PLAY44 エルフの里の魔女 ⑤

「あ、あれが……例の蜥蜴人か……」


 キョウヤさんは呆れた顔をしてその蜥蜴人の――ジューズーランさんを見た。


 アキにぃはそれを見て、面倒くさい顔をしながら溜息を吐いて……、違う……。吐き捨てるように吐いた後、黒い表情でこう言った。


「ああ言った輩は他人から嫌われるナンバーワンの性格だ……。俺だったら縁切るね」

「そういった場合、日本にはそう言った縁切りの言葉があるって聞いたわ。確か……え」

「それ以上はだめだシェーラッ! なんかひっかかりそうっ!」


 それを聞いていたシェーラちゃんは考える仕草をしてから言葉を発しようとした瞬間、すぐにキョウヤさんがシェーラちゃんの口を塞ぐ。


 それを聞いて、メウラヴダーさんが汗をたらりと流しながら「何に引っかかるんだ……?」と疑問の声を上げていた。


 私はそれを見ながらガザドラさんの近くまで歩み寄り、そして見上げると――


 ああ、やっぱりと思ってしまった。


 ガザドラさんはぐっと、怒りを抑えるような顔をしてジューズーランさんを睨んで見ている。


 やっぱり……、親を見殺しにした蜥蜴人はいくら復讐をやめたとはいえ、その憎しみが完全に消えたわけではない。


 それを見て、私は不安そうに見上げながらガザドラさんに声をかけようとした時――


「――だっかっら! もう帰れこの野郎っ!」

「!」


 突然オヴィリィさんの声が里中に広がった。ように聞こえた。


 それを聞いた私はびくっと肩を震わせて、声がした方向を見ると――私は驚きながらその光景を見てしまう。


 冒険者であるみんなも、驚きながらそれを見て口をあんぐりと開けて呆けた顔をしていた。


 誰だって多分驚くだろう……。


 なにせ――


「なんでそんなに私に付きまとうんだよっ! このイカれ蜥蜴っ!」


 さっきまで困って、挙句の果てには殺してほしい (そう願ったとしても、私はそれを絶対に回避する選択をする)と言っていたオヴィリィさんが、そのジューズーランさんの首元を掴み上げながら怒りの頂点の様な爆発した音色で叫んでいたから、誰だって驚くのは無理もない。


