PLAY53 BC・BATTLEⅠ(スタートゴング) ②
「う、うええええええええ……っ! 気持ち悪りぃぃぃ~」
「……、まさか下水真っ逆さまだったとは……、な」
「ひぃいいいいい……、体中にべたべたとくっついてきているぅうううううっ。無視とは違う気色悪さがぼくを襲っているぅぅぅぅぅっ。すごく臭いですよぉ……、おすそ分け」
「するなっっ! おぅいリンドーッッ! お前なに人の服にごしごしこすりつけてんだっっ! やめろ俺の一張羅がっっっ!」
「男がギャーギャー喚くなって……、あたしは裸に近かったから……、まぁ体にこびりつく程度だった……、ぜ」
「その割には目が死んでいるぞガルーラ。まぁ――俺のようにちゃんと先のことを考えておけばよかったんだがな」
「………………」
「ティズッッ! ティズッッ! あぁ、なんてことでしょう……っ! ティズの目が死んだ魚のような眼に……っっ!」
「……その目は誰もがそうなるであろう……。俺……、じゃない。吾輩もそうだったからな……っ! 危うく俺……っ! じゃない。吾輩もどろどろまみれになるところだった……」
「………僕、これからは泳ぐ練習をしておくよ……。何とか犬かきは習得しておかないと……」
あの後私達は、ヘルナイトさんのスキルのおかげでゆっくりと降下しながら降りることができた。
風の絨毯はまるで魔法の絨毯の様で (私は一回体験していた) 、シェーラちゃんはそれに座りながらうきうきとした顔で「快適」と言っていたくらい、その風は本当にゆったりと降りていた。
現代で言うところのエレベーターの様だ。
そんな快適な時間はあっという間に過ぎた。というか……、トンネルから抜けるように突然その空間が視界一杯に広がったのだ。
――さっきまで私達がいた場所……『奈落迷宮』に。
その場所を見ていたキョウヤさんは、大きな溜息を吐きながら「まぁたここに来ちまったな……」と言う。
アキにぃもその言葉には同意の意見なのか、こくこくと頷きながら「うんうん」と言う。
そして――下から声がしたので、そのまま下を向くと……、地獄のような風景が見えていた。
その情景を詳しく説明すると……。
ダディエルさんとメウラヴダーさん、そしてガルーラさんは命からがらと言う雰囲気を出しながら両手を地面につけて、ぜーぜーっと荒い呼吸を繰り返している。
その傍らにはクルーザァーさんが呆れながら腕を組んでその三人を見降ろしていたけど、ティティさんは白目をむきながら顔面蒼白になっているティズ君を支えて、泣きそうになりながら慌てふためいている。
ギンロさんとリンドーさんは、慌てふためいているガザドラさんの足を掴みながらまるでホラー映画のように引きずり込もうとしていた……。
下水の中央で手をバシャバシャと水面に叩きつけながら溺れているボルドさんを無視して……。
私達はそれを見て、一体何がどうなっているのだろうと思いながら、カオスと化しているその空間を少しの間見下ろしていた。
でも私はすぐに現実に戻って、その下を見降ろしながらみんなに「助けないと」と呼びかけるけど、それを聞いていたクルーザァーさんは私の声を聞いて、その声がした方向を見上げながら、と言うか……、私のことを睨みつけながらクルーザァーさんは――
「手を出すな。これは――俺達の問題だ」と言って、私達の加勢を許さなかった……。
それからはみんなが自力で (というかボルドさん待ち) 上がるのを待った後、私達は泥水に入らずにそのまま陸地に降り立ってデノスへと続くあの場所に向かうことになった。
最初こそ「なんで言わなかったんだ」とか……、「こうなこと知っていたのなら教えてほしかった」とか……色んな罵倒の声が聞こえたけど、アキにぃ達は正直に、「先に行ってしまったから言えなかった」と供述。
その供述を聞いたみんなは、それ以上言葉を紡ぐことなんてなかった。
