PLAY54 BC・BATTLEⅡ(READY FIGHT!) ⑥

 その頃……。


「ち」


 シェーラの苛立ちを込めた舌打ちが空間内に響いた。


 家具も器具も何もないその空間はすでに退路も進路も閉ざされており、その空間に自ら取り残される道を選んだシェーラと虎次郎が、目の前にいる人物に対して己の獲物を抜刀しながらじっと構えをとっていた。


 ボロボロの体で、二人は未だに無傷の敵と相対していた……。


「本当……、なんであんなことをしてしまったのかしら……。自分でも理解できない」

「人間自分でもなんでこんなことをしてしまったのだろうと思うことはある。儂だってそれをして後悔したことや、満足したこともたくさんあった。ゆえに己の行動に悔いなど残すな。これは師匠からの言葉じゃ」

「………生憎、今回だけは悔いを残しそうよ。お師匠様」


 シェーラと虎次郎は言う。


 至って余裕のある表情で彼らは言う。だが内心は不安の色を出している。相手に悟られないようにそれをうまく隠しながら……。


 そんな彼女達でも、今回ばかりはこう思っただろう。



 最悪な日で、最悪な相手だと――



「こん、こん、こん」


 明らかに己のキャラ付けをしているような苛立ちを加速させるような笑い声を上げて、くつくつと口元に手を当てて肩を揺らしながらその人物は笑う。


 こん、こん、こん。と――シェーラ達の目の前にいた男は笑った。


 姿は人間の体ではないが、二足歩行をしている黒い短い体毛で覆われた黒い狐。服装は紺色の着流しに黒い漆が塗られた下駄だが、手足の指はまさに狐手と足で、掌と足には毛で覆われた肉球が隠れている。そして極めて目立っているのは二つの尻尾。その姿から見るに、彼は人間でも魔人ではない存在。強いて言うのであれば亜人に近い存在なのかもしれない。厳密に言うのであれば魔獣族ではないことは見てわかるとおりだ。彼の姿を見た虎次郎は――ふとこう思った。


 ――あの見てくれ……、よくよく見るとあれは妖狐じゃな。九尾とは違う二又の狐……。尾裂オサキか……?


 虎次郎はそんな黒狐の姿を見て、首を傾げながらその黒狐を凝視していた。


 因みに――オサキとは……、日本に伝わる尾が二つに分かれている狐のことであり、狐の憑き物として言い伝えられている。


 閑話休題。


 黒い狐の男は「こん、こん、こん」とくつくつ笑いながら、シェーラ達を見ながら彼はこう言う。


「まさかまさかの展開だ。まさかお前達がここに残るとは。本来ならこの私が出てきてここに残る輩を選別する予定だったのに、まさか最もいてほしくない人種が残ってしまうとは、私のモルグの運は確か……、5だぁ。いやはや自分の運の悪さか良さを恨めしく思うよ。これも神の啓示かなんかと思って、ありがたみを持ちながら受け入れようかな?」

「………よく、しゃべるわね。そしてところどころでうざったさが増すわね。大袈裟な言動とジェスチャー。むかつきすぎてショートしそう……」

「………随分活きのいい女だ」


 黒狐の男は言う。


 ピクリと眉を顰めながら、彼は言う。


 シェーラの言う通り、彼は長い言葉を吐きながらくるっと回って手を広げたり、大袈裟に手を動かしながら手をじゃんけんのパーにして、シェーラ達に見せつけながら意地悪そうな笑み浮かべたりと、相手の心を逆なでするような言動をいくつもしてきたのだ。


 こればかりはシェーラも苛立って目をつぶってしまうほど……、怒りを覚えた。


 虎次郎はそれを見ても、何の感情の揺れはない。何を思っているのかはシェーラでもわからないが……。


 そんなシェーラと虎次郎を見ていた黒狐の男は、「ふぅん」と溜息を零しながら、黒狐の男はちらりと――シェーラ達の近くにある床を見て、彼はこう言った。


「しかしけなげな判断だな。まさか仲間を先に行かせて、自分たちが殿しんがりを務めるとは思っても見なかった。いやはやなんとも美しい仲間愛だ。特にお嬢さんのその純粋ならではの判断……、とても美しいと私は思うよ。とも知らずにそうする君の馬鹿さにも感心するよ。うんうん」