「なぁ……、さっきまで『助けてくれ』って言っていた女か……?」

「助けてとは言ってねえ。殺してくれって言っていたぜ。俺はそん時『殺し屋の仕事だろう』って突っ込んだからな。覚えている」

「女はあれくらい強くなきゃいけないんだよ」

「それで婚期を逃しても?」

「こらリンドーくんっ! そんな悪ふざけは大概にしないと……っ!」


 ギンロさん、ダディエルさん、紅さんとリンドーさん、そしてボルドさんのひそひそ声が聞こえる。


 それを聞きながら私は、再度ガザドラさんを見上げると――


 ガザドラさんは、視線の先にいるジューズーランさんを見ていた。


 目を離さないように、しっかりとジューズーランさんをさんを捉えて……。


 それを見ていた私は、小さい声でガザドラさんに向かって名前を呼んだ。するとガザドラさんは、私の顔を見ないでこう言ってきた。



「心配しなくともよい」



「!」


 驚く私をしり目に、ガザドラさんはぎゅうっと握り拳を作りながらその光景を見て言った。


「吾輩はもう復讐をやめた身。『六芒星』ではない。今の吾輩はただの竜蜥蜴人のガザドラ。ただ滅亡録に記されてしまった憐れな種族」


 しかし――と言って、ガザドラさんはぐっと爬虫類の口をきつく閉じて、そして震える口でそっと開けながら……彼はこう言った。


「情けない話……っ。復讐に囚われずに生きろと、部下に命令したはずが、再度復讐に囚われそうになっているのも事実……。これでは二の舞だ……」


 これでは……、結局変わっていないことになるな……。


 そうガザドラさんは言い、そして――私を見下ろしながら、私を真剣な目で見て、ガザドラさんははっきりとした音色でこう言った。


「吾輩が先に出て攻撃しようとしたのなら、。盾で身を守るあれをな。吾輩の攻撃を防御する様にしてほしい」


 いいな? と言ったガザドラさん。


 それを聞いた私は、くすっと微笑みながら頷いて――


「わかりました」と言う。


 それを聞いたガザドラさんは『良し』と言いながら、私の頭に手をボスンッと置いて、くりくりと回すように撫でた。


 う~ん。


 なんだかいつもヘルナイトさんが撫でてくれるから、こう言った『くりくり』とされるのは初めてだな……。でも首がなんだかきついような……。


 そう思っていると……。


「おやおや――そんなに怒ると、隠している美貌が台無しになりますぞ? オヴィリィどのよ」


 ジューズーランさんが首を掴まれながらも優雅に溜息を吐きながらオヴィリィさんを見て言うと、オヴィリィさんはそれを聞いて、苛立ちが更に高ぶったのか、ぎりっと歯軋りをしながらこう怒りを叫ぶ。


「誰のせいだと思ってんだ……? 誰の……っ!」

「んーむ。それはわかりませんなぁ。いったいどこぞの馬の骨なのか?」

「馬じゃねえよ……っ! 蜥蜴の骨を持ったお前のせいだろうが……っ! おかげでこっちは毎日毎日苛立って仕方ねえんだよ……っ!」


 ……、今にして思うと、オヴィリィさんに苛立ったり感情が高ぶると――言葉がすごく汚くなるんだなぁ……。そう思いながら私は、入ってしまうと危ないオヴィリィさんとジューズーランさんのその会話を見ることしかできなかった。


「しかしあなたのような美貌を持っているお方が、こんな貧相なところで配偶を持たないまま生涯を終えてはいけないでしょう。あなたのその力――次の世代に残す価値がある。そう私は言っているのですよ」

「お前寝てんのか? 寝てんのなら私が起こしてやろうか? その後でもう一回永遠の眠りにつかせるけど。この『ハーレム野郎』」

「なんとおめでたい言葉かっ! まるで生涯を誓い合う伴侶の言葉ではないかっ! 嬉しく思うぞ我が妃っ!」

「…………っち」


 とうとうオヴィリィさんは、舌打ちをしながらそっぽを向いてしまった。顔が隠れているにも関わらず、その顔の表情が見えてしまうような、そんな雰囲気を出してそっぽを向いていた。


 それを見て、そして話を聞いていたワーベンドの皆さんは……。


「何ですかあれは……。まるで妄想をしている輩にしか見えませんね。砂丘蜥蜴人サンディランド・リザードマンの方が」

「そうだな。あまりに不合理で自己中心的な会話だ。まるで相手の言葉なんて聞く耳を持っていない。相手はどうやら求愛を申し込んでいるみたいだが、あんなの不合理にして百パーセントの確率で断られるだろう」

「自分……。あんな恋したくないっす。あんな彼氏ほしくないっす。あんな自己中いらないっす」

「……ずいぶんひどい会話だな……。なぁ?」

「あたしもさっき起きたばかりだけど、見ただけでわかった。あれは完全に嫌われる輩だな」

「………………幸せそうじゃない」

「「「「「あれを参考にしてはいけない。ティズ/君」」」」」


 最初にティティさんが言ったことを金切りに、クルーザァーさん、スナッティさん。メウラヴダーさんに、さっき起きたガルーラさん。そしてティズ君 (ごめん、私の知識を参考にした結果の言葉だよね? ごめんね、ティズ君……っ) が言い、ティズ君の言葉に対して驚いた目をして張り詰めたような音色で制止をかけた皆さん。


