PLAY52 衝突 ③

「え? 切る?」


 その言葉に私は驚いた顔をしてクルーザァーさんを見ながら、驚いて固まってしまっているボルドさんを見た。


 誰もがその言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。


 ガザドラさんも紅さんを止めながらぎょっとして「えっ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚いていたから、誰だってクルーザァーさんの『切れ』発言を聞いてのことだと思う。


「き、斬れって……っ!? そ、そんな惨いことをしなくても……っ!」


 ボルドさんはわたわたしながらクルーザァーさんの言葉に対して弱々しく反論すると――クルーザァーさんは『はぁ?』と声を上げて、腕を組みながら首を傾げて――


「何を甘いことを言っているんだ。簡単だろうが――この妄想女とは縁を切れと。ここで首にしろと言っているんだ」


 と、淡々とした音色で言った。


「あ、斬れってその切れね……、てっきり殺す云々かと思った……」


 キョウヤさんは胸を撫で下ろしながらほっと安堵の息を吐いていた。


 みんなもそう思ったらしく、ガルーラさんに至っては「お前が暴走したのかと思ったぞ……。合理的判断とか言いながら……」と、顎を伝った汗を拭いながら言っていたけど……。



「? 何を言っているんだ? 俺は鹿と言っているんだ」



 クルーザァーさんは冷酷な言葉を言いながらガザドラさんに拘束されている紅さんを指さし、はっきりと言う。


 それを聞いていた私は、クルーザァーさんのもしゃもしゃを感じながらこう思った。



 ――この人は。本気で紅さんのことを捨てようとしている。と……。



「は? え? なんで……」


 紅さんはさっきの私のように、理解できないような顔をしてクルーザァーさんの方を見ようとしたけど、クルーザァーさんはそんな紅さんを見ないで、みんなの方を向きながら、一向に目を合わせないようにしてから――クルーザァーさんは言う。


「単刀直入に言う。結局紅は馬鹿と判断したまでだ。これ以上この状態に罅を入れないためにも、金輪際関わらない。首にしようと思っての結果だ」

「なっ!?」


 意味が分からない。そんな顔をしていた紅さんは、ガザドラさんに拘束されながらも首だけでその方向を見ようと震えるそれで振り向きながら――


「なんでそんな」

「お前の馬鹿な妄想と記憶の改竄に呆れての結果だ」


 小さくて下手な嘘をつく餓鬼と同じレベルのな。


 そう冷たく、クルーザァーさんは言う。


 それを聞いていた紅さんは引き攣った顔を浮かべて、イライラとした面持ちでクルーザァーさんの方を振り向いていた。


 話を聞いていた私は、慌てながらもその言葉に対して反論しようとした時――



 ――ぱしんっ!



「むぎゅ」


 突然口を塞がれてしまった。


 私はそれを受けて、一瞬どうしたんだろう……、と思いながら内心慌てて周りを目だけで見ると……。


「ふぉ。ふぉーふぉふぉん (あ、シェーラちゃん)」


 私は目の前で口を塞いでむすっとした顔で私を見ているシェーラちゃんを見て、口が塞がっている状態でシェーラちゃんの名前を呼ぶと、シェーラちゃんはそのむすっとした顔を更に濃くしてから……、驚いているティズ君や少し驚いた顔をしてシェーラちゃんを見降ろしているヘルナイトさんを無視して――


 私の目をしっかりと見てからこう言った。


「あんたは黙ってて」


 なんだろう……。顔を黒くして凄んだ目と声で言うシェーラちゃんからは、マグマのように熱くてどろどろとした赤いもしゃもしゃが、体中から湧き出ていた……、気がした。


 それを聞いて、感じた私は、思わずこくこくと頷いてしまう。


 逆らったら終わりと言う本能に従って……。


 するとシェーラちゃんはそれを見て、「よろしい」と頷きながらも、その手を離さないでクルーザァーさんたちの方を振り向いた。


 ティズ君はシェーラちゃんを見ながら「なんで離さないの?」と聞いてきたけど、シェーラちゃんはティズ君の方を見ないで「大丈夫よ。息はできるから」と、流すように話を切ってしまう。


