PLAY47 ティズとクルーザァー ⑤
クルーザァー回想――第二幕開演。
あの後沼田はRCから出て、真実を知った。
生徒達や他の子供達が、何らかの理由であのような症状に陥っている。あんなの異常だ。脳の破壊なんてあってはならない。
今の時代――VRは普及し、それと並列して様々の問題が生じているのも事実。
この時の沼田はそれなのだと思い、とある決意をした。
それは――子供達をそんな風にした犯人を見つけ出すこと。
その予防接種をした犯人を見つけることが最善の道であり……、聞き出すにはうってつけのそれだった。
それからの沼田は仕事の合間を縫って予防接種をした病院など、色んな医療機関を漁りに漁って調べていった。
そして最終的に行きついたのが……。
とある大学病院。
そこで研修員として行動している日系外国人に行き着いたのだ。
どの子供もその研修員がいる時だけの予防接種で、ロスト・ペインを発症しているのだ。
明らかにその研修員がおかしいと思った沼田は大学病院に行き、その研修員に会った。
出会う前に知った情報ではその人は優秀な研究員で、外国の学校でも優秀な成績を残して卒業した実績を持っている。
かなり頭が回るのかと思っていた沼田だったが……、出会って拍子抜けした。
その人物は黒髪のジャージ姿で、白衣を纏っているだけの怠け者のような姿をした人物だった。
それを見た沼田は――驚いたと同時に、疑念を抱いてしまう。
――本当に、こいつがあの予防接種をした張本人だっていうのか?
信じられない。
そう思った沼田だったが、その男はくぁっと気怠く欠伸をかいたあと……、彼は唐突にこんなことを聞いた。
「あんた――この近くにある小学校の教師だろ。しかも小学校三年生の五組の教師」
「っ!」
それを聞いた沼田は、ぎょっとしながらそれを聞いて、その青年に向かって――
「な、なんでそんなことを……っ!?」
と聞くと、それを聞いた青年は頭をがりがりと掻き、頭に付着しているフケを落としながら彼は気怠そうな顔をしてこう言った。
「だって――俺その学校に通っているガキに新薬の注射を打ったんだよ。カルテと個人情報見て、覚えてた」
とある実験のそれだけど。と言いながら、男は悪そびれもなく言う。
その言葉を聞いて、沼田はどくりと来た衝撃と、そしてふつふつと湧き上がる黒い怒りを感じながら、彼は震える口で、その青年の向かって次の質問をした……。
「それって、まさか……、予防接種で?」
「いんや。VRゲームの時に使う精神安定剤的なそれ。フルダイブ機能を持っていたとしても、そのあとの脳への支障消去やダメージを還元? っていうかそのダメージをなかったことにするように、一時的に忘れさせる的な? そんな新薬作ったの。でも効能わかんないし……今のVRって問題多いから、その脳へのダメージを完全シャットダウンするために作った新薬を、効能がよく聞きやすい子供に投与したんだけど……、結局だめだったらしくてさー。忘れるどころか、脳の末梢神経を壊しちゃうようなことになっちゃって。結局なんのためにもならないような仕事だった」
さも平然と言う青年。
それを聞いていた沼田は……、その言葉を聞いて、こう思った。
――なんだ? この悪気もないような言い方に、態度は……。
彼の言っていることは専門用語で、且つ常人が何度も聞いたとしてもよく理解できなかったが……、なんとなく理解ができた。
つまり――彼はとある新薬を作っていた。
それはVRゲームで問題視されている脳へのダメージ。
そのダメージとはよくある衝撃的なショックを受けることによって、一時的なトラウマを植え付けてしまうそれであり、記憶喪失になったり日常生活に支障が出てしまったりと……、普及化しているVRならでは問題も併発しているのも事実なのだ。
ゆえにその脳へのダメージを忘れさせるために、彼はその薬を作っていたらしいが……。
その言葉を聞いた沼田は、煮えくり返るような怒りを感じて、引き攣った笑みで彼はその青年に向かって、こんなことを言い出す。
「……、あの、なぜ、うちの学校の生徒を、そんな危ない実験のために利用されたのでしょうか……?」
「え? 近いから」
「脳へのダメージは、ニュースでも見ています。しかしそれはトラウマ的なそれですが……、薬なんて必要ないのでは?」
「え? でもいずれは必要じゃね? でももうなくなっちゃったけど」
「……最後に一つ」
沼田は青年の向かって――最後の質問をする。彼にとって、重大な質問をした……。
「――なんで、この世な仕事を受けたんですか?」
彼にとって重要な質問でもあったが、それを聞いた青年は、その言葉を聞いて「あー」と言いながら頭を掻いて、彼はこう言った。
平然と、悪そびれもなく……。
右手を出して、親指と人差し指を使って円を作るように丸めてから、彼はその手を見せつけながら――当たり前の様にこう言った。
「――金になるから」
その言葉を金切りに……、沼田の心に、ドロドロしたそれが渦巻いた。
――金のためにあんな惨いことをしたのか……?
