PLAY45 彼らの過去とアクロマ ③
「ピピディエル メルスゥ ムーメ セディレス、ヴィヴィアラ ヒナヒナ(エルフの魔女でもある娘を救っていただき、誠に感謝する)」
「えっと……、『エルフの魔女でもある娘を救っていただき、誠に感謝する』だって」
「エルフ語って理解できねえなぁ……。一体何を言っているのかすらわからない言葉だし……、まるで全く知らない言葉を話しているような……、そんな言葉を思わせるし……」
ギンロさんは『へあーっ』と驚きの声を上げながら言う。
でも私達の周りを取り巻く空気は淀んでいて、明るいと聞かれたら明るくないと言えるような空気だった。
なにせあんなことがあったのだ。私達リヴァイヴはそれを知って見て、後味の悪い光景を見てしまい、聞いてしまったのだ。
逆にボルドさんやクルーザァーさん達はそれを何回も見ているから慣れてしまい、あまりそのことについて引き摺っていないようだ。
気持ちを切り替えることも出しだというけど……、正直切り替えられない。
そう思いながら村長さんの話を聞く私。
背後にはヘルナイトさんがいてくれたので、少しは心が落ち着いている。
村長さんは言った。
「バダ……、ムラムナク ココディコ ココナコ ニィ ヴィヴィアラ ドゥペイドォスゥチャ ヴェヴェラ(しかし……、あなた方に不快な思いと嫌な思いをさせてしまい、誠に申し訳ないということも事実だ)」
「『しかし……、あなた方に不快な思いと嫌な思いをさせてしまい、誠に申し訳ないことも事実だ』」
「ガゥ ピピディ ナゥ。イピリディオル? ムーナダ クルディルクル(……皆さん。お気付きだろうか? この国が狂っていることに)」
「『……皆さん。お気付きだろうか? この国が狂っていることに』」
その言葉に対して、開口を開いたのは――クルーザァーさんだ。
クルーザァーさんは腕を組みながら冷静な音色と表情で……。
「とっくの昔に知っている」と言った。
その言葉に対して、スナッティさんは呆れながら「いやいや、何ヶ月か前からでしょうが」と嫌味のように言うと、それを聞いていたクルーザァーさんはじろりとスナッティさんの方を振り向く。
それを見たスナッティさんは、ぎょっと驚きながらガルーラさんの背後に隠れてしまった。
オヴィリィさんはそれを聞いて村長さんの耳元で何かをコショコショと囁きながらすぐに立ち上がる。
そして――
「ムム……。マウチゥ、ムナギィ コラ ヌゥン、ココディコ ムィナギ。バダ ムーナダ ギギッテレム ノォン、ムラム、パディバドォン ヌゥン。ムラム……、アムシ ラディウス ココラタナ。 ヌーヌーヌ ガゥ ピピティ ナゥ……。 コカコ ラディウス グッタッダ……。(そうか……。確かに、先ほどの光景を見て、誰もが不快な思いをするのは当たり前だ。しかしこの国のやり方を一回でも逆らうと、誰もが地獄を見る。皆……、明日生きることができるのか不安なんじゃ。わかってくれ。冒険者一行よ……。儂等は生きることに必死だったのじゃ……)」
「『そうか……。確かに、先ほどの光景を見て、誰もが不快な思いをするのは当たり前だ。しかしこの国のやり方を一回でも逆らうと、誰もが地獄を見る。皆……、明日生きることができるのか不安なんじゃ。わかってくれ。冒険者一行よ……。儂等は生きることに必死だったのじゃ……』だって……。そりゃ私だって帝国に逆らうなんて馬鹿な真似はしないよ。だって殺されたくないし、再利用されたくないもん」
肩を竦めながら嫌そうに言うオヴィリィさん。
それを聞いた私は首を傾げながらオヴィリィさんに聞こうとした時……。
「バダ――キラミラ ヌゥン。ムーナダ ハージ クルディラ……。 サリアフィア モ ナヴィト(だが――希望が見えてきた。この国の末端から変える……。救いの天使と鬼士がな)」
「あぁ……? えっと……、『だが――希望が見えてきた。この国の末端から変える……。救いの天使と鬼士がな』」
と言いながら、オヴィリィさんは私とヘルナイトさんを指さしながらむすっとした顔をして言う。それを聞いた私は、驚きながら手を振って――
「あ、あの……それはえっと……。選ばれたというかなんといいますか」と、もちゃもちゃとしながら言葉を選んでいると……、村長さんは私を見て、にこっとしわの彫を深くしながら――
