PLAY55 BC・BATTLEⅢ(Powerful mind)②
アキは少しの間だが、あの後マリアンをギンロに任せた後のことを、簡潔に回想した。
ここでのんびりと回想をしていると、もしかしたらろざんぬの攻撃が来るかもしれないと思っての警戒なのか、アキはあの時起こったことを簡潔にまとめるように、素早く思い出して対策を組み立てようとしたのだ。
アキは思い出す。
あの時――ろざんぬと対峙した時のことを……。
アキはあの時ギンロと話をし、マリアンの銃の連射撃が繰り出された瞬間を見て、すぐに別の煙突の影に隠れながら攻撃を回避していた。
一人マリアンを相手にして「うおぎゃあああああああああっっっ! いきなりかよおおおおっ!」と素早く走りながら避けて慌てているギンロを見てアキはこう思った。
――この人だけでも大丈夫か。あの女の人……、案外頭に血が上りやすいみたいだし。
そう思いながらアキはギンロに向かって、そそくさとその場から離れながらこう言ったのだ。
「それではあとはお願いしますねー。俺は物陰に隠れながら敵がいるかどうか確認しますので」
「それって完全に俺に任せているよねっ!? 人任せにしてねえかっ!? 前回のお前はどこに行っちまったっ? 待て行くなっ! ここに二人いるんだぞっ!? 俺を置いて行く前に二人で共闘しようぜっ!」
ギンロはアキの心ない言葉に、泣きそうになりながらも突っ込みを入れてここにいてもらおうと説得を試みる。
正直なところ、ギンロの武器『デスバード』でもマリアンとろざんぬを倒せるような威力はないと思ったギンロは、アキに後方支援の要請をしたのだ。
……そんな彼の勘は、この後すぐに当たってしまうのだが。
そんなギンロの話を聞いていたアキは、物陰に隠れながらライフル銃を構えて――そっと目を伏せた後、彼は冷静な音色でこう言った。
「ギンロさん……。あの時あなたこう言いましたよね? 『だぁれが世紀末だぁっっ! つかなんでお前も残るんだよ! ここは俺一人残れば――』って」
「数分前の俺に会ってぶん殴りてぇっっ! あんなこと言うんじゃなかったぁ! タイムスリップしてぇっっっ!」
ギンロは頭を抱えて「だああああああ~っ!」と嘆きながら銃弾を避けながら叫んでいた。それを見たアキは再度大丈夫だろうと思い、彼はそのまま近くに敵がいないか確認するために開けたところに向かって走った。
煙突の影を利用しながら、彼は小刻みに動きながら駆け出す。
それを遠くで見て、アキの赤い髪を視認したマリアンは背後にいたろざんぬに向かってこう叫ぶ。銃を撃ちながら彼女は言った。
「ろざんぬっ! ここは任せろっ! お前はあの赤髪のエルフをやれっ! 殺す気で止めるんだっ!」
マリアンのその鬼教官のような言動に、ろざんぬは心なしかくすりと笑ってしまいそうなそれを押さえ、マリアンの背中を見てその場から音を立てずに消えるように駆け出す。
アキが行った方向に向かって駆け出して――ろざんぬはマリアンがいるその方向に首を向けながら、ろざんぬは言う。
「わかったわぁ! 何とか止めてみるわぁ!」
その言葉を聞いて、マリアンは頷きながらろざんぬに向けて親指を突き出したグーサインを出す。そしてすぐにそれをひっこめて、ギンロに銃口を向けながら、銃の連続攻撃を繰り出す。
ダダダダダダダダダダダダダダダッッ! と、彼女はギンロに向けて、銃の攻撃を切り出した時、ギンロは流石に逃げることは得策ではないと思ったのだろう。
