PLAY42 カルバノグとワーベンド ⑤

 それを聞いたクルーザァーさんはうんうんっと頷いて「至極合理的だな」と言いながら続けてこう言う。


「君達の目的はガーディアンの浄化。そしてこちらはそれを手中に収めている『バロックワーズ』と『BLACK COMPANY』の拘束兼壊滅。そのためにはまず……、バトラヴィアに向かわないといけない。つまるところ……協力しかない一択の選択だった。ということになる。まぁそう仕向けたこっちにも非があるかもしれないが…、これもゲームの進行と思えばこそだな」


「……てか」


 クルーザァーさんの言葉を遮ってガルーラさんは首傾げながら、腕を組んで理解ができない。そんな顔をしてクルーザァーさんを見ながらこう聞いた。


「なんでこんなところでもちゃもちゃしてんだっけ? こんなところで道草食っていなくても、速攻バトラヴィアに入ればいい話じゃねえの?」

「それは俺も思ったけど……、相手は『八神』。俺達だって徒党か協力がなかったらここまでこれなかったと思いますし……、『八神』とその二チームの件だって、協力なしで行けるところじゃないしょ……? きっと」


 ガルーラさんの言葉を聞いて、アキにぃも何となく頷いて同意の声と思ったことを口にしてガルーラさんに言う。


 それを聞いたガルーラさんは納得がいかないのか……。


「でも扉ぶっ壊せば絶対に入れるだろうが」

「………そう、ですね?」


 とうとうと言うか、アキにぃはきっと私と同じことを思って、言葉を繋げることをやめた。


 ううん……。諦めたの方がいいだろう……。


 私もガルーラさんを見て思った。


 ガルーラさんを見ていると、不思議とダンさんを思い出すから……。


 そう思っていると――


「お前な……」


 メウラヴダーさんが頭を抱えて項垂れながらガルーラさんを見て言う。本当に呆れながら言う。



「そう言って壊そうとして……、こと忘れてるのか?」



「!」


 壊れなかった? つまり――破壊できなかったってことだよね……?


