PLAY48 THIRD WAR! ⑥

「あ、な……、はぁっ!?」


 マリアンの攻撃は確かにリンドーとガザドラに届いていた。


 ハチの巣になっていた。


 しかしマリアンはその異常にして規格外な光景を見て、愕然として青ざめながらそれを見た。


 ろざんぬもそれを見て、言葉を失いながら見ていた。


 声にならないような声を零しながら言葉を発し見ていたが、二人の気持ちは察するところだ。


 なぜなら――


 ガザドラとリンドーがいた場所にどろどろとして、粘着性を持った銀色の何かがうねうねと彼等を覆って守るように、即死を狙った無数の銃弾をうねっているそれで守っていたのだ。


 まるでスライムのような弾力だ。


 その銀色の何かの中でガザドラは天に向けて手を伸ばしている。その背後でニコニコとした笑みで笑っているリンドーの姿が。


 マリアンはそれを見て、訳が分からない。理解できない。どうなっているんだ。その三つの言葉が頭の中を支配し、思考が混濁としている最中彼女は思った。


 ――なんだ? あの銀色の液体は……っ!


 ――水銀? いや違う! この場に水銀なんてないし、それに私達は情報通り、あいつに鉄なんて与えていない! 鉄以前に、あんな大量の鉄どこで手に入れたっ!?


 ――まさか、テントになったものを使って……?


 ――いいや違うっ! そんなもんじゃなっ! あの量は異常だ! 一体どこで……っ!


 そう思いながら彼女は、己が持っていた二丁の機関銃に弾丸を装填しながら、彼女はもう一度その銃口をガザドラ達に向けた。が――


「待ってマリアンッ! ッ!」


 何かに気付いたのか、ろざんぬは声を上げながらマリアンに忠告した。静止と言ってもいい。それを聞いたマリアンは「あぁっ!?」と声を荒げながら、苛立った声で彼女はこう言う。


「なんで止めるんだっ! あれなんて相手が武器を隠し持って」

「持っていませんよー」


 マリアンの言葉を聞いていたのか、銀色の暑くてどろどろとした膜の中でリンドーはニコニコとした笑みを浮かべながら彼はこう言った。


「ぼく達はそんな鉄になるものを持っていません。強いて言うなら奪った刀とガザドラさんが持っていた武器だけですけど……、それだけならこんな大量のものになるなんてできません」

「吾輩の背中越しで話しているようだが……、前に出ても大丈夫だぞ?」

「いやですー。手元狂ってぼくの頭に穴が開いたら嫌ですもーん」

「……大人が『もーん』とか言っていいのか……?」


 先ほどの大慌てが嘘のような会話。それを聞いていたマリアンは、びきびきと額に青筋を立てながら、彼女はリンドーに向かって吠える。吠えながら叫んだ。


「てめぇっっ! 一体何の詠唱を唱えたっ! 答えろぉ!」

「えー? ぼく詠唱なんて今現在持っていませーん。これはガザドラさんの力ですよー」

「嘘つけぇっ! こんな大量の金属、どこで仕入れたっ! お前まさか……、シーフゥーを装った商人だったんだなっ! だからこんな大量の鉄を仕入れて」

「ぼくは正真正銘のシーフゥーですー。さっき見たでしょ? ぼくのスキル『窃盗ザフト』を」

「~~~っ! だ、だったらなんで――!」


 マリアンはもう己の脳の限界を知ったのか、答えを聞くようにリンドーに向かって銃口を指に見立てて叫ぶと、リンドーはにっと、更に笑みを深くして、黒い笑みを浮かべながら――彼は言った。



「――。これ」



 リンドーは右手に持っていたを取り出す。


「?」


 マリアンはそれを聞いて首を傾げながら、そのリンドーが手に持っているものを目を凝らして見つめる。そして――彼の手にあったそれを見て……マリアンははっと息を呑んで、目をひん剥かせる。


 ろざんぬは頭を垂らして、後悔する様に大きな溜息を吐く。そしてマリアンに向かって――彼はこう言った。


「きっと……、あの子、策を練っていたのよ……。私達をとことん騙すために、とことん陥れるために、とことん絶望させるために……。あんたの標的になるように叫びながらあの蜥蜴の男と一緒に走って、……っ!」


