PLAY55 BC・BATTLEⅢ(Powerful mind)①
べたんっと、ボルドさんは崩れるように階段に手をつき、頭を垂らしながら小さな声でぶつぶつと言葉を紡ぐ……。
「なんで……、なんでこんな時に、あんなことをしたんだろう……。リンドー君……」
ボルドさんはまるで傷心しているような音色で、茫然とした面持ちで階段に膝をつけながら、さっき起きたことを後悔していた。
さっき起こったこと――それはリンドーさんが私達を先に行かせるために、自ら囮となって残ったこと。
最初クルーザァーさんの作戦では、リンドーさんはこの場に残らないで私達と一緒に行くはずだった。
しかしリンドーさんはどういう風の吹き回し……、ううん。違う。全然違う。これはきっと、リンドーさんは前々から考えていたことなのかもしれない。
リンドーさんがしたことはきっとクルーザァーさんに対しての嫌がらせ、そして初めての反発だったんだ。
紅さんのクビ宣言をした時、クルーザァーさんはリンドーさんにも聞いていたけどリンドーさんはその時最初こそ反対意見だったけど、クルーザァーさんに気圧されてしまったのかその威圧に負けてしまい、賛成の方に回ってしまった。
私はヘルナイトさんの腕から解放されて、そっと階段に下ろされながらも私は思った。ふと思った。
きっと、リンドーさんはずっと後悔していたんだ。と……。
自分の言葉のせいで紅さんが抜けて、どこかへ行ってしまった。
もし、あの場で自分がもっと強く反発していれば、何かが変わっていたかもしれない。未来が変わっていたかもしれない。
自分の未熟な行いのせいで、紅さんを傷つけて、そして仲間外れにするようにしてしまった。
ただ、あの時精神的に参っていただけなのに……。
そのことをずっと悔やんでて、クルーザァーさんに対してもちょっとした怒りを覚えていたからこそ、リンドーさんはクルーザァーさんに対して反発して、少しでも自分で変わろうとしたんだ。
もうあんなことが起こらないように、自分の心を強くして……。
そう思いながら、私は未だに項垂れて泣きそうになっているボルドさんを見降ろしながら、私はそっと手を伸ばしてボルドさんの名前を呼ぶ。
ボルドさんは私の顔を見ないで、私に向けて――
「ごめんね」と言う。
それを聞いた私は突然のことで頭が真っ白になってしまい、どういうことなのだろうという疑念を抱きながらボルドさんに聞く。
「えっと……、突然、どうしたんですか……?」
「いや、ね……。ちょっと……、心の整理がついていないだけなんだ……。なんであんなことをしたのかと思っててね……。本来ならこんなところでうじうじなんてしていられないんだけど……。ちょっと……、無理かもしれないな……。すぐに動くことが、できそうにないよ……」
「………………」
「ボルド」
ティズ君もボルドさんを見ながら、苦しい音色で言う。私もボルドさんの言葉を聞いて、それ以上の励ましの言葉を言うことができなかった。
言ってしまうと、もしかしたらボルドさんが壊れてしまうかもしれない。そう思った私は言葉を紡がないで、そのままボルドさんのことを見降ろすことに専念した。ぎゅっと、握り拳を作りながら……。
今の時点で、この場所で立ち止まる行為はみんなに対して失礼に値する。みんな私達のことを信じて先に進めてくれた。みんなが囮になって私達をここまで導いてくれた。
止まってはいけない。走らないといけない。歩みを進めないといけない。
足を――止めてはいけないのに……。
私は再度ボルドさんを見降ろす。ボルドさんは唸っているかのように頭を垂らしたまま階段に手をついている。それを見て、私はボルドさんのその気持ちを深く理解してしまった。
多分だけど……、ボルドさんはきっと、アスカさんのことを思い出しているのかもしれない……。わからないけど、ボルドさんのもしゃもしゃがまるで滝のようにどんどん溢れ出てくる。悲しいそれが知らせてくれる。後悔やいろんな負の感情が、ボルドさんを覆っている。
アスカさんを失った時の悲しさが引き金になって、ボルドさんはきっと……、リンドーさんの最悪の想定を思い浮かべているのかもしれない。アスカさんとリンドーさんを重ねているのかもしれない。そう私は思った。
