイトさんはそっと私の頬から手を離してすっと立ち上がりながら背後を振り向いて――「開いたか」と言って、すぐに私の方を向いて見降ろす。私のことを見降ろして、「?」と疑念の声を上げながら――


「どうした?」と聞く。


 私はそれを聞いて、こんな時に不謹慎だけど、なんだかどんどん膨れ上がってくる熱を頬に感じながら、私は首をふるふると横に振るう。


 ヘルナイトさんを見ないで俯きながら「だ、大丈夫えふっ」と、最後の方若干噛んでしまったけど、私はその言葉を言ってすぐにヘルナイトさんから一目散に離れるようにその場を後にする。


 ヘルナイトさんは一体何が起こったのかと言う顔で、首を傾げているだろう。


 でも私は正反対に、あんなことをされてから、一向に頬の熱が下がらないのだ。


 頭を撫でている時とは違う。


 指切りをした時とは違う。


 抱きしめてくれた時と違う。


 約束してくれた時と違う。


 一緒に――いてくれた時と……、全然違う。


 なんだろうか、あんなこと一回も…………。


 ………………。






 これは、だ。






 前にも、私は誰かにこうしてもらって、嬉しいと思ったことがある。目じりが熱くなった記憶がある。


 はっきりしている。覚えていないけど、してもらったという記憶がある。


 これが初めてではない……。私は昔。


 


 そう思いながら、私は再度ヘルナイトさんがいる後ろを振り向く。


 ヘルナイトさんは私に近付きながら頭に疑問符を浮かべていたけど……。


 この砂の地に来てから、私は自分の記憶に疑念を抱いてきている。


 最初はお母さんの記憶。


 それからどんどん思い出してきて、少しずつだけど自分の小さいときの記憶が甦ってきた高揚感があった。嬉しさがあった。


 でも……、その嬉しさと表裏になるように、不安がどんどん膨らんできている。疑念がどんどん膨らんできているのだ。


 ヘルナイトさんの声そっくりの人の声。その人のことを思い出すたびに……、私はどんどん疑念を抱いてしまう。




 ――私は、ヘルナイトさんと、どこかで出会ったことがあるのか? と……。




 □     □



「何していたのよあんた達」


 シェーラちゃんは腰に手を当てながらツンッとした顔をして私達のことをじっと見ていた。睨んではいないけど、はたから見れば睨んでいるように見えてしまうそれだった。


 私は駆け寄りながらさっきのことを心にしまい込んで「ごめんね……」と、申し訳なさそうに謝る。


 ヘルナイトさんも頭を軽く下げながら「すまないな」とシェーラちゃんに向かって謝ると、シェーラちゃんはツンッとしていた顔をもとの凛々しいそれに戻して、鼻で溜息を吐きながら――


「まぁいいわ。」と言って…………………。


「え? 開いた? 何が?」


 私は目を点にしてシェーラちゃんを見つめる。


 シェーラちゃんは「?」と声を上げて、一体何を言っているのかと思いながら、彼女はそのままくるりと鉄格子の方を見て、鉄格子の一部がドアのようになっているその場所を指さしながら――シェーラちゃんは言った。


「スキルを使って開けたのよ」

「スキル……」


 私はぽかんっとしながら、鉄格子のところにいるみんなを見る。


 みんな安堵の息を吐きながら鉄格子が開いたことを確認して喜びを噛み締めている。クルーザァーさんもやれやれと言わんばかりに、緊張の糸が解れたかのような顔をして肩の力を抜いている。