そしてみんなそれ以上の罵倒を口にしないで、ヘルナイトさんの案内の元――私が恥ずかしい思いをしたあの場所へと足を進めて、みんな縦一列になって付いて行くことになった。
因みに、最初に会話は上から……、ダディエルさん、メウラヴダーさん、リンドーさん、ギンロさん、ガルーラさん、クルーザァーさん、ティズ君にティティさん、そしてガザドラさんにボルドさんと言う順番になる。
みんながみんな……。ドロドロの体で『べちゃ』、『べちゃ』と、靴の中に入ってしまったぬかるみに音を立てて歩みを進めて、染み込んでしまった服から滴り落ちるそれを地面に落として歩みを進めている。
みんな――顔面蒼白や気色悪いという顔、泣きそうな顔に死んだ魚のような目をして……、重い溜息を吐きながら歩みを進めて、私達の後ろから歩みを進めていた……。
「……俺達も、落ちた時あれだったからお相子」と、アキにぃは小さく呟いたけど、それを聞いていたキョウヤさんは拳を振り上げて、アキにぃの後頭部にその拳を『ゴチン』と振り下ろして叩く。
それを受けたアキにぃは痛みで顔を歪ませながら「あいてっ」と声を上げる。
私はそれを見て、控えめに微笑みながら楽しそうだなぁ……。と思いながらアキにぃ達を見ていた……。
――それから、少しずつ目的の場所に近付いて行きながら歩みを進めていると……。
突然、とある人物が声を上げたのだ。
「にしてもなげぇなぁ……」
声を上げた人物は――ガルーラさん。
ガルーラさんは今私達が歩いている『奈落迷宮』の天井を見上げながら、ふとこんな言葉を呟いたのだ。すごく物足りないような顔をして……。
それを聞いていたギンロさんも同意の意見を上げながら「だよなー」と、腕を組みながら頷いていた。みんなもそんな反応である。
確かに、落ちたところから歩きだしてから……、もう一時間は歩いただろう。魔物がいないこともあって、その時間の長さは永遠にも感じられてしまう。
魔物がいないのはオグトが食べてしまったせいでもあることは、すでにみんなには報告済み。つまるところ――
今現在このダンジョンは――誰もいない。魔物も一匹もいない蛻の殻状態に等しいのだ。
魔物がいない、ただだだ広いダンジョン。何のスリリングもないし何の恐怖もない。ただ広いだけの空間を歩くだけのそれなので、ガルーラさんはきっと暇だったのか、その迷宮の天井を見上げながら、思ったことを口にしたのだと、私は思った。
ガルーラさんは後頭部を手で抱えながら――
「長すぎて、退屈死しそうな長さだな……」と言った。
それを聞いていたギンロさんはうんうん頷きながら腕を組んで「……だよな」と言う。それを聞いていたみんなも頷いていた。
私はそれを聞いて、仕方ないと思う反面――ガルーラさんの意見には確かにと思うことがあった。
この迷宮には確かに魔物はいない。オグトがどのくらいその魔物を食べてしまったのかは、最初こそわからなかった。でも今改めて痛感される……。
オグトはきっと、この迷宮に住んでいた殆どの魔物を食べてしまったのだろう……。と。
「………仕方がないだろう。『六芒星』のオグトが魔物を食べつくしてしまったせいで、この迷宮にはほとんどの魔物がいないらしい……。生き残っていた魔物もきっと、この迷宮から外に出て、安全な住みどころに向かって出て行ってしまったのかもしれない。オグトがいたおかげで戦わずに行けることもあるが、そのせいでこの迷宮が完全なる無人無者の場と化してしまった」
ヘルナイトさんは、片手に持っていたカンテラで辺りを照らしながら歩みを進めて行く。そんなヘルナイトさんの言葉を聞いていたガザドラさんは、「うむ」と唸りながら――ヘルナイトさんに向かって……、私を見て……、こんなことを聞いてきた。
「そういえばなのだが……、武神卿にハンナよ。お前達はオグトに出会ったのだったな?」
「? はい」
「そうだが……、どうした?」
