PLAY52 衝突 ④

「なんか……、オレ思うんだけどよぉ……」


 紅さんの姿が見えなくなったところを見て、キョウヤさんはがりがりと頭を掻きながらもにょもにょと口元を歪ませ、キョウヤさんは腑に落ちないような音色でこう言った。


「いくら何でも――やりすぎじゃね?」


 その言葉を聞いて、今まで不穏な空気だったそれがどんどん煙が晴れるみたいに晴れてきて、その言葉を聞いていたメウラヴダーさんは確かにと言った様子でうんうん頷いている。


 シェーラちゃんもようやく私の口からその手を離してくれて、私ははぁっと息を全部吐き出してから新鮮な空気……、じゃない。まだ微かに残っている消毒の匂いを口に含んだせいで、せ返る様な味を味わってしまった。


 食べてないのに気持ち悪くなった気がする……。


 そう思いながら話を聞く私。


 ヘルナイトさんもずっと話を聞いていて、一言も発していない。


 そのことについて私は内心心配になりながら上を見上げてどうしたのかと聞くと……。


 ヘルナイトさんははっとしてから私を見降ろして――


「す、すまない……。少しな……」


 と、少し挙動不審のような雰囲気を出しながら言うヘルナイトさんだったけど、すぐに「だがもう大丈夫だ」と言っていた。


 、その鈍痛に耐えるような動作をしながら……。


 それを聞いていた私は首を傾げながらどうしたんだろうと思って見ていたけど、すぐに何かを思い出したんだと思いながらヘルナイトさんを見上げていた。


 何を思い出したのかは、聞かないけど……。


 するとそんなキョウヤさんの話を聞いていたメウラヴダーさんは、腕を組みながら納得いかないような顔をして――


「確かに……。あれはないだろう。はたから見れば弾圧に等しいぞ」


 真剣に怒りを見せている顔で言うメウラヴダーさん。続けてこう言う。


「相手を蹴落としてまで合理性を優先する行為は好きじゃない。あんなの――ただのいじめだろうが」


 ぎっと睨みつけながらはっきりとした言葉で言うメウラヴダーさんだけど……、クルーザァーさんはそんなメウラヴダーさんの言葉を手のひらで返すように――


「精神的に異常をきたした奴を連れて行くよりはましだ。それに相手もそこで座り込んでいる女と離れられて清々したはずだ」


 と言いながら、クルーザァーさんは私のジトッとゴーグル越しに睨みつける。


 本人はもしかしたら睨んでいないかもしれないけど、それでもその言葉に出ている女――私からしてみれば……、睨んでいるようにしか見えなかった。


 私は俯きながら言葉を紡がずに、ただ黙っているだけだった。


 紅さんの怒りの原因でもある私は、ただただ黙ることしかできない。なんて声をかければいいのかもわからないのに、その言葉に反論すること自体――私には資格なんてなかった。


 ボルドさんも、ギンロさんも、ダディエルさんも、リンドーさんも……、あれから一言も言葉を発しない。


 一人欠けたと同時に来る喪失感。これを作ってしまったのは……、私の所為。



「清々って――元々あんたがスナッティを泳がせたのが原因じゃないの?」



 シェーラちゃんはそんなクルーザァーさんの言葉を聞いて、怒りを小爆発させるような音色で言い放った。


 私はそのまま顔を上げてみると……クルーザァーさんは、「ん?」と首を傾げながらシェーラちゃんを横目で見つめ、対照的にシェーラちゃんは睨みつけるような目で……、苦しそうな歪め方をしてクルーザァーさんを睨みつけていた。


 そんなクルーザァーさんの背後でアキにぃが拳銃を二丁構えながら、殺気のもしゃもしゃを轟々とガスバーナーのように燃え上がらせて、その銃口をクルーザァーさんに気付かれないように向けていた。


 珍しいことに、キョウヤさんはその行動を見ても止めようとしない。というか腕を組んで怒りを抑え込んだ無表情の顔のまま仁王立ちの状態でいただけ。止めるなんてことはしなかった。