 それを聞いたティズ君は、首を傾げながら頭に疑問符を出していた。


 ごめんね……。ティズ君……。


 そんな話を聞いていると――ジューズーランさんはオヴィリィさんを見ながら、にっと余裕の笑みを浮かべながら、首を掴んでいるその手首を、つぅっと爪が生えているその手でなぞりながら――ジューズーランさんはこう言った。


「私はそんな貴様の男勝りなところも惚れている。しかし――いつまでもそんな態度でいいのかな……?」

「っ!」


 その言葉を聞いて、刺青のところを撫でたジューズーランさんを睨みながら、オヴィリィさんは苛立った顔をして、怒りを抑えたような苦しい音色で――「お前ぇ……っ!」と唸ると、それを聞いてジューズーランさんは手を上げてまったくと言わんばかりに首を横に振りながら――彼はこう言った。


「そんなに牙を立てるなオヴィリィどのよ。私はあなたと円満に夫婦になろうと思ってここまで来たのだ。 円満と言うことは平和と言うことでもあり、どちらにしても何のデメリットもない結婚と思った方がよろしいのではありませんのかな?」

「円満とか平和とか……」


 オヴィリィさんはぎりっと歯を食いしばりながら――ジューズーランさんに向かってこう怒鳴った。







「え?」


 その言葉を聞いた瞬間、私は思わず声を上げてしまった。


 隷属――すなわち奴隷と言う意味だ。それを聞いていたガザドラさんは、ぐっと口を噛みしめながら顔を歪ませて、そして苦しそうな顔をしていた。


 それを背後から見ていたのか……、ボルドさんは駆け寄りながら「ガザドラ君……。大丈夫かい?」と聞いてきたけど、それを聞いていたガザドラさんは、ぎゅっと握り拳を作りながら震える声で――


「な、何でもない……。大丈夫だ……っ!」と言った。


 それを聞いて、私はそっと、ガザドラさんが見ていた方向を見る。


 そして――目を疑った。


 ジューズーランさんの背後にいた兵士達の首元を見て、私は驚きながら口を手で押さえつけた。


 彼らの首元には――かなり大きめの手錠の様に、大きな首輪が首元に施錠されていて、その施錠の先にあった鎖の後を辿っていくと、ジューズーランさんが乗っている蠍の尻尾に巻き付けられている。


 ジューズーランさんの真後ろにも人がいて、その人達は女の人達で白いボロボロの服を着せられている。一応言っておくけど……蜥蜴人ではない。


 人間の女の人三人で、手と足には、女の人には重すぎる手錠がされて、首元には同じように鉄の首輪のようなものがされていた。


 その人達を見て、私はぎゅうっと、胸に手を当てて握りこぶしを作ってしまった。


 思わず――なんてひどいことをするんだ。と、ジューズーランさんを見て、胸の奥から燃え広がる何かを感じた。顔にも出そうなくらい、嫌な気持になってしまったのだ。


 ボルドさんもそれを見て――はっと息を呑みながら言った……。


「なんてひどいことを……っ!」


 心の奥から膨れ上がる赤いもしゃもしゃを出しながら、ボルドさんは言う。


 そんな私達に気付いていないのか、ジューズーランさんはオヴィリィさんを見上げながら、優雅に余裕そうな顔をしてこう言う。


「なんだ。そんなことか」

「そんなことって、あんた恥ずかしくないのっ!? そうやってくその様な帝国に頭を下げて、あろうことか部下や他の奴らを帝国に売って、自分は悠々自適に一雄宴ハーレムをしていて楽しいのっ!? あんなに勇敢だった砂丘蜥蜴人としての誇りはどうしたのさっ! あんたよりもあんたの親父さんの方がもっと話が合った! 理解し合えたよっ! こんな女好きと一緒になるなんて、私は死んでもごめんだねっ!」