ガザドラさんの言葉に、私は首を傾げながら振り向いて言い、ヘルナイトさんも首を傾げながらガザドラさんを横目で見ると、ガザドラさんは私達を見ながら……、こう質問をしたのだ。
「あいつはなぜ、こんなところにいたのだろうか……? そこが引っかかってて仕方がないのだ。何か言っていなかったか?」
そのことについて、私は少し俯きながら「えっと」と言って、あの時起こったことを思い出そうとする。みんなもずっと歩いているせいか、ガザドラさんの話を聞いて興味深いような雰囲気を出しながら、ガザドラさんの話に耳を傾け、その質問に対して答えを出そうとしている私達にも耳を傾けていた。
「そういえば、あの大柄の鬼は何者かの命令でここに左遷されたとかなんとか言っておったな」
と、あの時いた虎次郎さんが、顎の髭を指で撫でながら思い出したかのように上を見上げて言う。
それを聞いていた私は「あ、そうでした」と、たった今そのことを思い出して、虎次郎さんの同意の意見を上げると、それを聞いていたガザドラさんは驚愕に顔を染めながら「なんとっ!」と、私と虎次郎さんを見て声を上げた。
虎次郎さんの言葉を聞いていたダディエルさんはテンガロハットのつばを持って、くいっと下に下げながら――小さな声で「……どんな国でも、どんな世界観でも……、左遷ってあるんだな……」と、なんだか悲しいような音色で言って、その言葉を聞いていたボルドさんも悲しそうな音色で……、と言うか…………。
「うん……っ! うん……っっ! 職場でその言葉を聞いた瞬間……っ! 全身の血の気がなくなりそうになるもんね……っ! 僕はまだ体験したことないけど……、それでもその言葉を聞いただけで、涙がこぼれそうになるよおおおおおおおお」
「もう泣いていますよ? というか『六芒星』って、そう言ったカーストがあるところなんですか?」
…………私は、驚きながら顔をぐちゃぐちゃにして泣いているボルドさんを見て、顔を固めながら歩みを進める。
みんなもそんなボルドさんを見ながら、呆れた顔と驚いた顔が混ざったかのような顔をして歩みを進めていると、それを見ていたリンドーさんは、黒い笑みを浮かべながら冷たくあしらって、ガザドラさんを見ながら質問をすると、ガザドラさんはリンドーさんの言葉に対して「いいや」と言ってから……。
「『六芒星』にそのようなカースト制度のようなものはない。ただ一人の首領に六人の幹部。その幹部に従う部下達数百名と言う構造でできているだけの集団だ。身分など関係ない。ただ皆――生きたい。この国の仕組みがおかしいと唱える者達が、国に仇名して変えようとしている集団。と、世間からしてみればただの変な集団だろうな」
「なるほどですねー。てっきりその部隊に分かれてビシバシ調…………、失礼、噛みました。てっきりしごかれているものかと思っていましたよ。ぼくは」
「言う前と同じくらいひどい言葉だけどっ!? 訂正なんて必要ないような言葉だとオレは思うな!」
リンドーさんの言葉に対して、キョウヤさんは驚きながらリンドーさんの方を振り向きながら突っ込みを入れる。
すると――そんなリンドーさんの言葉を聞いていたガザドラさんは「た、確かに……、そんなことはなかったぞ」と、冷や汗をたらりと流しながら、ガザドラさんは腕を組んで、思い出にふける様な表情をして上を見上げると、ガザドラさんは言う。懐かしいという気持ちが流れるような音色で……。
「吾輩が『六芒星』にいた時は、部下達と一緒にこの国の考え方を変えてもらおうと奮起していたものだ。オーヴェン殿はマイペースではあるが、吾輩以上に部下に慕われていた。古株であるがゆえに、経験も実績も、くぐってきた修羅場の数も質も違っていたな」
「あのエルフじじぃか」
「まだじじぃじゃねえって」
アキにぃの言葉に、キョウヤさんは再度突っ込みを入れながら脇腹に肘鉄をくらわす。