 そんな光景を見ながら、虎次郎さんはキョウヤさんとアキにぃを交互に見ながら小さな声で「大丈夫なのかのぉ……」と、零していた……。


 ティズ君やティティさん、ガルーラさんやガザドラさんが驚いてシェーラちゃんを見る中……、シェーラちゃんは凛々しいけど、怒りが含まれたその音色でこう言う。


「あんた――あの時言っていたわよね? 『想定していた』って。それって裏切者がいるとハンナ達に告げる前から? 正体を暴くためにわざと泳がせたってことよね?」


 その言葉にクルーザァーさんは「ああ」と同意、そして納得の声を上げて、シェーラちゃんを見降ろしながら面と向かい合うようにシェーラちゃんのことを真正面から見降ろして――


「となると……、そこにいる女は? お前に」


 と、淡々とした音色で言った。


 それを聞いたシェーラちゃんは頷きながら「リヴァイヴは知っている」と言って、ヘルナイトさんを見上げながら『そうよね?』と言う雰囲気を出しながらヘルナイトさんを見る。


 ヘルナイトさんはそれを見ながらシェーラちゃんの真意を察したのか、凛とした音色で「ああ」と言って頷く。


 アキにぃも頷いて、キョウヤさんも頷く。


 その言葉を聞いたボルドさんは、驚きながら「は、話しちゃったのっ!?」と、我に返りながら私に問い詰める。私はそれを聞いて、申し訳なさそうに頷いて……。


「ご、ごめんなさい。どうしても、疑いたくなくて……」と、私は正直に答える。


「その気持ちはわかる」


 ギンロさんはぐっと鼻を啜りながらうんうん頷きながら腕を組んでいる。その光景を見ていたダディエルさんは呆れながら溜息を吐いていた……。


 しかし――


「はぁ」


 クルーザァーさんは溜息を吐きながら私のことを見降ろし……、冷たい目つきで私を睨みつけながら、彼は心底呆れたような音色でこう言ったのだ。


「そう言った優しさだけでは――何も解決しない。お前はただその優しさをばらまくことしかできないのか? もっと他人を疑え。言葉と外見は相手にとってすれば武器で狂気だ。感情も乏しいくせに『疑いたくない』なんて、甘いにもほどが」

「甘くないわ」


 シェーラちゃんの張り上げた声が、テント内に響いた。けどすぐに消えてしまった。


 それを聞いた誰もが、シェーラちゃんを見て驚いた顔をしている。


 私もその一人だ。


 でも、ヘルナイトさんだけはシェーラちゃんを見ながら微笑んでいたような気がするけど、そこまで見る余裕がなかったので、私は気付かないままシェーラちゃんを見ていた。


 シェーラちゃんは言う。




ハンナこいつは確かに何もできないくせに相手のことを考えて率先して囮になったり、自分しか動けないからって戦えないくせに戦おうとして挙句の果てには負けてしまったり、ボロボロになっているくせに頑固なのかはわからないけどそのまま戦おうとして死にかけたり、かなりの馬鹿だけど甘ちゃんではないわ。馬鹿であんぽんたんだけど甘ちゃんではないわ」




 それ、ほとんど私がしていたことだよね……? そして何だろう……。


 すごく罵倒されている気がするのは……、私の気のせい? だよね……? 馬鹿にされて……、いるのかな? 私……。


 そう思いながら、私はシェーラちゃんの話を耳に入れながら茫然としてしまう。その話を聞いていたティズ君は私のことを見ながら不安そうな顔をしておずおずと……。


「無茶ばかり、しているの? 俺みたいに痛くない身体じゃないんだから、無理はしない方がいいよ?」と、心配そうな顔をして心配されてしまった。


 私はそれを聞いてうーんっと首を傾げながら、本来ならその言葉はティズ君に賭けるような言葉な気がするけど、今は私の話なので、私は少し黙ってから頷いた……。


「結局何もできないようだが?」と、クルーザァーさんはシェーラちゃんに向かって聞くと、シェーラちゃんは頷いて――


「そうよ。戦いはできないけど、相手のことを第一に考えるような優しくて、ううん。優しすぎる馬鹿よ。裏切者がいるって聞いた時も、ハンナこいつはすごく悩んでいた。疑いたくないって言っていた。だから私は――私達は話し合ったの。裏切者がいるのか、互いの情報を共有し合いながら……」


