PLAY44 エルフの里の魔女 ③

「えっと……」


 私はエルフの里の魔女――オヴィリィさんに向かって近付きながらポーチにいれていた書状を出してそれを手渡す。


 そんな私を見てオヴィリィさんはじっと私を見つめていた。


「?」


 渡した首を傾げながらオヴィリィさんを見ると……、オヴィリィさんは私を見たままそっと頭に指を添えて。


「ちょっと待って」


 私の前に手を出して、そして制止をかけた。


 それを聞いて見た私は「え?」と、きょとんっとしながらオヴィリィさんを見る。


 そして背後にいたみんな……、と言っても、ヘルナイトさんとガザドラさん。ティティさんとティズくん以外のプレイヤーのみんなが素っ頓狂な声を上げて「は?」と首を傾げた。


 それを背後から聞いていた私は、目の前でうーんっと頭を抱えているオヴィリィさんを見る。


 未だに頭を抱えて、目を瞑りながら「うーん……」と唸っている。


 苦しそうではない。なんだか考えているようなそんな顔だ。


 それを見た私は、「あの……」と声をかけた瞬間。


 頭に添えていたそれを下ろして、オヴィリィさんは私を見てから声を出す。


「あんた……」

「っ」


 低く呼ばれたせいか、私はびくりと体を強張らせる。


 怒っているようなそれではないのだけど……、それを聞いた私は驚きながらオヴィリィさんを見ると、オヴィリィさんは私を見下ろして、そして再度声を出した。



「あんた……、そこにいると危ないし痛いから、ちょっと横に言って、のろいと危ないから早くっ」



「………え?」


 私は思わず声を上げて、首を傾げた。


 一体何を言っているのだろうと思いながら、オヴィリィさんの言葉を聞いて、すぐにその場所から右にずれると、アキにぃがお化けではないと認識して、互いに抱きしめ合っていたスナッティさんから嫌悪感剥き出しの顔ですぐ離れて、ずんずんっとオヴィリィさんに近付きながらこう言った。


 少しむすっとした顔をして、オヴリヴィさんに近付きながらアキにぃは言う。


「あの――さっきから何を言っているのかわから」と言った瞬間……。


「? あ」


 キョウヤさんの驚いた声が聞こえて、それと同時にひゅうううっと空気を切る音が聞こえた。


 それを聞いた私は、ふと背後から聞こえる音を見ようと振り向いた。


 みんなが振り向いて、それを見て「あぁ!」と、驚きの声を上げて、すぐに前を向いて――シェーラちゃんが慌てながら怒りを含んだその音色で……。



「アキ! 離れなさいっ!」と叫んだ。



「そうだアキ! 早く離れろっ!」


 キョウヤさんも慌てた様子で叫ぶと、アキにぃはそれを聞いて、首を傾げながら後ろを振り向く。


 私は振り向いたけどみんなの方を見てしまい、その正体を見ることはできなかったけど、アキにぃが振り向いたと同時に私もその音の根源を見て……。


「「あ」」


 私とアキにぃは声を揃えて、里の方から来た黒い何かを見て、驚きの声を上げてしまった。


 それはどんどんアキにぃの方に迫って――というか、すでに避けれないところまで迫ってきている……。


 その正体は――


 小石。それも凄まじい勢いで来て、それはアキにぃの顔面目掛けて――



 ――ごっ! と、鈍い音を立てて、アキにぃの鼻に直撃した。



 それを見た私は、口元に手を当てて驚いた顔をして、シェーラちゃんとキョウヤさんはそれを見て、頭を抱えながらはぁっと溜息を吐いている。


 他の人達はそれを見て、驚きを隠せないような顔をして見ることしかできなかったけど、ガザドラさんとティティさん、ヘルナイトさんはそれを見て、驚きの顔を表に出して、ティズ君は相変わらずの無表情。


 ……あ。スナッティさんとギンロさんは、そのアキにぃの姿を見て、ぐっとガッツポーズをしていると、それを見ていたボルドさんは、二人の頭をお仕置きと言わんばかりに『ゴチンッ』と殴りつけていた……。


 でも、私はそれよりも、どんどんっと振り向いた方向と反対――つまりは背後からどんどん傾いて倒れていくアキにぃを見て、私はそのまま駆け出して、オヴィリィさんの間に入りながら、倒れてくるアキにぃをガシッと抱える。


