PLAY44 エルフの里の魔女 ⑥

 ボルドさんが放った『囲強盾エリア・シェルラ』の中。


 その中を見ながら私は話を聞いていた。


 何もできないというもどかしさも確かにあったけど、ボルドさんは私達のことを、そしてエルフの人達のことを助けるために自らが前に出てこの盾を張ってくれたんだ。


 気持ちを無駄にすることはできない。


 そう思った私はボルドさんの気持ちを優先にして、『囲強盾エリア・シェルラ』の外からその言葉に耳を傾けることにした。


 みんながその話を観戦する様にして見ていた。


 きっと気持ちは私と同じなのか、そうではないのかはわからないけど、それでもみんなはその光景を観戦する。


 見守ることに専念していると……、ボルドさんが指をさしながら高らかに宣言した後……。


「何だと……?」


 その言葉を聞いたジューズーランさんはぴくりと眉を顰めながら、ボルドさんを見てこう言った。


「何を言っているのかさっぱりだ。なぜオヴィリィどのの呪いを解除しなければいけないんだ? そうしてしまうと」

って思ったから、無理にでも妃にしようって思ったんだろ」


 ダディエルさんが低く、そして静かな怒りを乗せた音色で言った。


 それを聞いたジューズーランさんは更にピクリと顔を引き攣らせ、びきびきと強張った笑みを浮かべながら……、彼はダディエルさんを見て、小さく、低く聞いた。


「なんだと……? それだと、私がまるで好意を抱いてくれる異性がいないような……っ」

「っていうか。モテないんですよねー」


 リンドーさんはジューズーランさんの言葉を聞いて、黒い笑みを浮かべながら言う。


 するとそれを聞いて、ジューズーランさんはびきっと顔に青筋を立てて、その細い剣をリンドーさん達に向けて、ジューズーランさんは荒げた声でこう言った。


「そんなことはないっ! 私は父と同じ偉大な蜥蜴人の血を引いた蜥蜴人だっ! 困窮していた砂丘蜥蜴人サンディランド・リザードマンを救った父の様に、私もその血を引いているっ! 老若男女が父に憧れを抱いていたのだっ! 私はそんな父の息子だっ! 私のことを、見てくれる人だっている!」



「で?」



「で?」


 その言葉を聞いて、少し顎を上げながらダディエルさんはまるで――「はぁ?」と言わんばかりの顔をして、ジューズーランさんを見下しながら、彼は懐から小さな箱を取り出して言う。


「父親の息子だからって、お前は身勝手にそいつらを動かして、適応とかそういった多数決に踊らされて、踊らせて、そんなもんはなぁ……苦痛でしかないんだよ。ただの奴隷のような扱いをされて、どいつもこいつもお前に対して嫌悪感や苛立ちしか抱いていないような日々を送っていたに違いねぇ」

「っっっ!」

「で? お前はそれでも、今の生活を続けるのか? 適応とか言いながらの悠々自適な生活を……」 


 その言葉を聞いて、誰もが言葉を飲み込みながらそのままジューズーランさんの言葉を待つ。


 するとジューズーランさんは、ぶんっと振り上げた細い剣を、そのまま一気に振り下ろして――


 ぎんっとダディエルさんを見ながら――狂気の沙汰とも云えるような笑みでこう言った。


「っは! そんなの簡単だ。それがこの世で生きる術なのだ。これがこの国――バトラヴィアの姿。理想にして永遠の姿! それをなぜわざわざ壊すのかがまるで理解できんっ! 適応して慣れればそれでいいのだ! それで平和だということを、なぜ理解しないのだっ!?」

「そこにいる兵士や、女達は?」


 紅さんがそっと指をさして言うと、それを見たジューズーランさんは当たり前の様に――


「あぁ? 奴隷がどうした?」と、振り向きながら言った瞬間……。




 ひゅんっっ!




 と、ジューズーランさんの振り向いた瞬間、その鼻先を掠めるように何かが投擲されて、そのまま鎖に繋がっている女の人達の首元に――それをゴツン! ゴツン! ゴツン! と当てた瞬間。


 ばきんっとその首輪は、脆い物質であったかのように、真っ二つになって砕けて地面に落ちる。


「!」

「え……?」

「あ、あぁ……っ!」


 背後にいた女の人三人は、その首元を見て突然起こった出来事と、自由になった首を見て、泣きそうな声を上げる。


 それを見たジューズーランさんは、驚きながらそれを見て、ぐるんっとボルドさんの方を見て――細意見を突き付けながら彼は聞いた。


 声を荒げながらこう聞いた。


「貴様ら……っ! 一体何をしたぁ!」


 するとそれを聞いて、投擲したそれ――苦無をじゃらららっと、トランプの様に何本も手に持っていた紅さんは、にっと、女性らしい微笑みを見せながらこう言った。


「何って――首輪壊しただけだけど?」


 それを聞いて、ボルドさんは私達の方を振り向き――大声で叫びながらこう言った。


「ハンナちゃんにヘルナイトさぁんっ!」

「!」

「っ!」


 それを聞いて、私は内心ボルドさんがさん付けすると、違和感あるなぁっと思ってボルドさんの話を聞いていると……。ボルドさんは私達を見て言った。


「ごめんね。こう言うのって部外者が手を出してはいけないと思うんだけど……、でも、ここは僕達に任せてっ! 僕等がこの人を何とかするからっ! それに、技量を見せないと、これからの戦闘でもたついてもだめだから……っ! 僕達の戦いを見ててほしいんだっ! 頼むっ!」


 と言いながら、ボルドさんは手を上げて振りながら言った。


 それを聞いて、私はシェーラちゃんとヘルナイトさんを見上げる (アキにぃとキョウヤさんは遠くにいるため、話ができない)。


 するとそれを聞いて、シェーラちゃんは腰に手を当てながら――


「いいんじゃない? 私の彼等の戦いを見たいと思っていたしね……」


 と言いながら、シェーラちゃんははぁっと、なんだか残念そうに溜息を吐く。


 もしかして……、戦おうと思っていたのかな……? それを見て、私はヘルナイトさんを見上げると――ヘルナイトさんは私をぐっと抱き寄せながら、凛として、そして心配そうな音色でこう言った。


「今は出るな……。今君が出たとしても、傷が深くなるばかりだ」


 今は彼らに任せよう。と言いながら、そっとヘルナイトさんは握っていた石を握って――こう唱えた。


「マナ・エリクシル――『癒琴イヤシコト』」


 と言った瞬間、私の周りで琴の音と共に肩の痛みが引いていくのを感じた。それを聞いていたエルフの人達が、その光景を見ながら「マナスト」や「マナスト! ディディッディ!」と、驚きの声と興奮が混ざった声で言っていた。


