PLAY49 巨大な迷宮 ②

 アキの言葉に対し、ブラウーンドはアキ達をとあるところに案内した。


 がくがくと自分の命の危険を感じつつも、背中から感じる殺気の銃口を向けられながらブラウーンドは青ざめた顔をしてアキの言葉に従った。


 ――あれって、よく脅迫に使うあれだよね……?


 ボルドはそれを見ながらアキの背後から感じる黒い湯気を感じ、ぞくりと背筋を這う寒気を感じながらも、思い切って口に出そうと思ったが、やめておいた……。


 もし……、『アキ君、怒っている?』などと聞いたら、きっと彼は銃口をボルドに向けて、黒い笑みで彼は「何か?」と聞くに違いないだろう……。


 ……発砲はしないだろうが、発砲しそうで怖い。


 そうボルドは思い、身の安全を優先にして口を閉ざした。


 ところで――なぜ一行がハンナとヘルナイトの行方を捜しているのか。


 そのことに関してもうわかっている人もいるかもしれないが、一応念には念を入れることにする。お約束として――


 そのことに関して簡潔に話すと、こうなる。


 このまま言ってしまえばいいだろうと、クルーザァーならば合理的にそう処理していくだろうが、できなかった。


 否――折れたが故にできなかった。


 その経緯いきさつを簡潔に説明しよう。


 誰もがスナッティとZ達がどこに逃げたのかということを気にかけていた。どこに? それは簡単な話――『BLACK COMPANY』の根城でもある『デノス』だろう。


 帝国が乗っていた巨大駆動輪ギガント・ダンパーに乗って逃げたに違いない。足で追うのは無理がある。このテントにいた魔女である隊長に話をつけないと話が進まない。アキはそう考えたのだ。


 ここに来た目的を忘れていないからこそ、アキはこう思ったのだ。


 スナッティのことも気になるけど、結局あの二人がいないと始まらない。


 だから今は――二人を先に見つけ出してから行くことが有効的だろう。


 ゆえに彼は今まで気になっていたこと、と言うか……、いの一番にしたかったことをしたのだ。それが――


 ハンナとヘルナイトの行方を知ることであった。


 しかしその案に乗らない人もいる。そのことに関してアキ達はしっかりと説得した。


 仲間が欠けている状態で先に行くようなことはしたくない。そうアキとキョウヤ、シェーラが、先に行こうとするクルーザァー達を説得した結果、現在に至っているということだ。


 ブラウーンドはそんなアキの殺気が込められた銃口を後頭部に突きつけられながら、彼は恐る恐る、震える足取りで医療区のテントの前に立って――そのテントの幕を弱々しく掴みながら……、彼は引きつった笑みで、だらだらと流れる汗を流しながら、彼は言う。震える声で言う。


「こ、ここです……」


 と言って、彼はばさりと――医療区のテントの幕をたくし上げた。


 その中を見た誰もが、そのテント内の暗さを見て、顔を顰める。


 テント内は明かりが一切付いていないが、微かに感じる砂の地には不釣り合いな肌寒さを感じる風。そして仄か――否、異常なくらいまで迫ってくる鼻腔を指す異臭。


 それを嗅いだキョウヤは、ぐっと唸りながら鼻を抓み、その場から遠ざかる。


「はぁ」


 その光景を見ていたダディエルとシェーラは、呆れた目をしてキョウヤを見ながら、奇しくも二人とも、同じことを思っていた……。


 ――蜥蜴の嗅覚が仇となっている……。と……。


 キョウヤのことを無視するかのように、リンドーはそのテント内の向こうを見ながら、困ったような声を上げて、ブラウーンドに対してこう質問する。


「あのぉー。これじゃぁ何も見えないんですけど……、明かりとかないんですか?」


 その言葉に対して、ギンロはうんうんっと頷く。紅は未だに心ここにあらずのような雰囲気を出して、その中の光景をわざと見ないように、視線を左下に逸らしている。


 それを見ていたティティは、内心呆れながら紅から目を離して――彼女はブラウーンドに向かってこう聞く。


 少しとげがある様な言葉で、彼女は聞く。


「……このテントは医療区のそれですよね? 私達はと言うか、ここにいるアキ様は『お二人はどこにいるのか?』と質問していたはずです。誰もいないように見えますが、ふざけているのですか……?」


