PLAY52 衝突 ②

「え?」


 一瞬だった。


 本当に一瞬で、一体何を言っているのだろうというような雰囲気で、私は鬼の怒りの前触れのような雰囲気を出している紅さんを見ながら恐る恐ると言った感じで聞き返す。


 すると紅さんはぐっと私の首元の服を掴み上げながら、低い音色で――


「だから――お前のせいだろう。こうなったのは」


 と言ってきた。


「? ? ??」


 これは一体どういうことなのだろうか……。もしかして、私がここにいなかったから。こうなったのは私のせいだと言っているのだろうか。でも深い理由がよくわからないので、私は混乱しながらもこの状況をどうにか理解しようとした。


 わたわたとしながら周りを見ると、みんなが紅さんの行動を見て慌てながら「何しているんだ」と言っている人。


 半面……、「お前何やっているんだ」と怒りを露にしている人がいて……、一体どうなっているのか理解することができなくなってくる私は、多分前者の一人だろう。


 そんなことを考えていると……、話しはどんどんと進んでいった。


「おい……。これはいったいどういうことなんだ?」


 ヘルナイトさんもこれには驚いているらしく、近くにいたボルドさんに聞くと、ボルドさんはうーんっと頭を抱えながら申し訳なさそうに、そしてなんでこうなってしまったのだろうという後悔のもしゃもしゃを出しながら――ボルドさんはこう言ったのだ。


「えっと、それがね……、紅ちゃんとスナッティちゃんは凄く仲が良くて、今回のことで紅ちゃんすごく堪えちゃったんだよ」

「堪えた………? それでなぜハンナが?」

「それが……。なぜこうなったのかは、僕も理解できなくて」


 ボルドさんはその大きな図体をしょんぼりと小さくさせながら言う。はたから見ると小動物になろうと小さくなっている大きな生物の様に……。


 それを聞いていたリンドーさんはボルドさんを見上げながら張り詰めた声で「なんでわからないんですかっ! B級のくせにっ! リーダーのくせに!」と言いながら声を張り上げていた。


 その言葉を聞いていたティズ君はおずおずとした雰囲気で「……B級は……、関係ないような気がする……」と言っていたけど、そのことについて突っ込む人はいなかった。


 それくらい――今の状況は深刻ということが痛感される。


 そんな中……、紅さんは言った。私を掴み上げなあらこう言った。


「――さっきの話……、聞いていたよな?」

「あ、はい……、一通りは……」

「一通り……? お前本当にあたしたちのことを馬鹿にしているのか? こうなったのは全部お前の所為だってこと、なんで誤魔化しているんだ? えぇ?」


 紅さんは低く、そして黒いもしゃもしゃを私に向けながら言う。静かに言う。私の胸倉を掴み上げ、締め付けるようにして言う。


 それを受けた私は、リョクシュ程のそれではなかったけど、それでも呼吸が少ししかできないような状況になり、その痛みから顔を苦痛に歪ませる。


 それを見ていたアキにぃは無表情で拳銃を二丁出して、それを紅さんに向けて発砲しようとしていたけど、キョウヤさんがすぐさまアキにぃを羽交い絞めにして止めてくれた。


 その光景を見ていたダディエルさんは、頭を抱えながら深いため気を吐いていたけど、そんな小さな穏やかな空気も、紅さんの手によってかき消されて、元のピリピリとした空気に逆戻りしてしまう。


 紅さんはじろり……。と、私を見下ろしながら――


「砂が……。スナッティは、金のためにあたし達の情報を売ったことは聞いたよな?」


 その言葉に、私はこくこくと頷いて肯定する。でも紅さんはそんな私の行動が気に食わないのか、更に服を掴み上げる力を強めて紅さんは言う。


「あいつはバロックワーズの傘下にいた。そして『BLACK COMPANY』に情報を売っていた。情報源を提供すると同時に、金を貰っていた。なんで内通者なんてしていたと思う?」

「…………………………」

「わからない。じゃ、済まされないぞ。全部お前が関係しているからだ。砂がああなってしまった原因が――お前にあるんだからな」


 紅さんははっきりとした音色で私を睨みつけながら言った。私はそれを聞いて、一体何を言っているのか理解できず、そのまま紅さんの言葉に耳を傾けながら、茫然とした顔で聞いていた。