 あの時話したことをここで話したのだ。


 それを聞いたクルーザァーさんは、ぎょっとしながらそのことを聞いて、少し声の波を荒れさせながら、クルーザァーさんは「……話し合ったのか?」と、聞いてきた。


 シェーラちゃんはすぐに頷いて、すぐに――


「でも……、考えた結果――骨折り損ってことが判明。裏切者なんていないってことが決まったの」


 と言ったけど、シェーラちゃんは座っていたその体制から、流れるような動作で、音を立てずに立ち上がりながら――


「でもね。そう考えさせたのは私だと思うわ」と言って、クルーザァーさんの目をしっかりと見ながら……、シェーラちゃんは言う。


「私がそう促したからこうなった。疑いたくないなら信じればいいって言ったのも私よ」


 シェーラちゃんは握り拳を作って、その手をぎゅうっと握りながら――シェーラちゃんは前を見据えながら、クルーザァーさんに向かってはっきりとした言葉を吐いた。


「だから今回の件でこうなってしまったのは――私ってことになるわ。だからハンナは悪くなし、紅の被害妄想だったけど、それでもあんたの言い方はないと、私は思うわ」


 シェーラちゃんははっきりとクルーザァーさんを見て言う。


 それを聞いていたクルーザァーさんは、無言でシェーラちゃんを見下ろして、ゴーグル越しに目だけで私を見て、そのあとで顎に手を当てて考える仕草をしてからクルーザァーさんは黙ってしまう。


 それを聞いて、見ていた私は、驚いたままシェーラちゃんを見上げていた。


 あの時――紅さんの首の話をしている時……、シェーラちゃんはこう言っていた。


 自分にも責任があると――


 あの時からだろう……。シェーラちゃんは自分の言葉でこうなってしまったと、後悔していたんだと、私は内心察した。


 ティズ君もそのままシェーラちゃんを見上げた状態で、「そうだったんだ……」と驚きながら言葉を零していたけど、その話を聞いていたティティさんは、冷静な顔だけど、どこか優しさが含まれた顔をしてシェーラちゃんを見ながら腕を組んで言う。


「シェーラ様の言い分はよくわかりました。誰も責めていませんし、ハンナ様のことも責めていません。みんな責めることはできません。それに……、紅様は――どうやらハンナ様のせいでこうなったと妄信して猛進していました。あれではだめだということは、私も理解してしまいました。ゆえに今回はこの件から手を引けという、クルーザァー様なりの優しさなのではないのかと私は思いましたが……?」


「む」


 そのことを聞いていたシェーラちゃんはうっと唸るような声を上げてティティさんを見る。それを聞いていたクルーザァーさんは、何も言わずにただじっとしてその言葉を聞いているだけだった。


 すると――その言葉を聞いていたガザドラさんは……。


「……その件に関してだが、吾輩も紅の件は無理だと判断しきれない……。『六芒星』にいたとき、紅と同じようになってしまった者たちを見て、その末路を知っている身。相手の言葉に耳を傾けることなど、今の状態では不可能だろう……。今回の選択は、間違っていないやもしれん」


 前にもあったかのような不甲斐ない表情を浮かべて、首を横に振りながらクルーザァーさんの言葉に渋々同意していた。


 誰もがそれを聞いて、複雑な心境を抱えた表情をして黙ってしまう。ジュウゴさんだけはそれを見て体をそっと左右に揺らしていたけど……、一体何を考えているのかはさっぱりだった。