「親父は親父。私は私だ」


 高らかに言いながらも、オヴィリィさんの手を強引に引き剝がしたジューズーランさん。


 その引き剝がしを受けて、オヴィリィさんはよろけながらジューズーランさんを見て、じろりと認識できないその目で睨みながら――彼女はぽんぽんっと腰に巻いた白い布を手で払うジューズーランさんを見る。


 すると――ふぅっと息を吐いたジューズーランさんは、オヴィリィさんや他のエルフの人達を見ながら、「やれやれ」と言いながら頭を抱えて――困ったような音色でこう言った。


「いつまでも古い風習に囚われてばかりではだめですぞ。そんな風習を吹き飛ばすような新しい風。時代が必要な時があります。これはその手始め。そう――己の流儀など二の次。今の時代に必要なのは――」


 ジューズーランさんはバッと両手を上げながら、高らかに天を見上げてこう言った。



「――適応力っ! だ!」



「…………適応力?」


 そんな言葉に、アキにぃは唸るように声を出しながら言う。そしてざわりと、エルフの人達が驚きながら首を傾げていた。


 ジューズーランさんはそんなアキにぃの言葉など耳に入れていないようで、そのままオヴィリィさんをきっと見つめながら……、と言うか、きっと睨んでいるのではない。ただ優雅に見つめながら――彼は言う。


「そう! 各々の風習や一族の誇りなど、この地には不要ということです! それすなわち帝国の歯向かう者として蹂躙されるのが末路! 今の時代――各々の意見を聞く余裕などない。そしてそんな古ぼけた風習に囚われてしまえば、その風習と共に死んでいくことになるっ! そんなの嫌だろう? オヴィリィどの」

「別にいい。だって私はこの里大好きだもん」

「そうかそうかっ! しかしそんな大好きな里を壊したくないだろう? となれば選択など一つしかない」


 一通り言い終えた後、オヴィリィさんの言葉を聞いて頷くと……、すっとオヴィリィさんに向けて手を伸ばすジューズーランさん。


 その手を見て、オヴィリィさんは「?」と、その手を見つめてから、ジューズーランさんを見ると……、ジューズーランさんはきりっとした目でオヴィリィさんを見つめながら――低く、そして優雅な音色で、囁くようにこう言った。