そう思った彼は自分が持っている『デスバード』の銃口をマリアンに向けながら――銃弾を浴びせる。
……それから二人は、何分かの弾丸の応酬を繰り出して、さっきのような光景に至るということである。
そんな弾丸の応酬が繰り広げられているまさにその頃――アキはろざんぬの正体を知ってしまったのだ。
「待ちなさいなぁああああっっ!」
「!?」
アキは背後から聞こえた野太い声を聞いて、煙突の間を掻い潜るように走りながら後ろを向いた。後ろにいたのはろざんぬ。ろざんぬは大きな図体で細い道と化しているその煙突の間を何とか潜ろうともたつきながらアキに向かって叫んでいた。
「ちょっとぉ! こんな狭い道を通るだなんて……、卑怯よぉっ!」
「いや、銃撃戦ならこんなの卑怯じゃないし。常識だよ。まだまだイージーだけど」
ろざんぬの言葉を聞いていたアキは、その足を止めることなどせず、そのままじぐざぐに掻い潜りながらどんどんろざんぬから距離をとって走る。
ろざんぬはそんなアキの背中をきょろきょろと見ながら「もぉ!」と、漫画で言うとプンスコと怒りながらろざんぬは、その場で立ち止まって、近くにある煙突の筒をがしりと掴みながら、こう言った。
めこっと、鋼鉄でできたその煙突をがっしりと掴みながら、こう言ったのだ。
「と言うか……、こんな狭いところだと見えづらいわね。ここら辺の煙突って、使われていないわよね? なら――倒しちゃいましょう」
と言った瞬間だった。
めりっと、煙突を掴んでいた五指に血管が浮き出る。
浮き出たと同時に、ろざんぬは片手で掴んでいたその煙突を、まるで大きなカブのように、軽々とそれを根っこから『ずぼっ』と引っこ抜いてしまったのだ。
片手で、軽々とだ。
「――っ!?」
アキはそれを見て、目が飛び出そうな顔をしながらぎょっとしてその光景を見た。
ろざんぬのその行動に驚いて、片手で引っこ抜いたそれを――両手でしっかりと持ってからろざんぬは腰を捻って、ぐるんっと回転しながら……。
「ほおおおおおれええええええええええええええええええっっっっ!」
ろざんぬは叫びながらぐるん! ぐるん! ぐるん! と、砲丸投げのように回りながら、辺りにある煙突や機器を叩き壊す。
ガンッ! ゴンッ! どがぁっ! ベキンッ! バカァンッ! と――
辺りにある煙突をへし折りながら、周りにあった機器を破壊しながら、その地を更地にして見えやすい環境に作り替える。
それでも、ろざんぬはぐるんぐるん回りながら、その地を見えやすい環境に仕立て上げていく。
ぶわりとくる風圧。その風圧に当たり、ぎしぎしと音を立てる煙突。
へし折れてしまった煙突は、そのまま衝撃と風に耐えられずに、軋む音を立てながら近くにある煙突に向かって倒れていき、ろざんぬの衝撃に耐えられなかった煙突に当たった煙突も、ドミノのように倒れた方向に向かって倒れて……、ろざんぬの近くだけであったその更地を、更に広く構築していく。
どんどん連鎖して地形を作り替えていく。
ろざんぬの馬鹿力を通り越した何かによって――その地をどんどん作り替えていく!
「――っ!」
ごぉっとくる風に驚きながら、アキは遠くに逃げていたおかげでその煙突の連鎖から逃れていたが、煙突越しにその光景を見たアキは、小さくこう呟いた。
「う、そだろ……っ? こんなこと……、人間の力を超えているって……っ!」
マンガじゃあるまいし……っ!