「――キモイこと言っていないで。あと馬鹿にするのか虚仮にするのかはっきりしなさいっ」

。落ち着け」


 苛立って声を荒げてしまうシェーラを宥める虎次郎。そんな虎次郎の言葉を聞いたシェーラは、むっとしながら虎次郎を見上げて――こう言う。


「落ち着いていられないわ。こんなことをしている時間も惜しいくらいよ。早くこの二人を倒す策を練らないと」

「それはそうじゃが、焦っては何も浮かばん、今は冷静に」


 と言った瞬間だった。二人はもわりと来た熱風を感じながら、すぐさま黒狐の男を見た。


 黒狐の男は、くつくつと肩を揺らしながら「こん、こん、こん」と笑い、ピッと狐の指を付き空中に突き立ててから、彼は――


「『豪炎フィアガ』」


 と唱えると……、その指に小さな炎を『ポッ』と出す。小さな小さな火の玉だ。


 僅かだが薄暗くなっている空間を照らすのには十分ではない明るさだ。が……、その火の玉はくるくるとその指の先で周りながら、少しずつ、少しずつだが――その大きさを肥大させていく。


 小さな火の玉が、轟々と燃え盛る太陽のようなそれになってく。


「ぬぅ……っ!」


 シェーラと虎次郎はそれを見て、空間内の温度が上昇し始めたことで、体中から汗が噴き出る。


 今の時間帯ならばさほど熱くないのだが、この空間と黒狐が出している火の玉のせいで、まるでその空間内がサウナのようになっていた。


 じっとりと膨れ上がる湿度。それを感じながらも虎次郎はダっと駆け出し、黒狐の男に向かって再度攻撃を仕掛けた。の攻撃をしかけたのだ。


「師匠っ!」


 シェーラは叫ぶ。


 そんなシェーラの言葉を無視して、虎次郎は黒狐の男の懐に入り込む。そして刀を走っている最中、一回鞘に納めて、再度それを一気に引き抜くように――居合抜きを繰り出すように、彼は刀をもう一度、素早く抜刀しようとした。


 瞬間だった……。



「『反射鏡カウンター・ミラー』」



 声が聞こえた。その声はシェーラでも、虎次郎でも……、黒狐の男の声ではない。別の男の声だ。


 男の声が聞こえたと同時に、虎次郎と黒狐の男の前に現れた半透明の壁。


 それを見た虎次郎は、すぐに刀の攻撃をやめようとした。しかし……、居合抜きのメリットでもある素早さがデメリットとなり、仇となってしまった。


 居合抜きをしたと同時に、虎次郎はすぐにその刀を引こうとしたが、体の信号が追い付かず、そのまま流れるように、吸い込まれてしまうように、刀の先がその壁に向かっていき、そのまま……。


 かつん。と、掠めるように当たってしまった。当たった瞬間……、ひゅぅんっ! と、当たってしまった刀の先がひとりでに動いたのだ。


 動いた――のではない。


 厳密に言うと、その壁に当たった瞬間反射する様に跳ね返ってしまい、そのまま虎次郎の左肩に向かって刀の攻撃が跳ね返ったのだ。


 そして――どしゅりと、浅く左肩に突き刺さってしまう刀。


「ぐぅ……っ!」


 唸り虎次郎を見て、シェーラははっとしてからすぐに自分も攻撃しようと己の剣を構えた。が……。


「――! 手を出すなっ! わかっておるだろう? 今のこやつに儂らの攻撃は通用しないことを!」


 それを聞いたシェーラは、ぐっと唇を噤みながら、彼女は黒狐の背後にいる助走している男を見て、シェーラはぎりっと歯を食いしばる。


 顔に施されている白粉に紫のペイント。左目には星のマーク。右目には対をなす月のマークが描かれており、色濃く塗られた赤い口紅と眉の無いその顔が彼の薄気味悪さを強調させる。服装は女性が着そうな胸元がはだけている紫のロングスカートで、前髪をおかっぱのそれにしている黒いツインテールの男は、手をかざしながら汚い笑みを浮かべながら「んひひ」と、笑っている。