「っ!」


 身長さや体重差もあり、そして私の力不足もあってか……、アキにぃを支えきれずに、そのままずるずるとへたり込んでしまう私。


 それを見ていたヘルナイトさんは私に駆け寄りながら――「大丈夫か?」と声をかける。それを聞いた私は、震える声で……。


「な、なんとか……っ!」


 声を振り絞りながら言ったけど……、それを見ていたキョウヤさんは駆け寄りながら「いや大丈夫じゃねぇっ! 潰されてんじゃねえかっ!」と突っ込みを入れていた。


 それを聞いて、オヴィリィさんは溜息を吐きながら腰に手を当てて――


「だから言ったじゃん。危ないって」


 と言いながら、呆れながらアキにぃと私を見ろして言う。


 それを聞いていたヘルナイトさんは、当たっていないのに頭を抱えながらアキにぃを担いで……、オヴィリィさんを見上げながらこう言う。


「言葉が足りない気がするが……」


 その言葉に、私はシェーラちゃんに担がれながら頷く。


 そしてシェーラちゃんは私を見ながら心配そうな顔をして「大丈夫なの?」と聞かれたので、私は頷いて控えめに微笑みながら「大丈夫」と言った。


 それを聞いていたシェーラちゃんは、今回は素直に「そう」とほっと胸を撫で下ろしながら言った。


 するとそれを見ていたボルドさんたちやメウラヴダーさんたちが駆け寄って――オヴィリィさんを見ながら疑念の目を向けて……、代表として……。


「今のは……?」


 ボルドさんがオヴィリィさんに聞く。


 ティズ君はその小石を手に取って、無表情でアキにぃの鼻血がついたそれをクルーザァーさんに見せている。


 それを見たクルーザァーさんは少し苛立った顔をして「捨てなさい」と注意していると……。


「それ――子供達が投げた投擲石だよ」


 呆れつつ、溜息を吐いて頭を抱えながらオヴィリィさんは言った。それを聞いてメウラヴダーさんは驚きながらその小石を見て言う。


「ど、どんな威力なんだ……? 気絶しているが……」


 小石からアキにぃに視線を移して言うメウラヴダーさん。


 私はアキにぃに寄りながら、手をかざして『中治癒ヒーリー』をかける。


 それを見ていたオヴィリィさんは、頭を抱えながら溜息交じりに――


訓練している奴らのまねごとをしているんだけど、いつもこの時間帯に石が来るの。いい加減やめてほしいんだよね」と、頭を掻きながら言うオヴィリィさん。


「というか、さっきの疑問についてまだ答えが出ていないようだけど?」


 紅さんがボルドさんの話を思い出して、オヴィリィさんをじっと真剣な目で見つめて問い詰めるようにして聞くと、オヴィリィさんは首を傾げながら、「あぁ」と思い出す仕草をして――私達にこう言った。



「今のって言われても、見たとおり――



 平然とした様子で言ったオヴィリィさん。


 それを聞いて、私はアキにぃの回復を終えてから、思い出した。


 確か国境の村で、ベルゼブブさんが言っていた。


 エルフの里には未来を視る魔女がいると…………。


 それを思い出した私は、オヴィリィさんを見上げて思う。


 ベルゼブブさんの言う通り、本当に未来を視て予言したんだ……。


 すると――それを聞いていた紅さんは、腰に手を当てて疑っている目をしてオヴィリィさんに顔を近付けながら……。


「予言っ!? マジで言っているのっ?」と、『予言』の言のところを半音高くして言って聞いてきた紅さん。そんな紅さんを見ながらオヴィリィさんは「マジマジ」と頷いて言うと、近くにいたガザドラさんは紅さんを呼びながらはっきりとした音色で言った。


