PLAY45 彼らの過去とアクロマ ④
あの後のことを簡潔に言うと……。
みんなが黒い泡を吹いてしまって何人かが倒れてしまった。と言うか……、簡単に言うと……。
予想通りのまずさ……。舌がマヒしてしまうようなまずさだった。
何を食べても味がしない……。味覚障害になってしまったのかと言うようなまずさだった。
紅さんの料理おそるべし……っ! でもそれだけではなかった。紅さんの料理の恐ろしさはこれだけではなかったのだ……。
その紅さんの料理を食べたギンロさんの頭に突然……、『デス・カウンター』が出た。
誰もがそれを見て驚いて見ていた。
リンドーさん曰く……、初めての光景だったらしい……。
紅さんはそれを見て、真顔で驚いた顔をしてこう呟いた……。
「………なんで?」
その言葉にキョウヤさんは初めてブチ切れたような声を上げて――
「――てめぇの飯が劇物だったんだよっっっっ!!」
と、叫んだ。しかも口から黒い液体を流しながら泣いて……。
私はその時すでに一口食べたので、もう言葉にしなくても、それがすごくまずいことを知ってしまったので、否定なんでできなかった。
私はすぐに数字が減っていくギンロさんに『
ギンロさんははっと目を開けてすぐに起き上がった後、私を見て頭を勢いよく下げながら――
「すまねぇっ! おかげで命拾いをしたっっ!」
「人の料理を毒みたいに言うな」
「いや毒だわ。完全なる毒だわ。あんなカレー食べたことがねぇ」
紅さんの言葉を聞いてキョウヤさんは切れた低い音色で突っ込みを入れ、それを聞いていたアキにぃは青ざめながら顎を伝った涎を腕でぐっと拭う。
私はそんなアキにぃの背を撫でながら、未だに泣き叫んでのた打ち回っているみんなの救護に回った……。
でも――紅さんには感謝しないといけない。
料理では決してない。
ただ、暗い雰囲気だったそれを受け取って、一人一人がみんなのために明るく接している。
その光景を見た私は、穏やかになる気持ちを感じながら、その光景を見て――
私は座りながら、青ざめてその光景を見ていた……。
「ハンナ……。あんた顔やばいわよ。かき氷のブルーハワイになっているけど……?」
「ん? んん……。ん」
「『ん』しか言っていないけど……っ! 劇物に言語障害を併発させるようなものが含まれウウウエッッ! 時間差でまずさがぁあああああっっっ!」
「だからお前らなんであたしの料理でそんな苦しむのっ!?」
シェーラちゃんが青ざめながら私に話しかけてきたけど、私はコクコクと頷くことしかできずに頷いていると――シェーラちゃんはそれを聞いてはっと息を呑みながら言葉を発した瞬間、口を押えて吐き気を催すような声を吐く。青ざめながら……。
それを聞いた紅さんは泣きそうになりながら叫ぶと……、それを見ていたメウラヴダーさんは珍しく怒りを露にしながら叫んだ――
「お前もう料理作るなっっっ!」
なぜだろう……。頭に怒りマークを浮き上がらせている……。それを見た私はその光景を半月と一緒に見合わせながら見る。
わーわー。ぎゃーぎゃー。きーきー。と……、みんなが騒ぎながら喧嘩したりしている。
それを見て、座っていたその体制を体育座りに変えてみる。
口の中に残っているざりざり感を感じながら……、私はその光景を見て、思い返す。
この世界はMCOの仮想世界。ゲームの世界。
その世界に私達は突然閉じ込められた。理事長の手によって……。
訳も分からずに異世界召喚のように飛ばされた私達。アキにぃと再会して、レセとマイリィに言われるがままチュートリアルのようなことをされて……。
突然私はそのゲームクリアもとい……、ゲームの世界を救う勇者……、じゃないね。この世界を救う人になった。
その最中――エレンさんやララティラさん、ダンさん、モナさん、アキにぃと行動して最初の『八神』がいる街に向かっていた時――偶然なのかはわからないけど……。その時だったんだ。
ヘルナイトさんと出会ったのは……。
それから私達は一緒に行動した。
アキにぃと、キョウヤさんと、シェーラちゃんと一緒に。
そして色んな人や悪い人。そしてこの世界の人達……。様々な人と出会い、色んなものを見てきた。苦しいことも聞いて、悲しい光景を見て、体験して……。
現実ではありえないことを体験して聞いてきた。
そして忘れてはいけないことを目のあたりにした。
それは――死ぬ瞬間。
ロフィーゼさんや、ギンロさんは違うけど……。それでも死んでしまった。リアルではないけど、死ぬ瞬間を見るのはさすがに堪える。