………前に、先生がこんなことを言っていた。
人は――表面上の傷の修復は早いけど、心の修復がそう簡単にいかない。ただの罅割れでも、十年、二十年……、下手をすれば永遠に治らないかもしれない。そんな状態で同じことが起きてしまった場合、人間はいとも簡単に壊れてしまう……。繊細で脆い存在なんだ。
と……。
まさにボルドさんはそれだ。
今のボルドさんはきっと、リンドーさんの行動を見て、アスカさんと重ねてしまい、アスカさんのようなことが起きてしまうのではないかと思って、怯えているんだ……。
もう仲間を失いたくないのに……、またこうなってしまったと、後悔して苦しんでいるんだ……。
そう思った私は、ボルドさんが壊れてしまう前に――意を決して、再度ボルドさんに手を伸ばそうとした瞬間……。
「ハンナ――ここは君が出るところではない」
ヘルナイトさんが私の肩を掴んで、その進行を阻止したのだ。
それを聞いた私は驚いてヘルナイトさんがいる背後を見ると、ヘルナイトさんは首を横に振りながら、前のほうを向いて、私の肩から手を離して指をさす。ボルドさんの方に向けて、指をさした。
それを見た私は、もう一度ボルドさんの方を見ると――
「リーダー。んなところでジャパニーズ・ドゲザをするな。さっさと立っていくぞ」
ダディエルさんがボルドさんを見降ろしながら、きつい言葉を吐く。
それを聞いたティズ君は、ぎょっとしながらダディエルさんを見て――
「だ、ダディエル……? どうしたの……? 冷たい……。なんだかクルーザァーみたい」
なんだかすごく失礼なことを言っていたけど、私はそんなことに対して突っ込むことはできなかった。みんなしなかったし、それに……。
………なんだか、鬼のような目つきで私達のことを睨みつけているクルーザァーさんの視線を感じたから、誰も本人の前で突っ込むことなんてできなかった。
多分、墓穴を掘りたくないから……、不用意に口を開かなかっただけだと思うけど……。
ティズ君の言葉を聞いていたダディエルさんは、呆れたような顔をしてからティズ君の方を振り向いて、私達のことを見ながらこう言った。
「冷たいんじゃなくて、俺は至極まっとうなことを言っているだけだ。こんなところで止まること自体がおかしいんだ」
ダディエルさんはボルドさんを見降ろしながらもそっとしゃがんで、ボルドさんを見ながら厳しそうな音色でこう言ったのだ。
「リーダー。後悔する気持ちは俺もよくわかる。一度体験したからな。でもこれだけは言える。あいつが死んだのはあんたの命令ミスとかそんなこと一ミリも思ってねえし、あれは俺達の判断ミスでもねえ。あんなインチキなものを持っていた……、アクロマの所為だ」
「…………………………………」
「リーダーあんたに聞きたい。リンドーがあんなことを言ったのはきっと、あんたに行ってほしかったからあんなことをしたんだ。一番後悔してんの、あんたと俺だしな」
「………………………………」
「さらに言うともう一つ……。リンドーの奴があっけなく死ぬような想像、できねえだろうが。あいつ意外と姑息だし、ずる賢いし、何より頭がキレる。それにあのガザドラとティティがいるんだ。そう簡単に死なねえだろうが」
「………かもね」
「『かもね』じゃねえ。『だろうね』だ。だからリーダー。こんなところでうじうじすんじゃねえ。一応俺ら逸れ者のリーダーなんだぜ? 少しはしゃきっとしてくれよ」
一通りの会話をしているダディエルさんとボルドさん。
それを聞いていた私は、ただただその会話を聞いているだけで、介入も何もしないまま、ただその話を聞いていた。
ヘルナイトさんも、すでに私の肩から手を離している。
それでも私はもう大丈夫と思って、二人の会話を聞いていた。ティズ君もだんだんとだけど、大丈夫と言う気持ちが伝わったのだろう……。言葉を挟まずに二人の話を聞いていた。
ボルドさんはそれを聞いて、うんっと頷きながらそっと立ち上がって――ダディエルさんもそれと同じ時に立ち上がる。そして、立ち上がった後でボルドさんはこう言った。