「吾輩も『六芒星』にいた時、このエルフの女のことはかじった程度だが知っているぞ。この女は本当に未来を視て、予言することができる力を持っている」


 私もそれを聞いて、紅さんを見ながら慌ててガザドラさんの言葉に繋げるようにしてこう言う。


「わ、私も聞きました。未来を視ることができる人がいるって……」

「………………ふぅん」


 紅さんは顎に手を添えて唸る。あまり信じていない顔だ。


 そんな光景を見ていたオヴィリィさんは、私の話を聞いてか、私を見て聞く。


 その時アキにぃは回復したのか、「うぅ~ん」と起き上がりながら鼻をさすっている。それを見ながら私は内心ほっとしていると……。


 突然オヴィリィさんは――




「あんた……、




「っ!」

「!」

「「「っ!?」」」


 その言葉に、私とヘルナイトさん。そしてアキにぃとキョウヤさん、シェーラちゃんが驚きの表情でオヴィリィさんを見る。


 ガザドラさんも驚きの顔をしていたけど、私達と出会う前の事情を知らないボルドさんたちとクルーザァーさんたちは、首を傾げながら頭に疑問符を浮かべている。


 ティズ君は私に近付きながら――小さい声で無表情の顔をして……。


「だれ?」と聞いてきた。


 私はそれを聞いて、ティズ君にわかりやすいようにこう話す。控えめに微笑みながら――


「オヴィリィさんと同じ魔女の人だよ……」と言った瞬間、私はふと、ヨミちゃんのことを思い出す。


 ヨミちゃんは確かに魔女だったけど……、力もあまりなくて、それで――


 私はそれを思い出して、物思いにふけってしまい、すぐに気持ちを切り替えるように首を横に振る。


 それを心配そうな目で見ているヘルナイトさんに気付くことなく、私は首を横に振って気持ちを立て直そうとした時……。


「ちょっと待って……っ! 私達はまだっ!」

「!」


 と、シェーラちゃんの言葉を聞いて、私ははっと気付いてオヴィリィさんを見る。私と同じように驚いた顔をしているアキにぃとキョウヤさん、そしてさっき衝撃的な言葉を吐いたシェーラちゃん。


 三人はオヴィリィさんのことを見て、驚いた顔をしたまま彼女に問い詰めるようにして聞いた。


「というかなんでザンバードのおっさんやヨミのことを知っているんだよ! てかなんで会ったことを知っているんだっ!?」

「一ヶ月前って……っ! えぇっ!?」


 キョウヤさんの質問にさらりと答えるオヴィリィさん。


 それを聞いたアキにぃはもう頭がこんがらがっているのか、目を回しながら頭をガジガジと掻いて混乱していた。


 アキにぃはそんな言葉を聞いて、まだ信用できていないのか、慌てながらオヴィリィさんを見てこう問い詰める。


「そ、そんなの誰かが情報を流したらできることだし……、あんたが本当に未来を視たのなら証拠を見せてくれよっ!」

「アキ――あんたその未来に直面して、そして受けた人物よ」


 それを聞いて、呆れた顔をして肩を竦めたシェーラちゃん。それに対してメウラヴダーさんもうんうんっと頷く。


 するとそれを聞いて――オヴィリィさんはくあっとあくびをしながら「いいよ」と、アキにぃの言葉をすぐに快諾してしまったのだ。あっさりと……。


 それを聞いて、アキにぃは「え?」と、首を傾げながら素っ頓狂な声を上げて言うと、オヴィリィさんはじっと――私達やボルドさん。そしてティズ君達を一回見回して、もう一回見回していく……。


 そしてそっと頭に手を添えて、目を瞑って口を閉ざしてしまったオヴィリィさん。


 でもすぐに目を開けて――頭を抱えていた手をそっと指をさす形に変えて……、その指先をとある人物に向けた。


 その人物は……。


「――そこのあんた」

「え? お、俺えぇっ!?」


 ギンロさんだった。


 ギンロさんは驚いた顔をして、自分を指さしながら素っ頓狂に声を上げて聞く。それを聞いたオヴィリィさんは頷いて、ギンロさんに指を突き付けながら、はっきりとした音色でこう言った。




「――ひねってコケるよ」

「ひねってコケるっ!?」




 その言葉と言うか、その『コケる』と言う三文字に対して、ギンロさんは固まった状態で驚きながら突っ込みを入れる。それを聞いていた私達もそれはないだろうと思いながらギンロさんを見た。


 なぜそう思うのか? 簡単な話――この辺りに大きな岩はなく。石もない。つまるところけつまずくものがないということだ。足に引っかかってコケるということはまずありえないだろうと思っていると……。ギンロさんもそれを思ってか、ざっと前に歩みを進めながら、勝ち誇った笑みを浮かべて言う。


