PLAY52 衝突 ⑤
「げ」
その大穴を指さしたジュウゴさんの行動を見ていたキョウヤさんは、喉から野太いそれがそのまま出てきたような唸り声を上げる。
それを聞いて、シェーラちゃんとアキにぃは『うっ』と顔をざぁっと青ざめ、私の帽子の中にいたナヴィちゃんもジュウゴさんの言葉を聞いてかそっと帽子から顔を出して、しわくちゃな顔をして黒いもしゃもしゃを出して睨んでいた。
「ぎゅううう~…………」
途轍もなく凄い声も付け加えて……。
それを聞いてかボルドさんは首を傾げながらキョウヤさん達の豹変っぷりを見て、近くにいた私とヘルナイトさんにこっそりと聞いた。
「も、もしかして……、すごくやばいところなの……? 『奈落迷宮』って……」
「……………………………」
「人によりけりだな」
「え? ねぇヘルナイト君……っ! その曖昧な言葉やめて……っ! 怖いからぁ!」
私は無言を徹したけど、ヘルナイトさんの言葉を聞いた瞬間ボルドさんは更に顔を青く染めながら慌てだしてしまう。
そんな光景を見ていたのか、ティズ君はジュウゴさんを見上げながら、質問しだした。
「藪医者さん。あの……、それってどういうことですか?」
「あ、まだ藪医者定着してんの? まぁ子供だからいいけど……、質問に答えるなら――正当な道じゃないけど、裏の道ならあるってことだよ」
「裏の道…………。裏技かっ!」
ジュウゴさんの言葉にピーンッと来たのか、ギンロさんはおぉっと驚いた顔をして『ぽんっ!』と手を叩く。
それを聞いていたリンドーさんは、ぎこちない笑みを作りながらギンロさんに向かって……こう言った。
「せめて裏ルートって言った方がいいと思いますよ」
それを聞いていたギンロさんはぎょっと驚きながら「あ、そうだったな……っ!」と、リンドーさんを見降ろしながら言う。
私はそんなリンドーさんを見て、もしゃもしゃを見てこう思った。
リンドーさんはきっと、紅さんの喪失を受け入れていないみたいだと……。
それもそうだ。
紅さんの首に関して言うと、ギンロさんとダディエルさんは賛成。
でも反対はボルドさんとリンドーさんだった。ボルドさんは最後の最後まで首を躊躇っていたけど、リンドーさんは最後……、紅さんと一緒にいることに関して――無理と言ってしまったのだ。
正直な言葉が今回のことを招いたと、多分思っているんだろう……。すごいぎこちない笑みだ。
リンドーさんの表情は笑みしか記憶にないから、正直見たことのないその顔を見た私は紅さんのことを思いながらぎゅっと胸の辺りに握り拳を作ってしまった。
あのことに関して引き摺ってしまいながら、私は自分に言い聞かせる。大丈夫。大丈夫と……。
何に対して大丈夫なのかはわからない。けど、こんな言葉しか、頭に思い浮かばなかった。
大丈夫……、大丈夫……。まるで魔法の呪文のように……、唱える。大丈夫と――
「それで?」と、クルーザァーさんは淡々とした音色でジュウゴさんを見ながらこう聞いた。
「その裏の道と言うのは――どこにあるんだ? 藪医者」
「あんたねぇ……。温厚で穏やかな俺でも堪忍袋っていうものがあるの。それ以上藪医者を言うと、毒を嗅がせるよ? オーケー?」
「俺は本音を言ったまでだ。そのことも重々承知しているが名前がわからないんだ。藪で我慢しろ藪医者」
「はぁ」
ジュウゴさんは呆れた溜息を吐いて言うと、それを聞いていたメウラヴダーさんは冷や汗を掻きながら小さな声で「大丈夫かよ……」と突っ込みを入れていた。
私はそれを見て、メウラヴダーさんの話を聞いて、確かに。と思いながら頷いていると……、ジュウゴさんはその大穴を指さしながらむかついているような音色で説明を始めたのだ。
心なしか――額に怒りのマークが出ている……。
そんな状態でジュウゴさんは説明した。
「この『奈落迷宮』は、確かにこのアズールの中では最大級の広さと深さを誇っているダンジョンだ」
「知っている。ティティから聞いた」
クルーザァーさんは溜息を吐きながらそれがどうしたんだ、と言わんばかりに言うと、それを聞いていたジュウゴさんはにっと、狐の顔に笑みを掘って――
「ああ。それなら話が早い」と言ってくるりと踵を返し、すたすたと大穴に向かって歩みを進めながら――ジュウゴさんは言う。