「ンジャ。ノブールコロ サリアフィア ガルダヴォラ。ラディウス ダ ラディウス ハラト オモディレ レドレディウス。 オモディレ グベェ ムラムテチャ ゴォ。 アー……。イコク……『ネコノテモカリタイ』コトワザ。 ナボナボ。 ピピティ ンレ ラディウスンジャ。 ムラム カムリ、ンレ ラディウスンジャ ノーヴァ(いいや。先程の行動はまさに女神にしかできん事じゃ。生きとし生けるものは心に大きなものを抱えて生きる。その重みに耐えれなかった時、誰かの手が必要なんじゃ。確か異国では『猫の手も借りたい』と言う諺があるじゃろ? あれと同じじゃ。人間一人では生きていけん。誰であろうと神であろうと、一人では生きれない生き物だらけなんじゃよ。世界は――)」
「…………『いいや。先程の行動はまさに女神にしかできん事じゃ。生きとし生けるものは心に大きなものを抱えて生きる。その重みに耐えれなかった時、誰かの手が必要なんじゃ。確か異国では『猫の手も借りたい』と言う諺があるじゃろ? あれと同じじゃ。人間一人では生きていけん。誰であろうと神であろうと、一人では生きれない生き物だらけなんじゃよ。世界は――』って言っている。と言うかいつそんなの覚えたのさ。おじいちゃん……」
オヴィリィさんは驚きながら頭を抱えて、溜息交じりに言うと、それを見ていたティズ君は無表情の顔をして――
「来た時に覚えたんじゃないかな……?」と言うけど、オヴィリィさんの耳に届くことはなかった。
ううん。オヴィリィさんには届いていたけど、それを遮られてしまったと言ったほうがいいだろう……その口を開ける前に――
かつん。と、村長さんは私に歩み寄る。
その音と行動を見たみんなは、驚いた目をしてその光景を見て、そしてオヴィリィさんはそれを見て、「あぁ」と納得しながらその光景を見て、すっと村長から離れないように歩みを進める。
そして村長は、私の前で足を止めて、しわしわになった両手を伸ばして、私の両頬をその手で包み込むように触れようとしていた。
それを見た私は、慌てながらそっとしゃがんで――村長さんの背丈くらいの身長になる。村長はそのまま私の頬に手を添えると、そしてすりすりと頬を上下に撫でながら――村長さんはこう言った。
呪文のように――こう唱えた。
「ピピディエル カムリ。ムニムル モア ミリウディラ」
その言葉と共に、頬を撫でていたその手をそっとどかして――そっと人差し指を突き立てて、それを私の鼻筋に触れながら、つぅーっと下ろして、鼻の先で指を止めてから、村長さんは私を見て、にかっと笑いながら――
「ラァ」と言った。
「え?」
それを聞いて何を言ったのだろうと聞こうとしたけど、村長さんはそのまま私から離れて、近くにいるヘルナイトさんを見て、手を伸ばす。
ヘルナイトさんはそれを見て、頭を抱えながらそっとしゃがんで村長さんを見下ろす。
背丈があるせいで、村長さんは背伸びをしながら手を伸ばして、その鉄で覆われた頬に手を添えて――私と同じことをしだした。
それを見て、私は首を傾げながら一体何をしているのだろうと思って見ていると――オヴィリィさんはそれを見て――私の顔を見ないで私にこう言った。
「あれね――エルフ流のおまじないなの。訳すと……。『エルフの神よ。この者たちに幸あらんことを』って言っているの。最後の言葉はそのままラァ。私でもわからない言葉なんだ」
「? おまじない?」
私はその言葉を聞いて見上げると、オヴィリィさんはアキにぃの頬を撫でている村長を、呆れたような顔だけど、ほんの少し懐かしいような目で見ながらオヴィリィさんはこう言った。
「エルフの人たちが旅をするとき、最年長である村長が顔に付着している悪運を自分に取り込んで、その邪気を取り払う、そして加護を刻むための儀式で、鼻の頭を撫でたらそれで儀式は終了っていう……。旅の無事を祈るおまじないなの」
「…………、邪気……」
「悪運とか、あと悪霊とか、怨霊とか」
「どんどん怖いものになっていく……」
それを聞きながら、冷や汗を流しながら私は言う。それを聞いてオヴィリィさんはくすっと微笑みながら、私を見下ろしてこう言った。
「でもね、エルフでは悪霊は憑りついた生物の顔を借りて、仮初の顔を見せているっていう言い伝えがあるの。エルフはそう言った悪霊関係に敏感だから、帝国の奴らは全員悪霊に憑りつかれているって思っているの。おじいちゃんは」
「……私達の顔を撫でたのは……?」
「あんた達の旅の無事を祈るそれでもあるけど、きっと――悪霊だらけの巣窟に入るから、エルフの神様に守ってもらえるようにっていうおまじないをかけているんだよ。おじいちゃん――私にもずっとそのおまじないかけていたし」
それを聞いて、私はすっと村長さんの顔を見る。
村長さんは全員の顔を撫でながら、鼻の頭を撫でながらおまじないをかけている。
私は鼻の先を指先で触れながら――私はさっきの光景を思い出す。
村長さんは、あの三人の人間にも、悪霊が憑りついていると思っていたのかな……?
でもあの三人はそんなことを考えていないだろう。きっと当たり前なことをしたから、すぐに忘れるだろうけど……、それを傍観していた私達は、きっとちょっとやそっとでは忘れられない……。
トラウマと言う怖いものとして残るかもしれない。
それを思って、俯いていると――
「なにいつまでめそめそしてんのさ」
「!」
オヴィリィさんは私を見下ろして、むすっとした顔をしたまま私に向けて指をさしながらこう言った。
「あんた達が一番最初どこから始めたのかも、予言でわかっているし――あんた達を通して一体何を見てきたのかもとぎれとぎれだけど知っている。でも――こんな一回のことで止まらないでほしい。こんなこと砂の国では日常茶飯事だから。こうなってしまったのはあの砂の帝王のせいでもあるけど、私達の力では何もできないのも事実。だからあんた達浄化の力を持っている奴にしか頼めないの。生半可な気持ちでとん挫されても困るから――ちゃんとしてほしいの。こっちは。やるならやる。やらないならやらない。あれを見ただけで折れるくらいならやめてほしいし、それにこっちだって迷惑なんだよ。一刻もあんないかれた光景を過去のものにしたいし、簡単に言うとね……」
そ言って、オヴィリィさんはスゥっと息を吸ってから――私を睨みながら声を荒げてこう言った。
「しょげていないで――さっさと歩け! これは予言だっ! 命令だっ!」
ぶわりとくる感情の波。
そして沸き上がる士気。
それを感じた私は、胸の奥から湧き上がるその熱い何かを抑えるように、ぎゅっと握りこぶしを体の横で作る。
それを聞いた私は、オヴィリィさんの言葉を聞いて、ぎゅっと下唇を噛みしめた。
そうだ……。
今私は浄化のために旅をしている。その瘴気の浄化が発端で、この国はおかしくなってしまった。
根元から浄化しないといけないから、私とヘルナイトさんがいる。
おかしくなってしまったこの国を、変えないといけないんだ……。
この地の守り神――ガーディアンを浄化して、この国の人たちの空想の楽園を、妄想を解かないといけないんだ。仮初めの平和から覚まさないといけないんだ。
本当の平和を見せないと――ダメなんだ。
そう思った私は、オヴィリィさんを見て、こくりと頷いてから――
「――ちゃんと、します」と、言った。
それを聞いたオヴィリィさんは、はんっと鼻で笑いながら手をひらひらとさせて――こう言う。
「それで行けると思っているの? 正直不安しかないけどね……。ひ弱であれだけのことで折れそうになって、本当に平気……」
と言ったところで、オヴィリィさんは頭に手を添えながら黙ってしまう。
それを見ていた私は顔を覗き込むようにしてオヴィリィさんの名前を呼ぶと、オヴィリィさんはそっと顔を上げながら私を見下ろして、そして驚いた顔をして私を見た後、ぐっと口を閉じて、そして小さく口を開きながらこう言った。
「――新しく見えた予言。聞く?」
「………………はい」
私は頷く。
それを聞いたオヴィリィさんは、私をじっと見降ろして――こう言った。
「――あんた達はこの先、幾度となく苦難が襲い掛かるけど……、それでも一歩一歩前に進んで、浄化をしていく。そんな未来が視えた」
「………………………」
「有言実行って言葉があるんでしょ? 異国には――ならその言葉、実行してみなさいよ」
いい? と、びしっと指をさしながら言うオヴィリィさん。それを聞いた私は、こくりと頷いて、背後にいるヘルナイトさんを見る。
ヘルナイトさんは私の視線に気付いて――頭を抱えていたそれをやめて私を見て「どうした?」と聞いてきた。
それを見て、私はぎゅっと胸の辺りで握りこぶしを作りながら――私はヘルナイトさんを見て、しっかりと見て、こう言う。
決意する。
「――私、もうこのようなことが起こらないように、カードキーを手に入れて帝国にいるガーディアンを浄化します。だからそれまで――」
力を貸してくれますか?
その言葉に、ヘルナイトさんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにふっと笑いながら、凛とした声でこう言った。
「――当たり前だ」
それを聞いた私は、心の底からこみあげてくる喜びと、そしてこれからに対する熱い意思を顔に出しそうになるけど、それをぎゅっと抑えてヘルナイトさんを見上げて、控えめに微笑みながら、後ろに手を回して――
「……改めて、よろしくお願いします」
と言った。
それを聞いていたアキにぃ達は、私達のその姿を見てにやにやしていたり、泣いていたり、アキにぃはまたグギギギッと唸りながらヘルナイトさんを睨んでいたけど、キョウヤさんが素早くそれを止めに入る。
ダディエルさんはそれを見ながら、そっと視線を下に向けて物思いにふけるような顔をして、メウラヴダーさんとガルーラさんは真剣な無表情で何かを考えているような顔をして、クルーザァーさんは少し怒っているような顔をしたまま、エルフの里の向こうを見ていた。
ティズ君は自分の手を見ながら――すっと目を細めて、悲しい目で己の、震えている手を見た。
結局のところ――エルフの里の魔女……、オヴィリィさんは快諾の後、アクアロイア王から頂いた瘴輝石を使ってその場を後にして行ってしまった。
私達はそれを見送った後、エルフの里に人達にお詫びの言葉をかけながら、その場を後にして、オヴィリィさんから聞いた次の魔女の居場所へと足を進める。
一刻も早く、あんなことが二度と起こらないように……、急がないといけない。
バトラヴィア帝国に行かないといけない……。
きっとみんな、更に気を引き締めていると思う。私も気を引き締めないといけない。
今までの浄化の旅とは違う緊迫感と責任感を再度認識させられ、私とみんなは次の目的地――
駐屯医療所へと足を進める。
……一人だけ浮かない顔をして、怒りの表情を見せているアキにぃを見ながら、一体オヴィリィさんと何を話していたのだろうと、頭の片隅にしまいながら、私達は先へと足を進める。
□ □
しかし――時間は有限。
向かおうとした時にはすでに夕方で、夜になったところを見て、広いところで野営セットを出して野宿することになった私達。
今までもこんな野宿をすることはあったけど、こんな大人数は初めてだ。
そう思いながら、砂の地面に腰を下ろして、みんなで輪になりながら話をしていた。野営のテントの近くにいるのは紅さん。最初私はみんなのご飯を作ろうと、料理場に向かおうとした時だった。
紅さんはそっと私の前に出て――笑みを浮かべながら私に向かってこう言った。
「あー、待ってハンナ。あんたエルフの里でかなり参っているだろう?」
その言葉を聞いて、私は首を横に振りながら紅さんを見上げて――
「大丈夫です。皆さんだって疲れているんですよね? 私は何もできないから、みんなに温かいご飯を提供することしかできません。これくらいは」
「いやいやいやいや! あたしが作るから! あたしの自信作で、みんなの疲れをぶっ飛ばしちゃうからっ!」
「……? は、はぁ……」
紅さんは笑みを浮かべながら、強引に私の背を押してその場所から遠ざける。
それを感じた私は、紅さんがいるその場所を見ながら首を傾げて、手に持った材料を見てどうしようかなと言う感じでうきうきとしているその光景を見て、もしゃもしゃを感じて私は思った。
紅さんは――料理が好きなんだと。
それを感じて、私は紅さんのお言葉に甘えて「それじゃぁ……、お言葉に甘えます」と言った。
紅さんは手を軽く振りながらにこっと微笑んで私を見る。
私は頭を軽く下げながらその場を後にして――みんながいるその場所に向かうと……。なんだかワイワイと騒ぎながら何か口論を繰り広げていた。
それを見た私は首を傾げながら近くにいるリンドーさんに声をかけると、リンドーさんは見ながら呆れた笑みを浮かべてこう言った。
「いや……、実はですね……。ここって意外と広いし、隠れられる場所ってないじゃないですか」
「はい」
「それを見たスナッティさんが、『ここは男性基男子に監視をしてもらうっす! もちろんテントは女の子専用っす!』とか言い出して、それを聞いていたギンロさんはブチ切れて、スナッティさんに『お前等こんな時だけ女子贔屓かよっ! 少しはスキル使って夜更かししろっ!』って言った瞬間、それを聞いていたシェーラちゃんがむすっとした顔をして『あら……? 男と女、どっちの方が弱いと思って言っているの? 私は別だけど、こんな時こそ男前なところを見せなさい」とか言って、怒りを露にしちゃってですね……。それを聞いていたメウラヴダーさんあ呆れながら『代わりばんこでいいだろうが」って言った瞬間、アキさんやキョウヤさん、シェーラちゃん以外の皆さんが、メウラヴダーさんのことを『メウラ』呼ばわりして、その名前だと女の子の様に聞こえてしまうから一番嫌いって言っていたのに、それを聞いてしまったメウラヴダーさんは切れちゃって……」
と言って、リンドーさんはとある場所を呆れながら指さす。
それを見るために、私はそっと体を傾けて見ると――
うーん……。
この場所に、ヘルナイトさんとティティさん、紅さんにガザドラさんがいないところを見て、私はその光景を見て思った。
ぎゃんぎゃんこらこら。わーわーぎゃぁぎゃぁと叫んで言い合いをして、あろうことか武器を持って対戦しようとしているけど、それを止めようとしているボルドさんやキョウヤさん。その光景を見て、私は思った。
――なんだか……、酔った人の集まりみたいだと……。
そんな光景を見ながら、私は大丈夫なのかなぁっと思って見ていると……。リンドーさんはそれを見てはははっと……、無理に笑いながらその光景を見てこう言った。
「……皆さんは大人ですね」
「? 大人……? リンドーさんだって大人ですよ?」
あまりに当たり前なことを言い出したので、私は驚きながらリンドーさんを見ると、リンドーさんは困ったように顔を無理に笑みを作りながらこう言った。
「違います。今日――エルフの里であんなことが起こったのに、みんなは気持ちを切り替えて前に進もうと、明るく話しては騒いでいる。それって――やっぱり社会人にとってすれば必要不可欠なものですよね」
「?」
私はそれを聞いて、首を傾げながらリンドーさんの話を聞く。リンドーさんはこう言った。
「僕は、まだ十八です。なので皆さんの様に、社会人らしい気持ちの切り替えがまだできないんです。と言うか、ここにいる間、ずっと引きずっています。僕――案外引きずるタイプですので」
「…………………………」
「引きずるから支障が出る。だから僕は無理に笑ってその本当の表情を隠しているんです。そうすれば……、ほんとの顔を見せることなく、見られる心配もないし、笑顔は本性を隠すために生まれた表情でもありますから、僕にとってすれば――笑顔は仮面ですね」
「…………………………」
「その仮面を常に出していないといけないくらい……、結構参っています」
そうか。と私は思った。
カルバノグのみんなとワーベンドのみんなは、慣れているからあんなに平然としている。それはあっているようで違う。誰もが慣れるような性格なんてしていない。
十人十色。
慣れる人や、元から慣れている人、そして――慣れない人や未だに慣れなくて、無理に笑顔を作って誤魔化している人だっているんだ。
私だけが変わっているんじゃなくて、みんなそれぞれ違う考え方でこの状況を見て、受け止めて、決意を改めて行動しているんだ。
なんて馬鹿なんだろう……。そう私は自分を叱咤した。
「………あの」
それを聞いた私は、リンドーさんを見上げながら、控えめに微笑みながらこう言う。
「私も、あれを見た時心が折れそうにまりました。あれが日常茶飯事と言われたら……、それを毎日見たら、完全に折れていました。でも……、参っている時こそ、歩かないといけないって言われました」
オヴィリィさんに。
そう言うと、リンドーさんはそれを聞いて目を点にして私をも見る。そんな顔を見ながら私は微笑んで――言った。
「もし、リンドーさんが止まってしまったら、私が手を握って一緒に歩きます。だから無理しないで、言ってくださいね?」
「それはー……。大事な人限定にした方がいいと思いますよー」
「?」
リンドーさんはクスッと微笑みながら私を見下ろして、そしていつものにこにこ顔をしながら私の頭を撫でながら言うリンドーさん。
私はそれを見ながらどいうことなのだろうと首を傾げていると……。
「おぉーいっ!」
「あ」
「? ――っ!?」
遠くから来た紅さんが、手に収まらないくらいの茶色い食べ物――カレーを手に持ってやってきた。
それを見た私は声を上げて紅さんを見て、リンドーさんはそれを見て、ぞわりと顔を青ざめて、それを見ながら向こうで喧嘩をしているギンロさん達に向かっていく。
私は紅さんを見て聞こうとした。ほくほくとおいしそうな湯気を……。
湯気……じゃない。これは……、煙?