 その状況を見てか――


「そう理解してくれると助かる。確かに俺は疑うことを止めたことに関して怒っているわけではない。ただそういう甘えは――必ず身を滅ぼすことになると言いたいだけだ」


 察してくれ。


 クルーザァーさんは私に向かって冷静な音色で言う。


 それを聞いていたシェーラちゃんは、負に落ちないような顔をしてむすくれた顔のままクルーザァーさんを見上げて見つめている。


 私はその言葉を聞いてきょとんっと呆けてしまいながらも、こくんっと頷いてクルーザァーさんの言葉を頭の片隅に入れていた。


「つか……、結局このまま紅さんなしで行動するってことなのか? いいのかよそれって」

「! うーん………」


 話をまとめたキョウヤさんが驚いた声でアキにぃに向かって言うと、それを聞いていたアキにぃも腕を組んで難しい顔をしながら唸っていた。


「そのことに関しては俺だって納得できないよ……。ずっとみんな一緒だった」

「でもよー」


 ここで意外な人物が声を上げて、みんなの方を見てさも平然としながらその人――ガルーラさんはこう言った。



「そこまで紅に執着してなくてもいいだろ。あいつはあいつの意思でこの場を離れて、そして抜けた。それで連れ戻すなんてことをしたらまた一からやり直しだ。あと止まっていたら駄目なんだろう? 今はこの戦力で『デノス』に行くしかねえ」



 腕を組んで言うガルーラさん。普段から豪快な動きや攻撃しかしていないガルーラさんしか見ていないから、てっきりダンさんのように陽気な考えを持っていると思っていたけど、そうではないらしく (ちょっと……、ひどかったかな?)、私はガルーラさんの言葉を聞いて驚いた顔をしながら彼女を見上げる。


 その言葉を聞いていた虎次郎さんは「おぉ?」と言う声を上げて、あまり親密度がない虎次郎さんでも、ガルーラさんの言葉を聞いて疑念を抱いたのか――


「仲間じゃったのじゃろう? そんな淡々と突き放してもよいのか?」


 と聞くと、ガルーラさんは首を傾げながら、彼女ははっきりとした音色でこう言う。


「突き放してはいないよ。あたしは紅の意思を汲み取っただけさ。ただあの場で反論することもできたが、紅はあえて離れることを選択した。あたし等にそれを曲げる筋合いなんてない。これは――紅自身が決めたことだ。クルーザァーの言う通り――あの時はもう気が動顛して頭が変になっていたけど、一旦冷静になったとあたしは思う。だから考える暇を作ろうとしたんじゃねえの? 不器用すぎる内容だったけど、まぁ何とかなるだろう。紅は強かな女だ。必ず戻ってくるだろう」


 これはあたしの見解だけどな。


 そうガルーラさんが言うと、それを聞いていたティティさんやティズ君、そしてメウラヴダーさんは、そんなガルーラさんをじっと目が飛び出そうなくらい凝視して――


「「「ガルーラ (さん) 頭打った?」」」


 と、すごい真顔で聞いてきたけど、ガルーラさんはそんな三人を見て真面目な声で「喧嘩売ってんのか?」と聞き返した。心なしか、頭に怒りのマークが出ている気がした……。


 みんなもそれを聞いて、ぽかんっとしていたけど……、すぐにガルーラさんの言葉を聞いてか、みんなの顔が引き締まる。ガルーラさんの言葉で、みんな沈んでいたもしゃもしゃを奮い立たせるような燃えるもしゃもしゃにだんだん変えていき、気持ちを切り替えていく……。


 ヘルナイトさんもガルーラさんの言葉を聞いて――凛とした音色でこう言う。


「…………確かに、ガルーラ殿の言う通りかもしれない……。今はここで立ち止まっている暇は、ないだろう」


 と、苦渋の決断……。ううん。今まで何回もこんなことがあって、それを思い出してしまったかのような雰囲気を出しながら言うヘルナイトさん。


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんの過去にもこんなことがあったのかな……。と思いながら、紅さんの喪失に悲しんでいる自分に叱咤してしまう。