とある人はこんなことを言っていた。
――ゲームは空想の世界にあり、もう一つの現実世界でもある。
その言葉通りのことが起こっている。
今私たちはそれを体験している。
ゲームの世界で好きなように生きている人もいるけど……、仮想世界で暮らしてる人にとって、命は有限なもの。
私達の様に死んでも現実では死んでいない人にとってすれば――それを見た仮想空間の世界の人は驚いてひっくり返ってしまうだろう。
死んでしまった人が何事もなく来たのなら――だけど。
でも……、人は死ぬ。殺される。迫害される。それを思うと……この砂の国は凄く正直だと、今更ながら思った。
何せ――迫害や暴力。そして日本ではまずありえない奴隷がいる。学校でよくあるようなリンチが日常茶飯事で見られて起きる。格差や差別が隠さずに露見される。
この国は正直で――そして苦しくて悲しい国。
そして今の社会を見せているような風景が見えた。
人間族は優秀で、他の種族はそれ以下の屑……。だからお前等は人間の命令に絶対服従。
極端な話……、人間の上下関係のようにも見えた……。
そんなことを思い、私はそっとその場から離れるように、足を進めた。騒いでいるみんなを横目で見ながら……。
離れたのはただ夜風に当たりたいからと言う理由である。色んなことがありすぎてぐちゃぐちゃしているこの思考を整理しようとしての行動だった。
そして少し離れたところの、大きな岩が剥き出しになっている場所を見つけた。
幸いみんながいる野営のところからさほど遠くない。
そう思った私はその岩によじ登って、その岩の上に座って――夜空に浮かぶ半月を見上げた。
すると――頭の上からナヴィちゃんがひょっこりと顔を出して、私を見下ろしながら膝上に座ってリラックスするように、再度すぅすぅと規則正しい寝息を立てた。
私はそれを見て、ナヴィちゃんの頭を撫でながら半月を見上げると――
「あ、いたいた」
「!」
後ろから声がした。その声を聞いてふっと振り向く私。その声はヘルナイトさんではない。その声の主は――
「あ……」
「もぉ――こんなところまで行って……、みんな心配する…………。って、こんなに近いから大丈夫かな?」
ボルドさんだった。
ボルドさんは肩に乗っているこゆきちゃんを指で撫でながら、私に近づいて「よっこらせ」と言いながら、私の近くの背後で胡坐をかいて座った。
それを見て、私はくすりと微笑みながら「そうですね」と言って、また半月を見る。
半分欠けた月は――私達を照らすように、淡い光を放ちながら夜の世界を照らしている。
それを見て、私はボルドさんの方を振り向きながら、私は聞いた。
「そういえば……、ボルドさん達は最初から一緒だったんですか?」
「え? 一緒って?」
「えっと、このゲームに閉じ込められてから……」
質問した瞬間、ボルドさんはきょとんっとしながら私を見ていたけど、私は言葉が足りなかったのかなと思い、少し詳しく聞いて見ると、ボルドさんはそれを聞いてはっとしてから思い出したかのように手を叩いて――慌てた様子でこう言った。
「そ、そうなんだよ……っ! 僕等結構前から知り合いで……、えっと、ここに来た時も、偶然一緒だったんだ……っ! いやぁ、運命ってすごいよねぇ!」
「そうなんですか……。なんだか羨ましいです」
「……と言うと……。ハンナちゃんはアキ君と一緒じゃなかったのかい?」
「えっと……。違うんです。ここに来た時、四人の友達と一緒に来て、それから……」
「――逸れた。んだね……」
その言葉を聞いて、私は、一幕おいてこくりと頷いた。それを見たボルドさんは、聞いてはいけないと思ったのか、それでも一言――
「――大変だったね」と言葉をかけた。
それを聞いた私は控えめに微笑みながらボルドさんを見て――
「えっと。でも一応みんなには会えたんです。みんな元気そうでしたけど……」
「まだ――会っていない子がいるのかい?」
「………はい」
それを聞かれて、私はしょぼんっとしながら頭を垂らすと、それを見ていたボルドさんははっと息を呑んでわたわたとしながら慌てだして――
「ご、ごめんねっ! そんなつもりで言ったんじゃないんだっ! でも不謹慎でごめんね……っ!」
ボルドさんは大きな体でしょぼんっとしながら小さい声で言う。肩に乗っていたこゆきちゃんが心配そうにボルドさんを見ていた……。
ボルドさんは言う。
「僕って上司に向いていないよなぁ……。個性あふれるみんなをまとめることもできないし……。それにくらべたら……、クルードくんが一番上司に向いているなぁ……」