自慢げになって――歩きながら言う。
「そう。『奈落迷宮』は本当に広くて臭い下水道だ。規模も何もかもが広くて、その全容も明らかになっていない。しかしそのダンジョンは昔、避難場所として設けられた場所があった」
「あ、それって私達が一時期休憩していた場所ですか……?」
私はその言葉を聞いて思い出して聞くと、ジュウゴさんは「イエス」と答えて私の方を振り向きながら笑みを浮かべる。
アキにぃはそれを聞いて「え?」と、素っ頓狂な声を上げながら私を見下ろして――
「それって、まさかあのオグトがいた……?」
と、驚いた目をして聞いてきたので、私はその言葉に素直に頷いた。
「まさかあそこが避難場所だったのか……」
「あんまりそう見えなかったわ」
「………アキにぃ達が来る前は凄い生活感溢れる場所だったんだよ? 噴水とかもあったし」
キョウヤさんもシェーラちゃんも、信じられないという顔をしながら言葉を紡ぐけど、私はそれを聞いてジュウゴさんの言うことは本当だということを告げた。
すると二人は『噴水』と言う言葉を聞いて、ぎょっとした目で私の顔を見ながら「「噴水っっ!?」」と、信じられないという気持ちが勝ったかのような影の濃い顔になって突っ込みを入れる。
私はそれを見て、おびえながらもこくんっと頷く……。
その話を聞いていたのか、ジュウゴさんは「そう」と、陽気に答えて――
「つまり――『奈落迷宮』は元々は人間が魔物と言う驚異から逃げるように作られた場所でもあり、色んなところに繋がっている」と言った。
色んなところに繋がっている。
その言葉を聞いたダディエルさんは、首を傾げながら頭に疑問符を浮かべて、ジュウゴさんを見ながらこう聞いてきた。
「繋がっている? それはいったいどういうことなんだ?」
その言葉を近くで聞いていたギンロさんも、ダディエルさんの言葉に同意しながら「あー! それ俺も気になった!」と、こくこくと頷いて言う。
その話を聞いていたガザドラさんとティティさん、そしてヘルナイトさんは――
「むぉ!」
「あ!」
「っ!」
三人同時に何かを思い出したのか、互いの顔を見合わせてからヘルナイトさん達は、お互いを見合わせながら――
「「「そうだったっ!」」」と、言う。声を揃えて言う。
『?』
私達は一体なにが『そうだった』のかがよく理解できずに、体を斜めに傾けながらヘルナイトさん達を見ていた。ジュウゴさんのニヤついた顔を見ないで――私はヘルナイトさんにこう聞いて見た。
「なにが『そうだった』んですか?」
「! すまない。思い出せなかったからという不甲斐ない理由で、あの場にいながらすぐに『デノス』に向かえなかったことを詫びる。すまない。実はな……」
どうしてなのかはわからない、でも申し訳なさそうにしているヘルナイトさんは――私やみんなに向かって、ジュウゴさんの代わりに説明を引き継ぎながら説明を続けてくれた。
「あの迷宮は、確かに最大の広さを誇っている誰も踏破したことがないダンジョンだ」
「だーかーらー。それは知っているっつうの。何回言うつもりなんだよ」
ギンロさんは腕を組みながらうんざりして言うと、それを聞いていたガザドラさんは、申し訳なさそうにしながら『おほんっ』と、わざとらしく咳払いをして――ヘルナイトさんの言葉に重なるようにして言葉を放つ。
「しかし……。そのダンジョンは……、下水道であろう……?」
「ええ臭かったし薄汚かったし溝鼠までいた最悪な環境のダンジョンよ二度と入りたくないわ」
「……シェーラの奴……、あまりに不快な場所だったのか、早口で話しやがった。おかげで文章にすると読みずらいような言葉を聞きとっちまったぜ……。しかもどことなく目が『スーンッ』としている……っ!」
ガザドラさんの言葉を聞いて、シェーラちゃんは目を半開きにしながら生気のない目でどこを見ているのかわからないような雰囲気を出してガザドラさんの言葉に同意の言葉を吐く。
機械のように、淡々と、早口で言うシェーラちゃんを見て、キョウヤさんは悍ましいものを見たかのような青ざめ具合でシェーラちゃんの肩を叩いて「大丈夫か?」と、心配そうにしていた。
そんなヘルナイトさんとガザドラさんの言葉を聞いていたメウラヴダーさんは、少し考えるような顔をして黙っていると……。