 私はそれを聞いて、そしてガルーラさんを見て思った。


 ――一回実行したのに、そのことに関しての記憶がなくなっていますよ……? と。


 でも私はメウラヴダーさんを見て、少し慌てながらもメウラヴダーさんにそのことについて聞く。


「こ、壊れなかったって……、どういうことですか……?」


 それを聞いたメウラヴダーさんは私を見て「お」と驚きながらも、思い出すように空を見上げながら彼はこう言った。


「いや、確かに最初、ガルーラが『ぶっ壊せば通れる!』とか言って、最初バトラヴィアの正門に、攻撃を仕掛けたんだ」

「目に浮かぶ光景だな……」


 キョウヤさんがそれを思い浮かべながら、うわぁっと声を漏らす。


 メウラヴダーさんはそのまま話を続ける――


「スキルを使った大きな一撃を繰り出したんだが……。壊せなかった」

「壊せない……?」


 それを聞いたシェーラちゃんは、驚きの顔を浮かべてメウラヴダーさんの言葉を繰り返した。


 疑問符をつけて――だ。


 メウラヴダーさんはうんっと頷く。そしてスナッティさん達も頷く。


 ガルーラさんは首を傾げながら。


「そんな記憶ねぇ」と、はっきりと返したけど、それを聞いていたギンロさんは呆れながら「どんな記憶喪失してんだよ……。都合のいい記憶喪失」と言っていた。


 壊せない正門。だからと言ってその正門を通らないとバトラヴィアにはいけない。


 ガルーラさんは大槌士。攻撃力はかなり高い (メグちゃん談) のに……、それでも壊せない……。


 キョウヤさんや、もしかしたらヘルナイトさんでさえも壊せない門なのかもしれない。


 そんなことを悶々と考えていると――ヘルナイトさんはその言葉を聞いて、思い出したかのような音色でこう言った。


「そうだ……。確かに、あの門は壊せない。なにせ……、魔王族の力を抑制する封魔石が混ざった鉄の門だ。私でも壊せないだろうな」

「ならナヴィにでも食べさせればいいじゃねえの? 封魔石食えるって最近知ったし」


 と言いながら、キョウヤさんは私の頭――ではなく、その頭に乗せられている帽子を指さす。それを見たボルドさんは首を傾げながら私の帽子を見ていると……。


「きゃーっ! きゃきゃきゃっ! ふーっっ!」

「うわぁっ!」


 と、ぎょっとしながら驚いて、胸に手を当てながらドキドキしているボルドさん。青ざめながら私の帽子を見て――そしてその中から出てきたナヴィちゃんを見る。


 ナヴィちゃんはキョウヤさんに向かって、ぷんぷんっ! と、怒りながら私の頭の上でぴょんぴょんっと跳ねていた。


 何か抗議しているようだ。


 それを聞きながら、たびたび来る頭の衝撃に耐えながら、私は話に集中する。


 正直――ぼすんぼすんっと。すごい衝撃です……。うぅ。


「きゃきゃっ! きゅぅきゃっ! きゅきぃ! きゃーっ!」

「……いくらナヴィでも、その門を食べることはできないだろう……。ナヴィが食べれるのは封魔石。混ざった金属を食べることはできない。それにこの小ささだ。バングルくらいでおなかいっぱいだったしな。ナヴィは」

「キーッ! キーッ! キーッ!」

「わかったわかーったっ! 食えねえってことはわかったからお怒りを鎮めてっ! 後ヘルナイトサンキューッ!」


 ナヴィちゃんは怒りながら何かを言ってるけど、正直言葉がわからない。


 でもヘルナイトさんはそれを聞いて、なんとなくと言うか、思い出したことを口にするように言うと、それを聞いたキョウヤさんは謝りながらナヴィちゃんを見て、そしてヘルナイトさんにお礼を述べた。


 後ろにいたスナッティさん、紅さん、ティティさんは、ナヴィちゃんを見ながら頬に手を当てて「「「かわいい……っ!」」」と、頬を緩めながらめでるような目で見ていた。


 シェーラちゃんはその光景を見ながら、和んでいるような目でその光景を見ていたことに……、私は知りもしなかった。


 それを聞いて、ダディエルさんは呆れながら溜息を吐いて、頬杖を突きながら言った。


「正門が壊れねぇことに気付いて、最初こそお手上げだと思っていたんだが……。そん時にとある情報を入手したんだよ」

「情報?」

「そんなのあったっけ?」

「お前はもう少し覚えていろ」


 アキにぃがそれを聞いて首を傾げながら疑念のそれを口にし、ガルーラさんも口にしたところで、メウラヴダーさんは呆れながら目を細めて突っ込みを入れる。


 ガルーラさんの記憶力のなさに呆れているのだろう……。それを聞いた私もダディエルさんを見て話に耳を傾ける。


 すると――


「この国は機械でできている。そして帝国管轄の場所には――がないと入れないことが分かったんだ」

「カードキー? よく会社で使われるあのカードキーですか?」

「ああ」


 アキにぃの言葉に、ダディエルさんは頷く。


 ぴっと人差し指を銃に見立てて形どり、それを私達に向けながら彼はこう言った。


「そのカードキーは帝国の上層部が作ったカードキーで、それを使えば帝国になんなく入れることができる。つまり、持っていない状態で入ろうとしても無駄ってことだ。そのカードキーは『デノス』の最深部に何枚か保管されている。だがそこには『BLACK COMPANY』が根城にして、はいそうですかと渡さねえだろう。つまるところ……。浄化したいのなら――それを手に入れないと話にならねえだろ?」