「ははは……、残念だったな。ここにはこけそうな石ころなんてねえし、俺はそんなおっちょこちょいなことはへまはしねえ。ゆえにその予言も嘘ってことになるなぁ……。更に言うと、俺は生まれてこの方ひねったことがないっ!」

「勝負も何もしてねえだろうが。なんで勝ち誇ってるんだ? つかそんなこと自慢げに言うな」

「というか、すごい悪い顔」


 ガルーラさんはそんなギンロさんを見ながら呆れた目で言っていたけど、ギンロさんはそんなオヴィリィさんに近付きながらへへへっと、本当に悪役のような笑みを浮かべて近付いている。ティズ君の言う通り、本当に悪い顔だ……。おおぅ。


 ギンロさんはそんなオヴィリィさんに向かって――こう言う。


「こんなところで、俺がひねってこけるなんて」


 占いなんて信じていない。そんな未来があってたまるか。そんな気持ちを顔に出しながら、だんっとギンロさんが一歩前に足を踏み入れた。瞬間……。




 ――ぐぎ。




「あひんっ」


 と、踏み出した足ではない反対の足を内側にぐきっと捻ったギンロさんは、そのままドテンっと横に転んでしまった。というか……。


「「「「ひねってコケたっっっっ!!」」」」


 カルバノグの四人はそれを見て、驚愕の顔をして驚いていた。ガザドラさんはそれを見ながら腕を組んで、難しい顔をしながら「それでいいのか……?」と言う。


 というか……、ギンロさんの「あひん」が、なんだか可愛い気が……。じゃない、なんかギンロさんのことを一瞬あっちの世界の人間なのかと思ってしまったのは、私だけの秘密にしておこう……。


 そう思い、転んで足首を手で覆いながら「あいてててて」と唸っているギンロさんを見て、私はオヴィリィさんを見上げると……。オヴィリィさんは腕を組んで、呆れながら「だから言ったじゃん」と言って――


「ひねってコケるって」

「本当にひねってこけたが……、これでいいのか? これで……」


 と、オヴィリィさんの言葉を聞いてメウラヴダーさんは冷静に突っ込んだ。


 するとそれを見ていた紅さんはギンロさんの前に出てオヴィリィさんを指さし、その二つの眼でオヴィリィさんを捉えながら――


「そんなの誰だって見れるだろうが! お前、今からあたしのことを予言しろっ!」と、紅さんは言った。


 それを聞いてオヴィリィさんは「えー?」と、面倒くさそうに言いながら『かくんっ』と頭を垂らしてうなると……、そっと顔を上げて紅さんを見ながら、面倒くさそうにこう言った。


「今のでもう証明されたじゃん。それでいいでしょうが……」

「ダメだ! あれじゃぁしょぼいし、なによりあんなのどうにかすればそうなるじゃないかっ! 今度は具体的に予言しろっ! いいな!」


 と、紅さんは指をさしながら言う。


 それを聞いてオヴィリィさんははぁっと溜息を吐きながら面倒くさそうに頭を掻いて、「しょうがないなー」と言ってもう一回頭に手を当てて目を閉じると、すぐに目を開けて……、紅さんを見ながら――



「あんたはこれから訓練しているエルフの矢が突き刺さりそうになるけど、その前にあんたは気配を察知して回避。でも近くで寝っ転がっているそこの男に躓いて頭から地面にダイブする。それを見たそばかす男はげらげら笑って、包帯お化けはそれを見てそばかすを怒って慌てながら寝っ転がっている男を誤って踏み潰してしまう。髭男はそれを見ながら呆れて『馬鹿ばっかかよ』と言いながら『テンショク』を考え出す」



 つっかえることなくつらつらと言葉を吐いたオヴィリィさん。


 それを聞いていたキョウヤさんは、驚いた顔をして――


「いや具体的すぎんだろっ!」と、突っ込みを入れる。シェーラちゃんも驚いた顔をしていると、私はそれを聞いて、本当に起きるのかなぁ……。と思いながら、紅さんを見ると……。


 紅さんは具体的なそれを聞いて驚いた眼をしたけど、すぐに首を横に振って――


「そ、そんなこと」

「っ! 紅殿っ!」

「へ?」


 そんなことないと言葉を発しようとした瞬間――ガザドラさんは紅さんの背後の空を見上げて、はっと息を呑んで紅さんを見て叫ぶ。それを聞いた紅さんは驚いた声を上げて振り向くと――


