PLAY45 彼らの過去とアクロマ ②

 すると……。



「うううがあああああああああああああああああああああああっっっっっ!」



 獣の咆哮のような声が耳を突き刺した。


 それを聞いた私は、びくっと肩を震わせながら背後から聞こえた声の主を見るために振り向く。


 ティズ君達も、ヘルナイトさんも背後を見て――


 目を疑った。


 倒れていたはずのジューズーランさんがあらんかぎり叫びながら血走った黒い瞳孔の眼で、シェーラちゃん達に向かって走りながら剣を突き出そうとしていた。


 それを見たシェーラちゃん達とボルドさんは驚いて武器を構えようとしたけど、その前に突き刺さりそうな距離まで詰めて走ってくるジューズーランさん。


 私以外のみんなが走っていこうとした。


 ヘルナイトさんもそれを見て大剣を構えようとしたけど、あまりに早さに追いつけるか、追いつけないかと言う距離まで近付いている。


 ダディエルさんもぷくぅっと頬を膨らませて何かを吐きだそうとしていたけど、それでも外す確率の方が大きいだろう……。


 でも――その間にジューズーランさんは、剣の先を一番近いシェーラちゃんに向けて突き刺そうとした。


 その時――するっとボルドさんの背後の――フードの中から出てきた白い何か。


 それを見た私ははっとしながら目を疑うように、それを凝視した。


 みんな凝視した。


 ボルドさん達とジューズーランさんの間に入り込むように、その白い生命体はふわりと宙をうきながら、ジューズーランさんを見ていた。


 その白い生命体は私の顔くらいの大きさの小さな小人の姿をしてて、白い長髪に白い着物に青い帯。体から白いふわふわしたものを出していた。


 その白いふわふわはふわり、ふわりと地面に落ちていき、地面にピタッとついた瞬間、さらっと解けて地面にシミを作る。


 それを見た私は、その白いそれが雪だと認識した時……、ジューズーランさんはざざぁっと地面を滑りながら急ブレーキをかける。


 そしてその白い生命体を凝視しながら、血走った目と荒い息遣いで、彼は口を開いた。


「な……、なんだ……っ! この生き物は……っ!」


 と言った瞬間、その白い生命体を見たボルドさんは、慌てながらその子に向かって――


「こゆきちゃんっっ!」と叫んだ。


 白い生命体――こゆきちゃんは「ふぅー」と、人語ではない鳴き声を上げて、そのままくるくると回り出したと思ったら、そのこゆきちゃんを包み込むように、小さな雪の竜巻が起きた。