 それを聞いた私は、『なるほど』っと声を上げて納得する。


 アキにぃ達も納得して、そして――ヘルナイトさんが言っていた。今のままでは入れないという理由が今わかった。


 つまり――そのカードキーがないと入れない。しかもそれは『デノス』にある。


 そのカードキーを守るように『BLACK COMPANY』が立ち塞がる。


 それはつまり――


 協力一択の、交渉。


 それを聞いて、ボルドさんは申し訳なさそうにしておどおどとしながら――


「こんな一択しかないことしたくないんだけど……、本当は僕らだけでやりたいことなんだけど……」と言いながら、私を見て言うボルドさん。


 それを見て、私はアキにぃ達を見る。


 アキにぃは腕を組みながらも、神妙そうな顔をして手を上げる。


 キョウヤさんは呆気からんとした困った笑みを浮かべて肩を竦め。


 シェーラちゃんは強気な笑みを浮かべて剣の鞘を掴む。


 そして――ヘルナイトさんを見上げると……。ヘルナイトさんはただ、頷いていた。


 四人が指すこの意味――それを汲み取って、私は……。頷いて、ボルドさんを見てこう言う。


 控えめに、微笑みながら――


「避けて通れないのなら、そのカードキーがないと取れないのなら……、進みます。そして、先の言葉に揺るぎなんてありません」


 協力。


 それを呑んだ私達。


 それを聞いたボルドさん達は大喜びして胸を撫で下ろしていた。多分、今の戦力では勝てないと思って、協力を仰ごうとしていたのだろう……。


 それを見て、私は四人を見て謝ろうとしたけど――


「結局こうなるだろうが」

「もしこのまま行こうとしたら、また振り出しは怖いからね」

「面倒くさいことしたくないわね。それに徒党はこのゲームにおいて常套手段でしょう? 受けて立とうじゃない」

「今のハンナの意見に間違いはないと思っている。私達もその意見には賛成していた。そのことで悔やむことはない」


 キョウヤさん、アキにぃ、シェーラちゃん、そしてヘルナイトさんは、何も怒っておらず、それを聞いた私はほっと胸を撫で下ろしながら、カルバノグの皆さんと、ワーベンドの皆さんを見て決意を固める。


 ガーディアンの浄化。


 そして――魔女のクエストに二つのパーティーの拘束。


 色々と増えているけど、着々とガーディアン浄化。そしてゲームクリアに向かって、一歩を進めている。それを感じながら、私は再度、この世界を救う意思を固める。


 そして――夜になって……。



 □     □



 その日の夜は、長い間話していたこともあって、すでに夕方となり、あっという間に夜になっていた。


 夕食も食べながらこの後のことについて話して、そして私達のクエストのことも話して――最初はエルフの里に向かうことに決まった。夕食に関して……、やっぱり素顔を見せることができないヘルナイトさんは、遠くで食事をとっていた……。はぁ。


 そしてそのあとは――どっぷりと倒れるように、意識を手放す……。


 ことができたのは――だった。


 そっと、その廃墟の下の空間で、私は寝付けない状態で起き上がる。そっと、起こさないように起き上がる。隣で寝ているシェーラちゃんや、ガルーラさん、紅さんと歯ぎしりをしているスナッティさん。そして器用に壁に寄りかかりながら寝ているティティさん。


 ここにいるのは女の人達だけ。


 実は木で作られた梯子が立てかけられてあった場所は――簡素な寝床だったのだ。


 しかも、渡した見たところとは別に、男の人達が寝るところがあり、アキにぃとキョウヤさんはそこで寝ると言って行ってしまった。


 地下室ということもあって、敵に気付かれることもないし、そしてひんやりと心地いい空間……。


 でも……、男の方はどうなんだろう。この部屋と同じ広さとか言っていた。私達が入って丁度の広さで……、男性全員がその場所で寝る……。


 多分、暑苦しいだろうな。きっと……。


 そんなことを思いながら、私はもう一度寝ようと思って寝っ転がろうとした時……。


 ちかり。


「?」


 突然、上の方から明かりが漏れた。しかも突然。


 それを見て、私はまさかと思いながら、そっと梯子に手をかけて、その上を見上げる。上からは――かちゃかちゃという音が聞こえ、更に恐怖感を抱かせるような風景が目に見えていた。


 私は背後にいるシェーラちゃん達を見て、起こそうかと思ったけど、もしかしたら、小動物かもしれない。小動物だったら手で払って逃がせるかもしれないと思ったけど。


 明かり……、点いているよね……? 


 それを見て、すでに小動物ではなく、人と言う認識ができてしまう。


 誰なのかを見ることくらいは、できるかな……?