 じろりと……。


 ティティはブラウーンドを睨む。それを見たブラウーンドは、びくりと肩を震わせ、顔の青さをさらに濃くしながら、彼は慌てて首を横に振りながら……、汗をばたたっと地面に落としながら、彼は言う。


「い、いえ……っ! ここです! ここに彼らを誘導したんですっ! それに、あなたも見たでしょうっ!? 聞いたでしょうっ!? 私が話があると言って、ここで別れた時ですっ!」

「てことは」


 メウラヴダーはその奥が見えないテントの奥を見ながら、彼は恐る恐ると言った形で、口を開いてこう言う……。



「この中に、あの二人が……?」



 と言った瞬間――アキはそのまま一点だけを見つめているその目で駆け出して、医療区のテント内に入った。一番乗りに入った。


 それを見た誰もが、ぎょっとしながらそれを見て、キョウヤとシェーラが驚いた顔をしたままアキの名を呼ぶが、アキは止まることを知らない……。


 否、すでに故障しているかのように、彼は駆け出す。ハンナがいるかもしれないところに向かって――


 が……。




「ふぅっ!」




 と、ボルドのところから出てきたこゆきが、アキの目の前にすっと現れた。


 それを見たアキはぎょっとして、こゆきを見ながら顔を驚きに染めて、すぐにその進行を止める。ききっと、足をする音と、カラコロと鳴る小瓶の音と器具の音。


 その音を鳴らしながら、アキは進行を止めて、目の前に出てきた雪の小さな魔物を見ながら――


「っ! 何止めてんだっ! そこをどけっ!」と、声を荒げた。


 それを聞いても、こゆきは首を横に振りながら「ふぅ。ふぅ!」と、アキの言うことを聞かずにその場から引こうとしない。


 それを見ていたボルドは、慌てながらアキの背後から走ってきて――


「こ、こゆきちゃん……っ! いきなり現れたらだめだよぉ……っ! アキ君驚いちゃってるじゃないか……っ! ほら、早く……。て……」


 と、ボルドはそのアキの足元を見ながら、ひくりと……、包帯越しに顔を引きつらせて、青ざめながらアキの足元を見た。


 アキはそれを見て、首を傾げながら疑問符を浮かべていたが……、ボルドの視線を追うように、自分もその足元を見た瞬間――彼は顔を青ざめながら、その下を見た。


 アキの足元より先に、道がない。否――この場合は、その先一帯に地面などない。大きな大きな、深い深い穴がぽっかりと開いていると言った方がいいだろう。


 その穴から吹き上がる冷たい風と異臭。


 その二つはそこからしていたのだ。と、アキは思った。


 ボルドはこゆきを手に乗せながら、彼はその子の頭を指で撫でてから、アキを見てこう言う。


「……もしかして……、こゆきちゃんはこのことに気付いて、君を止めたのかな?」

「でしょうね。とりあえずありがとうございます」

「あ、ううん。そんな、お礼ならこゆきちゃんに」


 と、ボルドはアキの感謝に驚きながら、こゆきを見降ろして彼は言う。こゆきはにぱっとほほ笑みながら「ふぅっ!」と、喜んでいるような顔で鳴いた。


 シェーラ達はその光景を見て、首を傾げながらアキ達に近付いて行くと、彼の足元にできた大きな大きな穴を見て、誰もが言葉を失うような顔をして見下ろす。


「……これは」

「かなりでけぇなぁ……」

「即死ですね。ここから落ちたら」

「……リンドー君、意外と惨いことをさらりと……」

「ぼくは正論を言ったまでですぅー」


 キョウヤ、ギンロ、リンドーが言う中、ボルドがリンドーの惨い言葉に対してびくびくとしながら彼の方を振り向いて言うと、リンドーは平然とした笑みで更に追い打ちをかける。それを聞いたボルドはうっと唸りながら更に顔を青く染め上げる。


 その穴を見て、シェーラはじっと顔を顰めながら、後ろの方でびくびくしているブラウーンドを見ないで聞く。


 冷たく、そして静かに怒りを含んだ音色で、彼女は彼に聞いた。


「まさか……、あんた」

「はひっ?」


 と、ブラウーンドはシェーラの怒りの声を聞いて、びくりと殻を震わせる。心なしか、顔から出ている汗の量が増えた気がする。それでも、彼女はブラウーンドを見ないで、音色をそのままにして聞き続けた。