「私と一緒に来い。未来のきさ」

「やです。もうこれで何回目の告白よ」




 オヴィリィさんはそんなジューズーランさんを見下ろしながら言った。


 なんだか見下すような目で……、その目のまま、オヴィリィさんの「えっと……」と言いながら、指折りで何かを数えた後、あぁっと思い出したかのように言って――


「これで……。いや、千五百六十三回か……。んで、これで千五百六十四回目の破局か……」

「どんだけ振られてんだ……っ!」


 それを見ていたキョウヤさんは小声で驚きながら突っ込みを入れている。


 それを聞いていたシェーラちゃんは呆れて溜息を吐きながら「呆れた……。どんだけ告ってんのよ」と、言う。


 それを聞いて、私はその気持ちを見て思った。


 この人のその気持ちは――嘘であって違う。


 なんだか意味が分からないと思うだろう……。それもそうだ。


 ジューズーランさんさんは、本当にオヴィリィさんのことが好きと言うもしゃもしゃを出しているけど、そのもしゃもしゃは純粋な桃色ではなかった。


 ヘルナイトさんの様な人間が大好きと言うそれではない。


 アルテットミア王の様な他種族や国民全員、アズールのみんなが大好きと言うもしゃもしゃでもない。


 そのもしゃもしゃにあったもの――それは……。


 桃色の中に含まれる、どろりとした、濃い緑と黄緑が混ざった粘っこいそれ。


 その粘っこいものは初めて見たもしゃもしゃで……、なんだろう……。


 私はぎゅっと己を抱きしめながら、少しずつ……。ほんの少しずつ……。顔を下に向けて俯く。


 なんだろう……。私は思った。


 ジューズーランさんを見て……、思わず怖いと思ってしまった。


 気持ち悪いような、苦しいような……、そんなもしゃもしゃに中てられて……、私はぎゅううっと尾上を抱きしめる。


「! ……? どうした? 天族の少女よ」


 ガザドラさんの言葉を聞いても、私は答えるということができないくらい、気持ち悪さに中てられてそのまましゃがんでしまう。


 それを見て、ボルドさんも慌てて――


「どうしたんだい? 何かあったのかい?」と、驚きながら私の近くにしゃがんでくれた時……。


「……そこまで反発するのでしたら……」

「? ――っ! ちぃっ! ちょっと!」


 ジューズーランさんとオヴィリィさんがなんだか口論している。そう思って顔を上げた瞬間……。


 上ずって、悲鳴みたいな声が、私の口から零れる。


 そしてガザドラさんとボルドさんが、私の目の前に現れた、布で顔を覆ったジューズーランさんを見て、私の前に出る。


 ぶわりと――風がエルフの里を吹き抜けた。


 そして、みんなが来ている衣服がはらりと靡いて、私の帽子が飛ばされそうになったけど、それをを押さえないで茫然としていると、中にいたナヴィちゃんが驚きながら「きゅっ!」と帽子に噛みついた音が聞こえた。


 ナヴィちゃんの噛み付いた声と、そのあとに聞こえた威嚇の声に、私は見ることも、感じることもできないで――目の前にいる、顔を覆った布をはためかせながら、私を見下ろしてるジューズーランさんを見た。


 ジューズーランさんは言った。


 ばさりと――顔を覆っていた布がはだけて、その中から覗かれる……。



 、口元を歪ませながらこう言った。



 、こう言ったのだ……。



「――ちょうど、帝国で噂になっているのだ。青髪の天族の少女が、帝国の平和を乱すと……」


 ジューズーランさんは私に向かって、手を伸ばしながら、にやりと先ほどの優雅な笑みとは違う、邪悪な笑みを浮かべて――


「――ゆえに、この女を帝国に献上して、上物の奴隷女と交換するとしよう」


 と言った瞬間――


 がしりと掴まれる肩。


 そして――


「一緒に来い。女」と、私の肩を掴み、抓むようにして持ち上げようとしたジューズーランさん。それを受けた私は、肩から来る痛みに顔を歪ませて……。


「いた……っ!」と声を上げてしまう。


 その声を聞いたジューズーランさんはにっと笑みを浮かべながら、私を見下ろして鼻で笑いながらこう言った。


「こんなに弱いくせに、なぜ帝王はあんなに怯えているのか……。こんなちっぽけな女――こうして」


 ぐっと抓んでいた手を丸めて、私の肩にその尖った爪を食い込ませるようにしたジューズーランさん。それを受けてびくっと体を震わせて痛みに耐える私。


 それを見てか、ガザドラさんがそれをみて怒りを露にしながら――


「貴様っ! それ以上弱者の甚振りはやめろっ!」と、止める声を上げたのだけど……。それを聞いていたジューズーランさんは、ガザドラさんを横目で一瞥しながら、小馬鹿にするような目つきでこう言った。


「おやおやぁ。これはこれは……。穢れた蜥蜴人の血と落ちぶれ竜族の血が混ざった異端児にして滅ぶべき種族の者……、えっと……。名前は何と言ったかな? ガザンドロ? だったかな?」

「っ!」


 その言葉を聞いて、周りにいたエルフの人達がガザドラさんを見て驚きの目と恐怖の目をして見て、そして少しずつ離れて、私達から遠ざかっていく。


 するとそれを見たジューズーランさんはこう言った。


「此度はどうしたんだ? まさかこんな幼気な少女を我が物にしようとしてここまで来たのか? そんなに鬱憤が溜まっていたのか? えぇ?」

「っ! ちが……っ!」


「まぁまぁ皆まで言うな。しかし残念だったなぁ……。この女は今私は帝国の連れて行こうと思っているのだよ。残念残念。君たちは世界を変えたいと思って行動していたのだろう? だがそんなの無駄なあがきと言うものだ。今の時代は適応せねば生きていけない。従順たる者こそが生きていける世界なんだよ。一人だけ違う意見を言ったとしても、多数決と言うもので決まるのがこの世界だ。帝国の国民全員は――この女の処刑を心待ちにしている。ゆえにこれは絶対的運命なんだ。多数決と言う絶対的な決定案で、そして適応の邪魔をする者に対して当たり前な罰なのだよっ!」