そうアキは呟いて、どがぁんっと、最後の煙突が崩れ落ちた瞬間、その中心で持っていた煙突を捨てながら、ろざんぬは叫ぶ。
「隠れたって無駄よぉっ! もう降参しなさいな!」
それを聞いたアキは、ついさっき己がした行いに後悔を覚えながら、彼はこう思っていた。
――何分か前の自分に戻りたい。と……。
アキの少し短めの回想――終了。
◆ ◆
そして現在に戻り……。
アキは未だに自分のことを探してうろうろと辺りを歩いているろざんぬを見ながら、彼はふと頭の片隅にあった何かを思い出した。
頭の片隅にあったもの――それはとある医療テレビの特番だった。
内容は脳のメカニズムについて。
かなり難し話でうろ覚えなところあるが、簡潔に言うと、人間は常に脳によって力を制御している。ということだ。
かなり簡潔であるが、それでもそんな状態でも時に例外と言うものがある。
その例外とは……、誰もが『死ぬかもしれない』や、『助けたい』など、感情のままに逃げたり助けに行こうと動いた瞬間、今まで発揮されなかった力が爆発的に発動してしまう。
漫画のような言い方ではあるが、実際人間はその力を有している。あまり使っていないだけでみんな持っているものなのだ。
聞いたことがあるだろう――『火事場の馬鹿力』。それこそが例外。爆発的な力が解放される瞬間なのである。
アキのうろ覚えの回想はその辺にしておき、本題に入る。
アキが生まれて五年後のある時、とある病気が見つかった。それは――『ロスト・ペイン』のようなVRゲームの普及に伴って発症が出続けた病気ではなく、新たに発見された病気だった。
それは――遺伝子的の誤差で、つい先ほど話していたその火事場の馬鹿力が発揮されやすい体質になってしまった……、治ることがない奇病ともいわれており、その体質になってしまったものは常にその力を発揮してしまい、日常生活にも支障が出てしまうような力を出してしまう病気。
五十万分の一の確率で出てしまう病気――癌と同等に厄介な病気と認識をされてしまっているその名は……。
『心理的限界劣化症候群 (通称PLD) 』である。
そして不運なことに、世に広まったのは、今から五年ほど前の話で、治療法も一切見つかってない奇病である……。
閑話休題。
アキはそのことを思い出しながら、まさかと思いながら……、彼はろざんぬを見る。
――まさかと思うけど、あんな常人じゃ考えられない力とスィング……、完全に人間の力を超えてしまっている。漫画かよとか思っていたけど、あの人がもしかしたらその奇病にかかっているなら……、なんとなくだけど頷ける……。
そっと、アキはその煙突の影から顔を出して、ろざんぬのことを観察する。そして思案する。
手に持っているライフル銃をしっかりと持ちながら……、アキは考えを巡らせた。
――となると……、拳銃を持って、打ち続けながら近づいて攻撃は無し。
――拳銃に仕込まれているその仕込みのナイフを出して、それを突き刺したところで……、俺はあの男の………、あ、いや……。オカマか……。
――あのオカマの餌食になって頭潰される可能性だってある。
――腕だって折られる可能性だってある。
――あの馬鹿力だ。キョウヤが持っている瘴輝石を掛け合わせて、キョウヤ対あのオカマが対戦したとしても、多分互角か……、あのオカマがキョウヤを殺してはい勝利だと思う。
――互角の力を持っていない。且つ近付いたら即ジ・エンドのような俺が勝てる要素……。それを何とかして見出さないと……。
アキは模索する。
未だに自分のことを探しているろざんぬを監視しながら、観察しながら……。彼は何とかしてろざんぬを打破する策を練っていた。
真剣にこの状況を打破しようとしているアキとは対照的に、ろざんぬは「う~ん」と、頬に手を添えながら、女が困ったように腰をくねらせて迷っている仕草をしながら、ろざんぬは言った。
「どこにいるのかしら……? 困ったわね……。このままじゃ――マリアンのところに行けないわ。あの子、ストッパーがいないと何をするかわからないし……、早くあの赤髪君をとっ捕まえて帰らないと」
