PLAY45 彼らの過去とアクロマ ⑤

「へ、ヘルナイトさん……っ!?」


 私は驚きながらヘルナイトさんを見る。


 ヘルナイトさんは確か、紅さんの料理を食べていたって聞いていたけど……、一見してみれば普通そうと言うか……大丈夫そうだ。


 そんな私を見て、ヘルナイトさんは首を傾げながら――


「どうした? 何かあったのか?」


 と疑念の声を上げる。


 それを聞いて私はヘルナイトさんに恐る恐る聞いてみた……。


 とある一抹の不安……じゃない、大事に至っていないのかという大きな不安を抱えながら……。


「あの……、ヘルナイトさん。紅さんから料理もらいましたか……?」

「? あ、あぁ……。確かにもらったが、……。……」


 それを聞いた私はこう思った。




 ――あまりのまずさに記憶障害が出ているっ! と……。




 それを知って驚いた顔をしてヘルナイトさんを見上げていると、ヘルナイトさんは私を見下ろして、凛としているけど少し申し訳なさが含まれているような音色でこう聞いた。


「ハンナ……、けがはないか?」

「?」


 ヘルナイトさんの言葉に私ははっと現実に帰りながら見上げて、そして首を傾げる。


 その言葉に対して、ヘルナイトさんが治したはずなのにと思いながら見上げていると――ヘルナイトさんはそっとしゃがみながら私を見下ろして……、肩に手を置きながらこう言った。


「私がいながら……、あんなことになってしまったんだ。怪我の件に関して――私は深く反省しなければならないと思ったんだ」

「それは私があそこにいたせいで」

「違う」


 ヘルナイトさんは私の言葉を遮って、声を荒げるように張りながらヘルナイトさんはぐっと私の肩を握る。


 壊さないように握って、ヘルナイトさんは言った。


「私がもっと、前に出ていれば……君は傷つかずに済んだ」


 それを聞いた私は、ヘルナイトさんの苦しいもしゃもしゃを感じて思った。


 ヘルナイトさんは――後悔している。


 私をいち早く助けられなかったことに対して、後悔している。罪悪感を感じているんだ。


 それを思いながら私はヘルナイトさんを見てこう言う。


「あ、あの時はエルフの人達がたくさんいたから……、人混みだってすごかったんです……。仕方がないことだと」

「――仕方がないでは、済まされない」


 けど、そんな私の言葉を遮りながら、ヘルナイトさんは肩を握っていた右手を離して、その手を私の後頭部に添えて――そのままぐっと自分の胸元に引き寄せた。


 こつりと当たる鉄特有の冷たさと硬い感触。


 額と鼻の先。


 そして肩のところに感じる冷たさを感覚を研ぎ澄ませながら感じていると、ヘルナイトさんは凛としているけど……、悲しさや罪悪感が込められたかのような音色で――泣いていないけどそんな音色で、彼はこう言った。


「あの時――私がもっと近くにいればよかった。だがエルフの人だかりに溺れて、逸れてしまった。それが駄目だったんだ。もっとしっかり――ハンナの近くにいて、君を……、守らねばいけないのに……情けない話……、私はも失態を犯した」

「二度……?」


 その言葉に、私は顔を上げて首を傾げながらヘルナイトさんに聞くと、ヘルナイトさんはぐっと顎を引きながら、思いつめるような音色で言う――私の顔を見ないで、気付かないで……。



「国境の村で……、私は君に守られた」と、言った。



 それを聞いて、私は思い出す。


 確かあの時――リョクシュに封魔石をつけられて、ヘルナイトさんが動けなかった時のことだ。その時のことを思い出した私は、ヘルナイトさんを見上げて――控えめに微笑みながら私は言う。