「? クルード?」
聞いたことがない言葉を聞いた私は、首を傾げながらボルドさんに聞くと、ボルドさんはそれを聞いてぎょっと驚きながら再度わたわたと手を振って汗を飛ばしながら――
「あ! いっと! えっと! 違うんだっ! そう言った関係じゃないよ! 趣味じゃないよっ! これは彼のあだ名であって……っ! うん違う! えっと実は彼と僕って同じ仕事場にいる人間なんだってだけで! スナッティちゃんもそうなんだけど……っ! お願い! クルーザァー君には言わないでっ! このままだと僕は彼に
「…………言いませんけど、驚きました」
慌てながら頭を下げて言うボルドさん。その拍子に、ころんっとこゆきちゃんが転がってしまったけど、そのままふわりと宙に浮いたので大事には至っていないようだ。
それを見た私は驚きながらボルドさんを落ち着かせて――そして言う。
「初対面じゃなかったんですね。ボルドさんとクルーザァーさんは、それにスナッティさんも」
「あ、えっとね……。口外してはいけないことだったんだけど……。まぁ職場仲間なんだよ。僕ら。そしてダディエル君やギンロ君、リンドー君や紅ちゃんは、僕の直属の部下」
「すごい……っ!」
思わず驚いて口に手を当てていると、ボルドさんはそれを聞いて首を横に振った。その最中――こゆきちゃんは私の膝で寝ているナヴィちゃんを見つけて、興味津々に見てから、その横に抱き着くように寝るこゆきちゃん。
フワフワがよほど気に入ったのか……「ふぅ」と鳴きながらそのふわふわを堪能していた。
ナヴィちゃんは今でもぐっすりと寝ていた。
それを見て、私はボルドさんを再度見ると――ボルドさんは頬を指で掻きながら、情けなく笑みを浮かべてこう言った。
「すごくないよ……。僕達は職場ではよく聞く庶務課のような人材で、要は戦力外なところの所属だから」
「………戦力外? 全然見えませんよ。すごく頼りになります」
「……そう言ってもらえると嬉しいな。だってそんなこと全然言われなかったから」
すると突然――ボルドさんは私を見てこう聞いた。
「気になっていたよね?」
と、一幕間を置いて、ボルドさんは口を開いた。
それを聞いた私は首を傾げて「どうしましたか?」と聞くと、ボルドさんは私を見てこう言う。
「一人の仲間を見殺しにしたって」
「あ」
そうだ。そう言えば……。
エルフの里で、ジューズーランさんがそんなことを言っていた。それを思い出して、はっと気付いたような顔をしていると、ボルドさんはその顔を見てふぅっと息を吐きながらこう言う。
「それね――事実なんだ」
「?」
「僕達にはね……、もう一人の仲間がいたんだ。その子の名前はアスカ。ダディエル君の恋人で――僕の命令ミスで……、この世界で死んでしまった……。帰れない人になってしまった人なんだよ……」
帰れない……人?
その言葉を聞いて、私は言葉を失った。
そしてボルドさんを見ながら、口をパクパクと動かしていたけど、肝心の言葉が出てこない。
驚きのあまりに、驚愕の真実を聞いて、私は絶句してしまったのだ。
ボルドさんはそんな私を見て、胡坐をかいた足の近くに手を置いて、その指を絡めながらボルドさんは順を追って話した。
「その子はね……、僕が所属しているところでは副リーダー的存在だったんだ。僕よりもすごいリーダーシップを誇ってて、みんなからも尊敬されていて、頼りない僕よりもすごく頼りになっていた。顔も何もかもが魅力的な人でね……。紅ちゃんとすごく仲が良かった」
「………絵にかいたような、綺麗な人だったんですね」
「そうだよ」
ボルドさんは笑みを浮かべながら言う。
無理に笑みを浮かべて……。
そして続けてこう言う。
「アスカちゃんは……、この世界ではメディックで、僕達のサポートをしている人だったんだ。絵に描いたような天族のメディック。丁度君と同じ所属と種族だね。でも攻撃もできたから、そこだけは全然違っていたよ」
それを聞いて、私は自分の手を見て黙ってしまったけど、ボルドさんの言葉を聞いて、私はその言葉に耳を傾けた。
「……僕達は戦力外のイカれ者。ダディエル君は有所正しい暗殺一家の末裔で、僕達と出会う前までは暗殺者をしていたんだ。生まれた時からずっと……。ギンロ君は危ない運び屋。紅ちゃんは不良で家がないホームレス。リンドー君は幼いのに親に捨てられ、笑うことしか知らない生活を強いられてきた。僕だってこんな包帯姿なんだけど、この包帯の裏ね……。実は火傷まみれなんだ。両親がヒステリックな人達で、何かにつけてその怒りを僕に当てていて、しまいには熱いお湯を僕にかけて……、こうなったんだ」