「うん。そうだね。よくよく深く考えたら、あの行動はリンドー君らしくなかったけど、絶対に勝って来るね。一番頭いいもんね。ごめんね、僕アスカちゃんのことがあってナーバスになっていたのかもしれないね」
と言いながら、ダディエルさんに向かって頭を下げながら言うボルドさん。
それを聞いていたダディエルさんは呆れながらそっと、右手の握り拳を上げて、そのままボルドさんの胸に向けて――
『とんっ』と、軽くそれをボルドさんの胸に叩きつける。そしてダディエルさんはこう言った。安心している笑みで、ふっと笑いながら――
「そう思ったなら、すぐに向かって役に立ってくれよ。盾として」と言った。
それを聞いたボルドさんはぎょっと驚きながら「ひどいっ!」と、いつものように泣きながら言っていたけど、何だろう……。今回ばかりはそれを見て、張り詰めていた心がな落ち着きを取り戻しているような気がした。
そんな光景を見ていた私とティズ君は、互いの顔を見ながらほっとしたような笑みを浮かべて笑い合う。ヘルナイトさんもそれを見て安心したような顔をしているようだ。クルーザァーさんだけは……。
「……そろそろ行くぞ。時間がもったいない」
と、なんだか苛立っている顔で言う。
それを見ていたダディエルさんはにやにやとしながらクルーザァーさんを見て……。
「自分がした行いがぶり返したな」と、意地悪そうに言うと、それを聞いていたクルーザァーさんは大きく、わざとらしく舌打ちを出しながら――「さっさと行くぞ! 時間のロスは最大の不合理だっ」と言いながらずんずん前に向かって進んでいく。
それを見ていたボルドさんとダディエさんは、それを見ながら互いの顔を見て、すぐ前を向いて歩みを進める。私もティズ君を見て、再度決意を固めながら「行こう」と、ティズ君とヘルナイトさんに向かって言う。
それを聞いたティズ君はこくりと頷いて、ヘルナイトさんも「ああ」と言って、私とティズ君が走るのと同時に、ヘルナイトさんも私達の後を追うように駆け出す。
今まで、私達のために道を作ってきたみんなのためにも、私達は足を止めては行けない。このままアクロマのところに向かって進む。それが――私達にできる、みんなへのお礼。
そう私は思い、タンッと、階段を駆け下りながら進んだ。
◆ ◆
それから時は遡り――
アキ達のところでは……。
「ううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」
「だらああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」
マリアンとギンロの連続射撃の応酬が繰り広げられていた。
ダダダダダダダダダダダダダダダッッ! と言う『シャーベラー』の発砲音と、バルバルバルバルバルバルバルバルバルッッ! と鳴り響く『デスバード』の発砲音が、まるで雑音が入り混じっているコントラストを奏でているかのように、周囲に鳴り響く。
「こんのおおおおおおおおおおおおおおっっっ! くそがあああああああああああああああっっ!」
マリアンは激昂のまま叫び、ギンロに向けてその銃の嵐を繰り出す。ギンロも自分が持っている愛銃を手に持って、マリアンの両腕と両足を破壊する様に狙いを定めながら、彼はその弾丸の嵐を弾丸で止めながら攻撃に転じようとしていた。
しかし――ことはうまくはいかない。
ぱしゅっと、『デスバード』の銃弾を掻い潜るように、『シャーベラー』の弾丸がギンロの太腿や脹脛右腕を掠めるように、抉るように通過する。
ばしゅっ! ぴっ! しゅっ! と……、彼の体に確実にダメージを蓄積させるマリアン。
それを受けながらギンロは声にならないような叫びを殺して、ぐっと歯を食いしばりながら銃を持つ手を緩めずに、連射を繰り返していた。痛みはさほどないからこそ、我慢できたのだ。
が――ギンロはいまだに打ち続けているマリアンを見ながら、彼は今ここにいないアキのことを思いながら、内心舌打ちをしてこう思った。
――
――クッソ! この女マジでやべぇ! ガンゲームで培ってきた技術なんて、この女の前だとアマチュアレベル……っ! こいつは銃のエキスパートだ!
