PLAY53 BC・BATTLEⅠ(スタートゴング) ①

「あ、来た」


 駆け寄って来た私達を見て、呆れた顔をしながら待っていましたという顔をするシェーラちゃん。


 腰に手を当てて、いつでも準備万端と言うような雰囲気を出している。


 その光景を見ていた私はヘルナイトさんと一緒に駆け寄りながら「ごめんね……」と、遅れたことに関して謝っておく。


 その言葉を聞いてシェーラちゃんはふぅっと溜息を吐きながら私のことをじっと見て――「それは謝ることじゃない」と、はっきりとした言葉で言った。


 それを聞いた私はその凄みもあって……、なぜなのかはわからないけど、もう一度「ご、ごめん……」と謝ってしまう。


 なぜなのかはわからないけど、本能がそう囁いているのかもしれない。


「だから何で謝るのよ?」


 するとシェーラちゃんはむっとしながら私に歩み寄ってくるけど、私はその凄んだ顔を見て手を前に突き出し、その手でガードをするようにして「えっと……、あの……」と言いながら言葉を濁す。


 正直に言ってしまうと、また大変なことになりそうだから……。


「お前……、今一度自分の顔を鏡で見たほうがいいと思うぞ……? 今お前の顔……、スゲーことになっているから。多分チンピラ相手だとすぐに逃げるような顔……」


 キョウヤさんはシェーラちゃんの顔を見ながら呆れたような顔をして言うと、それを聞いたシェーラちゃんはぎょっとしてキョウヤさんの方を振り向いた。


 その光景を見ながら、私は乾いた笑みを浮かべながら首をこてりと傾げて……、気付かなかったんだ。と思いながら、自分の顔をフニフニと触っているシェーラちゃんを見ていた。


 すると――


「あ、ハンナと、ヘルナイト………。いたんだね」

「ああ」

「ごめんね、アキにぃ」


 アキにぃは私達に事を確認してから、ほっと胸を撫で下ろして駆け寄ってきてくれた。


 それを見たヘルナイトさんは、頷きながら返事をして、私は申し訳なさそうに謝ると、アキにぃはそれを聞いて、にこっと微笑みながら私の頭に手を乗せて……。


「いいよ。俺は全然怒っていないから」と、わしゃわしゃと撫でながらにっこりと笑みを浮かべるアキにぃ。


 私はそんなアキにぃを見上げながら、その言葉を聞いて控えめに微笑んで安堵の息を吐きながら――「それらよかった……」と言う。けど、私はその時……、疑念を抱いていた。


 なぜって? それは――


 アキにぃから噴火の様に吹き上がる様な……赤いけど、なんだかいろんな青みがかった色が混ざっているそれを初めて見た時……、アキにぃは一体どんな感情を抱いていたんだろうと思いながら、アキにぃの背後から出ているそれを見上げていると――ヘルナイトさんは何かに気付いたのか、辺りをきょろきょろと見回して、ヘルナイトさんはキョウヤさん達に向かってこんなことを聞いた。


「そういえばキョウヤ。他のみんなはどこに行ったんだ?」


 その言葉にキョウヤさんは「へ?」と、素っ頓狂な声を上げて首を傾げながら、キョウヤさんはそっと背後を見ながら――


「あ、あいつ等な……。実は行ける方法が見つかったって知って、ハンナ達が話している間に…………、その、みんなどんどん大穴に向かって落ちて」

「え?」

「何…………?」


 キョウヤさんの顔がどんどん青ざめていき、そして最終的には、ブルーベリーの様に真っ青になってから、キョウヤさんは冷や汗をドロドロと流して、震える指で頬を掻きながら、どんどん声を小さくして言って、言い終えようとしていた。


 でも私達はそれを聞いて、思わずキョウヤさんの言葉を遮って。言葉を放ってしまう。


 それは――ヘルナイトさんも一緒だ。


 ヘルナイトさんに至っては、珍しい動揺の声だ。


 キョウヤさんの言葉を聞いて、私とヘルナイトさんはすぐに、彼の背後にある大きな大穴――私達が突き落とされたその大穴を見ると……、ううん。その大穴に耳を澄まして見ると……。