ろざんぬは近くに落ちていたのだろう……。地面に落ちていたその細くて長い鉄の棒を握って持ち上げてから、それをぶんっ! ぶんっ! と、上下に勢いよく振るってから――ずんずんっとアキがいるであろうその方向に向かって歩みを進めて行く。
「――っ!」
アキはそれを見て、驚きを隠せずに声を殺しながら自分に向かって歩みを進めているろざんぬを見て、アキは彼の視界に入らないように、反対の方向から音を立てずに逃げ出す。
ライフル銃を持ったまま駆け出した瞬間……。
アキは――もうだめだ。負けると錯覚してしまった。
「そぉら――っとぉ!」
ろざんぬは手に持っていたその鉄の棒を横に振るってから、すぐにぶぅんっと、勢いをつけながら、その棒を横に振って、刀で薙ぐように裂いた。
刹那――近くにあったその煙突にその棒が当たってしまい、そのまま当たってしまった煙突は、『ベゴンッッ!』と言う音を立ててひしゃげた。
その衝撃に耐えられず、ひしゃげてしまったその煙突は金属特有に軋む音を立てて崩れ落ちていく……。
「~~~~~~っっ!」
それを見てしまったアキは、言葉を失いながらろざんぬの姿を目に焼き付けて、青ざめながらその場から一歩でも、一センチでも遠くに逃げるように、彼は駆け出した。
止まるなんて言うことは自殺だと頭に刻みながら、彼は音を殺して逃げることに専念する。
そんな状態のアキに気付くことなどできないろざんぬは、手に持っていた鉄の棒を肩に担ぎながら「はやくでてきないさいよ~」と言い、ずんずんっと歩みを進めては近くにある機器や煙突を破壊して、破壊しまくって道を作っていく。
さながら――暴走特急である。
アキはその音を背後で聞きながら必死に逃げて、彼は思う。
――あーっ! もうっ! こんなのチートとかそんな生易しいものじゃない! 人間の常識を超えたバケモンだっ! アクション漫画でよく見る怪力の化け物じゃないかっ! こんなの現実にあっていいのか? VRだけど……。
――あのどんどらの方がもっとやりやすかった!
――あんなの常軌を逸しているっ! あんなのがいるなんて……っ!
と思い、アキは必死になりながら背後を見て、横目でろざんぬを見ながら――
「?」
アキは首を傾げながら、走りを止めて、改めてろざんぬを見た。
ろざんぬは辺りを見回しながら、声を上げてアキのことを呼んでいる。
どこにいる。出てこいと、ろざんぬは声を上げながらアキのことを呼んでいた。煙突が密集して、逢魔が時の世界とかして、薄暗くなっているその世界の中で……、ろざんぬは破壊することをやめて手探りでアキを探していたのだ。
それを見たアキは、すぐに空を見上げる。
すでに
――夜……。つまりは街頭なんてない世界。
こんな煙突が密集した空間だ。破壊なんてすれば、転がっている煙突に当たって転んでしまう。だからあのオカマは破壊をやめて、手探りで探すことにしたんだ。
と思いながら、アキは再度ろざんぬを見る。ろざんぬは『ごんっ』と足に当たった何かに驚きながら「きゃぁ」と、甲高い男の声を上げながら、そのままバランスを崩しかけて体制を整えながら足元を見て、少し苛立ったな色で「んもぉ」と言って、再度煙突に手を添えながらあたりの捜索を再開する。
その光景を見ながら、アキは思った。
――あいつ、暗くてよく見えないのか? と……。
普通は暗かったらよく見えない。が、アキはさっきから暗いところに入っているおかげなのか、暗闇に目が慣れてしまっている。ゆえにはっきりとは見えないが、それでもろざんぬがいる場所は目で特定できた。
派手なフルフェイスマスクが仇となった。それだけ言っておこう。
それを見たアキは、今自分が置かれている状況を考え、そして今自分が付け焼刃で取得したこの『暗闇に慣れた目』を使って、どう相手を倒すかを模索する。
考えて、考えて、考えて……。試案をする。どうやれば確実に相手を倒せるか。的確な方法で行くと……、頭を撃ち抜くことが最善だが、アキは妹のことを優先にする妹主義な男なので、今回だけは殺しはNGである。
ゆえにやること――それは、再起不能。