――金のために子供達をゾンビの様にしたのか……?
――金のためならば、人の人生をぶち壊してもいいというのか……?
否。
ありえない。
否、否――あってはならないことだ。人間として、そんなことはあってはならない。
沼田はその青年に対して、強い対抗心――否、これは復讐心であろう。
シェーラのような大切なものを壊されたときのような強い憎しみ。
シェーラは孤児院の子供達や住んでいた孤児院。そして師匠を殺したネルセスに対しての憎しみ。
沼田は子供達を良いように利用して、金のためにその子達の人生を奪った青年への憎しみ。
どちらも――何かを壊した相手に対して、強い憎しみを抱いた。ゆえに行動に移した。
沼田も念願だった教師の仕事をやめ、青年のことについていろいろと調べた。
青年の名前はゼクス。アメリカにいた人物であり、彼はそのアメリカでその仕事を請け負って、日本に渡来して実験をしたらしい。
しかし叩くことができない。
ゼクスは頻繁にVRの世界に入り浸っているらしい。しかも同行者も一緒で。
そこから沼田は――その新薬を自分の投与して、VRの世界に入っているのだと推測した。同行者その記録係であろう……。そんな風に思っていた沼田は、学業本分の仕事から、電脳関連の仕事に入るために勉強に勤しんだ。
人生は勉強だらけのそれであるとはまさにこのこと、大人になってからまた勉強漬けの毎日が来るとは思ってもみなかったからだ。
沼田は今まで電脳関連の勉強はしなかったが、大体のかじりついた程度の知識はある。それをもとに、インターネットや参考書を読みながら日々を過ごして、その青年に復讐する時を伺っていた。
そんな時、とある図書館で彼は――運命的な出会いを果たしたのだ。
それが――
「ねぇ――これってVRゲーム関連の本だよね? きみ、VRMMOの製作をしたいの?」
彼の上司に当たる人物――エドというアメリカ人だった。
彼は流暢に日本語を話しながら沼田に聞いた。
沼田はそれを聞いて、彼のことを見上げながら、不審者を見るような目つきで彼は誰なのかと聞く。それを聞いたエドは、困ったように頭を掻きながら……、「あー、ははは」と乾いた笑みを浮かべて、彼はこう言った。
「おれはエドっていうアメリカ人で、一応VR関係の仕事をしている人なんだ」
「………VR」
それを聞いた沼田は、まるでチャンスが舞い降りてきたかのような気持ちが襲い掛かってきて、エドを見ながら彼は、興味津々な面持ちで嘆願しながら、彼はアピールをするようにこう言った。
「じ、実はVRのことについて興味を抱いているんです」
「え? そうなの? VRのどんなことに興味を抱いているの? 精神データの基盤? それともVRの仮想空間構築? あ、もしかしてそのVRの世界で動くアバター構造? はたまたは………」
かじりついた程度のそれではない……、というかそれ以上の専門用語を聞いた沼田は、即座に固まった笑みのままこう思った。
――あ、だめだ。と……。
面接の様に申し出たのが裏目に出てしまった。と、沼田は思った。
エドのVRと言うか……、電脳系の知識が異常に多い。きっとヲタクと言われても過言ではないそれである。沼田は一応常識人であるが故……、エドのその専門的な言葉が口からボロボロと零れだすようなそれを聞いて、目をぐるぐると回すことしかできない状態だった。
沼田はそのままべらべらと喋るエドから離れようかと思った瞬間、彼の口から思わぬ言葉――否、沼田にとって最も聞きたかったことであった。
「――あ、でも今ではVRで問題になっている病気や薬物とかも調べているから……」
踵を返して帰ろうとした瞬間、沼田はぐりぃんと右回転をしてエドの方を凝視した。血走った眼で、彼を見た。
「そ、それです……っ!」
「ん? うん……?」
エドはその沼田の言葉に、驚きながら首を傾げて聞くと、沼田は興奮した面持ちでこう言った。
「お……っ! 僕それに大変興味を抱いておりまして……っ!」
「……失礼なことを聞くけど、それって、どこまでの興味で?」
「…………あ、えっと……」