『ぎゃああああああああああああああああああああああああああっっっっ!』

『なんじゃこの泥水はぁああああああああああああああああああっっっ!』

『こんなの聞いていませええええええええええええんっっっ!』

『お、おい落ち着けみんな! 落ち着くせぇっっっ!』

『大の男が大きな声で喚くなって! メウラもうるせぇし! これくらいどうってことうぎゃぁ! くせぇっっ!』

『………………………………い』

『ティズッ! ティズゥウウウウウッ! 目が死んでいますううううっっ!』

『これが本当の断末魔だな』

『クルーザァーてめぇ! さっきはよくも俺の頭を踏んづけやがって……っ! そのせいで俺耳にまで泥水入ったわっっ! どうしてくれんだ!』

『知るか。お前の着水の仕方が悪いんだろう。あとティティ。ティズを助けるな。いついかなる時もこう言った緊急事態があるんだ。それに手を貸すことは合理的ではない。合理的な方法とはいかなる時も自分で対処することが』

『んなこと言っている場合かこのやろうっ!』

『おおっっ!? 大惨事ではないかっっ! 皆の者よ! 今吾輩が何とか掬い上げるものを、ってちょっと待てギンロよっ! リンドーも落ち着け! そんなに吾輩の足を引っ張るでないっ! ちょ! そんなに引っ張るな! このままでは俺が落ちるっっ! ボルドよどうにかしてくれぇ!』

『あぶあぶあぶあぶっ! おえっ! た、助けてええええええええええええええええええ! お、溺れちゃうぅーっ! ぎゃぁ泥水飲んじゃったああっ!』




『『『『『『『いや、泳げないのかよっっっ!!』』』』』』』




 えっと……。


 私は茫然としてしまった。耳を澄ましながらその大穴を覗き込んで、下から聞こえてくる声を聞いていると、何だろうか……、なんだかすごく嫌な雰囲気……、というか、もしゃもしゃを感じてしまった。


 一応言っておくけど、最初に言葉を発したのはギンロさんで、そのあとから順を追って話すと……。


 ギンロさんの次に言葉を発したのはダディエルさん。


 そのあとから――リンドーさん、メウラヴダーさん、ガルーラさん、小さかったけど、多分ティズ君。そのあとで慌てているティティさんにクルーザァーさん。そんなクルーザァーさんに対してギンロさんが声を荒げながら怒鳴って、そんなギンロさんに対して、冷たくあしらうクルーザァーさん。でもクルーザァーさんの言葉に対して救助を優先させようとするダディエルさん。そんな状況を見ていたのか、ガザドラさんが何とかして助け出そうとしていたけど、ギンロさんとリンドーさんの手によって引きずり込まれようとして慌てだした後、ボルドさんに助けを求めようとしたけど……。


 ボルドさんは――泳げなかったらしく……、今でも大穴から水飛沫の音が聞こえているので、まだ溺れているらしい……。


 それを見た下にいるみんなは、大声を上げながら突っ込みを入れていた……。


 以上。


「まさか……」

「……みんなあのまま入ってしまったんだな」


 私は出る時の情景を思い浮かべながら、まさかと思いながら言葉でも同じことを口にすると、それを聞いていたヘルナイトさんは、言葉を濁すという選択もあったけど、結局は事実にたどり着いてしまうと思ったのか、ヘルナイトさんはアキにぃ達を見ながら言う。疑問形など付けないそれで言うと……。


 それを聞いていたアキにぃとシェーラちゃんは平然とした顔で――


「「うん (そうよ)」」


 と、頷きながら言った。


 それを聞いた私はおずおずとアキにぃを見上げながら――「と、止めなかったの……?」と聞くと、それを聞いていたアキにぃは「いやぁ」と肩を竦め、にっこりとした笑みを私を見降ろしながら……。


「だって俺達だって泥まみれになったんだよ? 上で悠々と待っていたんだから、少しは下にいた人の気持ちを噛みしめてもらわないと……、平等じゃないでしょ?」

「お前マジでドSかよっ! 笑みが黒いしっ!」


 そんなアキにぃの黒くて微笑んでいるけど怒っているようなその言葉に、私はぎょっとしながら聞いてしまう。アキにぃから出ている黒いもしゃもしゃが、アキにぃのその気持ちを証明していたから、なおのことこの上ない。


