PLAY48 THIRD WAR! ⑤

 ティズの咆哮を聞いた四人は驚いた顔となぜここにいるんだという困惑の顔をして、四人はそれぞれの思考は違えど、感情の表れだけは一緒の状態でティズを見た。


 ティズは駆け出しながらあらんかぎり咆哮を上げ、猪の様に走っている。


 目をぎゅっと閉じた状態で、前など見ない状態で、彼はがむしゃらに走っていた――



 Zに向かって――!



「っ! おおおっ!?」


 Zは迫り来るティズを見ながら後ろに傾こうとよろける。


 迫り来るティズの姿がまるでホラーゲームに出てくるような鬼気迫る何かに見えたのか、彼はぎょっとしながら後退して叫ぶ。


「な、なんだよお前ええええええっっっ!」


 先ほどの余裕のそれなど消され、Zはティズから距離を置く。


 その姿はまるで――己が一番嫌っているものから避けているような行動でもあった。


 しかし――




「ううううううあああああああああああああああああっっっっ!」




 ティズは叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ!


 目を閉じながら駆け出して、的確にZがいるその方向に向かって走ってきて、よろめいてバランスを崩したZの――空を彷徨わせている右手に向かってぐわりと手を伸ばすと『がしり』と掴む。


 そしてそのままティズは、掴んだと認識したのか、そのままぐっと自分の方にその手を引いて――Zを引き寄せる。


「っ!?」


 Zは驚きながら、足の力で踏ん張りながらその進行を阻害する。


「うぅっ!」


 ティズは目を閉じているせいで、何が起こったのかはわからない。しかしZが拒んでいることはしっかりと認知した。


 それでも、ティズはやめない。


 根性を――見せないとだめだ。そう思い、そして――



 ――お前をそんな風にしたやつのこと、許せないだろう? なら……、許せなかったら、行動しろ――



 クルーザァーが言った。自分を突き動かしたその言葉を、思い出す。


 思い出すと同時に、今まで戦うことができなかったが、一回も心を折るなどしなかった彼女のことを、心の底から安らげる鬼の英雄と、一人の少女を思い浮かべながら、彼は思い出す。



 ――行動して、お前自身の手で、馬鹿兄貴を改心させろ――



 その思いを胸に、再度胸に刻んで……。


「……ううううぬうううううううううううううううううっっっ!」


 喉の奥から出すような雑音。それと同時にティズはその綱引きを止めずに、Zを自分に向けて引き寄せる。


 それとは対照的に、急に力を上げたティズに驚き、Zはぎょっとしながら迫りくるティズの顔を見て、なんとしないといけない。そう思い、彼はオーダーウェポンの機械の手を振り上げ……、勢いをつけてから……。


 ぐしゃりっ! と、ティズの右脇腹にその機械の正拳を打ち付けた。


 ぼきぼきと何かが折れる音が、体内から聞こえる。


 それを聞いたガルーラとメウラヴダーは青ざめた顔をして武器を支え棒のように持ちながら、彼らはティズの名を叫んで駆け寄ろうとした。


 が、すかさずクルーザァーはそれを止めるように、「待て」と、声を上げて止めに入る。


「何止めてんだっ!」

「このままだと……、ティズが」


 ガルーラとメウラヴダーはクルーザァーの行動に驚きながら、困惑して彼に向かって怒鳴る。しかしクルーザァーは冷静な顔でティズを見ながら……。



「――黙って見ていろ」と、言った。



 合理的でも、不合理でもない。クルーザァーが最も嫌うであろう何の意味もない――ただの言葉を言った。


 それを聞いた二人は、更に首を捻りながらクルーザァーを見て、ティズを見た瞬間、目を見開いてその光景を見る。


 そんな三人など見る余裕もないティズは、すぐにぐんっと頭ごと体を反り返り、背中を反らすようにする。それを見たZは、ぎょっとした顔をしてそんなティズを見て、何をする気なのだろうと、彼は思ったが――


