PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ⑤

「お? おっ? おおおっ!? ちょちょちょちょちょおおおおおおおおっっっ!?」


 突然押されてしまい……、階段に向かって転びそうになっている私の背後でキョウヤさんの叫び声が聞こえる。


 それを聞いた私はすぐに振り向いてみんなの顔を見ようとしたけど、すぐに来たのは――


 暗くなった視界と、『ごちん』っと額に当たってしまう鉄特有の冷たさと硬さ。


 それを受けてしまった私は自分のことを受け止めてくれた人物についていち早く特定したと同時に……その衝撃に耐えられず――


「はぶ」と、変な声を上げてしまう。


 それを聞いて私のことを受け止めてくれたその人――ヘルナイトさんは「む?」と驚いた声を上げて私のことを支えてからこう言う。


「すまない……。突然だったものでな。受け止め方が雑だった」

「い、いふぇ……」


 ヘルナイトさんの謝罪を聞いた私は、鼻とおでこを押さえつけながら首を横に振って大丈夫と言う雰囲気を出す。


 最もそんな雰囲気を出してもあまり効果はないらしく、ヘルナイトさんは私を見て少し黙った後「そうか」と、なんだか納得していないような雰囲気と声を出して頷いていた……。


 うぅ……。私も好きで落ちたんじゃないんだけど……。


 そう思いながら未だにじんじん傷んでいる鼻とおでこをさすりながら項垂れていると、それを見ていたキョウヤさんが慌てて私達に駆け寄って――


「おい何してんだよっ! 足滑らせちまったのかっ?」

「え? 何かあったのかいっ? あぁ! お鼻とおでこが腫れている……っ! すぐに『小治癒キュアラ』をかけて……」


 キョウヤさんと一緒に来たボルドさんも駆け寄って来て、私の顔を見ながら大袈裟に驚いて、私に向けて手をかざそうとしていたけど、私はそれを見て慌てて止める。


「あわわ……っ! わ、私は大丈夫ですよ……っ! 鼻とおでこをぶつけただけなので……、それにここで無駄にMPは使わない方が……」

「で、でもぉ……。女の子の綺麗なお顔が台無しに……」

「こんなところで無駄に高い女子力を発揮すんなっ。キモイわっ!」


 そうボルドさんを見て言うと、ボルドさんはしょんぼりと可愛らしく落ち込みながらおろおろと辺りを見回しながら私の回復をしようとしていたけど、近くにいたキョウヤさんはボルドさんに向かって正直に気持ちを乗せながら怒り任せの突っ込みを入れた。


 それを聞いたボルドさんはぎょっとしながらキョウヤさんの方を振り向いて――泣きそうになりながら「ひどいっ!」と叫ぶ。


 そのやり取りを見ていたのか、クルーザァーさんが一番前のところで足を止めて、私達がいる最後尾の方を振り向きながら、呆れと苛立ちを混ぜたような声でこう言う。


「何をしているんだ?」


 その言葉を聞いた私は、クルーザァーさんに向かって謝罪の言葉を投げかけてからすぐにこう言う。


「え、えっと、突然背中を押されて……、倒れそうになって」


 と言うと、それを聞いていたキョウヤさんは「あぁ?」と、素っ頓狂な声を上げて首を傾げながら疑問の表情を浮かべながらこう言う。


「誰に背中押されたんだよ……? オレはすぐに入ったから……、後ろにいたシェーラなら、って、あれ?」


 キョウヤさんはふと、首を傾げてすぐ辺りを見回す。


 素早く首を動かしながら辺りを見ていると、それを見ていた私はボルドさん、そしてクルーザァーさんたちは、キョウヤさんのその行動を見て言った移動したんだろうという顔をしながら見ていた。


 声をかけることを一瞬忘れそうになるような――キョウヤさんの不安な表情。


 それを見た私はキョウヤさんの体から漏れ出す不安のもしゃもしゃを感じて、私は恐る恐るキョウヤさんに話しかけた。


「あ、あの……、キョウヤさん……?」

「どうしたキョウヤ。何かあったのか?」


 ヘルナイトさんもキョウヤさんに対して何があったのかと聞くと、キョウヤさんは『ぎ、ぎ、ぎ』と、錆ついてしまった人形の首のように、音を立てているかのような首を動かしながらキョウヤさんは言った。