沼田はその言葉を聞いて、言葉を詰まらせる。詰まらせた理由は、エドにあった。エドは今まで穏やかな笑みでぺらぺらと喋っていたのだが、沼田の言葉を聞いて、その笑みを消してすっと真顔にしてから聞いたのだ。
まるで――そのことについて何にも知らないくせに。そんな雰囲気を出したそれで聞いてきたのだ。
沼田はそれでも、ぐっと口に溜まった唾液を飲み干して――エドの眼をしっかりと見つめながら、己の復讐のことを思いながら彼は口を開いた。
沼田は思う。
――興味? そんなのはどうでもいい。その病気で苦しんでいる子供たちを、助けたい。あのゾンビと化してしまった子供達を助けたい。
――それに、その発端を招いたあのゼクスに復讐したい。
――子供達の人生をめちゃくちゃにした、あの社員の子供の人生を壊した……、金だけにしか興味を抱いていないやつに復讐出来ればそれでいい。
――殺すなんてしない。
――ワクチンを製薬して、そのあとで一人一人被害にあった子供たちの前で土下座させて、一生の罪を背負わせる。
――それが出来れば、俺は何でもするっ!
――たとえ、誰からも嫌われようともっ!
彼にとって復讐は復讐だが、その復讐はどの復讐よりも、きれいで優しいそれである。
いうなれば――血を流さない復讐だ。
そんな甘い復讐が完遂できるかはわからない。
しかしそうしたい。法律と言う壁で殺せない。殺したくないというそれではない。
殺してしまえば、そのワクチンを作ることができる人を失ってしまう。ゆえに彼を生存させて、全員分のワクチンを作ってもらい、子供達に対して罪を自覚させてもらおう。
その方が合理的だ。
そう沼田は思った。ゆえに……、エドをぎっと見据えて、彼は言う。
「……きょ、興味ではありません……っ! その電脳関連で、ひどい病にかかった子達がいるんですっ!」
「…………、それって、『ロスト・ペイン』?」
「っ!」
まだ何も言っていない病名を聞いた沼田は、ばっと彼を見上げて驚いた音色と表情で――
「な、なんでそれを……っ!?」と聞いた。
エドはそれを聞きながら、うーんっと考える仕草をしてから、彼は己の背の後ろを見ながらこう言う。
「いや……。実はおれが務めているところで、そう言った病気を抱えている子を保護しているんだよ。色んなVRの病気、あとはそれ関連で虐待を受けている子や、育児放棄を受けてしまっている子を匿っているような……、そう言った保育所を担っている部署があるんだよ」
「…………部署?」
沼田が首を傾げながら、そのエドの背後でもぞもぞと動いている何かを見て、そっとしゃがみながらエドの背後にいる少年を見た。
その少年は、黒い長髪で白いTシャツに黒いズボン。しかしその胴体に見える青紫のそれを目にした瞬間、沼田はそっと手を伸ばして――「君……」と言いかけた瞬間……。
その子は恥ずかしがる……、ではない。まるで恐怖で隠れるように、草食系の本能のような動きで、エドの背に隠れてしまった。
それを見て、驚いた目でその子供を見てから――沼田はエドを見上げて、恐る恐る聞いた。
「こ、この子は……?」
すると、エドはその子を見ながらよしよしと頭を撫でて、彼はそっと悲しそうに目を伏せながら――こう言った。
「……この子はね……、一応重要参考人で、薬物ルート感染の『ロスト・ペイン』の第一感染者なんだ」
「………薬物?」
その言葉に、エドは頷く。その少年を見降ろしながら――
「えっと、『ロスト・ペイン』には二つの感染ルートっていうか、発症ルートがあって、一つは何年か前に発表された『ロスト・ペイン』。これはゲームのやりすぎに相当する『過度型』。そしてこの子や、何人もの人が発症して、一気にレベルが上がるそれが『感染型』これが厄介でね……」
と言い、エドはそっとその子から離れて、しゃがみながらその少年のことを、沼田に言った。怯えて震えている少年を見ながら……、エドは言う。