 そう、彼らが最初に思っていた最悪なこととは、こう言うことなのだ。


 シェーラと虎次郎が何回か攻撃を繰り出そうとした時、その攻撃は黒狐の男にに当たることはなかった。かすりもしなかったのだ。理由は簡単だ。


 でもある女装服の男がシェーラ達の攻撃を防いで跳ね返しているせいで、シェーラ達は自分の攻撃を自分で受けてしまっているのだ。


 自分達がボロボロになっていく様を、まるで高みの見物のようにして見る黒狐の男と女装服の男。


 それを見ていたシェーラは、頭を抱えながらこう思う。己の行いに対して呆れながら……。


 ――情けないわ。たったあれだけのことで心揺さぶられて……っ! 師匠の言う通り……、これじゃあだめだわっ! 揺さぶっている相手も相手だけど……。


 ――今は目の前のことに集中しないといけない……っ! こいつの言葉に対しても気になることはある。だから今は目の前に集中するべき!


 ――こいつらが一体何を企んでいるのかはわからない。けど……、今は目の前のこと! 後ででも聞き出せるわっ! 集中よ。集中しなさいシェレラッ!


 ――この状況……、ソードウィザードの私と、師匠では相性が最悪……っ!


 ――でも、こんなところで『はい。負けました』とは言わない。絶対に勝てる策があるはず……っ!


 そう思いながら、シェーラは今すべきことに集中して、二本の剣を引き抜きながら、彼女も虎次郎と同じように駆け出す。それを見ていた黒狐の男は、にやりと笑いながら――


「また突撃か……。学習能力がないなこの子は……。この私――狐族の亜人でもあるクサビと相棒でもあるヘロリドが、もう一度教育しなおそうかな?」


 と言いながら、指の先に溜めていたその炎の肥大を止めて、黒狐――クサビは天井に突き立てていたその指を、ふっと下に下ろす。その指の動きと連動しているかのように、業火の炎の玉となったそれが、どんどん駆け出していくシェーラに向かって落ちていった――!



 □     □



 どんどん下っていく階段を見ながら、私はヘルナイトさんの腕の中で、上から響く音を聞きながらシェーラちゃんたちの無事を祈っていた。


 本当なら、私もティズ君と同じ気持ちだけど、その気持ちを優先にすることは、時間を稼いでくれている人達に対しての失礼に値する。ゆえに私は、みんなの助太刀に行きたい気持ちを抑えつけながら、ヘルナイトさんの腕の中で階段を下る様子を見ていた。


 長いように感じられる階段。


 カンカンカンッと鳴り響く階段の音を聞いていた私は、少しずつ……、本当に少しずつアクロマに近付いていることを確信して、再度気を引き締めてヘルナイトさんと一緒に階段の終わりにたどり着いて、その先にある空間に向かって、ヘルナイトさんが入った瞬間……。


 ぶぉんっ! と来た何かを切る音。


 それを聞いたヘルナイトさんははっとして、私をぐっと強く抱きしめて抱えながら、とんっとその場で高く跳躍した。


「わ」


 驚いて声を上げてしまう私。


 そんな私を抱えながらヘルナイトさんは少し早口になりながら空中でくるっと回りながら、凛とした声で――「すまない。許せ」と言うと、そのまま空を切っていた何かが、ヘルナイトさんの背中と並列になるように突き進んだかと思った瞬間……。