 ティズがする行動は、案外単純なものであった。


「――なんかあああ………」


 ティズはそのまま反らしていたその体制を元に戻すように――否、それ以上の威力で、発条をつけて元に戻るように、彼は勢いをつけてZの顔面に……。





「大嫌いだあああああああああああああーっっ!」





 と、叫んで、そのまま彼の額に己の額をぶつける……、という、甘い行為はしない。


 ティズはそのまま、Zの顔面をかち割るように、己の額と言う武器を使って――


 バギィイイイインッ! と……。額の骨が――頭蓋骨が壊れるようなそんな音を立てて、ティズがZの頭に己の頭を叩きつけた。


『ロスト・ペイン』であるティズには、その破壊力のある攻撃などへでもない。と言うか痛覚がないので、そんな激痛はない。


 が――


「うぎゅうううううああああああああああああっっっ! いてぇ! いってぇええええええええっっっ! ああぅ! ぎゅうううううううっっっ!」


 Zは今まで聞いたことがないような甲高い叫びと共に、ぶつかった衝撃で背中から地面に転がって、バタバタと足を動かしながら、頭から噴き出ている赤い液体を、両手で大雑把に押さえつけて、痛みを訴える。


 これが常人の反応である。


 ティズはそのままどてんっと、尻餅をついて転んで、のたうち回り、赤い液体を砂の地面に落としながらいまだに声にならないような叫びを上げているZを見る。


 茫然と見る。


 漫画の効果音で言うと――『ポカンッ』である……。


 それを見ていたかルーラとメウラヴダーも、それを見て、ティズと同じように目を点にして、茫然としてそれを見る。


 クルーザァーだけは、にっと緩く、口の端を吊り上げる。嬉しいような笑みを浮かべ、勝ったという笑みを浮かべて……、彼はそっと立ち上がって……、その場で手をかざした。クルーザァーはその場で深呼吸を二回してから……、未だにのた打ち回っているZを哀れんだ目で見降ろしながら、彼は言う。


 ――これで、俺の復讐が終わる。そう思いながら、彼は言った。


 


「――『召喚:星獣アクアティウム』ッ!」


 ぶわりと彼の足元に出てきた魔法陣。


 その魔方陣は青いそれで描かれており、今までの召喚スキルとは違う魔法陣が描かれている。ティズはその初めて見る詠唱を見ながら、その魔方陣から出てくる冷たい水滴を目で受けてしまう。


「っ?」目で受けてしまったせいか、異物が入ったという違和感を感じて、ティズはごしごしと目をこする。涙が出るくらいこする。


 そしてやっと目の違和感がなくなったと思って、再度その光景を見た瞬間……。


「…………わぁ」


 と、ティズはその光景を見て、まるでこの世のものではないそれを見ているような不思議な感覚を味わった。


 クルーザァーの背後に出てきたのは――美しく、そして妖艶に目を閉じている人魚。耳や頭につけられている鱗をモチーフにした飾り。青を基準とした服装に水色の美しい長髪。下半身の魚の体も水色で、太陽の光を浴びながら鮮やかに虹の光を反射している。ちゃらちゃらとつけられた青と水色の宝石のブレスレットを両手首に嵌めて、その手に持っている薄水色のツボを持っている……。