 その言葉、マリアンはやはりかと思い、辺りに散らばっているそれを見た。


 そう――リンドーが持っていた金色の筒……。彼女の周りに散らばって落ちているそれは……。




 薬莢やっきょうだ。




 薬莢とは、銃弾の発射薬を詰める容器である。それを作る材料として、主にが使われている。


 ゆえに――金属すべてを操ることができるガザドラにとって、薬莢もまた小さいながら大きい武器となるのだ。


 それを知らないで、マリアンはバンバン発砲した。


 発砲して、攻撃して、相手に武器を無意識に与えていた。


 結局――彼女は相手に大量の武器を与える結果で、今の状態に至っているのだ。


「――っ!」


 マリアンは思った。歯を食いしばりながら思った。


 ――あの逃げは、私を挑発してより多くの薬莢を手に入れるために演技かっ!


 そう思った時には時すでに遅しだろう。手を上げながら、ガザドラは静かにこう言う。


「塵も積もれば山となるとは、まさにこのことよ」


 と言いながら、彼はその鉄のうねうねしたそれを見て、更にこう言う。


「リンドーの言葉通り、おかげでこのような巨大な金属が手に入った」


 感謝する。


 その言葉を聞いていたリンドーは、頭を掻きながら演技臭い笑みで「いやいやー」と言いながら……。


「そんなぁー。ぼくは大したことはしていません。ぼくはただ助言しただけですよぉ。『時間稼ぎしながら薬莢を手に入れよう』って」

「――っっっ!」


 マリアンにとって、その言葉は負の感情を抱いてしまうようばそれで、強いて言うのであれば苛立ちが加速するような、それでいて羞恥心や不甲斐なさ、しまいには過去の己に対して怒りさえ覚えてしまうような負の感情を吹き出して、それが顔に赤く出てしまう。


 それを見ていたリンドーはくすくすと笑みを零す。


 黒い笑みでろざんぬとマリアンに向けて浮かべているのに、冷たいような音色で彼はこう言った。


「もしかして……、馬鹿にされたこと怒っています?」

「? あぁ?」

「あなた達は確かにチームワークは抜群です。それにそんな無茶苦茶なことをするのは予想外でした。思い銃を二つ持って、その土台を担うあなたもすごいです。けど……」


 と言いながら、リンドーは……。




 くすり……。




 黒い笑みを更に黒く染めて、まるで魔王の笑みのようなそれで彼は、低く、怒っているような音色で彼は言う。その二人に向かって――対象でもないその存在に向かって、彼は言う。


「ぼくらはその怒り以上に、あなた方に強い憎しみを抱いています。あなた方を拘束しても、四肢をもいでも、体内を挽肉にしても、それを千回繰り返したとしても、絶対に癒せない、消えない強い憎しみを、ぼくは抱いています……。きっと、ぼくには兄妹なんていなかった。でもあの人は――アスカさんはぼくのことを想うとのように接してくれました。みんなのことも大好きですよ。ああは言っても……。家族の様だと思って見ていました。でも――」


 と言って、リンドーはその笑みをすっと――初めからなかったかのようにやめて、彼は無表情ながら威圧を込めた怒りのそれでマリアンとろざんぬを見てから……、彼は氷以上に冷たいような音色で、こう言う。



「あなた達は――その人達を一時壊した。ぼくは一生許さない。絶対にお前達を苦しめてから返してやる。そう心に誓って、ここにいるんです。悪く思わないでくださいね? あなた方が悪いんですから」