「さすがにそれは無理矢理すぎるんじゃないか……?」


 ここでメウラヴダーさんが紅さんに向かっておずおずとしたような面持ちで話しかけてきた。それを聞いた紅さんは、むっとした顔をしてメウラヴダーさんがいるその方向を睨みつけながら一瞥して、小さくて低いどすの聞いた声で……「なにがだ…………?」と聞いてきた。


 それを聞いたメウラヴダーさんは、一瞬ぎょっと驚いたような顔をしていたけど。すぐに元のきりっとした顔立ちに戻して、メウラヴダーさんは紅さんに向かって、宥めるような雰囲気を出しながらドウドウと手をつきだしてこう言ったのだ。


「紅。確かにスナッティの裏切りに関しては堪えたかもしれない。そして俺たちだって嘘であってほしいと願っている。今まで騙してきたことも、本当は信じたくないんだ。まさか敵のスパイだったなんて……。だが紅。その件で八つ当たりしても何も始まらないだろう? あの時いなかったハンナちゃんやヘルナイトにとってすれば、大きな衝撃だった。しかも混乱してしまうほどの衝撃だったんだ。お前だけが悲しいわけじゃない。みんな悲しいんだ。今聞いた二人だって悲しいに決まっている。そして本人だって言っていただろう? 金のためにこうしたって。どこでどうなってそうなったのかは、正直分からない。だからって変なこじつけを押し付けるのは」


「こじつけじゃない。これはのそれだ」


 紅さんははっきりとした音色でメウラヴダーさんの言葉を遮った。その行動に驚きながら、メウラヴダーさんは紅さんに向かって、疑念を抱くような顔をしながら「……何をだ?」と聞いた。


 それを聞いた紅さんは、再度私を見下ろして、淡々とした低い音色でその質問に答えた。


「砂は『BLACK COMPANY』に情報を売っていた。そこまではいいんだ。問題は何で砂があたし達の情報を売ったのかだ」

「お金目的って言ってたじゃない」


 シェーラちゃんはむすっとした顔で、今にも剣を抜きそうな勢いで構えながら言うと、紅さんはそんなシェーラちゃんの言葉に「ああ」と頷きながら――


「そうかもしれない。でもそれだけではない。挿話あたしは思っている。砂が何であたしたちの情報を売っていたのか。それは簡単な話……、本当にちょっと考えただけでわかったことだったんだ。それは……」


 と言って、紅さんは私の顔を睨みつけて、血走った目で私を見下ろしながら――私に言い聞かせるような音色でこう言ったのだ。




。自分たちに不利になる様な事を、邪魔になる芽を早めに摘むように、砂はバロックワーズにこの女のことを報告しろと頼まれたんだ。だからこうなってしまったのは――こいつの所為なんだ」




 もう訳が分からなかった。支離滅裂とはこのことかもしれない。


 なぜそうなったのかが理解できなかったのだ。なんで私のことを逐一報告する必要があるのかわからなかったから。そしてすぐにこう思った。


 多分、紅さんはあまりにこの状況を受け入れたくないから……、混乱しているんだと私は思っていた。よく聞く記憶改竄かいざんだと私は思った。受け入れたくないからこうしていると思った。


 私は気が動転したかのような困惑具合を顔に出して、「え? あの……、それは」と、しどろもどろになりながら私は紅さんに言う。でも――


 紅さんはそんな私のことなど無視して続けてこう言う。


「『バロックワーズ』と『BLACK COMPANY』は帝国と協力を結んでいる。あの時だって帝国の奴らと『BLACK COMPANY』の奴らが来ただろう? あれは完全なる協定関係を意味している」

「……………………………」

「帝国は土のガーディアンを保持している。今のこの状況を壊したくない。自分たちが築き上げてきた私腹を、仮初の夢を壊したくないから、ガーディアンを守って国民の目を欺いている。でも……浄化されてしまえば終わり……。だから」