 私はその光景を見ることしかできず、そのままクルーザァーさんの話を耳に入れることに専念した。


 その間――クルーザァーさんは肩を竦めながらみんなに向かって言う。と言うか――ボルドさんに言い聞かせるようにしてクルーザァーさんは言った。


「ボルド。いい加減その仲間の傷の舐め合いをするのはもうやめろ。ここは現実とは違う。ここは戦いありの、漫画のような世界。そしてアニメのような世界――簡単に言うと非現実の世界だ。ヴァーチャルの世界でも現実のように慣れ合うつもりか? そんな甘えはここでは不要だ。不合理の不純物だ」

「そ、そんなこと言われても……っ」

「現実ではなかったことが起きる。というか――

「っ!?」


 クルーザァーさんの言葉に、ボルドさんは息を呑むように驚いた顔をして、みんなも驚いた顔をしてからクルーザァーさんの方に視線を移す。


 ガザドラさんだけは紅さんの拘束に勤しんでいたけど……、そんな中クルーザァーさんは自分の感情に沿い違うように、淡々とした音色で説明を続けた。


「厳密に言うと……、俺が所属しているリーダーがこんなことを言っていた。『砂には気をつけろ』と。その意味が何なのかはわからなかったが、今になってすれば、これなんだと俺は確信した。予言者なのかと思っていたが、今はそれどころではない。その時のリーダーの言い方から察するに、砂はずっと前から内通者をしていたということになる。つまり――俺達の目が劣化品だった。ということだ」


「ずっと前って……」


 アキにぃの言葉に、クルーザァーさんはキッとアキにぃのことを睨みつけて……、淡々とした音色で「部外者は口を挟まないでくれ」と言って、アキにぃを口で制してしまう。


 アキにぃはその言葉――と言うか、まるで氷のような冷たい眼差しを見てか、アキにぃはうっと唸るような声を上げて、アキにぃは珍しく頷いて黙ってしまう。


 それを見たキョウヤさんも大げさなくらいに驚きながら「まじか……っ!」と言っていた。


 クルーザァーさんはそのまま続ける。


「スナッティの内通に何時気付いたのかはわからない。が――あいつはべらべらといろんなことを話していた。一人暮らしをするために、くそむかつく親から離れるために金を稼いでいたと……、その言葉から察するに、あいつはきっと一人暮らしをして自立をするつもりだった。が――マンションを借りるためには金が必要だった。その金がなかったから、あいつは金を稼ぐ方法を見つけようとしていた。それが――」


「情報を売る……。ですか?」


 リンドーさんはおずおずとして、笑みがぎこちないそれになっていたけど、クルーザァーさんは頷きながら「そうだ」と言って――


「あいつはとある人物から情報を提供してくれと頼まれたんだろう。一つの情報につき、多分万相当のそれを対価に」

「つまり――あいつはまさか」

「ああ」


 ダディエルさんはいち早くそのことに気付いたのか、クルーザァーさんに向かって言葉を発すると、それを聞いていたクルーザァーさんは頷いて――



「きっと、ということになる」



 悲しいことだが、それが真実だ。


 クルーザァーさんは言う。仮定や想像などの曖昧なものではなく、はっきりとした確定のそれを吐いたのだ。


 それを聞いた紅さんは、今まで怒りの染まっていたその顔を失意、落胆、そして絶望に染まった顔でクルーザァーさんの方を見て、紅さんは今まで暴れていたそれを、糸が切れてしまった人形のように、ぶらんっと下ろす。


「?」


 ガザドラさんはその暴れがなくなったことに驚きながらも、紅の表情を見て心配そうに「く、紅……。どうしたんだ?」と聞いてくる。


 しかしそんな紅さんに追い打ちをかけるように、クルーザァーさんはボルドさんを見ながら――紅さんにも言うようにこう言ったのだ。


「つまるところ――紅の言葉は完全なる妄想。ただ『砂は敵ではない』や、『砂はきっと悪い奴らに洗脳されたんだ』とか……、あとは『こうなったのは砂が裏切ったせいだけど、砂は友達だから裏切るなんてことはない』という甘ちゃんな考えがさっきのようなことを引き起こした。紅の見解は確かに筋が通っている。しかし冷静に考えてみればわかることだ」