――できれば四肢全部の破壊がいいな。片手だけでも残っていると、あの馬鹿力で殺されてしまう。だから最初にすべきことは……、両手の破壊。
――んで、破壊された後で両足を壊せばもうパーフェクト。
――だけど、それは一発成功してこそ初めてできることだ。そして……、相手に近付いてこそできること》。
――どっちにしても、接近は不可避だ。
――銃を遠くから煙突の上から撃ったところで、その音を聞いたあのオカマはきっと、あの異常な力で煙突ごと壊すだろう。俺の銃は全部狙撃に特化されていない。むしろ狙撃銃なんて言う大きなものなんて持っていないし、最大射程はたぶん『ホークス』。他で撃ってもきっと失敗に終わってしまう。
そう思ったアキは、うーんっと腕を組みながら思案をさらに深くする。
ろざんぬの存在に警戒しながら、アキは試案を続ける。
――となるとどうしようか……。と、アキはとうとう万策尽きたかのような表情を浮かべ、首を捻りに捻って思案を続けるが、一向にいい案が浮かばなかった。
あることを思い出すまでは。
「!」
あ。と、彼は心の声で呆けた声を出して、その茫然とした顔のまま、彼はポケットからあるものを取り出す。
それは、アルテットミアにいたときはハンナの手元にあり、最初こそ使いたくないという拒絶で使うことはなかったものだったが、長い旅路の間に荷物が多くなったこともあったので、一時的だがアキが持てばいいかもしれないというヘルナイトの助言で、アキは仕方なくそれを手にしていた。
サラマンダーから貰ったそれを手に納めながら、彼は思った。
――これを使おう。
アキは思った。本来の使い方ではない方法で、彼はそれととあるものを使って、作戦をパズルのように組み立てていき、そして完成した作戦を思いついて――
実行に移す。
――よし。作戦開始。そう思ったアキは、早速ろざんぬを引き付けるための準備を急いで執り行う。ろざんぬに気付かれないように、彼は音を立てないで急いで組み立てていく。
◆ ◆
そんなアキの行動に気付かず、ろざんぬは暗い煙突が密集しているその場所を歩きながら、凹みに凹んでしまっている鉄の棒を掴みながら溜息を吐くろざんぬ。
「もうっ、もう夜になっちゃったわ。時間って、こんなに早く経過するものなのね」
と言いながらろざんぬは落ち着いた面持ちで歩みを進めるが、内心焦りの海に沈んで溺れてしまっている。慌てが積み重なって、正常な思考がおろそかになってしまっているのだ。
なぜこんなに焦っているのか。簡単な話……。
ろざんぬは――帰りたかったのだ。
ただただただただただただただただただただ。
帰りたい。
ろざんぬはただただ帰りたい一心で、アクロマと手を組んだだけに過ぎなかった。
現実にいるたった一人の親友の元に帰って、あの時と同じような日常に戻りたい。それだけを心の支えとして頑張ってきた。
が――それも限界に近付いていた。
この世界に監禁と言う名の滞在をしている間、どのくらいの月日が経過しただろう。多分もう現実世界では夏だ。
春が夏に移り変わり……、現実の時間を奪っていく。ろざんぬや大半の人達は帰りたいという一心だろう。順応なんてしない。クリアしようとしても死ぬのは嫌だ。ましてや殺しもしたくない。
まるで駄々をこねるわがままな子供。
だが、それくらいろざんぬはこの世界の滞在を快く思っていなかった。ただただ――帰りたいという一心で生きてきたのだ。
――早くなんとかしないといけない。
――アクロマは言っていた。天族の女の子を捕まえれば、全部うまくいく。全部自分に任せれば、全部うまくいく。現実に――変えれるって。
――何見できないし、早く帰りたいから私は従っている。
――『BLACK COMPANY』にいる人たちの大半はそんな人ばかり。
――マリアンも帰りたい一心で動いている。ジンジは帰りたくないけど、復讐したい輩を殺すことが出来れば帰りたいって言っていた。
――帰りたくないけど、アクロマの言葉に賛同して動いている人だってわんさかいる。
――私は何が何でも帰りたいの。帰って、あの子に会うの。会って安心したい。会いたいのよ……。
――カネちゃん…………………っ!