「あの時は不測の事態ですよ……。それに私はそんな」


 それを聞いていたヘルナイトさんは首を横に振りながら――違うと言って、更に言葉を続けた。


「不足であろうと――私は『12鬼士』。守らなければいけないものを危険にさらすことは……、万死に値するようなものだ」

「……そんな、万死だなんて……。それに私は今までみんなに守られてきたんです。少しは恩を返したいって思っていましたし……」

「……違う。私達は守るために生まれた存在なんだ。それを成しえないとなれば……、『12鬼士』になる資格などないんだ……」


 一体何の話をしているのだろう……。そう思いながらヘルナイトさんの顔を見ようと見上げているけど、半月を見ているヘルナイトさんの顔は見えず、その顎のところしか見えない状況だ。


 私はそれを見上げて――ヘルナイトさんの言葉に耳を傾ける……。


 いつぞやか――同じことがあった気がするけど、あの時違って……、逆になっている。


 ユワコクで、私がヘルナイトさんに対して不安を吐きだした時――


 蜥蜴人の集落で、私の嫉妬を受け入れてくれた時の様に……。


 今は――逆の立場になって私は、ヘルナイトさんの話を聞いているんだ……。


 思い出したことがある。その言葉を吐いたヘルナイトさんは、私を見ないで、私に対してこう言葉を続けた。


「魔王族は元々――天界を守るため、そして神を守るために存在するものだ。私達はその中から抜擢された精鋭。その精鋭部隊を『12鬼士』と呼んでいるんだ。鬼族よりも強く、そして恐れられ、守るべき存在と言う意味を込めて……な」


 なんだか、鬼みたいに強いというそれを定着したような言葉だ。


 そう私は思っていたけど、それはゲームでの話。


 自我を持っているヘルナイトさんの世界では、そのように揶揄され、恐れられ、そして守ってきた。


 ヘルナイトさんは続けてこう言う。


「『12鬼士』はサリアフィア様を守るために存在し、そしてその忠誠を誓う者として――アズールの者達を守り続けてきた。だが――あの『終焉の瘴気』が来て、私達は負けてしまった。守るべきものを――守れず、そして時が過ぎ、私達はばらばらになった。そして記憶を失って今もなお彷徨っている者達がいる」


 そして――と言って、ヘルナイトさんは私を抱く力を強めて、すぅっと息を吸ってこう言った。


「――あのお方を、守れなかった……」


 何もできなかった。その言葉を吐きながら、ヘルナイトさんは続けてこう言う。


 心なしか、鎧が熱くなっている気がした。押し付けている力が強くなった気がした……。


 それでも――ヘルナイトさんの話を聞く。


「守るものが――守れずして『12鬼士』と名乗れるのか……。ずっと彷徨いながら思っていた。だから今度こそはと思って奮起していた。一人でも多くの者達を守れるように……、彷徨いながら歩いていた。ハンナ達と出会ってからも、私は結局――肝心な時に守れずに、見ることしかできなかった。カイルに殴られた瞬間を見ることしか、マドゥードナでも己の過信で君を危険な目に合わせ、国境の村では何もできずに身動きすら取れず、苦しい思いをさせ、そしてエルフの里で……、人がいる。人が多すぎる。それだけを理由に――君の近くに近付けずにいた。結局――」



 何も――変わっていない。



 そうヘルナイトさんは言う。


 その音色こそいつも通りのそれに聞こえたけど、私はそれを聞いて、感じて思った。


 ヘルナイトさんはずっと、ずっと――守れなかったことに対して後悔して、私達に見せないようにしていたんだ。


 苦しいもしゃもしゃが体から漏れ出している。


 黒いそれと一緒に漏れているようなそれを感じた私は……、ぐっとヘルナイトさんの胴体に手を押し付けて、その場から離れるように行動する。


 それを感じたヘルナイトさんは、はっと気付いた声を上げて抱き寄せていた手をパッと離してから――


「すまない……。話に集中し過ぎた。苦しかったか?」


 ヘルナイトさんは申し訳なさそうにして言う。


 それを聞いた私は、離したその手を見て、ヘルナイトさんの両手に手を伸ばして、きゅっと掌を掴んでから私の方に引き寄せる。


 それを見ていたヘルナイトさんは、頭に疑問符を浮かべながらその行動を見ていたけど、どんどん近くなるそれを見て、はっと気付いてからヘルナイトさんは「ハンナ。待て」と声を上げたけど、私はそのままヘルナイトさんの手を――