それを受けてしまったアキにぃは、うっと唸りながら脇に手を添えて、痛みに耐えていた……。
ガザドラさんは続ける。
「ロゼロは口数も少ない。且つこの地に対して異常な執念を燃やしている奴だったが、それでも実力は吾輩以上の力を持っていただろう。ラージェンラは女の部下しか受け付けなかったが、あいつの体に眠っている魔力の数値は桁違い。ゆえに持久戦ではいつも負けていた記憶があるな。うんうん」
「意外と自分を過大評価しないんだな……。上司の鑑だわ……」
ギンロさんはそんなガザドラさんを見て、尊敬の目を向けながら、小さく拍手をする。
ボルドさんとクルーザァーさんもうんうん頷きながらギンロさんの言葉に同意の意見を向けると、それを聞いていたティティさんは、少しむっとした表情でガザドラさんを見ながら――こんな言葉を向けた。
「ですが……、『六芒星』のしていることは異常です。ガザドラ様の過去を知っているわけではありませんが、オグトと言う
「…………確かにな」
ティティさんの言葉を聞いたガザドラさんは、ぴくりと指をわずかに動かしたけど、そのまま怒ることなどしないで、そのまま歩みを進めながら、その地面を見降ろす形で歩みを進めながら、ガザドラさんは言う。
「オグトの種族は、色んな種族を絶滅に追い込んでああなってしまった。しかしあ奴の考え方が間違っている。自分は強く、他の種族や部下は弱いから食料。自分の栄養源としか考えていなかった。ゆえに奴の種族が滅亡録に記載されたのかも、すぐの予想がついた」
その言葉を聞いた私は、アルテットミアで出会ったオグトと、この迷宮で再会したオグトのことを思い出す。
オグトは魔女の力のこともあってか、何かを食べて力を得て回復する力を持っていた。けど、必要以上にその行為を繰り返していたオグト。仲間でもある部下を食べて、食料と言い張って――マリアンダや他の瘴輝石達を食べて、その命を使って攻撃してきた。
まさに――人の命を弄ぶ人だった。
その命を躊躇いもなく使って、自分の利益と功績のために、その命を躊躇いもなく使って、そして部下でさえも切り捨ててしまう。
そんな常軌を逸していたオグトの思考は、今でも理解できない。
ううん……。したくない。と言う気持ちが勝っていた……。
オグトのその思考と人格は、評価されないものだ。争いがない私達の世界では、到底理解できないようなそれだから、余計に理解なんてしたくないのだろう。そう私の心が拒絶をしているような、そんな気持ち去った。
私はあのことを思い出してしまい、ぎゅっと握り拳を作ってしまう。
下唇を噛みしめながらあのことを思い出してしまう。あの時――無力を痛感されて、絶望の淵に立たされてしまったあの時のことを……。
そんな私の心境をよそに、ガザドラさんは続けてこう言う。
「ゆえに――ザッドはそんな傍若無人めいたオグトを見限り、ここに配属したんだろう。調査なんぞ必要のないこの場所に閉じ込める。それこそが『六芒星』にとって、唯一の救いの道でもあったのだろうな」
それを聞いて、私はオグトの言っていた言葉を思い出した。
オグトは確かに、ザッドの言う通り彼の命令で幹部の座を下ろされて、そのままここに配属された。
そのことについて怒りを露にしていたけど、正直その方が、双方よかったのかもしれない……。ひどい言い方かもしれないけど……。
六芒星にいても、私達のところにいても、どの場所にいても――きっとオグトはその傍若無人さを露見させながら……、きっと食事をたらふく楽しんでいたかもしれない……。
滅亡するまで、絶滅させるまで、彼はきっと暴食の思うが儘に食べていただろう……。
それを思うと、私はガザドラさんの言葉に同意するほかなかった。
「……それって、爆弾を抱えているのと同じじゃねえの?」
その話を聞いていたダディエルさんが、ガザドラさんを見て首を傾げながら疑念を吐く。