 紅さんは私のことを見降ろしながら、掴んでいたその手とは反対の手でそっと上げて――私の頬をぐりっとねじ込むように突き刺しながら、紅さんはこう言った。


「帝国はこの女の存在を危惧しているんだ。浄化の力を持っている女が帝国に現れて、そのあとで浄化されてしまえば――全部がぱぁ。仮初の天下も消えてしまう」

「………………だから、それとこれとで何の関係があるんだ? 手を組んでいることは前々からわかっていただろう?」


 ガルーラさんがもうじれったいという雰囲気を出しながら紅さんを見て言うと、紅さんはそれを聞きながらちっと大きく舌打ちをして、そしてぐりぐりと突き刺していた手をすぐにどかして、紅さんはそのままだらりとその手を下ろしてから、荒げるような、苛立ちを露にしたような声で「だからぁ」と言って――


 紅さんは私を見ないで、みんなに重大なことを告げるような怒りと真剣さが混ざった表情で――こう告げたのだ。


「砂がああなったのはこいつの所為なんだよ。こいつが現れたから、『BLACK COMPANY』と『バロックワーズ』は慌てだして、砂に対して、何かを理由にして脅したんだ。そうでないと辻褄が合わない。こいつが現れてからあたし達の動向が筒抜けのような雰囲気だったんだろう? あたしたちと砂達の時はそんなこと全然なかった。とすれば十中八九――こいつが絡んだせいでこうなったんだ! 全部こいつが招いた種だろうがっ!」


「いくら何でもひどいと思います。そしてそんな妄想はやめてください」


 紅さんの言葉に対して、ティティさんは冷たい目つきで紅さんを睨みつけながら腕を組んで言う。それを聞いていた紅さんは、びきりと青筋を額に浮かべて、「あぁ……?」とやくざが吐くような言葉を言う。


 それを聞いていたティティさんは、呆れたような溜息を吐きながら――


「さっきから聞いてて思ったのですが、紅さん、頭がおかしくなったのですか? ハンナさんは確かに浄化の力を持っています。しかしそれだけでスナッティさんが裏切るとは到底考えられません。あの時スナッティさん言っていましたよね? アスカさんのことを売ったのは自分だと、ずっと前から恨んでいるような節を見せてました。それはずっと前から恨んでいた。だから情報を提供したと言っていました」

「……………………………」

「その辺を踏まえると、私達が手を組む前から……、いいえ。きっと、あなた方が冒険者をやる前からそうだったのではありませんか? 受け入れたくないからと言って、そんな幼稚な妄想に逃げないでください。記憶なんて改竄しないで現実を受け入れてくだ」

「そんなものは関係ない」


 私の驚きをしり目に話は進んで、そのまま紅さんはティティさん言葉を無視しながら私を睨みつけながら見下ろして、私の顔を見た途端苛立ちが再発したかのような顔をして、今度は両手で私の服を掴み上げながらぐわん! ぐわん! と前後に振りながら紅さんは私に向かって怒鳴った。


 今までの気持ちを吐き出すように、紅さんは私に向かって――


 ――自分の感情をぶつけた。


「全部こいつが関わったせいでこうなったんだ。そうでなかったら平行線だったもしれないのに……っ!」


 なぜだろう……。と私は思った。


 私は昔、同じようなことを言われて、そして――苦しんで苦しんで、耐えていたことがある……。そんなことを思いながら私は紅さんの言葉を耳に入れる。


 きっと……、誰も望んでいないような言葉が、紅さんの言葉から出てきて、その気持ちを私にぶつけていたのだ。混乱している私にその気持ちと言葉をぶつけて……。一言でいうのであれば、この空間はすでに――



 不穏な空気が淀んでいる空間と化していた。



「確かに砂が内通者だってことに関して、あたしは信じられなかった。でも砂もきっと心のどこかで内通なんてしたくないって思っていたに違いないさ。ああは言ってもきっとそうだとあたしは思いたい。砂がああなったのはあんたのせいだっ! あんたがあたしたちの前に現れて、あの時あった関係をぶっ壊した! あんたが浄化の力を持っているから砂はああなったんだ! あんたが浄化なんて持っていない、何の役に立たない存在だったらよかったんだ! すぐに死んでしまえばよかったんだっ! クリアの鍵を握っているから、ちやほやされて嬉しかったと思うけどな……、こっちはお前のせいでひどい目に合っているんだぞっ!? お前がそんな力を持っていたとしても、結局お前が歩んだせいでこっちは大迷惑をかっているっ!」