 ばがぁんっっっ! と、機械の壁や何もかもを破壊するような音が聞こえた。バチバチと鳴り響く漏電の音や崩れ落ちる鉄の壁。


 それを見ていた私は、言葉を失いながらさっきまで私達がいた場所を見る。もし、あの場所に一秒でもいたらと思うと……、あまり想像したくない……。


 そう思いながら、私は青ざめるながらその光景を、さっきシェーラちゃんが残った場所と同じ空間の中央にいる男の人と大きな影を見て、私はさっき攻撃をした人があの人なのだと、今更ながら理解した。


 その人は避けたヘルナイトさんを見上げて、血走った目と荒い息使いで私達を見ていた。


 紫のカットシャツに黒いスーツズボン。そして腰には刀を差していて、黒髪の長髪を後ろで縛って女の人なのかなと一瞬思ってしまった。けど実際は男の人だったと驚いたのは内緒……。前髪を左右均等に分けたような髪型をしている顔面を包帯でぐるぐる巻きにしてその包帯からのぞくその血走った目で私達を見上げて、包帯により包まれてしまった口で、その男は自分が出した落ち武者のような姿をした影に向けて、こう命令した。


「『最後の落ち武者ボウレイ・ベンケイ』! 何外しているんだボケ! さっさとあの小娘をひっ捕らえろ! それくらいできるだろうがくそがぁ!」

『――御意』


 言った瞬間、私達に攻撃をしようとしていたその影はくるりと落ちていく私達を目で捉えて、刃こぼれが目立つその刀を向けながら、ぐぅいんっとその包帯の人と繋がっている黒い影に注しながら飛んで、私達に向けてもう一度その刀を振るおうとしていた。


 それを見たヘルナイトさんは、落ちながらも私を守るように背に背負っていた大剣を抜刀しようと、大剣の柄を掴んだ瞬間……。




「おらあああああああああああああああっっっっ!!」




 遠くから聞こえたキョウヤさんの声と同時に……、ヘルナイトさんと私の横をものすごいスピードで通り過ぎる何か。


 びゅおっ! と言う空気を裂くような音を聞いたと同時に、包帯の男が操っていた影の胴体に『ドガァンッッ!』と直撃する――槍。


 それを見た私ははっとして、すぐに飛んできた方向に目を向けるため、私は自分の背後を見た。ヘルナイトさんも見たらしく、私達の背後――次の階段がある扉の前に立っていたキョウヤさんを見て、私は思わず声を上げてしまった。


「キョウヤさん……っ!」

「キョウヤ――すまない!」


 ヘルナイトさんが早口で謝ると、それを聞いていたキョウヤさんはすぅっと肺にたくさんの酸素を蓄えながら一気にそれを吐き出すように、大きな大きな声で叫んだ。


「謝る暇も見る暇もねえだろうがっ! ここはオレが何とかする! すぐに追いつくから――早くこの先に進めっっ! もうみんなは先に行っちまった! 早く行きやがれ!」


 キョウヤさんは自分の背後にある通路に向けて――その先も下り階段となっているその先に向けて指をさしながら言う。怒鳴る。


 それを聞いたヘルナイトさんはぐっと私を抱き寄せながら、くるんくるんっと空中で回りがら衝撃を緩和させるようにして――ずたんっ! と着地した後……、大剣から手を離してすぐに、キョウヤさんの背後にある会談に向かって、ヘルナイトさんは私を抱えながら駆け出す!


 どんっという音が聞こえたと同時に、ぶわりとくる風圧。それを受けながら私は帽子の中にいるナヴィちゃんが飛ばされないように、必死に押さえつけながらその走りに耐える。


 遠くから包帯の男の声が聞こえるけど、その声を無視するようにヘルナイトさんは駆け出す。そしてキョウヤとすれ違った瞬間、ヘルナイトさんはキョウヤさんの顔を見ないで、そのまま通り過ぎようとした瞬間、ヘルナイトさんは言った。私はそれを――聞いていた。


 しっかりと、耳に入れた。



「――任せた」

「任された」



 前にも聞いたことがある様な言葉。それを聞いていた私は、そっとキョウヤさんの横顔を見て、声をかけようとした。無理しないでと、声をかけようとしていたけど、すぐにそれを取り消した。


