PLAY45 彼らの過去とアクロマ ①

 ボルドさんが殴ったその光景を見ながら私達やエルフの人達、そしてやっとそのエルフの人達の中から出てきたメウラヴダーさんやクルーザァーさん達は、その光景を見てぎょっと目をひん剥かせながら驚いてその光景を見る。


 驚くのも無理はないと思う。


 なにせ――その出てきた所の真正面に『囲強盾エリア・シェルラ』にこびり付いた涎と、その下で崩れ落ちているジューズーランさんがいたのだから驚くのは無理もないと私は思った。


 汚い分、何が起こったのだろうと思うような顔だ……。


 それを見てダディエルさんはボルドさんに近付きながら――そっと手を上げて。


「やったなリーダー」と、労いの言葉をかける。


 でも……、ダディエルさんの表情は浮かない。


 最初に出会った時、とあるところで見せたあの顔に哀愁を重ねたような顔をしている。


 それでも無理に笑おうとしているところから見て……、きっとあの時感じた黒いもしゃもしゃと関係しているんだと思いながら、ボルドさんの手をパンッと叩くその姿を見て、私は思った。


 そして――


「っと……。解除しないとね」


 と言いながらボルドさんは両手をパンッと叩く。


 すると――私達の前にあった半透明の半球体の壁が、すぅっと空気に溶けるように消えていく……。


 それを見た私はすぐにボルドさん達のところに駆け寄る。


 シェーラちゃんもヘルナイトさんも……、そしてアキにぃ達も私に続くように駆け寄って――


「大丈夫でしたか……?」

「あんた達すごいチームプレーね」

「お前等の行動読めなさすぎるっ! なにあのガトリングとか! あの細い何かっ!」

「あのガトリング……ッ! きっと課金で買ったんだろう……っ! 俺に負けたことがそんなに悔しいのか……っ!」

「アキは黙んなさい」


 私を代表にシェーラちゃん、キョウヤさん、アキにぃと言う順番でボルドさん達に駆け寄りながら聞いてきた。


 でもアキにぃの言葉に、シェーラちゃんは冷たい言葉を吐きながら睨む。


 そんなアキにぃの言葉を聞いてか、そのガトリングガンを見せびらかすようにギンロさんはボルドさんの背中からひょっこりと出てきて、にやにやしながらこう言った。


「どうだぁ? あん時の俺はバズーカ主体だったけど、イメチェンしたんだよこっちは!」

「銃のイメージチェンジってなんだそりゃ。と言うかそれ銃に使っていいのか……?」


 キョウヤさんはギンロさんの言葉に突っ込みを入れたけど、すぐにあれっと首を傾げて悩みだした……。きっとそのガトリングが銃なのかと言う疑問を抱いたのだと思うけど……。


「このM一三四-ミニガンモデルの『デスバード』ッ! ガンゲームを愛する俺にとって、至高の一品のような存在だっ! おかげで給料すっからかんだったけどな」

「どんだけ課金したんだよそれ」


 最後の現実じみた言葉を聞いて、キョウヤさんは呆れながらギンロさんを見た。


 それを聞いていたのか、今まで黙っていたヘルナイトさんは――ボルドさんを見てすっと軽く頭を下げながら、凛とした音色でこう言った。


「すまない。私はいながら……」

「ちょっ! 待って待って! これは僕達と言うか僕の勝手な行動でこんな流れになって! と言うか僕達も感情的になりすぎちゃっただけだし……っ!」

「リーダーリーダー。深呼吸、しんこきゅー」


 その行動を見ていたボルドさんは慌てながら手をかさかさと動かして何とか弁解しようとしていたけど、最後には「えっと、あっと……うーんとおーっと?」と、混乱したまま目をぐるぐると回していた。


 それを見てリンドーさんはニコニコと笑みを浮かべながらボルドさんの肩を叩きながら言った。


 その会話を聞きながら、私はヘルナイトさんを見上げていると――


「ねぇー。こいつらの首輪も壊したけど……、こいつらどうする?」


 紅さんと、その苦無をグネグネと変形させながら、手に持っていた槍の刃に戻しているガザドラさん。それを見ていたダディエルさんは溜息交じりに面倒くさそうにしながら――


「その辺に捨て置け」と言った。


 それを聞いた私ははっとしながら慌ててダディエルさんに向かって――


「そ、それは流石にかわいそうです……っ!」


 と言って、倒れている蜥蜴人の人達に駆け寄りながら私は言った。


「さっき言っていたあのお方のことや、色んな話を聞きたいんです……。独自の判断なんですけど……、いいですか?」


 そう聞くと、ダディエルさんはそれを聞いて理解ができないような顔をしてから――私を見下ろして……。


「お前――連れて行かれそうになったんだぞ?」


 怖くないのか?


 そう聞かれた。


 それを聞いた私は首を傾げながらどういうことなのだろうと思い、ダディエルさんを見上げる。


 それを見てギンロさんやリンドーさん、ボルドさんは目を点にして私を見て、ダディエルさんは頭を掻きながら私を見てこう言う。


「お前あの時、そこで伸びている蜥蜴に連れて行かれそうになったんだぞ? 普通なら叫んで暴れてもおかしくねえだろうに、なんで怖がらなかったんだって聞いたんだよ」


 その言葉を聞いた私は、その言葉と共に思い出したあの光景を再度脳内で再生する。


 ダディエルさんが言っているその光景とは、きっとジューズーランさんに肩を掴まれて、そのまま連れて行かれそうになった時のことだろう……。


 それを思い出して、その時の感情を思い出しながら――私はダディエルさんを見てこう言う。


「何だろう……。そんな気持ちはなかった…………です?」

「疑問形だと余計に不安になるからはっきりしろい」


 ダディエルさんは私の話を聞いて呆れながら突っ込みを入れてきた。


 それを聞いて、私は困ったように首を傾げて、内心本当のことなんだけどと思いながらその話を聞いていた時――


「おーい。どうするのか早くしてー」

「「!」」


 紅さんのもう待ちきれないような気怠い声を聞いて、私とダディエルさんははっとしてその方向を見るために振り向くと、紅さんは器用に蜥蜴人の人達を縄でぐるぐる巻きにしながら私達の方を見て聞いている。


 そして倒れて伸びているジューズーランさんを横目で一瞥しながら……。


「そいつはー? どうするのー? こ」

「ろすなばか。同じようにぐるぐる巻きにしていろっ! あとガザドラ! 女共の手足の枷……どうにかできるか?」


 紅さんの言葉にぎょっと驚きながら、ダディエルさんはその言葉を遮って違う言葉にするように言うと、それを聞いていた紅さんは、「えー?」と言いながら、残念そうな顔をしていた。


 ダディエルさんは次にガザドラさんを呼んで、未だに手足の枷で身動きが取れない女の人達を指さしながら言うと、それを見ていたガザドラさんはそれを見て胸をとんっと叩きながら――


「お安い御用だっ! すぐに別のものに変えておくっ!」と意気込みながら――その女性の人達に駆け出していく。


 私はぐるぐる巻きにされている人達を見て――そっと歩み寄ろうとした時。


「ハンナ」

「!」


 声が聞こえたので、声がした背後を見ると……、背後にいたヘルナイトさんは、私の顔を覗き込みながら、凛とした声でこう言った。


「さっきの詫びと言うことでもあるが……、一緒に行こう」


 万が一の時のためにな。とヘルナイトさんは言う。それを聞いた私は頷きながら、そっと前を見る。ぐるぐる巻きにされている蜥蜴人の人達を見て、でも私はすぐにはっとしてから、アキにぃ達の方を見て、控えめに微笑みながら――


「大丈夫ですから」と言う。


 そしてその光景を見た私はすぐにアキに向けて視線を向けると……、私の言葉を聞いていたののかシェーラちゃんが私達のことを見て――


「こっちの方は気にしなくてもいいわ。エルフの人達のこともあるし、それにアキバカギンロアホが火花散らしているから――手短にね」


 と、シェーラちゃんは言った。


 彼女の言う通り……、アキにぃとギンロさんは火花を散らしながらいがみ合っている。それをキョウヤさんとボルドさんが止めて、それをけらけら笑いながら止める気などない顔をして見ているリンドーさん。


 それを見て私は、驚きと茫然が混ざったような顔をして――


「………うん」と言った。


 そして――


 私はぐるぐる巻きにされている蜥蜴人の人達に歩み寄り、ヘルナイトさんと、そしてその蜥蜴人の人達を見ていたワーベンドの人達と一緒に、話を聞こうとそっとその場でしゃがんだ。


 それを見て――一人の蜥蜴人が私をじろっと見て……。


「な、何の用だ……?」と、警戒するように聞いてきた。


 それを見て聞いた私は、「えっと……」と言いながら、少し考えて、そして控えめに微笑みながらこう言った。


「あの……、聞いてもいいですか?」

「?」


 私の言葉に、蜥蜴人の人は首を傾げながら周りにいる人達の顔を見合わせて、そして頷き合ってから――私の顔を見て聞く。


「何を……、聞くのだ?」


 その言葉を聞いた私は、ぐっと顎を引きながら、意を決して顔を上げて聞く。


「――あの人が言っていた……。って、誰なんですか?」


 それを聞いて、私の話を聞いていた蜥蜴人の人は、すっと目を細めながら、まずいことを聞かれたかのような不安な顔をして、そっとその目を、私から見て右斜め横に逸らす。


 すると――


「――さっさと吐け」

「わ。クルーザァーさん」


 突然、クルーザァーさんは私の横に並ぶように前に出て、そして目を逸らした蜥蜴人を見下ろしながら、威圧を込めるようにクルーザァーさんは言った。


「吐かないなら――……?」

「えっ!?」


 と、私が驚く顔をしり目に、クルーザァーさんは腰を下ろしながら、手に持っていたナイフを逸らした蜥蜴人に見せて、それを見て驚きの目をした蜥蜴人を見てから、クルーザァーさんはがしりと下顎を掴んで、ぐぐぐぐっと無理矢理口をこじ開ける。


「あ、が……っ! ががが!」


 そしてその開けた口からぬるりと出てきた舌の下、つまりは舌の根元にナイフを差し入れて、刃を立てた。


 いつでも切り取れるように、下顎を見っていた手を蜥蜴人の口先に向けて、その手を支え棒の様に閉じないようにして……。


 切ろうとしていた……。


「ふぃ……っ!」


 口の自由が利かないその声で、私と話していた蜥蜴人は、びくっと強張って足をじたばたと動かしながら自由が利かない口で「助けて!」、「待ってくれ!」と嘆願していた。


 それを近くで見ていた蜥蜴人は、怯えながら震える声を上げている。


 後ろにいた蜥蜴人の人達はそれを聞いて、何があったのかと慌てだす。


 私はそれを見て、驚きの声を上げながら慌てて止める。


「な、なにをして……っ!?」

「決まっている。こいつの口を割る為の合理的な行動だ。この方がよりスムーズに情報を得ることができる」


 クルーザァーさんの平然とした言葉を聞いて、私は驚きのあまりに絶句して、青ざめてしまう。


 それを見ていたスナッティさんは、顔を青ざめながら、口元に手を当てて、くぐもった声で「うぷ」と言いながらクルーザァーさんを見下ろして――


「く、クルーザァーさん……。それ、ずっとずっと思っていたんすけど……。かなりえぐいっすよ……。自分そう言ったもの苦手っすし、第一自分達はそこまでしなくてもいいって思っているっす……」と言った。


 それを聞いていたメウラヴダーさんも、頷きながら冷や汗を流して――


「それに……、そこまですることではないだろう……? そんなことを何回もして、後味悪い気分を味わっている俺達の身にもなれ」と言うと、それを聞いていたティティさんも口元を手で押さえながら気持ち悪そうな顔をしてこう言う。


「……一体全体、どんな教育をしたらそうなるんですか……? 気色悪い上に悍ましさ倍増です」

「あ、あの…………っ!」


 と、私は声を荒げながら、慌ててメウラヴダーさん達に聞いた。


「止めた方が――」


 と言った瞬間、その言葉を即座に論破した人が、首を振りながらこう言った。



「いや――それは何回もしたけど、無理だな」



 ガルーラさんだった。


 それを聞いて、私は唖然としながらガルーラさんを見て……、「なんで……?」と言葉をぼとぼとと地面に落とす。


 それを聞いて、ガルーラさんは溜息を吐きながら、がりがりと頭を掻いて、申し訳なさそうにこう言った。


「最初こそあたし等も止めたさ。体を張ってな。でもそれでも――こいつは止まらなかった。これでも結構穏便になった方なんだ」

「最初こそ……、手足をへし折って情報を引き出していたからな。『逃げる足や手を残すことは合理的ではない。折った方が合理的に情報を引き出して、そして逃げることができないという先入観と恐怖を植え付けることができる。最も効率のいい、合理的な情報収集だ』ってな」


 メウラヴダーさんが言うと、それを聞いていたスナッティさんはこくこくと青ざめながら頷く。


 それを聞いて、私は青ざめながら、未だに暴れている蜥蜴人を見て、そしてその蜥蜴人の舌を切ろうとしているクルーザァーさんを見る。やめる気はさらさらないようだ。


 それを見た私は、どうにかしないとと考えて、何とかクルーザァーさんを止める策を練る。一人で練って練って練って…………。




 何も、思い浮かばない……っ!




 そう思っている間に、舌の下にあったナイフが、どんどん上に向かっていく。


 それもぷっと……、舌をほんの少し切って……、そのから小さな赤い玉を吹き出すと、その微妙な痛みを感じたのか、その蜥蜴人は更にじたばたと暴れながら声にならないような言葉を叫び続けている。


 それを聞いても、クルーザァーさんはやめない。むしろ冷徹……、冷淡……な顔で、彼は聞いた。


 私はそれを耳に入れながら、言葉よりも体が動いて、手を伸ばしながら――クルーザァーさんの行動を止めようとした。


 すると――


「さぁ――話してもらおう。そのお方について」




 ――




「!」

「「「っ!?」」」

「…………っ!」


 と、クルーザァーさんのナイフを持っている手を掴んだ黒い手。


 それを見て、クルーザァーさんは驚きの顔をしてその人を見上げスナッティさん達もそれを見て、諦めかけていた表情から驚きの顔に変えて――私は伸ばしていた手を地面に向けて、どんどん地面に落ちていきながら、地面に手をつけて、素早く顔を上げて、その手を見てから、顔を見る。


 顔を見た瞬間、その人はクルーザァーさんを見て――


「やめろ」


 と、少し怒っているような音色で――ヘルナイトさんはクルーザァーさんの手をぎちっと音が鳴るくらい握りしめて止めていた。


 それをゴーグル越しに睨みながら……、クルーザァーさんは低い音色でヘルナイトさんに言う。


「……何をする気だ?」

「見てわからないのか? それ以上したら――取り返しのつかないことになるんだぞ」

「そんなこと関係あるか。殺しはしない。不合理な行動はしない。命は奪っていないだろう。ただ脅して情報を引き出そうとしているだけだ」

「もっといいやり方があったはずだ。傷つけるようなことをしても、時間が減るだけの、不合理ではないのか?」

「時間よりも情報と言う有益なものが必要なんだ。時間をかけてでも引き出さないといけない。それがわからないのか? 最強の騎士」

「……、とにかく、やめてほしい」


 と言って、ヘルナイトさんはぐっと、クルーザァーさんの腕を掴む力を強めながら、願うように凛とした音色でこう言った。



「――これ以上、この種族を傷つけないでくれ」



 ハンナや――この者の家族が、悲しむ。



 そうヘルナイトさんは言った。私や、他人のことを第一に考えた言葉を言ったのだ。


 それを聞いてクルーザァーさんは、「はぁ」と声と溜息を出して、蜥蜴人の舌を傷つけないように、そっとナイフを取り除いて、それを懐にしまう。


 蜥蜴人の人は一命を取り留めたかのように、どっと汗を拭きだして、「っがぁ! っは! はぁ! はぁっ! ふぅ! はぁ……っ!」と、荒い深呼吸をしながら落ち着きを取り戻そうとしていた。


 それを見て、ほっと胸を撫で下ろして、そしてヘルナイトさんを見上げて――私は控えめに微笑んで、安堵の息を吐きながら……。


「あ、ありがとうございます……」と、お礼を述べると、ヘルナイトさんは「気にするな」と言い――


「君の願いでもあるだろう?」と、ヘルナイトさんは凛とした音色で微笑むように言った。


 私はそれを聞いて、ほっとした笑みを浮かべる。


 それを見たヘルナイトさんの驚きを見ないで――私はクルーザァーさんを見る。


 クルーザァーさんはすっと立ち上がって――私を見下ろしながら冷たい音色でこう言う。


「そんなに犠牲がいやか?」


 私はそれを聞いてこくりと頷く。


 本心としての行動。


 それを見たクルーザァーさんは呆れながら「不合理だ」と言って――


「そんな甘いことを言っているから、お前は弱いままなんじゃないのか? 多少の犠牲なんて誰も心配していないんだ。この国がそうだ。この国は小さな犠牲を食べ物の様に貪ってなかったことにしている。己の利益のために、多大な犠牲が出たとしても、そいつらは普通に生活をするだろう。そいつらだって同じだ。。結果として――生きる価値などない」