 ぷにっと――自分の両頬に手を添えるようにして、挟める。私が主導でヘルナイトさんの手を動かして、そうさせているのだけど……。


 私はそんなヘルナイトさんの手のぬくもり、そしていつも感じている安心感を感じながら目を瞑る。


 ユワコクでは、ヘルナイトさんがそうしてくれて、そして私に向かって――一人にさせないと言ってくれたことを思い出す。


 あの時は本当に嬉しかった。涙が零れるくらい嬉しかった。


 それと同時に恩返しがしたいと心から思って、私はヘルナイトさんに誓ったんだ。私も恩返しがしたいって。今にして思うと――


 私はここにきてからわがままな子になっているような気がする……。


 でもなんだろう……。


 この人と一緒にいると、なんだかそのぬくもりに甘えたくなってしまう。


 そう思って、目を閉じながら私は口を開く。


「私……、ずっと助けられてばかりでしたよ。ヘルナイトさんに」

「…………君は優しいからな。私の話を聞いてそう思って言っているのなら、やめてほしい。私は君が本当に危機にさらされたとき、肝心な時に何もできなかった。あのお方も守れなかった。結局私は何もできなかった」

「できないって思う人は、何かを失ってでも守ろうと必死に足掻いた人が言う言葉だと思うんです。誰だって後悔はあります。私だっていっぱいあります。ここに来てからも……」


 と言って、そっと目を開けて――これまでの経緯を思い出しながら……、私は言う。



「――何もできない、何もできなかった冒険者にんげんです」



 アルテットミアでは最初のギルドにいた人達が、ロンさんが。


 アクアロイアではクルクくんのお母さんや亜人の郷の人達が、色んなアクアロイアの人達が苦しい思いをして……。


 砂の国に入ってからはシャズラーンダさんの覚悟を聞いて、ヨミちゃんの行いを止めることもできず、そのまま見過ごして、エルフの里での異常な行為を見て止めることもできずにいた。


 ここに来て、一体どれだけの犠牲の橋を渡っているのだろう。私は……。


 一歩戻れる選択があるのなら、そうしたい。その時に戻って蘇生でも何でもしたい。なんでもできることをしたいと思っているけど……、できないのが現実だ。


 今ももしかしたら色んな人達がログアウトになってしまっているかもしれなのに……、結局遠くにいるというだけで、何もできない私。


 回復しかできないというこの所属のせいなんて言わない。



 すべては――無力な私が駄目なのだと、私は思った。



 でも……、ヘルナイトさんも思い悩んでいたんだ。人から聞けば些細なこと、でも自分にとってすれば大きいことを悩みながら、後悔して、そして思い悩んで、決意して進む。


 人間はそうやって前に進む。


 そう思って、ヘルナイトさんの顔を見上げながら、きゅっとヘルナイトさんの手を離さないで――私は控えめに微笑みながらこう言った。


「私はずっと――あなたに守られてきました。色んなところで、あなたの言葉に支えられて、これからもあなたの言葉に支えられてくるかもしれません。でも――ヘルナイトさんが思っている以上に、あなたが守ってきた世界は今でも――生きています。あなたを慕う人達がその証拠です。色んな人があなたのおかげで生きている」