 無理なんて、多分キョウヤさんはしないだろう。そしてキョウヤさんの横顔を見た途端、一瞬渦巻いていた不安が消え去ってしまったのだ。


 キョウヤさんの表情に、不安なんてものはなかった。もしゃもしゃも一切感じられなかった。


 キョウヤさんは負けるなんて言う不安を一切抱いてない。勝とうと思っているのだ。それを見て感じた私は、『無理しないで』と言う言葉を飲み込んで、キョウヤさんのその横顔を見ながらその場を素早く後にする。ヘルナイトさんの腕に抱かれながら、私はその光景を、キョウヤさんのその背中を目に焼き付けながら、心で願う。


 ――頑張って。と……。


 とんっ! とんっ! と跳んで降りているおかげで、さっきよりも長い階段だったのだけど、思ったよりも早く次の回に辿り着いて、あの包帯男の攻撃で遅れてしまったそれも取り戻せたかのように、みんなと合流できた。


「あ! 来たっ!」


 ティズ君が私達の存在に気付いて、安堵と喜びの声を上げながら私達を見上げている。ヘルナイトさんはそのままとんっとティズ君のことを配慮しながら避けて着地するヘルナイトさん。それを見て驚いた顔をしているリンドーさんは、小さな声で「さながら白馬の騎士ですね……っ!」と、和ませるような言葉を吐いていたけど……、私は今起きているこの状況を見て――


 キョウヤさんたちの時よりも顔をこわばらせてしまった。


 その場所はシェーラちゃん達が残った場所と全く同じ場所で、もうこれで三回目となる空間。同じ空間がいくつもあるのかと思って見ていたけど、そんなことは今は後回しだ。


 そんな空間の中央にいた一人の大男。


 上半身黄色と銀色が混ざった鎧を着た、下半身がなぜか、『、筋骨隆々で、毛が濃いアフロヘアーのおじさんが、あの時『聖霊の緒』で出会ったおじさんがそこにいたのだ。


 その人を見ていたクルーザァーさんは、頭を抱えながら大きく舌打ちをしてからこう言った。


「よりにもよって……、バトラヴィア帝国の幹部か……っ! どこまであいつは鬼畜なんだ……っ!」


 その言葉を言った瞬間――アフロの兵士はクルーザァーさんやみんなをぎろりと睨みつけて、そのあと私とヘルナイトさんのことを射殺さんばかりにすごんだ目で睨みつけながら……。


「貴様らのせいで……っ! 貴様らのせいでぇっ! 吾輩の人生は大きく狂ってしまったっ! 王に見限られかけているこの状況も、全部全部……貴様らがまいた種だ……っ! こうなってしまったのも……、貴様らと関わったせいだっ! 許せん……、許さんぞ浄化の小娘、そして『12鬼士』っ!」


 と、咆哮を上げるように、そのアフロの男はその大声に驚いている私達に指をさしながらこう叫んだ。


「貴様らと出会い、吾輩は貴様らのような弱者に負けてしまったっ! そのせいで王に失望されてしまったっ! そして貴様を追うために奴らと出会い、負けて……、吾輩は団長の座を剥奪されてしまったっ! そしてこの件で黒星を縫った瞬間……、吾輩が今まで積み上げてきた貢献が……、水の泡となってしまう……っ! それもこれも――全部貴様たちが関わったせいでこうなってしまったっ! 吾輩の人生を狂わせた悪魔の化身めっっっ!」


「え……? え…………??」


 私はアフロの男の言葉に首を傾げて、言った私とヘルナイトさんが何をしたのだろうと思いながら、必死になってそのことについて思おう出そうとしていると、アフロの男は下半身に取り付けてあるキャタピラーのアクセルをふかしながら、アフロの男はゴアッと来るような凄んだ目で、こう怒鳴る。


「覚悟せぇいっっ! 貴様等のような至高なる人間族の皮を被った悪魔は――この元・バトラヴィア帝国掃討軍団団長ガルディガル・ディレイス・グオーガンが血祭りにあげてやるっっ!」