 こんなアキにぃ……、初めて見た。


 そう私は思ってしまうくらい、その時にアキにぃは黒い笑みを表情に出しながら微笑んでいた。


 それを見ていたキョウヤさんは、ぎょっとしながら突っ込みを入れているけど、その背後にいたシェーラちゃんはキョウヤさんを見上げながら「仕方ないわ」と、さも平然とした顔で当たり前のような顔をして……。


「だって私達の忠告を聞かずに、みんなどんどんダイブして行ったんだもの。言う前に飛び降りたあいつらが悪いのよ」

「ぐ…………っ! それは、じ、事実だが、な……」


 あ、みんな急いでこの大穴に飛び込んでしまったんだ……。アキにぃ達の忠告を聞かずに……。


 意図して何も言わないで飛び込ませたのならば怒るけど、みんな聞かないで行ってしまったのか……。そうなると、怒ることなんてできないな……。


 そう私は思いながら、その大穴で繰り広げられている音声だけの惨劇を聞きながら、できるだけ記憶に残らないように耳から耳へと流していく……。


 すると――



「じゃが……。今は急いだ方がいいんじゃろう? あ奴らの気持ちはよぉく分かる。そして儂らももたもたしないで、落ちたほうがいいかもしれんのぉ」



 私の背後にいた虎次郎さんが、いつの間にかなのか……、大穴を見降ろしながら言う。


 それを聞いた私は、驚きながら虎次郎さんを見上げて「わ」と言いながら立ち上がって虎次郎さんに向かって――


「い、いつからそこにいたんですか……っ?」


 と聞くと、虎次郎さんは腕を組みながらさも平然としながら「さっきからじゃ」と言った。それを聞いた私は、あまりの気配の無さに、驚き隠せなかった……。


 そんな虎次郎さんを見ていたヘルナイトさんは――


「確かに……」と言って顎に手を当てながらヘルナイトさんは言う。


「このまま時間を持て余してはいけない。行けるのであればすぐにでも行かないとな」

「そうだね」


 ヘルナイトさんの言葉に賛同する様に、アキにぃも頷いて大穴を見降ろす。キョウヤさんはアキにぃをジト目で見ながら「……切り替え早い奴……」と愚痴を零すと、ふと――私とキョウヤさんの間に入り込んだ気配を感じて、私は自分から見て左の方を見て、そのまま上を見上げると……。


 そこにいたのは――


「あれ? 虎次郎さん……。どうしてここに?」


 そう。虎次郎さんだった。虎次郎さんはそのまま足から飛び降りるような体制になって身構えている状態だった。それを見ていたキョウヤさんも、少し意味が分からないような顔の歪ませ方をして、虎次郎さんを見ながら――


「あんたは関係ないだろうが」と言うと、それを聞いていた虎次郎さんはいまだに飛び降りる態勢のまま大穴を見降ろして、そして私達を見ないで、私達に向かってこう言ったのだ。


「いや――こうなってしまった以上。関係あると儂の直感が囁いたんじゃ。ゆえにこれからはお前さん達と行動しようとおもう」

「………直感? って、え? イマナント?」


 その言葉に、アキにぃが言うと、虎次郎さんは「いうなれば勘じゃ」と、一部アキにぃの言葉を無視するような言葉を言って――



「あのように巡り合ったのは――もしかしたら運命やもしれんと思ったのじゃ。儂の運命。儂の宿命かもしれない……とな。……『偶然もあれば必然もあり。しかしそれを決めるのは――自分次第』。そうお天道に逝ってしまった父が何度も何度も言っておったわ。『自分の運命は自分で決めろ。そして己がそう思ったら即行動しろ。後悔しないように――前へ前へと進め』とな。ゆえに儂は、この出会いを、この時を自分の運命と思い、このままお前さんたちと行動しようと思う」



