PLAY49 巨大な迷宮 ①

 勝利をもぎ取ったアキはほっと胸を撫で下ろし、槍を持ち直し――気絶して倒れているグゥドゥレィを見降ろしていたキョウヤに近付きながら、彼は控えめな励ましの言葉をかけた。


「――お疲れ」

「! お、おお……」


 その言葉にキョウヤははっと息を吐く。


 何かを思い出していたのだろうか……。とアキは思ったが、すぐに走ってこっちに戻ってきたシェーラが呆れたような目でキョウヤを見ながらこう言った。


 つんっとした言葉で、彼女はこう言ったのだ。


「なにそんなに思いつめてんのよ。あんたは確かに秘器アーツを壊したわ。でもあれは仕方がない。そして……」


 シェーラは半壊したグゥドゥレィのそれを見る。


 二人もそれを見て、驚いた目でそれを見降ろした。


 グゥドゥレィの秘器アーツは、


 まるで頭部だけで動いているようなロボットの様に、まだ活動を停止してない状態で彼の秘器アーツは生きていたのだ。


 よく見ると兵士達の秘器アーツからも音が聞こえる。


 きりきりと言う機械音が。


 それを見たキョウヤは驚いた目で兵士達のそれを見て、そしてグゥドゥレィを見降ろしながら言葉も発さず、且つ蔑むようなこともしない無表情のそれを徹していた。


 無言と無表情――二つの『無』がつくその行動と顔をしながら……。


 いいや、声がするまで待っていたの方が正しいかもしれない。


 ――急所は避けた。


 ――それにこの鎧が盾になってくれたんだ。きっと生きているに違いない。それで重症だったらごめんなさいっ!


 そんな淡い希望を抱くように、キョウヤはどくどくと来る心臓の音を感じながらグゥドゥレィが起きるのを待った。


 アキとシェーラはそれを見て、グゥドゥレィを見降ろしながらアキはすっと目を細めて――キョウヤに近付いてから彼は……。


 ぼんぼんっとキョウヤの肩を叩く。


「?」


 それを感じたキョウヤは首を傾げながらアキがいる背後を振り向いてアキの顔を見ると、アキはふっと微笑んで、そのままキョウヤが今まで持っていた銃を流れる動作で引き抜いて取り戻す。


「?」


 そんな含んだ笑みを見たキョウヤは、何やら不穏な雰囲気を感じたのか、冷や汗を流しながら彼はアキを見る。


 アキは手に持っていたライフル銃を手にして……、そのまま――


 グゥドゥレィの右肩にその銃口を突き付けて――躊躇いもなくそれを……。



 ――バァンッッ! と、撃った。



 ばすんっと右肩に小さな穴が開くと、とろりと出てくる赤い液体を見たキョウヤとシェーラは、慌てながらアキに向かって何をしているんだと問い詰めると……。


「うぐぉおおおおおおおおっっっ!?」

「「っ!?」」


 グゥドゥレィは、激痛を伴う唸り声を上げながら、機械の手でその風穴が空いた個所を押さえながら、地面でのたうち回る。


 それを見ていた二人は、びくりと体を震わせて、内心生きていたっ! と、不謹慎なことを思い浮かべながらグゥドゥレィを見降ろす。


 対照的に、アキはその姿を見て、大きな舌打ちと冷たい眼でグゥドゥレィを見降ろして、彼はこう言う。


「すべてにおいて姑息だな。あんた」

「………あんたもね」


 と、シェーラは毒を吐くようにして言う。内心、アキの人格を疑いながら……。


 未だに痛みに耐えて、震えながら悶えているグゥドゥレィの服を掴み上げながら、アキはじろりとグゥドゥレィの顔を見ながら聞く。


「お前――ま?」

「あ、ぐぅ……っ! な、なにぃ……?」

「俺は聞いているんだ。秘器アーツのことについて、包み隠さず教えろ。でないともう片方の肩を撃ち抜く」

「えげつねぇっっ!」


 アキの言葉を聞いて、キョウヤは青ざめながら彼の背中を見て突っ込みを入れる。


 それを聞いたグゥドゥレィは、ぐっと唇をかみしめながら、彼は震える口をゆっくりと開いて……。


「早く教えろ。出ないと本当に撃つぞ」


 アキはそのゆっくりとした動作でさえも許せないようで、ぐりっとライフル銃の銃口をグゥドゥレィの穴が開いていない肩に押し付けながら、冷たい目と音色で急かす。


 グゥドゥレィはそれを聞いて、うっと唸りながら歯を食いしばって口を閉じてしまうが、それでも話さないと最悪のケースになりかねない。そう思いながら彼はアキの要望に応えるように口を開いた。