「…………?」




 と、彼女は聞いた。ふっと――ブラウーンドの方を横目で、冷たい目を細くして、睨むようにして見てから、彼女は聞いた。それを聞いて、誰もがはっと息を呑んでブラウーンドの方を見た。誰もが見た。


 その視線を――外道のようなことをしたのかもしれないという信じられないような目をした一同を見て、ブラウーンドは……、びくびくと引きつった笑みを浮かべながら、彼は、震える水を含んだ音色で、彼は言った。


 自白した……。





「――はい……っ! 隊長と、あの二人を……、ここに捨てました……っ!」





 それだけで……、充分だった。


 その言葉を、その外道のようなことをさらりとしたブラウーンドに対して、シェーラは小さく舌打ちをして、キョウヤはぎりりっと握り拳に力を入れて、その手の中から赤い液体を零して地面に赤い点を残す。


 ギンロとガルーラは、それを聞いてぶちりと――堪忍袋の緒を引きちぎって、二人はブラウーンドに近付きながら怒声を浴びせる。


「てめえっっ! やっていいことと悪いことはあるんじゃねえのかぁっ!?」

「ここで縛っておくことだってできたはずだっ! なのになんで突き落とすようなことをしたんだっ!? そこまでしてあの状況を作り上げたかったのか? 贅沢したかったのかっ!?」


 ガルーラの言葉に、ブラウーンドはぎりっと歯を食いしばりながら……。


「仕方がなかったんだっ! 隊長は隊長で自分のことなど後回しにして、私達の食料をあんなみすぼらしい奴らに渡して! 私達のことを考えずに行動していたっ! リーダーらしい? ただ自分が褒められたいからと言う理由で、ちやほやされたいからと言う理由でこんなことをしているんだっ! 私だって贅沢したい時くらいあるさっ! だがあの男がいるからそれが出来なかった! だから! だから」


「――隊長を、この穴に落とした。突き飛ばして――か?」


 クルーザァーの氷の言葉に、ブラウーンドはもうやけくそになってしまったのか、荒々しい音色で「ああ! ああ!」と言いながら、彼は続けて――


「それ以来だよ! 帝国に協力したんだっ! その最中でで『ここに『12鬼士』最強の奴と浄化の力を持った女のガキが来るから、そいつらを始末すればたんまり報酬を与えようと言われて」

「…………………その条件に乗ったということか」


 哀れな……。と、ガザドラは腕を組みながら、怒りを通り越して呆れを顔の出しながら、首を横に振って溜息を吐く。


 それにはリンドーも同じなようで、うんうん頷きながらブラウーンドを見ていた。


 その言葉にブラウーンドはぎりっと歯を食いしばり、怒りを顔に表しながら彼は――更に声を荒げて……。


「乗って何が悪いっ! 俺だって贅沢ぐらいはしたいさっ! なのにあのへらへら野郎は『自分の私腹はいつでも満たせることができる。しかし人生の選択は一回しかない。今は他人の幸せを見ることを生き甲斐にして生きていこうや』とか言い出して、俺達よりも他の奴のことを優先にしやがった! 俺が、俺達が贅沢をしてもいいじゃないかっ! 今度は俺達が」

「順番なんて、どうでもいいと俺は思う」

「は?」


 と、ブラウーンドの言葉を遮ったのは、アキだった。


 アキは冷静な音色で、その大きな穴を見降ろしながら、ブラウーンドを見ないで彼は、静かに、怒りそのれになっていない音色で、彼はブラウーンドに向かってこう言った。


「だってそれって――ただあんたがわがままなだけで、その隊長さんが言っていることは正しいと、俺は思う」

「う、うぐぐ……っ!」

「少し考えればわかることだと思います。ゴトさんが言っていましたよね? 難民を保護したり、難病のワクチンを作ったりしているって。そんなことをしているときに、私腹なんてできるわけないでしょう? 考えたらわかることです。今は自分の幸せよりも、一人でも多くの人を救うことが一番だと」