そう思いながら、ろざんぬは振り上げた鉄の棒を地面に向けて叩きつけようとした時……。
――かんっ!
と言う、金属同士が叩き合う音が聞こえた。
「!」
ろざんぬはそれを聞いて、音がした方向――自分から見て右方向に素早く目を向けて見る……。
ここから少し遠くに位置するが、それでも音はその方向から聞こえた。
ろざんぬはその方向を見ながら、暗闇に慣れていないその目で音がしたその方向を見る……。目を凝らしてよく見ると……。
きらりと光る何かを見つけた。
「っ!」
それを見たろざんぬは、すぐに駆け出して、手に持っていたその鉄の棒をぶんぶんっと振るいながら、近くにあるその煙突をへし折るように破壊して進んでいき、ろざんぬはどんどんアキがいるであろうその場所に向かって突き進んでいく。
猪のように、戦車のように……、一心不乱にろざんぬは突き進む。
「あらあらぁ! そんなところに隠れていたのねぇっ!?」
ガァンッ! ばぁんっ! ばがんっ! っと、ろざんぬは破壊しながら陽気な音色で言う。
陽気な音色とは対照的に、行動は正直で、急いで向かいたいという気持ちが体に出ているのか、ろざんぬは陽気な音色で周りにある煙突や機器を破壊しながら突き進んでいる。
ろざんぬは言った。
「はいかくれんぼはもう終わりっ! このままあなたを捕まえて、あの天族の女の子も捕まえて、私は現実世界に帰るのっ! もうこんなところたくさんっ! いるだけで頭がおかしくなりそうだわっ! あなただって帰りたいんでしょ? だから地道にクリアを目指しているんでしょっ!? 長くなりそうなその行動を続けているんでしょ? 正当なルートで帰りたいんでしょっ?」
でも……、と、ろざんぬは言う。
ぶぅんっ! と、一気に振りかざした鉄の棒を振るった瞬間、手汗のせいでその棒が手から『スポンッ!』とすり抜けて、一直線に飛んでいく。
飛んで、近くにあった煙突に貫通するほどの威力で突き刺さってしまったそれを見ずに、ろざんぬは大きく一歩。一歩と、アキに向かって歩みを進めながら、ろざんぬは言う。
己の本音を、吐き捨てる。
「でもそんなに待っていられないのっ! 私は一分一秒でも帰りたいのっ! もたもたしている暇があるなら、ちゃっちゃっと浄化してほしいものよっ! 自分の勝手でクリアを長引かせないでっ! 帰りたい人達だってわんさかいるのっ! だから私達はアクロマに縋った! アクロマは『あの子を使って理事長に話をつける』って言っていた! そうでもしないと帰れないから、アクロマは私達のために行動しているだけなの! あんた達の所為なのよ――こうなってしまったのは! あんた達がもたもたしているからこうなったの。さっさと浄化に専念していればこうならなかったのっ! あの時邪魔したあのアスカって子も、自業自得なのよっ! 帰りたい一心でやっているんだから――別にいいでしょうかっ! 私は――すぐにでも現実に帰りたい……、それだけなの」
それだけなのよ。だから……っ! と、言いながらろざんぬはどんどん大きく歩みを進め、アキがいるその場所に近付く。
煙突を壁にして隠れているアキに向けて――ろざんぬはばっと顔を出すように出て、煙突の背後を見ながら……。
「邪魔しないで――!」と叫んだ。
しかし……、ろざんぬはそれをよく見て、そしてこう言った。
「は?」
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『HELL KNIGHT Ж《最強騎士と回復チートの浄化冒険禄》Ж』 ヨシオカ フヨウ @yoshiokafyo
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