 茫然としてしまった声で、こう言ったのだ。



「――



「え?」

「――っ!」


 その言葉を聞いた瞬間、私は頭の中が真っ白になって、一言……、どころか一文字しか思い浮かばなかった。


 ヘルナイトさんもそれを聞いて、すぐにキョウヤさんと同じようにあたりを見回した。


 クルーザァーさん達も辺りを見回して、シェーラちゃんと虎次郎さんがいるかどうかを確認した。


 ――まさか……。


 私はその時、もしかしたらと言う想定を、自然に構築していた。




 あの時背中を押したのは……、まさか……、近くにいた……。シェーラちゃんっ!?




 そう思った私は、すぐに後ろの閉じてしまった床のドアを見ながら、私はシェーラちゃんと虎次郎さんのことを思い、そして……。


「おいどういうことだっ!? ぞっっ!」

「なぬっ!?」


 ……………ダディエルさんとガザドラさんの言葉で発覚した。もう一人の仲間――ガルーラさんの消失で、私達は暗い階段の通路の中で混乱しながら三人の行方を探そうとしていたけど……。



 ――どぉんっ! と、天井から聞こえた轟音。



 それを聞いた私やみんなは、すぐに上に目を向けて、グラグラ揺れる天井とパラパラと落ちる破片を見ながら、私は理解する。


 この上で、シェーラちゃんと誰かが敵と戦っていると――すぐに、みんなよりも早く理解したと思う。


「今の地鳴りのような音は……!」

「まさかガルーラさん達の誰かがこの上で戦っているんでしょうか……」


 天井を見上げなあらダディエルさんとリンドーさんが言う中、それを聞いていたクルーザァーさんは、少し考える仕草をしてから、小さな舌打ちをして――心底苛立っているような音色でこう吐き捨てた。


「完全に計画が狂っている……っ! アクロマめ……っ!」

「クルーザァー……」


 クルーザァーさんの苛立ちを見ていたティズ君は、心配そうにクルーザァーさんを見ていたけど、すぐに気持ちを切り替えたのか、下に向かって続いている階段を見降ろしながら、クルーザァーさんは少し声を荒げながらこう言った。


「……仕方ない……、先に進むぞ! こんな予想外は範疇の中。想定内だ。こんなところで止まってないで行くぞ」

「え……っ!? でもガルーラ達が……」


 そんなクルーザァーさんの言葉を聞いたティズ君は、まるで駄々をこねる子供のようにクルーザァーさんに近付きながら、彼を説得する様に慌てた素振りでこう言う。


「ガルーラ達がいないんだよっ? この先何人いるかわからないのに……、すぐに上に戻って」

「いや――無理だ」


 ティズ君の言葉を遮るように、ヘルナイトさんは言う。


 私はその声を聞いてヘルナイトさんん声がした方向を見ると、ヘルナイトさんは扉がある場所に手をつきながらぐっと上に向かってそのドアを押し出そうとしていた。


 みんなもその光景を見ていたけど、ヘルナイトさんは『ぐっ。ぐっ』と、二回ほど押し出していたけど、びくともしない。それを見ていたティティさんはヘルナイトさんを見て――


「開かないのですか?」と聞くと、それを聞いていたヘルナイトさんは「ああ」と言って――


「どうやら鍵がかかっているらしい。溶接なんてされていないから、きっとそうだ」と言った。


 それを聞いていたキョウヤさんは、頭を乱暴にがりがりと掻きながら困ったように頭を左右に振りながらこう言う。


「ってことは……。戻れませんって言うことかよ」

「っ」


 その言葉を聞いた私は、ぎゅっと握り拳を作りながら上を――扉の場所を見上げる。


「でしたら、ここは善は急げ。急いで向かいましょう」


 その方が合理的なんですよね?