 そんな甘い判断をして、私はそっと梯子に足をかけて、ゆっくりと上がる。


 みんなを起こさないようにゆっくりとした動作で上がって行く。


 ぎっ。ぎっ。


 と――古ぼけた木の音が響く中……、私は更にゆっくりと上がっていく。


 お願い……、音でないで……。と願いながら……。そして、ゆっくりとした動作で上がって、やっと上に到達してその光景を見た私は、思わず……。


 ほっ。と胸を撫で下ろした。


 そう、そこにいたのは敵ではなかった。そこにいたのは――ティズ君だった。


 ティズ君はもちゃもちゃと、辺りに散らばっている包帯や医療器具を使って、体に巻いていた包帯をほどいて、新しい包帯を持って巻き直そうとしていた。


 でも、拙い手の動きで、うまく巻けていないティズ君。


 あの時もそうだったけど、これをずっと一人でしていたのかな……? そう思いながら私は、そっと上がって――


「手伝おうか?」と、優しく声をかけた。すると――


「っ!」


 ティズ君は肩を大きく震わせて、震える顔で背後を見た。私を見て、ティズ君は――


 驚きと、恐怖が混じった顔をしていた。


 それを見た私は、一瞬驚いたけど、にこっと微笑みながら手を伸ばして、その包帯を持っている手にそっと手を乗せて、控えめに、そして怖がらせないようにして――私は言う。


「大丈夫。ただ巻くのを手伝うだけだから」


 それを聞いたティズ君は、震えて、驚いているけど……、手に持ってた包帯を、私に手渡して――そのまま背中を私に見せた。


 それを見て、私はしゅるっと包帯を広げて、ティズ君に「どこを巻けばいいの?」と聞くと、ティズ君は震えがない、無表情の音色で――


「体。胸とか、腕とか……」と言った。


 それを聞いて、私は返事をしてその体に包帯を巻こうとして、その体を見て、目を疑った。


 体のあちこちにある打撲の後、そして治っていない切り傷や血の後……。


 それを見て、私は思わず手を伸ばして、スキルを唱えようとした。あまりに痛々しいそれだったから……。うっかり手を伸ばしてスキルを発動しようとした時……。ふと、スナッティさんとリンドーさんの言葉を思い出す。