 アフロの男――ガルディガルは下半身のキャタピラーのアクセルをふかしながら『ギャルギャルギャルッッ!』と音を立てて、すぐに私達に向かって急発進しながら迫ってくるガルディガル。


「おいおいおい! 正気じゃねえっ!」

「ま、待って下さいっ! 僕らはえっと……」

「言い訳したら余計にまずいような気がするけど……」


 ダディエルさんがそれを見て、慌てながら口に針を含もうとして、ボルド差案は両手を突き付けながら手を振って弁解しようとしているけど、しどろもどろになっているその光景を見ていたティズ君は困ったように首を傾げながら言うと、それを聞いていたクルーザァーさんは呆れたように溜息を吐いて――そして手をかざしてこう唱えた。


 ううん……。


術式召喚魔法サモナーバインド・スペル――」

「の前に――皆さん、早く先に進んでくださぁい」


 クルーザァーさんの言葉を遮るように、リンドーさんの久し振りの陽気な声が聞こえた。


 その声を聞いたクルーザァーさんやみんなが、声がした私達の前、そしてガルディガルやオルトロスの後ろに、いつの間にかいるリンドーさんを見て、驚いた顔をして彼を見ていた。


 リンドーさんはいつもの笑みを浮かべながら「あはは」と言って陽気に手を振っている。それを見たボルドさんはリンドーさんを見て大慌てになりながら――


「り、リンドー君っ! どうやってそこにっ!?」


 と聞くと、リンドーさんは平然とした顔で「こそこそ走ってここまでですー」と言うと、続けてリンドーさんは私達に向かって……。


「ここはぼくが何とかします。ですので皆さんはお早めにこの階段を下りてくださーい」


 と、リンドーさんはニコニコと微笑みながら言った。


 それを聞いた私達はぎょっとしてリンドーさんを見て……、それ以上にクルーザァーさんは、驚愕に顔を染めながらリンドーさんに向かって――


「ふざけるのも大概にしろっ! そんな身勝手なことが通じると思っているのかっ!? いいからお前は俺と一緒に来るんだっ! 命令だっ!!」


 と、クルーザァーさんは珍しく声を荒げながら叫ぶと、それを聞いていたリンドーさんは、肩を竦めてからクルーザァーさんを見て、笑みを浮かべているのに、笑っていないような顔で彼は、冷たい眼でこう言った。



「でも――クルーザァーさんだって身勝手な判断で紅さんを突き放しましたよね?」

「っ」



 その言葉を聞いたクルーザァーさんは、ぐっと言葉を詰まらせて唸ると、それを見ていたリンドーさんはクルーザァーさんに向かってこう言った。冷たい音色で、彼はこう言う。


「それと同じですよ。ぼくもぼくなりに、自分で考えたことを貫こうと思ったんです。みんなの意見を捻じ曲げたように、ぼくもあなたの作戦を捻じ曲げて行こうと思います」


 と言ったリンドーさんは、そっとティズ君に視線を向ける。その視線に気付いたティズ君は、えっ? と驚いた顔をしてリンドーさんを見ていたけど、リンドーさんはそのままにこっと笑いながら、私達に向かってこう言う。


「なので――六名ご案内いたしまーす」

「――さっきから何をごちゃごちゃと抜かしておるんだああああああああああああああっっっ!」


 ガルディガルは今まで聞いていた言葉を言葉で潰すように割り込んできて、今までアクセルをふかしていたその下半身のキャタピラーを一旦止めて、すぐ『ギャルギャルギャル』と音を立ててふかすと――ガルディガルはそのままリンドーさんがいる後ろに向かって、急発進する。


「っ! リンドーさんっ!」


 私は慌てて叫ぶ。でもリンドーさんは落ち着いている様子ともしゃもしゃで、ガルディガルのその猛進を見てそっと横に避けながら、たっと素早く駆け出す。それを見たガルディガルは横目でリンドーさんを捉えながら、その猛進にカーブを入れる。