「「――っっっ!」」


 あなた方が悪いんですから。


 その最後の言葉だけ、異様に強調されているかのように、大きく言い放ったリンドー。


 それを聞いたマリアンとろざんぬは、ぞくりと来た悪寒を感じて、彼らは上ずった悲鳴を上げてリンドーとガザドラを見る。


 ガザドラはそんなリンドーの言葉を、想いを聞いて、そっと目を細めながら、悲しそうなそれでリンドーを見る。


 ガザドラは思う。リンドーと自分を重ねながら……、彼は思った。


 ――吾輩も、こやつの様に復讐を抱いていた。


 ――家族でもある仲間を壊した奴を、憎んでいる目だ。


 ――吾輩と同じだ。吾輩も父と母が殺されて、滅亡録に記載された。


 ――殺しをした者達の私欲のために、犠牲になってしまった。人柱になってしまった。


 ――その苦しみはよくわかる。だが……、その憎しみは……。


 と思ったところで、ガザドラは首を横に振って、その思考を一旦心にしまう。考えても無駄だと思ったわけではない。


 ただ――リンドーにそのことを話しても、きっと彼はその道を歩んでしまうだろう。


 アクロマを殺す。そしてその彼に関わったものを最上級の絶望でおもてなしをする。


 それがリンドーの復讐。


 それでも……、ガザドラは首を横に振りながら――空を見上げながらこう叫んだ。


鋼創造フルメタル・クリエイティヴ――『鋼ノ装甲メイル・アーマー』ッ!」


 そう叫んだ瞬間――周りを取り囲んでいた銀色の粘着質のそれが、どんどんガザドラの体を覆うように、ねっとりと、どろどろと動きながら彼を包む。


 もちろん――リンドーが持っていた薬莢も、マリアン達の周りに落ちていた薬莢も――どろりと形を変えて、細い道を作るようにガザドラのところに向かっていく。


 それを見ていたろざんぬは、はっと現実に戻ってガザドラを見ながら、まずいと直感したのだろう。掴んでいたそれをマリアンから奪い取って――


「――逃げるわよっ!」と叫んだ。


 それを聞いて、奪われてしまった愛銃を見ながら、茫然としてろざんぬを見ていたマリアンは――はっと己も現実に戻って、彼女はろざんぬに向かって――


「な……っ!? なに言ってやがるっ! あんなに虚仮にされて引き下がれるかっ! 私はここで最後まで」

「今逃げないと……っ! 私達が逆に殺されちゃうわっ!」

「………………っ!」

「逃げれば対策だって練れる! だから今は逃げて報告を」


 ろざんぬは冷静にそう言いながら、マリアンの肩を掴みながら説得する。脇に銃を挟みながら、彼は言う。説得する。


 マリアンはその言葉に対し、言葉を返すことを一瞬躊躇った。


 確かにこのまま逃げれないいかもしれない。しかし彼女達は逃げることを許されていない。否――ここに来た時点で勝ちを手に入れるか、もしくは相手の一行――強いて言うのであれば、危険人物と化しているハンナとヘルナイトの抹殺。


 それをしない限り、彼らは逃げることなど許されない。否――逃げることは……、死に直結か、よければ四肢部位破壊ゴアで終わる。


 後者で終われば、それはそれでいいかもしれない。が――それはアクロマに気分次第。


 これまで見た中で、部位破壊で終わったものなど……、一万分の一。つまるところ、一万の中でも一人の確率ということ。殆どがログアウトになってしまっているのだ。ログアウトになる前に、惨いことをされてしまっているが……。


 それを考えただけで、マリアンはぶるりと――恐怖で言葉を発することができなくなってしまう。


 それくらい――アクロマと言う存在が怖いのだ。


 自由を愛する人であったとしても、その自由は己の感情にも起因する。左右される。


 要は気まぐれ。気まぐれで自分達は殺されてしまうかもしれないのだ。気分が悪ければ更に異常な方法で殺されてしまうかもしれない。


 ネルセス・シュローサのような組織的なものではない。


 穴だらけで、首相の命令に歯向かえば殺すという独裁者のような場所――それが……。



『BLACK COMPANY』



 ブラック企業といわれても過言ではない。ブラドがいたブラック企業に相当する。


 ろざんぬの言葉を聞いて、マリアンは返答を濁す。それを見てろざんぬはマリアンに向かって、せかすように「早くっ!」と言った瞬間――



 ――バラララララララララララララララッッッ!