 それは私達やみんなに向かって吹いて、それを感じたキョウヤさんはびくっと体を震わせ、自分を抱きしめながら「さっぶっっ!」と声を上げた。


 みんなもそれを感じて自分を抱きしめながら寒さから自分の身を守っている。


 砂の国にとって滅多に見られないからか、それとも幻想的に見えるようなその光景に魅入られてしまっているのかわからない。


 それでも初めて見るような雪の集合体は、どんどん大きくなって、そしてとあるところで、大きな卵サイズになったところでぶわぁっと、その竜巻は内側から破裂した。


 そしてその竜巻の中から出てきたのは――白い肌に白い長髪。白い着物に青い帯。さっきの小さな女の子が、美しい女性に急成長してジューズーランさんの前に現れたのだ。


 口から白い吐息を吐きながら……。


 それを見たシェーラちゃん、アキにぃ、キョウヤさんは驚いた目をしてその人を見上げ、ボルドさん達はそれを見て少し不安そうにして見ている。


 ダディエルさんはそれを見て口から銀色のそれを吐きだす。


 ダディエルさんが口から吐いたそれは――針だった。


 しかもよく裁縫とかで使うあれである。


 さっきジューズーランさんに攻撃したあれも針だったのかな……? そう思っていると――


「スゥ――」と息を吸うこゆき……ちゃん。そしてそのままジューズーランさんに向けて――


「ふぅ」と、小さく息を吐いた瞬間。


 ――ゴオオオオオオオオオオッッッ! と、横殴りの吹雪がジューズーランさんを襲い、エルフの里の入り口をバキバキと凍らせていき、大気中の温度を急激に下げる。


 近くにいない私達でも、その凄まじい冷気を感じて、ぶるぶると震えてしまうくらいの寒さなのだ……。


 それを直接近くで受けているジューズーランさんは――



「あ、あ、あ、あ、あああああああああぁぁぁーっっっ!」



 体全体でその冷気と猛烈な吹雪を受けて、体中を白くさせながら叫ぶ。凍りながら叫ぶ。


 そしてその声がだんだん小さくなっていくと……、それを聞いてか、こゆきちゃんはふっと息を吹きかけることをやめて、ふわりとそのままボルドさんのところに戻っていく。


 ボルドさんはその姿を見て、申し訳なさそうにしてジューズーランさんを見た。


 みんなが、誰もが、今まで驚いたまま防寒を徹していたエルフの人達も、拘束されている蜥蜴人の人達も、奴隷となっていた女の人達もそれを見て……、言葉を失っていた。


 ふわりふわりと流れるような白い冷気が、エルフの里を包んで、そしてその冷気が熱気に当たったことで――一瞬のうちに消えてなくなる。


 なくなって明るみになったそれを見て、私は小さく「……うそ……」と言ってしまった。


 それは絶望のそれではない。驚愕のそれである。


 明るみになったその先を見た私は、こゆきちゃんを見て、再度その光景を見る。


 そこにいたジューズーランさんは、まるでシェーラちゃんの詠唱にかかったかのような、下半身が凍りつけになって身動きが取れない状態になっており、上半身は霜がこびりついている。


 ふーっ! ふーっ! と、荒い息を吐くたびに、白い息がこぼれる。


 簡潔に言うと――ジューズーランさんは凍っていた。下半身だけ凍っていた。殺していないけど、きっとあのままにしておけば凍傷は間違いないだろう……。


 それを見ていると――ボルドさんはぷんぷんっと怒りながら、こゆきちゃんの頭を指でツンッと突きながら――「こゆきちゃん。めっ! だよ」と、軽く注意をしていた。


 それを受けたこゆきちゃんは、しょぼんっとしながら体を白く発光させて、どんどん小さくなって、最初に見た時の小人になる。


 それを見たボルドさんは、こゆきちゃんを手に乗せてジューズーランさんを見る。


 キョウヤさんはそのこゆきちゃんを見ながら驚いた目をしているけど、すぐにそのジューズーランさんを見る。


「あ、ぎぃ……っ! なんだこれは……っ! つ、冷たい……っ! 寒い……っ!」


 ジューズーランさんは、あまりの寒さに凍えそうな声を上げて、ぶるぶると震えている。


 それを見た私は、そっとその凍傷状態――MCOの時はこんな状態なかったけど……、それでもきっと……『異常回復リフレッシュ』でなんとかできる。


 そう思いながら立ち上がって、ジューズーランさんに歩み寄ろうとした時だった。


「待ってくれ――」


 さっきまで話していた蜥蜴人の人が話しかけてきた。


 私はそれを聞いて歩みを一旦止めて、振り返りながらその人を見る。すると――話していた蜥蜴人の人は、私をしっかりと見て――こう言った。みんなに対してでもあるその言葉を吐いたのだ。


「――あのドラ息子を助けないでくれ」

「え?」


 私は、驚きのあまりに固まってしまう。助けないでくれ。それを聞いた瞬間……、頭が真っ白になったのだ。理由として――理解ができなかったから。


 同じ仲間ならーー助けてほしいという気持ちは当たり前だと思っていたから、私は混乱してしまったのだ。


 でも蜥蜴人の人は私を見て、みんなに向かって更にこう言う。


「あいつは自分の地位を弄んできた甘ちゃんなんだ。適応とか言って、結局は俺たちを奴隷のように扱って、そして人間の女を使って人間の真似事をする…………。蜥蜴人の誇りを、穢した屑息子なんだ」


 それを聞いてか、スナッティさんは納得しながら「あー……、だから馬鹿とかドラとか言いまくりだったんすね……」と、呆れ半分、申し訳なさ半分の表情をして首を横に傾げる。それを見てか、更にこう言う。