『ギャギャギャギャギャギャッ!』と言う床を削る音が空間内に響いて、ガルディガルはその猪突猛進を維持しながら回って、リンドーさんを追い掛け回す。


「ちょこまかとおおおおおっっ! こうなれば貴様を先に屠ってくれるわあああっ!」

「おわー。小物の悪者がよく言うセリフだぁ」


 リンドーさんはガルディガルの言葉にけらけら笑いながら空間内をぐるぐる回りながら逃げている。それを見ていた私達は、目を見開いてぽかんっとしながら茫然としていると――


「皆の者よっ! 先に行けぇ!」

「ティズ、いったんお別れですが、すぐにまた会えますのでご安心を」

『っ!?』


 突然だった。突然ガザドラさんとティティさんが前に出て、ガルディガルから逃げているリンドーさんを見ながら、二人は武器を持って私達の前に立った。


「おい待て、作戦だとリンドーは俺と」

「だが、リンドーはどうやらここに残って戦うことを選んだ様子だ。そうなれば、吾輩もここに残らねばならん。リンドーとのベストコンビとして、ここは残ることを進言しよう」


 ダディエルさんの言葉に、ガザドラさんは胸を張ってダディエルさんの方を向きながら言うと、それを聞いていたティティさんもティズ君の顔を見るために振り向きながら――微笑んでこう言う。


「私はこの二人のサポートに回ります。あの男は元団長。つまりは『アイアン・ミート』の一人。二人だけでは心もとないので私も残って勝利のサポートをします。もちろん、すぐに終わらせてティズを守ることに徹しますけどねっ!」

「手厳しいな」


 ティティさんの言葉に、ガザドラさんは頭を抱えながら面を喰らったかのような顔をすると、それを聞いていたクルーザァーさんは頭をがりがりと掻きながら苛立った音色で――


「~~~~~~っっっ! なんでここまで自分勝手が多いんだ……っ!」


 と、小さな声で愚痴を吐いた。それを聞いていた私は、なんだかクルーザァーさんに対してみんな意趣返しをしているように見えたけど、気のせい……、だよね? うん……。


 そんなクルーザァーさんの言葉を聞いていたティティさんは、小さな声で「当然ですよ。あなたに対して少なからず怒りを覚えたのは事実です」と言ったのは、ここだけの内緒にしておこう……。


 そう思っていると、クルーザァーさんは「っち!」と、一際大きな舌打ちを出しながら、残っている私達に向けてクルーザァーさんは言う。


「行くぞ!」


 その言葉を聞いていた私とヘルナイトさん、ティズ君とダディエルさんはすぐに頷いたけど、ボルドさんはそれを聞いてわたわたと首を左右に振りながら「え? え?」と、理解できないような顔をしていたけど、それを見ていたダディエルさんはボルドさんの腕をがしりと掴みながら乱暴に引っ張って――


「行くぞリーダーッッ!」


 と言って、ダディエルさんはボルドさんを引っ張りながら、リンドーさんが開けたドアに向かって走る。


 ティズ君もクルーザァーさんの後に続いて走って、ヘルナイトさんも私を抱えながら走る。


「あ、待って! 待ってダディ君っっ! ねぇ、待って! リンドー君! みんな入ったから、君も――」


 ボルドさんは引っ張られながらリンドーさんがいる空間に向かって手を伸ばした。けど――


 リンドーさんはそのままドアに手をつけて、そっと押して閉じようとしている。


 それを後ろで見ていた私はリンドーさんを見て、声を上げようとしたけど、リンドーさんはそんな私やみんなを見て、にっこりと微笑みながら目だけは何だが悲しいようなそれを浮かべて……、リンドーさんは言う。




「明日香さんの仇――とってください」




 それだけ言ってリンドーさんはその重い扉を閉めて、『ガチャリ』と……、鍵を閉めた。


 この鍵の施錠の音が私達の戦いの開始の合図となって、正式に鳴り響いた瞬間だった。

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