「あがあああああああああああああああああっっっっ!」

「「っっ!?」」


 遠くから聞こえた白衣の女――メメトリの声を聞いた二人と鐵、Zは、その声がした方向を見ると、メメトリは容赦なく攻撃をしてくるギンロのミニガンの攻撃を受けながら叫んで暴れていた。


 黒い蟷螂の体を動かしながら、彼女は野太い声で叫んでその攻撃から逃れようとするが、動きが鈍く、いつもの彼女らしくないような動きだ。


 それもそうだろう。彼女は思うように動けないのだ。彼女は今現在――にかかっているのだから。



 ◆     ◆



「いよっしっっ! そのままかかり続けていろよぉ!」


 バラララララララララララララララッ! と、ミニガンを打ち続けているギンロは、背後にいたダディエルを横目で見ながら、彼はこう言う。


「――しっかし! 運よく『状態異常ドランク』かかってよかったぜ! しかも『麻痺パラライズ』!」

「俺も今回だけは、神様が見てくれていたのかもな」

「はは! だろうな!」

「肯定すんなっ!」


 そのような明るい会話をしながらも、ギンロはその攻撃する手を緩めずに、容赦なくメメトリを追い詰める。


 よろよろとしているメメトリを見ないで、彼らは話していた。が、すぐにそれは中断される。


 二人はぎっと狼狽えて、顔を鎌の手で隠しながら防御しているメメトリを見て、彼等は再度武器を構えながら――メメトリを見て言う。


「でも――これでちょっとずつだが、アスカの敵討ちが叶うってもんだ!」

「ああ、あいつのことだから、きっとこのやり方を見たら、すぐに怒って殴るだろうな」


 ギンロが言い、ダディエルが言った後、ダディエルは脳裏に浮かぶ彼女の笑みを思い出しながら愛しむように微笑んで――すっとその笑みを消してから彼は真剣な怒りの表情で、メメトリを見ながら――


「でも――許してくれよ。こうでもしねえと俺は……、俺たちは……。気が済まねえんだ……っ!」


 吐き捨てるように言うダディエル。その言葉にギンロはうんうんっと頷きながら肯定して――


「あ、お、ごぉあ……っ! ぐぅっ!」


 よろよろと動いて、そのまま後退して逃げようとするメメトリを見たダディエルは、すっと指を突き出して――


「逃がすかよ」と、再度『状態異常ドランク』をかけようとした瞬間……。




 ――ふっ!




 と……、彼等の間をすり抜けるようにして走ってきた人物。


 その人物は仄かに赤い何かを持っているようだ。それを視界の端で見たダディエルとギンロは、目を点にしてそれを見上げ、それを後方で見ていたボルドは、「ええええええええええっっっ!?」と驚きながらそれを見上げる。


 驚いた顔のせいで、更にホラー感が増した気がしたが、そこは置いておこう……。


「っ!?」


 メメトリもそれを見て、ぎょっとしながら目の前に現れた赤い髪を見て、彼女はその大きな図体で後退しながら、逃げるように後ずさる。しかしそれを許せるほど――


 紅は余裕ではないし、許さない!


「――逃がすかあああああああああああああああああああああああっっっ!」


 紅は、あらんかぎり叫んで、腫れた目でメメトリを睨みつけて、彼女は駆け出しながらぐっと足に力を入れて、どんっと言う地面を蹴る音と共に、彼女はその場で高く跳躍する。


 それを見ていたギンロは、にっと笑みを浮かべながら、小さく彼はこう言った。


「おせーって」


 それは近くにいたダディエルでも聴き取れないような小さな声で、ギンロにしか聞こえないその声だった。


 紅はそのまま苦無を両手でしっかりと持ったまま――蟷螂と化しているメメトリに向かって、逆手に持った二本の苦無で、彼女の体にその苦無を。


 ぐしゅりと、彼女の蟷螂の胴体にそれを――深く突き刺す。


「いぎぎゃ!」


 メメトリは痛みを感じて叫ぶ。それを聞いても、紅はその二本の苦無を引き抜こうとしないで、その状態のまま彼女は二本の苦無をどんどん深くしていく。


「うううううううううううううううううううううううううううううううううううっっっ!」


 その唸りはまるで獣の様だ。彼女の顔も獣の様だ。それを見たメメトリは、ぞくりと、背筋に感じる悪寒を察知して、そして直感する。


 ――この女……、何かをする気だっ!


 そう思ったメメトリは、彼女の背中から貫通させるように、胴体を突き刺そうとにほんの腕の鎌をすらりと伸ばす。


 このままでは自分も串刺しになってしまうが、相打ちならばプラマイゼロだ。


 そうメメトリは思い、そのまま彼女は紅の背中に向かって、己の手の武器を突き刺そうとする! 自分もろとも犠牲にして!