そう思いながら、『ブシュッ!』と……、激痛と共に頬を抉る弾丸に驚きながらも、ギンロは思う。マリアンを見て思った。
――この女、あんな風に激情しているのに、内情はクールだ! てかマジで厄介だな!
と思いながら、ギンロは未だに『デスバード』を連射しながら拮抗を保とうと必死に足掻いていた。
一応言っておこう――
『デスバード』のメリットは――攻撃力と連射性。攻撃力で言うと、『デスバード』のほうが上である。連射数で言うと、『デスバード』が千発。『シャーベラー』は九百発。百発の差があるが、それでも連射性以外のスペックならば……『シャーベラー』のほうが上だ。
なぜなら――『デスバード』には大きなデメリットがある。それは……。
「――終わりだぁっ!」
マリアンは叫んで、そのまま銃撃をやめて、そのまま駆け出してくる。ギンロに向かって――!
「っ!」
ギンロはそれを見てぎょっとしたが、ギンロは逆にそれをチャンスと見て、一度連射をやめていたその銃撃を再開しようとした。その時だった。マリアンは肩にかけていたバンドを取り去って、現実のそれよりも少し重めの『シャーベラー』を己の手だけで支えながら駆け出したのだ。それを見たギンロは、内心……、なんでだ? と思いながらマリアンを見る。
そして思った。
――肩にかけるそれをやめて、一体何をしようってんだ? その銃だってこのミニガンくらい重いはずだ。俺でもこれを肩から下げないと使えないほど重いし、持ち上げるなんてことも………。
と思った瞬間だった。
ギンロは、マリアンの策略に気付いた。
否――気付いてしまった。
マリアンが今しようとしていることに、彼は遅まきながらも気付いてしまったのだ。
ギンロは銃撃をやめようと引き金を引くことをやめ、急接近してくるマリアンの攻撃を防ごうと、頭の中で世界が一瞬スローモーションとなっているこの最中、彼はどうやって防ごうかと模索していた。
ここでふと誰もがこう思うであろう。
そんなもの銃を盾にすればいいじゃないか。
そう思うであろう。確かに銃を盾にして攻撃を防いでいるそれはギンロも昔見たアニメで知っていることだ。が――現実はアニメのようにうまくはいかない、そして……。
現実は――残酷にできている。
「――っふ!」
マリアンは銃撃をやめていたその『シャーベラー』の銃口付近に抜けて左手を伸ばし、そのまま持つのではなく、逆手に持ってから右手をその場で銃から離れるように、肩を使って右手を上げる。
上げた瞬間、マリアンは逆手にしていた左手を元の形にしていく……。
銃を掴んだまま、それを片手で振るいながら――彼女は銃による殴打をギンロに向けて繰り出そうとしていたのだ!
まさに――銃のスィング。
「っ! っそ!」
ギンロはそれを見て色々と模索することをやめてから、すぐに脳の反射神経を酷使して、ギンロから見て左側から来るその攻撃を、左手を上げて防御するという簡易な防御方法で防ごうとした。
それを見たマリアンは――にやりと口元に弧を描きながら……。
――かかった。と思い、振るっていたその銃に向けて、右手を伸ばして……、両手でしっかりと掴んでから彼女はそれを……。
ぐるんっ! と回したのだ。
『シャーベラー』の弾丸が入っている――弾薬箱を、ギンロの腕に向けて、彼女はそれを回転の勢いを殺さずにそのまま……。
「っ!」ギンロがその箱を視界の端で捉えて逃げる隙など与えずに……。
――バギィッッ!