 その言葉を聞いたティティさんは、クルーザァーさんを見ながら言う。


 その言葉にはなんだか棘が含まれているようなそれだったけど、クルーザァーさんはそれを聞いて、むっと顔を顰めてからティティさんをゴーグル越しに睨んでいたけど……、すぐに「ああ。そうだな」と頷いて、階段の向こうを見降ろして駆け出す。


「――行くぞ!」

「え、でも……」


 ダディエルさんやガザドラさん、リンドーさんやボルドさんが意を決して通り過ぎる中、ティズ君はおどおどとしながらみんなに声をかけていたけど、そんなティズ君の手を握りながら、ティティさんは優しく宥めるようにして、その表情とは正反対の――厳しい言葉を吐いた。


「ティズ。ここは先に行きましょう。皆さんは私達のことを思って、先に行けるようにしたんです。その気持ちを無下にしないように、私達は足を止めずに行かなければいけないんです。さぁ――行きましょう?」

「で、でも……っ! このままじゃ……、みんながっ! やっぱりここは戻った方が」

「ティズ……」


 ティズ君の言葉を聞いた私は、困っているティティさんや行ってしまったみんなを見て、きゅっと握りこぶしを優しく作りながら、私は音を立てないようにティズ君に近づく。


「!」

「ハンナさん」


 ティズ君とティティさんは私に気付いて、驚いた顔をして見ていたけど、私はその視線を無視する様にティズ君に近付いて、驚いて固まっているティズ君の手を、包み込むようにして握った。


 そんな行動を見て、感じたティズ君は、ぎょっとしながら私の手を凝視していたけど、私はそんなティズ君の感情を見ないで、私は優しく、控えめに微笑みながらこう言った。


「ティズ君。ティティさんの言う通り――今は先に行こう」

「そ、そんなことできない……よ! だってみんなのこと心配だし」

「私も心配だよ」

「だったら――!」

「だからだよ」


 私はティズ君の顔を見て、安心させるような顔で微笑みながら――私は驚いているティズ君や頷きながら微笑んでいるティティさんを見て、私は続けてこう言う。



「みんなのことを信じて……、私達は先に進まないといけない。みんな私達のことを信じて先に進ませてくれた。その気持ちを踏みにじってはいけない。今私達にできることは進むこと。戻ることは――残ったみんなに対して、失礼な行為だよ」


 だから――このまま先に進もう。



 そう私はティズ君に言い聞かせる。まるで小さな子に言い聞かせるようなそれだけど、私は必死にティズ君を納得させるために、説得する。


 それを聞いていたティズ君は、少し黙ってしまったけど、すぐに――


 こくりと頷いた。


 それを見た私はほっと胸を撫でおろして、ティティさんも安堵の息を吐きながらティズ君のことを見ていた。そして私の顔を見て頭を下げながらお礼を述べていたけど、私は首を横に振りながら「そんな……、大層なことは……」と、困ったように控えめに微笑みながら言う。


 そんなことをしていると……。


「三人とも――早くみんなのところに行くぞ」と、ヘルナイトさんが声をかけてくれた。


 それを聞いた私とティティさんははっとすぐに現実に戻ってヘルナイトさんのほうを向きながら返事をする。ティズ君も返事こそしていないけど、頷いて先に向かった。下に向かって階段を下る。


「あぁ! ティズ待って下さいっ!」


 ティティさんは突然行動に移したティズ君の後を追いながら駆け出して階段を下る。


 それを見ていた私も急いで向かわないと。と思い、そのままティティさんの後を追うように階段を下ろうとした時……。


「ハンナ」

「!」


 ヘルナイトさんは私に向かって声をかけた。


 私はそっとヘルナイトさんの方を振り向いて「どうしました?」と聞くと、ヘルナイトさんは私を見下ろしてから――凛とした音色で……。


「…………いや、何でもない」と、なんだか何かを言おうとしていたけど、誤魔化されてしまった。


「?」


 私はそれを聞いて首を傾げながらヘルナイトさんを見たけど、ヘルナイトさんはまたもや誤魔化すように「早く行こう。みんなが待っている」と言って、私の横に回り込んで、そのままひょいっと私を横抱きにしてしまうヘルナイトさん。