 その光景を見ていたシェーラは、内心老人に対しての扱いが雑なアキに怒りを覚えたとか……。


 グゥドゥレィはアキに向かって――秘器アーツのことについて話した。


「た、確かに……、動力源と言っても……、結局はその力が発揮しなければ始まらない……。そしてその膨大な力には膨大なエネルギーを要する。一つ一つに魔女のそれを入れるほど、この国に魔女などない。少数民族よりも少ない人数じゃ。エネルギーの問題は解決されたとしても、次に生まれたのは……、その力じゃった……っ」

「『八神の御魂』のことについて知っている。そしてそれを盗んだと言っていたよな? それは元々あんたが作ったからそう言う言葉になって、あんたはそれを使って、その力の問題を解決させた」


 そうだよな? 


 と、アキは聞く。冷たい目で彼はグゥドゥレィに聞く。


 それを聞いたキョウヤは、はっとしながらマドゥードナであったことを思い出す。


 あの時――キョウヤはアクアロイア王を止めようと、その手に持っている『八神の御魂』を奪おうとした。が、あっけなくその進行を阻害されてしまった。


 理由は簡単だ。


 アクアロイア王は、その『八神の御魂』の依り代となってしまったクルクの母の力によって――『泥』の力によって動きを封じられてしまったのだ。


 あの後すぐにシェーラに助けてもらったが……。


 その時――確かにアクアロイア王は魔法を使っていた。クルクの母のその力を使っていた。


 が――秘器アーツの場合は、そんな力は一切ない。


 どころか、普通によく見る機械 (近未来のようなそれだが) と同じそれで、魔法の類は一切使っていないように見えた。


 キョウヤはそれを聞いて、グゥドゥレィに詰め寄りながら――慌てた様子で彼はこう聞く。


「おい爺さん……っ! てめぇ……。まさか!」


 そんなキョウヤを見ながら、グゥドゥレィは鼻で嘲笑うように笑って、キョウヤを見ながら――彼はこう言った。


「ああ、。その秘器アーツ全部に、一人一人の魔女の魂なんぞ入っておらん。全部――帝国の儂の研究室で大切に保管しておる。儂が着ているものや武器、兵士達が着ている秘器アーツすべては、血しか入っておらん。ゆえに壊しても何の精神の支障もないということじゃ。なぁに、老人の可愛い小嘘と思えばいいじゃろう」

「――っっっ!」


 キョウヤはそれを聞いて、カッと顔を赤くさせ、己の単純さと、相手の狡猾さに呆れと苛立ちを覚えながら、彼はすぐにグゥドゥレィの胸ぐらを掴もうとした。


 しかし――


 そっと、それを手で制したシェーラは、冷静な音色で溜息を吐きながら――


「やめておきなさい。ここで殺したりしたら……、情報が得られない」と、言った。


 それを聞いて、キョウヤはうっと唸るような声を上げながら、シェーラの言葉に従うように、小さく舌打ちをしながら一歩後退する。


 それを見ていたアキは、内心シェーラに感謝しながら――グゥドゥレィを見降ろして、さらに情報を引き出そうとする。


「で? 秘器アーツの動力源が魔女の血ならば……、残りの媒体……、肉とか四肢とかはやっぱり――」


「ああ。お前さんの想像通りと言っておいた方がいいかのぉ……。確かに、アクアロイア王が言っていた『八神の御魂』は本当の名ではない。あれはあの王が勝手につけたものじゃ。最初こそお前さんを騙すために……、魔女の血と体液、そして肉片や鬼の角を使っていたと言っておったが、厳密に言うと、そうではない。秘器アーツの動力源となる魔女との血液、体液を使い――その秘器アーツの力を最大まで高めるために、発信源となる鬼の角のかけらを秘器アーツとその核となる『八神の御魂』に組み込んで、儂の研究室にある魔女の魂を込めた『疑似魔女の心臓』……、すなわちは『八神の御魂』本来の姿と言ってもいいじゃろう。それを稼働することで、秘器アーツは動くのじゃ。しかしその数があまりに少なすぎる。血液や体液なら大量に入手できるが、『心臓』を作るのには時間と費用が掛かりすぎる。ゆえにここで他国から奪ってきた魔女たちの媒体を買い取っていたということじゃて。そうでもしないと、帝国のエネルギーを補えないからのぉ……」


 一通りのそれを聞いたアキとキョウヤ、そしてシェーラ。


 ここでの売買は、帝国のためでもあり、兵力強化のために、そして国の安泰あんたい――否。贅沢のためにしていた、非道な行為でもあった。


 兵力や帝国のエネルギーのために、尊い命を犠牲にする行為。それを冒涜する行為を、誰が許すか? 