「この子の様に……、嫌がっているのにそれを打ち込んで発症させて、ワクチンを高値で売る様な非道なことをしている人がいて、この子はおれの友達が何とか助け出して、今は何とか一命を取り留めている。けど……、もうこの子は『感染型』のそれ……。もう大半の痛覚はない。しかもそれをしたのは……、この子を実験台にしたのは……この子の兄で、名前は――ゼクスっていう男だ。今おれ達はその男の行方を追って操作しているんだ。現実と、電脳の世界を行き来しながら……」
そう言うことか……。沼田はそれを聞いて知ってから、エドを見て、彼は冷たい目で彼を見ながら、淡々とした音色でこう言った。
自分でも驚くくらい冷たくて、そしてそれとは裏腹の煮えたぎるようなマグマの怒りを感じながら、彼は「おぉ」と、少し大げさに驚いているエドを見ながら、彼は聞いた。
「その人物……、知っています。ゼクスのことを……」
それを聞いたエドは、はっとして沼田を見て、その顔を見た沼田は、決心がついたような表情でエドを見て、そしてその少年を見ながら、にこっと微笑んでから――彼は言った。
「その男のせいで……、俺が担任をしていた子供達は、すでに最高レベルで、生きたゾンビです……。すぐにその子達を助けたいんです」
この子のような犠牲を――二度と出さないために……。
それを聞いて、エドは頷いてから、彼に向かって提案をする。エドが務めているサイバー機関――のちに明かされるであろう……、電脳特殊部隊『CA』に再就職する話。そして……。
沼田はその少年に向けて、手を伸ばしながら微笑んで、彼は怯える少年に向かって――こう言った。
怖がらせないように、そして再度固めた復讐を完遂させるために、彼はその少年に聞いた。
「君――名前は?」
それを聞いた少年は、おどおどとして、おびえた顔をして、小さな口で小さい声で、こう言った。
「………ティ、ティズ」
それを聞いて、沼田はにこっと微笑みながら、その子の頭に優しく手を置きながら……、彼は穏やかな音色でこう言った。
「ティズか……。言い名前だな」
――これが、沼田もといクルーザァーと、ティズが初めて対面したときの出来事。
そして――この時からだった。沼田がクルーザァーになり、合理的な判断をするようになって、ティズの教育係となって、彼の父親代わりとなって……、守るようになったのは……。
彼の願いは一つ――苦しんでいる子供達を、守りたい。そして救いたい。
ゼクスに――Zに復讐してやる。
それだけのために、ずっと生きてきた。
ティズのために、現実世界で苦しんでいる子供達のために……。そして――
今まさに、泣いて怯えている子供達のために――彼は、戦う!
回想終了。
◆ ◆
「いや――何言ってるのさっ! そんなことしないでよっ!」
スナッティはクルーザァーを見上げながら声を荒げて怒鳴った。慌てた様子で彼女は――
「大体『BLACK COMPANY』を通して報酬を手にしているのに、なんでその収入源を壊すようなことすんのさっ! ていうか、なにあの人達を助けようとしてんの? ゲームだよ? た・か・が! ゲームッ! イベントと思って見過ごせばそれでいいじゃんっ!」
スナッティの言葉を聞いたクルーザァーはぴくりと指を動かし、ゆっくりとした動作でスナッティがいる方向に顔を向ける。
その間――彼女は声を荒げながら叫ぶ。
「この世界はゲームなんだからさ――そんな気張んなくてもいいじゃんっ! あんたって本当は」
と言った瞬間だった。
がしりと――彼はスナッティの服の胸ぐらを掴んで、そのままグイッと持ち上げてから彼は、胸ぐらを掴まれたことにより、今まで流暢に喋っていた口を止めて、クルーザァーを驚いた目で見る。
そんな彼女を見降ろしながら、彼はぐっと彼女との顔を近付けて、鼻の先と先がくっつきそうな距離で、彼はゴーグル越しに怒りを露にしながら言う。
「ああ、俺がバカだという判断は、非常に合っている。正解とも言える」
「っ」
「しかし――それ以上にお前はそれだ。それはとあることわざでもあるぞ。子供を助けたいという純粋な気持ち、何が悪い……? 子供好きには最高級の誉め言葉だ……。だがな……、たかがゲームとかで見捨てるほど、俺は冷徹ではない……っ!」
「っ!」