 ……心なしか、ここにきてから反省することが多くなった気がする……。


 でも、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。


 みんな紅さんのことについて眩んでいる人もいる。でも今泣いている暇はないんだ。


 今は――『デノス』に向かって、アクロマがいるその場所からカードキーを手に入れないといけないんだ。帝国にいる……、ガーディアンの浄化のために……。


 そう思っていると――


「そのとおりだ」


 それを聞いていたクルーザァーさんは、溜息を吐きながら「そう思っているなら、すぐにでも出発するぞ。こんなところで油なんて売っている暇なんてない」と言って、すぐにテントから出ようとした時――


「それってさー」


 突然だった。今まで黙っていたジュウゴさんが気怠く声を上げなら聞いてきた。


「ついさっき巨人の女が言っていた『デノス』に行こうとしているの?」

「………………そうだが?」


 ジュウゴさんの言葉を聞いていたクルーザァーさんは、ジュウゴさんを品定めのように目を細めて頷いてから……。そのあとジュウゴさんを頭のてっぺんからつま先まで見て……、一言。



「誰だこの藪医者は」と、はっきりとした言葉で言う。



 それを聞いたジュウゴさんはがんっとショックを受けたかのような動揺を見せて「え?」と言ってから……。


「え? 今更なんだ……。俺この駐屯医療所の隊長で、一応魔女」と言った瞬間……。私達リヴァイヴ以外のみんなが一斉の声を揃えて、ジュウゴさんを見ながら驚いた顔をしてこう言う。






『えぇっ!? この藪医者が魔女で隊長なのっ!?』






「――人に向かってその言い方はないんじゃないっ!?」


 ジュウゴさんはそんなみんなの悪気の無い攻撃を受けて、多大なショックを受けた顔をしてから声を荒げてた。でも、みんなの気持ちはなんとなく同意してしまいそうになった私……。


 シェーラちゃん達もそれを聞いて、うんうんっと頷いていた……。


 ジュウゴさん……。ごめんなさい。否定できないです……。


 私はヘルナイトさんに支えられ、ティズ君に心配されながらゆっくると立ち上がりながら内心、ジュウゴさんに謝った。



 □     □



 それから――何とか魔女ではないけどここの隊長であるということを認識してもらったジュウゴさん (傷心中) は、クルーザァーさん達の言葉を聞きながら……。


「で。さっき言っていたことって、まさか『デノス』に行こうとしていたってこと?」


 そこはオーケー? と、ジュウゴさんは聞く。


 それを聞いたクルーザァーさんはまだ信じていないような目つきで「ああ」と言って、ボルドさんはそんなクルーザァーさんを宥めながらジュウゴさんを見て、「そ、そうなんです……っ! 僕達そこに行こうとしてて」と言うと、それを聞いていたジュウゴさんはうーんっと、顎に手を当てながら難しそうに顔を歪ませてから私達を見てこう言った。







「は?」


 は? その言葉を放ったのは――クルーザァーさん。


 みんなもジュウゴさんのそのはっきりとした言葉を聞いて、誰もが茫然とした顔でジュウゴさんを見ていた。


 ジュウゴさんはその顔を見ながら頭をがりがりと掻いて……「やっぱ……、知らなかったってことでオーケーね」と言って、テントの中からどこか遠くの方を見つめながら、ジュウゴさんはこう言った。


「確かに、ここから『デノス』までの道のりは歩いて一日の距離だけど、この前聞いたことなんだけどね……、その場所を根城にしている奴が、『デノス』を覆うようにらしいんだよ」


 いわゆるバリケードね。


 と、ジュウゴさんは言う。それを聞いていたダディエルさんとギンロさんは、慌てながらジュウゴさんを見てこう声を荒げた。


「おい! そんなこと聞いてねぇぞっ!」

「そのまま強行っていう手はできねえのかよっ! あんたが使う魔法でこう……、どっかーんっっ! と」


 ギンロさんはヘルナイトさんの方を振り向きながら手を大きく広げて言うけど、ヘルナイトさんはそのことについてジュウゴさんの方を見ると……、ジュウゴさんは肩を竦めて首を横に振りながら――