 その鉄格子の、鍵穴があったドアのところにいたのは――リンドーさん。


 リンドーさんは額に浮かび上がっていた脂汗を腕でぐっと拭いながらへらりと笑みを浮かべている。みんながリンドーさんのことをたたえているようだ。


 そんな称賛を浴びているリンドーさんの手に持っていたのは……。



 ブラスチック性の小さなカギだった。



「………鍵?」


 私は小さな声でいうと、それを聞いていたシェーラちゃんは私を見ないで、今称賛されているリンドーさんを見ながら、彼女はこう言った。


「リンドーって、シーフゥーでしょ? だから鍵がかかっている扉があるなら、『スキル『マスターキー』を使えばいいんじゃないか」って、アキが珍しくいいことを言ったのよ。それを聞いていたリンドーはあんまり気乗りじゃなかったけど、それでも時間をかけて開けてくれたってわけ」

「あ」


 私はまたもや記憶の箪笥から、忘れかけていたある情報が詰まったファイルを取り出して、開いて思い出す。


 それは――ゲーマーのメグちゃんが言っていたことだ。


『シーフゥーも捨てがたいのよねー。翔真はなんで戦士になっちゃったのよ。探検家でもよかったのに……。探検家になって、シーフゥーに上級所属のクラスアップをして、いろんなダンジョンを鍵がかかった宝箱や隠し通路に眠るレアアイテムとか楽々に手に入れられたのにぃ~』


 メグちゃんは凄くショックを受けたかのような顔をして机に突っ伏していたことを覚えている。


 そんなメグちゃんに、私は『なんでシーフゥーだと鍵を開けることができるの? 普通に鍵を使えばいいんじゃないの?』と、この時の私はまだ初心者で、MCOの仕組みとかやり方なんてまだ知って間もない時だったので、素朴な疑問を投げかけたのだ。


 正直なところ――鍵がかかっているなら、それ専用の鍵を見つければいいんじゃないか。と思っていたのだが……、メグちゃんはそんな私の言葉に対して、異常な怒りを覚えたのか、メグちゃんはばんっと、突っ伏していた机に置き、勢いをつけて机に両手を叩きつける。


 そしてメグちゃんは、私に怒りの顔をズズィッッ! と近付けながら――荒げた声で説明をした。



『そんな現実じみたことではだめなのっ! いい!? シーフゥーはねぇ……、物を盗むほかにも……、鍵付宝箱の開錠や、鍵がかかっている扉の開錠を難なくこなしてしまう窃盗のスペシャリスト! スキル『マスターキー』を習得すれば、隠された道が見つけることなんて容易いのよっ! ダンジョンのスペシャリストに攪乱のスペシャリスト! それがシーフゥー! なのに……、なんで翔真の阿呆は戦士を選んでしまったのだぁあああああああっ?』



 熱意溢れる熱弁を終えた直後、またしょーちゃんのことを思い出してしまったメグちゃんは、力がなくなってしまったかのようにまたもや机に突っ伏してしまった。


 それを見て、私は驚いたまま固まってしまい、目だけをぱちぱちと瞬きさせていたという……、なんともありふれた様な日常を思い出していた私。


 今となっては――あの日常が恋しいけど……、その前に私はそのことを思い出して、再度リンドーさんを見る。リンドーさんは頭を掻きながらみんなの「よくやった」や、「頑張った!」と言う声を浴びながら、リンドーさんは笑みを浮かべたまま「えへへ」と言って――


「いやー。ちょっと自信がなかったんですけど……、成功できてよかったですぅー。ポイントをそっちに振り分けておいて正解でした。」


 と、安堵の息を吐くように言う。


 そしてちょっと危ない発言をしているけど……、みんな喜んでいるから無理に話しかけられない……。


「……ちょっと危ない発言よ。今の」


 シェーラちゃんは呆れた顔をして引きつった顔を浮かべながら小さく呟く。それを聞いていた私はうんうんっと頷きながら、同意の行動をする。


 それを聞いていたヘルナイトさんは、「ふむ」と言いながらリンドーさんを見て……。


「異国の力か……。興味深いが、一体どうなっているんだ? どういう仕組みで鍵がなくなったあのドアを開けることができたんだ……?」


 と言いながら、リンドーさんのそのカギを見て、開いた鉄格子のドアを見たヘルナイトさんは、真剣に悩んでいる音色で呟いた。


 そんな疑念を抱いていたのは――ガザドラさんとティティさんも同様で、腕を組みながらリンドーさんと開いた鉄格子のそれを見て、首を捻りに捻りながら頭の疑問符を消すために、思考をフルに稼働させて――どういう仕組みでできているのかと考えを巡らせていた。