その言葉を聞いたスナッティは、びくりと顔をこわばらせながら委縮してしまう。青ざめた顔がその証拠だ。それを見ていたダディエルは、腕を組みながらクルーザァーを見てこう言った。
「お前……、意外と熱血だったんだな」と、驚きながら言うダディエル。それを聞いていたクルーザァーは、ダディエルの方を振り向きながら、冷たい目つきで――
「熱血ではない。あんな光景を目の当たりにして、黙って見過ごすなんてことはできない。合理的ではないとみなしただけだ」と言った。はっきりと言った。
そんなダディエルの言葉を聞いて、ボルドは内心ほくそ笑みながら――
――素直じゃない。もっと正直になればいいのに……。
と思っていると……。
「さ、最近の冒険者は――変わったお方が多いですね」と、ブラウーンドは腰を抜かしながら言う。
それを聞いていたボルドはふとそのブラウーンドを見降ろしながら、黙ってブラウーンドの話を聞く。ブラウーンドの背後では、その光景を見て驚愕のそれに顔を染めているガザドラの姿があった……。
声を失いながらその光景を見ているガザドラ……。
そんな彼のことを無視してブラウーンドは言う。
「なぜそれを理解しないのか……。私にはてんで理解できません。それに私の国ではそう言ったことは日常茶飯事ありました。ですから、こんなの日常的なそれでしょう? 何もそこでむきになって英雄気取りのようなことは」
「日常茶飯事だから……? みんなやっているから……? 先ほども言っていたが、己の私腹を肥やしたいが故に、あんなことを何度も何度もしたのか……っ!?」
「?」
ブラウーンドは背後から聞こえてくる声を聞いて振り向くと、その背後にいたガザドラは、ぎろりとブラウーンドを見降ろしながら睨みつけて、爬虫類特有の口に力を入れながら、ぎりっと言う音とを立てて彼は――
「あれでは――処刑を手伝っているのと同じではないか……っ! あんなことをしておいて、よくそんな平然とした顔ができる……っ!」
吐き捨てるように、そして心底呆れた怒りの顔で彼は言う。
それを聞いていたブラウーンドは、っはっと鼻で笑いながら、ガザドラを見上げてこう言った。
嘲笑うように、こう言った。
「いや、あなたは蜥蜴と竜族の混種。元『六芒星』が何をほざいているのか、この国では人間族が至高なんでしょう? それに――下等な生物が人間に向かって人語を話さないでください。あなたは私達の命令を聞くことだけに耳を傾ければいいんです。それで誰もが幸せに」
「――もういいよ」
あまりの言葉に、ガザドラは怒りの限界を突破しようとした時、ボルドはそっとガザドラの肩を叩きながら制止をかける。
それを見たガザドラは驚いた顔をしてボルドを見て、ブラウーンドもそれを見ながらうんうんっと頷いて……、こう言った。
「でしょう? あなたは天族といういい種族です。こんな混種なんて誰も」
しかし――
「――もういいよ。その口閉じてほしいんだ。僕は、あなたに対してもういいと言っているんだ」
「………は?」
ボルドは少し真剣さと、怒りを含ませたその音色で言う。そんな言葉を聞いたブラウーンドは、はたっとして顔を呆けさせ、黙ってしまう。ボルドはそんな彼を一瞥してから、ガザドラと、近くにいるダディエルとギンロ、紅にリンドーに向かって――
「ガザドラ君とダディエル君、リンドー君は子供達の救助を。紅ちゃんは気分が落ち着くまでそこにいて。ティティちゃんとティズ君と一緒に。ギンロ君は彼女達を頼むよ。男は女を守る紳士なんだから、あんまり紅ちゃんをいじめないこと、いいね?」
命令するというそれがあまりない――頼むような、お願いをするような言葉を言う。そしてそれを聞いたダディエルとリンドーは頷きながら大きな声で返事をする。それを聞いたガザドラも、慌てながらだが返事をして、背中に背負っていたティティをそっと下す。地面に寝かせてはいけないので、近くにあった岩を椅子の様に使うように座らせてから立ち上がる。紅はその言葉に返事はしなかった――できなかったが、ギンロがその言葉に対してぐっとサムズアップしてからミニガンを手に構える。