 悪かったな。と言って――ジューズーランさんは私を物の様に掴み上げようとした。肩から微量の血がこぼれて、服と防具を汚す。


 それを見て、痛みを感じた私は、「……………っ」と声を漏らした。


 刹那だった。




 ――めしゃぁっっっ!




 背後にいたボルドさんが、力一杯握った拳で、ジューズーランさんの顔面に向けてそのまま力一杯めり込ませたのだ。


 それを受けたジューズーランさんは、「うぎゅぉっ!」と声を漏らしながら、私の肩から手を離して、そのまま空中でぐるんぐるんっと回りながら自分の部下にして奴隷の人達に向かって飛んで行って、そのまま突っ込んでしまう。


 ごしゃぁっと、盛大な音を立てて。


 それを見て、私はそのまますとんっと地面に着地して、その光景を茫然として見た。私と同じように茫然として見ているエルフの人や、それを見てほっと胸を撫で下ろしながらよしよしと頷いているオヴィリィさん。


 ボルドさんは、拳を振り下ろした状態で――怒りを露にしている顔でこう言った。


「男性はね――女性を傷つけてはいけないんだよ……? それは古今東西常識なんだ……」


 君――常識なってないね……っ! と、低く、怒りと呆れが混ざった音色で言うボルドさん。なんだか怖い……、見た目と相まって……。


 ざわざわと周辺の空気が騒めき始める。私も驚きながらそれを見ていると――


「ハンナッ!」

「!」


 背後から聞こえる凛とした声を聞いて、私ははっとして、くるっと背後を見ると――そこにいたのは……。


「ハンナ――大丈夫……っ!?」


 ヘルナイトさんは私を見て、その方の傷口を見て驚きの声を上げて見下ろしていた。


 ヘルナイトさんは私を見下ろして――そして申し訳なさそうな顔をして、言葉を発しようとしたけど、ぐっと言葉を噤んでしまう。


 それを見た私は、わたわたと手を振りながら慌てて――


「あ、あの……。大丈夫ですよ……。かすり傷ですから……」と言って、私はヘルナイトさんを宥めようとした時――


「あんたもあんたよ」と、近くにいたシェーラちゃんがヘルナイトさんの背後から出てきて、肩を竦めながら溜息を吐いて言ってきた。それを聞いた私は首を傾げながらそれを聞いて、シェーラちゃんを見ると、シェーラちゃんはそっと背後を見て、暴れかけているアキにぃを拘束しているキョウヤさんを見ながら……。


「ああ言った場合は、すぐに暴れて逃げればいいのに……、なんで逃げなかったのよ」


 危うくやばいことになりそうだったのよ。


 呆れるように怒られ、私はうっと唸ってしょんぼりとして顔を俯かせる。それを見て、シェーラちゃんは溜息交じりに私の背後を見て――そしてこう言った。


「まぁ――怒るのはでいいわね」

「?」


 そう言われて、私はふと背後を見ると……。はっとして驚いの声を上げた。私の視線の先にある光景。それは――


 ジューズーランさんがよろめきながら細い剣を抜刀して構えながら、目の前にいるボルドさんとガザドラさんを睨んで、今まさに戦闘が開始されそうになっているところだったのだ。