 ボルド。


 クルーザァーさんはボルドさんを見て言う。


 ボルドさんはその言葉を聞いて、「へぁ?」と素っ頓狂な声を上げて驚きながらクルーザァーさんを見て「なに?」と聞くと――クルーザァーさんは呆れたため息を吐いて頭を押さえながら……。


「……まだ『仲間』とか言いたいのか? お前は……」と、頭痛を押さえるような音色で聞く。


 それを聞いたボルドさんは、もにょもにょと口元をもそもそと動かしながら、もじもじと体を動かしながらボルドさんは、小さい声で――


「えっと……、そんなの、当たり前だよ……。だって紅ちゃんは」と言った瞬間だった。




「リーダー。いい加減にしてくれっ」




 痺れを切らしたのか、ギンロさんがボルドさんの足を『げしり』と、軽く蹴りながら声を荒げた。


 それを受けてしまったボルドさんは、痛みなんてないけど、思わず「わ!」と、可愛らしく驚く声を上げながら近くにいたギンロをさんを見降ろして、彼の名を小さく呟く。


 その叫び声を聞いていたガルーラさんは、ちっと舌打ちをしながら「男のくせに女々しいな……」と、顔を顰めながら毒を吐いていたけど、誰もその顔を見ていない。


 みんな――ボルドさんに視線を向けていたから、誰もその言葉に対して口をはさむ人なんていなかった。


 私もその一人。


 ボルドさんの言葉を聞いていたギンロさんは、ボルドさんを見上げながらびしりと右手の人差し指をボルドさんに突きつけて――


「あんたは確かに俺達には優しい。それはわかっている。けどな――厳しさだって必要な時だってあるんだよっ」

「……、き、厳しさ……?」

「そうだよ!」


 ギンロさんは更に声を荒げる。そして続けてこう言う。


「紅は確かに友達思いの優しい奴だってことは、俺だってわかっている。でも相手を蹴落としてまで友達のことを優先にする奴を、このまま連れてってもいいのか? 俺は反対だ。たとえここにアスカがいたとしても、俺はそんなことしたくねぇっ! 今の紅は――だ」


 ギンロさんははっきりと言った。『異常』その言葉を強調しながら――はっきりと言ったのだ。


 それを聞いたボルドさんは、うっと唸るように黙ってしまい、そのまま紅さんの顔を恐る恐ると言う雰囲気で見る。


 紅さんはボルドさんの顔を見たまま、横目で茫然としている。


 それは――ここにいる私にもよく見えて、悲しいそれが目に焼き付いてしまう。


 私はそれを見て、再度後悔してしまう。あそこで、詮索することをやめなければ――犯人捜しを続行していれば……。そんな後悔が頭をよぎる。


 でも――後悔したところで、もう遅いのだ。遅すぎたのだ。タイムスリップしたいくらい――自分の行いの甘さに、後悔するだけの選択をした自分に、嫌気がさした。


 そう思ってしまった。


 ジュウゴさんは背中越しだったから表情までは見えない。けどジュウゴさんはその光景を、ただただ――じっと見つめているだけだった。何の感情もない。ただ見るだけのそれで……。


 ギンロさんの言葉を聞いてか、ダディエルさんもテンガロハットを掴んで、それを深くかぶりながら――


「確かにな。ここであいつの逮捕を長引かせることはしたくねえ。不安な要素を取り除いて、さっさと行こうぜ」


 と、まるで紅さんの首を賛成しているような――ううん。賛成している音色で言うダディエルさん。


 それを聞いたリンドーさんは、ぎょっとしながらダディエルさんのほうを見ていたけど、言葉は発しなかった。ただ――口をパクパクと動かしているだけで、言葉だけは出なかった。


 それを見ていたダディエルさんは――小さくため息を吐いた後……。


「俺はこんなところで止まりたくねえ。アスカを殺した奴を叩き潰すまでは――止まりたくねえんだ。俺がしてやれることなんて、これくらいしかねえし……。それに――そんな敵の手に落ちたやつのことを心配して、肩を貸す奴と一緒にいるのは正直ごめんだ。反吐が出る」