「おい……、ちょっと言いすぎ」


 と、ギンロさんの驚いて止めようとする言葉なんで聞く耳を持っていない紅さんは、そのまま畳み掛けるようにして私に詰め寄って……。


「お前のせいで関係が崩れるならこのまま一生閉じこもったままでもいいっ! あんたのせいでこっちはひどい目に合ったんだ……っ! 関係を崩される人の気持ち――お前のような裕福人間にはわからないだろうな? あたしは家もないホームレスだった! 親が莫大な借金を背負って自己破産して、役に立たないあたしを捨ててどっかに言って蒸発してしまった! お前のような餓鬼が味わったことがないことをあたしは背負ってきた――家族の関係。友人の死。友人の裏切りを受けて……、耐えられる馬鹿なんてどこにもいない……っ! 全部全部全部全部全部全部………、お前があたし達に関わったからこうなったんだっ! そうでなかったら、家族の関係、友人の死で終わっていたかもしれなかったんだぞっ!? 全部お前の存在の所為なんだよぉっっっ!」


 ところどころ半音高くなってしまう紅さんの声。それをどんどん聞いてきて、不穏だった空気が、苛立ちが立ち込める空間に変わってきている。もしゃもしゃがそれを知らせてくれた。


 でも――


 私は紅さんの青くてどろどろとした黒交じりのもしゃもしゃを見て、紅さんはきっと……、砂さん……、違う。スナッティさんの裏切りを目の当たりにして――心が限界突破してしまったのだと、内心私は後悔していた……。そして自分の行いを呪った。


 あの時私がいれば、スナッティさんのその行動を止められたかもしれない。


 クルーザァーさんの言う通り――本当に裏切者がいたのだ。それに気付きたくないという浅ましさの代償がここで現れてしまった。


 みんながあの時いないって言ってくれたけど、本当はいた。あの時――私が自分にストイックになって、そのまま裏切者を探せば……、何かが変わっていたかもしれない。


 結局――私の甘えた判断が不幸を招いてしまった。


 結局のところ――その裏切者を炙り出さなかった……。


 私のせいだと認識した。紅さんを………………傷つけてしまった。


「責任も何も取れずに、ただただちやほやされて何にも苦労しないで守られているあんたなんて……、役立たず以上の使えないやつだよっ! なんでぉっ!」

「!」


 紅さんの言葉を聞いた瞬間、私の脳裏にノイズ交じりの砂嵐が起きた。


 目の前の視界はクリアで見えているのに、そのクリアな世界がどんどん砂嵐で埋め尽くされていき、どんどんその視界を覆いつくしていく。


 声もどんどん聞こえなくなってくる。頭痛はなかったけど、でも……何だろう。


 紅さんの言葉と共に砂嵐が突然起きて、砂嵐とノイズが突然消えてすぐに映ったのは暗い世界で、私を物のように見下ろしているお母さん。


 お母さんは一言――私を見下ろして……、優しくも、怒りのそれでもない音色で……。






「私はそんな子に産んだ覚えはないわ。あんたの替えなんていくらでもできるの。だから――役立たず以上に使えない子は……、生きる価値なんてない」






 と言われて………………………。


 なんで?


 なんでそんなことをいうの?


 わたし――がんばるから、おかあさんのおもうようなこどもになるから……。


 すてないで、ひとりにしないで。ひとりにしないで。



 ひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないでひとりにしないで。





 ――ヒ  ト  リ  ニ  シ  ナ  イ  デ。





「はーい。そこまでにしようか。オーケー?」


 !