話を聞いていたシェーラちゃんも「あ」と声を上げて、ダディエルさんの方を向きながら「それ、私も思った」と同意の声を上げる。
「それはどういうことなのだ?」
疑問の声を上げて問うガザドラさん。それを聞いていたクルーザァーさんも「ふむ」と唸りながら、ガザドラさんを見てこう言う。
「オグトと言う存在は見たことがない。しかしそんな危険な種族を傍に置いておくことはあまり芳しくない行為だ。種族を食べることは弱肉強食。食物連鎖に沿うならば、俺は納得していただろうが、そいつの場合はその流れを壊すような存在だ」
「え、うー」
クルーザァーさんの言葉を聞いていたティズ君は、なんだかぐらん。ぐらんと頭を左右に動かしながら、白目をむいてへんてこな言葉を上げる。
それを聞いていたティティさんは、ティズ君のその姿を見て大慌てになりながら「あぁっ! ティズしっかりっっ!」と、ふらふらして歩ている彼の体を支える。
その姿を見た私は、なんだか既視感と言うか……、どこかで見たことがあると思って凝視していると、すぐに思い出した。
あの姿は、期末で難しくてわからない問題と直面しているときのしょーちゃんの顔そっくりだったのだ。
私はそれを見て、はっとするけど、すぐにその気持ちをしまいこんで、クルーザァーさんの話再度耳を傾けると、メウラヴダーさんはそれを聞いてから彼はこう言う。
「簡単に言うと――ウサギがライオンを喰うような、そんな天変地異的なそれか?」
そのたとえを聞いたクルーザァーさんは、呆れた顔をして「そんなことはないが、まぁそんな感じかもな」と言う。それを聞いていたメウラヴダーさんは、引きつった笑みを浮かべながらひくひくと顔を引きつらせていた……。
「そんな危険人物を傍に置いておくのはあまりに合理的ではない。教育していればでリスクも抑えられたはずだが……、なぜそうしなかったんだ? お前たちのリーダーは」
そんなクルーザァーさんの言葉にガザドラさんは一言。
「――わからん」と、きっぱりと言ったのだ。
それを聞いた私達はぎょっとしながらガザドラさんを凝視した。有ろうことかヘルナイトさんも驚いて足を止めるほどの驚愕の事実だったから。
「いやいや! それ決めたのリーダーなんでしょっ!? なんでそのことを知らないですかっ!」
「い、いやな……。『六芒星』の頭が決めたことで間違いなはいだろう……。しかし、されどしかしだな……。吾輩はおろか……、頭の顔を見たものはザッドしかおらんのだ」
「へ?」
私は素っ頓狂な声を上げて、ガザドラさんの言葉に対して言葉を返した。ううん。一文字を返した。
頭――つまりは『六芒星』のリーダーで間違いないだろうけど、幹部の中でたった一人しかその顔を見ていない。と言うか知らないこと自体……、おかしいことこの上ないのだ。
ガザドラさんはリーダーの顔を見たことがない。それを知ってしまったみんなは、首を傾げてから一斉に――
『はぁ?』と声を上げる。あ、ティズ君とティティさん、ヘルナイトさんはしていない。私もしていないけど、それを聞いていたギンロさんは「マジかよ」と驚きすぎて逆に呆れてしまうようなそれを聞いて、ギンロさんはガザドラさんに向かって肩を竦めながらこう言う。
「つかそれってよぉ……。十年勤めていた会社だけど、社長の顔なんて見たこともないようなことと同じだぜ? 幽霊部員ならぬ幽霊社長的な」
「……幽霊? 部員?」
ギンロさんの言葉に、ガザドラさんは頭に疑問符をいくつも浮かべながら聞き覚えの無い言葉を口にするけど、ガザドラさんはすぐにギンロさんの言葉に対してこう反論した。わたわたと手を振りながら反論したのだ。
「あ、いや……。頭がいるということは確かなのだが、何分自由奔放と言うか、どこを歩いているのかわからない人でな。いつもザッドに任務のことを伝えているが故、事実上『六芒星』を束ねているのはザッドと言うことになるな。うううむ。一回でもいいから吾輩も頭の顔を見ておけばよかったかもな」