 どんどん声がどろどろと黒くなっていくようなそれを出しながら――ダディエルさんは紅さんのことを睨みつける。


 その目は――暗殺者特有の、何の感情もないけど、殺される。そう直感するような目つきのそれで、それを見た紅さんとティズ君は、びくりと体を震わせながら硬直する。


 ティズ君のそれを見たダディエルさんは、やべと小さく慌てた音色を吐いて――


「いや……、ティズ。なんかごめんな。怖がらせてすまん……」と頭を垂らす。それを見ていたキョウヤさんは、呆れた顔をして「弊害が出た……」と、小さく言う。


 その光景を見ながらため息交じりにクルーザァーさんはこう言った。


「ギンロとダディエルは賛成派ということでいいな?」


 賛成派。


 その言葉を聞いた瞬間――私はその言葉の意味をすぐに知る。


 賛成とは――紅さんの首に賛成している人をさす。


 それを聞いた私は思わずシェーラちゃんの手をどうにかしてどかそうと、両手で私の手を塞いでいるシェーラちゃんの片手をどかそうとする。


 何とかこの状況を丸く収めないとと思いながら、「んー! んー!」とうめき声を上げながら抗議したけど、シェーラちゃんの腕力は女の人とは思えないような力で、どかすことなんてできない。


 そんな中――シェーラちゃんは私の行動を感じていたのか……。


「あんたは何も言わないで」と、きっぱりと断言したのだ。怒りがこもっているような、でもその中には一抹の後悔も含まれているような、苦しい音色で……、シェーラちゃんは言う。


「……あんたが言ったとしても、結局変わらないわ。それに――

「?」


 その言葉に、私は一体何のことを言っているの? と思いながらシェーラちゃんを見ていると……。


「リンドー。お前はどうなんだ?」


 クルーザァーさんは感情がこもっていなような音色で、リンドーさんに向かって聞く。それを聞いた私は、はっと気付いてその方向を見た。リンドーさんの顔を見ると……、引きつった笑顔で無理矢理笑顔を作っているリンドーさんがそこにいた……。


「あ、え、えへへ……」と、無理に笑おうとして、空振りのようなそのぎこちない笑顔をクルーザァーさんに向けているリンドーさん。


 メウラヴダーさんがその笑顔を見て、少し悪いことをしたようなばつの悪い顔をして「り、リンドー……」と言って、手を伸ばそうとした時――


「変な感情移入はやめてくれ。これは俺達の問題だ。部外者が勝手に横入りしないでくれ」

「っ!」


 突然だった。クルーザァーさんはメウラヴダーさんの優しさを無下に突き放すように、厳しく言い放った。


 それを聞いていたキョウヤさんは、傍らでクルーザァーさんの行動に怒りを覚えたのか……。


「おい――それはさすがに」と言いかけた時……、キョウヤさんの前に手を伸ばして、その進行を阻止した人物がいた。


 その人物を見たキョウヤさんは、ぎょっとしながらその人物を見て――


「何止めてんだよおっさんっ。このまま黙って見ていろって言いたいのかよ」と、苛立ちを露にした音色で、キョウヤさんは虎次郎さんに向かって声を荒げて反論するけど、キョウヤさんの目の前に立ってその進行を妨害している虎次郎さんは――


「そうじゃ。これは儂らの問題ではない。これは彼奴等の問題。儂も無関係。そしてお前さんたちも無関係。関係ないものはただ見届けるだけじゃ。この結末を――な」


 と、陽気でも穏やかでもない……、真剣そのものの音色で虎次郎さんは言う。


 年の功。という言葉がふさわしいような佇まいを垣間見たキョウヤさんは、ぐっとこみ上げてくる言葉を吐こうとしたけど、すぐに首を横に振りながらその言葉を飲み込んで、頭を掻きながら一歩……、後ろに引いた。


 納得いかない。けど……、虎次郎さんの言っていることは正しい。


 私もそう思ったように、キョウヤさんもそう思って引いたんだ……。


 この話は確かに、紅さんの首の話。さっきの行動を見て、クルーザァーさんは見限りをつけてしまった。もうだめだと思ってこの話を持ち込んだんだ……。


 ボルドさんが言っていた……。仕事仲間である――ボルドさんたちカルバノグと、クルーザァーさんだけにしか理解できない、そしてほかの人達には関係のない話を……、この場で持ち込んで話をしたのだ。


 紅さんの目の前で……、処刑宣告をするように、クルーザァーさんはこの話をしたのだ。


 クルーザァーさんはリンドーさんを見据えて、聞く。淡々とした面持ちで聞く。尋問しているかのように、聞く。


「リンドー。お前はどうなんだ? 今回の首の件に関して、お前はどう思う?」


 目を逸らし、そしてぎこちない笑みのままリンドーさんは、無言を徹した。肯定も、否定もしない……、中立を主張しているような……、そんな雰囲気を出しながら……。


 それを見たクルーザァーさんは、すっと目を細めて……。溜息を吐きながら腕を組んで――


「お前はさっきの紅を見てどう思った? いつもへらへらしているお前だが、お前はこのチームを家族のように見ている。それは俺だってわかる。しかし……、今は仕事なんだ。私情をここに持ち込むな。そこにいるバカ女のように、感情のままに動くな」


「っ! そ、それじゃぁクルーザァーさんだって……、あの時っ!」


 リンドーさんはクルーザァーさんの言葉に反論する様に、クルーザァーさんに牙をむいて反論する。


 でも――クルーザァーさんはそんなリンドーさんの言葉を聞きながら……。


「あの時は確かに取り乱した。しかしすぐに俺はあの場で砂を拘束し、そのあとで尋問しようと動いた。最後の最後まで俺は感情論のまま動いていたわけじゃない。冷静さを取り戻しながら合理的に動いていただけだ。仕事は感情で動くものではない。合理的に動いてこそなんだ。私情なんて――この状況で言うと二の次三の次なんだ」


「っ」


 クルーザァーさんの言葉を聞きながら、リンドーさんはうっと唸って、そのまま俯いてしまう。返す言葉がないような雰囲気を出しながら、リンドーさんは震えていた。


 どんどんとだけど、重苦しい空気が周りに立ち込める。


 それを感じた私は、シェーラちゃんの手をどかそうとしていた手を、そっと引いて下ろす。


 この状態で、私は何を言ってもクルーザァーさんはその意思を曲げないだろう……。それはもしゃもしゃを見てわかっていた。だから――介入できないと思ってしまった。


 クルーザァーさんの頑固な意思に負けてしまった。


 そう言った方が正しい……。アキにぃやキョウヤさん、シェーラちゃんにティズ君、ガルーラさんは首を傾げていたけどメウラヴダーさんも虎次郎さんも、ヘルナイトさんやティティさん、ガザドラさんとジュウゴさんも……。みんなみんな……。


 その結末を見届けていた……。


「で? お前はどう思った?」と、クルーザァーさんは聞く。リンドーさんに聞く。リンドーさんは俯いたまま、クルーザァーさんの言葉を聞いていた。


「紅のさっきの行動を見て、どう思った?」


 その言葉に対して……、リンドーさんは……、一呼吸置いてから――重い口を開けるようにこう言った。


「へ、変だと……、思いました」

「変か。確かに変だった。が……、それ以前に異常と思わなかったか? ギンロはそう思っていたからこそ、紅と一緒に行動するのは危険と判断したんだぞ? ダディエルは私情こそ挟んではいる。しかしそれでもこの仕事優先に動いていることは確かだ。ボルドは論外としてでも。お前はどうだ? お前は今の紅と――行動を共にできるか?」


 ちらりと、紅さんを見るリンドーさん。


 紅さんはクルーザァーさんを睨みながらじたばたと動いて獣のような唸り声を上げている。ガザドラさんの拘束から逃れようとしていた。クルーザァーさんを横目で見ながら、血走った目で睨みつけて……、私を掴み上げた時と同じように……。それを見ていたリンドーさんは……、一言……。




「――むり、ですぅ……」




 紅さんにとって絶望の一言を、苦渋の決断のように吐き捨てる。


 それを聞いていた紅さんは、ぎょっとしながらもリンドーさんの方に向かって――


「お前……っ! なんで裏切るんだよっ!」と怒鳴りつける。


 それを聞いたリンドーさんは、ぎょっとしながらも申し訳なさそうに「す、すみませぇん……っ!」と謝っていた。でもクルーザァーさんはそれを聞いて、うんうんっと腕を組みながら頷いて……。


「誰もお前の味方なんていない。そして結果として――今のお前とは一緒に行動できないことが判明した」


 はっきりとした音色で――判決を下したのだ。


 それを聞いた紅さんと私達は、驚いた目を見てクルーザァーさんを見る。クルーザァーさんは紅さんに視線を向けながら、淡々と、三人の意見を聞きながら、汲み取りながらクルーザァーさんはこう言った。


「お前の今の心理状態は異常で、妄想を優先にして動く傾向がある。妄想ではなく、この場合は感情を優先、記憶を都合のいいそれに改竄して味方を陥れる。これはれっきとした精神異常だ。きっと――お前のモルグの神力はマイナス値になっているだろう。それを踏まえると、今のお前と一緒に行動することは、自殺行為に等しい。否――殺し合いのようなことに発展してしまうこともあるかもしれない。ゆえにお前との縁を――仲間としての関係をここで切る。それでいいな?」


 その言葉にギンロさん、ダディエルさん、リンドーさんは――こくりと頷く。


 私達はそれを聞いて、結局こうなってしまったという後悔を抱えながらその光景を見ることしかできなかった。でも――


「ま、待ったぁ!」と、ボルドさんは声を荒げながらクルーザァーさんに向かって制止をかける。クルーザァーさんは少し面倒くさそうな顔をして「なんだ?」と聞くと、ボルドさんはそんなクルーザァーさんに向かって……。


「お、おかしいよ……っ! こんな一方的に突き放すなんて……、そこまで合理的にやらなくてもいいじゃないかっ! 紅ちゃんのことは僕がしっかりと見て」

「飼い主じゃないんだぞ? お前は……。それにこんな異常者と一緒に行動することは――後の仕事に支障が出るかもしれないリスクを負う。今はリスクを少なくして行動した方がいい」

「そこまで合理的にならなくても……っ! 君だって、一緒に働いていた砂ちゃんのことが心配で」

「もうあいつは仕事仲間ではない。仲間でもない。あいつは裏切者だ。それ相応の制裁を喰らわせる。そのために今動こうとしているだけだ。決して改心させるために動こうとしているわけじゃない」

「そんな言い方は」


 ボルドさんとクルーザァーさんの口論が、永遠に続くかもしれない。そう思った時だった。






「――もういい」






 声が響いた。一際大きく響いた。


 それを聞いた誰もが、その声の主を見る。『え?』と言う表情を出しながら、みんなは声を発した――紅さんの顔を見た。


 紅さんは、もう失意しかなような顔で俯いて、ガザドラさんの拘束を見ながら……。


「もういい。拘束解いてもいい。暴れないから」


 と、淡々としているけど、投げやりさが目立つその音色で、紅さんはガザドラさんに向かって言った。


 それを聞いていたガザドラさんは一瞬躊躇っていたけど、すぐに飴細工と化しているその剣先に触れて、その拘束を解いて――自分もそっとその場から離れる。


 紅さんは俯きながらも、私の方を振り向いて――怨恨を込めた目つきで私を睨みつけながら……、小さく舌打ちをする。


 なぜそんなことをしたのかはわからないけど、私はそんな紅さんの姿を見て、口を塞がれながらも見上げることしかできなかった……。


 紅さんはそのままふぃっと踵を返して、そのままみんなの間を掻い潜りながら、外へを足を進める。


 そしてクルーザァーさんとすれ違った時……。


「――――――」


 小さく、クルーザァーさんの耳元で何かを囁いた気がした。


 何かを言った気がするけど、聞き取れない音量だったので何を言っているのかを理解することができなかった。


 でもクルーザァーさんはそれを聞いても淡々としてて――


「さっさと行け。これ以上その状態で関わるな」と、冷たく突き放す言葉を吐いた。


 その言葉を聞いた紅さんはそのまますたすたとその場を後にして……、テントの幕をたくし上げて、そのまま外へと足を踏みいれる。


 ボルドさんの静止を聞かずに、紅さんはそのまま――


 ばさりと――


 私達との関係に大きな亀裂を入れるように、テントの幕を下ろした……。



 □     □



 結果としては――最悪の結果で終わってしまった口論。


 紅さんのクビを目の当たりにした私は……、今更またぶり返してきた後悔について考えながら紅さんの背中を見ることしかできなかった……。

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