 □     □



 と言ったところで、私は意識を現実に戻した。どくどくと脈立つ心音は嫌な音を立てて、だらだらと脂汗が止めどなく溢れてくる。


「ハンナ……! 大丈夫か?」

「えっと……、平気? 熱くない?」

「こんな状況で熱くて汗なんて掻かないわ。これは冷や汗よ」


 それと同時に視界に広がったのは――心配そうに私の顔を覗き込んでいるヘルナイトさん、ティズ君、シェーラちゃんだった。


 少し離れたところにはティティさんもいて、ティティさんは私のことを見て一安心したかのように安堵の息を吐いた後、そのまますぐにある方向を見て睨みつけるようにその場所を凝視していた。


 その光景を見ながら、今私の身に起きていることを辺りを見回しながら確認する。


 私は今、地べたに座り込んでいる。


 さっきまで立っていたのに、それが今では座り込んでいる――ううん。これはへたり込んだ。と言った方がいいだろう。そんな私の背を支えながら、ヘルナイトさんは私の安否を気にして、前にはそのまましゃがんで心配そうに見ているティズ君とシェーラちゃん。そんな私達の前立っているティティさん。


 と言った感じで見ていたけど……、私は首を傾げながら、どういう状況なのだろうと思って、ヘルナイトさんを見上げながら「あの……」と聞いて――


「――いったい何があったんですか?」と聞いてみた。


 何も覚えてないので確認のためと思って聞いたところ……、ヘルナイトさんは少しだけ悲しいもしゃもしゃを出しながらも、すぐに言を決したのか――言葉を選ぶように凛とした音色で……、すごい顔でむすくれているシェーラちゃんと、更に心配の色を濃くしたティズ君の顔を伺いながら、ヘルナイトさんは言ってくれた。


「……あの時、紅殿に言われたことを、覚えているか?」

「え? えっと……、『なんでお前のような奴が』と言うところまで」


 ……、本当なら全部言ってどこまで覚えているかということを話そうと思ったけど、その言葉――紅さんが放った言葉を言った瞬間、ティティさんが横目で私を見つめ、『それ以上は話すな。虫唾が走る』と言う雰囲気ともしゃもしゃを出しながらすごんできたので、私はそれ以上のことを言わずに区切りをつけて言うと、それを聞いていたヘルナイトさんは――「そうか……」と、後悔しているような音色で頷いてから……、私の意識がなくなった後のことを説明してくれた。


「……そのあと、君はすぐに意識を飛ばした。気絶したのだろうな」

「え? 気絶? 本当ですか?」

「その光景を見ていた私達が保証人となるわ。あんたは完全完璧にばっちりと気絶したわ」

「ええええええ……………?」


 わ、私……、あの時気絶してしまったの……?


 あまりに唐突なことを聞かされて、驚いた半面――その時気絶したからあの映像が映ったのか……。と、一人納得してしまっていた。


 ヘルナイトさんはそのあと起こったことを口頭で説明してくれた。


「ハンナ――君が気絶した後、紅殿はしびれを切らしたかのように、君に殴りかかろうとした。それを見た誰もが止めようと動いた。いち早く動いてくれたガザドラ殿のおかげで――何とか止めることができたが……」

「そのあとも紅様は罵倒しまくっていました。あなたに対して、誰のせいでもない。ただスナッティさまが裏切ったのに、それを受け入れたくないという一心で暴れていたのですけど、それをがいました」

「……人物?」


 その言葉を聞いた私は、首傾げてティティさんを見上げると、ティティさんは顎を使ってその場所を指さす。くいっと顎を動かして――


 その行動を見て、私はそっと身を乗り出しな柄その光景を見た瞬間、「あ」と声を零した。驚いて声を零した。


 私の目に映った光景――それは……。


 さっきまで私を掴み上げていた紅さんの手を止めているガザドラさん。


 リンドーさんが持っているその剣の先を銀色の飴細工のようにうねらせて、振り上げているその手を拘束しながら、ガザドラさん自身も紅さんを背後から羽交い絞めにして止めている。


 その光景を見ていた誰もが武器なんて持たないで紅さんに向かおうとして、その足を止めている光景が広がっている。


 唯一その行動をしていないボルドさんは、おどおどとしながらその光景を見ていて固まってしまっている。


 そして紅さんの前にいるその人を見て――誰もが驚いて、アキにぃ達は思い出したかのように驚いていた。


 紅さんの前にいる人物――その人は……。


「その辺にしておきなって。話の内容は理解できないけど、なんとなくだけどさ……。八つ当たりしていることはなんとなく察したから。オーケー?」


 今まで出ていなかったジュウゴさんが前に出て、からからとした狐特有の笑みを浮かべながら言葉を発した。明後日の方向を向きながら――


 それを聞いていた紅さんは、「ううううううううっっ!」と、唸るような声を上げてその拳を振り下ろそうとしているけど、ガザドラさんが作ったそれは飴細工の状態から固まっているらしく、びくともしない。