「敏腕秘書かよ。豚のくせに」
ダディエルさんはそのことを聞いて、小さく舌打ちをしながら言うと、その言葉を聞いていたボルドさんは、ガザドラさんの言葉を聞いて一言……。
ポツリと――こう言ったのだ。
「自由か……。まるでアクロマと同じ思考回路の人だな」
「? あくろま、とは?」
と、近くにいた虎次郎さんがボルドさんに声をかけると、ボルドさんは虎次郎さんを見降ろしながら「ああ、そういえば話していませんでしたよね……?」と言って、ボルドさんは虎次郎さんやまだアクロマのことについて知らない私達に向かって説明をする。
「アクロマは凄い研究者で、色んな功績を納めた人でもあるんだ。功績の内容までは詳しくないけど、それでも彼は天才と謳われてるんだよ。親子そろって。前にも話していたと思うけど、RCでVRの大本でもある精神の基盤を作った二人でもある。そして――監視者でもある存在っていうのは、アクロマと、もう一人がそうなんだよ。二人して天才ってこと」
「? 親子?」
アキにぃが口を零すけど、ボルドさんはその話を聞いてか、アキにぃを見て彼は「――多分すぐにわかることだよ」と、なんだかはぶらかすような言葉で続きを語る。
アキにぃはそのまま難しい顔をしてボルドさんを見たけど、それ以上のことに関しては首を突っ込まなかった。
「天才と謳われているアクロマだけど……、性格は頭脳明晰で異常なくらいに自由気まま、何というか束縛されることが大嫌いな人、良く言えば独創的な人。悪く言うとわがままな人なんだ。そして……」
ボルドさんは私達を見て――はっきりとした音色で、凄むような音色でこう言った。
「彼は、人のことを物のようにしか見ていない。人を――ただ使える物としか見ていないから、気を付けた方がいい。躊躇いもなく、その人を利用するかもしれないから」
心の準備だけは、しておいた方がいい。
そうボルドさんははっきりと言った。
それを聞いていたメウラヴダーさんは、考える仕草をしながら……、「まるでそのオグトとザッドが欠け合わせたかのような性格だな」と言う。
それを聞いていた私は、確かに、と思いながら頷くと、ふと――視界に入ったティズ君を見て私は目を見開いてしまう。
さっきまで頭をグラグラさせていたティズ君は突然アクロマの話を聞いた瞬間、顔を強張らせて黙ってしまう。ティティさんもその光景を見て、困惑した顔でティズ君を見降ろしながら「大丈夫ですか? ティズ」と声をかけている。
私はそんなティズ君を見て、恐る恐る解いた形でティズ君に声をかける。
「……どうしたの? ティズ君」
私の声を聞いたティズ君はびくりと肩を震わせて、そのまま顔を上げてから脂汗がどろどろと出ている顔面蒼白な顔でティズ君は言う。
「……ううん。大丈夫。ちょっと考えていただけだから」
「?」
一体何を考えていたんだろう。尋常じゃない汗がその思いをひしひしと伝えているかのように、ティズ君の顔も汗と比例して険しくなっている。
私はティズ君の顔を見ながらすごい汗と思いながら、ここに来た初日に買っておいたタオルを出そうとした瞬間――
「――着いたぞ。ここだ」
ヘルナイトさんの凛とした声が響いて、誰もがその足を止める。
私は驚きながら急いで足を止めて、くるりとティズ君の方を向いていた顔をヘルナイトさん――つまりは真正面に顔を向けると……、目の前に広がるあの鉄格子が静かに私達の前に佇んでいた。
「………ここだ」
私は呟く。
この先に――アクロマがいる『デノス』に繋がる場所がある。
そう思いながら私は不安になっていく心を無理矢理かき消すように、ぎゅっと胸の辺りで握り拳を作って不安そうな顔でその鉄格子を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます