PLAY44 エルフの里の魔女 ④

「呪い? 呪いにかかっているなら……、お前等メディックのスキルで」


 ガルーラさんは平然とした顔で私とボルドさんを指さして言う。


 それを聞いたボルドさんは、手を振りながら首を横に振って――


「ごめんね……。僕まだ回復スキルレベル6で、今丁度『大治癒ヒーリア』を習得したばかりで」


 と言った瞬間。


 それを聞いていたクルーザァーさんは溜息を吐いて、ボルドさんを横目でジロッと見ながら吐き捨てた。


「使えない。不合理のスキル配分だ」


 腰に手を当てながら言うクルーザァーさん。


 それを聞いてボルドさんは包帯の顔で泣きながら「ひどいよぉ!」と叫ぶ。


 それを見ていた私は少しボルドさんが可哀そうに見えてきたけど、クルーザァーさんは私をじろっと見下ろして、少し苛立った音色でこう聞いてきた。


「お前は?」

「あ、あの……」


 私は少しびくっと驚いて見上げてしまい、そのままクルーザァーさんから目を逸らしながら……。


「り、『異常回復リフレッシュ』は使えますけど……、それでも『呪いカーズ』を解くことはできません」


 ごめんなさい。と、申し訳なさそうに私はびくびくしながら頭を下げた。


 そして頭を上げてクルーザァーさんを見ると、クルーザァーさんはふむっと頷きながらすっとオヴィリィさんを見て――


「だそうだ。すまないな。不合理なお化けリーダーがいて」


 クルーザァーさんは冷静にそう話した。


それを聞いていたボルドさんはぷんすかと怒りながら腕を振った。


「だからひどいってばぁ! 僕で遊ばないでっ!」


 ………もう本当に怒っているのだけど、可愛い仕草と音色のせいで本当の怒っているのかわからない。そんな音色と行動で怒るボルドさん。


 それを見ながらメウラヴダーさんは細めでその光景を見ながら――


「遊んでいないけど、その姿でそれはやめてくれ」


 冷静に、そして少し呆れながら突っ込みを入れる。


 するとそれを聞いていたオヴィリィさんは溜息を吐きながら頭を掻いて、少し苛立ったような音色で――


「違う」と言った。


 それを聞いた私達は、首を傾げて聞いて見た。


「でも――呪いってそうなもんじゃないんですか? よく呪い状態とかそんな」


 アキにぃが代表として聞くと、それを聞いていたヘルナイトさんはアキにぃの肩を叩く。


 それに気付いて、アキにぃは「?」と、声を上げながらヘルナイトさんがいる背後を見ると――ヘルナイトさんは首を横に振りながら言った。


「よく聞く状態異常ではなく、オヴィリィどのが罹っている呪いは、正真正銘の呪い――

「…………瘴輝石による?」


 その言葉にキョウヤさんは首を傾げながら腕を組んで言うと、それを聞いていたガルーラさんは腰に手を当てて首を捻るように唸りながら――


「ショウキセキって、なんだっけ?」と、疑問の声を上げた。


 それを聞いていた私達は、目を点にしてガルーラさんを見て、その時ふとダンさんの面影が見えた気がした。


 するとそれを聞いていたティティさんは、おほんっと咳込みながら――ガルーラさんを呼んでこう言う。


「いいですか? 瘴輝石とは――この地にいる聖霊族の魂の塊。聖霊族の心臓とも言われています。アズールの国の者達の大半……。いいえ、魔女の力を有しているものと、私達鬼の者以外は、異国のあなた方の様に魔力を有していません。瘴輝石は魔力の塊です。それを戦力として、魔道具の生成。アークティクファクトの生成、そして生活の糧として使っているのです」

「うん」

「聖霊族は人間と同じように、体と心臓で成り立っていますが、その依り代となる体が朽ちてしまえばその時点で、聖霊族は瘴輝石だけとなり、人間のためにその命を賭します」

「とし……? 年を越す?」

「命を懸けてその人を守るとか、役に立つってことだ」


 ガルーラさんはそれを聞いて首を傾げていたけど、文字の間違いがあったことに気付いたメウラヴダーさんは、呆れながら補正を入れる。


 それを聞いてガルーラさんは「あ、ああ」と納得する様に頷く。


 ティティさんは続ける。


「しかし、みなさんご存知の死霊族は違います。死霊族の中に入っているそれは――元々人間の魂が入ったもので、聖霊族ではありますが、そうではありません。生きていた種族の魂をその石に閉じ込めて、その『屍魂』の瘴輝石を使って死体や生体にそれを植え付けることで、憑依する。それが死霊族です。彼らは肉体が腐り次第、また別の依り代となる人間の体を使って生き永らえるか、部分的な腐敗を切り捨てて、新しい体の部位を手に入れて戦うかで生き永らえます。彼等を倒す術が二つ――『屍魂』の瘴輝石を壊すか、浄化する。それだけです」


「…………そう言えばそうだったな……。色々ありすぎて忘れかけていた……。そして新しい情報も聞いたなぁー」


 キョウヤさんが思い出しながら言うと、それを聞いて私も思い出す。


 その時は確か、クロズクメとエディレスと相対した時のこと、ヘルナイトさんから聞いた話だ。


 それを思い出した私は、そっと防具に埋め込まれた石を指で撫でる。


 その石はエディレスの魂だった石。


 私はその石を見ながら、そして国境の村で、シイナさんに渡した石を思い出す。元々――あの中にあったものは、人間の魂。生きて死んでしまった未練ある魂だった。それを使って、ネクロマンサーのリーダーはどうするつもりなのだろう……。


 リョクシュが言っていたあのお方は、一体何を考えているのだろう……。


 そう思っていると――


「………すまん。ティティ」

「?」


 メウラヴダーさんの苦しく、そして申し訳なさそうな音色で、ティティさんを見て言う。


 それを聞いていた私達は、首を傾げながらメウラヴダーさんを見て、そしてガルーラさんを見た瞬間、目を点にして驚いてしまった。


 なぜって? 簡単な話――


 メウラヴダーさんは、苦しく、震える声でこう言った。



「ガルーラの頭はもうショート寸前だ……っ!」



 ガルーラさんの肩を掴んで、倒れないように支えているメウラヴダーさん。ガルーラさんは頭から湯気を出して、目をコミカルな白目にして気絶してしまっている。


 すごく頭を使って気絶してしまったらしい。それを見ていたキョウヤさんは「漫画かっ!」と突っ込みを入れて驚いて、アキにぃも驚きながら「頭と、それに耳の穴からも出てきたっ! すごいショート具合っ!」と、少しずれた突っ込みを入れて、シェーラちゃんもそれを見て呆れながら「どういう頭の悪さをしてんのよ……」と言った。


 それを見ながら、私は困ったように微笑んで首を傾げる。


 やっぱり、なんだかガルーラさんを見ていると、ダンさんを思い出してしまうのは……、私だけなのかな……?


「俺も頭痛くなってきた……」

「ちゃんと理解しろ――馬鹿野郎」


 そして、背後から聞こえるギンロさんとダディエルさんの声を聞いて、私は再度困ったように微笑んでみた。


 それから――オヴィリィさんは話を再開して……。


「んで、私の顔と体にある刺青のようなものは、全部瘴輝石のせいでこうなっているの」

「お飾りじゃないんですねー」


 リンドーさんはほえーっと言いながら驚いた顔をしていると、オヴィリィさんはびきっと手の指をがきっと角ばったそれにして……、リンドーさんと、近くにいたギンロさんと紅さんを巻き込むようにして――こう怒鳴った。


 すごい剣幕のそれで……。


「ばっかかお前らはっ! エルフ族は体につけるのは切り傷だけって決まっているのっ! 刺青とかは未亡人がつけるもんでしょうが! 私はまだ結婚していないし、そもそも結婚する気ねえからっ!」

「わああああっ。待って待って! ぼくはそんな理由で言ったんじゃないんでっ! 怒るなら同じ独身のこの二人にぃ」

「「あぁっ? 最年少ふざけんなこらぁっ!」」


 リンドーさんは笑みの表情のまま青ざめて、手でガードしながらオヴィリィさんのドアップの顔を阻止した。


 そんなリンドーさんの言葉を聞いて、紅さんとギンロさんは、怒りの表情でリンドーさんに対して怒鳴った。


 それを見て、ガザドラさんは「まぁまぁ」と言いながら、その二人の間に入りこみながらオヴィリィさんを見て――特に体中にある刺青を見ながら、ガザドラさんは言った。


「しかしその刺青……、吾輩は見たことがある。特にその黄色の刺青……。それは確か」

「! あぁ……」


 オヴィリィさんは高ぶっていた感情を抑えるようにして、リンドーさんから離れ、その手首を指で撫でながら……、小さく。


「そう」と言って、続けてこう言った。




「――




 え?


 と、私は思わず声が出ないまま、心の声で言ってしまう。


 でも、みんなそんな驚いた顔をしてオヴィリィさんを見て、そしてその手首を見てやはりと言うか何かを察したのか腕を組んで神妙そうな顔をしていたガザドラさん。ティティさんやヘルナイトさんも同じように頭を抱える。


 その話を聞いても、オヴィリィさんはそのまま話を続ける。


「なんでこの里から出られない魔法をかけたのか……。それは私をこの場所から逃がさないため。もしこの規則と言うか、里から出ないっていうそれを破ったら」


 と言って、オヴィリィさんは体中に彫られている黒い刺青に触れながら――真剣で、少し悲しさを帯びた音色でこう言った。


。一回破ったら一人の命を奪ってね……。その証拠として、この里全員の体のどこかに、刺青の一部が彫られてて、一人消えると同時に私の刺青の一部が穴抜けの様に消える。今はまだ誰もいなくなっていないけど。それでそいつらに反撃しようと、みんなピリピリして訓練しているの。ああ見えてみんな、あいつ等に踊らされるのは凄く嫌なんだ……。だから一刻も早くこの呪いを解きたい。そう私は思っている」


「なに、それ……」


 思わず、私は声を漏らしてしまった。


 つまり――オヴィリィさんは里から出られない呪いをかけられて、その呪いの規則を破ると、里の人の命を奪う。


 里の人たちが消えると同時に、オヴィリィさんの体に彫られた刺青がパズルのひとかけらの様に消えてなくなる。


 まるで村人そのものが人質のようなそれだ……。


 それを聞いた私は、オヴィリィさんを見て、驚きながら強張った顔をして、自分でも今鏡を見たら歪だと思えるような顔で、私はオヴィリィさんを見て聞いた。


「な、なんでそんな……ひどいことを?」


 私はぎゅっと胸に当たりで握り拳を作って、こみ上げてくる苦しさを手の中に留めるようにして、震える声で言った。


 それを聞いて、誰もが私を一回見てから、そしてオヴィリィさんを見る。


 オヴィリィさんはそんな私の言葉を聞いて、ふぅっと溜息を吐きながら、頭をがりがりと掻いて――思い出すのも嫌だという雰囲気を出しながら、オヴィリィさんは言った。


「ひどいことをした理由なんて――すんぐぉおおおおおおおおおおおおおーっっっっくくだらないよ」

「すんぐぉーくって……、どんだけ嫌な理由なんだろうな……」


 逆に気になる。


 そうギンロさんは顎を撫でながら言うと、それを聞いていたボルドさんはギンロさんの頭めがけてごちんっと拳骨をくらわせる。それを受けたギンロさんは、頭を抱えながらしゃがんで「いってぇ……っ!」と唸りだした。


 でも、オヴィリィさんのすんごぉーくのところ、すんごく嫌そうな音色で言った気がする……。


 するとそれを聞いていたティティさんは、ティズ君を背後から抱きしめながら、疑問のしぐさをして「一体どんなことなんですか?」と聞くと、それを聞いてオヴィリィさんはまた溜息を吐きながら、嫌そうに頭を掻いて――言った。


 観念したかのように、むっとした口元をほどいて――こう言った。




「…………その犯人は、、この呪いを解除しないって言いだして、この始末ってこと」




 にゃ?


 今何と言ったのだろうか?


 みんなの顔を見ると、目を点にして驚きのあまりに口をあんぐりと開けたまま固まっている。


 唯一話ができるヘルナイトさんとティティさん、ガザドラさんにティズ君はその話を聞きながら言葉を続ける。


「……ということは、その求婚を無視したことによる……、腹いせということか?」

「まぁ、そうなるね」


 ヘルナイトさんの言葉に、オヴィリィさんは申し訳なさそうに頷く。



 ――待って。へ?



「ならばその顔もですか?」

「顔見えないけど――ちゃんと周り見えるの?」

「あー……、まぁ見えるっちゃぁ見えるね。そう。この顔もその野郎が他の人が私に恋い焦がれないようにっていう予防で、顔を隠されちゃったの。おかげでこっちは最悪も何も……」

「お気の毒に……」


 ティティさんとティズ君が聞くと、頬を掻きながらオヴィリィさんは言う。それを聞いたティティさんは、なんとと言う顔をしながら頬に手を添えながら気の毒そうな顔をして言う。



 ――え? それって……?



「つまり――おぬしが言いたい条件とは……、その首謀者を叩けということでいいのかな?」

「叩くなんてやわなことしないで。いっそのことぶっ殺してもいいから」

「黒いことを言う」


 ガザドラさんが腕を組んで、聞いたことをまとめると、それを聞いていたオヴィリィさんは、むっとしながら黒い顔で黒い発言をする。それを聞いて、ガザドラさんは青ざめながら冷や汗を流した……。


 そして――




『はぁっ!? 結婚っっっ!?』




「「「「「うぉ」」」」」


 とまぁ……。私達は何とか現実に戻って、私以外のみんなが驚きの声を張り上げながら叫ぶ。


 それを聞いていたオヴィリィさんとヘルナイトさん、そしてガザドラさんにティティさんとティズ君は、驚きの声を上げながら反り返るようにして立っていた。


 私はそれを聞いて、なんだか熱くなっている顔を覚まそうと、手で仰ぎながら俯いていた。


 なにせ……。なぜそんなひどいことをしているのかと言う話しから、唐突に結婚の話になる。誰がそんなことを予想しただろうか……。


 しょーちゃんやつーちゃんから聞いている要求の話とは全く別のそれで、予想していなかった展開だとでも言っておこう。


「なんで結婚のためのそんなことするのよっ!」

「意味わかんねぇっす! なんでそんなことにっ!?」

「だああああああああああああああっっっ! もうそんな結婚の話をあたしの前でするなあああああああっっ!」


 シェーラちゃん、スナッティさん、紅さんが言う中 (ガルーラさんはまだ回復していない) 、それを聞いていたオヴィリィさんは苛立った音色で――


「いや私あんな野郎と結婚する気ないからっ! 独身のままでいるって言っているのに、あの野郎火をまたぐにつれて『結婚してくれ』『結婚してくれ』うるさいったらありゃしないっ! だからギルド長になる条件としてそいつをぶっ殺してほしいっってこと!」


 と言った。


 それを聞いていたダディエルさんは呆れながら冷や汗を流して「いや。俺達は殺し屋かよ」と、真っ当な突っ込みを入れていた。


 みんながワイワイ言う中、それを聞いて私は熱を逃がそうと手で顔を仰ぎながら俯いていると……。


「大丈夫?」

「ひぅっ!?」


 突然呼ばれて、私は驚きながら横に後ずさりする。


 顔を上げて、声がした方向を見るとそこにいたのは――


 ティズ君だった。


 ティズ君は私の顔を見ながら無表情の顔で、こんなことを聞いてきた。


「顔――赤いよ」


 その言葉を聞いて、私ははっとしながら顔を手で仰ぎながら控えめにはにかみながら――


「えっと……、大丈夫……。熱なんてないよ」と言った。


 それを聞いていたティズ君は、ふぅんっと唸りながら私の顔を覗き込んでこう聞いた。


「ねぇ――みんな結婚って言葉を聞いた瞬間、すごく焦りだした。なんで?」

「え? ええっ?」


 唐突に聞かれた言葉に、私は顔を手で押さえつけながらうんうん唸って、ティズ君でも理解できるような言葉を考えながら唸っていると――私は何とかまとまった言葉を思い浮かべて、ティズ君を見てこう言った。


「えっとね……、結婚っていうのは――好きな人と好きな人が結ばれる、すごく嬉しいことで、おめでたいことで、でもなんだかはたから見ればすごく恥ずかしいことでもあるから、みんな焦っているんだよ?」


 …………我ながら何を言っているのだろう……。恥ずかしい……、うん。


 そう思いながら、私はさらに赤くなった顔を手で隠しながら、頭から湯気が出ているかもしれないその状態で、俯く。


 それを聞いていたティズ君は、ふっとオヴィリィさん達の方を見ながら――


「でも怒っているよ?」と聞くけど、私はそれを見ないで慌てながら「そ、それはたぶん混乱しているだけだから……、多分」と、何とか大丈夫だということを伝えた。


 すると――


「ねぇ」


 ティズ君は私を見て、私の横顔を見て聞いた。


 私は首を傾げながらティズ君を見ると――ティズ君は無表情の顔で、私を見ながら聞いてきた。


「さっき――未来がどうのって言っていたけど……、なんで未来を視ることが怖いの?」

「? なんでって……」

「俺は見れた方がいいと思う」


 だって、と、ティズ君はそっと腕を自分の手で撫でながら、目を伏せながらこう言った。


「だって……。……、安心する」

「? ティズ君?」


 私はそんなティズ君の、無表情の中に隠れている恐怖のもしゃもしゃを感じて、私は熱くなっていたそれが引いていくのを感じて、そっとティズ君に歩みながら、手を伸ばす。


 その最中――ティズ君は話をしていた。まるで……、独り言のように、ぶつぶつと……、喋っていた。


「そしたら……、……、俺は、未来が視えるようになったほうがいい……っ」

「ティズ君?」

「だって……っ。だって……っ! ……っ。未来が視えるのならその力ほしいって思ったっ。そうすれば……っ! そうすれば……っ!」


 だんだん荒くなる声。怯える声。悲しい声。


 その三つの声が一つになって、私に向かって押し寄せてくる。


 ティズ君の感情が、私に押し寄せてきた。


 それを感じた私は、その手をティズ君の震えている手に伸ばそうと、その手を掴もうとした時――




「――ドゥペイドォスゥ ピピティ タギリディォーッッッ!! (蜥蜴人の奴らが来たぞぉーっっっ!!)」




 突然だった。


 突然、里の方角から聞こえた叫び声を聞いて、私達は驚きながらその方向を見る。


 オヴィリィさんはそれを聞いて、がじがじと頭を掻きながら苛立った音色で「あぁーっ!」と、濁った声を出しながらこう言った。


「またかよぉ! 今日でもう何回目だっけっ!? くっそ嫌になるなぁもぉ!」

「またってことは……、まさか」


 メウラヴダーさんの言葉を聞いたオヴィリィさんは、「そうだよっ!」と苛立った音色で吐き捨てながら続けてこう言う。


「私に呪いをかけた奴! なんで毎度毎度来ているんだよぉ! ったくぅ!」

「相当嫌なんだな……」

「逆にどんな奴なのかが気になる……」


 それを聞いていたギンロさんとキョウヤさんは、冷や汗を流しながら少しの好奇心を胸にオヴィリィさんを見る。


 すると――大きな屋敷から出てきた一人の小柄のおじいさん。


 頭にすごい装飾の冠に、手には豪華な杖を持って、かつん。かつんっと音を立てながら歩み寄っている。よろよろと覚束ない足取りで――


 おじいさんを見たオヴィリィさんは、はっとしてそのおじいさんがいる方向を見ながら――


「ガガッダァッ! グググ タギリディォッ! (長老様! また来たよっ!)」


 と、エルフ語で話したオヴィリィさん。


 それを聞いていた私達は、首を傾げながら二人の話を聞く。


 でも言葉がわからないから聞いても意味がよく理解できない。


 するとヘルナイトさんは私に近付きながら、小さい声でひそひそと私に耳打ちをしてきた。


「どうやら――蜥蜴人の者達がここに来たらしい」

「……! もしかして……っ!」


 私の心中を察したのか、ヘルナイトさんは頷いて「ああ」と言う。


 さっきオヴィリィさんが言っていた呪いをかけた張本人――もしかするとと言うか、オヴィリィさんのあの怒り様から見て、完全にそうだろう……。


 その蜥蜴人がきっと、呪いをかけた張本人だ。


 そう思っていると、里の方から走ってきたリーダー格の人……、アルゥティラさんが慌てて走ってきて、私達の間をすり抜けながらおじいさんに言葉を交わして、そのまま担いでまた里の方に向かって走る。


 それを見て、私達はきょとんっとしながらそれを見ていたけど……。後を追うように走るオヴィリィさんは、私達を見ながら「何しているのっ! 走ってきて!」と、ブチ切れているんじゃないか? と言うような形相で私達を睨んできて、それを見た私たちは、びくっと肩を震わせながら頷いて、オヴィリィさんの後に続いて走る。


 私はふと、蜥蜴人のことについて深くは知らないけど、それに深くかかわっているガザドラさんを見る。


 ガザドラさんは前を走っていたので、顔までは見えなかったけど、彼から感じるもしゃもしゃは。ひどく荒れていて、苦しいもしゃもしゃを漏れ出していた。


 そして――


 里について、私達は里の入り口のところを見て、驚いて目を見開いてしまう。


 その里の入り口の前には、色んなエルフの人達がざわざわとしながらその入り口を取り囲むように集まっている。里の入り口にいた集団を、追い返すように、武器を持って……。


 その入り口の前にいた集団は、ポイズンスコーピオンよりは小さい黒い蠍に跨りながら、数人の少数編成で、その一番先頭にいた一人の蜥蜴人の人は、辺りを見回しながら「うーむ……」と唸っていた。


 薄黄色の鱗を持った姿で、シャズラーンダさんとは対照的なやせ細った体格。腕や足も細いが、その足の指の間には砂地で生き抜くために培われた足かきがある。手首足首にある宝石が埋め込まれた腕輪に足輪。腰には白い布が巻きつけられて、その長さはくるぶしのところまである。背には大きいが細い剣を背負って、その蜥蜴の顔を覆い隠すような布が覆われている。なんともミステリアスな雰囲気を醸し出す蜥蜴人の人だった……。


 するとその人は前に出たオヴィリィさんを見つけてはっと息を呑み、そのまま大袈裟な動作で黒い蠍から降りて地面にスタっと着地した後――その蜥蜴人はオヴィリィさんを見て、すっと頭を下げながら優雅な佇まいでこう言った。



「オヴィリィどのよ。考えを改めたか? 我等砂丘蜥蜴人の長であるジューズーランの妃になる気に」



「死ねやくそ爬虫類っっっ!!」



 それを聞いて、私は、私達は察した。


 この人が――オヴィリィさんに呪いをかけた人……、じゃない、蜥蜴人でオヴィリィさんが最も嫌う人だということに……。そして――


 ガザドラさんが憎む蜥蜴人の一人ということに、私達は遅まきながら気付くことになった……。

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