「……生きる価値って……、どうしたら決まるものなんですか?」



「?」


 私はクルーザァーさんの言葉を聞いて、へたり込んでいた姿勢をすっと正して、その場で星座をしながらこう言う。


 しっかりと――目を見て言う。


「生きる理由に、生きるということに、価値とか――大なり小なりをつける必要ってあるんですか?」

「………………何が言いたい?」

「私は――そうとは思いません」


 私は、自分の胸に手を置いて――そしてその状態で、クルーザァーさんを見つめる。


 私を見ていたクルーザァーさんと、メウラヴダーさん、ガルーラさんやスナッティさん、そしてティティさんがはっと息を呑んで、驚いた眼で私を見ていた。ティズ君はそれを見て、初めて驚いた感情を剥き出しにした。


 それを見ても、私はクルーザァーさんを見て――言った。



「みんなこうして生きているんです。それに価値をつけて、その価値次第で生死が決まることはおかしいと思います。生きている人は――みんな変わることができるんです。この人達だって生きている。殺さなくてもいいのに殺すなんてことは――おかしい。そう私は思います……」



「………………………」

「だから――何もしないで、見ててください」


 それだけ言って、私はそっと怯えている蜥蜴人の人達に声をかけると――蜥蜴人の人達は、びくぅっと肩を盛大に震わせて――私を恐怖の対象として見て、泣いていた。


 私はそれを見て、その人達から感じる悲しさと怖さが混ざったもしゃもしゃを見て――私は……。


 にこっと、控えめに、微笑んで――



「――大丈夫です。私は何も武器を持っていません」



 だから――安心してください。



 そう私は、防具を手に持って、それをそっと広げながらその中にある服を見せるようにして言う。それは――敵意がない証としての、証明。


 それを見た蜥蜴人の人達は、見て驚きながら、泣いていたそれをピタッと止める。そして茫然として私を見る。


 きっと――横にいたクルーザァーさん達も、それを見て驚きを隠せなかったに違いないだろう。


 それでも私は、更に敵意がないことを見せるために、腰にあったウエストポーチを手に取って……。


「信じられないなら――このポーチの中身も見せます。武器となるものがないか」

「ま、待てっ!」


 と、クルーザァーさんに殺されかけていた蜥蜴人が私に向かって声を荒げ、驚いた顔をしてこう聞いてきた。


「な、なぜ俺達にそのような情報を与えるっ! 俺達は……、お前を帝国に売ろうとしたんだぞっ!? 怖くないのかっ!?」


 私はそれを聞いて、ポーチを見せることをやめて、それから蜥蜴人の人を見て――私は言う。


 控えめに微笑みながら、首を傾げながらこう言った。


「確かに、ジューズーランさんはそうする気だったみたいです。でも……、あなた達は違う。その気がさらさらなかった。消極的だった」


 そう言いながら――私は再度口を開けて言う。



「――戦う意思がない人を、無慈悲に事すなんてことは、傷つけるようなことは……、絶対にしたくないです」



 それは――戦うということはありません。ただの弱い者いじめです。



 そう言うと、それを聞いていたのか――ティティさんのくすくす声が聞こえて、クルーザァーさんのむっとした声が聞こえた。


 そしてそれを聞いて――蜥蜴人の人は呆気にとられたような、口の開け方をして……、黙ってしまった。


 私はその顔を見ながら、再度控えめに微笑む。


 すると――


「………………はぁ」


 と、溜息を吐いて、その蜥蜴人は周りにいる蜥蜴人を見ながら頷き――私を見て首を横に振りながらこう言った。


「参った。まさかこんな形で負けるとは、思ってもみなかった。しかし……」と言って、クルーザァーさんに殺されかけていたその蜥蜴人は、ぐるぐる巻きにされているにも関わらず、その場で頭を下げながら、私に向かってこう言った。