 ジューズーランさんは、鼻のところを手で押さえながら、彼は言った。


「いったい何のつもりだ……っ! 私は砂丘蜥蜴人の長にしてバトラヴィア王から加護をもらっているジューズーランであるぞっ! 一介の冒険者、否! 『六芒星』を匿っている冒険者が、一体何のつもりだっ!」

「僕達は彼を匿っていないし、それに彼はもう『六芒星』をやめたんだ。僕達は仲間として、そして徒党のメンバーを助けるために前に出た男だよ?」

「何をぬるいことを! そんなことをして、このようなことをして、バトラヴィア帝国に歯向かい、を敵に回すようなことをしてからにっ! 貴様等は正気かっ! って、ううん?」


 と、ジューズーランさんはじとっと、ボルドさんと、そして前に躍り出ていたダディエルさんを見て――顎を撫でながら彼らを見た瞬間、はっと何かを思い出したのか、「ほほぅ」と言いながら、緊迫のそれから余裕のそれに変えて、ジューズーランさんは言った。


「そういえば……、見たことがあるな。貴様ら五人」と、ジューズーランさんはカルバノグの五人を指さしながら、にっと狂気の笑みを浮かべながらこう言った。



「そうだそうだ。貴様らは確か……、か、こんなところにい」



 と言った瞬間――


 ひゅんっと言う音が聞こえたと同時に、ジューズーランさんはそれを感じて、手に持っていた剣でそれを『ギィンギィンッ!』とはじいた。


 カラン、カランと、地面に落ちたそれを見た私。地面に落ちたのは――苦無だった。


 それを見て、再度前を見た時――ふわりと、私を覆うように、後ろから肩に手を回して抱き寄せてくれたヘルナイトさん。


 手には背にかけているマントを掴んで、私を包み込むようにして抱き寄せてくれていた。


 それを感じながら私はヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんは何も言わずにそのまま、目の前の光景を見るだけだった。


「?」


 どうしたんだろう……。ヘルナイトさん……。すごく複雑で、色んな色のもしゃもしゃを出している……。そう思いながら見上げて、そしてそっと前を見る私。すると――


「『囲強盾エリア・シェルラ』ッ!」


 ボルドさんは手を上に掲げて叫ぶと、そのままボルドさんとダディエルさん達、そしてジューズーランさんを包み込むように、半透明の半球体が、どんどん広がっていく。


 それを見ていたエルフの人達や追い出されるように走ってきたオヴィリィさんと村長さんを担いでいるアルゥティラさんに、それを見ながら後ろに跳び退くみんな。


 私はヘルナイトさんの腕の中に一時期収まっているため、その腕の中でその光景を見ていた。シェーラちゃんも一緒に跳び退きながら。


 そしてあるところでピタッと止まると、それを見上げてエルフの人達やみんなが、驚きの声を上げる。それもそうだろう……。


 なにせ、大きく広がった『囲強盾エリア・シェルラ』のドームの中に、ボルドさん達カルバノグとジューズーランさんが取り残されていたからだ。


 まるでその中自体が――闘技場の様な風景を思わせている……。直径は大体五十メートルと言うところだろうけど……。


 私はそのままヘルナイトさんの腕の中から降りて、その半球体にそっと触れながらボルドさん達を見た。心配そうな顔が半球体に映りこんでいる……。


「君――言って良いことと悪いことがあるんだよ……?」


 と言いながらボルドさんはばしんと握り拳を作って、それを反対の手に打ち付けるようにして叩いた後……、近くにいたダディエルさん、ギンロさん、紅さんとリンドーさん、そしてガザドラさんに向かって――落ち着いた声でこう言った。


「みんな――この里の魔女さんから言われたこと、わかっているよね?」

「「「「おぅ!/はぁい!」」」」

「うむっ!」


 その言葉を聞いてみんなが頷くとボルドさんは言った。ジューズーランさんを見て、指をさしながらこう言った。


「永遠なるお引き取りをお願いします。そして呪いの解除もしれくれれば、助かります」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る