「………そう言うことか」
と、何かを理解したかのような顔をして、言葉を小さく零した。
まるで、盲点を見出したかのような気付き具合だ。
それを聞いていたガルーラさんは、理解できないような顔をして首をひねりながら「何が『そう言うこと』なんだよ」と、もう疲れたかのような顔をして聞いてきた。
そんなガルーラさんを見ながら、メウラヴダーさんはガルーラさんにわかるようにこう言った。ガルーラさんだけに教えて、みんなに聞こえるようにこう言ったのだ。
「いいか? そのダンジョンは下水道をモチーフにしたダンジョンだ。みんなに聞きたいが……、下水道って、どんなイメージだ?」
その言葉を聞いたみんなは、互いの顔を見合わせなあら少しの間沈黙になって、メウラヴダーさんの質問に対して各々考えていた。私もその一人で、下水道のイメージを頭の中で膨らませていくと……、最初に手を上げて、声を上げたのは――アキにぃだった。
アキにぃはそっと手を上げて、疑問の表情を浮かべてメウラヴダーさんを見ながら……。
「えっと…………。汚水のたまり場?」と言う。
それからどんどんと、メウラヴダーさんの質問に沿った答えをみんなが各々言い合っていく。
「溜める場所?」と、ダディエルさんは言い。
「汚い」と、シェーラちゃんは座った目ではっきりとした音色でいい。
「えっと…………、マンホール?」と、ティズ君は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら答えた。
それを聞いていたギンロさんは、けらけらと笑いながら「なんだそりゃ!」と、ティズ君を見ながら言う。
ティズ君は、ぼっと赤くなっていた顔を更に赤くさせて、恥ずかしそうにそっぽを向きながら「だ、だって…………、俺のイメージだと、そうだもん。マンホールって、汚いっていうか、大雨になったら、そこから汚い水がドぱどパ出るし……」と、唇を尖らせながら小さく言った。
そんな話を聞きながら、私はくすっと微笑みながらティズ君を見る。ティズ君はきっと、ありったけの知識で下水道と言うイメージから出る言葉を吐いたのだろ………。
ん?
私はティズ君の言葉を聞いて、みんなもティズ君の言葉を聞いて、じっとティズ君を見ながらみんな黙ってしまう。
「え? え? えぇ? ど、どうしたの……?」
みんなの顔を見て驚いて固まってしまっているティズ君。顔も青くなっており、何か悪いことを言ったのかもと思って、怖がっているもしゃもしゃを出して怯えているティズ君。その顔を覗き込みながら、私は優しく控えめに微笑むようにして聞いた。安心させるようにして、私はティズ君にこう聞いた。
「ねぇティズ君。さっき……、なんでマンホールって言ったの?」
その言葉に、ティズ君は「え?」と素っ頓狂な声を上げて肩を震わせながら驚くティズ君。
彼は私の言葉を聞いて、少し驚いたまま固まっていたけど、すぐに「えっと」と言いながらテントの上を見上げながら、ティズ君はポツリ、ポツリとだけど、話してくれた。
「えっと……、マンホールっていろんなところにあるから、俺――小さい時に聞いたんだ。『なんであの丸いものは町のいろんなところにあるの?』って。そしたら俺のことを世話している人が……、『マンホールはね、下の世界への入り口なんだよ。マンホールを開けたら臭くてどろどろとした世界が広がっている世界で、みんなはその世界を『下水道』って呼んでいるの。だからティズ君。あのマンホールの中に入ったらだめだからね。色んなところに繋がっているから、迷ってしまうから』って……。だから、下水道の入り口のマンホールを思い浮かべて……。それで言ったんだよ」
ティズ君が言ったと同時にみんながその言葉を聞いた瞬間――はっと目を見開いて……。
『あぁっ!』と、難しい答えがようやくわかったかのような驚き方をして、手をポンっと叩いたのだ。
私もそれを聞いて、やっぱりそういうことか……。と思いながらヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんは私達の心中を察して頷いた。
その頷きは――きっと正解のそれだろう。