 アキはふと――ブラウーンドのほうを見ながら、彼は厳しいという言葉が似合うようなその睨みで、彼ははっきりとした音色でこう言ったのだ。




「はっきり言って――あんたは屑ですよ。俺がこの地で見た中で、帝王とその部下達の次に、あんたは屑だ」




「…………~~~~~~~っっっっ!」


 その言葉を聞いたブラウーンドは、顔を顰めながらも、仄かに羞恥心で顔を赤くして、声にならないような声を出しながら彼は唸る。


 それを聞いて、アキはすぐにブラウーンドから視線を外して、大きな穴をじっと見降ろす。キョウヤはそれを見て、アキの背中を見ながら――


「…………、流石に、こんな底なんて見えねえ穴に落ちたら……」と、最悪のことを口にしながら彼は言う。それを聞いていたシェーラは、ぐっと下唇を噛みしめ、その穴を覗き込みながらぎゅうっと握り拳を作っていると……。



「――助かります。百パーセントで」と、ティティはその穴を見降ろしながら、はっきりと言う。



 それを聞いて、アキ達は、ボルド達は、クルーザァー達はブラウーンドはティティを見ながら驚いた目をして凝視した。


 それを見て、ティティは腕を組みながらその穴を覗き込む。ティズもティティを見ながら、慌てた様子で……。


「ほ、本当なの……? 本当に、ここから落ちて、助かるの……?」と聞いてきた。


 そんなティズの言葉に、ティティはクスリと微笑みながら「はい」と頷く。そんな彼女の笑みを見ながら、ティズは安堵の息を吐きながら胸を撫で下ろす。


 ティティはその穴の底を見ながら――みんなに向かってこう言った。いつの間にか、その手には小さな小石が握られていて、彼女はその石を大きな穴の中に向けて――ぽいっと投げ入れた。


 空き缶をごみ箱に捨てるように――投げ入れたのだ。


 それを見ていた誰もが、その小石が大きな穴の闇に溶けて消えてく光景を見て、ティティを見て、再度その穴の中を見た。その時だった。





 ――





 誰もが、その水の音を聞いて……、思考を一旦シャットダウンしてしまっただろう。ブラウーンドも同じだ。ガザドラだけはそれを聞いて、はっと何かを思い出したのか、手を叩いて「あぁ」と声を上げる。ティティはそれを聞いて、確信を持ったかのように頷く。


「…………水の音?」


 メウラヴダーは、その水の音を聞いて、驚いた目で大穴の近くで耳を傾けていると、ティティはそんな彼を見て、そしてブラウーンドの驚愕のそれを見ながら、彼女は大きな穴に目線を落としてこう言った。


「この大穴の先は水――つまりは下水道です。下水道と言いましても、この先にある下水道はただの下水道じゃないです。バトラヴィア帝国……、いいえ。このアズールすべてに繋がっているダンジョン。どこからでも入れて、どこに出るのかわからないダンジョンです。巨大で誰も踏破したことがないダンジョンとも言われている未知の場所――その名も……」


 と言って、彼女はスゥっと息を吸ってから、その穴を背景に、アキ達の方を向いて彼女ははっきりとした音色で、そのダンジョンの名を告げる。



「――『奈落迷宮』です」



「…………奈落? 迷宮?」


 ティズはそんなティティの言葉に、首を傾げながら聞いていると、彼女はティズの言葉に「そうです」と頷きながら――彼女は説明を続ける。


「この迷宮はアズール一帯に広がっています。そしてこの下のダンジョンには強力な力を持った魔物もいるほどの危険なダンジョンでもあります。しかも迷路のように入り組んでおり、路頭に迷いましたら永遠に出られない。まるで、奈落のような闇に引き込まれると噂されて、『奈落迷宮』と呼ばれるようになったのです」

「迷うって、迷子じゃねえんだから、明かりさえつけて目印でもつけていれば……」

「そう考えて行った輩もいます。しかしその人も戻ってきませんでした」

「っ」


 ギンロはティティの言葉に対して、そんなことないと言わんばかりに意見を言うと、ギンロと同じことを考えている人がいたのだろう。彼女はその人の末路も話しながら言葉を続ける。それを聞いたギンロは、ごくりと生唾を飲み込みながら言葉を詰まらせる。