「甘えに甘えまくってここまで来てしまったのは――そのことについて反論できなかった俺達のせいでもある。だがその権限を壊したドラ息子に――少しでも屈辱を味あわせてほしいんだ。助けるなんて甘えを……、あいつに与えないでくれ」


 少し痛い目を見ないと――目を覚まさない。


 そう、蜥蜴人の人は言って、そしてそっと頭を下げながら――兵士たちはそろって頭を下げる。


 その光景を見て、私は驚きながらそれを見て頭を上げるように言おうとしたけど――ヘルナイトさんはそれを制止する様に、私の肩をそっと掴む。


 それを見た私は、ヘルナイトさんを見上げた瞬間――



「俺達も誇りを穢した。だから俺達に無理に優しくしないでほしい」



 と、蜥蜴人の兵士は、私を見ないで、私に向かってそう言ったのだ。


 それを聞いて、私は……、その言葉を聞いて、あまりに理解ができないその言葉を聞いて――行動を止めてしまう。それを見ていたクルーザァーさんは、腕を組みながら驚いた顔をして……。


「実に合理的だ」と言った。


 それを聞いた私は、クルーザァーさんを見ながら、震える声で「ご、合理的……? ですか?」と聞くと、それを聞いていたクルーザァーさんは肩を竦めて、蜥蜴人の人達を見下ろしながらこう言葉を発した。


「ああ。こいつらはそのバカ息子の言いなりになっておらず、且つその息子の改心のために、心を鬼にして見捨てる。教育だと不合理で荒治療だが……、最も反省する確率が高い方法だ」

「で、ですが」

「半面――」


 と言って、クルーザァーさんは私を見下ろしながら、冷たい音色でこう言った。


「お前のやり方はあまりに甘すぎる。それでは反省などしない。反省させるなら徹底して、その身に刻まなければならない」


 悪いことをしたら、こうなってしまうとな――


 と言って、クルーザァーさんはそっとジューズーランさんを見ながら言う。それを聞いて、私はそっとジューズーランさんを見ると……。


「お、おいお前達っ! いつまでそうしているのだっ! 早く私を助けろっ!」


 と、声を荒げながらジューズーランさんは叫ぶ。ガチゴチに、そして溶けるのに時間がかかりそうな体をぎしぎしと動かしながら、ジューズーランさんは兵士たちを見て叫ぶ。


「貴様らは私の奴隷だろうがっ! 主人のために! 一族の長のために、その体を私を助けることに費やせっ!」


 誰も声を出さない。そして俯いている。


 それを見たジューズーランさんは、寒いのに汗を流しながら彼はさらに叫ぶ。


「おい……っ。おいこの役立たず奴隷っ! 早くわた……っ! 俺を助けろっ! 助けろって言っているだろうがっ! 俺は砂丘蜥蜴人の長の息子にして、現長だぞっ! 有難みをもって助けろ屑共っ!」


 誰も声を出さない。そして俯いている。


 そんな光景を見ていたジューズーランさんは、声にならないような唸り声を上げてその兵士達を見ていたけど、だめだと確信したのか、そのまま辺りを見回して、背後を見た瞬間、希望に満ち溢れた顔をして声を出した。