「えっと……、どうしたの?」
ティズ君は首を傾げながら未だにその答えに至っていないような顔をして、こんがらがっているような表情を浮かべながら私に聞いてくる。
それを聞いていたティティさんはティズ君に駆け寄りながらしゃがんで、その肩に手を置きながらティズ君の名前を呼ぶ。そしてそのまま真剣な眼差しで彼女はこう言ったのだ。
「ティズにわかりやすく説明いたしますね。この『奈落迷宮』は下水道です。そしてその下水道は最大の広さ。つまりはアズール全土を取り囲むような広さなのです」
「う、うん……」
「ティズの言う通り……、この下水道もどこかに繋がっていて、どこが入り口なのかもわからないような入り組み方をしているんです。でもどんな世界でも、下水道は存在していて……。どの国にもその下水道の入り口があるということなのです。そこかしこに」
「え?」
と、ティズ君はようようわからなくなってしまったのか……、首を傾げて、ナヴィちゃんのようなつぶらな瞳でティティさんを凝視したまま、首をこてりと傾げてしまった。
……どうやら理解できなかったらしい……。
その光景を見ていたティティさんは、「あわわ」と珍しく慌てる顔を見せながらティズ君に向かって「わ、わかりやすく言うとですね……っ! えっと、あの……、その……っ!」としどろもどろになりながらティティさんは答えを言おうとしている……。
そんな光景を見ながら、誰もが呆れた汗を流し、乾いた笑みを浮かべてその光景を見ていると――虎次郎さんが「おほんっ!」と、大きく咳払いをしてティズ君達を見ながらこう言った。
「つまりの――まるほーるは下水道の入り口であり、出口でもある。大きな街に行けば、まるほーるはそこかしこにあり、その下水道を通れば、必ずどこかに繋がっているということじゃ。いうなれば下水道は大規模な駅と言う感じかのぉ」
「………マンホール、だよね?」
ティズ君は虎次郎さんの言葉を聞いて、首を傾げながら聞き返したけど、虎次郎さんはその言葉を聞いても「? まるほーるじゃないのか?」と聞き返してしまう。
このままではエンドレス。永久にその地獄から抜け出せないと思ったのか、キョウヤさんはティズ君と虎次郎さんの間に立って、二人を制止する。手をつきだして慌てた顔で「ストオオオオオオップ!」と叫びながら……。
それを聞いていた私は、乾いた控えめな笑みを浮かべることしかできなかったけど、大体想定通りの答えだった。
つまり――
ジュウゴさんは確かに、
でも入れないわけではない。ちゃんと入れるのだ。正規ルートではなく、違法のルート。簡単に言うと別の道ならば入ることができると言ったのだ。
その別の道と言うのは簡単。
まっすぐ行くのではなく……、下から上へと昇って行けばいいということ。
順路で言うとこうだ。
まず大穴から落ちて、そのまま下水道を探索する。
それも『デノス』への道のりに沿って歩みを進めて丁度か、少し前にあるマンホールに続く鉄の梯子を上って、『デノス』に侵入。
ということを、みんなは知ったのだ。
当たり前だけど、あまり下水道って歩かないから、誰もその発想に至らなかったのだろう……。そのヒントをくれたジュウゴさんに感謝しかない。
そう私は思って、ヘルナイトさんを見上げながら、控えめに微笑んでこう言った。
「本当に諦めないでよかったです。ちゃんと――道はありましたね」
「…………そうだが、すまないな。忘れていた」
と、ヘルナイトさんは頭を抱えながら申し訳なさそうに謝ってきたけど、私はそれを聞いてもふるふると首を横に振って、「大丈夫ですよ」と言う。
それを聞いていたヘルナイトさんは、私のことをじっと見ながら、頭に添えていない手を私の頭にそっと乗せて、そのままゆるりと撫でながら、小さくお礼を述べた。
それを聞いて、私は…………。なんだろうか……、久し振りのこそばゆさを感じて、不思議と口元を緩めてしまう。
「グギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ……………………ッッッッ!」
「お前も久し振りの『グギギ』だな……っ! はいはいドウドウ! ストップザジェラシーッッ!」
「……やばいわねアキの顔。鬼から進化した鬼神のごとくの顔……」