 ひゅんっと空気を切るような音を出して、こっちに迫ってくる一本の矢。


 それは真っ直ぐ――紅さんに向かって来ている。


「紅さんっ!」

「危ないっすっ!」


 リンドーさんとスナッティさんが、慌てながら紅さんを見て叫ぶ。


 すると、それを見た紅さんは、とんっと、私から見て右に向かってその矢の軌道から逸れるように、後ろに跳びながら避ける。


 それを見て、そして矢が紅さんがいたところに向かって飛んできて、そしてもう少しで地面に突き刺さるというところで……。



 ――がっ!



「?」


 紅さんは首を傾げながらかかとに何かが当たった感触を覚えて、振り向こうとした時……。


「え? うそぅ! わわわぁ!」


 紅さんは、背後にいたギンロさんの足に踵をひっかけてしまい、そのままごろんっと好転する様に後ろにバランスを崩して転びそうになりながらも、何とかつま先と腹筋に力を入れて留まった。


 踏ん張りで顔を赤くして、「うぐぐぐぐぐっ!」と唸りながら何とか体制を保っているけど、そのまま顔面を地面に向けて、もう少しで起き上がれるといったところで――


 ふっと、力がなくなったかのように切れて――そのまま紅さんは……。


 ごちんっと、地面から顔面ダイブしてしまう。つけていた足も地面から離れてしまい、全体重が地面につけていた顔面に集中して、「うぎゅぅ……っ」と唸ってしまう紅さん。


 それを見たリンドーさんは、ぶっと笑いながらお腹を抱えて大笑いしてしまい、それを見ていたボルドさんは慌てながらリンドーさんに向かって「リンドー君っ! だめだよ笑っちゃ!」と言って、紅さんに向かって駆け出しながら「大丈夫かい!?」と言って行くと、ボルドさんは下をよく見ていなかったのか、そのままギンロさんの胴体に足を踏みつけてしまい、潰れたような声を上げてギンロさんは驚いて痛みを訴える。


 それを見ていたダディエルさんは、呆れながら――


「馬鹿ばっかかよ」と言……………………。



 え?



 と、私達はそれを聞いて、驚きながらオヴィリィさんを見た。


 ダディエルさんは首を傾げながらいったいどうしたんだという顔をしていたけど……、それを見てシェーラちゃんは慌てながらこう言う。


「あんた達――!」

『…………………あ!』


 ここでカルバノグの人達は驚きながら今まで起きたこと、そしてオヴィリィさんの言葉を思い出しながら彼女を見る。


 私もそれを思い出しながら、オヴィリィさんを見て思い出す。


 そして――結果。


 完全一致していた。


 紅さんの行動、ボルドさんとリンドーさんの行動。そしてダディエルさんの言葉に、最初に襲ってきた矢も、すべて当てたのだ。


 オヴィリィさんの予言を聞いて、そしてそれが的確に命中して当たった光景を見た私達は、そっとオヴィリィさんを見る。


 オヴィリィさんは再度くあっと欠伸をしながら……、私達を見て、私に向かって手を伸ばしながら気怠そうにこう言った。


「これで満足? だったら早くその書状見せて。来ることまで見えても、その書状の内容までは見えないんだから――早く」

「あ、はい……っ」


 と、私は急いでオヴィリィさんにアクアロイア王から受け取った書状を手渡すと、それをパシッと下から上に向けて乱暴に受け取ったオヴィリィさんは「あーやっとかよ」と、待ちわびていたかのような音色で言いながら書状を乱暴に破って内容を見る。