 ティズ君に、回復のスキルを使ってはいけない。


 それを思い出した私は、ぎゅっと口を噤んで、そして近くにあった綿や消毒液を手に持って、最初に傷の消毒をしようとした。


 綿に消毒液を染み込ませて――それを傷にとんとんっと当てる。


「沁みる?」と聞くと、ティズ君は「ううん」と言う。そして――


「感覚が壊れているから、感じない。だから大丈夫」と言った。


 それを聞いて、私は消毒を済ませた後で、傷が出来ているところにガーゼを押し当てて、その上に包帯を乗せて、巻いていく。


 最初は難しい胴体をやりながら……、私は話をする。


 黙々とやっていると、なんだか気が滅入るというか、なんだか話をしないと怖い気がして、私はティズ君に話しかけた。


「そういえば……ティズ君の種族と所属は?」

「……ソードウィザードの、悪魔族……」

「悪魔族なんだ。私の知り合いもそうなんだよ。同じなんだね」

「……うん。でも……、不便だよ」

「確か、部位破壊されても再生するんだっけ? 確かに痛いし、不便と言えばそうかな?」

「そうじゃない……。悪魔族って、回復系のスキルにすごく弱いんだ。受けたら逆に、傷つく」

「! そうだったの……? だからスナッティさんたち、あんなに必死だったんだ。納得……」

「メディックって、大変そうな気がする……。何か、いやなことされた? 怖くないの?」

「うーん。いやなことはなかったかな……? でも最初は怖かったよ。でも、みんながいてくれたから、今ではそんなに怖くないと思う。かな……?」

「ねぇ」

「?」


 私は話をしながら胴体を終えて、すぐに腕の包帯を巻こうとした時、ティズ君は、震える声で、私に、私を向かないでこう聞いた。


 ティズ君は言った……。



「痛いって、怖いこと……だよね? 嫌なことだよね? 痛いって、いやなことだよね?」



「? どうしたの?」と聞いた時、私は感じた。ティズ君から漏れ出す……。


 暗い色のもしゃもしゃを――


 それは――いろんな負の感情が混ざってしまったそれで、特に色濃く見えていたのは……、恐怖の色。恐怖のもしゃもしゃ。


 ティズ君は、その傷の話、そして痛みの話をした瞬間。これを零れだした。それを聞いて、私はティズ君の話を聞く。そして――ティズ君は言った。


 震える声で――こう言った。




「だったら……、俺は、このままがいい。痛みなんて――ない方がいい。怖いのも、苦しいのも、痛いのも……、もう、……っ」




 よく見ると、肩を震わせている。


 それを見た私は、包帯を置いて――ティズ君の背中に自分の額と、両手の手のひらをつけて、身を預けるようにティズ君に言う。


「うん……、わかるよ。痛いのは、いやだもんね。わかるよ」


 その苦しい気持ち。


 ティズ君はそう言った後も、震えて言葉を発しなかった。私も発しなかった。


 私はティズ君と少し話して分かった。


 彼は――痛みに対して極度に恐怖を抱いている。原因はわからないけど……、それでも、体の傷の感覚を失ったことに原因があると思った。


 そして――ティズ君は、心に大きな傷を抱えている。


 私と……、気がした。そんな気がした……。


 私は、ティズ君が落ち着くまでそのままでいた……。



 ◆     ◆



 満月ではない――半月の夜を見ているヘルナイト。


 ただじっと見ているだけだったのだが、突然背後から足音が聞こえた。その音を聞いて、ヘルナイトは大剣を手に持って――


「待て待て。俺だ」

「ダディエル、殿か」

「殿はやめろ。俺はそんな質じゃなねぇ。ダディエルでいい」


 と、ダディエルは頭を掻きながら溜め樹交じりに言って近付いて来た。それを見たヘルナイトは大剣から手を離し、ダディエルを見て聞く。


「どうしたんだ?」

「あぁ……、むさ苦しくて起きた」

「そうか」


 そんな話をしながら、ダディエルはそっとヘルナイトの横に立って、その半月を見る。ヘルナイトも見て、そして――少しの間、その半月を見ながら、二人は夜風に当たっていた。


 すると――


「あの嬢ちゃん。なんでこんなところにいるんだ?」


 唐突な質問。それを聞いたヘルナイトは、ふっと頭を傾けて俯きながら口を開く。凛としているが、それでも、迷いがある音色で、彼は言った。


「ハンナは浄化の力を持っているから、ここまで来た。一緒にここまで来たのだが……」

「だが。迷っているのか? 守ることに」



「違う」



 と、ヘルナイトははっきりと、ダディエルを見ないで、半月を見ながら、彼は言う。凛とした音色でこう言った。


「守ることに迷いはない。それは――私が心に決めた誓いでもある。あの子が愛する者達を守り、そしてハンナを守り……、一人にさせない。そう誓った」


 この誓いに、揺るぎなどない。そう言ったヘルナイト。


 それを聞いたダディエルは頬を指で掻きながら「くさいねぇ」と、口笛を吹きながら言う。それを聞いて、ヘルナイトは続けてこう言う。


「だが、私はまだ弱いことを確信した。ここに来る前。私は動けない状態だった。そんな時、ハンナは私を、仲間のために命を懸けて立ち向かった。傷ついた。それを見て、己の無力さを痛感した。私のせいで、彼女が傷を負った。それを見て私は……」


 ぐっと、胸に当てた手を、ぎゅうっと、胴体の鎧が壊れそうなくらい、指先に力を入れながら、彼は言う。


 苦しい音色と共に、彼は言う。


『国境の村』で起こった出来事を思い出しながら、その時の己の無力さを呪いながら、彼は言った。



「あの子を――ハンナを……、守れるかどうか、不安を抱いているだけだ……」



「………そう思うなら」と、ダディエルは言う。


 それを聞いて、ヘルナイトはダディエルを見て言葉を待つ。ダディエルは言った。どんっと、己の胸に拳を当てて、彼は言った。


「全力で守れ。全力で、死ぬ気で、傷を負ってでも、あの嬢ちゃんを守ればいいじゃねえか」


 真剣な目と音色、そして表情で言うダディエルだったがそのあと彼は小さく……。





「? なんと」

「いや――なんでもねぇ!」


 と言って、ダディエルは踵を返して「うぅ! 寒ぃ寒ぃ! 戻ってもう一寝するわっ!」と言いながら己を抱きしめて駆け出しながらその場を後にした。


 それを見て、ヘルナイトはダディエルの言葉を思い出す。


 確かに、守ることは簡単に見えて難しいものだ。


 それを痛感したヘルナイトは再度――ハンナと、彼女が愛する者達を守れるように意思を固めて、半月の夜空を見上げる。


「全力で、守る。わかっている。私は――己の意思で彼女と、彼女が愛する者達を守る。それが……最強の名を名乗る者の使命だ」


 ヘルナイトは夜空の半月に向かって、己の決意を口にした。


 これから起こるであろう激闘に備えて、決意を固めて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る