 まるでよく聞く水瓶のそれである。


 Zは起き上がりながら、ごそごそと白衣の中をまさぐりながら顔を押さえて……。


「ひぃっ! ふぅ! ふぅ! うぅ! うが、ああああああっ! こんの愚弟がぁあああああああああああああああっっ!」 


 だらだらと顔から血を流しているZを見たティズは、はっと息を呑んで、慌てて自分の武器を手に取ろうとした。が――


「ティズ」

「!」


 クルーザァーは、ティズを見ないで、ティズに向かって――彼は、Zを見ながらこう言った。


 いつもの様な、冷静なそれしか見えない、聞こえないようなその音色で……、彼はティズに向かって……。


「――やればできるじゃないか。その調子だ」


 と、淡々とした音色だったが、褒めた。


 まるでその褒め方は――生徒の成功を共に喜んで、そしてこれからも努力する様にと勇気づける教師の様だ。


 ティズはそれを聞いて、目を点にしながらクルーザァーの言葉を聞いて、開いた口が塞がらない様な小さく血を開けて、彼は言葉を発することを忘れていた。


 それはガルーラやメウラヴダーも同じで、クルーザァーのその言葉に驚きながら、ティズと同様口をあんぐりと開けて驚いて固まっていると……。


「ガルーラ。メウラヴダー」


 クルーザァーは二人の名を呼ぶ。それを聞いた二人はすぐに現実に戻ってクルーザァーのほうを見る。


 クルーザァーは言った。


「呆けている暇があるのなら……、体を動かせ。もうすぐ報われるんだ。もうすぐ終わるんだ。俺の――否、

「?」


 ティズはクルーザァーの言葉を聞いて、首を傾げながらガルーラとメウラヴダーを見る。確かに――クルーザァーがZに対して多大な恨みを抱いているのは知っている。ティズもZにはひどい思いしかしていない。と言うか、大嫌い以上の恨みを抱いているのは確かだ。


 しかし――今にしてティズは思った。


 ガルーラとメウラヴダーは……、


 ただ――気付いた時には一緒にいた。気付いた時には一緒にいて、行動していた。初めて出会った時は一体どんな時だったのだろう……。あまりに無頓着に生きてきたので、あまり覚えていない。


 そう思いながら、ティズは再度ガルーラ達を見て、思う。


 ――二人はZに、何をされたんだろう……。


 率直にして些細な疑問を抱きながら、ティズは戦おうとしている二人の背中を見る。


 そんなティズの思考など読めるはずもなく、ガルーラとメウラヴダーは、ゆっくりと立ち上がりながら……。


「わーってるよ。ちょっと一休みしていたんだ」

「こっちも体力がないんだ。少しは『大丈夫』とかかけれないのか?」


 と、二人は立ち上がって言う。それを聞いていたクルーザァーは呆れた溜息を吐いて……、彼はこう言う。


「『大丈夫か』で体力も魔力も回復するのか? そんな言葉を投げかけるよりも、さっさと立てと言えばいい。その方が合理的だ。気休めなんてこの場ではいらない」

「「いやいや、いると思うけど……。ティズの様に淡々とでもいいから」」


 クルーザァーの氷のように冷たい言葉を聞いて、二人は呆れながら冷や汗を流して言う。それを見ていたティズは、くすっとくしゃりと笑いながら――彼はこう思う。


 ――いつもの三人だ……。


 と思い、ティズははっとして背後を見ながら――未だに蛇と格闘しているスナッティを見て、そっと悲しそうに眉を下げながら、ティズは思った。否――先ほどの衝撃なことを思い出しながらティズはふとこう思う。


 ――なんで……、スナッティは俺達と一緒にいたの……? 


 ――バロックワーズの一員なら……、すぐに殺すこともできたはずだよね……?


 と……。


 すると――




「――何和気藹々としてんだテメエラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」




「っ!」


 突然来た怒声に、肩を震わせて驚きながら、すぐに真正面を見る。


 いくらZに攻撃できたと言っても、あの時は目をきつく閉じていたからできたことで、完全に恐怖に打ち勝ったわけではない。まだ恐怖がこびりついているのか、僅かに体が震えている。


 しかし……、先ほどの委縮するような震えは出ていない。


 そんな自分の体に驚きながら、ティズはZを見る。しっかりと――彼を見て、ティズはZの話を聞く。


「ティズッ! よくも兄貴であるこの俺に反抗したなっっ! 俺を殴ったなっ! 何が『兄ちゃんなんか大嫌いだ』ぁ? それはこっちのセリフだっつーのっ! 俺の方がお前のこと大嫌いだったっつーのっっ! てかお前これどうするんだっっ! 頭かち割って、俺の稀に見ない天才頭脳が壊れたらお前――弁償とか慰謝料とか支払えんのかっ? 俺とお前の価値――どっちのほうが上なのか……、……っ!?」