「そ、そこにいる俺の妻達よっ!」


 と、鎖で繋いでいた女の人三人に向かって、ジューズーランさんは叫んだ。


 女の人達はすでに鎖がない状態でいて、ガザドラさんがそれを見ながら、浮かない顔をして互いを見ていた。女の人達は俯いている。


 でもジューズーランさんは声を張り上げてこう叫んだ。


「た、助けてくれっ! 夫のピンチだぞっ! 早く手を伸ばして、温めて解かしてくれっ! 早くっ!」


 早く! 早く! と――


 早く。その言葉を連呼しながら叫ぶジューズーランさん。


 でも、その言葉に返事などしないで、女の人達はそっと顔を上げて……、ジューズーランさんを見た。






「「「――ざっけんなくそ蜥蜴!!」」」






 鬱憤が溜まっていたかのような声と、気色悪いものを見るような目で、怒りを露にした女性達を見て、ジューズーランさんは、茫然としてその人達を見たまま……。


「え?」


 と、一言、声を上げた。


 それを見て、聞いていた私達はあまりの豹変ぶりに、驚きを隠せないでいた。


 ヘルナイトさんやティティさん、そしてガザドラさんは、それを見て嫌なものを見たかのような顰めた顔をして、その光景を見ているだけだった……。


 ううん。見ることしかできなかったんだ……。


 そのまま女の人達の一人が、腕をごしごしと拭きながら嫌そうな顔をしてこう言った。


「あーっもう! 薄汚い蜥蜴に触られたー! いやだいやだ! 人間の私達に来やすく触れないでよ――下等種族風情がっ!」

「感染症になったらどうするのよ! 私達すごい種族なのに、帝王ならまだしもこんな蜥蜴と一緒にいるのは嫌だわっ! ああああぁぁぁっ! そう言えば頬舐められたんだうううううっえっっっ!」

「わたし達人間で、他のどの種族よりも優秀なのに、なんでこんな爬虫類のお世話をしなきゃいけないのよっ! やだっ! もう気持ち悪いっ! もぉう! もぉうっ! こんな屑エルフの村まで来て……、ああ穢れるのは嫌だぁっ! わたしは人間なのに、こんな下等の村にいるだけで虫唾が走るっ! 吐き気がするっ!」

「「わかるわかるーっ!」」


 と、三人の女の人は各々体をこすりながら綺麗にするようにして、本人の目の前で罵倒を繰り返す。


 それを見て、シェーラちゃんは青ざめながら「……狂っている」と言葉を零し、それを見ていたリンドーさんは舌を突き出しながら「おぇっ」と声に出して言う。


 そんな会話なんて無視して、女の人達の一人は、地面に置いた槍を手に持って、それをジューズーランさんの下半身に向けて、それを一気に――野球の様に、振るった瞬間……。



 下半身を凍らせていた場所が、いとも簡単に砕かれた――



 ジューズーランさんの下半身と一緒に、ばらばらと、キラキラと、崩れ落ちて。


 それを受けたジューズーランさんは、呆けた声を出して「……え?」と言いながら、ずしゃりと地面に突っ伏してしまう。するとそれを見て――


「あははははっ! ざまぁみろ下等種族!」


 と、槍を振るった女性は高笑いを上げながら、上半身だけになってしまったジューズーランさんを見て、お腹を抱えながら笑う。嗤う。哂う。


「人間様に逆らうとこうなるんだっ!」

「てか、地を這うほうがお似合いでしょうが。蜥蜴って」

「ほんと――今までが異常だったのよ。人間様を奴隷にしようだなんて、馬鹿にも程があるし、それに――あんたとっくに死んでいるくせにうざってぇんだよ」

「…………………………………はぁ?」


 と、ジューズーランさんは声を震わせて、兵士達を見ながら、腕だけで起き上がりながら彼らを見て、震えるな色でこう言った。


「な、なにを言って……、なぁ? お、私は――蘇生の魔法で甦ったのだよな? なぁ……?」


 どんどんジューズーランを覆う青いもしゃもしゃ。


 ドロドロとして、決壊しそうなもしゃもしゃを出しながら……、彼は兵士に聞いた。すると私と話していた兵士はそっと口を開いて……。



「――ご理解してください。あなた様はもうこの世のものではありません」



 あの世のもの死霊族です。



 そう、はっきりと言った。


 それを見ていたアキにぃは、その光景を見て顔を歪ませながら……。


「…………なんだよ。この光景……」と、言葉を零した。


 ジューズーランさんは、その言葉を聞いた瞬間、黒い瞳孔をこれでもかと言うくらい見開いて、そして辺りを見回しながら、とある人を見つけて、ぐっと手を伸ばした。


 その手を伸ばした先にいたのは――オヴィリィさん。オヴィリィさんはアルゥティラさんと村長さんと一緒にいて、ジューズーランさんを見降ろしながら、彼女はそのまま――


 頷いた。


 それを見たジューズーランさんはぶわっと涙を溜めて流し、そしてそのままぎりっと歯を食いしばりながら、懐から黒と黄色の瘴輝石を出した瞬間――


 ――メシャリッ!