 しかしティティは、そんな言葉を言った後で、彼女は「ですが」と言って、その大穴を見降ろしながらこう言った。


「あのお方は最強の人。ゆえに生還なんて動作もないでしょう。それにこの下は水です。地面ならば五分五分と言うところでしたけど、水ならば助かる可能性があります」

「あー……。よく冒険映画とかで見るあの水に飛び込むシーンか」


 ティティの言葉に、ギンロは思い出したかのように腕を組みながら言う。


 それを聞いていたアキはティティに向かって――


「――じゃぁ……、ハンナは……」と、恐る恐ると言う形で、ティティに聞いてみた。


 それを聞いたティティはアキを横目で見て、くすりと――確信するような笑みを浮かべながら頷いた。


 それは――肯定……、イエス。生きているという合図。


 アキはそれを見て、ほっと胸を撫で下ろしながら息を吐いた。よほど心配だったのだろう。


 その光景を見ていたキョウヤとシェーラの顔にも、安堵のそれが浮かび上がる。


「しかし――」


 ガザドラは大穴を見ながら、アキ達に向かってこのことを告げた。


「この迷宮――ダンジョンはひどく範囲が広すぎる。そんな広い迷宮の中であの二人を見つけ出すことは至難の業だぞ……?」

「…………目印……て、生きて帰れないとダメか……」


 ギンロは再度意見を述べたが、結局は生きて帰らないとだめなのだ。死んでしまえば元も子もない。ギンロは頭を垂らしながら頭を抱えて「あー、頭いてー……」と唸りだす。


 それを聞いて、アキはその大穴を見降ろし、脳裏に浮かんだ己の妹の姿を思い出しながら、彼はぐっと顎を引いて、その大穴を見ながらこう言った。


「――俺が行ってきます。一応探検家のスキルの『感知スキル』持っているんで、それでなんとか妹とヘルナイトの位置を探ります」

「――っ!? マジかっ!」

「一人で行くつもりですかー?」


 ガルーラとリンドーが、驚きながらアキを見る。クルーザァーはそんなアキを見ながら溜息を吐いて……。


「不合理だ」と言いながら、彼は続けてこう言う。


「後先考えずに落ちる行為はあまり好まない方法だ。このダンジョンはいろんなところに繋がっているのだろう? 出るところがわからないとは言われてはいるが、あの最強ならば」

「でも――っ!」


 と、アキはクルーザァーの言葉を遮るように、張り詰めるような音色で、彼はクルーザァーの方を振り向きながらこう言った。


「それでも、妹を一人にはさせたくないんですっ! 今すぐでも行かないといけないんですっ! もしかしたら、どこかで鳴いているかもしれないんですよ? そんなの許せるわけがないっ! 兄として、それは当然のことでしょうっ!? 探すのは当たり前でしょうがっ!」

「………………あ、ああ」


 と、クルーザァーはアキの気迫に押され気味になりながら、やむなく頷いて肯定する。<PBR>

 それを見ていたキョウヤとシェーラは、内心クルーザァーに謝りながら、アキを見てこう思った。



 ――それはお前だけだ。シスコン。と……。



 キョウヤはそれを見ながら頭を掻き――仕方がないなと言わんばかりにアキに近付きながら、彼は……。


「わーったよ。オレも行く。人数が多ければ早く見つかるかもしれねえだろうが」と言った。


 それを聞いたアキは、キョウヤを一瞥しながら、驚いた顔をして彼は――


「…………妹はやらんぞ」


 と、真剣な音色で言う。すごく真面目な顔をして、だ……。


 それを聞いていたキョウヤはその真剣な音色をそっくりそのまま返すようにし、アキを見ながら――


「お前の思考の中って、全部ハンナで埋め尽くされているの? ハンナの分身がお前の脳味噌のしわを作っているの? っていうかお前今の会話でなんでそうなった?」と言った……。


 キョウヤの意見に対して、誰もが『確かに』と頷いていた。


 その光景を見ながらシェーラは溜息を吐きながらアキとキョウヤに近付き、ボルドとクルーザァーの近くに寄った後で彼女は彼らにしか聞こえない音色で――


「私達だけで行くわ。」と言った。


 それを聞いていた二人はぎょっとしながらシェーラを見て、シェーラはアキとキョウヤを見ながらツンッとした顔でこう言う。


「私も行くわ。あの二人には言いたいことがたくさんあるの」


 その言葉を聞いて、キョウヤはよしっと言いながらシェーラの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でる。