「ひゃぁ」


 私は変な声を上げて驚くと、そのままヘルナイトさんは私を抱えながら階段を駆け下りる。軽快に下りるヘルナイトさんを見上げて声を上げようとしたけど、すぐに口を閉ざす。


 口を開けようとした理由は――何を言おうとしていたのか。そして口を閉ざした理由――それは……、今はそれどころではない。この騒動が終わったらすぐにでも聞こうと思ったから。


 そう思った私は口を閉じてヘルナイトさんの腕の中で、どんどん下に向かって進んでいる光景を目に焼き付ける。


 シェーラちゃん、虎次郎さん、ガルーラさん、メウラヴダーさん、アキにぃとギンロさんのことを信じて、無事を祈りながら……。



 ◆     ◆



「はぁ」


 メウラヴダーは目に前にいるジンジの狂気に満ちている怒りの顔を見てから、そっとドーム状の建物のドアの方を見て、彼は深い溜息を吐いた。


 ――一人になって、あの男と『殺戮蟷螂』の相手をしようと名乗り出たんだが……なんでこうなった?


 ――今となってはもう嫌な奴と言う印象しかないクルーザァーに対してあんなことを言ったのに、なんでこうなった?


 そう思いながら、メウラヴダーは頭をがりがりと剣を持ちながら器用に掻くと、建物のドアに向けて、両手をついているその人物をもう一度見ながら、彼は疑問を抱くような音色で質問する。



「……………………なんでこんなところにいるんだ? 



 ドアに手をついて背中を向けている――ガルーラに向かって、メウラヴダーは言う。それを聞いたガルーラは、彼の顔を見ないで、ドアの方を視線を向けながら、彼女は「っは」と鼻でメウラヴダーのことを笑いながらこう返した。


「あんた一人だと心細いと思って残っただけの話だ」

「そんな気遣いはいらん。と言うかティズはどうするんだ。あいつ一人になってしまったら誰があいつのことを守るんだ」

「クルーザァーかティティがいるだろう? それに……、もうあいつも子供じゃないんだ。自分でできることはできるだけ一人でやらせる。それがあたしの教育方針だ」

「今はその教育方針どうでもいいだろうが、もしあいつを一人にさせて最悪の事態になったら、お前はどう責任を取るんだ?」

「責任なんてちゃんと取るさ。でも今回の件は、ティズ一人でこなさないといけない案件だ。それくらいあんただってわかっているだろう?」

「分かっている。そう聞くということはお前も分かっているんだろう? だったらお前もすぐに戻れ」

「いやだね」


 一通りの会話をした二人。


 まるでとある家族風景の会話を聞いているようなそれだが、それを見ていたジンジは――ごきりと首を大きく、大袈裟に傾げながら、彼は聞く。


「君達……、まさか、あれかい?」

「「?」」


 ジンジの言葉に、ガルーラは振り向き、メウラヴダーはジンジを見ながら疑問符を頭に浮かべていた。ジンジはそんな二人の反応を見ながら、彼はこう言う。


 歪に歪んでしまった表情で、彼はガルーラとメウラヴダーに向かってこう聞いたのだ。


「まさかとは思うが――君達はもしかして……、だった?」


 その言葉を聞いていたメウラヴダーとガルーラは、その言葉を聞いた瞬間、ふっと真剣な表情を浮かべて、ガルーラは手をつけていたそのドアから離れて、ジンジの方を振り向きながら彼女は言う。


「――だったら、どうした? 羨ましいのか?」

「ああ、羨ましいね。妬ましいねぇ……」


 ジンジは狂気の笑みを浮かべながら、ははっと乾いた笑みを浮かべて……、だぁっと目から零れに零れて、滝のように流れている涙を拭わずに、彼は指に間に挟めている注射器をぶるぶると震わせながら、彼は震える音色で、水を含んだ音色で――彼はガルーラとメウラヴダーに向かって、こう言った。


「ちょっとした昔話をしてあげるよ……。ボクはとある会社に勤めていたんだけど、そこにいた社長が異常でね……。社員のことを使える駒としか思っていなかったんだ……。失敗したら体でけじめをつけるようなところで、僕はこの首の傷に、傷を負って、生死をさまよったんだ」