 ぐっと、ティズはがくがくと震えている腕を、青ざめながら自分で掴んで静止をかける。


 Zのその借りに満ち溢れた狂気の沙汰を見て、感じて――ティズは思い出してしまったのだ。思い出したくないことを、思い出してしまったのだ。


 兄であるZに――を、思い出してしまったのだ。


 思い出したくもないことを彼は思い出し、ぶるぶると震えるからだと瞳孔。胃液が食道を通って逆流してくる感触を覚え、喉の辺りが酸っぱく感じられた。


 思い出したくないことを一杯思い出し過ぎたティズは虚ろな目で視線を彷徨わせながら、彼は下を向いて黙ってしまう。それを見ていたZは、内心勝ったと思いながらティズに向かって言葉を発しようとした。


 が――


 ごっと、何かを振るう音と、彼を覆う尽くす背後の影。


 それを感じて聞いたZは、背後に感じた寒気を感じて――はっとしながらその背後を振り向く。


 そして、その背後にいた人物を見て、Zは苛立ちを露にしながら、いつの間にかだろうか……、大槌を横に大きく振りながら、Zを吹き飛ばそうとしている怒りの表情を浮かべたガルーラを見て、Zは大きく舌打ちをしながら――


「んで邪魔すんだくそ婆………………っ!」

「本人の目の前で、そんな汚い口を叩くじゃねぇ……っっ!」


 ガルーラがそう言葉を発した瞬間、ブゥンッッ! と、大槌で風を切るように、横に大きく振りかぶりながら彼女はZに攻撃を仕掛けようとした。


 が、それを見てか、ベルトと錬成させていたオーダーウェポンが、主人であるZを守るように、大きな手を開いて、その大槌の攻撃を止めてしまう。


 がしぃっと、大きな音が出るようなそれで、止めてしまう。


 止められたとしても、ガルーラはその大槌のふりを止めずに、あろうことかそのままZを叩き殴ろうとしている。


「――っ!」

「ぐっ!」


 ぐぐぐぐぐっ。と――二人の押し合いが、拮抗が保たれながら少しの間続く。ぶるぶると、機械の手とガルーラの手が震えていく。


 たらりとガルーラの頬から汗が伝った。


 それを見て、Zはっはっと呆れたような笑いを鼻でしてから、彼はガルーラを見て、狂喜の笑みのまま彼はこう言った。


「結局、お前はそうやって力で子供をねじ伏せようとしているよなぁ? 言葉ではどう言えばいいのかわからないから、俺がティズと時だって、お前は最初に手を出して俺を制止した。言葉なんてないそれでな」