「………………………」

「あなたを慕う人達が――あなたが守ってきた人達で、私も、アキにぃも、キョウヤさんも、シェーラちゃんも、みんなみんな……、あなたが守ってきた人達です。だから――」


 そんなに――自分を責めないで。


 そう私は言う。ヘルナイトさんを見て、微笑んで……。


 それを聞いたヘルナイトさんは、一瞬だけ放心したかのように黙ってしまったけど……、ふっと微笑むような声を出して、そして私を見下ろしながら――


「逆だな」と言った。


 それを聞いて、私は頷きながらくすりと微笑む。


 ヘルナイトさんはそれを見て顔を近付けて、そのまま前と同じように、額と額をくっつけるように、こつりと額をくっつけた。


 ユワコク、そして集落でしてくれたかのように、私にその優しさを与えるように……。


 ううん、今は違う。


 私が、ヘルナイトさんに優しさを与えている。


 そう思いながら、私は目を閉じてヘルナイトさんの言葉に耳を傾ける。


「ユワコクで、蜥蜴人の集落で――私は君を支える言葉をかけた。だが、今は逆になって――君が私を支える言葉をかけている」

「……そうですね」

「本来なら……、身も心も強くなければいけないのだが……、まだまだ修行が足りないようだな……。私は」

「こう言っちゃなんですけど……、完璧な人間っていないんですよ。世界には」

「………そうか」


 さらりと――夜の風が私たちの体温を下げるように、優しく吹く。髪の毛が頬を撫で、ヘルナイトさんの指を撫で、ヘルナイトさんのマントがふわりと靡く。


 それを見て、私は言葉を続ける。


「みんながみんな――長所をもって、短所をもって生まれて」

「色んな人達が……、手と手を取り合って支え合い、そして生きていく」

「!」


 私は言いたいことをヘルナイトさんに言われて、そのままヘルナイトさんを見ると、ヘルナイトさんはそのまま私から額と額を離して――驚いた目をしてヘルナイトさんはこう言った。


「……そう、言いたかったのか?」


 私はそれを聞いて頷くと、ヘルナイトさんは驚いた顔をして私を見下ろして――そしてこう言った。


「何だろうな……。そう言うだろうなと思っていたんだ。なんとなくだが……、自分ならそう言うだろうと……」


 それを聞きながら私はふと感じた懐かしさを感じて、ふとヘルナイトさんと重なる影を見て、驚いた目をしてみてしまったけど、その影はすぐに消えてしまった。


 ヘルナイトさんはそんな私を見下ろしながら――「どうした?」と、私の頭を撫でながら聞く。


 それを聞きながら、私はそのままヘルナイトさんに近付いて、そのままヘルナイトさんの胴体にこつりと、額をつけて――そしてその胴体に手を添えて、私は言う。驚いて両手を空に彷徨わせているヘルナイトさんに向かって……。