 ガザドラさんは止めた状態のまま紅さんに向かって――


「紅よっ! 今の貴様はおかしくなっているっ! 兎に角落ち着け! こうなってしまったことを他人の所為として押し付けても、何も始まらないだろう! 兎に角落ち着くんだ!」


 と叫んでいたけど、暴れてその拘束から逃れようとしている紅さんは必至と鬼の面影、そして怨恨が混ざってしまった混沌の怒りの顔をジュウゴさんに向けながら、紅さんはガザドラさんの拘束から逃れようとしている。


 そんな光景を見ていたティティさんは――呆れた顔をして溜息一つ。零した。


 そしてそれに便乗するかのように、ジュウゴさんも頭をがりがりと掻きながら、面倒くさい。そして呆れた。そんな感情が合わさったかのような顔をして、長い長ーい溜息を吐いてから……、ジュウゴさんは一言――


「てかさー。さっきから聞いてて思ったんだけど……、俺は今の状況を理解していない。でもこれだけはわかるよ。あんたのやっていること……、完全に八つ当たりだってことに」

「八つ当たりじゃないっ! あたしは正論を言っているっ!」


 紅さんの反論を聞いたジュウゴさんは、ふぅん。と相槌を打ちながら、続けて「正論? どこが?」と畳み掛けるようにして言う。


 それを聞いた紅さんは――


「あそこにいるあいつが……っ! こんな風にしたんだっ! あたし達の関係をぶっ壊したんだ……! どんな時でも、その人の人生をぶっ壊す存在がいる……っ! 今まさにあたし達の平行線だったそれを壊したのはそこにいるバカ女だっ!」


 と、私を睨みつけながら言う。


 その言葉を聞いていたシェーラちゃんは、隠れながら小さく舌打ちをしていたけど、私はそのことについて怒ることなどしなかった。


 アキにぃがすでにライフル銃を持ちながら構えて、それを止めながらも自分も同じと言いながら同意していたキョウヤさんだったけど、それでも私は紅さんに対して怒ることはしなかった。


 だって――正ろ――




「っていうか。今は裏切った奴のことを怒るのが普通じゃないの?」




 なんでその裏切者の肩を持って、味方を陥れるのかねぇ?


 と、ジュウゴさんは腕を組みながら言う。背中越しだったから表情は見えないけど、その音色はどことなく呆れが混じったそれだった。


 それを聞いた紅さんは一瞬驚いた顔をして、そして呆けた顔をしたまま――


「え?」


 と、言葉を零す。


 本当に呆けた声で理解できないような、そして沸騰したそれが一気に冷めたような音色を放ったのだ。


 ジュウゴさんはそれを聞いて再度頭を掻きながら――


「なんとなくだけど、さっきの光景を見てて俺はこう思ったよ。あんたの言っていることは妄想じみていて、そして正当化するためにいなかった人のせいにして八つ当たり。こう言った場合は自分に落ち度があったかもしれないとか思って、落ち込むところだろう? それなのにあんたはそんなことしないで人に当たっていた。自分のせいではない。あんたのせいだと言ってね……」


 どこまで甘ちゃんなんだか……。


 と、背中越しだったけど、ジュウゴさんは呆れて鼻で笑いながらそう言っていた。


 それを聞いていたティティさんはうんうん頷いて――小さな声で何かを言っていたけど、ティティさんのその声を聞き取ることができなかった。


 その光景を見ていたクルーザァーさんは、呆れた顔で紅さんの背後から近付きながら――


「あの光景を見て、少しはましだと思っていたが……、結局だめだった。不合理な妄想で場を乱し、有ろうことか裏切者に肩を持つとは思いもしなかった。お前はどっちの味方だ?」


 と聞いてきたけど、紅さんはそのことに関して何も答えなかった。ただただ呆然として、ガザドラさんに羽交い絞めされている。大人しくしている。


 その光景を見てクルーザァーさんは呆れたかのように溜息を吐いて……、はっきりとした音色で――ボルドさんの方を向きながらこう言い放った。




「ボルド――もう



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