 シェーラはそれを受けながらむすくれた顔をしてキョウヤを見上げて睨みつけた。


 アキはそんな光景を見ながら――ボルド達を見て一言……。


「この穴には俺達三人だけで行きます。皆さんはここで待機しててください」


 時間は要しません。


 それだけ言って、アキはくるりと大穴に体を向けて、飛び降りるような体制になった。それは、シェーラも、キョウヤもである。


 三人が大きく開いた闇の先を見据えて、シェーラはごくりと生唾を呑んだ。


 大きな穴から響く風の音が、まるで魔物の悲鳴のような声に聞こえるのだ。


 それでも三人は飛び込むという行為をやめようとしなかった。


 それを見ていたメウラヴダー、ティズ、そしてダディエルは驚いた顔をしたまま三人を見て――


「おい! お前ら待てっ!」

「と、飛び込むなんて、俺でないと多分死んじゃう……と思う」

「いや! 誰だって死ぬかもしれねえだろうがっ! お前らそんな早まるようなことはやめろっ! いくら仲間のためだからと言って……、おぉ!?」


 と言った瞬間、そんな止めようとしている三人の前に立ったのは――ボルドとくるクルーザァーだった。


 それを見て、ダディエルはぎょっとした顔でボルドを見上げ――固まったかのように、見上げた体制で止まってしまう。


「リーダー!?」

「どーしたんですか?」


 ギンロとリンドーも驚きながら、彼を見る。紅だけは顔を俯かせて黙っている。


 ガルーラもクルーザァーの行動を見ながら首を傾げて――


「どうしたんだ?」


 と聞くと、クルーザァーはガザドラを見ながら声を張り上げる。


「ガザドラ、できるだけ鉄の糸を作れ! 細く丈夫な糸をな!」


 その声を聞いて、ガザドラはぎょっとしながら自分を指さしていたが、糸と言う言葉を聞いて状況を理解したのか、すぐに頷いて作業に取り掛かる。


 ありったけの武器を使って、その鉄の糸を――『鋼糸カタキイト』を作る。


 それを見ていたティティは、クルーザァーを見ながらくすりと微笑んで見る。


 ボルドは手の中にいたこゆきに向かって――何かを命令すると、それを聞いたこゆきはこくりと頷いて、そのままふわりとシェーラの肩に向かって飛んでいく。


「!」


 シェーラはこゆきが自分の肩に乗ってきた光景を目にして、驚きながらそれを見て、ボルドを見ると、ボルドはシェーラ達を横目で見ながらこう言う。


「こゆきちゃんなら、きっとこの場所まで案内してくれるから――行ってあげて」

「………………そう。わかったわ」


 シェーラはそれを聞いて、目を閉じて頷きながら答える。そして肩に乗っているこゆきの頭を指で撫でながら、くすりと微笑んで――


「帰りの案内、よろしくね」と言った。


 それに対してこゆきは、笑顔で「ふぅ!」と答える。満面の笑みだ。


 それを見て、アキはみんなを止めているボルドとクルーザァーの背中を見ながら、小さい声でこの言葉を声にした。



 ありがとうございます。



 その言葉を言った瞬間、アキは勢いと言う名の麻酔を使って、くるりと踵を返すように大穴を見て、そのまま――飛び込む!


 ぶわりと、異臭と冷たい風が、鼻と肌を刺した。アキはそれを感じて顔を歪ませる。


「あ! アキっ!」

「急かさないで!」


 と、二人も同時に飛び降りる。シェーラは手にこゆきを乗せながら飛び降りて行く……。


 三人が飛び降りたのを見たブラウーンドは、へたりとその場から崩れ落ちるように座り込み、カルバノグとワーベンドはその光景を見ながら言葉と行動を止めて、それを見届けてしまう。


 ボルドとクルーザァーはそんな三人の背中を一瞬見た後で、ボルドは心で彼らに声援を送った。


 ――こゆきちゃんがいるから多分安心だと思うけど……、でも戻ってきてね。


 ――……、必ず戻ってきてね!


 ボルドは自分の過去を思い出しながら、彼らに心の声援を送る。


 自分達の様になってほしくない。


 そう願いながら……、暗い闇に向かって落ちてくアキ達五人の帰還を心の底から願った。

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