黒い煙を見ながら、私は紅さんを見て――
「紅さん……。できたんですか?」
「うん? うん! バッチシ!」
と言いながら、私に手に持っているそのカレーを見せてくれた。私はそれを見降ろして……、認識した瞬間。目を疑い、耳を疑った。
――カレーが不気味な笑みを浮かべて、けらけら笑っていたのだ。
シェーラちゃんが作ったあの滋養強壮のお茶と同じ……、ううんっ! 違う……!
シェーラちゃんは普段は料理がうまいことに最近気付いた私達。そしてあの顔が出るのは滋養強壮のお茶だけだということにも気付いた。その時のあの顔は……、笑っていなかったしけらけらしていなかった。
しかも黒い煙を口から吐き出している。
シェーラちゃん特性ティー以上にまずい! 味的にもいろいろっ!
そして私は悟った。
これは――口にしてはいけないものだ。
そう思った瞬間……、紅さんは何かに気付いたのか、その場所を一瞥して――彼女はこう言った。
「――『忍法・金縛術』」
と言った瞬間――
がちんっ! と背後から音が聞こえて、その音と共にみんなのカエルが潰れてしまったかのような声を聞いた。
私はそれを聞いて素早く背後を見ると……、さっきまで見張りの喧嘩をしていたみんなが、一斉にその場から逃げようとしていたけど、その走ろうとした体制のまま止まっている姿を見て……、私は紅さんを見た。青ざめながら……。
紅さんはにっこりと微笑んで、そして私にそのカレー皿を手渡しながらこう言った。
「そんな風に逃げないでってば。今日はすんごく自信作で、すんごく美味しかったんだからさ」
「お前の美味しいは俺らにとって激マズだから……っ!」
「き、君の料理が趣味っていうのはわかったから……っ! そして君の味覚と僕らの味覚が釣り合わないのはもうわかっていることだよねっ!? だからお願い……っ! 今日は夕食抜きでいいかなぁっっ!?」
「助けてくださあああい! ガザドラさあああんっ!」
それを聞いて固まったままギンロさんボルドさん、リンドーさんが叫ぶ中、それを聞いていた紅さんは思い出したかのような顔をして――
「あぁ、ガザドラとヘルナイト、あとティティは先に食べていたけど、なんだかぐったりしていたっけ。何かに当たったのかな?」
と言った……。って!
「「「ヘルナイトォォッッ! 舌まではチートではなかったかっっ! チートを殺すカレーってなんだぁっっ!? チート殺しカレーってこの世にあっていいのかぁっっ!?」」」
私も同じことを思いながら……、アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんと声が重なる。
紅さんはそれでも、ずんずん歩みを進めながらこう言った。
「いやいや、それくらい美味しかったんだよ。あたしは結構料理得意だから。ほれほれ……みんなもほれぇ」
紅さんは良心百パーセントで近付きながら、手に持っているカレーを差し出しながら歩み寄る。
もはやホラーのような風景を見て、みんなは泣きながら叫んでいた。
それを見て、私は夜空に浮かぶ半月を見ながらカレーに乗っていたスプーンを手に取って……具材を乗せて……ぐっと決心して……。
――ぱくん。
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