そんなアキにぃとキョウヤさん、そしてシェーラちゃんの声は、あまり聞こえなかったので内心何をしているんだろうと思いながらヘルナイトさんのその行動に身を預けていた……。
「はいはーい。ご理解オーケー? そうと決まれば……でしょ?」
と、ジュウゴさんはその話を聞きながら私達に言う。
それを聞いていたみんなもジュウゴさんの方を見て、そしてジュウゴさんの背後にある大穴を見つめる。なにせ――この大穴に入ったら、もう後戻りなんてできない。ここに入るということは、心の準備も必要になる。私も少しだけど、さっきまで感じていたもどかしさをかき消して、ぎゅっと下唇を噛みしめるようにしてその大穴を見つめる。
その光景を見ていたジュウゴさんは、何かを察したのか、にっと笑って、私に近づきながらジュウゴさんはあっけからんとした顔でこう言ってきた。
「んで、お姫……っ! じゃないな……。お嬢ちゃん。『デノス』への行き方だけど、ショートカットできる場所があるって知っていた?」
「え? ショートカット?」
私はそれを聞いて、驚いた顔をしてジュウゴさんを見上げるとジュウゴさんはうんっと、狐特有の顔でにこっと微笑みながら頷いて、右手の人差し指をピッと立てながら、ジュウゴさんは続けてこう言う。
「いうなれば近道。その道を通れば、かなりの時間短縮ができるんだって。俺はそのことについてつい最近知ったんだよ。あの迷宮ってかなり入り組んでいるし、古ぼけているし」
「………そんな道があるんですね。どんな道なんですか?」
私はジュウゴさんに聞いた。
私達が歩いている間、そんな特殊な道なんてなかったし、これと言って目印となるものなんてなかった。なので私はジュウゴさんに聞いたのだ。
するとジュウゴさんはけらけら笑いながら「あはは。そこまで難しくないよ。っていうか――」と言って、ジュウゴさんは私に向かって、一言。
「知ってるよ。君達二人なら」と、言ったのだ。
「え?」
「?」
ジュウゴさんの言葉に、私は首を傾げながらジュウゴさんを見上げて、ヘルナイトさんもそれを聞いて首を傾げていると、ジュウゴさんはにっと狐の顔に、笑みを掘りながらこう言った。
「――ヒントは……、俺達初対面、そして赤っ恥」
ヒント――俺達初対面。そして……赤っ恥?
その言葉を聞いた私は、一体何を言っているのだろうと思い、一瞬だけ顔を歪ませながら首を傾げた瞬間……。
「あ」
「!」
と、私とヘルナイトさんは、互いの顔を見合わせて……。
「「あそこだ (あそこか)」」と、同じことを思ったのか、一部だけ声はそろわなかったけど、声を揃えて言う。
私とヘルナイトさんが言うあそこ――それは、ジュウゴさんと虎次郎さんと初めて出会った場所……。そして私が赤っ恥を書いた場所でもある……、鍵がかかった鉄格子があったあの場所がが、『デノス』への近道だったのだ。
というか、見られていたんだ……。
私はその事実を聞かされて、ゆでだこ以上に赤くなってしまった顔を手で覆い隠しながら、私はしゃがみこんで声にならないような小さな叫びを上げる。
その光景を見てか、ヘルナイトさんは「? どうした?」と、驚いて私の肩に手を置きながら宥めていたけど、ジュウゴさんはけらけらと笑いながら私を見ていたに違いない。背中の方向から声がしたからそうだ……。
私は自分がしてしまったことに、今更ながら恥ずかしさを覚えて……、二度とあんなことは絶対にしないと心に誓った……。
すると――
「あ、そういえば……」
と、私はジュウゴさんの方を振り向きながら、とあることを思い出したので聞いて見た。
ジュウゴさんはそれを聞いて、お腹を抱えていたけど、すぐに私のことを見て首を傾げながら「え? なに?」と、目じりに溜まった涙を拭いながら返事をした。
その光景を見ながら、私は内心羞恥心が上がった気がしたけど、それでも私は、ジュウゴさんを見ながらあの時聞きそびれたことを聞いた。
「あの時、ギルド長になる代わりに、条件があるって言っていましたよね……? あれって何だったんですか?」
その言葉を言った瞬間、ジュウゴさんは頭をがりがりと掻きながら、「あー。そんなことあったねぇ」と言いながら、面倒くさそうな顔をしていたけど、ジュウゴさんは小さい声で――