 ジンジは自分の服の首元をぐっと乱暴に降ろすと、その首についている傷を見せた。


 大きく斬れたあざ、まるで首を掻っ切ってしまった傷の後を、二人に見せるジンジ。見せびらかすのではない。それを証拠として提示するかのように、彼はその傷を見せたのだ。


「…………………………」

「ブラックだな」


 その傷を見て、ガルーラは顔を顰め、メウラヴダーはその傷を見ながら、彼が歩んできた惨状を想像して、その会社のことについて簡単な感想を述べた。若干顔を青ざめながら、彼は言う。


 それを聞いたジンジは――「ああ」と一回頷き、首元をはだけさせながら彼はもう一度「ああ!」と、今度は乱暴な音色で言いながら、彼は続けてこう言う。


「あの社長は本当に屑の社長だった……っ!」


 ジンジはまるで、今までの怨恨を吐き出すかのように、アキにも言っていた言葉を二人に投げ掛けながら、彼は言い続けた。


 その最中――『殺戮蟷螂』のメメトリは何とか立ち上がろうと震える体に鞭を打ち付けていた。


 そんな状態の中、ジンジは自分の生い立ちをガルーラとメウラヴダーに向かって話し出す。


 なぜ二人にこんなことを話すのか――それは至ってシンプルで、純粋な感情が彼をそうさせたからだ。それが何なんなのかは、今はわからない……。


 彼は二人に向かって、自分の体を抱きしめ、二の腕に自分の指を食い込ませながら、彼は狂気に満ちてしまった絶望の表情で俯きながら、彼は言った。


「社長によってけじめと言う名の見せしめにされて、生死を彷徨った。でもボクは命を取り留めたにも関わらず……ボクの家族はバラバラになった……! 家庭崩壊してしまった……っ! 幸せの絶頂がいとも簡単に崩れ去ってしまったんだぞ……っ!? なんでかわかるか……? 社長の秘書が、ボクに関しての情報を捏造して、妻にそのことを話したんだ……っ! 内容までは知らないけど、それを聞いた妻は精神崩壊を起こして――訳も分からずに混乱して、階段から足を滑らせてしまった……っ! ……その衝撃のせいで……っ。シンディちゃんは……っ! それを悔やんでなのか……、ボクがいない間に……彼女はあとを追うように……、自ら命を断った……っ! ボクだけを残して……、パメラとシンディちゃんは死んでしまったんだ……っ! ボクを残して、死んでしまったんだっ! たった一人の異常な行動で、ボクの人生台無しになった……っ! ボクは行き場を失った、職場を失った! そして、家族を失った! だから許せなかった、橘の一族が、許せなかった……っ! なのに、あいつはボクに屈服することなんてなかった……っ! そしてあの時出会った猫の男にも話した時……、あの男は僕の胸ぐらを掴み上げて、怒りを露にしながら――なんて言ったと思う?」


 ジンジはガバリと顔を上げながらメウラヴダーに聞く。ボロボロと流れる涙を曝け出しながら、彼はメウラヴダーに聞いた。すると――メウラヴダーはそんなジンジの言葉に対して、こう返したのだ。


「――さぁ」


 至極まっとうな答え。当たり前の答えだったが、ジンジはそれを聞いてぎりっと歯を食いしばりながら、すり減ってしまうのではないかと言うくらい、ジンジは歯と歯の接触部分をぎりぎりと鳴らして、血走った目でメウラヴダー達を睨みつけながら、彼は憎々しげにこう言った……。