と、彼の腕をへし折るように、彼女はそれを振るった。
バットの、スイングのように……、彼女は躊躇いもなく殴ったのだ。
「――っ! がふっ!」
ギンロはその腕で衝撃を緩和しようとしていたのだが、防御できずに顔事攻撃を受けてしまう。予想以上にダメージが大きかったからか、彼は口からは中を吐いた。
べしゃりと、地面を染める赤い液体を、彼は口から吐いたのだ。そして――
「っ痛! ま、マジか……」と、彼は己の左手を見て、愕然としながら言葉を力なく、絶句する直前の零れ言葉として吐く……。
彼は見ていないが、ギンロのバングルに映し出されるとある映像。それは、アキの時と同じような情景で……、赤と青の帯線の画面上に、何かが差し入れられたかのように、赤く点滅している人間のマーク。そのマークの左腕は黒くなっていて、下には『LEFT ARM GOA』と言う文字が表示されている。
それが指すこと――それは……。
ギンロの左腕が破壊されてしまった――
ぶらん。ぶらんっと……、人形の手のように振り子を振っている腕を見て、ギンロはどんどん呼吸ができなっていく自分に混乱し始め、そしてマリアンを見る。震える瞳孔で、視点が定まっていないその目で、彼はマリアンを見る。
マリアンはギンロを殴って銃口のところが僅かに曲がってしまった銃を見て、彼女はそれを何の躊躇いもなくポイっと近くに捨ててから、彼女はギンロを見て、あくどい笑みを浮かべながらこう言った。
「これでお前の銃攻撃は使えない。最も、そんな持ち上げることもできない重い銃では防御なんてできないだろうけどな」
彼女は懐からそっと――瘴輝石を取り出す。そして彼女はそれをぐっと握りしめながら……、唱える。
「マナ・ポケット――『レォット』」
彼女が唱えたと同時に、彼女が持っていた瘴輝石から眩い光が放たれる。放たれたと同時に、その石からさっきギンロを殴ったそれと全く同じものが出てきたのだ。
がしゃんっと、地面に落ちながら――
それを見たマリアンは、それを掴んで肩にかけながら彼女はその銃口をギンロに向ける。折れてしまっているその腕を支えて慌てているギンロに向けて、マリアンは勝ち誇った笑みでこう言った。
「戦場ではいつもこんな感じさ。銃は銃として使うのではない。銃は道具。道具にカテゴリーなんてない。使える用途があれば、それを余すことなく使って殺す。銃を鈍器のように使っても。ナイフを突き刺して拘束するための道具に使っても。フォークを拷問として使う道具にしても。岩を窒息させる道具にしてもいい。戦場では型にはまっている奴ほど早死にする」
マリアンはとある方向を目だけでちらりと見る。
彼女がとある方向に視線を向けた瞬間――大きな音が聞こえて、『ゴゴゴゴッ』と金属がきしむ音と共に、いくつも立てられていた煙突が地面に向かってゆっくりと落ちていく。
そして大きな轟音を立てて土煙を噴き上げる。
それを見にだけで聞いていたマリアンはふっと笑みを浮かべながら――もう戦えなくなってしまったギンロを嘲笑うように見てこう言った。
「お前の敗因を、あの男の敗因を教えてやる。お前達は銃にこだわり過ぎていた。銃と言うその得物の型にはまろうとしていた。銃の使い方を丁寧に従ってきた。でもな……」
「う………………ぐぅ…………っ! くぅ!」
ギンロは折れてしまった腕を引きずるように立ち上がろうとした。それを見ていたマリアンダは内心、ギンロのことを触角がなくなってしまった蟻のように見下しながら――彼女は攻撃しないで、続けてこう言う。
「道具は道具で、使い方次第で大ダメージを与えることができる。こだわりは強ければ強いほど、弱くさせる。戦場では、どんな手を使ってでも勝たないといけないんだ。どんな手段を使ってでも、どんな姑息な手を使ってでも、勝たないといけない。だからお前は私に負けたんだ」
――じゃきり。
マリアンは『シャーベラー』の銃口をギンロに向けながら、彼女は冷たい眼でギンロを睨みつけながら告げる。
勝ちを確定した。相手の負けを確定したその言葉を――