 誰も許さないだろう。


 アキ達はそれを聞いて、グゥドゥレィの負けを確信した下劣な笑みを見ながら、彼らは思う。


 同時に、互いに同じことを思っていた。


 ――こんな屑、殺す価値もない――


 ――むしろ、罰を受けるべき存在だ――


 と……。


 そのことを思いながら、アキはそっとその銃口を下ろした――


 刹那。



 ――パシュゥッッ!



「っ!?」

「「っ!」」


 アキの顔を横切る何か、それも、鼻の先が掠れるような距離で放たれたものだった。それを至近距離で見たアキは、ぎょっとしながらそれを見て、キョウヤとシェーラはその何かが飛んできた方向を見た。その方向は――テントの方だった。


 カルバノグも、ワーベントもその方向を見て、誰もがそれを見て驚きを隠せず、怒りを隠せず、クルーザァーに至っては、驚愕のそれでその方向を見て、彼はその方向にいた人物に向かって、震えるようなその音色で彼はこう言った。


「なっ! な、なんで……っ!」


 まるで、それからは絶対に逃れられないだろう。


 そう言っているような言葉と表情、そして音色で彼は言う。するとその言葉を聞いてか、彼の視線の先にいた人物は、大きな弓を構えながら、「はははははっ!」と、王道の高笑いを声に出しながら、は言う。


「そんなの! 見ているから怖いんだから、見ないで矢じりで殺したに決まっているっ! すごく時間はかかったけど、それでもやっと自由になれたんだっ!」


 そう――スナッティだった。


 彼女の傍らで見張っていた蛇は、黒い靄を出しながら消滅してて、そのまま空気に溶けていく様子が見られる。つまるところ――スナッティの手によって倒されたのだ。


 魔物らしく、死んだのだ。


 それを見たクルーザァーは、内心やられたと思い、スナッティを見ながら彼はスナッティに向かってこう叫んだ。


「お前……っ! とことん落ちるところまで落ちたのかっ! そこまで金が欲しかったのかっ!」


 その言葉に対して、スナッティは狂気の笑みを浮かべながら、彼女はけらりと笑って――そしてこう言う。


「違うね。言ったでしょ? 私はただ、あのくそウザいアスカを消したかっただけ」


 スナッティの狂気の言葉を聞いて、ダディエルはぶちりと血走った目と青筋を立てながら、彼は一歩――勢いをつけた全身をしようとするが、それを見ていたギンロは、彼を羽交い絞めにして止める。