 それを聞いて、私は首を傾げていると、ヘルナイトさんはそっと私を抱き寄せることをやめて、その場で立ち上がって――ボルドさんに向かってこう言った。


「すまないが――お願いする」


 それを聞いた私は、はっとして慌てながら――ボルドさんの方を見て「お、お願いしますっ!」と、エルフの人達の中から声を上げた。


 それを見て、ボルドさんはにこっと微笑みながら――サムズアップをするけど……。


「――その顔で微笑むなっ! 影濃くしたら怖いことになるからぁ! アキぃストップストップッ!」

「グルウウウウウウウウウウウウッッ!」


 エルフの人達に紛れていたキョウヤさんが、なぜか獣と化しているアキにぃを羽交い絞めにしながら、苦しい音色で突っ込みを入れていた。


 それを聞いたボルドさんは、がーんっと泣き出しそうな顔をしてキョウヤさんを見ていた……。


 それを見たシェーラちゃんは、腕を組みながら――


「なんであいつ……、獣になっているの? 『グギギギ』じゃないんだ……」と、驚きながら言っていた。


 すると遠くからクルーザァーさんの声が聞こえてきた。


「おぉーい! ボルドー! こっちはかなり人がごった返している。ゆえに戦いに参加できない。すまないがそっとでなんとかしてくれー! その方が合理的だー!」

「あぁ、うん! そのつもりだからゆっくりね!」


 クルーザァーさんの声を聞いて、ボルドさんは手を振りながら大声で言う。


 そしてそのまま怒りの頂点に達しているジューズーランさんを見て、ボルドさんは私がするように――手をかざした。そのままボルドさんはこう言う。


「この状態を維持できるのは持って五分! それまで――いけるかい?」


 その言葉を聞いたガザドラさんを含めたダディエルさんたちは――にっと余裕の笑みを浮かべながらこう言った。高らかに、こう言ったのだ。


『五分もあれば――十分!/です!/だなっ!』


 と言った瞬間だった。


 ジューズーランさんは手を上に掲げて、それをボルドさんに貫手を突き刺すようにしてフ振り下ろした後――怒りの命令を下した。


「いけぇっ! 我が蜥蜴人の精鋭よっ!」


 その言葉を聞いて、半球体の中にいた兵士達は、すぐに黒い蠍から降りて、武器である槍を手に持って構える。そして一列になって――


「突撃ぃっっ!」


 ジューズーランさんが叫ぶと同時に、雄叫びに近い声を上げて、彼等はボルドさん達に向かって突き進む。槍を突き刺すように走って――


 それを見たボルドさんは――横にいたリンドーさんを見て頷くと、それを見たリンドーさんも頷いて……、たたっとダディエルさん達の前に出て、すっと両手をかざした。


 そして目を瞑りながら、突進してくる集団から避ける行動をしないで、リンドーさんはそのまま仁王立ちで目を瞑っていた。


 危ないし、このままでは串刺しにされてしまう……っ!


「あ」と、私が言葉を発しようとした瞬間――



「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉーっっっ!」」」」」



 と、槍を前に突き出して、そのままリンドーさんを串刺しにしようとする蜥蜴人の兵士達。そのまま槍がリンドーさんの顔目掛けて突かれようとした時――


 かっと目を見開いたリンドーさんは、大きく口を開けて――



「『大量窃盗ラージ・ザフト』!」



 と叫んだ瞬間、彼はその間に入り込むように素早く動いて、そして武器に『ぺたぺたぺた』と、どんどん触れて兵士達の後ろに向かって走っていく。


 どんどん触れながら走って、そしてあるところで止まった瞬間……。


 兵士達は手に持っていたそれが、と言う音と共に消えた。


 と言うか――


 消えたと同時に、


 それを見た私達は、目を疑いながらそれを凝視していた。


「一瞬で……っ!」

「すごい……」

「あれが、異国の盗賊の力か……」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私ははっと思い出す。


 それは――メグちゃんが言っていた言葉だ。


 メグちゃんは私に所属のことに関して説明していた時、『とある所属にはなるな』と念を押されたものがある。


 それが盗賊――シーフゥーだ。


 シーフゥーは素早さや回避のパラメーターが高い分、他のパラメーターは低いというデメリットを持っている。


 スキルも攻撃系などあまりなく、殆どが『窃盗』や『鍵を開けるスキル』しか持っていないため、あまり長所がないことでも有名だった。


 でも今見て私は思った。メグちゃんがここにいたら――シーフゥーもすごいよと言いたかった。


 だって……、一瞬の内に敵の武器を奪って――戦力を大幅に削いだのだから。そしてすごく早い……。


 リンドーさんはそのままその槍を手に持っていたロープで一括りにした後、それをガザドラさんに向けて――


「これぇ――どーぞぉーっ!」と、大きく下から上へと投げたリンドーさん。


 それを見たガザドラさんは、それをパシリと受け取って、リンドーさんに「すまないなっ!」と礼を述べて、刃を上にするように槍を突き立てて――上を見上げながらガザドラさんは叫ぶ。


「『鋼創造フルメタル・クリエイティヴ――鋼ノ苦無メタルナイフ・レイン』ッッ!」


 その言葉を言った瞬間、槍の刃がぐねっと熔けたかのように曲がって、ぐにゅぐにゅと形を変えながらその槍の刃は――ばしゅっと、無数の苦無の花火となって天に向かって飛んでいくけど、そのままどんどん放物線を描きながら――大雨の様にその苦無が兵士達に向かって降り注ぐ。