 と、はっきりとした音色で言った。


 それを聞いていたアキにぃは野太い声を出して「うげぇっ!」と、カエルが潰れたような声を出して唸ったけど、それを聞いていたキョウヤさんはさすがに失礼と思ったのか……。アキにぃに向かって「失礼だろっ!」と、怒りを露にして怒鳴った。


 そして――肝心にシェーラちゃんは、目を見開いて、ヘルナイトさんの体越しにその虎次郎さんの顔を見たまま固まっていたけど、シェーラちゃんはそんな虎次郎さんを見た状態で、震える口で……、一つ、質問をした。


「それは――私達の、パーティーの一員になるってこと……?」


 それを聞いた虎次郎さんはシェーラちゃんを見て、にかっと笑みを浮かべながらこう言った。


「まぁそうなるじゃろう。年長者一人は必要じゃろう。このには」


 虎次郎さんのその言葉を聞いて、シェーラちゃんは少しきゅうっと唇を噤んで黙ってしまったけど、その後シェーラちゃんは恐る恐る口を開いて……、すぐにそっぽを向きながらこう言った。


 顔をうまく隠しているけど、それでも赤い顔が見え隠れしているその姿で――


「………そう」と、小さく頷いた。


 それを聞いた虎次郎さんは小さな声で「よし」と言い、再度目の前に広がる大穴を覗き込んだ。


 キョウヤさんもそれを見て、隣で唸っているアキにぃの肩を叩きながら「もう無理だ。諦めろ」と言って宥めている。


 ヘルナイトさんは近くにいたシェーラちゃんの頭を撫でながら「よかったな」と凛とした音色で言うと、それを聞いていたシェーラちゃんは声を張り上げながら「子ども扱いしないでっ」と言っていた。


 それを見て、私は虎次郎さんを見上げてから――控えめに微笑みながら私は言う。


「これからよろしくお願いします」と――


 それを聞いた虎次郎さんは、うんうん頷きながら「うむ」と、肯定の声を上げると……。



「おぉっ!? ハンナにお前等っ! 何してんだっ!?」



「!」


 後ろから声が聞こえた。


 その声を聞いた私は、そっとそのまま背後を見る。すると――テントの幕をたくし上げてこっちを見ている人が――獣のような人が……。


 ゴト先生が、そこにいたのだ。慌てたような顔をして、私達を見ている。


 先生はその驚いた顔のまま私達を見て、近くでブラウーンドさんを抱えてニヘラと笑っているジュウゴさんを見て、「あれっ!?」と、素っ頓狂な声を上げながら指をさして驚いていると、先生は私の方を見て――


「って、どうしたんだお前ら……、何しようとしてんだ? というか知らない人がいるような……」と、顎に手を当てながら悶々と思ったことを口に出しながら言っている先生。


 顔もすごく険しい。


 その顔を見ながら、私は控えめに微笑んで、先生の名前を呼ぶ。


 先生はぎょっとしながらと言うか「んあっ!?」と、へんてこな声を上げながら驚いて私を見ると、私は先生を見て――言った。


「短い間でしたけど――先生と再会できてよかったです。でも、少しの間しか会話できなかったけど、少しの間しかいなかったけど、それでも先生と再会できたこと、すごくうれしかったです」

「お、おい……、そんな、どうしたんだ? 急に改まって」


 と聞く先生に対して、私は続けてこう言う。


「でも――もう行きます。私達、今すぐにでも行きたいとろがあるんです。今すぐにでも行って、この砂の国を変えないといけないんです。だから、ごめんなさい」


 そう言って私は頭を下げる。ぺこりと下げる。


 それを聞いていた先生は、何も言葉を上げず、ただただ黙っていた。


 確かに、突然こんなことを言ってしまったら……、誰だって理解できないような思考回路になってしまうだろう。でも私は、この時こんなことを思っていた。


 できれば――先生には会いたくなかった。


 ただ嫌いと言う理由ではない。ただただ……、勝手にこうなってしまい、勝手にこの場から離れることになってしまったから、なんとなくだけど、合わせる顔がないと思った次第だ。


 本当ならもっとお話をして、もっと色んな事を聞いて、つかの間の休息を楽しみたかった。けど――それが出来なくなってしまった申し訳なさもあって、私はなんとなくだけど、合わせる顔がなかった。