「……もしかして、》? 私達」


 その言葉に対して、ヘルナイトさんは当たり前の様に「」と言った。


 そうだよね……。そんなセンチメンタルなこと、ありえない。そう思いながら、私はヘルナイトさんを見ないで、その胴体から伝わる冷たさと温かさを感じながら……。


「もし――」

「?」


 私はまたわがままを言う。


 ヘルナイトさんならきっと――優しいわがままだという言葉だと言いそうな言葉を、私は言う。



「みんなが苦しんでいたら、心の底から助けを求めていたら……、助けてくれますか?」



 その言葉を聞いて、ヘルナイトさんは一瞬、電池切れなのかと言うようなぎこちない動作をして、そしてそのまま――




 ぐっと――私を抱きしめた。




 その苦しさとこみ上げてくるぬくもりを感じながら、私はヘルナイトさんを呼ぼうとした。でもヘルナイトさんは――


「誓う」と言い、凛とした音色で、こう言ってくれた。


「約束しただろう? 君を、君が愛する者達を守る。君を一人にさせないと……。守ると誓った。それは――心も同然だ。私は今度こそ――」




 君を――守る。




 そう言ってくれた。


 それを聞いた私は、きゅっと心臓が締め付けられるような感覚を覚えながら、ヘルナイトさんの抱擁に甘え、「うん」と頷いて、湿った何かが頬を伝う感覚を覚える。


 あの時のデジャヴは――何だったのだろう。


 そう思っていた私だったけど……、でも今は――このぬくもりに甘えよう。このぬくもりに甘えたい。




 ――




 心の底から、そう思ってしまった。


 半月の世界が、私達を照らす。その世界の中で――私たちは救わないといけない。浄化しないといけない。この狂ってしまった――砂の国を……。


 色んなものを背負って、救わないといけない。


 そう思いながら、少しの間、私達はそのままでいた……。



 ◆     ◆



 ……ハンナ達が更なる誓いを立てているその頃。


 とある砂地では――


「い、いやだ……っ!」


 まるで駄々っ子の様に泣きじゃくって、震えながら上半身を引きずっているジューズーラン。


 ジューズーランは、ずり……っ! ずり……っ! と、己の体を腕だけで引きずりながら、とある人物から逃げていた。


 ――なぜこうなった……っ!? ジューズーランは思う。


 涙、鼻水、汗、あろうことかその液体のせいでくっついてしまった砂のせいで、顔が本当にぐちゃぐちゃになっているそれで――彼は思った。


 否――後悔していた。否々いないな――幼稚な感情……、怖い、逃げないと、そして……。





 殺  さ  れ  る。





 そう思いながら、彼は泣きながら逃げていた。


 ――俺が死んでいたっ!? 


 ――ありえないだろうっ!?


 ――私は親父殿の様に優れた才能を持った存在なんだ! そうやすやすと死ぬなんてことはないっ!


 ――でもなんで下半身がないのに生きているんだ?


 ――否! それは偶然だ!


 ――でもなんで血が出ていないんだ?


 ――否! それは偶然なんだっ!


 ――俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない! 俺は死んでいない!


 這いつくばりながら、彼は砂地を這いながら思う。願う。


 切望して――そして震える手を伸ばしながら、砂がついた手を伸ばしながら、その先に見えるとあるテントを見つけて、助けを求めようとした。


 が――




 ――どしゅっっっ!!




 彼の口を無理矢理閉じてしまうように、上から降ってきた刀によって、ジューズーランの口は閉ざされてしまった。


 上顎にあった『屍魂』の瘴輝石を破壊する様に……。


「――っ!?」


 ぶるりと来た悪寒。そしてどんどん視界が黒くなっていく。それを感じてジューズーランは、ぶるぶると震える手を精一杯伸ばし、そのまま――


 ぽすんっと、砂地にその手を下ろした……。否――


 力尽きたのだ……。


 それを見降ろしていたのは――白衣を身に纏ったジャージ姿の黒髪の青年。


 肩まである髪の毛。そして常にへの字にしている口元、吊り上がった目。その顔からは人間味がない。きっと初対面の人がそれを見たらぞっとしてしまうような顔だ。そして黒いジャージに白衣。靴は緑色のプラスチック製のサンダル。なんともファッションセンスがない服装だが、その男はじとっと死体と化してしまったジューズーランの亡骸を見て、手に持っていた刀を引き抜きながら――彼は気怠そうに――


「あーあ。金の無駄だったな」と、その死体をごすんっと蹴り上げながら言った。


 ごろりと、ジューズーランだったそれは砂地を転がる。


 それを見下していた男は舌打ちをし、そのまま背後にいる男を横目で見ながらこう言った。


「もっと金になる様な事をしようぜ? こんなことをしても無駄じゃね?」


 そんな男の言葉を聞いて――くすっと微笑んだのは……同じように白衣を着て、オーダーメイトのスーツを着て肩から拳銃ホルダーを下げている。革製の白い靴を履いて――金色のメッシュを入れた黒髪。吊り上がった目をして眼鏡をかけた男が、ジャージ姿の男を見て手を広げながらこう言った。


「無駄じゃないさ」


 彼は手に持っていたトランシーバーのような楕円形のマイクを手に持って、狂喜のニヤつきを作りながら――


 アクロマは――ジャージ姿の男……Zに向かって、こう言った。


、この近くにあいつらは来るらしい。いい機会だ。こいつを捨てておこう。そして絶望をじわじわと与えておこう」

「………そうかい」


 アクロマの言葉に、Zは気怠そうに溜息を吐きながらそっぽを向いた。


 アクロマが持っているトランシーバーからの声を聞きながら……。



『繰り返します。次に私達が向かうところは――駐屯医療所です。情報提供しました。約束……、忘れないでくださいね……?』



 次に向かう先――それはハンナ達しか知らない。通り過ぎる場所でもあるところ。


 他の冒険者が知らない場所で、ハンナ達しか知らない場所。


 その場所を教えたのは誰なのかはわからない。しかしその場所を知っているのはハンナ達しか知らない。それが指すこと……。それは簡単な話。




 ――『 




 。ということであった……。

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