「――『あんたにの何がわかる』って言ったんだよ……っ!」




 アキ。


 その言葉を聞いた二人は、はっとして脳裏に浮かんだ赤髪のエルフの男を思い浮かべて、二人はジンジの話を聞きながらそっと顎を引く。


 内心、二人は同じことを思いながら――ジンジの話を聞いていた。ジンジは言う。



「ボクはあの橘に非道なことをさせられて、人生めちゃくちゃになってしまったんだ……っ! 憎い、憎い! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ! 憎くて憎くて仕方ないっ! 全員皆殺しにしないといけなくらい憎くて仕方ないっっ! ボクはあの男を許したくない……っ! 殺したいくらい……、もう一度殺したいくらい……っ、あの男――橘仁慈が憎いっっ! 君達も家族なんだ。わかるだろう? 唐突に幸せを奪われてしまう喪失感に絶望感。自分の人生を滅茶苦茶にした人物への憎悪っ! 君達なら――わかるだろうっ!?」



 二人は――沈黙した。


 答えることなどないと理解した上で、二人は沈黙を貫いたのだ。


 ジンジはそれを聞いて、首を傾げながらもう一度――狂気の眼で彼はこう聞く。ばっと手を伸ばして、自分の意見を強調するかのように、彼は言う。


「君達なら――わかるだろうっっ!?」


 が――


「悪いな」その言葉に対して答えたのは――ガルーラだった。


 ジンジはきょとんっとしてガルーラを見た後、ガルーラはジンジの言葉を余すことなく聞いた後で、彼女はにっと凛々しい女の笑みを浮かべ、犬歯が見えそうな笑みを浮かべながら、彼女はこう言った。


「あんたのその気持ち、すごくわかる。心が痛くなるくらいその気持ちはわかるよ。人の人生をめちゃくちゃにしたやつに対しての気持ちも……、わからなくもない。でも……あたしらはで、から、その質問に対しては答えられない。答える権利も筋合いも資格もない」


「ああ」


 と、メウラヴダーも頷きながらこう言う。ジンジのことを睨みつけながら――怒りが灯っているその眼でジンジを見ながら言葉を発する。


「お前は俺達に対していい家族風景を描いているに違いない。だが――お前が思い描いている俺達の家族風景は空想だ。現実は違う。俺達は大きな過ちを犯してしまい、子供達を不幸に陥れてしまった――さ」


 と言って、メウラヴダーはガルーラを横目で見ながら言う。


 それを聞いていたガルーラはこくりと頷いてメウラヴダーを見る。


 メウラヴダーもその頷きに答えるように、行動を行動で返して彼はすぐにジンジを睨みつけて二本の黒い剣を構える。


 ガルーラも丁度立ったメメトリに向けて、大槌を構えながら彼女は構えた。


 ジンジはそれを見て、驚愕の顔を染めていきながらメウラヴダーを見てぴくぴくと顔を引き攣らせる。そんな彼の顔を見ていたメウラヴダーは言う。


「だから俺達はここまで来た。自分達の息子を助けるために、叱るためにここまで来たんだ」

「幸せの家族風景なんてもんは、到底辿り着けない新天地のようなもんさ。ゴールなんてできない目標みたいなもんだ。永遠の目標なんだよ」


 ガルーラはメウラヴダーの言葉を聞きながら言って、二人は各々武器を構えながら自分の目の前にいる敵に向けて――剣の矛先を、大槌を突き付けながら……、二人は言う。声を揃えてこう言った。



「「でも――これだけは言える。こんなところで油を売っている暇はない! ちゃっちゃと倒して……、ゼクスに会って一発拳骨をくらわすっっ!」」



 そう心に誓ったような言葉を吐きながら、彼らは武器を再度自分の手元に戻して構えながら……、メウラヴダーはジンジに。ガルーラはメメトリを相手にする。


 それを見ていたジンジは、びきりと青筋を立てながら……、現実では夫婦であるその二人を睨みつけていた。メメトリはようやく立ち上がって、手の鎌を構えながらけらけら笑っていた。



 ◆     ◆



 ジンジがガルーラ達に抱いていたシンプルな感情――それは羨望だったのかもしれない。


 家族であるその二人を見て、自分も家族と過ごす日々を送りたかったと思っていたのかもしれない……。


 かもしれない。と言う言葉はあながち間違いではない。事実なのだ。


 もうジンジにとって、その感情を知る術など、とっくの昔に自分で消し去ってしまったのだから……、戻ることは到底ないだろう。


 それだけは……、確実に言えることだった……。

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