「っ! 紅ちゃんっ!」


 ボルドが叫んで、そのまま手をかざしてスキルを発動しようとした時――


 紅はそのままするりと


 重力に従って――落ちていく。


「っ!?」


 メメトリはそれを見て、紅の異常な行動を見ながら、すぐにギンロ達を見ると――彼女は目をひん剥かせながら男二人の顔を凝視した。彼らは――


 笑っていたのだ。


 ボルドは首を傾げながらそれを見て、すぐに何かを察知したのか、包帯越しで青ざめてから、彼は小さい声で「まさか……っ!」と言って、紅に向かって叫ぼうとしていた。


 メメトリはそのまま紅を見降ろすと――彼女はメメトリをしっかりと見て、そしてはっきりとした音色で、彼女は言った。


「――これでぇ……、おわりだぁっっっ!」


 刹那――彼女の胴体に刺さっていた苦無二本が赤く光りだしていく。それを見たメメトリは、刺さった個所から感じる急激な温度上昇を感じて、命の危険を感じたのか、それを鎌の手で引き抜こうとするが、『かつんかつん』と、手ではないそれで苦無を引き抜くことは至難の業。


 それでもメメトリは慌てながらそれを引き抜こうとする。


 ギンロとダディエルはその場から離れて、一足先に逃げて行く紅の背中を見ながら、ダディエルは小さい声でこう呟いた。


「――やっぱ……、あいつは俺達のチームの中では、だな」と……。



 ◆     ◆



 ざしゅしゅしゅしゅっ! と、ティティは手慣れた手つきで鐵の影――『最後の落ち武者ボウレイ・ベンケイ』を切り刻む。


 それと同時に、『最後の落ち武者ボウレイ・ベンケイ』は唸り声を上げながら、黒い煙となって空気に溶けて消えていく。ティティはこの時、その影を切り刻んだ後――案外呆気ない。と内心拍子抜けしながら思っていた。


 それを地面で這いつくばるように見ていた鐵は、ガタガタと震える包帯の顔で見上げて……、ティティを見上げる。彼女はいまだに鉈を鞘に納めずに、その場で立ち尽くしている。


 自分を見ないで――だ。


 鐵はそれを見て、にっと包帯越しで笑みを作る。


 ――好機チャンス。そう彼は思ったのだ。


 鐵は音を立てずに、その場で立ち上がってから、予め刀が奪われた時に備えての包丁を持って、彼はその包丁をティティに向けて、彼女の背中にそれを突き刺すように――走って行く!


 ――隙を見せた! これで僕の勝ちは決まった!


 鐵は思う。彼女のような美しい顔を見ながら、そして自分をこんな顔にしたエストゥガで出会ったあの少女のことを、憎々しく思い出しながら、彼は思う。


 ――あの餓鬼のせいで、僕のこの美しい顔が崩壊したっ! 回復のスキルを使ったとしても、この顔を修復することはできなかったっ! 痕が残った! 


 ――これで美しかった僕が消えてしまったっ!


 ――許せない。許せない。僕よりも美しい……、何の苦労もなくその美しい顔を授かった輩が恨めしいっ! 妬ましいっ!


 ――そんな綺麗な顔なんて……、僕がこの手で壊してやるっ! 僕こそが……、真に美しい存在なんだっ!


 ――さようなら……コンピューターッッッ!


 鐵が手に持っていたその包丁をティティの背中に受け、突き刺そうと行動する。ぐっと手を前に突き出し、一気に彼女を背後から突き刺そうとする。


 が――


 ――ガギィンッッ!


「?」


 ぽかんっと……、彼の眼が点になり、手に持っていた包丁がどこかに投げ出されて、その包丁を持っていた手がじんじんと痛んでいく感覚を覚える。よく見ると、その手の甲が赤く腫れている。ほんの少し切れているのか、そこから微量の血が流れている。