 それを見ていた私とシェーラちゃんは、少し引き攣った笑みを浮かべてその光景を見ている……。内心焦りながら……。


 正直な話……、ゲームのスキルで開けることが出来ただなんて……、口が裂けても言えない。と言うか、信じてもらえないだろう……。うん。


「えっと、まぁ――シーフゥーの実力の一つってところかしら。鍵がかかっている部屋の開錠もお手の物よ」


 きっとね。


 シェーラちゃんはヘルナイトさんを見上げながら何とか誤魔化そうと言うと、それを聞いたヘルナイトさんはこくりと頷いて「なるほどな」と納得してくれた。


 それを聞いた私達はほっと胸を撫で下ろして――シェーラちゃんは気を引き締めるかのように凛々しい表情になって、再度その扉を見る。私もその扉の向こうを見る。


 扉の先に広がっているのは、ただの闇。一寸先は闇と言う諺と同じような世界が、鉄格子が開いた向こう側の世界に広がっている。


 別世界のような、そんな雰囲気を醸し出しながら……。もしゃもしゃは、感じられない。この先にも魔物はいないのだろう……。そう思っていると……。


「……この先だが」


 と、クルーザァーさんは私達の方を振り向きながら、鉄格子の先を指さして冷たい音色でこう言った。ううん。私達に聞いたんだ。


「きっとこのまま進めば、後戻りはできないだろう。これは――ゲームの話じゃない。現実の話だ。先に進むのならば、死ぬ覚悟を持っていくことを進める。そうでないのならこの場所でずっと待機していろ。今回は強要しない。俺はこのまま先に進む」


 と言って、クルーザァーさんは鉄格子のドアからすっとその先に歩みを進めて、途中で止まりながら私達に向かって聞いた。


「で? 回答は?」と聞いた瞬間だった。


 最初にそのドアを通り過ぎたのは――ダディエルさん。この作戦に一番力を入れているのだ。この好機を逃すはずはない。


 その後に続いて、ギンロさん、ガルーラさん、メウラヴダーさん、ガザドラさん。


 少ししてから、ティズ君とそのあとに続いてはいるティティさん。そしてリンドーさんに、ボルドさん。そしてすぐにアキにぃとキョウヤさん、虎次郎さんにシェーラちゃん……。


 私の前に入って行くヘルナイトさん。そして――


 私はそのドアを見て、向こうにいるみんなを見て、一回深い深呼吸をする。息を整えて――心を切り替える。気持ちを切り替えて、目の前のことをなすために行動する。


 そう心に刻みながら私はきゅっと顎を引いて、前を見据えて、そのまま――



 ――かつんっ!



 と、鉄格子のドアの向こうに足を踏み入れる。


 私はそのままぴしっと気を付けをするように立って、クルーザァーさんを見上げてから私は声を張り上げるように大きな声で――



「当り前の回答ですっ。このまま――私は進みます」



 もう、これ以上この地で、悲しみの連鎖を起こしたくありません。


 そうはっきりと言った。

 

 それを聞いたクルーザァーさんは一瞬ポカンッとして私を見下ろしていたけどすぐにふっと鼻で笑って、背後でその光景を見て笑みを浮かべていたみんなを見て、私を見ないでクルーザァーさんは――


「少しはマシになった」と言って、そのまま目の前に広がる闇を見ながら――クルーザァーさんはみんなに向かってこう言った。



「さぁ――突入だ」



 私達の攻撃開始の合図が、今――狼煙を上げた瞬間だった。

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