 ――バキンッ! と、二つの音がエルフの里中に響いた。


 それを見た私は、口元を手で覆いながら、その光景を驚愕のそれで焼き付けて、みんなも同じように驚愕の顔をして驚いていた。


 エルフの人達はそれを見て、驚きの顔をしながらざわりと慌てた顔をして見て……。蜥蜴人の人たちは、それを見てぐっと歯を食いしばっていた。


 ジューズーランさんの叫びを聞きながら、誰も手出しできなかった。


 手出しできない。それは――この砂の国のやり方に反する行為を抑制するための措置だと、私は知ってしまった。


 この国は狂っていて、アクアロイアやアルテットミアとは違う。人間こそが上位の種族。他なんてそれ以下の下等種族。神である帝王こそが至高なる存在。


 簡単に言うと――


 人間以下の種族なんてどうしたっていい。殺しても誰も怒らないからやってもいい。そんな判断なんだ。


 国境の村の人達はこう言っていた。


 冒険者には関係ないから話さなかった。


 つまるところ――部外者には関係ないことだから止めるな。死刑になりたくなければ……。


 そんな、国の縛りが、法の縛りが――ここにいる人達を苦しめ、狂わせている。それを止めることをしても、きっと無駄に終わる。


 それを知っていたヘルナイトさんやティティさん、そしてその事実を最も知っているガザドラさんは、止めることなんてしない。ううん。したら極刑になってしまう。それを避けるために……。


 私を、止めたんだ。


 それを知った私はそっと俯きながらその声と音を聞いて……、自分の無力さをじくじくと痛感して記憶に残す。


 絶対に――浄化しないとと言う気持ちを強く持って……、助けられなかったことに対して、その人達に謝りながら……、私は、余すことなく聞く。


 嫌気がさすような、汚い言葉を聞いて……。殴る蹴るような音を聞いて……。


「ああああああああああああっっっ! 痛い痛い痛い! まってくれ! 痛いからやめてくれぇ!」

「はぁっ!? 蜥蜴でしょ? 尻尾斬るんでしょ? そんなの当たり前なんだから痛いとか言わないでっ! 耳腐るしくせぇんだよっ!」

「こいつこんな高価な石をもって! 壊しちゃえっ!」

「蜥蜴風情がいい気になってんじゃねえっ!」


 痛いという声が……、耳に残る。残ると同時に感じる感情が、私の心をどんどんボロボロにしていく。


 苦しい。苦しい。苦しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。



 痛い…………………。



 そう思いながら、私は脳裏に浮かび上がった光景に驚いて目を開ける。


 その光景は、小さな私を殴ろうとしているニコニコした男。


 そのまま私の顔面に向けて、拳を振るったところで映像は途切れる。


 それを見て、私は不謹慎ながら、その男の人が誰なのかを思い出した。


 その人は――私のお父さんだ。


 そう思った瞬間。


「ま、まにゃ・えくりしょん――『ワープ』ッ!」と泣いたかのような声を上げたジューズーランさん。それを聞いた私ははっと現実に戻りながら顔を上げる。すると――


 ジューズーランさんの周りから出てきている光の壁。その壁を見た女の人達は、それを見てその場から離れると――ジューズーランさんはその光の柱に飲まれながら、その場から消えてしまった。


 それを見た私達冒険者は、目を疑うようにその場所を凝視してしまう。


 そして女の人達はそれを見て、味気ないような溜息を吐きながら、腰に手を当てて――一人の女の人が二人の女の人達を見ながら、笑顔でこう言った。


「そろそろ帝国に帰りましょうか。もうこんなところにいたら病気になりそう」

「「さんせーい」」


 その言葉に、二人の女性は手を上げて合意した。


 それを見て、引き攣った笑みを浮かべながらキョウヤさんは「いや……、もうだめだあいつ等」と、小さい声で呟く。


 それを聞いていないのか、その女の人達はアハハっと笑いながら雑談して、その場を後にして、言ってしまった。


 まるで――あんな惨いことをしたのに、悪そびれもないような、罪悪感なんてない、当たり前のことをしたかのような笑顔で、彼女達はその場から立ち去る。


 私達に、言いようのない不快感を残しながら……。


「なんだ……、あれ……」

「あいつ等……、平然と殴っていたよな……、目の前で……」

「屑中の屑ね」


 アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんが言う中……、それを聞いていたダディエルさんは、頭をがりがりと掻きながら、浮かない顔をしてこう言う。