「……………………」
「アスカちゃんもそのうちの一人で……、男の人とその……、大人な関係をしてお金を受け取っていた過去があって……、みんながみんなどこか壊れてしまっているのに、アスカちゃんはそんな僕達を励ましていたんだ」
おかしい話。それは僕がするべきことなんだけど……。
と、乾いた笑みを浮かべて言うボルドさん。
そして続けてこう言う。
「だから――彼女が僕等の精神的支柱だった。支えられて生きてきた。僕等はなんとなくだけど、彼女を中心に回っていたような感じで、甘えていたんだ」
「………………………」
「そんな時にね――ダディエル君は彼女に好意を抱いていてね……。告白したんだよ。こうなる前の前日に」
「こうなる……前って」
私はそれを聞いて、驚いた顔でボルドさんを見ると、ボルドさんは頷いてこう言う。
「アップデート前に、結婚を前提にしたお付き合いの告白して、二人はめでたく恋人同士になって……、そしてその一週間後……。アスカちゃんは――ログアウト……、
「………死んだ?」
私はそれを聞いて、言葉を失ったかのように茫然としながらボルドさんを見た。
ボルドさんは俯きながら、ぎゅうっと自分の手を握っている。
それを見て、もしゃもしゃを感じた私はそれが嘘ではないことを確信して、ボルドさんに、申し訳なさそうにしてこう聞いた。
正直――こんなことを聞くのはだめなのかもしれない。でも――レセとマイリィはこう言っていたはずだ。
ログアウトになっても死なないって。
そうはっきりと言っていたはずだ。そう思って私は、ボルドさんに聞く。
「でも――理事長というか、あの監視AIがそれはないって」
「裏技」
と、ボルドさんは私の言葉を遮って口を開いた。
それを聞いた私は首を傾げながらボルドさんを見て――その言葉をオウム返ししてしまう。ボルドさんはそれを聞いて、そっと顔を上げながら真剣な顔で説明してくれた。
「従来のゲームでもあるだろう? ここをこうすれば通り抜けられるっていう裏技。でもそれを使うとゲームが壊れるっていうあれ」
「あ……しょーちゃ……っ! 友達がそんなことを言っていました。その裏技って、VRゲームでも使われるんですか?」
「うん。使える。と言うか使う時は保険に入っていないとだめだけどね。従来のゲームとは違って、その裏技を己自身がその身で味わって受けるものだから、もしかしたら脳に異常を起こして後遺症を残すかもしれない」
「後遺症……」
「そう。身体に影響があるか、はたまたは脳の細胞が欠損して死ぬっていうバグ」
ボルドさんは自分の手を見ながらこう言った。低く、悲しい音色で……。
「アスカちゃんと僕等は六人でアクロマを包囲したんだ。そのアクロマは現実でもVRの世界でも、かなりの悪行を働いた犯罪者で、RCと深いつながりがある存在でもあるんだ」
「っ! RCとっ!?」
「あぁ……、うん」
ボルドさんは乾いた笑みでそのまま口元に人差し指を添えて――小さい声で「これ秘密ね」と念を押した。それを聞いた私は、こくりと頷く。
それを聞いて、ボルドさんは続けてこう言う。
「僕等はそいつを捕まえるために、VRの世界に入って調査をしていたんだ。そしてようやくアクロマを追い詰めた。でも――あいつはただのプレイヤーが持ってはいけないものを使って……。アスカちゃんを殺したんだ」
「…………プレイヤーが持っては、いけないもの?」
それって……? と、私は聞く。
それを聞いたボルドさんは――ぐっと口元をきつく閉じて、ゆっくりと口を開けた。
「――プレイヤーの脳機能に直接攻撃する電子破壊プログラム。僕達はそれを……『電脳殺人銃』って呼んでいる」
「電脳、殺人……」
「そう。それを使うと、どんなプレイヤーもログアウトなんてできない。むしろ特殊な電磁波で脳に直接ダメージを与えて、そして破壊するんだ。あいつはアスカちゃんを撃った後で、それを自慢げに語っていたよ……。僕等の目の前で、アスカちゃんを撃って、そしてまだ生きているのに踏みつけながらね……っ!」
ボルドさんは、憎々しげにそう呟く……。
ぎりっと、自分の手を握りしめながら……。
私はそれを見て、言葉にできない苦しさと悲しさを抑え込みながら、ぎゅうっと唇を噛み締めてボルドさんを見た。ボルドさんはそのまま俯いて、そしてそのまま話を続けていく……。