それを見たボルドは頷いて、そのままどこかへ行こうとするブラウーンドを見ながら、声をかける。ひどく穏やかな音色だ。
ブラウーンドはぎょっとしながらボルドを見た。ボルドはそのブラウーンドを見降ろしながら言う。
「そういえば――さっきの話は、本当なのかな……?」
ブラウーンドは答えない。彼のB級的なその顔を見て、強張ってしまったこともあるが、事実はそうではない。彼から吹き上がるその雰囲気に、嫌な予感を察知したのだ。
震えながら彼は無言を徹する。それを見たボルドは、内心こう思った。
無言は――肯定か。と、ぎゅっと、握り拳を作りながら彼は、そのまま疲れたような笑みを浮かべて、握った拳を上げながらこう言う。
「こんなことは、あまりしたくないんだけど……。でも僕だって人なんだよ。感情だってある。いやだって思ことだってある。だからね……。これだけは言わせてほしい……。子供達に――あの人達に」
と言った瞬間だった。
目にも止まらない速さで、ボルドの渾身の拳が、ブラウーンドの顔面直撃する。めごりと言う音を立てて、一言でいうところの、右ストレートと言うものを、ブラウーンドに向けて放った。
「ひどいことをするな」
低い声で怒るように、彼は小さく怒鳴った。
その攻撃を受けたブラウーンドは、そのままごしゃ! どちゃ! と、飛ばされながら二回転して、その場所から少し遠く離れた場所で寝っ転がって、がくりと意識を手放す。
要は――顔面を大きく腫らしながら気絶したのだ。
それを見ていたアキ達、メウラヴダー達、そしてダディエル達でさえ、青ざめながらその光景を見ていた……。
ボルドはそのまますっと立ち上がり、クルーザァーに向かってこう言った。
「クルーザァー君はすぐZを! 僕達が子供達を何とかする!」
「っ!」
それを聞いたクルーザァーは、驚いた目をしてボルドを見たが、すぐに頷いてスナッティを見てから彼は、スナッティに向かって指をさしながら――
「お前の処遇は後で決める。それまでここでお座りでもしていろ。逃げようと思ったら……」と言って、彼はすっと手を空にかざす。
そして彼はその手をかざしたまま――
「
と言って、彼の足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。ツグミの時はそのようなことはなかったが、実はサモナーが召喚のスキルを使う時、必ずこのような魔法陣が浮かび上がるのだ。ゲーム上の演出と言うものではあるが、今ではその魔方陣は――サモナーにとって大切なものでもある。
その魔方陣からにゅるにゅると出てきた黒い体と赤い目の蛇。
スナッティはそれを見て、「ひぃ」っと上ずった声を上げてそれを見る。
その黒い蛇はクルーザァーの腕に巻き付きながら、ちりちりと赤い舌を突き出して、威嚇する。
「先に行け。すぐに向かう。今は早急の救助だ」
クルーザァーの言葉に、誰もが同意の頷きをしてすぐに駆け出して向かう。
クルーザァーはその光景を見てから、己の腕に巻き付いているその蛇を見て、スナッティを見ながら彼はこう命令する。
「あの女をしっかり見ておけ」
その言葉を聞いて黒い蛇はこくりと頷き、にゅるにゅるとクルーザァーの腕から離れて、スナッティを見ながら近付いて行く。
それを見てスナッティはガタガタと震えながら蛇を見る。
スナッティの蛇嫌いを知っているクルーザァーはそんな彼女を見ながら、自業自得と言わんばかりの顔をして――
「俺達を裏切った罪は重い。あの子のような優しさなどないと思え」
と言ってクルーザァーはダッと駆け出す。
復讐の対象がいるその場所に……、Zがいるその場所に向けて足を動かす。走る――!
ティズのために、現実で苦しんでいる子供達のために、そして――
二度と、あんな悲しい出来事が生まれないように……。そう願いながらクルーザァーは走る。
一歩足を踏み入れた瞬間――クルーザァーの、否。クルーザァー達の優しい復讐が今、始まった……。
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