 鐵はそれを見て、首を傾げながらそれを見た後、ふっと、突然自分の目の前に現れた魔物を見て、彼は「ひぃっ!」と上ずった悲鳴を上げる。


 鐵の目の前にいたのは――魔物ではあるが魔物ではない。人間の心を持った魔物で……、中身は人間の存在。


 その存在に気配を感じたのか、ティティははたと何かに気付く動作をしてから、くるりと背後を見て、「あぁ」と、声を零しながら彼女はこう言った。


「遅かったですね――毛繕いでもしていたんですか?」と、少々嫌味交じりのそれを吐いた後、それを聞いていた夕焼けを彷彿させるその獣は、大きく舌打ちをし――


「うるせぇっ! ちょっとばかし子供達を宥めてきたんだっ! 少しはわかってくれっ!」


 と言いながら、黄昏の獣は――ゴトはぐっと、右手の握り拳に力を入れながら、鐵に向けてその鉄拳を繰り出す体制になる。


 それを聞いていたティティは、淡々とした音色と表情で「そうですか」と言う。


 本当に淡々としたそれだった。


 そして――互いが互いの敵に対して、大技を繰り出そうとする……。


 アキ達の方では、シェーラが拳銃を持って顔を隠していたキョウヤに槍をぶん投げて手渡し、それを受け取ったキョウヤは、グゥドゥレィの背後から、至近距離で槍を突き刺すような体制で迫りながら――


「――『殲滅槍せんめつそう』っ!」


 と、槍の刃を血のような赤い大きな刃に変えて、それを鬼気迫る焦りを浮かべたグゥドゥレィに向ける。そしてキョウヤはその槍を構えながら……。


「……かぁらぁのぉ……っっ! 『アン・ザ・ランス』ッ!」


 がぁんっ! と――一突きの刺突を、グゥドゥレィの背中に繰り出し……。


「『デュー・ランス』ッ!」


 今度はグゥドゥレィの両手を部位破壊ゴアする様に、ドォンッ! ダァンッ! と二回突いて……。


 最後に――キョウヤは最後の突きを繰り出す!


 ガザドラがマリアンとろざんぬに向かって、鉄で作った鋼の鎧を纏い、そのままその二人に向かって走り出して突進してくる瞬間に。


 紅が放った通常詠唱が一際白く輝いた瞬間に……。


 ゴトが鐵に向けてその拳を鼻とうそした瞬間に……。


 クルーザァーが『星獣アクアティウム』に命令して、その星獣の大技を放とうとした瞬間……。


 各々が――その技を叫ぶ!



「――『トロワ・ランス』ゥゥゥゥッッッ!」

 


 キョウヤの三連突きが、グゥドゥレィの背中に三連続直撃し。



「――『鉄鋼ノ双頭撃アイアンド・ツインナックラー』ッッ!」



 ガザドラのその二つの拳が、マリアンとろざんぬの胴体に直撃して、めり込むようなひねりを入れながらその二人を失神させ。



「――『忍法・鬼灯爆裂歌ほおずきばくれつか』っっ!」



 紅が突き刺した二本の苦無が突然、かっと光りだして、そこを中心とした大爆発が、連続でメメトリの体に灼熱と爆撃の攻撃を繰り出して。



「――黄昏獅子弾たそがれししだんっっ!」



 ゴトの渾身の拳の一撃が、鐵の胴体に向けられ、がふりと吹き出す血などお構いなしに、ゴトはそのまま鐵を地面に向けて叩きつけながら。



「――大滝瀑布アクエリアス・フォールッ!」



 クルーザァーの命令に従うようにアクアティウムがその壺から大量の水の柱を、さながらバズーカの様に吹き出し、急加速でZに向かって行き……。



 グゥドゥレィの秘器アーツが半壊し。


 吹き飛ばされたマリアンとろざんぬはそのまま地面に突っ伏して倒れ。


 連続の大爆発と炎に焼かれたメメトリは、黒い体をさらに黒くしてぶすぶすと焦げながら倒れていき。


 渾身の一撃を食らった鐵は、白目を剥きながら青ざめて口から泡を吹き。


 水の攻撃を直接食らって吹き飛ばされてしまったZは、唸りながら起き上がろうとしていた。


 実質――四人のプレイヤーは倒れ、グゥドゥレィも気を失い、起きているのはZだけ。


 アキ達、ボルド達、そしてクルーザァー達は――誰も死ぬことなく、欠けることなくここにいる子供達を守り、人を守り切った。


 苦戦を強いられたが、何とか勝利をもぎ取った――三連続勝利を勝ち取った瞬間だった。

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