 紅はそれを見ながら、スナッティを見て……、悲しい表情で彼女を見つめながら、こう言った。


「砂……、やっぱり、あたし達のことを……っ?」


 ……、その言葉はまるでまだ信じていたかのようなそれであった。


 先程の猛威はそんな現実から逸らしたくてした行為なのかもしれなかったが……、結局現実は変わらない。


 最初に聞いたそれが現実だったのだ。


 ボルドはそんな紅の肩を叩きながら、慰めるように、それでも厳しさも兼ね備えた一言を――彼は紅に向かって放った。


「紅ちゃん……。もう、諦めよう」

「あ、りー……、だー……。う、うぅ……」


 くしゃりと、紅の顔が変わる。


 獣のような怒りから茫然とした顔に変わり、そしてボルドの言葉で悲痛に変わる。


 歪んだ目元からぼろりと、眼に溜まっていたそれが零れだして溢れ、頬を伝いながら紅は、膝から崩れ落ちる。


 すとんっと言う音と共に、彼女は小さく嗚咽を吐きながら、顔を手で隠しながら、その顔を見せないように泣く。


 その光景を見て、ボルドはそっと彼女の視線に合わせるようにしゃがんで、そのまま彼女の肩に手を乗せながらじっと黙る。


 ダディエルとギンロ、そしてリンドーがそれを見て、ぐっと顔を顰めて、そのまま黙ってしまう。


 スナッティの言葉を聞いて、カルバノグは再度絶望に落とされたのだ。


 スナッティの密告があって、彼女はアクロマに殺されてしまった。ログアウトではない。電脳的な殺人で、殺されてしまったのだ。


 何度も何度も、夢であってほしいと願ったことか……。今だって夢であってほしいと思うくらい――




 アスカの死は――大きかった。




「………スナッティ殿よ」


 ガザドラはその光景を見ながら、自分しかきっとスナッティに話すことができないと思った彼は彼女に向かって声を上げる。


 スナッティは首を傾げながら弓矢を構えて、ガザドラを見る。


 ガザドラは彼女を見ながらこう聞いた。


「吾輩はカルバノグに入ったばかりで、アスカ殿と言う存在をよくは知らない。ゆえに彼らの悲しみをすぐに知ることは困難ではある。が――」


 と言って、ガザドラはきっと、スナッティを睨みながら、彼はこう聞いた。真剣な音色で、彼は聞く。


「――貴様がしたことは……、己の弱さが露見した最も醜き行為であると吾輩は思う。己の手ではなく、他人の手を汚し、自分はその情報を売っただけで、何もしなかった。それでよくのうのうと生きれたものだ。吾輩も復讐に手を染めていた身ではあるが、部下たちにそのようなことは一切させなかった。それをいとも簡単にしてしまう貴様は……、最も愚かで醜悪で、怠惰な存在だ」


 吾輩は――貴様が気に食わん。


 そうガザドラが言うと、それを聞いていたスナッティは、ぎりっと歯を食いしばって、持っていた弓矢が僅かに揺れる。


 ガザドラの話を聞いていたティティも、呆れながら腕を組んで、彼女はスナッティを睨みつけながら冷たくこう言う。


「そうですね。元『六芒星』と言われましても、最も良心を持っている部下思いの幹部です。私もその言葉には同文です。よくもまぁ、情報一つとお金だけで、私達を騙せました。騙された私が言うのもなんですが、あなたのやった行動は――命あるものとして最低な行為だと、私は思います」

「――っ!」

「仲間ではなくても、己の手を汚さずに他人に任せて殺す。暗殺者に頼むような人で、臆病者がすることです。なんとなくですが、アキさんはなぜあなたとあんなに釣り合わないのかが、理解しました」


 ティティの言葉を聞いていたアキは、少しだけむっとした顔をしながら、掠った鼻を親指の腹で拭いながら、彼はスナッティを見ながら彼は言う。


「まぁ……、理解しなくても、多分初めて出会ったとしても、俺は彼女のことを理解しようなんてこれっぽっちも思わないね。なにせ……、あんな風に人をPKをして、現実ではねちねちと妬んで、ゲームの世界ではPKをしまくるような異常者とは――仲良くできないね」

「~~~うううううぐううううううううううううううううううううううっっっっ!」


 と、スナッティはガザドラ、ティティ、挙句の果てにはアキにも弱いものと認識されるような言い方をされて、獣のような唸り声を上げながら彼女は矢を装填した弓の弦を一気に引く。


 ぎりぃっと言う音が聞こえたと同時に、アキ達は武器を構えながらスナッティの行動に警戒する。


 そして――




 ――ゴンッ!




『?』


 アキ達の目に前に落ちた白い球体。それは機械の殻で覆われているそれで、それを見たアキ達は首を傾げ、小さな球体を凝視した……。瞬間……。




 ――ボシュウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!




『っ!』


 突如、その白い球体から出てきた白い煙。


 それを見た一同は、驚きながら迫り来るその視界を遮る白い煙を浴びながら、咳込む人や辺りを手探りで探す人。そしてスナッティを探して叫んでいる人。いろんな行動をしてその煙を払いのけようとしていた。


 それを見ていたスナッティはそっとその矢を下ろして、茫然としながらその光景と、足元に転がっている白い球体を見降ろしながら、彼女はもう一度前を見た。


 刹那――


「スナッティッ!」

「!」


 突然自分を呼ぶ声。それを聞いたスナッティは、その声がした右を見る。右を見た瞬間、自分の元に向かって走ってくる人物がいた。その人物を見て、スナッティは声を上げて――


「Z!」


 と、彼の名を呼ぶ。Zはボロボロのびしょびしょになりながらも脇を押さえつけながら走ってきたのだ。彼は怒りの顔で歯を食いしばりながら、Zはスナッティに向かって――


「すぐにデノスに戻るぞっ! あいつらは俺があらかじめ作っておいた『縮小玉コンパクト・ボール』の中に入れているっ! 巨大駆動輪ギガント・ダンパーに乗って逃げるぞっ! そこで転がっているじじぃも一緒だっ! いいなっ!?」

「……………っち」


 Zの言葉を聞いて、未だに白い煙に踊らされて戸惑っているアキ達のシルエットを見ながら、スナッティは舌打ちをして、悪魔のような睨みを聞かせ、彼女は内心こう思いながら、Zの言葉に頷いて、彼の後を追う。