 まるで図星を突かれたかのように、ガルーラは顔を顰めてZを見る。


 ぎりっと、歯を食いしばる音が聞こえた。それでもZは、優勢になっていると確信したのか、狂喜のそれを浮かべながら彼は続けてこう言う。


「だから俺は、んだぜ? 結局は躾だろ? それで俺のことばかり怒って、ティズは甘やかして……、不公平とか、そんなこと思わなかったのかよ?」

「………あぁ」


 ガルーラはぼろりと小さい声を零す。


 それを聞いていたティズは、混乱した目でみんなの顔をきょろきょろと見ながら何とか状況を理解しようと努力する。


 その努力を無視するかのように、ガルーラはZを見ながら顎を伝った汗が、地面にぼとりと落ちたような感覚を覚えながら、彼女はこう言った。


「思ってはいたさ……。でもその分、両方にちゃんと注いでいたと思っていた……っ! 平等に、そして公平に、あんた達二人に愛情を注いでいたと思っていた……っ!」


 その言葉はまるで……、Zとティズのことを知っているかのような言葉。ティズは知らないのに知っているような口ぶり。


 愛情と言う言葉でその疑問も更に深くなる。


 ティズはそれを聞いて、意味が分からない。自分だけ置き去りにされている中、それぞれの顔を凝視した。しかし思い出せない。否――


 思い出したくないことなのか、思い出そうとしたら頭がぼやけてしまう。ぐらんぐらんっと、違和感を覚える。


 そんな頭を抱えるティズを見ながらメウラヴダーはそっと立ち上がり、二本の黒い刃の剣を構えながら前を見据える。


 ガルーラの言葉に対して……、自分もそうだと思いながら、彼はそっと右足を前に出す。


 それと同時に、Zは未だに拮抗を保ちながら、ガルーラを見て顔を押さえつけながら言った。その手から覗く表情は、まさに地に濡れた悪魔だった。その顔で彼はこう言う。


「愛情? そんなもん俺には見なかった。愛情なんて言う曖昧なものを俺たちに注いだと思っても、俺には響かなかった」

「っ!」

「愛情……。愛とか、友情とか、信頼とか……。見えないものに対してなんでそんなに大切にするのかわからねぇ。面倒くせぇし、それに人っていうのは――」



 金で動く生き物で――己の欲望に忠実なんだぜ?



「………っっ!」


 Zは確信を突くような言葉をガルーラに向ける。


 ガルーラはそれを聞いて悲痛と苦痛、激昂が混ざったかのような表情で顔を歪ませる。


 それを見たZは更に畳みかけるようにして、どんどん……、機械の手が大槌を押し出そうとしているそれを横目で見ながらこう言う。


「結局人間は金で動く人間なんだよ。食うにしても金が必要。着る服や住む家も資格取得だってそう。必要なものは金。金金金金金金金金。金こそがすべてなんだよ。コミックとかそんなもんじゃない。リアルガチに、金こそがすべての世界なんだよ。この世界は――」


 ………………Zの言うことは一理あるかもしれない。


 人間仕事をしてお金を得て生活をしている。


 漫画やアニメの世界で、この世で一番大切なものとは何だ? そんなことを聞かれたら、金以外のことを言うであろう。


 しかし現実はそう甘くない。


 金がなければ生活できない。家族を養えない。


 そう――現実でそんな言葉を聞かれたら、誰もがこう答える。大半はこう答えるだろう。




 金。




 Zの思考と同じ――否。彼の思考は少しずれているが、それでも同じであろう。


 だがガルーラは違った。


 握っている大槌に再度力を入れて、Zが使っているオーダーウェポンの機械の手を押し出すようにして、再度拮抗を保とうと……「ふぅんぬっっ!」と、声を上げながら、彼女は力んで押し出す。


「――っ!?」


 Zはそれを受けて、再度押し寄せてきたその威圧と力圧を感じて、ぎょっと目をひん剥かせながら彼は腰に力を入れて、土台として踏ん張る。


 それを見ていたガルーラは、「はは……」と、小さく、力ないような笑みを浮かべながら、彼女は無理に笑みを作っているその表情でZを見ながら、光がまだ灯っているその目でZを見ながら、彼女は――


「金こそがすべて……? 確かにそうかもしれない……っ! そうさせたのは、他でもないあたし達のせいだ……っ!」


 と言って、彼女は更にこう言葉を続ける。


「家が貧乏で、あんた達にはひどくひもじい思いをさせちまったと、今でも後悔している。もっとこうすればよかったとか、もっとああすれば養えたかもしれないとか。今でも後悔しっぱなしさっ! 後悔だけの人生さ!」