「――助けてくれてありがとう。なんでも聞いてくれ」



 それを聞いた私は、ほっと安堵の息を吐き、微笑みながら「よかった……」と、声を零す。本音を零す。


 そんな私を見ながら、クルーザァーさんたちは驚いた顔をして私を見て――ヘルナイトさんは口元を緩く弧を描いていることなどつゆ知らずの私は、蜥蜴人の人を見て、「なら――一つだけ」と言って、聞いた。


「さっき言っていた……、あのお方と言うのは……。ネクロマンサーのリーダーのことですか?」


 すると――それを聞いていた蜥蜴人の人ははっきりとした音色で――




「いや――違う」と、首を横に振りながら言った。




 それを聞いて、私は前にリョクシュが言っていた『あのお方』なのかなと思っていたのだけど、違う返答を聞いて首を傾げながら、「それじゃぁ……、誰なんですか?」と聞くと――


 蜥蜴人の人はこう答えた。



「――冒険者だよ。。二人いたな」



「…………それって……」


 と言いながら、そっとヘルナイトさんを見上げる私。ヘルナイトさんはそれを聞いて、きっとそうだろうという意思表示の頷きを見せる。


 すると――それを聞いていたメウラヴダーさんとガルーラさんが前に出て、落ち着きのない表情で彼らはその蜥蜴人の肩を掴みながら、こう聞いてきた。


「そいつはどんな奴だっ!」

「話せっ!」

「え? えぇ?」


 蜥蜴人の人は、そんな二人を見て驚いてめをぱちくりとさせている。その光景を見た私は驚きながら二人のもしゃもしゃを見る。


 二人から出ているもしゃもしゃは赤くて、そして黒いもしゃもしゃ。しかもそのもしゃもしゃは……、人の形になっていたのだ。頭と、胴体がある――そのもしゃもしゃを見た私は、まさかと思いながら、蜥蜴人の人の話を聞く。


 蜥蜴人の人は驚きながらもその話を聞いて――


「どんなって言われても……、順を追って話すと……。前長まえおさが流行り病で亡くなり、そのあとを継いだあの息子が、適応力とか言いながら帝国に服従する道を選んで、俺達は兵隷となったんだが、最近あのバカ息子が調子こいて人間の奴隷を買い取ったんだ。その時不意を突かれて――殺されちまったんだよ。背後から石を叩きつけられて」

「馬鹿って言いたいんすけど……。そして仲間からもあんまり信用されていないことに気付いたっす。さらりとバカ息子って言ったっす……」


 スナッティさんはあんぐりと口を開けながら言うと、それを聞いていたティティさんは頷いて……、「忠誠心など微塵も無いようなドラ息子だったんですね……」と、呆れながら言った。


 蜥蜴の人は話を続ける。


「それからだよ……。バカ息子が死んた時――とある白衣を着た黒髪と金色の髪で、つやつやした服を着た男の冒険者が現れて、もう一人も白衣を着て黒髪で、つやつたした服を着ていたけど、ダボッとしているような服だったな……。しかも靴も変な色と形をしていたし……。それで金色と黒の髪の毛をした男が手に持っていた『屍魂』の魂を使って――バカ息子の魂を閉じ込めて、それを殺された死体に埋め込んだんだよ。そのあとは俺達が知っているドラ息子に戻った……。いや、生き返ったの方がいいのかな……」


 あぁ……、だからネクロマンサーがよく言っている『ネクロマンサー、何々』的なあれがなかったんだ……。


 あれはネクロマンサーのお決まりのセリフなのかな……、と思っていたけど、違うようだ。


 それを聞いてメウラヴダーさんは真剣で、静かに怒りを燃やしているような音色で――


「そいつら……、どんな名前だったんだ?」と聞いた。


 それを聞いた蜥蜴人の人は、その気迫に押されながら重い口を開く……。


「あ、あぁ……。そいつらの名前、すごく短かったから覚えているよ。確か……『ぶらっくかんぱにー』のアクロマ……。と」





 ゼット。っていう名前だった。そう蜥蜴人の人は言った。





 それを聞いて、ガルーラさん、メウラヴダーさん、そしてクルーザァーさんが、赤と黒のもしゃもしゃを出しながら、その感情を押し殺してその話を聞いていた……。


 私はそれを見て、恐怖を少し感じながら、ぎゅっと握り拳を自分の膝の上で作った……。その手の中にある汗はべっとりとしていた……。

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