 ――全員が全員、あの女の味方の様に、私を罵る。私を敵と認識する。


 ――いつもそうだった。私が何も言わないことを良いことに、誰もが私を苛めていた。家族のことや、見た目のこと、そして些細なことで苛めてくる屑野郎。


 ――あいつ等と同じだ。


 ――私はただ、いい気になっているアスカが嫌だったから、情報を売った。


 ――金を手に入れて、あんなくそ家族からも離れられるような大金を手に入れて、一人で人生を謳歌する。


 ――そう思って、ずっと進んできただけなんだ。ずっと正しいと思ってやってきたんだ。


 ――アスカの死も、密告も……。全部が運命だったんだ。


 ――私は、これでいい。これでいいんだ……。


 ――これであんな奴らともこれでおさらば。




 ――次に会う時は、よく漫画で言うところの……、敵同士だよ。




 そう思いながら、彼女とZは、白い煙の中に入って――その場から姿を消した。グゥドゥレィと、帝国が乗ってきた巨大駆動輪もギガント・ダンパー一緒に消えて……。


「っ! くそっ! 逃げられた……っ!」

「…………!」

「…………あの煙幕……Zだな……っ。甘く見ていたか……」


 逃げられたことに関して、クルーザァーとガルーラ、メウラヴダーは悔しそうな顔をしていた。そんな顔を見ていたティズは、三人のことを心配そうに見ていたが、すぐにはっと何かに気付いて――


「っは! ティティッ! 大丈夫? 怪我大きくなっていないっ? 痛くない?」

「……っ! え、ええっ! ティズは大丈夫ですか? ティズの方が肉体的にも精神的にも大きい気がします……! 大丈夫でしたかティズ?」

「うん、俺は痛み感じないから平気。と言うかティティ……、さっきよりも元気そう……」

「っは、はいっ! ティズの言葉で元気百五十倍です……っ!」

「…………それはよか……った?」


 ティズはティティの体の安否を気にしながら慌てていたが、彼女はその顔と行動、そして気持ちが嬉しかったのか、さっきよりも元気そうな顔をしてティズに感謝していた。ティズはそんな彼女を見て、どこか頭でも打ってしまったのか? と思いながら彼女を見上げていた……。しかし、これが彼女のティズに対する通常運転である……。


 カルバノグはスナッティの言葉を再度痛感して、複雑な心境のまま言葉を発しなかった。


 ガザドラはそれを見て、腕を組みながら――ただただ彼らを待っていた。仲間として、彼は口を挟まずに待っていた。彼なりの仲間への配慮であろう……。


「……仲間に裏切られて、逃げられて、本当にこの戦い、後味が悪いような戦いだったわ。ジューズーランの時のような後味の悪さね……」

「お前……、意外と冷たいことを言うな……。あと抉るな。オレだってあれはさすがに思い出したくない」

「…………当然よ。こんな状態で、私も戦いたくなかった。で、戦いたくなかったわ……。でも、こんなの、ハンナが見ていなくて、いなくて……、『よかった』って心の底から安心してしまっている自分もいる……」

「…………そう、だな。本当に、あいつがいなくて本当に良かったって思うし……」


 オレも、嫌な思いしかない。


 そうキョウヤとシェーラは、今まで起きていた戦いと、今回起こった戦いを思いながら、複雑そうに、苦しさが勝っているような表情で顔を伏せる。


 すると――その空気を読みながら、自分は多分ここにいても何もできないと悟ったのか……。


「……っと! あいつらが心配だ! 俺はこのまま子供達や連れて行かれそうになった奴らのところに行く! すぐに戻るからなっ! いいなっ!?」


 と、ゴトは慌てながらその場から離れていくと同時に――アキはこそこそと逃げようとしているブラウーンドを見ながら……、彼はこう言った。


「あんたには、いの一番で聞きたかったことがあります」


 忘れ去られていたと思い、ボルドに殴られたから伸びていたのだと思っていたが、ブラウーンドは殴られた箇所を大きく腫れさせながらこそこそと四足歩行で逃げようとしていたのだ。


 それを見過ごさなかったアキは黒い笑みでブラウーンドの服を掴み、彼はにっこりと微笑みながら聞いた。


 今まで聞きたかったが、状況が状況でできなかったことを――彼は聞いた。



「――俺の妹と、あの騎士を、どこにやった……?」



 その言葉を聞いたブラウーンドは引き攣った笑みで、泣きながら「ふぇ……ふぇっとふぇふふぇぇ……」と、腫れた頬が邪魔してうまく呂律が回らないそれで彼は泣きながらアキの要求に答えるのだった……。

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