自分も苦しいはずなのに――それを私のために。止めたかったけど、その行為でさえも躊躇ってしまう。
ボルドさんの、その頑なな意思を、聞かないといけない。そう私の直感が囁いたから……。
ボルドさんは言う。
「それから僕等は――戦うことをやめた。やめたというより、戦意喪失してしまったんだよ。大事な仲間を失って、そして死ぬ瞬間をこの目に焼き付けてしまった。僕等はともかく――ダディエル君がひどく衰退していた。もう死のうと思っていたらしくて……、もう生きる希望がなかったって見えるくらい――絶望的な死んだ目をしていたのを、今でも覚えている……」
「………………」
「そんな僕等を見て、偶然通ったクルーザァーくんは、僕等を見て呆れていたよ」
「……目に浮かびます」
「そうだね……。でも彼は僕等を見降ろして、蹴って殴ってを繰り返しながら僕等に向かって罵倒しながらこう説教していたよ。『なんで一回の負けで戦うことをやめる? なんで仲間が死んだくらいでなく? 俺達の職場では死人なんて珍しくないだろうが。不合理なうじうじとした逃避をするなら――ここで死ね。死にたくなかったら立って、その男を殺す勢いでとっ捕まえろ。戦力外でも、それくらいの足止めはできるだろう。わかったらさっさと立て』って……」
「想像でき過ぎて怖くなりました……」
と言いながら、私はクルーザァーさんが無表情でボルドさんを殴りつけて怒鳴る想像をして、ぶるっと身震いをしてしまう。
それを聞いたボルドさんはあははっと乾いた笑みを浮かべながら「だろうね」と言うと、ボルドさんは俯きながらこう言った。
「それで僕等はなんとか立ち上がって、ここにいるんだ。でも――アクロマに近付くにつれて、どんどんとあの時の悪夢が甦ってくるんだ。どんどん不安になってくるんだよね……。もしかしたら、誰かを殺してしまうって思って……見殺しにしてしまうって」
と言って、ボルドさんは顔を上げて――無理に笑いながら、青いもしゃもしゃを出しながら、彼はこう言った。
「いやぁ……。あんな風に言われて、立ち直ったと思ったのに……、結局根はこれだ……。僕結構不安なんだよ……。こう見えても、根はチキンなんだ……」
私はそっとナヴィちゃん達を膝から降ろして、そのままボルドさんを見て正座をしながらしっかりと見て言う。
「チキンではないと思います。ボルドさんは――強い人です」
「え……? でも……、今でも僕は」
「私はボルドさんを見て、強い人だと思います。確かに、私も今から向かうバトラヴィア帝国について何も知りません。怖いことしか知らないから、不安でいっぱいです。でも――ボルドさんは違います。怖い思いをしたにも関わらず、それでも一歩一歩歩もうとしています。不安なのは誰もが同じです。みんな――無理に笑ったり雑談したりしてごまかしているだけなんです。リンドーさんを見て知りました」
「……リンドー君が?」
その言葉にボルドさんは驚いていたけど――私はそれを聞いて頷いて、更にこう言う。
「みんな怖いんです。でも、それでも前に進むボルドさんは、格好いいです」
「か、カッコイイ……?」
片言のような言葉を放ったボルドさんに私は頷いて「はい」と言うと、ボルドさんはそれを聞いて、俯きながら頬を掻いて、そして「へへっ」と、照れた笑いを出しながら――
「……カッコウイイも、初めていわれたなぁ……」と、嬉しそうに照れながら言った。
それを聞いたボルドさんは音を立てずに立ち上がって、ナヴィちゃんに寄りかかっているこゆきちゃんを起こさないようにそっと抱えながら私を見下ろして言った。
「なんだかしゃべったらすっきりしたし、なんだか前に進める気がするよ。ううん。進める気じゃなくて――進める。そう思っているよ。ありがとうねハンナちゃん。君は本当に強いよ」
「……そんなことないですよ。戦うことができない私よりも、戦えるみんなの方が」
「僕が言っているのはね――力じゃない。心のことだよ。君はきっとどの人達よりも心が強いよ。どんな人よりも――」
と言いながら、ボルドさんは自分の胸を指さしながら言う。
そして踵を返しながらボルドさんはその場を後にしようと歩みを進めて、こう言った。
「僕はもう寝るから、早めに戻って来てね」と言って、その場を後にして行ってしまう。それを見届けながらボルドさんとすれ違うように――
「……ハンナ」
ヘルナイトさんが私の姿を見て、驚きながら声を漏らした。
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