「――っ! だったら!」

「だからこそ――

「っ!」


 だからこそと言ったのは――メウラヴダーだ。彼はZの背後から剣を振り上げ、その剣の頭を下に向けて、斬る体制ではないそれでZに向けていた。


 Zはその声を聞いて、はっと振り向いた瞬間――時すでに遅し。


 メウラヴダーはその頭を使って、Zの両肩をへし折るように、勢いをつけてそれを振り降ろす。


 さながら上からの突きだ。


 ダァンッ! と、Zの両肩ではないが……、振り向いた拍子にその焦点がずれてしまったが、それでもZのオーダーウェポンの機械の左手と、彼の右肘のそれが直撃する。


 と同時に、機械の左手が大破し、右肘に激痛が走って、何かが罅割れる音が聞こえた――気がした。


「あぐうううううううぅぅぅぅぅぅっっっ!?」


 激痛と鈍痛が混ざり合っているかのような、そんな痛みを感じて、Zは顔を痛みでくしゃくしゃに歪ませながら頭と肘に来る痛みに耐えて唸る。


 が――メウラヴダーは振り下ろした状態で、彼はこう言う。


 言い聞かせるように、否――


 悪いことをした子供に注意する様に、彼はこう言った。


「人間は毎日間違いを犯して、反省して学ぶ生き物だ。その間違った行いをも一度繰り返さないために、後悔するような人生を送ってほしくないために、大人は子供に教育をするんだ。『あれしてはだめ』。『これしてはだめ』。ちゃんと理由を言い聞かせて教える。そして子供も大人も学ぶ。お前の様に天才だからと言って、何でもしていいという理由にはならない……っ! 確かに、惨めでひもじい思いをさせたのは、俺達の責任でもある。だが――その怒りを弟に擦り付けて、あろうことか実験体として使うことは――もはや病気だっ!」


「~~~~~~~~~っっっ! 今更あああああああああああああああああああっっっ!」


 彼の注意の言葉を聞いて、益々苛立ちが加速したZは、あまりの興奮に頭のそれがひどくなる中、彼はぐりんっと振り向きながら彼は言う。叫ぶ! 周りにいる彼らの仲間を横目で見ながら……。


「病気とかそんなこと言っておいて! お前らも結局は自分の利益のために、私欲のために人を利用しているじゃねえかっっ! どいつもこいつも同じだ――俺達『BLACK COMPANY』に逆らって、結局心を折られて途方に暮れるっ! 結局は変わらねえんだよ――俺達には向かったところで、結局は何も」


 変わらない。


 と言おうとした瞬間、その視界の端で繰り広げられているその光景を見たZは、ぎょろりとした目を点にして、その光景を横目で見てしまう。


 まぁ――彼が驚くのは無理もないだろう。


 アキ達の作戦が功を奏したのか――キョウヤは空中にいたシェーラから槍を受け取り、そのまま詠唱を使って、焦りで顔を染めているグゥドゥレィに向かって突っ込んでいく光景を見て……。


 白衣の女だった蟷螂の魔物に向かって猛攻を繰り出すダディエルとギンロを見て……。


最後の落ち武者ボウレイ・ベンケイ』に攻撃を繰り出している……、自分が嬲りに嬲った女が優勢に戦っている光景を見て……。


 マリアンのその銃の攻撃をものともしないような、ドロドロとした銀色の液体の壁で、その銃の攻撃を防いでいるガザドラと『にっ』と悪魔のような笑みを浮かべているリンドーの光景を見て……。


 Zは――ありえないだろう。という心の声が顔に出てしまい、固まりながらそれを見ていた。


 ティズもそれを見て驚いた目をして、先ほどのような絶望のそれではない……。希望を掴んだような、だんだん目に光が差し込むような目でその光景を見ていた。


 仄かに……、頬も赤い。


 それを見ていたクルーザァーはそっと手を上げながらZを見て、アクアティウムに向かって手で命令をしながら彼はこう言う。


「変わらない? それは確かに、人間の本質はそうそう変わらないだろう。しかしな……」


 と言って、クルーザァーはすぅっと息を吸い、吐いてから――驚いてしまって困惑しているZに向かって……、言葉を繋げる。


「お前の言うような人間はただの一部。十人十色の中の一色でしかない! 色とりどりの人間がいるからこそ――世界は回っているんだ! 金が欲しかったらお前自身の体で稼げ、己の体を実験台にして、己の体を己で壊してみろ。他人を使って自分が傷つかないような、卑劣なやり方は――史上最悪の不合理な行いだっ!」


 クルーザァーの魂の叫びと共に、彼はぶんっと、音が出るような手の降ろし方をする。


 刹那――今まで彼の背後にいたアクアティウムは、手に持っていた壺を掲げ、ごぽごぽとその壺の水を湧かせながら、撃つ体制になって構える。


 Zはそれを見て『げっ』と顔を歪ませながらその光景を見て、己の敗北の未来を予測して見てしまった……。


 ――戦況は、劣勢から優勢に変わり……、彼らの戦いも、いよいよ大詰めとなった。

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