「それね。条件としては、施設を作ってほしいって頼もうと思っただけだよ」と言った。
「……施設……。医療施設のことか?」
ヘルナイトさんの言葉を聞いたジュウゴさんは、敵わないという気持ちを表に出しながら、肩を竦めて「正解」と言って――続けてこう言う。
「この国は色んな病に苦しんでいる子が多いし、孤児も多い。俺って、昔あったことから、そう言った子供を見捨てるなんてことができなくなっちまって……、だからさ。この体を利用して、色んな薬品の試薬を作って、それを苦しんでいる子たちに無償て提供していた。でも……、それでも医療器具とか、寝かせるためにベッドが必要になるし、環境だって大事だ。だから……、アクアロイア王に頼んで、その環境に適した場所で試薬を作って、色んな子達を保護したり、苦しんでいる人達を助けたいという理由で、医療に適した環境に医療施設を作って、その場所を俺のギルドにしてくれって頼もうとしていたんだよ」
「それって………………」
「要は交渉したいがためのダメ元ってこと。俺なんて、魔力なんてないただの一般人。ギルド長になるために必要な要素がないんだもんな。きっとだめだと」
「ダメじゃないと思います」
「?」
私は、ジュウゴさんの言葉を聞いて、意思を聞いてから、私ははっきりとした音色で答えた。
それを聞いたジュウゴさんは。首を傾げながら「なんで?」と聞いてきた。それを聞いた私は――自分が思ったことを口に出したのだ。正直な――自分の気持ちを。
「アクアロイア王なら――絶対にジュウゴさんの言葉を聞いて、何とかしてくれます。アクアロイア王はこのアクアロイアを変えたい一心で、私達にこの地にいる魔女たちに会って話をしてくれと、ギルド長になってくれと言っているんです。変わってしまったこの地を……変えるために」
だから――ジュウゴさんの気持ちもわかってくれます。
そう私は言った。
それを聞いていたジュウゴさんは、きょとんッとした顔で私を見下ろしていたけど、すぐにへらりと、力なく笑って――
「そうだといいな」
と、願っているような笑顔で言うジュウゴさん。
その光景を見ていたヘルナイトさんはジュウゴさんを見て凛とした音色で「今の王は前の王とは全然違う。きっと――真摯になって話を聞いてくれるだろう」と、言った。
ジュウゴさんはそんな私達の言葉を聞いて、リンドーさんのような複雑な笑みではなく、必死に何かを隠そうとして無理に笑みを作っているような表情でいた。
「そうかねぇ……」と、不安のような音色も吐き出しながら……。
すると――
「ハンナー! そうとなればすぐに出発するぞー!」と、私を呼ぶアキにぃの声。
その声を聞いた私は、はっとしてアキにぃのほうを向こうと首を動かした瞬間……。
「お姫さん」と、ジュウゴさんは言った。
私はジュウゴさんの声を聞いて、そのまま横目でジュウゴさんを見ると、ジュウゴさんは右手をそっと上げて……、ひらりと手を振ってから――彼は言った。
「あとでゴトさんに言っておくよ。今はこれだけ言っておく。武運を祈る」
「はいっ」
私はその言葉を胸に刻んで、先生にもちゃんと謝っておこうとぎゅっと胸の辺りで握り拳を作って私は頷く。
そしてすぐにヘルナイトさんを見上げて私は言う。
「――行きましょう」
「ああ。最初からそのつもりだ」
ヘルナイトさんの頷きを見て、私はすぐにアキにぃ達がいるところに向かって駆け出す。
この砂の国に来てから色んな事がありすぎた。
帝国に従う兵士。
その国に住んでいる種族。
己の私欲を満たそうとしている人。
他人のために命を張っている人。
命を何とも思わない帝国の人々。そして――
目の前で救えなかった命や、目の前で去って行ってしまった仲間。衝突。無慈悲な現実。
もうこんなこと一秒でも早く終わらせたい。一秒でもこの地から瘴気を消したい。
そして――救けたい。その意思を今でも刻み続けながら私は走る。
帝国に入るために必要なカードキーを手に入れるために、『デノス』にいるアクロマを捕まえるために――私達は『奈落迷宮』を通って、その場所に向かって突き進む。
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