「あぁっ!」

「うああ……っ!」

「ちょっと待って!」


 と、兵士達は慌てながら声を上げて逃げようとしたけど――それも遅くて……。


 そのまま降り注いできた苦無の雨を受けて土煙が立ち込める中、その中から聞こえる断末魔のような声を聞いて私は青ざめながらその光景を見ていた。


 シェーラちゃんはそれを見て、引き攣った顔をしながらヘルナイトさんを見て……。


「だ、大丈夫なの……?」と聞くと、それを聞いていたヘルナイトさんは顎に手を当てて考えてから凛とした音色で――


「……大丈夫だろう」と言った。しかしそれを聞いてシェーラちゃんは、青ざめながらヘルナイトさんを見上げながら睨んで――


「何よ今の間はっ!」と、突っ込みを入れながら慌てていた。


 それを聞きながら、私は心配になる気持ちを抑えながら、ダディエルさん達の戦いを見ていた。


 土煙が黙々と半球体の中を汚す中、少しずつだけど明細な世界が見えて、姿を現す。


 私はじっとその世界を凝視すると……、晴れた世界を見て、ほっと胸を撫で下ろした。


 土煙が晴れた世界には――ガザドラさんが放った無数の苦無が、地面に突き刺さっていたのだ。


 しかも――兵士達の体の輪郭をかたどるように、そして服を少し巻き込みながら――地べたに這いつくばせるようにして攻撃していた。


 リンドーさんはそのまま手を上げてハイタッチを促す。


 それを見たガザドラさんは、おずおずと手を上げて、パンッとリンドーさんは笑顔でタッチした。


 ガザドラさんは驚きはしたものの、はっと紅さんを見て――慌てながらこう叫ぶ。


「紅殿っ! すぐにこやつらの首輪を――!」

「わかっているって!」


 と言いながら、紅さんは駆け出しながら女性達の拘束を完全に説いた後で首輪の破壊にガザドラさん達の方に向かって走る。


 そんな光景を見ていたジューズーランさんは、苛立った顔をして残っているダディエルさんとギンロさん、そしてボルドさんを睨みながら細い剣を上に掲げて――


「い、行けぇ乗蠍ライド・スコーピオンよっ! 私達に力を貸せぇっ!」


 と言った瞬間、今まで大人しく動かなかった蠍達がまるでロボットの様に尻尾をびくつかせながら「キィキィ」と鳴きながらダディエルさん達を標的として捉えて駆け出した。


 それも――無数の黒い滝の様に、押し寄せてくるように、それは来た。


「いいいいいいっっ! 気持ち悪いっ!」


 シェーラちゃんは己を抱きしめながら青ざめていると、それを見ていた私も思わずその場から離れてしまう。何だろうか、あれを見ていると……、うん。に見えて、気持ち悪くなって……っ。


「ハンナッ! シェーラッ!」


 と、ヘルナイトさんは私達を片手ずつで抱えながら、ヘルナイトさんはそっとしゃがんで私達をも見る。大丈夫かと聞きながら。


 それを聞いた私は、青ざめて頷くと、シェーラちゃんは頭を抱えながら震える音色で……。


「むり」と言った。


 それを聞いて、ヘルナイトさんはシェーラちゃんを見ながら「……大丈夫そうではないな」と、背中を器用に撫でながら言った。私もそれを受けて、その状態でダディエルさんを見ていると……、ダディエルさんはギンロさんを見て――