「あー、それね……。実はその壁に練りこまれているのは魔王族が最も嫌いな鉱石――『』だから、きっと壊そうと思っても攻撃半減。宝石で例えるのならば、壁がダイヤモンドなんだけど、それを壊す破壊力は十分持っている武神様。でも壁の中に練りこまれている『封魔石』のせいで、どういうわけかは知らないけど、。本人たちにつけた瞬間半減されるのはこの特殊な歪みの所為。その歪みが魔王族の力を歪めてしまい、威力を硬度五ほどの宝石を壊す程度にしてしまうってこと」



「つまり……、攻撃力が下げられてしまうから、壊せない?」

「イエス」


 ジュウゴさんの長い話を聞いていたティズ君は、ぐわんぐわんっと頭を左右に動かしながら、何とか整理できた言葉を口にすると、ジュウゴさんは頷きながら言った。


 その言葉を聞いていた私は、そっとヘルナイトさんを見上げて、不安そうにすると、ヘルナイトさんはそんな私の顔を見降ろしながら、ぽふりと――久しぶりに頭に手を置いてから、ゆるゆると撫でて――


「いや、必ず突破口はあるはずだ」


 諦めてはいけない。と、凛としたころ場で励ましてくれた。


 それを聞いた私は、それでも不安を取り除けないような顔をして見上げていると……、その話を聞いてかキョウヤさんはティティさんとガザドラさんを見て――


「なら――ティティとガザドラなら壊せるんじゃねえか?」


 と、思いついたそれを提案する。でも……。


「私でも壊せません。『封魔石』は壊れない宝石ですよ? 頭を少し捻っただけでもわかります」

「……地味にこいつがシェーラに見えてきたよ……。オレ」

「吾輩でも無理だ。あれは壊せない。唯一壊せる詠唱があるとか、ないとか……、聞いたことがある様な、ないような気が……」

「曖昧だな……。結局――無理ってことだな」


 はぁ。っと溜息を吐きながら言うキョウヤさん。アキにぃもそれを聞いて頭を手で抱えながら小さな声で「マジかよ……」と憎々しげに言葉を零した。


 それを聞いていたジュウゴさんはあっけからんとした狐特有の顔で――


「これぞ――あんた達の万策尽きたってことだね」と、平然と言った。それを聞いていたボルドさんは慌てた素振りで両腕をせかせかと振りながら……。


「それは困るよぉ! そんなこと聞いていないし、こんな緊急事態聞いてないにょっ!」

「噛んだ……」

「それに……、そうなるとこれからどうしよう……っ。このままじゃカードキーも……」


 女の子が困ったように顎の位置に手を当てて考える仕草をしながら言うボルドさんだったけど、さっき突っ込みを入れていたダディエルさんを筆頭に――カルバノグとワーベンド。そして私とヘルナイトさん以外の三人が一斉に――


『きもい』と、リハーサルなしの声の揃えを見せた。


 それを聞いたボルドさんは、ショックを受けた顔をしてみんなを見て泣きそうな顔になったけど、誰もボルドさんに謝る人はいなかった……。


 でも――このままだと『デノス』に行けないのは事実。


 こんなところで難関に出くわしてしまった私は、どうしようかと考えてうーんっと唸っていると……。


「んん? なに立ち往生的な雰囲気になっているの?」


 と、ジュウゴさんはけらりと狐特有の笑みを浮かべながら、きょとんっとしている私達に向かって衝撃的なことを言いだした。





 ジュウゴさんは大きく開いているその大穴――つまりは『奈落迷宮』の抜け道に向けて指をさしながら言ったのだった。


 愕然として見ている私達をしり目に驚きと呆気が混ざってしまい、完全に白目を剥いて固まっているカルバノグとワーベンドをしり目に、ジュウゴさんはけらりと笑みを浮かべていた……。


 今まで通りの狐特有の……、黒い笑みを浮か

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