 それを見ていた私は、驚きながらヘルナイトさんを見上げて――


「本当未来が視えるんですね」と言うと……………。


「?」


 私は首を傾げた。ヘルナイトさんを見て首を傾げたのだ。


 私はヘルナイトさんの顔を覗き込むように下から見上げると――ヘルナイトさんは私に気付いて、ふとこんな言葉を零す。疑問の音色で……、彼は言った。


「ハンナは――」

「?」

「ハンナは……、?」


 そんな曖昧で、深いような質問をされて、私はうーんっと顎に指を添えながら少し考える。


 確かに、未来が視えることは凄いことだ。この先の未来が視えたら、何もわからない未来が視えたら……、それはそれで嬉しいと思う。


 でも反面――悪い未来は見たくない。


 そんなわがままな見解だけど……、私はそう聞かれて……、導き出した答えはたった一つ。


「――見たいけど、見たら後悔しそうで……、怖い、です?」


 と、首を傾げて答えると……、それを聞いてヘルナイトさんはそっと私の頭に手を置いて――凛としているけど、少し、ほんの少し寂しさを含んだその音色でこう言った。


「私は、見たくない」

「?」


 その言葉に、私は顔を上げると――ヘルナイトさんはこう言った。


「向かう先の未来が視える。確かに未来に対して不安を抱いてるものなら、見たいかもしれない。だがそれは――自分の運命を先に見てしまうことにもなる。生きる未来を、を――先に見てしまうことになるからだ。それでもハンナはまだ――」


 見たいと思うか?


 と聞かれた私は……、一瞬俯いて、そして考えてから――首を横に振った。


 確かに、ヘルナイトさんの言う通りだ。未来が視えるということは――死ぬ未来でさえも見えてしまう。


 それをオヴィリィさんに告げられた瞬間……、私はどう表情に出せばいいのだろうか……、そしてどんな気持ちでこの先を進めばいいのか、わからなくなるかもしれない。


 怖いかもしれない。それが怖いに転換される。


 それを思って、私は――首を横に振った。


 それを見てか、ヘルナイトさんは頭を撫でながら――申し訳なさそうに「すまない」と言った。


 私は首を横に振りながら何とか微笑んで「大丈夫ですよ」と言う。その顔を見て、ヘルナイトさんは、頭に乗せている手を、そのままどかさないで、私の頭の上に乗せていた。


 そんな光景を見て、聞いていたティズ君に気付かないで……。 


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!」

「久し振りのぐぎぎぎぎぎだなっ! 止まれストップ!」

「相変わらずのブレないそれね」

「いつもこんなことをしているのか?」

「呆れます。どこまであの天族の子を贔屓しているのか……」


 ……なんだろう。


 アキにぃがまた歯軋りをして銃をヘルナイトさんに向けようとしているところを慣れた手つきでキョウヤさんが羽交い絞めにして止めて、それを感心したような表情で見ているシェーラちゃん。


 そしてそれを驚きの目で凝視していたガザドラさんに、その光景を見て呆れた目で溜息交じりに言っているティティさんを見て、私はどうしたんだろうと首を傾げてしまった。


 すると――


「――ねぇ」


 オヴィリィさんは私を見下ろしながら歩み寄って、書状をひらひらと軽く振りながらオヴィリィさんは言った。


「書状に書かれていたことなんだけど……」と言って、私とヘルナイトさんを見て、オヴィリィさんはすぅっと息を吸った。


 その背後で――キョウヤさんとシェーラちゃん、アキにぃが溜息を吐きながらきっとだめだろうという悲観的な表情を浮かべている。


 確かに――最初こそザンバードさんは断る気満々だったし、ヨミちゃんは頑なにギルド長になることを拒んでいた。二回中二回とも断るというそれだった。


 どの人も、村のためにギルド長をやることを拒む傾向があると知った私達。


 きっと――オヴィリィさんも断るのだろうと思って、俯きながらその答えを待っていると……。




「――いいよ。別に。ギルド長やっても」と、平然と、さばさばした様子で答えたオヴィリィさん。




 それを聞いた私達リヴァイヴは――目を点にして『へ?』と上ずった声を上げてしまった。


 その返答は大変喜ばしい答えだけど、それと同時に帰ってきた答えが違うという驚く展開を目にして、思わず声を上げてしまったのだ。


 しかしヘルナイトさんはその言葉を聞いて、私の頭から手を離しながら凛とした音色でオヴィリィさんにこう聞く。


「――だが、あなたは?」

「?」


 ? 一体何を言っているのだろう。


 そう思ってヘルナイトさんを見上げていると――オヴィリィさんは『そうだよ』と言いながらそっと自分の体に彫られている刺青を指先で撫でて、真剣な音色でこう言った。


「ギルド長になる。それは決定事項だけど、条件がある。条件は――……、。それが絶対条件。この条件を満たしたら――ギルド長になるよ」

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