「頼む」と言い、それを聞いたギンロさんは、背中に背負っていたそのでかいものを掴んで――


「おうよっ!」と言って、そのデカいものを包んでいた布を取り払った。


 そしてギンロさんは、それをしっかりと掴んで、肩からカバンの様にかけながら、それの標準を合わせていた。


 それは長い棒がいくつもあり、それが長い筒の様になって、いくつかあるその黒い円盤でしっかりと形を保っている、腰のあたりにある長い弾丸の束。


 それを見た冒険者の私達、リヴァイヴは、ギンロさんが持っているそれを見て……、偶然言葉が重なった。



「「「ガトリングッ!?」」」



「M一三四のミニガンッ! やっぱり出したかあいつぅ……っ!」

「正気に戻ったところでアキ、お前やっぱりガンオタだろっ!」


 アキにぃとキョウヤさんの会話は今は置いておくとして……。


 ギンロさんはそのガトリングを肩から伸びているベルトで支えながら、ジャコンッ! と、迫ってくる黒い蠍に向けると、そのままギンロさんは――


「ひいいいいいいっやっはああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」


 興奮の叫びを上げながら、笑いながらそれを撃った。


 撃ちまくった。


 バルバルバルバルバルバルバルバルバルッッ! と回りながら何発も何発も銃撃する。


 それを見ていた私達は、どんどんそれを受けて黒く変色して消滅していくその様を見ながら、呆気に取られて、圧巻してしまった。


 ギンロさんの銃撃力。


 紅さんの的確な投擲術。


 リンドーさんの素早い窃盗術。


 ガザドラさんの魔法の力。


 全部がきれいにまとまっているのだ。


 ばらばらの戦いではない。バランスが取れているチームワークなのだ。


 まるで――


 それを見ていると、ジューズーランさんはぎりっと歯を食いしばりながら、残ったダディエルさんとボルドさんを睨んで、細い剣を握っている手に力を入れながら――


「こ、小癪なあああああああああああああああああああああああっっっ!」


 と叫びながら駆け出す。


 それを見て、ボルドさんは前に出ようとしたけど、その行動を手で制したダディエルさん。ダディエルさんは口に何かを入れて、そしてそのまま何も持たずに駆け出す。


 ――


「!?」

「えぇっ!?」

「正気かよおっさんっ! 待てって!」


 私とシェ―ラちゃん、そしてキョウヤさんが驚いて叫ぶ中、ダディエルさんはだだっと駆け出しながらジューズーランさんに向かっていく。


 それを見たジューズーランさんは、にっと狂気の笑みを浮かべて、ダディエルさんに向けて剣を突き刺そうとした。ボッ! と音が出るくらいの威力と素早さで。


 それを見た私は、すぐに手をかざしてスキルを発動しようとした瞬間――


「待って!」

「!」


 突然、ボルドさんが叫ぶ。


 それを聞いた私は手を下ろしながらボルドさんを見ると――ボルドさんは私達がいる方向に顔を向けて、振り向きながらこう言った。


「彼なら大丈夫だよ――なにせ、

「?」


 その本職と言う言葉に疑念の動作をしていると……。


「死ねええええええええええええええええええええええええええっっっ!」

「っ!」


 ジューズーランさんの狂気と歓喜の叫び。


 それを聞いた私達は、はっとしてその方向を見ると――ダディエルさんの顔にその剣を突き刺そうとしているジューズーランさん。


 それを見て、シェーラちゃんが叫ぼうと口を開けた瞬間、その言葉は紡がれることはなかった。


 驚きのあまりに、口がぽかんっと空いて開いてしまったのだ。それは私も、キョウヤさんも、アキにぃもそうで、ヘルナイトさんだけは、目を疑うような顔をして見ていた。


 私達が驚いた理由。それはダディエルさんの行動。


 ダディエルさんは、顔に向かってきたその剣の攻撃を、紙一重で横に躱したのだ。


 顔すれすれで、斬れるかもしれないような距離で、躱して、最小限の行動で横にずれて、ジューズーランさんの視界の死角に隠れて、そのままっと、


 それを見た私は、何をするのだろうと思ってその光景を見ていると……。


 ダディエルさんはそのまま、ジューズーランさんの顔と顎目掛けて――


「――っふ!」


 と、口から何かを吐き出した――否。吹いたのだ。


 吹き矢の様に、それは小さくて見えずらい。そして目にも止まらない速さで――


 ぷすっ! としゅっ!


 と、ジューズーランさんの顎と喉の近くにそれが突き刺さったのだ。


「っ! っ!? なんだ?」


 驚いた顔付きでジューズーランさんは、顎と喉の近くに刺さったそれを取ろうとしたが、よろめきながらなんとか取ろうとする。


 彼の顎に刺さっていたのは、遠くならでは見えない小さくて細いものだった。そして日の光に反射する何かだった。


 それを見ていたダディエルさんはそのまま後ろの跳び退きながら、背後からくる大きな巨体とすれ違いざまに――こう言ったのだ。


「あとは任せたぜ」と言って、そのまま交差する様に駆け出して、後ろに跳び退く。


 ダディエルさんは跳び退きながらその人物の背中を見て――にっと笑いながらこう言った。


「リーダーっ!」


「――ぅううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」


 と、叫びながら駆け出してきたボルドさん。


 それも勢いがありすぎて逆に怖いくらい。それを見たジューズーランさんは、はっとして手を上げながら「ま、待て!」と制止をかける。


 けど静止の声が聞こえていないのか、ボルドさんは右拳を振り上げながら、どんどんジューズーランさんに急接近してくるボルドさん。


 それを見たジューズーランさんは、命の危機を感じたのか慌てて青ざめて、そして泣きそうになりながら手を振って、彼は叫んだ。


「待って! 待ってくれ! い、命だけは……、命だけは助け」


 と言うまでもなく……。


 ボルドさんの右拳は、まるで音速を超えたかのような空気が晴れるする音を出して、そのままジューズーランさんの胴体に向かって、それはものすごい勢いと威力で突っ込んでいき、そのまま――




 ――ドゴォオオオオオッッッ!




 と、ダンさんでもこんな威力は出ないような腕力と手の力で、ボルドさんに殴られたジューズーランさんは、そのままぐるんぐるんっと時計回りに体を回転させながら宙に向かって飛んで、そのまま――


 ――ガンッ!


 勢いよく『囲強盾エリア・シェルラ』に当たって、そのままずりずりと落ちていった……。


 その光景を唖然とした顔で見ていた私達とエルフの人達。


 ボルドさんはふぅっと息を吐いて、腕で顎の汗を拭いながら――清々しく聞こえる音色で言った。


「奥の手を使うまでもなかったな」と――

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