「砂の国じゃ――あんなのが普通にあるんだよ。人間族が他種族を蹴落として、そして奴隷にしてストレス解消の道具にする。普通なんだよ。あいつらの思考だと、あれがな……」


 それを聞いて、私は驚いた顔をしてそれを聞いていると、ティズ君は私にそっと歩み寄りながら――無表情の顔でこう言う。




――?」




「………。うん」


 ううん。違う。


 無表情に隠れた――他の国ではこんなことがないという驚きと、そんな国や私達に対する羨ましさが浮き出ていた。


 それを見て――私は一瞬答えに戸惑ったけど、頷いた。


 こんなことがない世界を、ティズ君に見せたい。そう思い願いながら……。


 そんな私達を見下ろして、申し訳なさそうにしているヘルナイトさんをしり目に――


「ガゥ ピピティ ナォ (冒険者一行よ)」


『!』


 突然声がした。


 その声を聞いて振り向くと、エルフの人達の中から出てきた村長と、黒と黄色の刺青がなくなり、顔の黒い布が取り払われ、吊り上がった綺麗な顔を曝け出しているオヴィリィさんがそこにいた。


 オヴィリィさんは肩を竦めながら申し訳なさそうにして――


「……後味悪かったでしょ? あんなの見て」と聞いた。


 私はそれを聞いて、頷かないで俯き、アキにぃ達もそれを聞いて明後日の方向を見ていると、オヴィリィさんは溜息を吐きながらこう言う。


「まぁ……。ああなるなんて言う予言はなかったし、私のミスだよ。気にすんな」


 そう言われたとしても、あんなことが色んな砂の国で行われていると思うと……、なんだか心にしこりがこびりついているような気持ちだ……。


 それを聞いてボルドさんは慌てながら手を振って――


「いやいや! そもそもこうなってしまったのは僕のせいだよっ! 僕があんなところで殴らなければああはならなかったし……、それに――」

「そうだろうけど……。結局手を出さないでいたら最悪の結果だったかもしれない。それに――あいつがああなる様な予感はしていたから……。結局、避けられない運命っていうものもあるんだよ」

「避けられない……、運命」


 キョウヤさんはそれを聞いて、そっと俯きながら考えだす。


 オヴィリィさんはそんな私達を見てこう言った。


「でも――おかげと言うかなんというか、結果として私の呪いは解除された。あいつもきっと、これに懲りてっていうか……、死霊族だから絶対に来れないと思うけど……」


 オヴィリィさんは申し訳なさそうにして微笑んでから、そっと頭を下げて――私達に向かってこう言った。




「ありがとう――そして、気分を害してすみませんでした」




 誠意を込めた言葉に、私達はそれを聞いて驚きを隠せなかった。


 さっきから見ているオヴィリィさんは、すごくさばさばしているからそんなこと言わないような人かなっと思ったけど……、そうではなかった。


 きっと、さっきの光景を悔やんでの行動だろう。


 それを見て、私は首を横に振りながら「いいですよ」と言って、ボルドさんとクルーザァーさんも頷く。


「根本的に、僕が手を上げてしまったせいだしね……。反省するよ」

「ああでもしないと感情的に合理的と思えなかった。気にするな。俺達とカルバノグは毎度毎度見て慣れてしまった」


 それを聞いて、再度カルバノグのみんなとワーベンドのみんなが、この砂の国で一体どんなものを見てきたのか、体験してきたのかが痛感され、そしてそのメンタルの強さを垣間見て、私は凄いと思った半面…、この国の異常さを再度知った瞬間だった。


 すると――オヴィリィさんは頭を上げて、私達を見ながら、村長さんに手を向けてこう言った。


「村長から大事というか、まぁ話があるから、聞いて。通訳は私がするから」

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