「この戦争――私の勝ちだ」
刹那。銃弾の雨の音が――夕焼けの世界を終わらせる逢魔が時の世界に鳴り響いた。
◆ ◆
いくつもの銃声が鳴り響いていたその頃……。
洗浄された空気が排出される煙突がいくつも崩れ落ち、煙突の瓦礫が絨毯のようになって、幾分か辺りが見えやすくなったその場所では……、ただ一人の人物はその中央に立って辺りをきょろきょろと見渡しながら、彼は――否……、彼女。と言うべきなのだろうかはわからない、ゆえに……。
ろざんぬは辺りを見渡して、どこかに隠れているであろう敵に向かってこう叫んだ。
「隠れたって無駄よぉっ! もう降参しなさいな!」
ろざんぬは叫んだが、敵の声が聞こえない。否――答えない敵。
それを聞いていたろざんぬは筋骨隆々の腕を組みながら、「うぅ~ん」と、色気のある女性の悩む仕草をしながら、ろざんぬはもう一度こう叫ぶ。
「そんなに粘らなくてもいいでしょうが! 私達はただ――あの天族の女の子に用があるだけなのよぉ! アクロマに頼めば――こんな悪夢も全部終わるの! あの子がいれば計画は完遂されるのっ! だからお願いもう降参してっ! ダイジョブよ! 痛いことはしないからぁ!」
その言葉を聞いていたアキは、無言のままろざんぬの言葉に耳を傾けていた。
アキがいる場所は――ろざんぬがいる場所から少し遠く、運よく崩れに巻き込まれない場所で隠れていたのだ。ろざんぬのその言葉を聞いていたアキにぃは、音を立てずにライフル銃の弾を補充しながら、彼は思った。
――うそこけ。
――大体ハンナを誘拐するという時点で、俺はお前達に従うなんて言う選択はない。
――と言うかぶっ潰す。
と、アキはさりげなく悍ましいことを思っていたが、そう簡単にうまくいかないと思いながら、アキはそっと煙突の影からろざんぬを視認する。
当の本人は辺りを見回しながらアキに向かって説得をしている。フルフェイスマスクをしているのでどんな顔をしているのかはわからない。しかしアキはろざんぬに対して――警戒していた。
――あのオカマ……。言動はあれだけど、この煙突の集合体を素手でいとも簡単に破壊するほどの怪力……。あれってきっと、現実の力だよな……? モンクのスキル言っていないし、それにあいつ……、装備してない。
そう。
アキの言った通り――ろざんぬは自分の両手に武器を装備していないのだ。防具もない無防備の姿で、ろざんぬはアキと対峙していたのだ。強いて言うのであればあの駐屯医療所の時も防具も武器も装備していない状態でいた。
あの単細胞だが戦闘狂でもあるダンでも、武器・防具はしっかりと装備する。そうでもしないと大きな攻撃力を与えられない。大ダメージを喰らってしまう。
RPGに置いて武器と防具の存在は必要不可欠だ。が――ろざんぬは違った。
何もつけてない状態のろざんぬは――一種の無防備である。無防備ゆえに最初こそアキは油断してろざんぬの近くで銃を発砲した。が……、それが誤りだった。
誤った。何より油断したからこそ――だからこそ、彼は遠くで警戒しながらろざんぬを観察していた。
――あんなの……、現実にいていいのかよ……っ! ていうか、あんなのありかよ……っ! アニメとか漫画でしか見たことがないって……っ!
アキは内心ろざんぬに対して、一抹の恐怖を抱きながらごくりと生唾を呑む。
対照的に――ろざんぬはアキのことを探しながら「おーおーいー」と、陽気な音色で叫んで探している。
アキは内心焦りを覚え、ここにいる自分を見つけるのも時間の問題と思いながら彼はろざんぬのことを見て――正直な感想を述べた。
たった何分間しか見ていないろざんぬのことを見て――こう思った。
――あんな怪獣……、現実にいてもいいのかよ……っ!
あんな怪獣。
アキはなぜろざんぬを見てそう思ったのか……、その答えを知るためには、ほんの少し時間を遡らないといけない……。
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