 だから私は、こうして再会できた先生に、謝るという選択をしたのだ。


 自分のわがままを許してください。


 その思いを胸に……。


 みんなが黙っている中――先生はその私の言葉を聞いて……、頭を下げている私に向かって、この言葉を投げかけた。


「そうか。もう少し話したかったが、お前がそう主張するなら仕方ない。止めはしねーよ」と、先生は言う。


 その言葉を聞いた私は顔を上げて先生の顔を見ると、先生は獣の顔で豪快な笑みを浮かべながら犬歯が見えるような笑みで言う。



「この医療所にはたくさんの子供達がいる。その子供と、動けない人達を守るのが俺の務めだ。だからこの場所から離れるわけにはいかねえ。俺はこのままここに残るが、行くか行かないかを決めるのはお前の決断次第だ。お前の道ならお前が決めろ。相手に合わせることはねぇ。それは――お前が決めることであり、謝ることでもない」



「橋本」


 先生は言う。


 先生は私のことを視界に入れながら、はっきりとした音色でこう言った。




「謝ることはねぇ。いつか話せる時が来たら、その時じっくり話そうぜ。霧崎たちと一緒にな」




 その言葉を聞いた私はぐっと握り拳を作って、きゅっと唇を噛みしめてから私は……。


 こくんっ。


 と、頷く。


 それを見た先生はヨシッと言わんばかりに頷いて、行って来いと言わんばかりに、豪快な笑みと共にグーサインを出す先生。


 それを見た私は、その先生の姿を目に焼き付けてから、再度大穴に目を移す。


 ゴォオォォォォッ。


 と、下から吹き上がる風と異臭を感じて、嗅ぎながら、私はぐっと込み上げてくる恐怖を押さえながら、下を見る。


 落とされたときは突然だったので、そんな恐怖はあまりなかったけど、自分で落ちるとなると、こんなに怖いものだったのかと思ってしまう。


 バンジーをやる人の気持ちが、少しだけわかった気がする……。


 そう思っていると、ヘルナイトさんは大穴に向かって手をかざしてから、凛としなら音色でこう唱える。


「『嵐爆乱ストーム・インパクト』」


 唱えた瞬間――ふわりとヘルナイトさんのかざした手から風が出てきて、それがだんだんくるくると回って、大きな大きな歪な竜巻を巻き起こした。


 それを見ていた私達は、驚いてそれを見ていると、ヘルナイトさんはそのままとんっと軽く飛んで、その風の上に着地する様に乗る。


「このまま少しずつ降下する」


 その言葉を聞いたシェーラちゃんとアキにぃ、キョウヤさんはぐっとグーサインを出して、打ち合わせでもしたかのように三人は「「「ナイスッッ!」」」と、声を揃えて言う。


 それを聞いていたヘルナイトさんは、首を傾げながら「? ああ」と返事をして頷く。


 ヘルナイトさんが作ったその風に、アキにぃ、シェーラちゃん、キョウヤさん、そして虎次郎さんと言う順番に乗っていき、まるで魔法の絨毯のようにみんなが乗っていくのを見た後、私は再度先生の方を見て言う。


 控えめに、笑みを浮かべながら――


「それじゃぁ。また」と、学校で挨拶をするように、『さよなら』の言葉を言わないで、私は先生に言う。


 先生はそれを聞いて、私の言葉を汲み取ったのか――


「おう。またな」と先生も言う。


 それを聞いて私はその風の絨毯に飛び乗って、足がついていないけど足をつけてからそっと座る。その光景を見ていたヘルナイトさんはそのまま右手の人差し指を下に向ける。


 すると――風が意思を持っているかのように、どんどん下へと下がっていく。


「楽ね」と、シェーラちゃんがご機嫌な音色で言う中、私は先生とジュウゴさんを再度見てそっと頭を下げる。


 また再会できることを願いながら……。 


 頭を下げて、どんどん下水道に向かっていきながら私は――私達は意を決する。


 下水道を通って、『デノス』に侵入する決意を再度固めながら、どんどん下へと行く。


 どんどん……、アズールの地の底に向かって、再度足を踏み入れる。

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